弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 原告らの本件訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一 当事者の申立
一 請求の趣旨
1 被告松戸市長に対する請求の趣旨
(一) 被告松戸市長が、昭和六〇年九月二六日なした松戸市指令第一一一号の二
八開発許可処分を取消す。
(二) 被告松戸市長が、右の開発許可について、昭和六〇年一〇月一八日なした
松戸市指令第六五四号地位承継承認処分を取消す。
(三) 被告松戸市長が、(一)の開発許可について、昭和六〇年一〇月一八日な
した松戸市指令第一一二号の二三工事完了公告以前の建築承認処分を取消す。
(四) 被告松戸市長が、(一)の開発許可について、昭和六二年一月一四日なし
た松戸市指令第九六一号開発変更許可処分を取消す。
(五) 被告松戸市長が、昭和六二年二月四日検第二六号をもって、(一)の開発
許可及び(四)の開発行為変更許可にかかる開発行為に関する工事が、開発許可の
内容に適合している旨の確認をした処分を取消す。
(六) 右(五)の請求が認められないときは
被告松戸市長が、昭和六二年二月四日なした検第二六号開発行為に関する工事の検
査済証交付処分を取消す。
2 被告松戸市建築主事に対する請求の趣旨
(一) 被告松戸市建築主事が、昭和六〇年一二月二一日なした建築確認番号第九
〇六号建築確認処分を取消す。
(二) 被告松戸市建築主事が、昭和六二年二月四日、(一)の建築確認にかかる
工事が建築確認の内容に適合している旨の確認をした処分を取消す。
(三) 右(二)の請求が認められないときは
被告松戸市建築主事が、昭和六〇年一二月二一日建築確認番号第九〇六号につい
て、昭和六二年二月四日なした検査済証交付処分を取消す。
3 被告松戸市建築審査会に対する請求の趣旨
被告松戸市建築審査会が、被告松戸市建築主事に対する請求の趣旨(一)の建築確
認処分に関する審査請求について、昭和六一年七月二四日なした松建審第一号裁決
を取消す。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 本案前の答弁
(被告ら)
主文同旨。
2 本案に対する答弁
(被告ら)
(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 原告ら
(一) 原告Aは、別紙物件目録一記載の各土地と同地上に建築されている別紙物
件目録五記載の建物の所有者で、右建物(八世帯用アパート、名称こけし荘)の二
階の一室に居住し、他室を賃貸している者である。
(二) 原告Bは、別紙物件目録二記載の土地と同地上に建築されている別紙物件
目録六記載の建物の所有者であり、原告Cは同人の妻、原告Dは同人の長女、原告
Eは同人の二女である。
(三) 原告F、原告Gは、別紙物件目録三記載の各土地(以下原告H所有地とい
う)の所有者(共有)である。
2 本件行政処分
(一) 被告松戸市長
(1) 被告松戸市長は、別紙物件目録四記載の土地(以下本件開発地という)の
開発に関して、別紙行政処分目録一ないし四記載のとおりの行政処分をした(以下
同目録一の処分を本件開発許可処分、同二の処分を本件地位承継承認処分、同三の
処分を本件建築承認処分、同四の処分を本件開発変更許可処分という)。
(2) 被告松戸市長は、本件開発変更許可処分の申請者から、昭和六二年一月一
六日、本件開発許可処分及び本件開発変更許可処分に係る開発行為が完了した旨の
工事完了届が提出されたのに対して、同年二月四日、工事が都市計画法二九条の規
定による開発許可の内容に適合しているとして、開発工事に関する工事の検査済証
(以下本件開発工事検査済証という)を、右申請者に交付した。
イ 被告松戸市長が、右完了届が提出された工事が、本件開発許可処分及び本件開
発変更許可処分の内容に適合している旨の確認をした行為は、準法律的行政処分で
あり、審査請求及び行政訴訟の対象となる行政処分である(以下これを本件開発工
事適合確認処分という)。
ロ 仮に、そうでないとしても、本件開発工事検査済証を交付した行為は行政処分
に該当する(以下これを本件開発工事検査済証交付処分という)。
(二) 被告松戸市建築主事
(1) 被告松戸市建築主事(以下被告主事という)は、別紙行政処分目録五記載
のとおりの建築確認処分をした(以下本件建築確認処分という)。
(2) 被告主事は、本件建築確認処分の申請者から、昭和六二年一月二二日、建
築工事が完了した旨の工事完了届が提出されたのに対して、同年二月四日、建築工
事が完了した建物が、本件建築確認処分の内容に適合しているとして、建築確認検
査済証(以下本件建物検査済証という)を、
右申請者に交付した。
イ 被告主事が、右完了届が提出された建物が本件建築確認の内容に適合している
旨の確認をした行為は、準法律的行政処分であり、審査請求及び行政訴訟の対象と
なる行政処分である(以下これを本件建物適合確認処分という)。
ロ 仮に、そうでないとしても、本件建物検査済証を交付した行為は行政処分に該
当する(以下これを本件建物検査済証交付処分という)。
(三) 被告松戸市建築審査会
原告らは、昭和六一年三月八日、被告松戸市建築審査会(以下被告審査会という)
に対して、本件建築確認処分の取消しを求める審査請求をしたところ、被告審査会
は、同年七月二四日、右審査請求を棄却する旨の裁決(以下本件裁決という)を
し、右裁決書は同月三〇日、原告らに到達した。
3 本件開発地及び本件開発行為の内容
(一) 原告ら所有の別紙物件目録一ないし三記載の各土地および本件開発地を含
む松戸市松戸字赤発毛地区一帯は、長さ五〇〇メートル、高さ一五メートルの、オ
ーバーハングのある勾配五〇ないし八〇度の急傾斜地である。
原告らの所有土地と本件開発地との位置関係は別紙図面記載のとおりである。
(二) 本件開発地は、約三九パーセント(二三九・〇八平方メートル)が急傾斜
地(がけ地)となっており、がけ地の底辺に長さ二六メートル、高さ一・八メート
ルのコンクリート製擁壁が設置されていて、その擁壁の上端から勾配五〇ないし八
〇度、高さ一一・五メートルの急傾斜となっていた。そしてその上部は、更に高さ
三ないし五メートル、同一勾配のオーバーハングのある国有地に接続していた。
(三) 別紙行政処分目録一記載の本件開発許可処分の申請者若しくは同二記載の
本件地位承継承認処分の申請者らは、本件開発地を掘削、盛土するなどして宅地造
成した上、共同住宅を建築する目的で、別紙行政処分目録一ないし五記載の各処分
の申請をし、その処分を得て、本件開発地の開発工事(以下本件開発工事又は本件
開発工事という)及び共同住宅(以下本件建物という)の建築工事(以下本件建築
工事という)を行った(以下これらの工事を一括して単に本件工事ということもあ
る)。
(四) 本件開発行為の概要は、本件開発地のうち、がけ地部分を底辺二六メート
ル、周囲四三・六六メートル、高さ最高一三・五メートルの範囲にわたって掘削、
盛土するなどして宅地造成した上、鉄筋コンクリート造地上四階、地下一階の本件
建物を建築するというものであった。
(五) 前記申請者らは、本件工事を行った後、昭和六二年一月一六日、被告松戸
市長に対して本件開発行為の工事完了届を、また、同月二二日、被告主事に対して
本件建物の工事完了届を、それぞれ提出した。
4 本件処分の違法性
(一) 本件開発許可処分の違法性
(1) 手続上の違法性
本件開発許可処分は、別紙行政処分目録一記載のとおりの申請者九名に対してなさ
れたが、そのうち、Iは昭和六〇年八月二〇日、Jは同年九月一九日、Kは同月二
六日、いずれも本件開発地のうち、各自の所有土地を売却し、Iは同年八月二二
日、Jは同年九月二一日、Kは同月二七日、それぞれその旨の各所有権移転登記手
続を了し、本件開発許可処分時には、申請者としての地位を脱退していたから、こ
のような脱退者をも含めてなされた本件開発許可処分は無効であり、仮に無効でな
いとしても違法である。
(2) 宅地造成等規制法違反の違法
イ 宅地造成等規制法(以下宅造法という)によれば、宅地造成工事規制区域内に
おいて、切土であって高さ二メートルを超えるがけを生ずる宅地造成工事を施行す
る場合には、都道府県知事の許可を受けなければならないこととされている(同法
八条、二条二号、同法施行令三条)。
ロ 本件開発地は、昭和四二年一二月一日、建設大臣から宅地造成工事規制区域の
指定を受けた土地である。
ハ 本件開発行為は、本件開発地内に高さ一三・五メートルの切土を生ずる工事で
あり、また、原告H所有地との境界線上の合計二九・五八メートルの部分につい
て、従前存した高さ〇・四ないし〇・五メートルの盛土によるがけ地が、高さ一・
九メートルに拡大される盛土工事であるから、宅造法に定める宅地造成工事に該当
する。
ニ 被告松戸市長は、宅造法に基づく宅地造成工事について許可の権限を有する処
分庁であるから、その審査の権利義務を有するところ、右審査義務を怠り、また、
右許可手続をしないで本件開発許可処分をしたから、右処分は、同法に違反し、違
法である。
(3) 急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律との関係による違法
イ 急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(以下急傾斜地災害防止法とい
う)によれば、急傾斜地崩壊危険区域の指定がなされた場合には、更に、建築基準
法三九条一項の規定による災害危険区域の指定が義務づけられている(急傾斜地災
害防止法一九条)。
ロ 本件開発地は、昭和六一年度急傾斜地崩壊危険区域の指定手続中の土地であ
る。
ハ したがって、本件開発地は、急傾斜地の崩壊の危険性が極めて高い土地であ
り、また、これにより隣接する原告らの居住地の急傾斜地の崩壊を助長、誘発する
危険性が極めて高い土地である。
ニ しかるに、急傾斜地における地形の変更を審査の対象から除外してなされたか
ら、本件開発許可処分は違法である。
(4) がけ地部分の擁壁に関する違法性
イ 擁壁の底板の欠如と擁壁の厚さ
本件開発地は、宅地造成工事規制区域であるから、切土及び盛土によって生じたが
け地についての擁壁設置の技術的基準としては、宅造法及び同法施行令の基準が準
用される。
(a)右基準によれば、擁壁の下部に底板を必要とするところ、これが設置されて
いない。
(b)また、擁壁の高さに応じて、その厚さについての基準が定められているが、
本件の場合、擁壁の厚さについて審査を行っていない。
ロ 擁壁の水抜穴の欠如
擁壁には、裏面全面に透水層を設け、水抜穴を必ず設置しなければならない(都市
計画法施行規則二七条一項二号、二項、宅造法一〇条、一一条、建築基準法施行令
一三八条、一四二条)。
しかるに、本件建物は、前記3の(四)記載のとおりの掘削をした本件開発地のが
け地の中に建築されているため、建物の三階部分全体ががけ地に接着し、これが擁
壁となっているのであるが、この擁壁に該当する部分に水抜穴が皆無であるから、
このような擁壁を許可したことは違法である。
(5) 排水施設
都市計画法によれば、非自己用の排水については自然浸透式の排水施設は禁止され
ている(同法三三条一項三号、同法施行令二六条二号、三六条一項一号イ)。
本件開発行為は、排水施設を非自己用としてなされているのに、自然浸透式の排水
処理を許可したから違法である。
(6) 道路
イ 都市計画法三三条一項二号、同法施行令二五条一項二号によれば、予定建築物
等の用途、敷地の規模等に応じて、六メートル以上一二メートル以下で建築省令の
定める幅員以上の幅員のある道路が、当該予定建築物等の敷地に接するように配置
されていることを要するものとされている。
したがって、本件開発地も幅員六メートル以上の道路に接していなければならない
ことになる。
ところが、本件開発地は、南西側一三・六四メートルが、道路(以下本件接地道路
という)に接しているが、右道路の幅員は四メートルである。
ロ また、本件開発許可処分は、本件開発地のうち、本件接地道路と接している長
さ一三・六四メートル、幅二メートルの部分を将来拡幅される道路予定地と想定し
て行われた(以下この部分を道路予定地部分という)。
しかしながら、右道路予定地部分は舗装もされておらず、土砂が露出したままで道
路としての構造、形態を備えていないし、また、道路予定地部分に接して本件建物
が建築されているため、将来、道路予定地部分全部について、完全な道路としての
構造形態を備えることも不可能である。
ハ 仮に、道路予定地部分について、道路としての構造形態を備えることができた
としても、都市計画法の定める開発地に接続することを要する道路は、自己の敷地
部分だけを意味するものではなく、それが相当の区間にわたり、しかもその一端が
他の幅員の大きな道路(主要道路)に連続しなければならないところ、本件開発地
からこのような主要道路に達するまでの本件接地道路の距離は三三三メートルで、
その間の幅員は平均三・五メートル、最狭部分は二・四二メートルであり、また、
その間はがけ地と民家のため、幅員六メートルの道路拡幅計画が達成される可能性
は皆無である。
ニ 以上のとおり、本件開発許可処分は都市計画法の道路に関する規定に反するか
ら違法である。
(7) 松戸市まちづくり指導要綱違反
イ 本件開発地は、その約四〇パーセントが急傾斜地で、樹木の緑によって保全さ
れていたところ、本件開発行為は本件開発地の緑地部分を全壊する環境破壊であ
る。
ロ 本件開発行為は、隣接地地権者との調整がなされておらず、その同意が得られ
ていない。
ハ 公益施設及び排水施設に対する審査がなされていない。
ニ 以上から、本件開発許可処分は、松戸市まちづくり指導要綱に違反し違法であ
る。
(二) 本件地位承継承認処分の違法性
前記4の(一)の(1)記載のとおり、本件開発許可処分時までの間に、I、J、
Kの三名は、本件開発地のうち、各自の所有地を他に売却し、これにより本件開発
許可処分の申請者としての地位を脱退し、本件開発行為参加の意思も喪失したので
あるから、本件開発許可処分を受けた者としての地位を有しなかった。
したがって、右三名は本件地位承継承認処分の被承継人としての地位も有しなかっ
たことになるから、このように地位を有しなかった者からの本件地位承継承認処分
は無効である。
仮に、無効でないとしても違法性は大であり、取消されるべきである。
(三) 本件建築承認処分の違法性
(1) 都市計画法三六条、三七条によれば、開発許可を受けた開発区域内の土地
において、建築物を建築しようとする場合には、開発行為完了の届出をし、検査を
受け、検査済証の交付を受け、更に、都道府県知事の工事完了の公告がなされた後
でなければならず、「都道府県知事が支障がないと認めたとき」等同法三七条に定
める例外的な場合にのみ、これができることとされている。
(2) 右の「支障がないと認めたとき」というのは、官公署、地区センターその
他の公益的施設を先行的に建設する場合、既存の建築物等を開発区域内に移転し改
築する場合、自己の居住又は業務の用に供する建築物の建築を宅地の造成と同時に
行う場合で、これを切離して施行することが不適当な場合に限られる。
(3) 被告松戸市長は右の「支障がないと認めるとき」に該当するものとして、
本件建築承認処分を行った。
(4) しかしながら、本件開発行為は非自己用としてなされたものであり、ま
た、本件建築承認処分は、本件地位承継承認処分と同時になされたものであるが、
前記の例外規定が適用される事情は存在しなかった。
しかも、本件工事そのものが宅造法に違反する犯罪行為である上、前記のとおり、
急傾斜地崩壊危険区域指定手続中のがけ地に、法律が要件として規定する底板や水
抜穴を設置せず、隣地へ雨水の浸透水を流出させるものであって、がけ地の崩壊を
助長、誘発するものである。
加えて、本件開発許可処分は、急傾斜地部分についての掘削等を含む宅地造成工事
を開発行為の対象から除外しているが、このように許可の対象から除外されている
急傾斜地の宅地造成を認容する本件建築承認処分は違法である。
(四) 本件開発変更許可処分の違法性
(1) 本件開発変更許可処分は、すでに完了した本件工事の内容が、都市計画法
その他の法令に違反する違法なものであること及び本件開発許可処分の内容に適合
しないことが明らかになったため、これを隠蔽、糊塗し、検査の形式を整える目的
でなされたもので違法である。
(2) また、本件開発変更許可処分は、昭和六二年一月一三日に提出された変更
申請に対して、翌一四日なされたものであり、次いで、同月一六日、工事完了届が
提出されたが、わずか一日の審査期間で審査することは不可能である。
本件開発変更許可処分は、内容無審査のまま、違法な既成事実を隠蔽、糊塗し、検
査の完了のみを意図してなされたもので違法である。
(3) 被告松戸市長は、本件開発変更許可処分申請以前から、本件工事の内容が
都市計画法に違反するものである上、本件開発許可処分の内容に適合しないもので
あることを知っており、松戸市の担当課職員も現地を調査してこのことを確認して
いた。
しかるに、被告松戸市長はこれを放置し、また松戸市職員は本件工事施行者と連絡
を密にし、後日、本件開発変更許可処分がなされることを予測して違法工事を推進
せしめた。
したがって、本件開発変更許可処分は、権限を濫用してなされたもので違法であ
る。
(4) 更に、本件開発変更許可処分の対象となった工事内容が、次のとおり違法
であったから、本件開発変更許可処分は違法である。
イ 本件開発行為の対象工事の範囲は、本件開発地のうち、急傾斜地部分を除く部
分の切土、盛土等であったところ、本件開発変更許可処分は、急傾斜地部分の盛土
工事を内容とする工事について許可処分をした。
しかしながら、本件開発行為の対象となっていない工事について変更ということは
あり得ない。
また、盛土工事は、長さ一二・〇三メートル、勾配五〇ないし八〇度のがけ地の地
表に、地すベり防止のための段切りをしないで一ないし三メートルの高さの盛土を
するものであるが、このような工事は宅造法に違反するものである。
ロ 本件開発許可処分は、がけ地の切上部分と建物の接する部分の底辺に、建物に
接して延長五七・七メートル、直径一五センチメートルの浸透管(以下本件浸透管
という)が埋設されることとしてなされていたところ、本件開発変更許可処分はこ
れを廃止することとしてなされた。
しかしながら、これが廃止されれば、本件開発地の高所から流出した浸透水が、本
件建物に遮断されて両側のがけ地の崩壊を助長、誘発する危険性が明白で、これに
より原告らの生命、身体、財産が危険にさらされることになるから、右の廃止を許
可した本件開発変更許可処分は違法である。
(五) 本件開発工事適合確認処分の違法性
(1) 本件開発工事は、次の点において、本件開発許可処分及び本件開発変更許
可処分の内容に反する。
イ 浸透管の不設置
前記のとおり、本件開発許可処分においては、本件浸透管が設置されることになっ
ていたところ、本件工事にはこれが設置されていない。
ロ 擁壁
本件開発許可処分においては、本件開発地と原告H所有地との境界に接して築造さ
れる擁壁は、鉄筋コンクリート造で高さが一・四六メートルとされていたところ、
本件工事により設置された擁壁は、ブロック積みで、底盤(基礎)が露出し、鉄筋
も法の規定に反して三本の差筋構造であり、裏込め、水抜穴もなく、かつ、高さも
二メートルを超えるものである。
ハ 盛土工事
本件開発地のうち、平坦部分における盛土は、高さ一・三六三ないし一・五六五メ
ートルで、宅造法の適用を受ける盛土にあたる。
また、本件開発地のうち、がけ地部分における盛土は、前記のとおり宅造法に違反
するものである上、右工事は本件工事完了届が提出された後の昭和六二年一月一八
日に完了したものである。
(2) 被告松戸市長は、本件開発工事のうち、本件開発許可処分の内容に違反し
た、右のような事項について、検査の形式を整える目的で、本件開発変更許可処分
を行い、しかも、本件開発変更許可処分をするについて、事前審査も事後審査もす
ることなく、本件開発工事が本件開発許可処分及び本件開発変更許可処分の内容に
適合している旨の確認をしたものであって、それは本件開発行為の違法性を隠蔽、
糊塗した違法な検査であるから、権限の濫用であり、違法である。
(六) 本件開発工事検査済証交付処分の違法性
(1) 本件開発工事の内容が、本件開発許可処分及び本件開発変更許可処分の内
容に適合していないことは前記(五)記載のとおりである。
(2) しかるに、被告松戸市長は、本件開発工事の内容が右許可処分の内容に適
合しているかどうかの確認も検査もしないで、検査済証を交付したから、右処分は
違法である。
(七) 本件建築確認処分の違法性
(1) 敷地の安全に関する違法
本件建物は、前記のとおり、掘削したがけ地に接着して建築されるのであるから、
このような建物についての建築確認は、がけ地の地形、形質に応じて関係諸法令の
規制を検討して判断されなければならないところ、本件建築確認処分は、次のとお
り、がけ地における擁壁の設置と安全性及び構造耐力に関する法令の解釈適用を誤
ってなされたから違法である。
イ 宅造法違反
建物の建築にともなう宅地造成工事が、宅地造成工事規制区域で施行されることが
明らかな場合、建築主事は、事前許可手続をするように指導する義務を負う(建設
省通達)が、本件開発行為は前記4の(一)の(2)記載のとおり、宅造法に違反
するものであったのに、被告主事は、擁壁の設置その他安全上の措置及び構造耐力
についての同法の規準も考慮しなかった。
ロ 急傾斜地災害防止法との関係による違法本件開発地は、前記4の(一)の
(3)記載のとおり、急傾斜地崩壊危険区域の指定手続中の土地であり、建築基準
法三九条所定の災害危険区域の実体的要件を具備した敷地であるから、その敷地の
安全についての審査は、敷地の実態に即した内容でなければならないところ、本件
建築確認処分はこの点を考慮しなかった。
ハ 擁壁に関する違法
本件建物のうち、がけ地と接着している部分は、建物が擁壁となっているが、これ
は違法であるし、また、前記4の(一)の(4)記載のとおり、右擁壁には底板及
び水抜穴が設置されておらず、擁壁の厚さについての審査もされなかった。
(2) 高度制限違反
イ 本件開発地は、第一種高度地区であるが、千葉県における第一種高度地区は、
建物の各部分の高さ(地盤面からの高さ)が、当該部分から前面道路の反対側の境
界線又は隣地境界線までの真北方向の一・二五倍に五メートルを加えたもの以下
で、かつ、当該水平距離から四メートルを加えたものの〇・六倍に一〇メートルを
加えたもの以下とされている。
ロ ところが、本件の場合、実際の地盤面から一・四メートルの高さの盛土をし
て、地盤面を人工的に上げる前提で本件建物の高さを計算しているのであるが、こ
のような計算方法は建築基準法の脱法行為である。
ハ また、本件建物は、傾斜面にヒナ段状に計画されているが、四階部分は最下位
地盤面に垂直に接続しているから、四階部分の高さは最下位地盤面から計算される
ことになるのであるが、このようにして計算すると、本件建物の四階部分は第一種
高度地区の制限に違反する。
(3) 容積率違反
イ 本件接地道路の幅員は、前記の4の(一)の(6)記載のとおり、四メートル
以下であるから、本件開発地に建築される建物の容積率は一六一パーセントであ
る。
ロ しかるに、本件建築確認処分は、本件接地道路の幅員を六メートルとし、本件
建物の容積率を一八一パーセントとしてなされたから、容積率の制限を規定する建
築基準法五二条一項に違反する。
(4) 地下室設置の違法性
イ 本件建物の構造は、地上四階、地下一階であるが、地下室は面積が四九・八平
方メートル、高さが二・三五メートルで、その三分の一の部分に土盛がされること
になっている。
ロ しかしながら、地下室の本件接地道路側は、右道路に接しているため、盛土が
不可能であるし、また、建物を建築してから周囲の一部に盛土をして地下室と認定
することは、高度制限地区において高さを制限した法令の規定を脱法するものであ
る。
(5) 排水施設の違法
イ 本件開発行為が、排水施設を非自己用としてなされたこと、非自己用の排水に
ついて自然の浸透式の排水施設が禁止されていることは、前記4の(一)の(5)
記載のとおりである。
しかるに、本件建築確認処分は、自然浸透式の排水としているから違法である。
ロ また、本件建物の建築は、前記のとおり、切土と盛土を伴うものであるが、こ
のような本件建物の敷地の形質状況からみても、自然浸透式の排水施設は許され
ず、敷地の排水について規制した法令(建築基準法一九条三項、同法施行令一二九
条の二、都市計画法三三条一項三号)に違反する。
(6) 松戸市まちづくり指導要綱違反
イ 本件建物の建築も、前記4の(一)の(7)のイ、ロと同じく、環境破壊を増
進するものであり、隣接地権者との調整もとれておらず、その同意が得られていな
い。
ロ また、自然浸透式の排水施設のため、雨水、汚水による近隣の被害を拡大する
ものである。
ハ 更に、接地道路の幅員は六メートルを要するところ、本件接地道路の平均幅員
は三・五メートルしかなく、排水、下水管、下水溝の設備についての対策及び火
災、災害等に際しての避難、通行上の安全についての対策もなされていない。
ニ 以上から、本件建築確認処分は松戸市まちづくり指導要綱に違反し、違法であ
る。
(八) 本件建物適合確認処分の違法性
本件建物適合確認処分は、次の点において違法である。
(1) 前記4の(五)の(1)のロ記載のとおり、本件開発地のうち、原告H所
有地に接する部分に築造された擁壁は、高さ二メートルを超えるものであるから、
その築造については建築確認を要する(建築基準法八八条、同法施行令一三八条一
項五号)ところ、本件建築確認処分においては、擁壁の高さが一・四メートルとさ
れていたため、建築確認を要する工作物の対象とされず、建築確認がなされなかっ
た。
しかるに、被告主事は、原告らの指摘を無視して建築確認に関する検査をしない
で、建築確認検査済証を発行、交付したが、建築確認を要する工作物の築造を、そ
の対象から除外してなされた本件建物適合確認処分は無効であり、権限の濫用であ
る。
(2) 本件開発地のうち、がけ地部分の盛土工事については、前記のとおり、建
築確認も検査もなされなかった。
(3) 本件建築確認処分においては、本件建物と切上部分が接する底辺部分に、
延長五七・七メートルの本件浸透管が埋設されることになっていたが、これが埋設
されないまま、工事完了届が提出された。
しかるに、被告主事は、この事実を知りながら、これを隠蔽、糊塗し、検査もしな
いで、本件建築確認処分の内容に適合する旨の処分をしたのであり、権限の濫用で
ある。
(4) なお、本件建物に対する本件建築確認処分の内容が違法であることは、前
記のとおりである。
(九) 本件建物検査済証交付処分の違法性
前記4の(八)記載のとおり、本件開発地と原告H所有地との間に設置された擁壁
及び本件開発地のうち、がけ地部分の盛土工事については、いずれも建築確認も検
査もなされておらず、また、本件建物の底辺部分に設置されるべき本件浸透管につ
いては、検査がなされなかったから、本件建物検査済証交付処分は違法である。
(一〇) 本件裁決の違法性
(1) 審理不尽の違法
本件裁決には、次のとおり、判断を脱漏し、また、審理を尽くさなかった違法があ
る。
イ がけ地部分の安全性に関する判断脱漏
(a) 被告審査会は、がけ地の掘削工事が、前記4の(一)の(2)記載のとお
り、宅地造成工事であるのに、これを基盤工事のための地盤の掘削を意味する「根
切り」であると重大な誤認をした結果、建築物と擁壁との安全性に関する判断を脱
漏した。
(b) 前記4の(一)の(4)記載のとおり、本件建物のうち、建物が擁壁とな
っている部分については、底板も水抜穴も設置されていないのに、この点について
の判断を脱漏した。
(c) 前記4の(四)の(4)のロ及び同4の(1)のイ記載のとおり、本件開
発許可処分において設置されることになっていた本件浸透管の設置が、廃止され、
設置されなかったが、この点及びこれが廃止されることによって生ずるがけ地の崩
壊等の危険性についての判断を脱漏した。
ロ 原告H所有地との間の擁壁及びその敷地部分についての判断の脱漏
(a) 前記4の(五)の(1)のロ及び同4の(ハ)の(1)記載のとおり、右
擁壁は建築確認を要する工作物であるのに、被告審査会は、原告らのこの点につい
ての申立を無視し、また、検証の申立も無視して、審理を尽くさないまま本件裁決
をした。
(b) 右擁壁の構造耐力についての自重、積載荷重、土庄、水圧、地震その他の
振動及び衝撃に対しての完全性に関する判断並びに右擁壁が構造計算によって安全
であるか否かについての審査を脱漏した。
(c) 右擁壁の敷地について、盛土や地盤の改良その他衛生上または安全上必要
な措置を講じたか否かについての判断及び同地における雨水、下水管、下水溝、溜
めます等の施設並びに盛土部分のがけ崩れ防止のための擁壁の設置、その他安全上
適当な措置を講じたか否かについての判断を脱漏した。
ハ 本件建物に関する判断の脱漏
(a) 前記4の(七)の(2)記載の高度制限の基準となる実際地盤面に関する
判断を脱漏した。
(b) 前記4の(七)の(3)記載の本件建物の容積率算定に関する本件接地道
路についての判断を脱漏した。
(c) 前記4の(七)の(4)記載のとおり、地下室と認められない建物部分を
地下室と判断した。
(d) 前記4の(七)の(5)記載のとおり、非自己用の場合、自然浸透式排水
施設は禁止されているのに、この点についての判断を脱漏した。
(2) 理由付記、理由不備の違法
イ 本件接地道路に関する判断
(a) 被告審査会は、本件裁決において、本件接地道路の幅員につき、「平均
三・五六メートルであるとの請求人(原告ら)の主張は認められない」と判断し
た。
しかしながら、右道路の幅員が三・五六メートルであることは、松戸市が千葉地方
裁判所松戸支部昭和六一年(ワ)一〇五号事件において、裁判上主張していること
であるのに、何らの理由も付さないでこれを否定したことは、重大な事実誤認であ
る。三・五六メートルを基準とすると、本件建物の延べ面積は建築基準法五二条一
項に違反し、違法となる。
(a) 原告らが、建築基準法四二条二項の規定する道路には、将来の道路予定地
は入らず、その道路幅員の制限は自己の敷地と接する部分だけでは足らず、「相当
区間」にわたり、しかも、その一端が他の幅員の大きな道路に連続していなければ
ならないと主張したのに、被告審査会は、この点についての判断を故意に避け、理
由を付さなかった。
(c) 被告審査会が、右のように、本件接地道路に関する原告らの主張を否定
し、故意に判断を避け、理由を付さなかったのは、本件建物の延べ面積が違法であ
ることを隠蔽するためであった。
ロ 本件建物の敷地に関する判断
建築確認の対象は、建築物に限定されず、敷地も含まれる。
被告審査会は、原告らの敷地に関する違法事実の指摘中、宅造法との関係のみにつ
いて、申請棄却の理由を付記するにとどめ、建築基準法に関する事項については何
らの理由を付記しなかった。
ハ 以上のとおり、本件裁決には理由付記、理由不備の違法がある。
5 審査請求
(一) 原告らは、昭和六一年一月一四日、本件開発許可処分のあったことを知
り、同年三月七日、訴外千葉県開発審査会に対し、右処分の取消しを求める審査請
求をしたが、右審査請求の日から三か月を経過しても裁決がなされなかった。
(二) 原告らは、本件建築確認処分について、前記2の(三)記載のとおり、審
査請求をしたが、棄却の裁決がなされた。
6 よって、原告らは被告らに対し、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。
二 被告らの本案前の主張
(被告松戸市長)
1 本件開発許可処分、本件地位承継承認処分、本件建築承認処分、本件開発変更
許可処分の取消しを求める訴えについて
(一) 行政事件訴訟法九条に定める原告適格の要件である「法律上の利益」は、
行政法規が私人等権利主体としての個人的利益を保護することを目的として、行政
権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であって、行政法規が
他の目的、特に公益の実現を目的として、行政権の行使に制約を課している結果、
たまたま一定の者が受けることとなる反射的利益とは区別されるべきものである。
都市計画法の定める開発許可及びその変更、開発許可に基づく地位承継、工事完了
公告前の建築に関する規定は、公共の利益の実現、特定承継人の便宜等を目的とし
たものであって、当該開発区域の周辺に居住する住民の権利若しくは具体的利益を
直接保護することを目的とするものではないから、本件の場合、原告らは前記目的
の結果として生ずる反射的利益を有するに過ぎず、右各処分の取消しを求める訴え
の原告適格を有しないというべきである。
(二) 都市計画法二九条に基づく開発許可処分及びその変更許可処分の取消しを
求める訴えの利益は、右許可にかかる工事が完了したときには失われると解すべき
であるところ、本件開発工事は、昭和六二年一月一六日ころ完了したから、右訴え
の利益は失われたというべきである。
そして、これに伴い、本件地位承継承認処分及び本件建築承認処分の各取消しを求
める訴えの利益も失われたと解すべきである。
2 本件開発工事適合確認処分の取消しを求める訴えについて
原告らが主張するような、開発許可及び開発変更許可にかかる工事が、当該許可の
内容に適合している旨を確認する行政処分なるものは存在しないから、その取消し
を求める訴えは不適法である。
3 本件開発工事検査済証交付処分の取消しを求める訴えについて
(一) 前記1の(一)記載のとおり、原告らは本件開発許可処分及び本件開発変
更許可処分の取消しを求める訴えについて原告適格を有しないから、同様に、本件
開発工事検査済証交付処分の取消しを求める訴えについても、原告適格を有しない
というべきである。
(二) 都市計画法三六条二項の規定による開発行為に関する工事の検査済証の交
付は、開発行為に関する工事が、開発許可の内容に適合していることを公権的に判
断する行為であって、検査済証の交付を受け、かつ、同条三項の公告の間は、原則
として建築物を建築することができないという法的効果が付与されている。
しかしながら、同法は、建築物が建築され、その使用が開始された後においては、
たとえその使用が違法であっても、都道府県知事(又は知事からその権限に属する
事務を委任された市長)は、専ら同法八一条一項の規定による是正命令により、そ
の使用を禁止し、又は制限することができるものとしている。そして、知事が、右
の是正命令を発するかどうか、いかなる種類内容の是正命令を発するかは、専ら知
事の裁量にゆだねられているのであるから、判決で検査済証の交付が違法として取
消されても、右の是正命令を発すべき法的拘束力が生ずるものではない。したがっ
て、建築物の使用が開始された後においては、検査済証の交付の取消しを求める訴
えの利益は失われるものというべきである。
本件建物には、昭和六二年一月三一日から同年三月二八日までの間に、建築主が全
員入居し、その使用が開始されたから、原告らの本件開発工事検査済証交付処分の
取消しを求める訴えの利益は失われたものといわなければならない。
(被告主事)
1 本件建築確認処分の取消しを求める訴えについて
建築基準法六条三項に基づく建築主事の建築確認処分の取消しを求める訴えの利益
は、建築確認にかかる建築物の建築工事が完了した場合には失われるものと解すべ
きである(最高裁判所第二小法廷昭和五九年一〇月二六日判決)。
本件建築確認処分の対象である本件建物は、昭和六二年一月一七日、その建築工事
が完了したから、右処分の取消しを求める訴えの利益は失われたものと解するのが
相当である。
2 本件建物適合確認処分の取消しを求める訴えについて
原告らが主張するような、建築確認にかかる工事が、建築確認の内容に適合してい
る旨を確認する行政処分なるものは存在しないから、その取消しを求める訴えは不
適法である。
3 本件建物検査済証交付処分の取消しを求める訴えについて
(一) 右訴えは、処分についての審査請求に対する裁決を経ていないから不適法
である。
(二) 建築基準法七条三項による検査済証の交付は、工事が完了した建築物及び
敷地が建築関係法規に適合していることを公権的に判断する行為であって、同法六
条一項一号ないし三号の場合には、それを受けなければ原則として当該建築物の使
用を開始することができないという法的効果が付与されている。
しかしながら、当該建築物の使用がすでに開始された後においては、たとえその使
用が違法な場合であっても、その使用を禁止し、又は制限するのは、専ら同法九条
一項による特定行政庁の是正命令によることとされており、特定行政庁が右の是正
命令を発するかどうか、いかなる種類内容の是正命令を発するかは、専ら特定行政
庁の裁量にゆだねられているから、判決で検査済証の交付が違法として取消されて
も、右の是正命令を発すべき法的拘束力を生ずるものではない。
したがって、建築物の使用が開始された後においては、検査済証の交付の取消しを
求める訴えの利益は失われるものというべきである。
本件建物は、被告松戸市長の主張するとおり、昭和六二年三月二八日までの間に、
建築主が全員入居し、その使用が開始されたから、原告らの本件建物検査済証交付
処分の取消しを求める訴えの利益は失われたものというべきである。
(被告審査会)
建築確認にかかる建築物の建築工事が完了した場合には、建築確認処分の取消しを
求める訴えの利益が失われると解すべきところ、本件建物の建築工事が、昭和六二
年一月一七日、完了したことは、被告主事の主張のとおりである。
仮に、本件建物の建築工事が、右の日に完了しなかったとしても、遅くとも同年二
月四日には完了した。
そして、建築確認処分の取消しを求める訴えの利益が失われた以上、右処分の審査
請求に対する裁決の取消しを求める訴えの利益も失われたことは当然である。
よって、被告審査会に対する訴えは不適法である。
三 被告らの本案前の主張に対する反論
1 行政事件訴訟法九条に定める「法律上の利益」とは、法律の保護している利益
に限らず、法律上の保護に値する利益をも含むものである。
本件訴訟によって護られるべき原告らの法的利益は、被告らのなした違法行政処分
により作出された不法状態を排除することによって回復されるべき法的地位ないし
可能性をもって足りる。
請求の趣旨記載の各行政処分が違法であることは、請求原因記載のとおりであり、
これらの行政処分に起因する本件開発行為および本件建築工事により、原告らは、
住居や諸施設が、現に破壊されており、また、がけ崩れ、鉄砲水、擁壁倒壊等の危
険にさらされているから、右各処分の取消しを求める法律上の利益を有する。
2 都市計画法一条、三三条一項二号、三号、七号、建築基準法一条、一九条三
号、二〇条、三九条、五八条、五二条、五三条、宅造法一条、三条、八条、一二
条、一五条一項、一六条の規定やその他関連法規を含も法体系全体を考慮に入れる
と、都市計画法、建築基準法、宅造法の右諸規定は、単に環境上の利益を一般的公
益として保護するだけにとどまらず、著しい利益侵害(ないしはそのおそれ)があ
る場合には、その被侵害者個々人の個別的利益を保護しているものと理解されるべ
きである。
本件の場合、急傾斜地において前記諸法規に明白に違反した宅地造成並びに建築が
行われたのであり、それらの工事によって、地盤崩壊の危険性が極端に高まり、原
告らの生命、身体、財産が著しい危険にさらされているから、都市計画法、建築基
準法、宅造法の前記のような諸規定は、原告らに原告適格を認めていると理解する
べきである。
更に、原告らの所有、居住する土地は、いずれも本件開発、造成、建築の土地に隣
接若しくは近接しており、周辺住民の中でも最も被害を受けやすい立場にあるか
ら、被告らの本件各処分によって地盤崩壊の高度の危険性を伴う工事が可能とされ
た以上、原告らの生命、身体、財産が著しい危険にさらされたというべきであり、
原告らの原告適格は承認されるべきである。
四 請求原因の認否
(被告松戸市長)
1 請求原因1の(一)ないし(三)のうち、原告Gが別紙物件目録三の二記載の
土地を所有していることは否認するが、その余の事実は認める。
2 同2の(一)のうち、原告の主張する本件開発工事適合確認処分が行政処分で
あることは争うが、その余の事実は認める。
3 同3のうち、(一)、(三)、(五)の事実は認める。
同3の(二)のうち、擁壁の上端から上部の状況については否認するが、その余の
事実は認める。右擁壁上の本件開発地内のがけの高さは二ないし一〇・五メート
ル、勾配は約四二度であり、その上の国有地のがけの高さは一ないし九・五メート
ルである。
同3の(四)のうち、掘削の範囲は否認するが、その余の事実は認める。掘削の深
さは最高約五・三メートルである。
4 同4の(一)の(1)のうち、原告ら主張の三名が申請者の地位を脱退してい
たこと、本件開発許可処分が無効であることは否認するが、その余の事実は認め
る。
同4の(一)の(2)のうち、イ、ロは認めるが、ハ、ニは争う。本件の場合は、
宅造法二条二号の宅地造成にあたらない。
同4の(一)の(3)はいずれも争う。
同4の(一)の(4)のうち、本件建物が掘削したがけ面に密着して建てられてい
ること、水抜穴が設置されていないことは認めるが、その余は否認する。がけ面に
接する部分は一階と二階の一部である。
同4の(一)の(5)は争う。本件の場合、雨水について自然浸透式がとられた
が、雨水については自然浸透式が禁止されておらず(都市計画法施行令二六条三
号)、また、雨水以外の下水については、自然浸透式排水施設の計画はない。
同4の(一)の(6)のうち、道路予定地部分を含めると本件接地道路の幅員が六
メートルとなること、道路予定地部分が道路としての形態を備えていなかったこと
は認めるが、その余は争う。
本件開発地と接する本件接地道路の幅員は四・五三ないし四・九メートルである。
同4の(一)の(7)は争う。同要綱の規定は開発許可の基準とされていない。
同4の(二)のうち、原告ら主張の三名が各自の所有地を他に売却していたことは
認めるが、その余は争う。
同4の(三)のうち、(3)の事実と(4)のうち、本件開発行為が非自己用とし
てなされたこと、本件建築承認処分と本件地位承継承認処分が同時になされたこと
は認めるが、その余は争う。
同4の(四)ないし(六)は全て争う。
(被告主事)
1 請求原因1、3に対する認否は、被告松戸市長の認否と同じ。
2 同2の(二)のうち、原告の主張する本件建物適合確認処分が行政処分である
ことは争うが、その余の事実は認める。
3 同4の(七)のうち、本件建物に水抜穴が設置されていないこと、(2)のイ
(但し、それは松戸市の第一種高度地区に関することである)、本件建物の構造、
地階部分の面積、高さが原告らの主張のとおりであること、地階部分が前面道路に
接していることは認めるが、その余は争う。
地階とは、「床面積が地盤面下にある階で、床面から地盤面までの高さがその階の
天井の高さの三分の一以上のもの」をいうのであり(建築基準法施行令一条二
号)、ここにいう地盤面というのは、「建築物が周囲の地面と接する位置の平均の
高さにおける水平面」をいうのであって(同令二条二項の類推適用)、この点に関
する原告らの主張は独自のものである。
建築基準法施行令一二九条の二は、給水、排水その他の配管設備について規定して
いるのであり、排水施設について規制しているものではない。排水施設について規
制する都市計画法及び同法施行令の規定は建築主事が適合性を審査すべき法令では
ない。
また松戸市まちづくり指導要綱の規定も、建築主事が適合性を審査すべき法令に当
たらない。
4 同4の(八)(九)は全て争う。
(被告審査会)
1 請求原因2の(三)の事実は認める。
2 同4の(一〇)は全て争う。
原告らが本件裁決の取消しを求める理由として主張している事由は、すべて原処分
である本件建築確認処分の違法事由である。しかしながら、原告らは本件訴訟にお
いて、被告主事に対する右処分の取消しを求める訴えを提起しているのであるか
ら、行政事件訴訟法一〇条二項によりこのような違法事由を理由として本件裁決の
取消しを求めることはできない。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 原告もの主張する行政処分のうち、本件開発工事適合確認処分及び本件建物適
合確認処分を除く、その余の各行政処分がなされたことについては、当事者間に争
いがない。
二 原告らは、本件開発工事適合確認処分及び本件建物適合確認処分が審査請求及
び行政訴訟の対象となる行政処分に該当すると主張するので、まずこの点について
検討する。
1 本件開発工事検査済証及び本件建物検査済証が、交付されたことについては当
事者間に争いがない。
2 都市計画法三六条一項、二項によれば、開発許可を受けた者は、当該開発行為
に関する工事を完了したときは、建設省令で定めるところにより、その旨を知事に
届け出なければならず(同条一項)、知事は右の届出があったときは、遅滞なく、
当該工事が開発許可の内容に適合しているかどうかについて検査し、その検査の結
果、当該工事が当該開発許可の内容に適合していると認めたときは、建設省令で定
める様式の検査済証を当該開発許可を受けた者に交付しなければならないこととさ
れている(同条二項)。
したがって、当該工事が当該開発許可(開発変更許可を含も、以下同)の内容に適
合しているかどうかについての知事(その委任を受けた市長)の検査の結果は、検
査済証の交付又はその拒否という形式で外部に表示されるのであるから、当該工事
が当該開発許可の内容に適合しているかどうかを確認することは、内部的な行為で
あり、独立の行政処分には該当しないというべきである。
3 また、建築基準法七条一項ないし四項によれば、建築主は、当該建築工事を完
了したときは、その旨を建築主事に届け出なければならず(同条一項)、建築主事
又はその委任を受けた市町村若しくは都道府県の吏員は、届出に係る建築物及びそ
の敷地が同法六条一項の法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合してい
るかどうかを検査しなければならないのであり(同条二項)、その検査の結果、こ
れが適合していることを認めたときは、建築主に対して建設省令で定める様式の検
査済証を交付しなければならないこととされている(同条三、四号)。
したがって、建築主事(又はその委任を受けた吏員)は、工事完了の届出に係る建
築物及びその敷地が同法六条一項の法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定に
適合しているかどうかを検査するのであって、当該建築物が建築確認の内容に適合
しているかどうかの検査をする訳ではなく、また、その検査の結果は検査済証の交
付又はその拒否という形式で外部に表示されるのであるから、当該建築物が建築確
認の内容に適合している旨の独立の行政処分を行う訳ではないのである。
4 以上のとおりであるから、原告らの主張する本件開発工事適合確認処分及び本
件建物適合確認処分は、いずれも行政訴訟の対象となる行政処分に該当しないとい
うべきである。
よって、右各適合確認処分の取消しを求める訴えは、その余の点について判断する
までもなく、いずれも不適法であり、却下を免れない。
三 次に、本件訴えの原告適格及び訴えの利益について検討する。
1 本件開発許可処分、本件開発変更許可処分、本件建築承認処分の取消しを求め
る訴えの利益について
(一) 都市計画法によれば、市街化区域又は市街化調整区域内において、主とし
て建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行う土地の区画形質の変
更(開発行為)をしようとする者(開発行為者)は、あらかじめ建設省令で定める
ところにより、都道府県知事の許可(開発許可)を受けなければならないとされ
(同法二九条)、開発許可を受けないで開発行為をした者は処罰される(同法九二
条三号)ほか、建築基準法六条一項の建築主事の確認が受けられず、建築物等の建
築ができないことになる(建築基準法六条一項、八八条一項)。
そして、開発許可を受けた者は、当該開発行為に関する工事を完了したときは、前
示のとおり、その旨を都道府県知事に届け出なければならず(都市計画法三六条一
項)、都道府県知事は、右の届出があったときは、遅滞なく、当該工事が開発許可
の内容に適合しているかどうかについて検査し、適合していると認めたときは、検
査済証を開発許可を受けた者に交付し(同条二項)、右検査済証を交付したとき
は、遅滞なく、当該工事が完了した旨を公告しなければならないこととされており
(同条三項)、開発許可を受けた区域内においては、右の公告があるまでの間は、
建築物の建築等をしてはならず(同法三七条、ただし、都道府県知事が支障がない
と認めたとき等同条所定の事由があるときはこの限りではない)、右の公告があっ
た後は、当該開発許可に係る予定建築物以外の建築物等を建築してはならないとさ
れている(同法四二条一項)。
なお、建設大臣又は都道府県知事は、同法若しくは同法に基づく命令の規定に基づ
く処分に違反した者等に対して、開発許可等の取り消し、変更、工事の停止、建築
物の除去等違反を是正するため必要な措置をとることを命ずることができることと
されている(同法八一条)。
(二) これら一連の規定に照らすと、都市計画法二九条の開発許可(開発変更許
可を含む、以下同)は、当該開発行為の内容が関係法規に適合していることを公権
的に判断する行為であって、それを受けなければ当該開発行為に関する工事をする
ことができないという法的効果が付与されているものと解することができる。
なお、開発工事に関する検査済証は、当該工事が完了した後、それが開発許可の内
容に適合しているかどうかを基準として交付されることとされているから、もし検
査済証が交付される以前に、開発許可処分が判決により取消されれば、検査済証の
交付は拒否されることになると解せられるけれども、当該工事が完了し、検査済証
が交付された後に、これが判決により取消されたとしても、違反是正の命令を発す
るかどうか、どのような種類内容の命令を発するかについては建設大臣又は都道府
県知事の裁量にゆだねられているから、これらについて法的拘束力が生ずるものと
は解せられない。
そうだとすると、当該開発許可に係る工事が完了し、検査済証が交付されたとき
は、開発許可処分の取消しを求める訴えの利益は失われたものと解するのが相当で
ある。
(三) また、前示のとおり、同法三七条一号によれば、開発許可を受けた開発区
域内においては、開発許可に係る工事完了の公告があるまでの間は、建築物の建築
等をしてはならないこととされ、ただし、知事が支障がないと認めたときはこの限
りでないとされているから、右の知事の承認があった場合には、工事完了公告の以
前においても建築物の建築等をすることができることになる。したがって、この知
事の承認は、それを受けなければ建築物の建築等をすることができないという法的
効果が付与されているということができるが、当該承認に係る建築物の建築等の工
事が完了した後においては、たとえその建築物の建築等が違反であったとしても、
その違反に対してはこれを是正する命令によって対処しようとしているものと理解
される。
しかしながら、その命令を発するかどうかは建設大臣又は都道府県知事の裁量にゆ
だねられているのであって、同法三七条一号の知事の承認の存在が、これを発する
上において法的障害となるものではなく、また、たとえ右知事の承認が違法である
として判決で取消されたとしても、右是正の命令を発すべき法的拘束力が生ずるも
のでもない。
したがって、承認に係る建築物の建築工事等が完了したときは、右知事の承認処分
の取消しを求める訴えの利益は失われると解するのが相当である。
(四) これを本件についてみるに、成立に争いのない丙第三、五号証、松戸市事
務吏員が昭和六二年一月三〇日撮影した本件開発地付近の写真であることについて
争いのない丙第六号証の一ないし一七、同市技術事務吏員が同年六月八日及び同月
一六日撮影した本件建物の写真であることについて争いのない丁第二号証の一ない
し七、真正な公文書と推定すべき乙第二号証(丁第三号証)、丙第四、七号証、公
署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については弁論の全趣旨に
より成立の認められる丁第一号証によれば、本件開発許可処分の対象である本件開
発地の開発行為については、開発行為者から被告松戸市長に対して、昭和六二年一
月一六日、工事完了届が提出され、被告松戸市長から命令を受けた松戸市吏員が同
月一九日検査を行い、一部指示事項を指示した後、同月一九日、同年二月三日にそ
れぞれ再度検査をした結果、工事が完了したことを確認し、また、開発許可の内容
に適合していることを認め、同月四日、開発行為者に対して検査済証を交付したこ
と、本件建築確認処分の対象である本件建物について、建築主から被告主事に対し
て昭和六二年一月二二日工事完了届が提出され、被告主事から委任を受けた松戸市
吏員が同月二六日、二九日、同年二月三日、同月四日にそれぞれ検査した結果、工
事が完了したことを確認し、また、法令等の規定に適合していることを認め、同月
四日建築主に対して検査済証を交付したこと、その後、本件建物に入居者が入居
し、使用に供されたことが認められる。
右事実によれば、本件開発許可処分及び本件開発変更許可処分に係る本件開発行為
は、既にその工事が完了し、検査済証が交付されたから、原告らが右各処分の取消
しを求める訴えの利益は失われたものというべきである。
また、右事実によれば、本件建築承認処分の対象である本件建物の建築工事も既に
完了したから、原告らの右処分の取消しを求める訴えの利益も失われたといわざる
を得ない。
よって、右各訴えは、いずれも却下を免れない。
2 本件地位承継承認処分の取消しを求める訴えについて
都市計画法四五条によれば、開発許可を受けた者から当該開発区域内の土地の所有
権その他当該開発行為に関する工事を施行する権原を取得した者は、都道府県知事
の承認を受けて、当該開発許可を受けた者が有していた当該開発許可に基づく地位
を承継することができることとされている。これによれば、右の知事の承認は、開
発許可に基づく地位を承継させる効果が付与されているだけであるから、右処分に
より原告らの権利若しくは法律上保護された利益が侵害され又は必然的に侵害され
るおそれがあるとはいえない。
したがって、原告らは、右の承認処分の取消しを求める訴えについて、行政事件訴
訟法九条に定める、当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」
に当たらず、その原告適格を有しないから、本件地位承継承認処分の取消しを求め
る訴えは不適法であって、却下を免れない。
3 本件開発工事検査済証交付処分の取消しを求める訴えの利益について
前示の都市計画法の規定によれば、同法三六条二項の検査済証の交付は、当該工事
が当該開発許可の内容に適合していることを公権的に判断する行為であって、それ
が交付されなければ、当該工事の完了公告がなされず、予定建築物の建築等もでき
ないという法的効果が付与されているということができるが、予定建築物の建築工
事が完了した後においては、たとえそれが違法であったとしても、それについては
これを是正する命令によって対処しようとしているものと理解される。
しかしながら、その命令を発するかどうかは建設大臣又は都道府県知事の裁量にゆ
だねられているのであって、検査済証の交付の存在がこれを発するうえにおいて法
的障害となるものではなく、また、たとえ検査済証が違法であるとして判決で取消
されたとしても、右是正の命令を発すべき法的拘束力が生ずるものでもない。
したがって、予定建築物の工事が完了したときは、右検査済証の交付処分の取消し
を求める訴えの利益は失われると解するのが相当である。
本件の場合、前示の事実によれば、本件開発許可処分に係る開発地については、千
葉県知事の委任を受けた被告松戸市長が、都市計画法三七条一号の開発工事の完了
公告前の本件建築承認処分をした後、本件建物の建築工事が開始され、これが昭和
六二年二月四日完了したのであるから、これにより本件開発工事検査済証交付処分
の取消しを求める訴えの利益は失われたものというべきである。
よって、右訴えも却下を免れない。
4 本件建築確認処分の取消しを求める訴えの利益について
建築基準法によれば、建築主は、同法六条一項の建築物の建築等の工事をしようと
する場合においては、当該工事に着手する前に、その計画が当該建築物の敷地、構
造及び建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合するも
のであることについて、建築主事の確認を受けなければならず(同法六条一項)、
建築確認を受けない建築物の建築等の工事はすることができないものとされ(同条
五項)、また、建築主は、工事を完了した場合においては、その旨を建築主事に届
け出なければならず(同法七条一項)、建築主事が右の届出を受理した場合におい
ては、建築主事等は建築関係規定に適合しているかどうかを検査し(同条二項)、
適合していることを認めたときは、建築主に対し検査済証を交付しなければならな
いものとされ(同条三項)、そして、特定行政庁は、建築基準法又はこれに基づく
命令若しくは条例の規定に違反した建築物又は建築物の敷地については、建築主等
に対し、当該建築物の除却その他これらの規定に対する違反を是正するために必要
な措置をとることを命ずることができるとされている(同法九条一項)。
これらの一連の規定に照らせば、建築確認は、建築基準法六条一項の建築物の建築
等の工事が着手される前に、当該建築物の計画が建築関係法規に適合していること
を公権的に判断する行為であって、それを受けなければ右工事をすることができな
いという法的効果が付与されており、建築関係規定に違反する建築物の出現を未然
に防止することを目的としたものということができるが、右工事が完了した後にお
ける建築主事の検査は、当該建築物及びその敷地が建築関係規定に適合しているか
どうかを基準とし、同じく特定行政庁の違反是正の命令は、当該建築物及びその敷
地が建築基準法並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合しているかどうかを
基準とし、いずれも当該建築物及びその敷地が建築確認に係る計画どおりのもので
あるかどうかを基準とするものでない以上、違反是正の命令を発するかどうかは、
特定行政庁の裁量にゆだねられているから、建築確認の存在は、検査済証の交付を
拒否し又は違反是正の命令を発する上において法的障害となるものではなく、ま
た、たとえ建築確認が違法であるとして判決で取り消されたとしても、検査済証の
交付を拒否し又は違反是正の命令を発すべき法的拘束力が生ずるものではないか
ら、建築確認は、それを受けなければ右工事をすることができないという法的効果
を付与されているにすぎないものというべきであり、当該工事が完了した場合にお
いては、建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われるというべきである(最高
裁判所昭和五九年一〇月二六日第二小法廷判決・民集三八巻一〇号一一六九頁参
照)。
前示の事実によれば、本件建築確認処分に係る本件建物は、既にその工事が完了し
たのであるから、原告らが右処分の取消しを求める訴えの利益は失われたものとい
うほかはない。
5 本件建物検査済証交付処分の取消しを求める訴えの利益について
前示の建築基準法の規定によれば、同法七条三項の検査済証の交付は、当該工事が
完了した建築物及びその敷地が建築関係法規に適合していることを公権的に判断す
る行為であって、それが交付されなければ、当該工事完了に係る建築物の使用を開
始することができないという法的効果を付与されているものということができる
が、当該建築物の使用が開始された後においては、たとえその使用の開始が違法で
あったとしても、それについては違反を是正する命令によって対処しようとしてい
るものであると理解される。
しかしながら、その命令を発するかどうかは特定行政庁の裁量にゆだねられている
のであって、検査済証の交付の存在がこれを発する上において法的障害となるもの
ではなく、また、たとえ検査済証の交付が違法であるとして判決で取り消されたと
しても、右の違反是正の命令を発すべき法的拘束力が生ずるものでもない。
したがって、当該建築物の使用が開始されたときは、右検査済証の交付処分の取消
しを求める訴えの利益は失われると解するのが相当である。
これを本件についてみるに、前掲の丁第二号証の一ないし七と弁論の全趣旨によれ
ば、本件建物は昭和六二年六月ころにはその使用が開始されたことが認められるか
ら、これにより原告らが本件建物検査済証交付処分の取消しを求める訴えの利益は
失われたものといわざるを得ない。
6 本件裁決の取消しを求める訴えの利益について
建築確認処分取消しの訴えにおいて、当該建築確認に係る建築物等の工事が完了し
たときは、右の訴えの利益は失われると解すべきであることは前記説示のとおりで
あるが、このことは建築確認処分に対する裁決の取消しを求める訴えについても同
様に解すべきである。すなわち、建築確認処分に対する審査請求を棄却した裁決の
取消しを求める訴えも、結局は、建築確認処分の取消しを求める趣旨であるから、
当該建築確認に係る建築物等の工事が完了したときは、たとえ建築確認処分に対す
る審査請求を棄却した裁決が、違法であるとして判決により取り消されたとして
も、右工事が完了した以上、建築確認処分の取消しを求める実益がないからであ
る。
したがって、建築確認に係る建築物等の工事が完了したときは、当該建築確認処分
に対する裁決の取消しを求める訴えの利益も失われると解するのが相当である。
本件の場合、本件建築確認にかかる本件建物の建築工事が昭和六二年二月四日、完
了したことは前示のとおりであるから、これにより、本件裁決の取消しを求める訴
えの利益も失われたと解すべきである。
四 以上の次第で、原告らの被告らに対する本件各訴えは、その余の点について判
断するまでもなく、不適法または原告適格若しくは訴えの利益を欠き、いずれも失
当であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七
条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 村田長生 春日通良 本間健裕)
別紙行政処分目録、物件目録、図面(省略)一

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