弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
 被告が原告の平成五年四月一日から平成六年三月三一日までの事業年度の法人税
について平成八年六月五日付けでした更正処分のうち総所得金額一億一六八六万三
三八三円、納付すべき税額四二二一万八七〇〇円を超える部分及び過少申告加算税
賦課決定処分のうち過少申告加算税額二〇九万九〇〇〇円を超える部分を取り消
す。
第二 事案の概要
 原告は、原告の子会社であるスリーエス総研株式会社(以下「スリーエス総研」
という。)及び株式会社ホロニック(以下「ホロニック」といい、スリーエス総研
と合わせて「本件子会社」という。)に対する貸付債権が不良債権化していたとこ
ろ、平成五年四月一日から平成六年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年
度」という。)においてコンサルティング収入を期待できることとなったことか
ら、これを機会に右不良債権を処理しようと考え、本件子会社の発行する増資新株
式を額面価額に比べて高額で引き受けて、右株式を株式会社セムヤーゼ(以下「セ
ムヤーゼ」という。)に低額で譲渡することによって有価証券売却損を計上し、確
定申告の際に、右払込金額と売却価格の差を有価証券売却損として計上して申告し
た。また、本件子会社は、右の増資払込金をもって原告に対する債務を弁済した。
これに対して、被告が、法人税法(以下「法」という。)一三二条を適用して、右
新株式の取得価格は額面価格であると認定し、原告は有価証券売却損を過大に計上
しているとして、更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をしたため、原告が右
の各処分の取消しを求めるものである。
一 前提となる事実(当事者間に争いのない事実である。)
 原告がスリーエス総研及びホロニックの株式を取得し、増資払込みをした上でセ
ムヤーゼに譲渡した一連の行為(後記3ないし8の行為。以下「本件一連の行為」
という。)に関する事実の経緯等は以下のとおりである。
1 原告とスリーエス総研等の関係について
(一) 原告と原告代表者Aの関係について原告は、昭和四一年一〇月二一日に設
立された株式会社で、法二条一〇号に規定する同族会社である。Aは、昭和三七年
七月に税理士として登録し、昭和五九年一二月以来原告の代表取締役である。
(二) スリーエス総研について
 スリーエス総研(現在の商号は
株式会社エムピー経営である。)は、平成元年三月三一日に原告が全額を出資して
設立された株式会社で、平成五年一一月末において原告が発行済株式の全部を所有
する同族会社であった。
(三) ホロニックについて
 ホロニックは、昭和四四年七月九日に設立された株式会社で、3記載のとおり、
平成五年一一月末において原告が発行済株式の全部を保有する同族会社であった。
(四) セムヤーゼについて
 セムヤーゼは、平成元年一二月二二日に設立された株式会社で、平成五年一一月
末においてAは発行済株式の二一パーセントを所有するにとどまり、非同族会社で
あった。
2 原告の平成五年度のコンサルティング業務について
 原告は、平成五年一二月三日に相互タクシー株式会社(以下「相互タクシー」と
いう。)と相互タクシーグループ活性化のためのコンサルティング契約に関する基
本契約を締結し、コンサルティング業務をコンサルティング料金合計一七億五〇〇
〇万円で受託した。
 また、右業務に係る各種役務の提供を受けるために、原告は、訴外株式会社エス
ティエム外四社と受取手数料配分契約を締結した。
 右各契約の結果、本件事業年度において四億二〇〇〇万円の利益の発生が見込ま
れた。実際には、右コンサルティング業務に係る本件事業年度の利益は四億四〇四
三万〇九七一円であっ(一以下「本件利益」という。)。
3 ホロニック株式の取得について
 原告は、Aと平成五年九月一一日に株式贈与契約を締結し、ホロニック株式七万
八〇〇〇株(発行済株式の全部)を無償で取得した。
4 ホロニックの増資について
(一) ホロニックは、平成五年一二月一日及び一七日に開催した取締役会におい
て、別表2のとおり株主割当増資を行う旨決定した。
(二) 原告は、平成五年一二月一六日及び一七日に開催した取締役において、別
表3のとおり、右(一)のホロニックの株主割当増資を引き受ける旨決定し、平成
五年一二月一六日及び一七日に別表4のとおり、ホロニックに対して新株式の申込
みを行った。さらに、原告は、平成五年一二月一六日及び一七日に別表4のとお
り、合計五億円の払込みを行った。
 この結果、原告は、右3の七万八〇〇〇株と合わせて合計八万八〇〇〇株(発行
済株式の全部)のホロニック株式を所有することになった。
5 スリーエス総研の増資について
(一) スリーエス総研は、平成五年一二月三日に開催した取締役会において、別
表5のとおり、株主割当増資を行う旨決定した。
(二) 原告は、平成五年一二月一五日に開催した取締役会において、別表6のと
おり、右(一)のスリーエス総研の株主割当増資を引き受ける旨決定し、同日、別
表7のとおり、スリーエス総研に対して新株式の申込みを行った。さらに、原告
は、平成五年一二月一五日に別表7のとおり、二億三〇〇〇万円の払込みを行っ
た。
 この結果、原告は、スリーエス総研の株式を平成元年三月三一日に取得した二〇
〇株と合わせて合計三六〇株(発行済株式の全部)所有することになった。
6 ホロニック株式の譲渡について
(一) ホロニックは、平成五年一二月二九日に開催した取締役会において、原告
が所有するホロニック株式八万八〇〇〇株のうち三万三〇〇〇株をセムヤーゼに譲
渡することを承認した。
(二) 原告は、セムヤーゼと平成五年一二月二九日に株式売買契約を締結し、ホ
ロニック株式三万三〇〇〇株を八万八〇〇〇円で譲渡した。
7 スリーエス総研株式の譲渡について
(一) スリーエス総研は、平成五年一二月一一日に開催した取締役会において、
原告の所有するスリーエス総研の株式の全部である三六〇株をセムヤーゼに譲渡す
ることを承認した。
(二) 原告は、セムヤーゼと平成五年一二月二九日に株式売買契約を締結し、ス
リーエス総研株式三六〇株を三万六〇〇〇円で譲渡した。
8 原告の確定申告と有価証券売却損の計上について
 原告は、本件事業年度に係る法人税について、法定の申告期限までに申告し、そ
の際、右6(二)及び7(二)の株式の譲渡に係る損失として四億二七四六万四〇
〇〇円を有価証券売却損として損金の額に算入した。
9 更正処分等の経緯
(一) 被告は、平成八年六月五日付けで、所得金額を五億一八七八万〇〇三七円
及び法人税額を一億九二九三万七六〇〇円とする更正処分(以下「本件更正処分」
という。)並びに過少申告加算税の額を二四六一万五五〇〇円とする過少申告加算
税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と合わせて「本
件更正処分等」という。)をした。
(二) 原告は、本件更正処分等のうち所得金額一億一六八六万三三八三円を超え
る部分について不服として、平成八年八月二日、国税不服審判所に対して審査請求
をした。
(三) 国税不服審判所長は、原告の審査請求に対し、いずれも棄却する旨の裁決
をし、裁決書謄本を平成一〇年六月三〇日
付けで原告に送達した。
二 争点
原告の確定申告、被告の本件更正処分等及びその後の不服申立ての経緯並びにその
税額等は別表1記載のとおりであるところ、本件更正処分等における加算及び減算
の内訳並びに税額の算出過程は次の表のとおりであり、①ないし③及び⑩の各項目
については争いがない。
項目              No. 金額
申告所得金額          ①   六〇八六万八七一四円
支払顧問料の過大計上額     ②   四一六七万九六一二円
加算 前期損益修正損の過大計上額③   一四三一万五〇五七円
有価証券売却損の過大計上額   ④   四億〇七七一万三〇〇〇円
寄付金の損金不算入額     ⑤   七億一一二〇万三六五四円
加算金額合計         ⑥   一一億七四九一万一三二三円
(②+③+④+⑤)
減算 寄付金の損金算入額   ⑦   七億一七〇〇万〇〇〇〇円
差引所得金額(①+⑥-⑦)  ⑧   五億一八七八万〇〇三七円
所得の金額に対する法人税額  ⑨   一億九四五四万二五〇〇円
控除所得税額         ⑩   一六〇万四八六八円
差引法人税額         ⑪   一億九二九三万七六〇〇円
確定申告に係る法人税額    ⑫   二一二二万〇六〇〇円
納付すべき法人税額      ⑬   一億七一七一万七〇〇〇円
過少申告加算税額損      ⑭   二四六一万五五〇〇円
 被告は、本件一連の行為のうち、前記一4及び5のとおり原告がスリーエス総研
及びホロニックの新株を引き受けたことについて、法一三二条の規定を適用して、
いずれの新株の引受についても、額面価格で新株を引き受けたものであり、払込価
格と額面価格との差額は、寄付金に該当すると認めたものと主張する。そして、被
告は、有価証券売却損の算定に当たって、取得価格は額面価格であるとして右④の
有価証券売却損の過大計上額を算出し、また、寄付金に該当するとした部分につい
ての損金算入及び損金不算入の計算をして(⑤及び⑦)、本件更正処分等を行った
と主張する(なお、前記各争いのない項目を前提とし、原告の所得金額が④、⑤及
び⑦のとおり加減されるとした場合に、法人税額等が⑥、⑧、⑨及び⑪ないし⑭の
数額になることは計数上明らかである。)。
 これに対し、原告は、被告が法一三二条を適用して原告の行為又は計算を否認し
たことの適否を争い、法施行令三八
条一項一号によって、払い込んだ金額をもって有価証券の取得価格になるのである
から原告の確定申告に係る有価証券売却損の計上に誤りはない旨主張して本件更正
処分等は違法である旨主張する。また、原告は、本件更正処分等は法一三〇条二項
で要求されている更正の理由の附記に不備があるため違法であり、さらに、本件賦
課決定処分は、原告の確定申告に係る行為計算には不当性がなく、国税通則法六五
条四項の「正当な理由」があるから、違法であると主張する。
 したがって、本件の争点は、以下のとおりである。
1 本件一連の行為について法一三二条を適用して有価証券の取得価格が額面価格
であってそれを超える払込金額は寄付金に該当するとしたことが適法かどうか
2 更正の理由の附記に不備があるかどうか
3 本件更正処分の納付すべき税額の計算の基礎となった事実が原告の確定申告に
係る税額の基礎とされていなかったことについて国税通則法六五条四項の「正当な
理由」があるかどうか
三 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件一連の行為について法一三二条を適用して有価証券の取得価格が
額面価格であってそれを超える払込金額は寄付金に該当するとしたことが適法かど
うか)について
(被告の主張)
(一) 法一三二条の趣旨・要件について
法一三二条は、同族会社等の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負
担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計
算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標
準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる旨規定している。この
規定の趣旨は、同族会社は会社の意思決定が少数の株主等の意図により左右される
ので、租税回避行為を容易になし得るところから、これを是正し、租税負担の公平
を図ろうとするものである。すなわち、同族会社等の行為又は計算が、専ら経済
的、実質的見地において当該行為又は計算が通常の経済人の行為として不合理、不
自然なものと認められ、当該行為又は計算に基づいて算出された税額と通常あるべ
き行為又は計算に引き直して算出された税額との間にかい離が存し同族会社等の法
人税に相当程度の減少が認められるときには、右規定を適用し、これを通常あるべ
き行為又は計算に引き直し、納付すべき税額を計算しようとするものである。
(二) 本件の検討
(1) 本件一連の行為は、本件利
益を消去するために行ったものであり、以下のとおり経済人の行為としては極めて
不自然、不合理であり、法人税の負担が不当に減少する結果となることは明らかで
あるから、法一三二条の規定を適用すべき行為である。
ア 原告は、一株当たりの発行価額が五〇〇円であるホロニック株式に対して右金
額の一〇〇倍に相当する一株当たり五万円で払込みを行い、また、一株当たりの発
行価額が五万円であるスリーエス総研に対して右金額の二九倍に相当する一株当た
り一四三万七五〇〇円で払込みを行っているが、右払込時において両社ともに債務
超過状態にあり、このような高額の払込みを行う合理的な理由が認められない。
イ 本件一連の行為を構成する①本件子会社株式の取得及び②右子会社株式の譲渡
は、本来、それぞれ、個別の目的・事情により行われる取引であるにもかかわら
ず、本件一連の行為があらかじめ一体のものとして仕組まれたものであることを示
すものである。
ウ 本件子会社に対する増資払込資金の一部は、原告が本件子会社に対して有する
貸付金の返済に充てられており、原告の払込み直後に原告に入金されているとこ
ろ、Aは、本件一連の行為は、本件子会社に対する原告の貸付金の含み損を実現損
としたいと考え、また、他の手段ではグループ会社の信用上あるいは税務上問題が
あり困難と思われたことから実行したものである旨述べている。
(2)原告が行った本件子会社株式の増資払込みを通常あるべき行為又は計算に引
き直すと、本件子会社株式一株について払い込んだ金額は、本件子会社が債務超過
の状態にあること及び商法上額面株式の発行価額はその券面額を下回ることができ
ないことにかんがみれば、本件子会社の額面金額とするのが相当であり、その余の
金額は、株式の増資払込みとは認められず何ら対価性のない金銭の支出となる。
 右の通常あるべき行為又は計算に引き直した結果に対して法の規定を適用する
と、右額面金額が、法施行令四一条の規定する増資により取得した株式の取得価額
の計算の基礎となる「新株一株について払い込んだ金額」に該当し、また、その余
の金額は、法三七条六項に規定する寄付金に該当する。
 右を前提として、寄付金の損金算入額及び不算入額を算定し直し、有価証券売却
損を減額し、本件事業年度に係る原告の法人税額を算出すると、別表1の更正・賦
課決定欄記載の金額となる。
(原告の主張)
(一) 被告は、額面金
額である発行価額を超える払込金額を不当であるとして否認をしているが、発行価
額を超える払込金額は何ら不当ではない。
(二) 有価証券の取得価格は、有価証券を譲渡した場合の譲渡原価の計算の基礎
となるのであるから、税法は有価証券の取得の態様に応じて有価証券の取得価額を
法定しているところ、法施行令三八条一項一号は、「払込みにより取得した有価証
券」の取得価格は「その払い込んだ金額」であると規定している。そうすると、本
件においても、額面金額を超える払込み余剰金(プレミアム)を含めた払込金額が
取得価額になるというべきである。
 被告は、本件子会社が債務超過であるのに額面金額の二九倍ないし一〇〇倍もの
金額の払込みを行う点が極めて異常な取引形式であると主張するが、右のとおり、
法人税の体系上、増資法人が債務超過であるとしても払込金額を取得価額にしなけ
ればならないのであって、本件一連の行為について法一三二条を適用して有価証券
の取得価格が額面価格であってそれを超える払込金額は寄付金に該当するとしたこ
とは違法である。
(三) 被告は、本件一連の行為について額面金額である発行価額を超える払込金
額を不当であるとして否認している。
 しかし、昭和二五年の商法改正によって無額面株式が導入される等によって資本
と株式との関係が切断され、さらに、昭和五六年の商法改正によって、資本は額面
株式についても原則として発行済株式の発行価額の総額とすることとし、ただ発行
価額の二分の一以内の額であって額面を超過する額に限り資本に組入れないで資本
準備金に算入することができるとされ(商法二八四条の二)、資本と株式の結節点
は額面ではなく発行価額であることが明瞭となり、しかも発行価額は額面を超過す
ることが法律上予定されている。したがって、発行価額は額面でなければならない
とする被告の主張は現行法になじまない商法上の根拠を有しない主張であるという
べきである。また、増資のために新株式を発行するに当たり、取締役会が決定する
発行価額以上の金額が当該新株発行会社に払い込まれることは広く一般に行われて
いることであって、このことからも、発行価額を超える払込金額が不当であるとす
る被告の主張は認められない。
(四) 本件においては、払込金額が額面金額(発行価額)の二九倍ないし一〇〇
倍であったが、これが異常であるとか不自然、不合理であるとかいうことはできな


 不自然、不合理であるか否かは法一三二条に照らし法人税を不当に減少させるこ
とになるか否かの観点から検討すべきであるが、この観点からすれば、本件更正処
分の眼目は、原告による本件株式の取得価額に合理性はないという点につきるので
あるから、原告の本件株式の取得価額が不当に高額であるかが問題なのであって、
払込金額が額面ないし発行価額に比し高額であるか否かが問題となるのではない。
 本件においては、原告の業務の一部を引き継いだ会社であり、原告として対外的
に十分責任を果たすことが要請されていた本件子会社の純資産の改善のため、原告
に対する借入金を返済する原資を必要としていたのであるから、返済資金に相当す
る金額を増資により取得する必要があったのであり、原告においては本件子会社を
倒産させることなく不良債権化していた長期貸付金を回収する必要性に迫られてい
た。これを実現する法的手段としては、合併、評価損の計上、債権の放棄及び債権
の売却等の方法が考えられるが、いずれの方法も、子会社の救済とならないことや
税法上の問題があるために採用し難いものであり、結局、増資によって子会社に返
済資金を提供して不良債権を回収することにより、不良債権という無価値物を株式
という無価値物に振り替えた上、これを他に譲渡して含み損を実現させるほかなか
ったのである。このことからすると、このような手段を採ったことは、法一三二条
にいう「不当に」という要件には該当しないのであり、原告が本件子会社に払い込
んだ増資払込金額そのものには合理的な根拠があったというべきである。
 増資払込金総額に合理性がある以上、増資払込金総額は新株式数と一株当たりの
払込金額の積であるから、争点は、増資新株式の株数と一株当たりの払込金額の妥
当性に帰着する。しかるに、払込金額の総額が決まっている以上は、全株所有の子
会社であれば、増資発行株式数は可能な限り少数とし、他方、一株当たりの払込金
額を大きくすることには合理性があるというべきである。すなわち、それにより、
①増資に伴う登録免許税を節税することができること、②増資によって増加した資
本金が六か月間の合計で五億円以上の場合は証券取引法により関東財務局に有価証
券通知書の提出が義務付けられているところ、原告が採った方法によると一株当た
りの払込額は五万円であるがそのうち資本金の増加は五〇〇円であるから、増加し
た資本金
は一〇〇〇万円にすぎず、この手続が簡略化できること、③一株の払込額を五〇〇
円とすると、例えばホロニックの場合、資本金が五億円増加したとする登記を行わ
なければならず、善意の第三者はホロニックを優良な会社として誤認してしまうお
それがあるが、原告が採った方法によるとかかる誤認を避けることができること、
④法人都民税の均等割り課税を妥当な額とすることができること、⑤被告が主張す
るような方法によるとはじめから減資をしなければならない必要があるが原告が採
った方法によると減資手続をする必要がないことから、原告が行った増資方法は、
事務手続の省略と費用の節約、節税及びイメージダウンの回避を含む非常に合理的
な増資方法であり、経済的合理性が認められるというべきである。
(五) 本件において、被告は、額面金額を超える払込金を寄付金に該当すると主
張しているが、寄付金とは、経済的利益の贈与又は無償の供与であると定義され
(法三七条六項)、無償性と支出性(支出性とは、法上の期中損益としての経済的
利益の社外流出が伴うこと。)の二つの要素から構成されるところ、本件増資払込
みは無償でもなく経済的利益の流出もない。
 すなわち、増資払込みの反対給付として、本件子会社の株式を入手しているので
あるから、無償でないことは明らかであり、増資払込みとして支出された金額と同
額が直ちに原告に対する債務の返済として原告に還流されているのであるから、法
上の期中損益としての経済的利益の社外流出は一切ないというべきである。
 したがって、被告が、本件一連の行為について法一三二条を適用して有価証券の
取得価格が額面価格であってそれを超える払込金額は寄付金に該当するとしたこと
は誤りというべきである。
2 争点2(更正の理由の附記に不備があるかどうか)について
(被告の主張)
(一) 趣旨・要件
 更正処分を大別すると、帳簿書類の記載を信用できないとして更正する場合(い
わゆる帳簿否認)と、帳簿書類の記載を信用できないとするものではないが、帳簿
書類の記載について納税者と法的な評価を異にして更正する場合(いわゆる評価否
認)とに分けることができ、後者の評価否認の場合には、帳簿書類に記載された事
実を前提に新たな法的評価を加えて更正する場合と帳簿書類の記載の前提となる法
的評価の部分を否認して更正する場合とがある。
 そして、帳簿否認をして更正する場合に更正通知書
に附記すべき理由としては、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけでな
く、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示すること
によって具体的に明示することを要するが、評価否認をして更正をする場合におい
ては、右の更正は納税者による帳簿の記載を覆すものではないから、更正通知書記
載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿記載以上に信憑力のあ
る資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意の抑制及び
不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨を充足する程度に具体的に明示するも
のである限り、法の要求する更正の理由附記として欠けることはないとされてい
る。
(二) 本件の検討
 本件更正処分に係る更正の理由附記においては、本件一連の行為の経緯について
記載した上で、「甲社及び乙社の増資時における額面普通株式の払込金額のうち、
発行価額を超える金額は甲社及び乙社に対する寄付金と認められますので、当該額
面普通株式の譲渡原価は(中略)甲社の額面普通株式18、000、000円、乙
社の額面普通株式1、875、000円となります」と記載され、その理由とし
て、①本件一連の行為が正常な経済取引では到底行われないものであり、②本件一
連の行為の結果原告の法人税負担を軽減することとなっているものと認められる、
③したがって甲社の額面普通株式の増資払込金額のうち資本の払込みと認められる
金額は八〇〇万円、乙社の額面普通株式の増資払込金額のうち資本の払込みと認め
られる金額は五〇〇万円であり、当該株式の払込金額のうち、右金額を超える部分
は寄付金と認められる旨記載され、譲渡原価の計算根拠、寄付金の損金算入金額等
が記載されている。
 右のとおり、本件更正処分は、帳簿書類の記載の前提である本件一連の行為につ
いて納税者と法的な評価を異にして更正した場合であるから、いわゆる評価否認に
当たるところ、更正の理由は、本件一連の行為について、正常な経済取引とは認め
られないこと、法人税の負担を軽減するものであることなどを理由とするものであ
ることを示しており、処分庁の恣意抑制及び不服串立ての便宜という理由附記制度
の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示しているから、更正の理由附記として何
ら欠けるところはない。
(原告の主張)
(一) 被告は、理由附記の程度を決する基準が帳簿否認であるか評価否認である
かによ
って異なるとするものであるが、この基準はあいまいであり基準たり得ない。理由
附記の程度を決する基準は立証責任の所在の違いに求めるのが合理的である。な
お、本件においては、原告の帳簿上は、「有価証券売却損」と記載されているもの
を被告は寄付金であると主張するのであるから、仮に被告の主張するような基準に
よったとしても、帳簿否認といわざるを得ない。
 本件においては、更正処分について被告が立証責任を負うものであるから、更正
理由は、特に帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示して処分の具体的根拠
を明らかにするところまで明示すべきである。しかるに、本件更正処分において
は、右の程度まで理由が附記されていないのであるから、理由附記の不備の違法が
あるというべきである。
(二) また、右に述べた帳簿否認と評価否認の考え方をとるか立証責任による区
別の考え方をとるかを問わず、同族会社の行為計算の否認による更正処分の場合に
は、法定要件(法一三二条)に該当することを理由としているのであるから、理由
明示の要請は、青色申告書に係る更正に理由を付さなければならない要請(法一三
〇条)以上に強い要請であると考えられる。なぜなら、課税庁は納税者の行為計算
が法定要件に該当していると自ら主張しているからであり、加えて申告納税制度の
下においては、更正は当該申告をする国税に関する法律の規定に従っていない場合
に限って可能となる(国税通則法一六条一項一号)のに対し、同族会社の行為計算
の否認は、当該行為計算が違法でない場合であっても可能であると考えられるから
である。したがって、同族会社の行為計算の否認を理由とする更正処分における理
由附記としては、なぜ同族会社の行為計算の否認規定に該当するかという理由が明
示されなければならず、その理由は、最低限、論理的一貫性がなければならない。
 本件では、更正の理由の①と②とでは、論理が逆転しており、前後矛盾する理由
となっていて、これでは理由が附記されているということはできず、理由附記に不
備のある違法なものというべきである。
3 争点3(本件更正処分の納付すべき税額の計算の基礎となった事実が原告の確
定申告に係る税額の基礎とされていなかったことについて国税通則法六五条四項の
「正当な理由」があるかどうか)について
 被告は、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更
正処分前の税額
の計算の基礎とされなかったことについて国税通則法六五条四項に規定する「正当
な理由」があるとは認められないと主張し、原告は、有価証券の取得価格は払込金
額とすべきであるから、原告の確定申告に係る行為計算に不当性はなく、右の「正
当な理由」があると主張する。
第三 当裁判所の判断
一 争点1(本件一連の行為について法一三二条を適用して有価証券の取得価格が
額面価格であってそれを超える払込金額は寄付金に該当するとしたことが適法かど
うか)について
1 証拠(甲一、二、五、六、一七、一九、乙一、七ないし三〇、原告代表者)、
弁論の全趣旨及び前記第二の一の前提となる事実を総合すると以下の事実が認めら
れる。
(一) 原告の代表取締役であるAは、昭和三九年に税理士業を独立開業した当初
から、依頼者の資金繰りに関する助言に力を入れていたが、資金繰りに関する経営
計画を手書きで作成すると時間がかかりすぎることから、これについてオフィスコ
ンピューター用のソフトウエアを開発することとし、株式会社杉山会計センター
(以下「杉山会計センター」という。)が日本オリベッティ(以下「オリベッテ
ィ」という。)に発注し、経営計画のソフトウエアの開発を行った。経営計画ソフ
トウエアの開発費が予定の数倍かかってしまったため、オリベッティは、開発費の
一部を回収するために経営計画ソフトウエアを会計事務所に販売することを申入
れ、A及び杉山会計センターは、これに応じ、経営計画ソフトウエアを販売するこ
とを仕事の中心とした。
 経営計画ソフトウエアは、全国的に好評をもって受け入れられ、予想を大幅に上
回る販売実績を上げたため、その営業権を個人名を冠していた杉山会計センターか
ら原告に引き継ぎ、原告において経営計画ソフトウェアを販売することとした。ま
た、経営計画ソフトウエアに続く二番目のソフトウェアとして個人の財産運用とタ
ックスプランニング用のソフトウェアをオリベッティに発注して開発し、会計事務
所に販売を行った。
 原告は、コンピュータソフトウェアの開発、販売のほか、ソフトウェアのユーザ
ーに対する研修や運用のフォローを行い、タックスプランニングを中心としたコン
サルタントの業務を目的とし、さらに、増加したユーザーを集合した研修を担当す
る業務やベンチャー企業を支援する業務も実行すべく企画をしていたが、代表取締
役がA一名であったこともあって、これらの業務を原
告一社で担当することによって、原告の経営が非能率化することが考えられたこと
から、コンピュータ関係業務を子会社の別法人とするほか、新規の業務ははじめか
ら別法人として設立するという方針を立てた。この結果、原告を中心としていくつ
もの企業が生まれ、ユーザーの会計事務所からは、一体の日本スリーエスグループ
と認識されていた。
(二) 分社化を進めるという経営の方針の下、平成四年一二月に、既に平成元年
三月三一日にユニバーサル・エナジーとして設立されていた会社の商号をスリーエ
ス総研と変更し、コンピューターソフトの開発、販売を行う会社とした。
 原告においてソフトウエアを販売していた時点では、ソフトウエアの販売はかな
りの利益を計上していたが、ソフトウエア部門をスリーエス総研として独立会社と
した翌年の平成四年ころから、コンピューターのハードのスモール化(パソコン
化)の波が急激に押し寄せ、ソフト業界は混乱し始めた。現在のパソコンでは、ハ
ードメーカーに関係なく、単一のソフトウェアでどのハードにも使用することがで
きるが、当時のオフコンでは、同じメーカーのハードであっても機種が異なるごと
にソフトウエアも異なり、新機種に合わせたソフトウエアを開発したころに新たな
機種が発表され、一億円近くの開発費がかかったソフトウエアを販売開始後まもな
く廃棄し、新たな機種に合わせたソフトウエアの開発を始めなければならないこと
もあった。このため、平成四年ころから、コンピューター業界が大型、中型のハー
ドからパソコンに転換していく数年間はソフトウエア会社は軒並み苦しい時期を過
ごすことになった。
 スリーエス総研においても、平成四年度から多額の経常赤字を計上し続け、原告
からの借入金で資金繰りをしのいだが、売上額を上回る経常損失が発生し、債務超
過となってしまった。スリーエス総研の平成四年一月一日から同年三月三一日まで
の事業年度における財務内容は、別紙一(決算報告書(第四期)写し)記載のとお
りであり、平成五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における財務内
容は別紙二記載のとおりである。また、暦年の財務内容の概略は別紙三記載のとお
りである。
(三) 原告は、既に昭和四四年七月九日に設立されていた株式会社みなづきの株
式の全部を昭和五九年一月三一日に購入し、平成元年にその商号をホロニックと変
更し、投資を目的とする子会社とした。
 原
告は、大和証券グループの提唱する大和理論が信用できるものであると考え、それ
を実証するために、大和ファイナンスから一〇億円の資金を借り入れ、大和投資顧
問に委託した。しかしながら、株式が下落し、原告も数億円の含み損をかかえるこ
とになった。原告は、大和証券の意見に従い、株式を売却せずに維持することとし
たが、持ち株を売却して売却損を計上することも持ち株を維持することも銀行に対
して説明ができないため、平成二年に、持ち株と大和ファイナンスからの借入金を
ともに原告からホロニックに売却し、原告の財務内容が最悪の状態になることを回
避した。ただし、一〇億円の大和ファイナンスからの借入金をホロニックが引き継
いだ取引は、原告とホロニックの二者間のみの取引であり、大和ファイナンスがこ
れを承認していないので、原告は債務を免れたわけではない。
 ホロニックの平成四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における財
務内容は、別紙四(決算報告書(第二四期)写し)記載のとおりであり、平成五年
一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における財務内容は、別紙五(決算
報告書(第二五期)写し)記載のとおりである。また、暦年の財務内容の概略は別
紙六記載のとおりである。ただし、前記のとおり、ホロニックには、株式に係る含
み損が存在していた。
(四) 右のとおり、原告は、分社化を図り、スリーエス総研は、原告の主力の収
益部門であったソフトウエア事業を分離して引き継いだ会社であるが、平成四年か
ら急激に赤字に転落してしまった。原告は、スリーエス総研が赤字に転落した原因
は、コンピュータ業界全体の激変により生じた事態であり、赤字の補充責任は営業
を引き継いでまもなく業界がこのような状態になった責任はスリーエス総研ではな
く、それ以前に収益を計上していた原告にあると考え、また、スリーエス総研を倒
産させれば、スリーエスグループの根幹ともいえるソフトウエアの開発、販売を担
っているスリーエス総研の重要性からするとグループ全体の倒産は免れないと考え
た。
 また、ホロニックについても、原告が大和理論を信じ、大和ファイナンスからの
借入金で行った投資が失敗に終わり、その損失が多額であり、原告にはこれを清算
して大和ファイナンスへ返済する資金力もなかったため、持ち株を持続して回復を
待つしがなかったが、その後にさらに株価が下落する可能性があったため、こ
のリスクをホロニックにもたせたものであって、これも本来は原告が責任を負うべ
きものと考えていた。
 そこで、原告は、スリーエス総研とホロニックに対し、その存続に必要な範囲で
継続的に多額の融資を行った。
(五) 原告は、右のような本件子会社(スリーエス総研及びホロニック)の置か
れている状況から、平成五年一二月ころまでには本件子会社への貸付金が相当な額
に達しており、かつ、その回収には困難が伴うことから、右貸付金が不良債権化し
ていると認識していた。原告の取引銀行から、これらの不良債権化している資産は
早急に整理し体質を改善すべきであるとの意見を表明されたこともあって、原告と
しては、不良債権化していた本件子会社に対する貸付金を処理したいと考えてい
た。しかし、前述の本件子会社と原告との結び付きからすると、本件子会社を清算
することもままならず、原告自体の財務内容も苦しく、貸付金を損金に算入しない
で処理をするいわゆる有税償却によることは困難であった。
 ところが、原告は、前記第二の一2のとおり、本件事業年度において相互タクシ
ーとのコンサルティング契約による四億二〇〇〇万円の利益の発生が見込まれたた
め、原告は、本件事業年度において、本件子会社に対する貸付金を、損金に算入す
る形で処理するいわゆる無税償却を行おうと考えた。その無税償却の方法として
は、単なる貸倒損失の計上や債権放棄によった場合には、損金に算入することが認
められない可能性が高いと考え、本件一連の行為によって、有価証券売却損を計上
することによって、本件子会社に対する貸付金を実質的に無税償却することとし
た。
 原告は、前記第二の一3ないし8のとおり本件一連の行為を行い、本件子会社の
増資に係る払込金を払い込み(その払込金額は、スリーエス総研について二億三〇
〇〇万円、ホロニックについて五億円である。)、本件子会社の新株を取得し、同
月中に、右増資払込金をもって、スリーエス総研から二億三〇〇〇万円、ホロニッ
クから五億円の弁済を受け、かつ、セムヤーゼに対し、原告の保有するスリーエス
総研の全株式である三六〇株を一株当たり一〇〇円、合計三万六〇〇〇円で、原告
の保有するホロニックの全株式八万八〇〇〇株のうち三万三〇〇〇株を合計八万八
〇〇〇円でそれぞれ譲渡した。なお、原告は当初、原告の保有するホロニックの株
式の全部をセムヤーゼに売却する予定でいたが、全部を
売却してしまうと、有価証券売却損が過大になり、原告の本件事業年度の決算が赤
字となってしまうことから、三万三〇〇〇株を売却するにとどめたものであるが、
売却価格自体は、当初八万八〇〇〇株を一株一円で売却するとして八万八〇〇〇円
と算出していた売却価格をそのまま維持したものである。
(六) 原告は、本件事業年度の確定申告をするに当たり、本件子会社の株式の譲
渡に係る有価証券売却損を計上した。その算出に当たっては、本件子会社の増資新
株の取得価格を払込金額として計算して、有価証券売却損を計上したものである。
 これに対し、被告は、法一三二条を適用し、本件子会社の増資新株の取得価格は
発行額である額面金額であり、額面金額を超える払込金額は、寄付金に該当すると
認定した上で、本件更正処分等を行った。
2 以上の事実を前提に、被告が本件一連の行為について法一三二条を適用したこ
との適否について検討する。
(一) 原告は、本件事業年度においてコンサルティング収入が期待できることか
ら、不良債権化していた本件子会社に対する貸付金を無税償却しようとして、本件
一連の行為を行ったものであり、かかる事実は原告自身も認めるところである。
 本件において、被告は、法一三二条を適用している。同条は、法人税の負担を不
当に減少させる結果となることを要件としているが、原告は、本件子会社に対する
貸付金について損金に算入することによって税額を軽減した上で償却する(無税償
却)ことを目的として本件一連の行為を行っているところ、本件子会社に対する貸
付金それ自体について(それ自体貸倒に該当すること等によって)損金に算入する
ことができたのであれば、これに応じて本来負担すべき法人税額も減少していたと
いうべきであるから、本件一連の行為によってこれと同一の結果を発生させたとし
ても、法人税の負担を不当に減少させる結果となるとはいえない。これに対し、そ
もそも損金に算入することができないものであったにもかかわらず本件一連の行為
によって有価証券売却損を計上することによって損金に算入することとしたという
のであれば、本件一連の行為によってはじめて法人税の負担を減少させる結果が生
ずるのであるから、本件一連の行為が次に述べる法一三二条の要件に該当する場合
には、同条に基づき行為又は計算を否認されることになるというべきである。
 また、法一三二条は、同族会社等の行為又
は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると
認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認める
ところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額
を計算することができると規定しているところ、同条は、同族会社が少数の株主な
いし社員によって支配されているため、当該会社又はその関係者の税負担を不当に
減少させるような行為や計算が行われやすいことにかんがみ、税負担の公平を維持
するため、そのような行為又は計算が行われた場合には、それを正常な行為又は計
算に引き直して更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものであると解され
る。そして、右のような法一三二条の趣旨にかんがみるならば、同条の否認の対象
となる行為又は計算とは、通常の経済人の行為として不合理、不自然な行為又は計
算がこれに該当するものというべきである。
(二) 右のとおり、本件において、法一三二条の適用の要件となる法人税の負担
を不当に減少させる結果となるかどうかの判断は、まず第一に、本件子会社に対す
る貸付金に相当する額を損金に算入することができるかにかかわることになるが、
法上、各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損
金の額を控除した金額とするものとされ(法二二条一項)、損金に該当するもの
は、①当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原
価の額、②右①に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の
費用の額、③当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものであり
(同条三項)、その額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算
されるものと規定されている(同条四項)。したがって、法人の有する金銭債権が
回収不能になったことによる損失の額は、各事業年度の所得の計算上損金の額に算
入されることとなる(法二二条三項三号)が、法三三条二項が、金銭債権について
評価損の計上を禁止していることにかんがみると、金銭債権が回収不能になったこ
とによって損金の額に算入することができるのは、金銭債権の全額が回収不能であ
る場合に限られるものと解される。法基本通達九―六―二もこのことを明らかにし
ているものと解される。そして、回収不能になったものと認められるかどうかの判
断については、債務者の資産状況その他の状況
からみて、支払能力がなく、債権の回収が客観的に不能と認められる場合、すなわ
ち、債務者において破産などの清算手続を経たが債権の全額が回収できなかった場
合などのほか、これに準じ、債務者の負債及び資産状況、事業の性質、債権者と債
務者との関係、債権者及び債務者が置かれている経済的状況等諸般の事情を総合的
に考慮したときに、社会通念上債権の回収が不能であると認められる場合には、金
銭債権が回収不能になったものとして、当該事業年度において損金に算入すること
ができるものと解すべきである。
(三) これを本件についてみるに、当時税理士であった原告代表者自身も、本件
子会社に対する貸付金を回収不能として損金に算入することはできないと考えてい
たことは弁論の全趣旨から明らかであり、このことをとっても、右貸付金を回収不
能とみることは困難であるが、念のため各子会社ごとに検討する。
 まず、スリーエス総研については、本件一連の行為が行われた平成五年度の事業
年度において、約一五〇万円の債務超過に陥っており、本件一連の行為による二億
三〇〇〇万円の増資がなければ、さらに債務超過額は大きくなっていたものと考え
られ、また、その前年(平成四年度)の事業年度においては、約六五〇〇万円の債
務超過に陥っている。しかし、債務超過に陥ったのは平成四年度からであり、平成
三年度には約一〇〇〇万円の所得を計上し、自己資本も約二五〇〇万円のプラスで
あったこと、平成四年度、平成五年度においても、それぞれ約二億二二五〇万円、
約一億三六八〇万円の売上を計上していること、平成四年度、平成五年度におい
て、債務超過となったのは、コンピュータのハードのスモール化が急激に押し寄
せ、ソフトウエアの開発費がかさんだことに原因があり、ソフトウエア業界全体が
混乱していたが、そのような時期を乗切れば、業績が回復することが見込まれたこ
と、別紙一のとおり、平成四年一二月三一日現在において、負債の総額が一億二七
七九万円余であるのに対して、流動資産として、現金預金が三五〇五万五二三九
円、売掛金が一五一七万〇一一四円、棚卸資産が七五六万四六八〇円、未収入金が
四二万七五二〇円、仮払金が一八五万四〇〇〇円、合計六〇〇七万一五五三円が計
上され、固定資産として二一二万二一〇〇円が計上され、また、電話加入権として
三六万七九六八円が計上されていること、別紙二のとおり、平成五年一二
月三一日現在において、負債の総額が六一五二万円余であるのに対して、流動資産
として、現金預金が二八〇五万二三二七円、売掛金が八七一万七一〇四円、棚卸資
産が一一〇万〇三〇〇円、未収入金が二〇万円、合計四八二六万九七三一円が計上
され、固定資産として一一四一万六二〇四円が計上され、また、電話加入権として
四四万〇七六八円が計上されていることからすると、本件一連の行為が行われた平
成五年一二月ころに、原告のスリーエス総研に対する貸付金の全額が社会通念上回
収不能に陥っていたものと認めることはできない。
 次に、ホロニックについてみるに、本件一連の行為が行われた平成五年度の事業
年度において、自己資本が約四億五一六〇万円計上されているが、本件一連の行為
による五億円の増資がなければ、債務超過に陥っていたものと考えられ、また、そ
の前年(平成四年)の事業年度においては、約一億四四〇〇万円の債務超過に陥っ
ている。しかし、債務超過に陥ったのは、平成四年度からであり、平成三年度まで
の財務内容は、平成元年度に約一億〇三八五万円、平成二年度に約一億〇五三〇万
円、平成三年度に約一億一〇四〇万円の黒字であったこと(なお、ホロニックが、
原告から、大和ファイナンスに係る債務を承継したのは平成二年度である。)、ホ
ロニックは、株式に係る多額の含み損をかかえていて、利益に応じて、含み損を現
実化していたこと、ホロニックのかかえる株式に係る含み損は、株式市場の動向に
よって左右されるものであるところ、株式市場の動向について、原告及びホロニッ
クにおいて、さらに下落の一途をたどるものと考えていたとの形跡は認められない
こと、別紙四のとおり、平成四年一二月三一日現在において、負債の総額が一六億
〇四〇〇万円余であるのに対して、流動資産として、現金が二万一五三一円、預金
が五三九〇万〇二二七円、売掛金が一二六八万八二二九円、前渡金が四九三四万〇
八七四円、短期貸付金が六三六万円、仮払金が二万円、未収入金が二八四七万九三
四八円、立替金が三五五九万五七八九円、役員貸付金が四九七七万一三八六円、流
動資産合計二億三六一七万七三八四円が計上されていること、固定資産として、建
物二八九五万三三九一円、土地三二八二万円、投資有価証券などの投資等の固定資
産が一一億六二〇四万七七一二円計上されていること、別紙五のとおり、平成五年
一二月三一日現在において、負債
の総額が一二億三八二二万円余であるのに対して、流動資産として、現金が九万三
五八九円、預金が二八七九万七〇五八円、売掛金が八七七八万九三三一円、前渡金
が四九三四万〇八七四円、短期貸付金が四三六万円、仮払金が二万円、未収入金が
三一九八万〇九八八円、立替金が四二〇〇万〇二八三円、役員貸付金が四九七七万
一三八六円、流動資産合計二億九四一五万三五〇九円が計上されていること、固定
資産として、建物二八九五万三三九一円、土地三二八二万円、投資有価証券などの
投資等の固定資産が一三億三三九一万二五六三円計上されていること、右のうち、
資産として計上されている投資有価証券には含み損があるものの、負債の大きな部
分を占める大和ファイナンスからの借入れについては少なくとも債権者との関係で
は原告が支払義務を負うものであったことなどからすると、本件一連の行為が行わ
れた平成五年一二月ころに、原告のホロニックに対する貸付金の全額が社会通念上
回収不能に陥っていたものと認めることはできない。
 右のとおり、原告の本件子会社に対する貸付金はいずれも回収不能とはいえず、
損金に算入することはできないものであった。すなわち、原告は、本来損金に算入
することができないものについて、本件一連の行為を行い、有価証券売却損という
形を取ることによって、実質的に、本件子会社に対する貸付金を損金に算入する形
で処理したものであるということになる。
 そして、スリーエス総研は、本件一連の行為を行った平成五年度において債務超
過状態であり、ホロニックについても、平成五年一二月三一日現在の財務内容をみ
れば、本件一連の行為を行った平成五年一二月の時点において債務超過状態であっ
たことは明らかである。このように、債務超過状態である本件子会社の新株発行に
際して、原告は、スリーエス総研について額面金額である発行価額が一株五万円で
あるにもかかわらず、その約二九倍にものぼる一株当たり約一四四万円、合計二億
三〇〇〇万円の払込みをし、ホロニックについても額面金額である発行価額が一株
五〇〇円であるにもかかわらず、その一〇〇倍にものぼる一株当たり五万円、合計
五億円の払込みをしている。債務超過状態にあり、将来成長が確実に望めるという
ような特別の事情が認められるわけではない株式会社の新株発行に際して、額面金
額である発行価額を大幅に超える払込みを行うのは、通常の経済人を基
準とすれば合理性はなく、不自然・不合理な経済行為である。原告は子会社を救済
する必要性、妥当性を指摘して右行為の合理性を主張するが、株式を取得する際に
はそのような背景事情を捨象した株式自体の価値に着目して対価を決定するのが、
税法の想定する通常の経済人を基準とした合理性のある行為と考えるべきである。
そして、本件子会社が、原告が全株式を保有する同族会社であり、かつ、本件一連
の行為によって、本来であれば損金に計上することのできない本件子会社に対する
貸付金を有価証券売却損という形を取ることによって、損金に計上するという目的
があったからこそ、右のような払込みが行われたものであるというべきである。
 そうすると、本件子会社の新株の発行に際して、原告が、その対価として、スリ
ーエス総研について一株当たり約一四四万円、合計二億三〇〇〇万円の払込みをし
た行為、及び、ホロニックについて一株当たり五万円、合計五億円の払込みをした
行為は、いずれも、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果
となると認められ、税務署長は、法一三二条によって右の行為を否認することがで
きるものというべきである。
(四) そして、本件において、被告は、原告の右の行為を否認し、原告が行った
本件子会社の株式の増資払込みを通常あるべき行為に引き直して、本件子会社の株
式一株について払い込んだ金額は、株式の額面金額とするのが相当であり、その余
の金額は、株式の増資払込みとは認められず、何ら対価性のない金銭の支出として
寄付金に該当するとしている。本件においては、有価証券売却損を作出するために
新株の客観的な価値を大幅に超える払込金額を払い込んでいることが経済的合理性
を欠くものとして法一三二条の否認の対象とされているのであるから、被告(税務
署長)としては、本件子会社の発行する新株一株当たりの客観的価値を把握し、そ
の客観的価値をもって本件子会社の株式一株について払い込んだ金額とするのが正
当と思われないでもないが、被告は、商法上、額面株式の発行価額はその券面額を
下回ることができないとされていること(商法二〇二条二項)から、本件子会社の
株式一株について払い込んだ金額は、株式の額面金額とするのが相当であるとした
ものであること、本件子会社は、いずれも債務超過状態であり、将来成長が確実に
望めるというような特別の事情も見当たらないのであって
、その新株の価値は極めて低いと考えられることからすると、右の被告の認定が不
合理であるということはできない。
(五) したがって、右のとおり法一三二条を適用したことは適法なものというべ
きである。
3 この点について、原告は、法一三二条を適用する際に、本件子会社の株式一株
について払い込んだ金額を株式の額面金額とすることは、株式の額面金額と資本の
関係を切断している現行の商法にそぐわない旨主張する。
 しかし、右に述べたとおり、本件においては、そもそも価値のない本件子会社の
新株に対して多額の払込みをすること自体が経済的合理性の認められない不自然・
不合理な行為であって、法人税の負担を不当に減少させる結果となるものとして法
一三二条の否認の対象とされているものである。そして、被告は、本件一連の行為
について法一三二条を適用するに当たって、商法上、額面株式の発行価額はその券
面額を下回ることができないとされていること(商法二〇二条二項)にかんがみて
本件子会社の新株一株当たりの払込金額を株式の額面金額とするのが相当であると
して、額面金額を超えるものは寄付金に該当すると認定したものであって、右の商
法の規定にかんがみると、被告の判断は相当であって、株式の額面金額と資本の関
係を切断している現行の商法に合致しないとする原告の主張は採用することができ
ない。
 また、原告は、新株一株当たりの払込金額が問題となるのではなく、払込金総額
が問題であり、被告のように本件子会社の株式一株について払い込んだ金額を株式
の額面金額とするのであれば、新株の発行数を増加させて、一株当たりの払込金額
を額面金額と一致させるまでであるが、そのような場合に比べて本件の方法は事務
手続の省略と費用の節約等の点で経済的合理性が認められる旨主張する。
 しかし、右に述べたとおり、本件では、そもそも価値のない本件子会社の新株に
対して多額の払込みをすること自体が経済的合理性のない不自然・不合理な行為な
のであるから、このことは、仮に新株の発行数を増加させて一株当たりの払込金額
を額面金額と一致させたような場合にどのように考えるべきかといった問題とは関
わりがないというほかなく、右の原告の主張は採用することができない。
 さらに、原告は、増資払込みの反対給付として本件子会社の株式を入手している
のであるから、原告の本件子会社に対する払込金のうち額面金額を超える
部分について寄付金とするのは誤りであると主張するが、被告は、本件子会社の新
株一株について払い込んだ金額は、株式の額面金額であるとし、額面金額を超える
部分については寄付金に該当すると認定したものであって額面金額を超える部分に
ついては何ら対価がなくその部分については原告の経済的利益が社外に流出してい
るのであって、原告の右主張を採用することはできない。
 なお、原告は、法施行令三八条一項一号によれば、払込みにより取得した有価証
券の取得価額はその払い込んだ金額としなければならないのであるから、被告の本
件更正処分は右の規定に反するものであると主張するようであるが、被告は、法一
三二条を適用して、本件子会社の一株について払い込んだ金額は株式の額面金額で
あると認定しているのであるから、本件更正処分が法施行令三八条一項一号に反す
るものでないことは明らかである。
二 争点2(更正の理由の附記に不備があるかどうか)について
1 法一三〇条二項が青色申告に係る法人税について更正をする場合には更正通知
書に更正の理由を附記すべきものとしているのは、法が、青色申告制度を採用し、
青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に
基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納
税者に保障した趣旨にかんがみ、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその
恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与え
る趣旨に出たものというべきである。したがって、帳簿書類の記載自体を否認して
更正をする場合において更正通知書に附記すべき理由としては、単に更正に係る勘
定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上
に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要するが(最
高裁昭和三六年(オ)第八四号同三八年五月三一日第二小法廷判決・民集一七巻四
号六一七頁、同昭和五〇年(行ツ)第八四号同五四年四月一九日第一小法廷判決・
民集三三巻三号三七九頁等)、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をす
る場合においては、右の更正は納税者による帳簿の記載を覆すものではないから、
更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿記載以上
に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を前記の更正処分
庁の恣意
抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的
に明示するものである限り、法の要求する更正理由の附記として欠けるところはな
いと解するのが相当である(最高裁昭和五六年(行ツ)第三六号同六〇年四月二三
日第三小法廷判決・民集三九巻三号八五〇頁)。
 本件のように、法一三二条の規定により、同族会社の行為計算を否認するのは、
同族会社の行った行為又は計算が存在し、それが私法上有効であっても、それが法
人税の負担を不当に減少するものである場合には、その私法上の効力は否定しない
まま、税法上の行為又は計算を通常あるべき行為又は計算に引き直して税額を算出
するものである。すなわち、帳簿に記載されている事実関係については認めつつ、
これが法人税の負担を不当に減少するものである場合に、ただその法的評価を納税
者と異にし、税法上の行為又は計算を通常あるべき行為又は計算に引き直すものに
すぎない。そうすると、右のような法一三〇条二項の趣旨及び帳簿の記載以上に信
憑力のある資料を提示することが要求される場合とそこまでは要求されない場合と
の相違にかんがみると、本件のように法一三二条を適用して同族会社の行為又は計
算を否認するような場合には、帳簿書類に記載された事実自体を否認するものでは
ないから、帳簿以上に信憑力のある資料を摘示することまでは必要ではなく、その
ような評価判断に至った過程自体(法人税の負担を不当に軽減する行為であって、
法一三二条の否認の対象となる行為であること)について具体的に明示することに
よって、更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という法一三〇条二項の趣旨
に合致するものというべきである。
2 これを本件についてみるに、甲第二号証によると、被告は、本件更正処分等の
更正の理由として、本件一連の行為の事実関係を摘示した上で、「①Aからの乙社
(ホロニックのことである。)株式の無償譲受け、甲社(スリーエス総研のことで
ある。)及び乙社の増資新株の引受及びこのように取得した甲社及び乙社の額面普
通株式を株式会社セムヤーゼへ売却するという一連の行為は、平成5年12月3日
に相互タクシー株式会社と締結した「相互タクシーグループ活性化のためのコンサ
ルティング契約に関する基本契約書」により顧問料収入として利益が発生すること
から、その利益を消去するために貴社の利益に見合う有価証券売却損を発生させる
ことを目的としたものと認められます。更に時価が発行価額を下回るような増資法
人の株式を発行価額を超える金額で引き受け払い込むことは、結果として自己の負
担において増資法人の他の株主に利益を移転させる行為であり、正常な経済取引で
は到底行われないものですが、本件においてこのような増資払込みが可能であった
のは、貴社が同族会社であり、かつ、貴社が100%出資している等同族グループ
間の取引であることによるものと認められます。」、「②上記一連の行為は、同族
グループを利用しての異常・不自然な行為であり、その結果不当に貴社の法人税負
担を軽減することとなっているものと認められます。したがって、その原因となっ
ている甲社及び乙社の額面普通株式に対する経済的合理性を著しく欠いた高額での
増資払込金額のすべてを資本等取引として支出されたものと認めることはできませ
ん。」、「③甲社の額面普通株式の増資払込金額230、000、000円(1、
437、500円×160株)のうち資本の払込みと認められる金額は、8、00
0、000円(50、000円×160株)、乙社の額面普通株式の増資払込金額
500、000、000円(50、000円×10、000株)のうち資本の払込
みと認められる金額は、5、000、000円(500円×10、000株)であ
り、当該金額を超える717、000、000円(甲社222、000、000円
及び乙社495、000、000円の合計額)は、それぞれ甲社及び乙社に対して
金銭を贈与したものと認められますので、寄付金に該当します。」と記載されてい
ることが認められる。
 被告は、右の①のとおり、本件一連の行為が、原告において本件利益が発生した
ことから、これを消去するために行われた行為であって、法人税の負担を不当に減
少するものであることを明らかにし、①、②で、時価が発行価額を下回るような増
資法人の株式を発行価額を超える金額で引き受け払い込むことは、通常経済人の行
為として不自然、不合理な行為であるが、これは原告会社が同族会社であるから行
われたものであって、法一三二条の否認の対象となる行為であることを明らかにし
ている。
 右のとおり被告が附記した本件更正処分における理由は、評価判断に至った過程
自体を具体的に明示するものであって、更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便
宜という法一三〇条二項の趣旨に合致するものという
べきである。
3 この点について原告は、理由附記の程度を決する基準は立証責任の所在の違い
に求めるのが合理的であって、本件においては、更正処分について被告が立証責任
を負うものであるから、更正理由は、特に帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料
を摘示して処分の具体的根拠を明らかにするところまで明示すべきであると主張す
る。しかし、既に説示したとおり本件のように法一三二条を適用する場合には、帳
簿に記載されている事実自体を否認するものではないのであるから、帳簿書類の記
載以上に信憑力のある資料を摘示する必要性は認められず、右の原告の主張を採用
することはできない。
 また、原告は、更正理由の①と②が矛盾しているから、理由としての体をなして
いない旨主張する。原告は、更正理由の①について、本件子会社には原告以外の株
主が存在しないことから、他の株主に利益を移転することにはならず、したがっ
て、本件子会社の新株に対して高額の払込みをすることは正常な取引行為であると
いうことを前提として、①と②とが矛盾すると主張している。しかし、①において
は、本件子会社に原告以外の株主が存在することを想定した表現が用いられている
ことは不適切というほかないものの、この部分の眼目は、右の点にあるのではな
く、そもそも本件子会社の新株の発行に対して高額の払込みをすること自体が正常
な取引行為ではなく、原告において有価証券売却損を発生させる目的があり、か
つ、本件子会社が原告の一〇〇パーセント子会社であることから、右のような正常
な取引行為ではないものが行われることになった旨を説明することにあると解され
るのであるから、右の原告の主張は、更正理由を正解しないものであり、その前提
において失当である。
4 以上のとおり、本件更正処分において、更正の理由の附記に不備はないものと
いうべきである。
三 争点3(本件更正処分の納付すべき税額の計算の基礎となった事実が原告の確
定申告に係る税額の基礎とされていなかったことについて国税通則法六五条四項の
「正当な理由」があるかどうか)について
 原告は、有価証券の取得価格は払込金額とすべきであるから、原告の行為計算に
不当性はなく、したがって、国税通則法六五条四項の「正当な理由」が認められ、
本件賦課決定処分は違法である旨主張する。
 原告は、法施行令三八条一項一号において、払込みにより取得した有価証券の取
得価額はそ
の払い込んだ金額とする旨の規定があるところ、原告は、有価証券売却損を計上す
るに当たって、その取得価額を払込金額としているのであるから正当な理由が認め
られると主張するものと解される。しかし、本件においては、本件子会社の新株の
発行に対する払込額が過大であり、これが法人税の負担を不当に軽減するものであ
るとして、被告が法一三二条を適用し、本件子会社の新株一株について払い込んだ
金額は、株式の額面金額とし、それを超える金額は寄付金に該当すると認定したも
のであって、法施行令三八条一項一号が右のように規定しているからといって、原
告が、本件子会社の新株の取得価額を払込金額としたことについて正当な理由があ
るということはできない。
 そして、前記一1(五)のとおり、原告は、本件子会社に対する貸付金を実質的
に無税償却するために本件一連の行為を行うこととしたことが認められ、また、原
告代表者尋問の結果によれば、貸倒損失の計上や債権放棄による損金の算入につい
ては、税務上これが認められないであろうと考えて、本件一連の行為によって有価
証券売却損を計上することによって、実質的に本件子会社に対する貸付金を無税償
却しようとしたものであることが認められる。
 右のとおり、原告は、本件子会社に対する貸付金の回収不能を損金に算入するこ
とができないことを認識しつつ、これを損金に算入するために本件一連の行為を行
い、本件子会社の新株の取得価額を払込金額としたものであるから、国税通則法六
五条四項の「正当な理由」があるものとは認められない。
第四 結論
 よって、原告の本件請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用
の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとお
り判決する。
東京地方裁判所民事第三部 
裁判長裁判官 藤山雅行
裁判官 谷口豊
裁判官 加藤聡

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛