弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     第一審判決及び原判決を破棄する。
     被告人を懲役三月及び罰金八〇〇〇円に処する。
     但し本裁判が確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
     右罰金を完納することができないときは金二〇〇円を一日に換算した期
間被告人を労役場に留置する。
     第一審及び当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 東京高等検察庁検事長佐藤博の上告受理申立の理由及び弁護人河和松雄の答弁は
別記書面のとおりである。
 刑法五四条一項前段の一個の行為にして数個の罪名に触れる場合において、「其
最モ重キ刑ヲ以テ処断ス」と定めているのは、その数個の罪名中もつとも重い刑を
定めている法条によつて処断するという趣旨と共に、他の法条の最下限の刑よりも
軽く処断することはできないという趣旨を含むと解するを相当とする。いいかえれ
ば数個の罪について刑を定めるには、各法条中の法定刑の最上限も最下限も共に重
い刑の範囲内において処断すべきものとする趣旨である。本件において、第一審判
決が公務執行妨害の罪と傷害の罪とを刑法五四条一項前段の一所為数法の関係にお
いて処断するにあたり、もつとも重い刑を定めた傷害の罪の法条によつて処断した
のは正当であるが、公務執行妨害の罪の刑が三年以下の懲役又は禁錮と定められ罰
金の定めがないのにかかわらず、傷害の罪にその定めがあるのに従つて、被告人を
罰金二万円に処したのは、刑法五四条一項の解釈を誤つたものであり違法たるを免
れない。従つて論旨は理由があり第一審判決及びこれを是認した原判決は破棄を免
れないが、本件は訴訟記録により直ちに判決するのを相当と認めるから刑訴四一三
条但書に基いて次のとおり判決する。
 第一審判決がその挙示の証拠によつて確定した料示事実を法律に照すと、判示第
一の事実中、公務執行妨害の点は刑法九五条一項に、傷害の点は同法二〇四条罰金
等臨時措置法二条三条一項一号に、判示第二の事実は外国人登録令一三条五号一〇
条罰金等臨時措置法二条一項四条一項、外国人登録法附則三項に各該当するところ
右公務執行妨害と傷害は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから刑法五四
条一項前段一〇条により重い傷害罪の刑に従い以上は同法四五条前段の併合罪であ
るから傷害罪については、所定刑中懲役刑を又外国人登録令違反の罪については所
定刑中罰金刑をそれぞれ選択した上刑法四八条一項本文に従い所定刑期並びに罰金
額の各範囲内で懲役三月及び罰金八〇〇〇円を量定してこれを併科し、但しその情
状に鑑み同法二五条を適用して本裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予す
ることとし、なお同法一八条により右罰金を完納することができないときは金二〇
〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、訴訟費用は刑訴一八一条一項
に則り被告人にその全部を負担せしめるべきものとする。
 よつて裁判官全員一致の意見によつて主文のとおり判決する。
 検察官 安平政吉出席
  昭和二八年四月一四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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