弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原決定を取り消す。
     本件競落は許さない。
     株式会社正金相互銀行の抗告を却下する。
         理    由
 一 (一)株式会社正金相互銀行(以下正金相互と称する)の抗告理由は、第
一、競売申立人たる抗告人において抵当不動産につき一括競売の申立をなしたので
あるから当然これを許容すべきであるのにかかわらず、原裁判所が各別に競売した
のは不適法であるし、第二、債務者兼抵当権設定者Aは競売申立後の昭和三〇年一
一月三〇日死亡しているのに、その後の競売手続は死亡せる同人を当事者として続
行されているので不適法である。よつて原競落許可決定を取り消し、競落を許さな
い旨の裁判を求めるといい。
 (二) 東邦興産株式会社(以下東邦と称する)の抗告理由は、本件競売の目的
たる不動産は最初別紙目録(イ)宅地一筆及び同地上の同目録(ロ)(ハ)(ニ)
の三棟の建物であつたが、本件競売手続において先ず(ロ)(ハ)の建物が競落さ
れ、ついで(イ)(ニ)が競売に付されたところ昭和三一年一〇月二五日の競売期
日に(イ)宅地は売れず(ニ)の建物だけが売れて、同月三〇日(ニ)建物につき
競落許可決定があつた。しかし宅地上に建物のあるその宅地だけを誰がすき好んで
買うであろうか。正常な値で買う人はない。値はいくらでも廉くなる。だとすれば
右(イ)(ニ)不動産の後順位根抵当権者たる抗告人は、全くのいわゆる「はだ
し」にされてしまうことになる。本件で先順位抵当権者の正金相互の債権は七〇万
円、抗告人が一〇五万円、その外抗告人に後るる牴当権者(二名)の債権もあつて
その総債権額は約二〇〇万円で、(イ)(ニ)不動産の最低競売価額は一八六七、
〇〇〇円であるから競売代金をもつて総債権者の債権を弁済するには、一括競売し
なければ不足することは疎明をまつまでもなく明白である。原則として一括競売を
しなければならないことは古くから認められたところであり(昭和八年三月七日大
審院民事部決定、裁判例七巻四三頁、法律時報昭和三一年一一月号五七頁中段以
下)実務上もそのように処理されている。それ故執行裁判所は民訴第六七五条に抵
触しないかぎり一括競売をなすことを要し、一括競売はあらゆる競売条件に先行す
るといつても過言ではない。それゆえ同条の改廃の問題も考えられるべきである。
すなわち本件競落を許さないことが総債権者、債務者、新たに所有者となるべき競
買人の利益となるものである。これに反し、各別の競売は総べての人の不利益とな
る。
 原決定は民訴第六七五条の解釈とその適用を誤つた違法があるから原決定を取り
消すとの裁判を求めるというのである。
 二 (一)正金相互の抗告理由第一点並びに東邦の抗告理由について
(正金相互は本件競落許可決定により損失を被むる者でないから同人の抗告は不適
法として却下すべきであるが、抗告理由第一点は東邦の抗告理由と同一なるものが
あるので便宜これに対しても判断することにした。)
 <要旨第一>抵当権の実行として数個の不動産に対し競売の申立がなされた場合
は、民事訴訟法第六七五条の法意に照らし各不動産毎に最低競売価額を
定めて個別競売をなすのが本則である。ただ(1)同法条の準用を見る余地のない
とき(2)民法第三九二条第一項の適用がないとき(3)個別競売に比し一括競売
が利益であるか又は利害関係人になんらの不利益を及ぼさないとき(昭和一三年
(ク)第一六五号同年七月二六日大審院決定)等の場合にあつては、裁判所はその
自由なる裁量によつて一括競売を命じうるけれども、右と反対の場合は必ず個別競
売を命ずべきである。論旨引用の大審院決定は所論のように常に一括競売をすべき
であるというのではなく「数個の不動産を各別に売却することは法律上の売却条件
ではないから執行裁判所は必ずしも各別に競売しなければならないことはなく、こ
れを一括して競売に付しても差支がない」という趣旨のもので、なんら以上の説明
に牴触することはない。また記録によると所論のように(イ)宅地上に(ニ)建物
が存在すること及び(イ)(ニ)の不動産が各別に競売に付された結果(二)建物
のみにつき最高価競買の申出があつて競落が許され、(イ)宅地に対しては競買の
申出がなかつたことが認められる。この事実を前提し抗告人東邦は地上の建物だけ
が先に競売された場合、建物の敷地だけを正常な価格で競買する好事家はない、敷
地の競売価格は低落するばかりであるから、原執行裁判所が敷地と建物とを一括競
売に付しなかつたのは不適法であると主張するけれども、もともと同抗告人は
(イ)宅地に前示(ハ)(ニ)二棟の建物の存在することを知つてこれを抵当にと
つたもので、更地としてとつたのでないことは記録上明らかであるから、右宅地の
更地としての交換価値(換価価格)から右二棟の建物の存在することによる減損額
を差し引いた残存価値を把握した抵当権者というべきであり、しかも本件は後記の
ように民事訴訟法第六七五条第一項が準用される場合で、個別競売に付すべきとき
に該当するものである以上、同抗告人は宅地の右残存価値相当の換価売得金による
抵当債権の満足をもつて耐忍するの外はないから、以上の説示に反する主張は採用
に値しない。
 記録によると本件競売申立人たる抗告人正金相互の抵当債権及び同人に優先する
債権者の債権の合算額並びに競売手続の費用は(イ)宅地の最低競売価格をもつて
十二分に完済しうる状態にあるばかりでなく、原裁判所は既に(ロ)(ハ)の建物
をも競売に付して競落許可決定が確定し競落人において競落代金を完納しているの
で、この競落代金と(イ)宅地の最低競売価額との合算額は、右各債権の合算額に
費用を加算した総額を越えること五〇万円以上であるゆえ(ニ)建物を競売する必
要がないこと、一方本件(ニ)の競落価格は二九万円であつて(イ)宅地の最低競
売価額の五分の一にも達しないのであるから、(ロ)(ハ)(ニ)の建物の競売代
金の総和をもつてしても前示各債権の合算額に達しないので、(ニ)建物の競落を
許しその競売代金が支払われても、更に(イ)宅地をも競売しなければ、結局右各
債権並びに競売手続の費用を償却しえないことが認められる。
 思うに、数個の不動産に対し競売法による競売の申立があつた場合に、ある不動
産の売得金をもつて、申立担保権者及びこれに優先する債権者の債権並びに競売費
用を償却しうることの明らかなときは、後順位債権者の債権を償いうるや否を顧み
ずして該不動産のみを競売に付し他の不動産を競売に付することは許されないので
ある(昭和三〇年(ラ)第五〇号同年八月三〇日当裁判所決定、高等裁判所判例集
八巻七号四三三頁参照。この点につき本件に関するかぎり付言すれば、特に競売法
による不動産競売手続においては債務名義を有する債権者の外原則として配当要求
を許さないばかりでなく配当要求債権者の債権も、登記ある競売申立担保権者の債
権に後るるを通常とするので、不動産を競売に付した時から配当要求をなしうる競
落期日までの間に、申立権者に優先する権利者の出現することは稀であり、もしか
かる権利者が現われて他の不動産を競売する必要が担保あるときは、その際他の不
動産を競売に付すれば十分で、通常は殆んど出現しないであろう優先権者の、ある
いは出現するかも知れないということのために、競売申立にかかる不動産をともか
く一応全部競売に付した上、他の不動産に対する競落を許さない決定をなすべしと
するのは、守株刻舟の類であつて、採るべき見解でない。民事訴訟法第六七五条第
一項は動産に対する強制執行における同法第五六四条第二項・第五七八条の規定と
その法意を同じくし、債権の満足をうるがため、その限度において目的物を換価す
るという競売の本質からくる当然の規定であり、かりにかかる法条がなくても同趣
旨に解釈運用さるべきものである。ただ第六七五条第一項が第五六四条第二項・第
五七八条と少しく趣を異にする所以は、わが国における不動産競売手続の構造が動
産のそれと異るがために外ならずして、両者の競売の本質的差異に由来するのでは
ない。すなわち、不動産の競売においては(1)競売の申立があつた後に鑑定人を
して不動産の評価をなさせ、その評価額を最低競売価額とするので裁判所は競売開
始決定(差押)をなす際は、いまだ不動産の評価額を知ることが不可能であるた
め、競売申立にかかる全部の不動産を一応差し押えざるを得ないこと(もつとも担
保権実行の場合は、担保物権不可分の原則もこれが一理由となるであろう)。そし
て超過差押自体は右のようにやむを得ず一応許されたに過ぎないので、該超過差押
に基いてその後の超過競売までが許容されるものではない(昭和八年(ク)第八五
六号同年七月七日大審院第二民事部決定参照)から、下記(2)以下に説示すると
ころと相まつて考察すれば、前記第五六四条第二項第五七八条と第六七五条第一項
とを統一的に理解するときは、動産の競売と不動産の競売とにおいて、その趣旨を
異にしないということが容易く判明するであろう。(2)競売(売却)は執行裁判
所の命に従い、競売期日において執行吏が実施し、競落の許否は競売期日と日を異
にする競落期日において裁判所がこれをなす立前であること。従つて動産の競売に
おいて競売の実施と競落の許否ともに、同一期日に執行吏がなすとひとしく、不動
産の競売においても競売期日と競落期日とを併合して単一の期日とし、執行裁判所
が競売の実施をも担当するとせば、ある不動産の売得金をもつて債権者に弁済をな
し及び競売の費用を償うに足るに至るときは、直ちに競売を止むべきことは当然で
あるから、結局民事訴訟法第五七八条と同一に帰着する。しかも右の場合裁判所は
利害関係人の異議の有無を問わず、職権をもつて競売を止むべきである)。
 不動産競売手続は、差押、評価、競売、競落という数個の段階に分かれて発展す
るのであるけれども、各段階手続は相合して一連の債権の満足をはかるため、その
限度においてのみ目的不動産を換価するとの単一な競売に外ならない以上、該競売
において、なんら競売申立債権者の利益とならないのみでなく、しかも却つてそれ
によつて目的不動産の所有者その他の利害関係人に不当な損害を被らしめるがごと
き事実を発生させること<要旨第二>は許されない。本件において見るように著しく
最低競売価額を異にする(イ)(ニ)二個の不動産が競売の目的たると
き、(イ)不動産のみの競売代金(最低競売価額)をもつて差押債権者たる抗告人
正金相互の債権及びこれに優先する債権並びに競売手続の費用を償うに足ることが
明白であつて(ニ)不動産の売得金(最低競売価額)をもつては、これを償い得な
いと認めらるべき場合においては、民事訴訟法第六七五条第一項の法意に従い先ず
(イ)不動産のみを競売に付し、(ニ)不動産は競売に付することなく、同不動産
の競売手続は一時これを停止し、(イ)不動産の競売の結果をまつべきことは、先
に説明した所から明らかであり、更にこの理論を推度すれば、裁判所が右の場合、
(イ)(ニ)両個の不動産を競売に付し、(イ)不動産に対しては競買の申出がな
く、(ニ)不動産のみに対し相手方において最高価競買の申出をなしたため、相手
方に対し競落許可決定が言い渡された本件のごときにおいては、該競落許可決定は
違法であつて取消を免れないものと解すべきである。けだし、先に(ニ)不動産の
競落を許すにおいては、その競売代金をもつては差押債権、これに優先する債権及
び競売費用を償うに足らないことは、先に見た通りであるから、その結果は更に
(イ)不動産をも競売せざるを得ないので、結局は全部の不動産につき競落を許す
決定を言い渡さなければならないことにたちいたるから、前説示の第六七五条第一
項の法意は完全に無視され、毫も差押債権者に利益を加えることのないのみか、不
動産所有者及び抗告人東邦の利益を不当に害する結果を招くばかりである(抗告人
東邦は、記録によれば、(ニ)不動産の上の根抵当権者で、該根抵当の原因たる取
引関係は現に存在していること、従つて同抗告人は与信者ないし投資者として該取
引関係の存続につき利害関係を有する者であること、先ず(ニ)不動産が競売され
ると、その競売代金からは毫末の配当を受け得ないで、根抵当に基く投資者たるの
権利関係は当然解消となるの外なく、根抵当権は消滅に帰する不利益を被むること
が認められる)。
 従つて特段の事情もない本件において、(イ)不動産と共に(ニ)不動産をも競
売に付し、(ニ)不動産につき競落を許したのは違法であるから、この点において
原競落許可決定は取消を免れない。 よつて正金相互の抗告理由第二点に対する判
断を省略し主文の通り決定する。
 (裁判長判事 二階信一 判事 秦亘 判事 尾崎力男)
 (別 紙)
        目   録
 (イ)福岡市大字a字bc番地
    宅地二七一坪6合
 (ロ)同所d番地のe家屋番号f町○番
    木造瓦葺二階建居宅一棟建坪九坪二合
    外二階七坪2合5勺
 (ハ)同所c番地家屋番号f町△□番
    木造瓦葺平屋建工場一棟
    建坪四五坪

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛