弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人高田正利の上告理由第一、第二について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立っ
て原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 同第一、第三及び第四について
 土地の賃貸借契約において、適法な転貸借関係が存在する場合に、賃貸人が賃料
の不払を理由に契約を解除するには、特段の事情のない限り、転借人に通知等をし
て賃料の代払の機会を与えなければならないものではない(最高裁昭和三三年(オ)
第九六三号同三七年三月二九日第一小法廷判決・民集一六巻三号六六二頁、最高裁
昭和四九年(オ)第七一号同四九年五月三〇日第一小法廷判決・裁判集民事一一二
号九頁参照)。原審の適法に確定した事実関係の下においては、賃貸人であるD(
被上告人らの先代)が、転借人である上告人に対して賃借人であるEの賃料不払の
事実について通知等をすべき特段の事情があるとはいえないから、本件賃貸借契約
の解除は有効であり、被上告人らの上告人に対する建物収去土地明渡請求を認容す
べきものとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の
違法はなく、論旨は採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官木崎良平の反対意見が
あるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官木崎良平の反対意見は、次のとおりである。
 私は、多数意見とは異なり、本件のように建物所有を目的とする土地の賃貸借に
おいて、賃貸人が転貸を承諾し適法な転貸借関係が存在している場合に、賃借人が
地代の支払を遅滞したことを理由として賃貸借契約を解除するには、賃貸人は、賃
借人に対して地代の支払を催告するだけではなく、転借人にも地代の延滞の事実を
通知するなどして右地代の代払の機会を与えることが信義則上必要であり、転借人
に右通知等をしないで賃貸借契約を解除しても、その効力を転借人に対抗すること
ができないと考える。その理由は、次のとおりである。
 建物所有を目的とする土地の賃貸借において、適法な転貸借関係が存在する場合
には、通常は、転借人が当該土地上に建物を所有して建物を占有しているのであっ
て、その実態に即して転借人の権利の保護が図られるべきであり、転借人が建物収
去土地明渡しを余儀なくされるという重大な結果が不当に生ずることがあってはな
らない。賃貸借契約が解除された場合に、賃貸人が賃貸借契約の消滅の効力を主張
して賃借人に対して建物収去土地明渡しを請求することができるかどうかを判断す
るには、右の観点から慎重に検討すべきであって、転借権が土地賃借人の賃借権の
存在を前提とするものであるから賃借権の消滅により転借権が消滅するといった形
式論のみによって決すべきではない。そして、右の観点からすると、賃貸人にとっ
て、転借人に地代が延滞していることを通知することは容易なことであり、しかも、
多くの場合には、この通知等によって延滞地代の支払が期待し得るのに、あえてこ
れをせずに賃貸借契約を解除し、転借人に建物収去土地明渡しを請求することを認
めることは、転借人の地位を不当に軽んじるものであって、公平の原則ないしは信
義誠実の原則に反するものというべきであるからである。
 また、多数意見のように解すれば、賃貸人と賃借人とが意を通じて、実際には賃
貸借契約を合意解約する意図であるのに、合意解約の効力を転借人に対抗できなく
なることを避けるため、あえて地代の延滞という状況を作出し、地代の延滞を理由
に契約を解除した場合にも、転借人は、右の事情を主張立証しなければ解除の効力
を争うことができなくなり、なれ合いによる合意解約によって転借人の権利を消滅
させるのと同一の不都合な結果が生ずることも避けられなくなる。
 したがって、転借人に右の機会を与えないでされた契約解除の転借人に対する効
力を認め、被上告人らの上告人に対する明渡請求を認容した原判決は破棄を免れず、
被上告人らの上告人に対する請求を棄却すべきである。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    木   崎   良   平
            裁判官    中   島   敏 次 郎
            裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治

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