弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、上告人の敗訴部分を破棄する。
     前項の部分につき、被上告人らの控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人藤井俊彦、同並木茂、同横山匡輝、同前田順司、同北野節夫、同森脇
勝、同堀江憲二、同末永紘一、同長谷川哲、同松下邦男、同谷山幸雄、同田林均、
同石山利夫、同大重五男の上告理由第一点について
 一 原審が適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 (一) 被上告人B1(以下「被上告人B1」という。)は、昭和二四年二月一四
日、鹿児島県鹿児島郡a村b(現在、鹿児島市b町)cの山林中において、同山林
中で発見された三個の不発油脂焼夷弾の処理作業に伴う山林の防火活動に従事して
いたものであるが、その際、右不発弾の一個が同人の至近距離で突然爆発し、燃焼
した油脂を顔面その他身体前面部全体に浴びて重傷を負った(以下「本件事故」と
いう。)。(二) 右不発弾の処理は、国の公権力の行使に当たる公務員である国家
地方警察鹿児島地区警察署西桜島派出所勤務、同警察署二俣派出所補勤の巡査T(
以下「T巡査」という。)又はその要請を受けた米軍小倉弾薬処理班の将兵二名が
その職務として行ったものであり、前記山林の防火活動は、T巡査の出動要請を受
けたa消防分団b分団長Uの求めに応じて消防団員でない被上告人B1がb部落の
消防団員約二〇名と共に参加したものであった。(三) 右不発弾の処理作業は、米
兵が不発弾の露出部分に爆薬を詰めて爆破装置により爆発させる方法をとり、爆破
の際は全員が不発弾から五、六〇メートル離れた箇所に避難して行われた。このよ
うな方法で二個の不発弾の処理作業は終わったが、三個目の不発弾に前記爆破装置
を付けて爆発させようとしたところ爆発せず、不発弾の胴体が割れ、そこから火が
出て燻焼し、山火事の発生のおそれがある状況であったので、T巡査らの指図で被
上告人B1や消防団員らが右不発弾にスコップで砂をかぶせる作業をした。ところ
が、その作業が終わると同時に不発弾が突然爆発して本件事故が発生した。(四) 
本件事故は、不発弾の爆発による人身事故等の発生を未然に防止すべき義務を負っ
ていたT巡査が、被上告人B1ら消防団員に燻焼し続ける極めて危険な不発弾にス
コップで砂をかぶせる作業をさせる等した過失により発生したものである。(五) 
本件事故の結果、被上告人B1は、全身の火傷に丹毒症を併発し、約六か月間入院
加療して漸く一命をとりとめたものの、現在、顔面全体の瘢痕、高度の醜貌、左無
眼球、右眼視力の極度の低下、両耳の難聴、瘢痕性萎縮による左肘関節の伸展位の
固定等の後遺症がある。(六) 上告人は、昭和二四年八月から同年一二月までの間、
四回にわたり療養見舞金として合計五万二三九〇円、同年一一月に療養費として四
万五〇六〇円、昭和二六年三月及び同二八年二月に特別補償費事故見舞金として合
計一〇万八〇〇〇円を被上告人B1に支払った。また、上告人は、昭和三七年九月
に被上告人B1に対し、連合国占領軍等の行為等による被害者等に対する給付金の
支給に関する法律(昭和三六年法律第二一五号)に基づく障害給付金として一三万
円、休業給付金として七五〇〇円を支払い、同四二年一二月には同法(昭和四二年
法律第二号による改正後のもの)に基づき、被上告人B1に対し特別障害給付金と
して一八万四〇〇〇円、同人の妻である被上告人B2(以下「被上告人B2」とい
う。)に対し障害者の妻に対する支給金として七万五〇〇〇円を支払った。(七) 
被上告人B1及び同B2は、上告人に対し、本件事故発生の日から二八年一〇か月
余を経過した昭和五二年一二月一七日、国家賠償法一条に基づき、本件事故による
損害の賠償を求めて本訴を提起した。
 二 原審は、以上の事実関係のもとにおいて、次の理由により、被上告人らは、
上告人に対し、国家賠償法一条に基づき、損害賠償請求権(以下「本件請求権」と
いう。)を有するとした上、被上告人らの請求は、被上告人B1につき慰謝料五〇
〇万円、被上告人B2につき慰謝料二五〇万円及び右両名に対しそれぞれ右各金員
に対する訴状送達の日の翌日である昭和五三年一月六日から完済まで年五分の割合
による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきものであり、被上告人らの請求
を全部棄却した第一審判決は右のとおり変更すべきである旨判決した。
 1 本件事故は国の公権力の行使に当たるT巡査らがその職務を行うにつき過失
によって被上告人らに損害を加えたものであり、上告人は、被上告人らに対し、国
家賠償法一条により本件事故による損害を賠償する責任がある。
 2 上告人は、本件事故発生の日から本訴提起の日まで二八年一〇か月余を経過
しており、本件請求権は民法七二四条後段に規定する二〇年の除斥期間の経過によ
り消滅した旨を主張するが、同条後段の二〇年の期間は、同条の規定の文言、立法
者の説明、三年の短期時効に対する補充的機能、時効の中断、停止、援用を認めな
いと被害者に極めて酷な場合が生ずること等に照らし消滅時効を定めたものと考え
るべきであり、仮に、これを除斥期間と解するとしても、被害者保護の観点から中
断、停止を認めるいわゆる弱い除斥期間(混合除斥期間)であると解すべきである。
 3 そして、本件事故当時、上告人の被用者である前記鹿児島地区警察署係員ら
において上告人の右損害賠償義務を知り、又は容易に知りうべかりし状況にあった
上、右事故直後、同警察署長名で本件事故の責任の所在を不明確にしたと認められ
る被害調査書が作成されたこと、被上告人らは、本件事故後、鹿児島市役所、鹿児
島県庁等上告人の出先機関等に何度となく被害の救済を求めており、権利の上に眠
る者とはいえないこと等原判示の事情を総合すると、上告人が本訴において被上告
人らの本件請求権につき二〇年の長期の消滅時効を援用し、又は前記除斥期間の徒
過を主張することは信義則に反し、権利の濫用として許されない。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
 民法七二四条後段の規定は、不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期
間を定めたものと解するのが相当である。けだし、同条がその前段で三年の短期の
時効について規定し、更に同条後段で二〇年の長期の時効を規定していると解する
ことは、不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図する同条の規定の趣旨に
沿わず、むしろ同条前段の三年の時効は損害及び加害者の認識という被害者側の主
観的な事情によってその完成が左右されるが、同条後段の二〇年の期間は被害者側
の認識のいかんを問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権
の存続期間を画一的に定めたものと解するのが相当であるからである。
 これを本件についてみるに、被上告人らは、本件事故発生の日である昭和二四年
二月一四日から二〇年以上経過した後の昭和五二年一二月一七日に本訴を提起して
損害賠償を求めたものであるところ、被上告人らの本件請求権は、すでに本訴提起
前の右二〇年の除斥期間が経過した時点で法律上当然に消滅したことになる。そし
て、このような場合には、裁判所は、除斥期間の性質にかんがみ、本件請求権が除
斥期間の経過により消滅した旨の主張がなくても、右期間の経過により本件請求権
が消滅したものと判断すべきであり、したがって、被上告人ら主張に係る信義則違
反又は権利濫用の主張は、主張自体失当であって採用の限りではない。
 してみると、被上告人らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく
理由がなく、これを棄却すべきものである。しかるに、これと異なる見解に立って
本訴請求を一部認容した原判決は、民法七二四条後段の解釈適用を誤った違法があ
り、その違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点の違法
をいう論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決中、
上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、以上判示したところと結論を同じくす
る第一審判決は正当であるから、右部分に対する控訴は理由がなくこれを棄却すべ
きものである。
 よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条、九三条に従い、
裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    佐   藤   哲   郎
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    四 ツ 谷       巖
            裁判官    大   堀   誠   一

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