弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1原告の別紙文書目録記載1,2の各文書の開示決定を求める訴えを却下する。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1福岡矯正管区長が,原告に対し,いずれも平成17年9月30日付けでした
別紙文書目録記載3ないし7の各文書に対する各行政文書開示決定のうち不開
示とした部分を取り消す。
2福岡矯正管区長は,原告に対し,同目録記載1,2の各文書の開示決定をせ
よ。
第2事案の概要
本件は,福岡拘置所に勾留中である原告が,福岡矯正管区長(以下「矯正管
区長」という)に対し,平成17年7月25日付け及び同月26日付けでし。
た,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という)3条。
(「」。)に基づく別紙文書目録記載1ないし7の各文書以下本件7文書という
の開示請求に対し,①矯正管区長が,いずれも同年9月30日付けで,同目録
記載3ないし7の各文書(以下「本件5文書」という)のうち,同目録記載。
,,,,34の各文書について一部不開示としその余の部分を開示する決定をし
同目録記載5ないし7の各文書について,一部不開示とし,その余の部分を開
示する決定をしたこと(以下,両決定を一括して「本件開示決定」という)。
はいずれも違法であるとして,本件開示決定のうち各不開示部分(以下「本件
不開示部分」という)の取消しを求めるとともに,②矯正管区長が,同目録。
記載1,2の各文書(以下「本件2文書」という)について,同日付けで不。
開示とする決定(以下「本件不開示決定」という)をしたため,本件2文書。
の開示決定を求める事案である。
1法の関係規定
()法は,何人も,法の定めるところにより,行政機関の長に対し,当該行1
政機関の保有する行政文書の開示を請求することができると定め(3条,)
行政機関の長は,開示請求があったときは,開示請求に係る行政文書に法5
条各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という)のいずれかが記録され。
ている場合を除き,開示請求者に対し,当該行政文書を開示しなければなら
ないとしている(5条柱書。)
,,。()同条が定める不開示情報で本件に関するものは以下のとおりである2
①2号
法人その他の団体(国,独立行政法人等,地方公共団体及び地方独立行
政法人を除く。以下「法人等」という)に関する情報又は事業を営む個。
,。,,人の当該事業に関する情報であって次に掲げるものただし人の生命
健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認めら
れる情報を除く(以下略)。
②4号
公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執
行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機
関の長が認めることにつき相当の理由がある情報
③6号
国の機関,独立行政法人等,地方公共団体又は地方独立行政法人が行う
事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,次に掲げるお
それその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に
支障を及ぼすおそれがあるもの(以下略)
2前提事実(証拠を掲げない事実は,当事者間に争いがない)。
()原告は,矯正管区長に対し,平成17年7月25日付け及び同月26日1
付けで,法3条に基づき,自己が勾留されている福岡拘置所の総合警備シス
テムに関する行政文書の開示請求(以下「本件開示請求」という)をした。
(乙1,2。)
()本件開示請求の対象文書には,本件7文書に加えて,本件開示決定及び2
本件不開示決定以外の決定に係る文書及び補正手続の過程で原告から請求の
取下げがなされた文書も含まれていたが,矯正管区長は,本件開示請求の対
象文書として,本件7文書を別紙文書目録記載のとおりに特定した。
()矯正管区長は,原告に対し,同年8月31日付けで,他の処理すべき開3
示請求事案が多く,本件開示請求の事務処理が膨大であり,相当の時間を要
することを理由として,開示決定等の期限を延長する旨通知した。
()矯正管区長は,同年9月30日付けで,本件開示請求に対し,本件5文4
書について,同拘置所の内部構造,監視カメラ・各種警備機器等の設置場所
及び総合警備システムの機能等に関する情報について記載されている部分が
法5条4号及び6号に該当するとして不開示とし,その余の部分について開
示する旨の本件開示決定をし,原告に対し,いずれも同日付けの行政文書開
示決定通知書(福管総発第303号及び同第304号)をもって通知し,ま
た,本件2文書について,作成又は取得しておらず,存在しないから不開示
とする旨の本件不開示決定をし,その旨,同日付けの行政文書不開示決定通
知書(同第306号)をもって通知した。
3争点
()本件不開示部分の法5条4号該当性1
(原告の主張)
ア福岡拘置所職員は,同拘置所の総合警備システムを悪用して,原告が勾
留されている同拘置所の居室内に「バチパチ」などという異常音を発生さ
せ,原告に対し,精神的・肉体的な苦痛を与えるという不法行為を行って
いる。
イ本件不開示部分のうち,同システムの製造者であるA株式会社のホーム
ページなどにおいて,同システムの機能や機器について公開されている部
分は,同号に該当しないし,原告の居室で異常音を発している非常電鈴装
置などの機器に関する記載部分に対する本件開示決定は,社会通念上,著
しく妥当性を欠き,裁量権を濫用しているから,違法である。
ウ本件不開示部分が同号に該当することの主張立証責任は被告にある。
(被告の主張)
ア同号は「行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」と,
いう規定の仕方をとっているが,これは,公共の安全等に関する情報の該
当性の判断について,行政庁に広範な裁量権を与える趣旨であるから,そ
れに対する司法審査は,処分の存在を前提として,当該処分に社会通念上
著しく妥当性を欠くなどの裁量権の逸脱又は濫用が認められるかどうかを
審査する方法によるべきであり,原告が,裁量権の逸脱又は濫用を基礎づ
ける具体的事実の主張立証責任を負う。
イ本件5文書について
(ア)別紙文書目録記載3の文書の不開示部分には,福岡拘置所の施設の
内部構造が分かる図面並びに総合警備システム及び監視カメラの設置場
所に関する情報が記載されている。
(イ)同目録記載4の文書の不開示部分には,同拘置所の内部構造が分か
る図面及び巡回・巡警釦の設置場所に関する情報が記載されている。
(ウ)同目録記載5の文書の不開示部分には,同システム並びに同システ
ムに含まれる各種警備機器,巡回・巡警釦の設置台数及び設置場所,並
びに同システム・機器の概要及び機能に関する情報が記載されている。
(エ)同目録記載6の文書の不開示部分には,巡警・巡回釦の設置場所に
関する情報が記載されている。
(オ)同目録記載7の文書の不開示部分には,同システムの更新整備に伴
う操作卓の新設場所及び同拘置所の内部構造に関する情報が記載されて
いる。
ウ上記イのとおり,本件5文書には,同拘置所の内部構造,監視カメラ,
各種警備機器の設置場所及び同システムの機能等に関する情報が記載され
ており,これらの情報が開示されると,同拘置所の内部構造や各種警備機
器の機能等を承知できることになり,これらを利用して,被収容者が逃走
等を図ることが可能になるから,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維
持に支障を及ぼすおそれがある。
エしたがって,矯正管区長が,本件不開示部分が同号に該当すると認めた
ことは合理的裁量に基づくものである。
()本件不開示部分の同条6号該当性2
(被告の主張)
ア同号に列記された不開示事由は例示にすぎず,同号は,それら以外の事
務や事業についても,その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報に
ついては不開示とする規定である。
そして,同号は,同条4号と異なり,行政機関の長に広範な裁量権を与
えた規定ではないので,同条6号の要件該当性は客観的に判断される必要
があるから,事務又は事業が,その根拠となる規定・趣旨に照らし,公益
的な開示の必要性等の種々の利益を衡量した上で「適正な遂行」と言え,
るものであることが求められるし「支障」の程度は,名目的なものでは,
足りず,実質的なものが要求され「おそれ」の程度も,単なる確率的可,
能性ではなく,法的保護に値する蓋然性が要求される。
イ上記のとおり,本件5文書には,同拘置所の内部構造,監視カメラ,各
種警備機器の設置場所及び総合警備システムの機能等に関する情報が記載
されているから,これらの情報が開示されることによって,被収容者の逃
走等の事故を防止し,同拘置所の保安を維持するため,職員の増員等警備
体制の変更を余儀なくされるなど,同拘置所における事務の適正な遂行に
支障を来たすおそれがある。
ウしたがって,本件不開示部分は同号の不開示情報に該当するから,本件
開示決定は適法である。
(原告の主張)
被告が,同号を不開示理由とすることは不法行為の隠ぺいでしかなく,同
拘置所は故意に文書隠しを行っている。
また,本件不開示部分のうち,同システムの製造者であるA株式会社のホ
ームページなどにおいて同システムの機能や機器について公開されている部
分は,同号に該当しない。
()本件2文書の開示決定を求める訴えの適法性3
(被告の主張)
,(,上記訴えは申請拒否処分型義務付け訴訟行政事件訴訟法3条6項2号
37条の3)に該当し,既になされた拒否処分の取消し等の訴えと併合提起
されなければならないし,義務付け判決が得られるのは,併合提起された申
請拒否処分等の取消し等の訴訟において認容判決がなされる場合に限られ
る。
そして,原告は,本件不開示決定の取消し等の訴えを併合提起していない
から,本件2文書の開示決定を求める訴えは不適法であり,却下されるべき
である。
第3争点に対する判断
1争点()(本件不開示部分の法5条4号該当性)について1
()同号は,同条2号及び6号とは異なって,単に「おそれがあるもの」で1
はなくて「おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由が,
あること」と規定しており,同条4号に該当する情報であるか否かについて
の行政機関の長の第一次的な判断に広範な裁量権を与えた趣旨であると考え
られる。
したがって,同号の不開示情報に該当するとの行政機関の長の決定が違法
となるのは,その行政機関の長の判断が,与えられた裁量権を逸脱又は濫用
した場合に限られ,原告が行政機関の長の判断に裁量権の逸脱又は濫用のあ
ったことを基礎づける具体的事実を主張立証する責任を負うと解するのが相
当である。
()以上を前提に,本件開示決定についてみると,本件不開示部分に,福岡2
拘置所の警備システムの詳細が記載されていること自体は原告も争わないも
のと解される。そして,そのような情報が原告に開示されれば,同拘置所の
警備システムの詳細が判明するだけでなく,同システムの配置図等により,
同拘置所の内部構造も判明し,被収容者の逃走の危険が生じる。他方で,原
告の主張する同拘置所職員の不法行為を認めるに足りる証拠はないから,本
件不開示部分が同号に該当するとした矯正管区長の判断には,裁量権の逸脱
又は濫用があったとは認められない。
()したがって,本件不開示部分は,同号に該当すると認められる。3
2争点()(本件不開示部分の同条6号該当性)について2
()同号の「当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に1
支障を及ぼすおそれがあるもの」というためには,当該事務又は事業の本質
的な性格に照らして,当該事務又は事業の適正な遂行に実質的な支障を及ぼ
すことについて,法的保護に値する程度の蓋然性が認められる必要があると
考えるのが相当である。
()本件不開示部分には,上記のとおり,福岡拘置所の警備システムの詳細2
などが記載されており,刑事被告人又は被疑者の罪証隠滅及び逃走を防止し
て,円滑な捜査・公判の遂行に寄与するという矯正管区の拘置所に関する事
務の本質的な性格に照らすと,本件不開示部分を開示すれば,同拘置所の警
備システムの詳細や同拘置所の内部構造が知られ,被収容者の逃走の危険が
生じるから,矯正管区の事務の適正な遂行に実質的な支障を及ぼすことにつ
いて,法的保護に値する程度の蓋然性があると認められる。
()したがって,本件不開示部分は,同号に該当すると認められる。3
()なお,原告は,本件不開示部分が同条2号ただし書に該当するとも主張4
しているように解されるが,同号は,不開示情報に当たる場合を規定すると
ともに,これに該当する場合であっても,同号ただし書の事由がある場合に
は当該行政文書を開示しなければならないとするものである。したがって,
,,同号ただし書は同号による不開示情報とならない旨を規定したにとどまり
当該行政文書が同条の他の各号所定の不開示情報に当たる場合には,これを
不開示とすることを妨げないのであって,同号ただし書に該当することをも
って,当該行政文書が直ちに開示されるべきことになるものではない。
そして,本件開示決定において,本件不開示部分が不開示とされたのは同
号に該当することを理由とするものではなく,また,本件訴訟においても被
告は本件不開示部分が同号に該当することを理由に本件開示決定の適法性を
主張するものでないことは上記のとおりであるから,原告の同主張の当否に
ついては,判断を要しないものである。
3争点()(本件2文書の開示決定を求める訴えの適法性)について3
本件2文書の開示決定を求める訴えは,既に当該法令に基づく申請を棄却す
る処分がされた場合において,当該行政庁が一定の処分をなすべき旨を命ずる
ことを求める義務付け訴訟に該当する(行政事件訴訟法3条6項2号。)
そして,同号の義務付けの訴えは,当該行政庁の行った処分が取り消される
べきものであり,又は無効若しくは不存在であることを要件とするから(法3
7条の3第1項2号,当該義務付けの訴えを提起するためには,当該処分に)
係る取消訴訟又は無効確認の訴えを,当該義務付けの訴えに併合して提起しな
ければならない(同条3項2号)ところ,原告は,本件2文書について,義務
付け訴訟を提起したのみで,本件不開示決定の取消し等の訴えを提起していな
いから,上記訴えは不適法である。
第4結論
よって,本件2文書の開示決定を求める訴えは不適法であるから却下し,原
告のその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負
担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判
決する。
福岡地方裁判所第1民事部
裁判長裁判官須田啓之
裁判官秋信治也
裁判官川嶋彩子
(別紙)
文書目録
1福岡拘置所殿向け,総合警備システムタッチパネル取扱説明書に係る同システ
ムが平成17年ころに更新整備された際に取得した同システム更新整備に伴う設
計図
2福岡拘置所動体管理システム取扱説明書並びに取扱マニュアルに係る同システ
ムが導入された際,並びその後,更新整備が行われた際に取得した同システム導
入時,並び更新整備に伴う設計図,使用機器の一覧表
3福岡拘置所殿向け総合警備システムタッチパネル取扱説明書
4福岡拘置所殿向け巡回巡警システム取扱説明書
5総合警備システム・夜間巡回表示装置仕様書
6配置図(巡警・巡回スイッチ)
72階平面図1/100(福岡拘置所総合警備システム操作卓新設図面)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛