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平成22年9月28日判決言渡
平成21年(行ケ)第10415号審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日平成22年9月9日
判決
原告株式会社プロセス・ラボ・ミクロン
訴訟代理人弁護士山田基司
被告特許庁長官
指定代理人湯本照基
同長島和子
同廣瀬文雄
同小林和男
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2006−26920号事件について平成21年10月14
日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告が,名称を「メタルマスク及びメタルマスクの製造方法」と
する発明につき特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対する
不服の審判請求をし,平成21年4月13日付けで特許請求の範囲の変更等を
内容とする手続補正(請求項の数2,以下「本件補正」という。甲18)をし
たが,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事
案である。
2争点は,本件補正後の請求項1(以下「本願発明」という)が,下記引用。
文献1及び2記載の発明との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項)で
ある。

・引用文献1:特開2003−211282号公報に記載された発明(発明の
名称「クリームはんだおよびクリームはんだの製造方法,出」
願人ソニー株式会社,公開日平成15年7月29日。以
下,これに記載された発明を「引用発明1」という。甲1)
・引用文献2:特開平3−228052号公報に記載された発明(発明の名称
「プリント配線板の製造方法,出願人関西ペイント株式会」
社,公開日平成3年10月9日。以下,これに記載された
発明を「引用発明2」という。甲2)
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成15年11月19日の優先権(特願2003−388650
号,日本国)を主張して,平成16年11月12日,名称を「メタルマスク
及びメタルマスクの製造方法」とする発明につき特許出願をしたところ,平
成18年10月3日付けで拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判
請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2006−26920号事件として審理し,そ
の中で原告は平成21年4月13日付けで本件補正をしたが,特許庁は,平
,「,。」,成21年10月14日本件審判の請求は成り立たないとの審決をし
同審決は同年11月24日に原告に送達された。
(2)発明の内容
本件補正後の請求項の数は前記のとおり2であるが,うち請求項1(本願
発明)の内容は,次のとおりである。
・請求項1】クリームはんだ印刷用の開口部を有するバンプ電極形成用【
メタルマスクの製造方法であって,導電性基板に感光性樹脂を積層し,複
数の紫外線半導体レーザーをアレー状に配置して各レーザー光を該感光性
樹脂層に焦点が合致するように収束し,走査しながら直接照射・露光を行
い,現像して感光性樹脂で開口部に相当するパターンを作り,該開口部の
最大の大きさは20∼250μm,厚さは20∼80μmとし,該基板に
ニッケル又はニッケル合金の電気メッキを行うことを特徴とするメタルマ
スクの製造方法。
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その要点は,本願発明は
前記引用発明1,2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明すること
ができたから特許法29条2項により特許を受けることができない,とい
うものである。
イなお,審決が認定した引用発明1及び2の各内容,本願発明と引用発明
1との一致点及び相違点は,次のとおりである。
・<引用発明1の内容>
はんだバンプを形成するために,基板の電極の配置に相当する所定の
パターンの,クリームはんだが充填される貫通孔パターンを形成したメ
タルマスクの作製方法であって,電極母材上にパターニングしたレジス
トをマスクにしてNiの電極めっきにより析出させマスクを形成するア
ディティブ法によるメタルマスクの作製方法。
・<引用発明2の内容>
透孔から蒸着物質が基材表面に蒸着され,透孔以外の部分では遮へい
されて金属が基材表面に蒸着されないため透孔の形状に応じた回路パタ
ーンを有する蒸着膜を形成するためのメタルマスクを形成する方法であ
って,導電性表面を有するベースフイルム上にフオトレジスト層を形成
し,紫外線のレーザー光線により,該フオトレジスト層をパターンマス
クを介して走査しながら露光した後,現像を行いベースフイルム上にパ
ターンを有するレジスト層を形成することによりアディティブ法により
メタルマスクを形成する方法。
・<本願発明と引用発明1の一致点>
クリームはんだ印刷用の開口部を有するバンプ電極形成用メタルマス
,,クの製造方法であって導電性基板に開口部に相当するパターンを作り
該基板にニッケルの電気メッキを行うメタルマスクの製造方法。
・<本願発明と引用発明1との相違点1>
導電性基板への「パターン」の作成について,本願発明では「導電性
基板に感光性樹脂を積層し,複数の紫外線半導体レーザーをアレー状に
配置して各レーザー光を該感光性樹脂層に焦点が合致するように収束
し,走査しながら直接照射・露光を行い,現像して」いるのに対し,引
用発明1では,そのように作成しているのか明らかでない点。
・<本願発明と引用発明1との相違点2>
「開口部(貫通孔」について,本願発明では「最大の大きさが20),
,」,,∼250μm厚さは20∼80μmであるのに対し引用発明1は
そのような特定がない点。
(4)審決の取消事由
審決には以下に述べるとおりの誤りがあるから,違法として取り消される
べきである。
ア取消事由1(引用発明2認定の誤り)
(ア)レーザー光線を露光に使用する場合でも,例えばレーザー光線をレン
ズで拡散したり,又は平面状にレーザー光線を並べる等の,走査を行わ
ない様々な方法が当然にあり得るのであり,単に,引用発明2の認定に
際し,広い範囲にレーザーを使用していることをもって「何らかの走,
査を行っていることは明らかである」とすることは誤りである。
引用文献2の「活性光線の照射によるフォトレジスト層の硬化は1秒
∼20分の範囲,通常は数分以内で行われる」との記載からも,活性光
線の「走査」が想定されているとは解されない。
したがって,引用発明2の内容を「・・・該フォトレジスト層をパタ
ーンマスクを介して走査しながら露光した後・・・」と認定するのは,
誤りであり「・・・該フォトレジスト層をパターンマスクを介して露,
光した後・・・」と認定されるべきである。,
よって,引用発明2を引用発明1に適用しても,本願発明の構成を充
足しない。
(イ)なお,原告が例示した上記2つの方法のような解釈が,当業者が通常
採り得ない解釈であるとしても,それは,審決が認定した「レーザーに
よる走査を行っている」との解釈も同様である。
そもそも,後記イ(ア)bのとおり,レーザーで厚い感光性樹脂層の露
光を行うこと自体が実用的でないと考えられていたものである。
また,コストの問題は,走査による方法と平面状に並べる方法とを比
較した場合に,平面状に並べる場合の方がコストが高いという相対的な
問題にすぎない。引用文献として採用する場合の解釈として,レーザー
が平面状に並べられているという状態を排除し「走査」が特定的に記,
載されているとの解釈の根拠にはならない。
このほか,レンズで拡散するという方法につき,出力が低下するから
通常考慮しないとの被告の主張は乱暴であり,いずれにしても,広い面
積にレーザーを使用しているという記載が「走査を行っている」という
記載と同一であるという認定が成立する余地はない。
イ取消事由2(相違点1についての判断の誤り)
(ア)a感光性樹脂層を用いたメタルマスクのアディティブ法による製造方
法としては,従来,フォトマスクを使用する方法が存在したが,この
方法により製造されたメタルマスクを使用してバンプ電極を形成する
方法においては,開口部の内部壁面とハンダとの「ずり応力」が大き
いと,ハンダが引きずられて抜けが悪くなり,開口部壁面にはんだが
残存し,形成されたバンプに欠け(はんだ体積不足)等の欠陥が発生
することになる。
したがって,メタルマスクによるバンプ電極の形成においては,メ
()タルマスクの開口部深さ方向の内部壁面開口部の端面形状ではない
の平滑性が重要となる。
本願発明では,別紙の図1に示す構成が採用されており,従来の方
法とは「紫外線半導体レーザーをアレー状に配置して感光性樹脂層,
に焦点が合致するように収束し,走査しながら感光性樹脂層に直接照
射・露光を行う」との工程が異なる。
そして本願発明の方法で製造されたメタルマスクにおいてはメ,,「
タルマスクの開口部の内部壁面の平滑性の向上」との特段の効果が得
られる。当該効果は,マスク表面開口部の平滑性ではなく,開口部の
内部壁面の平滑性に着目するものである。開口部内部壁面の深さ方向
が平滑になることにより,ハンダの抜けが良くなり,精度の高いバン
プ形成が可能となる。
b引用発明2は,メタルマスクを用いるが「蒸着物質を気相法によ,
り基材表面に蒸着させて回路を形成する(請求の範囲1)ためのも」
のであり,すなわち,平面的な回路形成に用いられるものであって,
バンプ電極形成用の厚いメタルマスクとは異なる。
バンプ電極はハンダを盛り付けるようにして形成されるため,バン
プ電極用のメタルマスクは厚い(20∼80μm)ものとなり,した
がって,メタルマスクを作る際のパターン形成用の感光性樹脂層は,
そのメタルマスクの厚さよりも更に厚いものが用いられるところ,レ
ーザーは,紫外線の光源と比較すると圧倒的に出力が小さい。また,
レーザーの光源を重ね合わせて照射するとコストがかかり,しかも均
一に硬化させることが難しくなる。
このため,本件出願以前には,バンプ電極形成用メタルマスクの分
野においては,メタルマスク開口部に対応するレジストパターンを形
成する際に,厚い感光性樹脂層をレーザーで露光することは実用的で
ないと考えられていたものである。
現に,特開2002−287380号公報(甲9)の段落【000
3】には,レーザーによる露光では出力が不足するため,それだけで
は実用とならないことが記載されている。
本願発明の発明者は,バンプ電極用のメタルマスクをアディティブ
法で作る際に,レーザーをアレー状に配置して感光性樹脂層に焦点が
合致するように収束し走査しながら感光性樹脂層に直接照射・露光を
行うことによりレジストパターンを形成すると,当該レジストパター
ンにより製造されたメタルマスク開口部の内部壁面が平滑となり,こ
れにより抜けの良いメタルマスクを製造可能であるという予想外のメ
リットを見出したからこそ,本願発明において,それまで当業者の間
では現実的でないと解されていたレーザーによる直接照射・露光をあ
えて用いることとしたのである。
したがって,平面的回路パターン形成用メタルマスクの分野におけ
る引用文献2においてレーザーを使用した場合の記載が存在するとし
ても,それをバンプ電極用メタルマスクの分野における引用発明1に
適用する動機付けは存在しない。
c本願発明のように,メタルマスクの開口形状の深さ方向側面部の平
滑性に着目するとき,バンプ電極形成用マスクは,スクリーンメッシ
ュマスクとは全く技術的要請が異なる。
すなわち,スクリーンメッシュマスクを用いた回路パターンの形成
においては,粘性の低いソルダーレジストインク,エッチングレジス
トインク,金属ペーストを開口部にスキージし,メッシュを通して下
に押し出すことで回路パターンを形成する。
そして,押し出されたインクや金属ペーストに「だれ」が生じなけ
れば,メッシュの形状が回路パターンに残ってしまうので,スクリー
ンメッシュにおいては,粘性の低いインクやペーストが使用されるの
である。
メッシュマスクを用いた回路パターンの形成は,インクやペースト
の形状を保ったままマスクを抜くものではなく,メッシュをくぐり抜
けて押し出され,平面的に印刷されるものである。また,ある程度イ
ンクを盛って厚く印刷する場合でも,メッシュをくぐり抜けることに
変わりはなく,形状を保ったままマスクを抜く場合とは全く異なる。
このように,スクリーンメッシュマスクの場合には,インクはメッ
,,シュの網目をくぐり抜けていくのでありメッシュの網目との接触は
開口部壁面との接触とは比較にならないほどの障壁となる。したがっ
て,メッシュの平滑性の問題の桁違いの大きさにかんがみれば,開口
部壁面に着目する意味はない。
しかも,スクリーンメッシュの場合には厚さがない(開口部壁面の
深さ方向の距離が短い)ので,ペーストが開口部壁面と接触する際の
「ずり応力」は問題とならない。それよりも,開口部の平面形状(上
から見たときの形状)の方が圧倒的に重要である。
以上のとおり,スクリーンメッシュマスクの場合には「ずり応力,
による抜けの悪さ」という問題は存在せず,開口部の平面的形状の精
度が重要であり,開口部深さ方向の壁面の平滑性は問題とならない。
被告の主張は,本願発明が開口部壁面の平滑性に着目したという事
実を知った上で,そこから翻って考えたとき「粘度の比較的高いペ,
ーストを用い,開口の径が微小」な場合であれば開口部壁面の平滑性
も問題となり得る旨の後付けの主張にすぎず,そもそも開口の径が微
小となれば,メッシュの影響の問題はさらに大きくなるので,開口部
壁面の平滑性の重要性はますます問題となり難くなると解される。
d審決が周知技術1(パターンマスクを介さずに感光材料に直接照射
・露光すること)の例として挙げた2つの発明(後記甲6,7)は,
いずれもマスク上の開口部の平面形状を正確に転写することを目的と
するスクリーンメッシュに関する発明であり,技術的分野が異なる。
スクリーンメッシュマスクにおいて重要なのは,開口部端面形状の正
確性であるため,これら発明は開口部の内部壁面の平滑性に関しては
全く問題にしておらず,またこれを示唆する記載も存在しない。
具体的にみると,まず,特開平11−174686号公報(甲7)
に係る発明は,多数の気孔を有する通気性スクリーンに所望のパター
ンを形成し,染料が供給されるところは気孔を残しておき,供給され
ないところは樹脂を用いて気孔を遮断することで,染料が選択的にス
クリーンの気孔を介して織物に供給されるようにする方式を前提とす
るものであり(段落【0002【0026「スクリーン上に,光】】),
硬化性樹脂をコーティング」し(段落【0010,これをパターン】)
に沿ってレーザーにより硬化させ,そのままスクリーンの製版として
使用するものである。
染料は,光硬化性樹脂により閉塞されなかった気孔を通して供給さ
れるものである以上,コーティングされた光硬化性樹脂につき,その
「開口部内部壁面の平滑性」ないし「抜けの良さ」が問題となり得な
いことは明らかである。
また,特開平6−148897号公報(甲6)に係る発明は,紫外
線硬化樹脂中に支持体を浸し,この支持体の上方に位置する紫外線硬
化樹脂に紫外線による描画を施し(請求項1,支持体を下降させ【】)
つつ紫外線による同一パターンの描画を繰り返すことにより段落0(【
013,硬化する紫外線硬化樹脂を支持体上に積層して遮蔽膜を形】)
成するものである。すなわち,厚い紫外線硬化樹脂をレーザーで描画
することはできないことを前提として,何度も同一パターンの描画を
繰り返して積層するというものである。
そして,この製法を用いると,開口部内部壁面は積層により形成さ
れるのであるから,積層による段差1を生じやすく,開口部内部壁面
の平滑性とは明らかに相反する。
このように,審決が挙げる文献は,いずれもスクリーンメッシュを
用いたスクリーン印刷に関する発明であり,メタルマスクを用いる引
用発明2とは技術分野が異なる上「開口部内部壁面の平滑性」とい,
う概念を有していない。
e以上のとおり,引用発明1に引用発明2を適用する動機付けも,さ
らにバンプ電極用メタルマスクの製造において周知技術1を採用する
動機付けも存在しない。
(イ)本願発明の構成により「メタルマスクの開口部の内部壁面の平滑性の
向上」との効果を得ることができる理由は,以下のa,bの内容の複合
によるものと解される。
aフォトマスクを使用した露光の場合と比べた場合には,フォトマス
クの場合にはフォトマスク開口部のコーナーで光の回折が生じ,また
フォトマスク素材における光の屈折があるため均等な硬化が妨げられ
るのに対し,レーザーの収束ビームでフォトマスクを介さずに直接露
光した場合には,そのような事情がないため,平滑な開口部壁面が得
られることになる。
bレーザーをアレー状に配置して感光性樹脂層に焦点が合致するよう
に収束することによりさらに特段の効果が得られる理由は,以下のと
おりである。
(a)レーザー光は,パルスのように断続的に出力されるから,これを
「走査」する場合でも,これによる形状は,ドットの連続により構
成されることになる。このとき,強いレーザー光を用いると,目的
部分がすばやくシャープに硬化することになるため,ドットの形状
がそのまま残されることになり,開口部壁面にはエッジの切り立っ
た縞が残ることになる。
これに対し,本願発明においては,弱いレーザー光を束ねて用い
ているため,硬化がシャープでなく,感光性樹脂層の十分に硬化し
なかった部分は後に除去されてしまうため,残された部分はゆるや
かな形状となる。したがって,ハンダの抜けの観点からみて,平滑
な開口部壁面が得られることになる。
また,感光性樹脂層を硬化させるためのエネルギーは一定であ
るので,複数のレーザーを用いれば,各レーザーの出力は必然的
に小さくてすみ,レーザーをアレー状に配置すると,必然的に,
一つ一つのレーザーの出力は小さくてすむことになる。
(b)バンプ電極の形成の場合には,前述のように厚みのある感光性
樹脂層を用いる必要がある。
ところが,一つの強いレーザー光を用いる場合,感光性樹脂層は
焦点が合わされた部分から硬化していくため,厚みのある感光性樹
脂層を均等に硬化させることができない。
これに対し,レーザーをアレー状に配置すれば,複数のレーザー
「」。の焦点を感光性樹脂の層全体にわたって合わせることができる
したがって,開口部内部壁面の深さ方向が均質に硬化する。
(c)レーザーをアレー状に配置することにより,弱いレーザー光を用
いることができ,かつ複数のレーザーとして,位相のそろったレー
ザーを用いることができる。レーザーの位相をそろえることで,感
光性樹脂層の特性に,より適合させることが可能となる。
c以上のとおり,レーザーをアレー状に配置することで,個々のレー
ザーの出力は小さくてすむことになり,レーザーをアレー状に配置し
て感光性樹脂層全体に焦点が合致するように収束し,走査しながら感
光性樹脂層に直接照射・露光を行うことによって特段の効果が得られ
ることになるからこそ,本願発明においてはレーザーをアレー状に配
置しているのである。
一般には,パターンを切り取る場合には,レーザーの焦点を小さく
合わせることにより高解像度のパターンを得るという方向性が意識さ
れるのであり(甲7の段落【0035】参照,本願発明のような目)
的がなければ,レーザーをアレー状に配置するという動機付けは得ら
れない。
(ウ)なお,本願発明の効果(マスクの開口部の内部壁面の平滑性の向上)
は「レーザー光線が均質で直進性の高い光線である」ことにより得ら,
れるものではない。本願発明が対象としているのは,レーザー光線を走
査して「壁面」を形成する場合の,面における平滑性である。これにつ
いては,一般には,円滑な開口部形状を有するフォトマスクを用いた方
が,レーザーを走査しながら直接照射してガリガリと形状を形成するよ
りも円滑になると考えるのが通常であり,レーザーを走査した方が内部
壁面が円滑になるという発想に想到するのは容易ではない。現に誰も想
到しなかったのである。
そして,別紙の図2は,従来技術(フォトマスクを介して光を感光性
樹脂層に照射・露光を行う方法)により得られたメタルマスクの開口部
内部壁面の写真であり,図3は,本願発明の方法を用いて得られたメタ
ルマスクの開口部内部壁面の写真であり,これらの写真から,本願発明
の効果は明らかである。
(エ)単に「レーザーの数」という側面のみを取り出し,これを複数にする
か単数にするかが設計事項であるという認定は,発明の全体像を無視し
ている。このようにパーツを細分化して取り出せば,既存の部品を複数
使用する構成は,すべて設計事項となってしまう。
また,審決は「レーザー光の焦点を露光する層に合致させることは,
当然である」と述べるが,前記(ア)bのとおり,バンプ電極を形成する。
ための感光性樹脂層は厚いものであるから「点」ではなく「層」に焦,
点を合致させるという構成は当然ではない。
このほか,弱いレーザーを束ねることや,位相に関する原告の主張に
つき,審決は,当初明細書等の記載に基づかない主張であるとするが,
これについては,背景ないし理論を説明するものである。
(オ)以上のとおり,引用発明1に技術分野の異なる引用発明2を適用し,
さらに技術分野の異なる周知技術1を採用し,さらに紫外線半導体レー
ザーをアレー状に配置し,さらに感光性樹脂層に焦点が合致するように
収束するという構成を採用することは,本願発明における目的意識を持
つことなくしてはその動機付けがなく,当業者にとって想到することが
困難である。
さらに,本願発明は,レーザーを走査しながら感光性樹脂層に直接照
射・露光を行うという構成を採用しているものであり,このような構成
に想到することは,当業者にとって極めて困難である。
ウ取消事由3(相違点2についての判断の誤り)
審決は,メタルマスクの厚さについて「20μm「80μm」とい,」,
う値自体に特段の臨界的意義が見出せないと認定判断する。
しかし,20μm∼80μmという範囲は,バンプ電極用のメタルマス
クの厚さ(20∼80μm)である。バンプ電極用メタルマスクを作る際
のパターン形成用の感光性樹脂層を,レーザーで直接照射・露光するとい
う発想は,本願発明のような視点に立たなければ得られないものであり,
したがって,当該厚さには臨界的意義がある。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,以下に述べるとおり,原告の主張は理由がな
い。
(1)取消事由1に対し
アフォトレジスト層に露光することができるような紫外線のレーザー光線
の生成装置は,当該露光に使用される水銀灯などのランプ類に比べ,一般
的に高価なものであり,高々走査を不要とするためだけに,紫外線のレー
ザー光線の生成装置を大量に用意し,フォトレジスト層を備えたベースフ
ィルム全域にわたって平面状に並べたり,また,極端に高出力な紫外線の
レーザー光線の生成装置(フォトレジスト層を備えたベースフィルム全域
にわたってレンズで拡散し出力を低下させた紫外線のレーザー光線であっ
てもフォトレジスト層を露光することができる程度の出力を維持できるよ
うな出力が必要となる)を用意し,そのレーザー光をわざわざベースフ。
ィルム全域にわたってレンズで拡散して出力を低下させて使用するなどと
いうことは,不自然な使用形態であり,当業者であれば,特段の事情があ
る場合を除き通常考慮しない使用形態である。
本願明細書の実施例1にも使用されており平成15年11月19日以,(
下「本件出願の優先日」という)前に公然実施されていることが明らか。
である「ペンタックス株式会社製DI-2080」も,イメージング方式
は,二次元表示素子走査露光であり(乙4参照,レーザー光線の露光の)
際に走査を行っているものである。
なお,紫外線のレーザーの出力が水銀灯などの紫外線の光源に比較して
出力が小さいことは,原告も認めている。
してみれば,引用発明2の紫外線のレーザー光線は,本件出願の優先日
前に周知である引用発明2と同様に,フォトマスクを介してフォトレジス
ト層に光を照射する露光装置(乙5ないし7参照)のように,光源たる紫
外線のレーザー光線とフォトレジスト層とを相対移動させるような走査を
,。して露光するものと解するのが当業者であれば極めて自然な解釈である
また,引用文献2の「活性光線の照射によるフォトレジスト層の硬化は
1秒∼20分の範囲」との記載は,活性光線の照射時間に関する記載では
なく,フォトレジスト層の硬化時間に関する記載である上,そのフォトレ
ジスト層の硬化時間を「1秒∼20分」とかなり広範囲に記載しており,
フォトレジスト層の材料や,活性光線の光源の種類や強度により,様々な
硬化時間があり得るという程度の記載にすぎない。
そして「通常は数分以内で行われる」との記載は,実施例で使われて,
いる水銀灯などに代表される活性光線と,通常のフォトレジスト層の材料
からなる露光工程であれば,通常は数分以内で行われると記載されている
にすぎず,そもそもレーザー光線に限った記載ではない。
してみれば,上記引用文献2の記載は「レーザー光線とフォトレジスト
層とを相対移動させるような走査をして露光する」との解釈といささかも
矛盾するものではなく「・・・該フォトレジスト層をパターンマスクを,
介して走査しながら露光した後・・・」とした審決の認定に誤りはない。
イ仮に,引用発明2について,原告の解釈を採用した場合について,反論
しておく。
審決において周知技術1の例として挙げた文献に記載されたレーザー光
,(【】【】,は走査により露光しており甲6の段落0018及び0019
甲7の段落【0026】等参照,露光するためのレーザー光線を走査す)
ることは,本件出願の優先日前に周知な技術にすぎない。
してみれば,本願発明と引用発明1との相違点のうち「レーザー光線」
につき「走査させる」ことは,単に周知な技術を採用したものにすぎず,
容易性の判断の結論に影響を与えるものではない。
いずれにしても,審決の判断に誤りはない。
(2)取消事由2に対し
ア40∼50μm程度の厚さのレジスト層(厚い感光性樹脂層)に対して
レーザーで露光することは,本件出願の優先日前において,審決が引用文
献2として挙げた甲2,乙1ないし3に記載されるように周知である。
してみれば「本願発明以前には,上記の構成を有するバンプ電極形成,
用メタルマスクの製造方法は存在せず,また,上記の効果に着目した発明
も存在せず,バンプ電極形成用メタルマスクの分野においては,メタルマ
スク開口部に対応するレジストパターンを形成する際に,感光性樹脂層を
レーザーで露光することは,実用的でないと考えられ,レーザーでこのよ
うな厚い感光性樹脂層の露光を行うことは実用的でないと考えられてい
た」との原告の主張は根拠がなく,厚い感光性樹脂層の露光について特に
区別し,レーザーで露光を行うことを回避する理由はない。当業者であれ
ば,バンプ電極用のメタルマスクを作る際のパターン形成用の感光性樹脂
層についても,レーザーで露光を行うようにすることは,容易に想到し得
るものである。
したがって「本願発明において,それまで当業者の間では現実的でな,
いと解されていたレーザーによる直接照射・露光をあえて用いることとし
たのである」との原告の主張についても根拠がない。
なお,甲9の段落【0003】の記載は,平成13年3月26日以前に
おいては,バイオレットレーザーの出力が従来のレーザーより小さく,十
分な強度を有する画像の形成が困難であり,改良せんとする研究がされて
いる旨を,特定の出願人が記載したものにすぎず,本件出願の優先日前の
技術水準を示すものではない。
イまた,以上のとおり,審決において挙げた引用文献2や,乙1ないし3
(順に,特開2003−107723号公報,特開2003−11452
1号公報,特開2003−140329号公報)のように,20∼80μ
mを含む厚さを対象としたレーザー光線による露光は周知であり,レーザ
ーで厚い感光性樹脂層の露光を行うことは実用的でないという原告の主張
は根拠がなく,引用発明2の「蒸着物質を気相法により基材表面に蒸着さ
せて回路を形成する(請求の範囲1)ための,平面的な回路形成に用い」
られるメタルマスクを製造するためのレーザー光線による露光と,バンプ
電極形成用の厚いメタルマスクを製造するためのレーザー光線による露光
とを区別しなければならない理由はない。
してみれば,引用発明2のレーザー光線による露光を,バンプ電極用メ
タルマスクの分野における引用発明1に適用することは,当業者が容易に
想到し得ることである。
ウスクリーンメッシュにおいても,インクやペーストが開口から抜けるも
のである以上,メッシュの平滑性と同様に,メタルマスクの開口形状の深
さ方向側面部の平滑性がある程度必要なのは当然である。
バンプ電極形成用マスクとスクリーンメッシュマスクとのペーストの粘
度の差異はあるところ,スクリーンメッシュマスクにおいても,粘度の比
較的高いペーストを用い,開口の径が微小となれば,メッシュの平滑性と
ともに,開口形状の深さ方向側面部の平滑性も必要となることは明らかで
ある。
してみれば,スクリーンメッシュマスクにおいては,程度の差はあるも
のの,開口形状の深さ方向側面部の平滑性が不要であるなどということは
ないから,バンプ電極形成用マスクの製造方法と,スクリーンメッシュマ
,,スクの製造方法とでレーザー光線による露光手段を適用するという点で
「マスクの製造方法」という技術分野としては何ら差異はない。
エなお,原告は,本願発明では別紙の図1に示す構成が採用されている旨
主張するが,図1(b)に示されるような,感光性樹脂層の円形部分(メタ
ルマスクの開口部に対応する部分)の周囲に沿って円形にレーザーを走査
することは,本願の特許請求の範囲又は明細書に何ら記載されておらず,
当該特許請求の範囲又は明細書の記載から自明な事項でもない。
,,,このほか別紙の図2や3に示されるメタルマスクはどのような材料
条件で形成されたメタルマスクであるのか,さらに,当該写真はどのよう
にして撮影されたものであるのか不明であり,図3に示されるメタルマス
クが,本願発明に含まれる実施形態の1例の「メタルマスクの製造方法」
において得られたものか否かすら定かではなく,本願発明の範囲に含まれ
るすべての「メタルマスクの製造方法」によって得られたメタルマスクに
おいて,同様の形状のものが得られることを示すものではない。
オレーザー光には,連続的に出力されるものもあればパルスのように断続
的に出力されるものもある。本願発明のレーザーが「パルスレーザー」に
限られるとの記載は,特許請求の範囲及び明細書のいずれにもなく,この
点に関する原告の主張は,特許請求の範囲や明細書に基づかない主張であ
る。
また「レーザーをアレー状に配置する」ことが,すなわち「個々のレ,
ーザーの出力が小さくなる」ことではない。
アレー状の配置については,本願発明の特定に「複数の紫外線半導体レ
ーザーをアレー状に配置して各レーザー光を該感光性樹脂層に焦点が合致
するよう収束し,走査しながら直接照射・露光を行い」とあり,明細書に
は「例えば,複数の紫外線半導体レーザーをアレー状に配置し,各レーザ
ー光を感光性樹脂層に焦点が合致するように収束し,走査しながら,開口
部を描画する(段落【0013)と記載されるのみで,感光性樹脂層。」】
の特定の一箇所にレーザーを集中しているとの記載はなく,また自明でも
ない。
してみれば,本願発明には,複数のレーザーがそれぞれ別の箇所の感光
性樹脂層に焦点が合致するように収束するものも含まれ,必ずしも「一,
つ一つのレーザーの出力が小さくてすむ」ことに限るものではないから,
この点に関する原告の主張は,特許請求の範囲のみならず明細書の記載に
基づくものですらない。
カ感光性樹脂層における「点」が,感光性樹脂層の「層」に含まれること
は明らかである。
「点」に焦点が合致していれば,結果として感光性樹脂層の「層」のい
ずれかの箇所に焦点が合致しており,感光性樹脂層の「層」に焦点が合致
しているといえる。
また,引用発明1及び2ともに,露光・現像することにより,パターン
,,を有するレジスト層を作成しそれにアディティブ法によるメッキをして
メタルマスクを作成する方法である以上,感光性樹脂層の層の深さ方向に
ついても硬化される必要があることは当然である。
してみれば,感光性樹脂層の層の深さ方向についても,感光性樹脂層が
硬化する程度に,感光性樹脂「層」に光の焦点が合致するものであること
は明らかである。
さらに,この「層」に焦点を合致させるということが「アレー状に配,
置された複数のレーザーのうち,個々のレーザー単体の焦点は,感光性樹
脂の『層』の深さ方向の一点であり,その一点の深さが複数のレーザーで
異なり,複数のレーザー全体としてみれば,焦点が深さ方向にある程度均
一に分散するようになっており,それらのレーザーを束ねて露光すること
によって,複数のレーザーの焦点を感光性樹脂の『層』の深さ方向全体に
。」,,わたって合わせることができるとの意味であるとすると当該主張は
特許請求の範囲の記載に基づかないだけでなく,明細書の記載に基づくも
のですらない。
すなわち「個々のレーザー単体の焦点は,感光性樹脂の『層』の深さ,
方向の一点であり,その一点の深さが複数のレーザーで異なる」ことや,
「複数のレーザー全体としてみれば,焦点が深さ方向にある程度均一に分
散するようになっている」ことなどはもとより「レーザーを束ねて露光,
すること」や「複数のレーザーの焦点を感光性樹脂の『層』の深さ方向,
全体にわたって合わせる」ことすら,特許請求の範囲には何ら記載されて
おらず,明細書にも何ら記載されておらず,自明な事項でもない。
キ「位相のそろったレーザーを用いることができる」旨の原告の主張につ
いても,出願時の明細書に記載されていない効果を主張するのみならず,
構成としても記載されていないものについての主張である。
ク原告は,本願発明の効果が「レーザー光線が均質で直進性の高い光線で
あること」により得られるものではない旨主張する。
しかし「レーザー光は直進性が強く,光硬化が深さ方向で均一である,
こと,によるものと解され」ることは,原告が,平成18年4月26日付
け意見書(甲11)及び平成19年2月27日付け手続補正書(甲16)
で,二度にわたり主張していたことである上「レーザー光線が均質で直,
進性の高い光線であること」は技術常識であり,そのような「均質で直進
性の高い光線」を照射すれば,照射される感光性樹脂層の内部壁面が平滑
になることは,当業者であれば当然予測し得ることである。
,,,ケ以上のとおり引用発明1に引用発明2を適用し周知技術1を採用し
紫外線半導体レーザーをアレー状に配置し,感光性樹脂層に焦点が合致す
るように収束するという構成を採用することについての動機付けはあり,
当業者にとって容易であるから「当業者にとって紫外線のレーザーとし,
て周知技術2のような紫外線半導体レーザーを採用することに,特段の困
難性は見いだせない。さらに,レーザーの数を単数にするか複数にするか
及び,レーザーの配置をどのようにするかは,必要に応じ,当業者が適宜
設計しうる事項にすぎない。レーザー光の焦点を露光する層に合致させる
。」。ことは当然であるとした相違点1についての審決の判断に誤りはない
(3)取消事由3に対し
ア取消事由3に関する原告の主張は明確ではないが「バンプ電極用メタ,
ルマスクを作る際のパターン形成用の感光性樹脂層を,レーザーで直接照
射・露光するという発想」が得られないから,バンプ電極用メタルマスク
の厚さに相当する「20μm∼80μm」という範囲に臨界的意義がある
旨の主張と解される。
前記(2)のとおり「バンプ電極用メタルマスクを作る際のパターン形成,
用の感光性樹脂層を,レーザーで直接照射・露光する」ことは,当業者が
容易に想到し得るものであるから「バンプ電極用メタルマスクを作る際,
のパターン形成用の感光性樹脂層を,レーザーで直接照射・露光するとい
う発想」が得られないという前提自体誤りである。
,,,イ(ア)このように前提が誤っている以上これ以上の反論は不要であるが
念のため,反論する。
原告の「20μm∼80μmという範囲は,バンプ電極用のメタルマ
スクの厚さ(20∼80μm)である」との主張の意味が,そもそも。
明確ではない。
(イ)上記主張が「バンプ電極用のメタルマスクは,通常20μm∼80μ
mの厚さを有している」との主張であれば「バンプ電極用メタルマス,『
ク』の製造をするための『感光性樹脂層」と特定されることと「バ』,『
ンプ電極用メタルマスク』の製造をするための『感光性樹脂層』で厚さ
を20μm∼80μm」とすることで構成上の差異はないこととなり,
「厚さを20μm∼80μm」とすることの相違点を検討することすら
意味がない。
また,本願明細書の段落【0015】には,メタルマスクの厚さにつ
いて「本発明のメタルマスクの厚みは,形成するはんだ電極の形状,用
途によって異なるが,はんだバンプ電極としては印刷特性からは20∼
100μmが好ましく,20∼80μmが更に好ましい」とあり,出。
願当初の特許請求の範囲にも「請求項5】厚さが20∼100μmで【
ある請求項1∼4いずれか記載のメタルマスク」とあるように,メタ。
ルマスクの厚さは,形成するはんだ電極の形状,用途などによって,適
宜選択されるもので,20∼80μmの範囲外の厚さのメタルマスクで
あっても「バンプ電極用のメタルマスク」として使われることが記載,
されているから,原告の主張は,出願当初の特許請求の範囲又は明細書
の記載に基づかないものである。
(ウ)前記主張が「バンプ電極用のメタルマスクの厚さのうち,特に20,
μm∼80μmと特定した」との主張であれば,まさに審決が述べたよ
うに「メタルマスクの厚さは,形成するバンプなどのクリームはんだ,
パターンの形状・大きさ,メタルマスクの装着性や耐久性,電極パッド
との密着性などを考慮して当業者が適宜設計しうる事項であり厚,」,「
さを20μm∼80μm」とすることと,例えば,当該数値範囲外の値
であるが,出願当初の特許請求の範囲である「厚さを90μm」とする
ことで,異質な効果や顕著な効果を奏するような差異が生じるものでは
ないから「20μm「80μm」という値自体に臨界的意義が見出,」,
せないものである。
,,「,(エ)いずれにしても原告の主張は失当でありメタルマスクの厚さは
形成するバンプなどのクリームはんだパターンの形状・大きさ,メタル
マスクの装着性や耐久性,電極パッドとの密着性などを考慮して,当業
者が適宜設計しうる事項にすぎず,メタルマスクの厚さについて『2,
0μm『80μm』という値自体にも特段の臨界的意義も見いだせな』,
い」とした審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1請求の原因(1)(特許庁における手続の経緯,(2)(発明の内容,(3)(審))
決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
審決は,本願発明は引用発明1,2及び周知技術から容易想到であると判断
し,原告はこれを争うので,以下,これに関する原告主張の取消事由について
個別に判断する。
2取消事由1(引用発明2認定の誤り)について
(1)引用文献2記載の露光方法
ア原告は,レーザー光線を露光に使用する場合でも,例えばレーザー光線
をレンズで拡散したり,又は平面状にレーザー光線を並べる等の,走査を
行わない様々な方法が当然にあり得るのであり,単に,引用発明2につい
て,広い範囲にレーザーを使用していることをもって「何らかの走査を,
行っていることは明らかである」と認定する(審決4頁18行∼19行)
ことは誤りであると主張するので,以下検討する。
イ引用文献2には,アディティブ法によるメタルマスクの製造に関して以
下の記載がある。
・本発明方法に用いられるメタルマスクは,目的とする回路パターンの「
形状に対応して透孔を有する金属板であり,透孔から蒸着物質が基材表
面に蒸着され,透孔以外の部分では遮へいされて金属が基材表面に蒸着
されないため透孔の形状に応じた回路パターンを有する蒸着膜を形成す
ることができる。メタルマスクの材質は蒸着物質を遮へいするものであ
れば特に制限はなく,例えば,銅,ニッケル,銀,金,アルミニウム,
クロム,錫およびこれらの金属の合金などが挙げられ,これらのうち磁
力によって吸引される磁性体,殊にニッケルがプリント配線板基材の裏
面から磁石などの磁力を利用して基材表面に密着させることができ,か
つ錆びにくい点から好ましい。メタルマスクの厚さは10∼500μm
程度が好ましく,さらには20∼200μmの範囲であることが好まし
い。
メタルマスクは金属板をレーザーによって直描する方法や,後述する
実施例6に示すように金属類,特に磁性をもつ金属板表面にレジストパ
ターンを形成した後,薬液にてエッチングする方法などによっても作成
できる。しかし,本発明において好ましくは,精度の点などからアデイ
テイブ法によって作成したメタルマスクを使用する。
本発明に従うアデイテイブ法によるメタルマスクの製造方法について
説明する。
まず,一段のアデイテイブ法によるメタルマスクは,
(1)ベースフイルム上にフオトレジスト層を形成し,該フオトレジス
,,ト層をパターンマスクを介して差別化して露光した後現像を行ない
ベースフイルム上にパターンを有するレジスト層を形成する工程;
(2)ベースフイルムの該現像によりレジスト層が除去された部分にメ
ッキ層を形成する工程;および
(3)残存レジスト層およびベースフイルムを除去する工程;
を順次行なう方法によって得ることができる(4頁左上欄8行∼左下。」
欄5行)
・このフオトレジスト層の厚さは,10∼500μmであることが好ま「
しく,さらに好ましくは20∼200μmである。
上記の如くして調整されるフオトレジスト層を備えたベースフイルム
から本発明に従いメタルマスクが製造される。その製造工程工程につい
て以下さらに説明する(5頁右上欄7行∼13行)。」
・露光工程「
フオトレジスト層にパターンマスクを介してimagewiseに活
性光線を露光する。
露光に使用しうる活性光線は,一般には3,000∼4,500Åの
。,波長を有する光線が適しているそのような光線を発する光源としては
例えば,太陽光,水銀灯,キセノンランプ,アーク灯およびレーザー光
線などがあり,水銀灯としては高圧水銀灯,超高圧水銀灯,メタルハラ
イドランプ,ケミカルランプなどが使用される。活性光線の照射による
フオトレジスト層の硬化は1秒∼20分の範囲,通常は数分以内で行な
われる(5頁右上欄14行∼左下欄5行)。」
ウ上記記載によれば,引用文献2には,フォトレジスト層をパターンマス
クを介して露光する際の光源として,太陽光,水銀灯,キセノンランプ,
アーク灯及びレーザー光線などがあることが記載されているが,各光源を
用いた具体的な露光方法については記載されておらず,レーザー光線を光
源とする露光について「走査」に関する明示的な記載もない。,
エこのように,引用文献2には,露光方法を具体的に特定する記述はない
から,その実施においては,特別の露光方法は採用されておらず,当業者
(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が通常採
用する手段により露光を行っていると解するのが相当である。
そこで,次に,一般的なレーザー光線による露光について検討する。
(2)レーザー光線による露光の周知技術
ア引用文献2と同様にフォトマスクを介してフォトレジスト層にレーザー
光線を照射する露光装置の例である特開2003−306396号公報
(発明の名称「フッ化カルシウム結晶の検査及び製造方法,並びに,かか
るフッ化カルシウム結晶から製造された光学素子,出願人キャノン株」
式会社,公開日平成15年10月28日。乙7)には,以下の記載があ
る。
・発明の実施の形態】【
「以下,図8を参照して,本発明の例示的な露光装置100について説
明する。ここで,図8は,露光装置100の概略ブロック図である。露
光装置100は,回路パターンが形成されたマスク又はレチクル(本出
),願ではこれらの用語を交換可能に使用する31を照明する照明装置と
プレート33を支持するステージ34と,照明されたマスクパターンか
。」ら生じる回折光をプレート33に投影する投影光学系32とを有する
(段落【0060)】
・本実施形態に適用可能な露光装置100は,例えば,ステップアンド「
リピート方式やステップアンドスキャン方式でマスク31に形成された
回路パターンをプレート33に露光する投影露光装置やレンズ式等倍投
影露光装置である。かかる露光装置は,サブミクロンやクオーターミク
ロン以下のリソグラフィ工程に好適であり,以下,本実施形態ではステ
ップアンドスキャン方式の露光装置(スキャナー」とも呼ばれる)を「
例に説明する。ここで「ステップアンドスキャン方式」は,マスクに,
対してウェハを連続的にスキャンしてマスクパターンをウェハに露光す
ると共に,1ショットの露光終了後ウェハをステップ移動して,次のシ
ョットの露光領域に移動する露光方法である「ステップアンドリピー。
ト方式」は,ウェハのショットの一括露光ごとにウェハをステップ移動
して次のショットを露光領域に移動する露光方法である(段落【00。」
61)】
「,,・照明装置は転写用の回路パターンが形成されたマスク31を照明し
光源部21と照明光学系とを有する。照明光学系は露光機構部22内に
設けられている。光源部21と露光機構部23は別個独立に構成され,
物理的に分離されている。後述するマスク31と,投影光学系32,プ
。」(【】)レート33なども露光機構部22内に設けられる段落0062
・光源部21は,照明光源23と,折り曲げミラー24と,凹レンズ2「
5と,凸レンズ26と,折り曲げミラー27と,オプティカルインテグ
レータ28とを含む(段落【0063)。」】
・本実施形態は照明光源23としてFエキシマレーザーを使用するが,「2
本発明は,ArFエキシマレーザー,KrFエキシマレーザー等その種
類は問わず,また,エキシマレーザーにも限定されず,例えば,YAG
レーザーを使用してもよいし,そのレーザーの個数も限定されない。例
えば,独立に動作する2個の固体レーザーを使用すれば固体レーザー相
互間のコヒーレンスはなく,コヒーレンスに起因するスペックルはかな
り低減する。さらにスペックルを低減するために光学系を直線的又は回
転的に揺動させてもよい。また,光源部1120に使用可能な光源はレ
ーザーに限定されるものではなく,一又は複数の水銀ランプやキセノン
ランプなどのランプも使用可能である(段落【0064)。」】
・レンズ25及び26は,照明光源23からの平行光束をおおよそオプ「
ティカルインテグレータ28の大きさにビーム形状に整形するビームエ
キスパンダーである。なお,光源部21は,コヒーレントなレーザー光
束をインコヒーレント化するインコヒーレント化光学系を使用すること
が好ましい。オプティカルインテグレータ28はレチクル上を均一に照
明するためのハエの目レンズや2組のシリンドリカルレンズアレイ(又
はレンチキュラーレンズ)板を重ねることによって構成されるインテグ
,。」レーター等を含むが光学ロッドや回折素子に置換される場合もある
(段落【0065)】
・照明光学系はマスク31を照明する光学系であり,折り曲げミラー2「
9及びコンデンサーレンズ30を有する。コンデンサーレンズ30はオ
プティカルインテグレータ28が発した光束を平行化してマスク31を
。,,,,均一に照明するその他照明光学系は必要に応じてレンズミラー
オプティカルインテグレータ,絞り等を含む。例えば,コンデンサーレ
ンズ,ハエの目レンズ,開口絞り,コンデンサーレンズ,スリット,結
像光学系の順で整列する等である。照明光学系は,軸上光,軸外光を問
わず使用することができる。かかる照明光学系のレンズなどの光学素子
に本発明の検査方法で合格した光学素子を使用することができる(段。」
落【0066)】
・マスク31は,例えば,石英製で,その上には転写されるべき回路パ「
ターン(又は像)が形成される。マスク31は,レチクルホルダ31a
に吸着保持され,図示しないマスクステージに支持及び駆動される。マ
スク31から発せられた回折光は投影光学系32を通りプレート33上
に投影される。プレート33は,ウェハや液晶基板などの被処理体であ
りレジストが塗布されている。マスク31とプレート33とは共役の関
係にある。スキャナーの場合は,マスク31とプレート33を走査する
ことによりマスク31のパターンをプレート33上に転写する。ステッ
パーの場合は,マスク31とプレート33を静止させた状態で露光が行
われる(段落【0067)。」】
イ上記記載によれば,照明光源としてエキシマレーザー等を使用し(段落
【0064,回路パターンが形成されたマスク又はレチクルを用いる露】)
光装置の操作方法としては(段落【0060,マスクに対してウェハを】)
連続的にスキャンしてマスクパターンをウェハに露光すると共に,1ショ
ットの露光終了後ウェハをステップ移動して,次のショットの露光領域に
移動する露光方法である「ステップアンドスキャン方式」や,ウェハのシ
ョットの一括露光ごとにウェハをステップ移動して次のショットを露光領
域に移動する露光方法である「ステップアンドリピート方式」があり(段
落【0061,スキャナー(ステップアンドスキャン方式)の場合は,】)
マスク31とプレート33を走査することによりマスク31のパターンを
,()プレート33上に転写するがステッパーステップアンドリピート方式
の場合は,マスク31とプレート33を静止させた状態で露光が行われる
(段落【0067)ものと認められる。】
ウ他方,本願明細書(公開特許公報,甲21)の段落【0013】の「本
発明においては,紫外線の収束ビームを感光性樹脂層に直接照射して配線
パターン状に走査し露光を行う,所謂直接描画する「各レーザー光を感。」
光性樹脂層に焦点が合致するように収束し,走査しながら,開口部を描画
する」等の記載によれば,本願発明において「走査」とは,レーザー光。,
線を移動させつつパターンを描画することであると解されるところ,乙7
記載の「ステップアンドスキャン方式」ではレーザー光線の走査を行って
いるといえるものの「ステップアンドリピート方式」では,マスクとプ,
レートを静止させた状態で一括露光が行われるから,露光時にレーザー光
線の走査が行われていると認めることはできない。
したがって,乙7の上記記載によれば,照明光源にレーザー光線を使用
した露光方法においては,レーザー光線の走査を行わない方法も存在する
ことが認められる。
エまた,前記(1)のとおり,引用文献2の露光工程については,レーザー
光線を光源とする露光の際に「走査」を行うとの明示的な記載がなく,具
体的な露光手段については記載されていないところ,上記ウのとおり,照
明光源にレーザー光線を使用した露光方法として,レーザー光線の走査を
行わない方法も存在するから,引用文献2のレーザー光線について「何,
」。らかの走査を行っていることは明らかであると認定することはできない
このように,引用文献2に「フォトレジスト層をパターンマスクを介し
て『走査しながら』露光」することが具体的に記載されていると認定する
のは正確性に欠けるといえる。
(3)審決の結論への影響の有無
アこのように,審決には,引用文献2の記載事項の認定について正確性に
欠ける部分があるので,次にこの点が審決の結論に影響を及ぼすか否かを
検討する。
イまず,前記乙7の記載によれば,照明光源にレーザー光線を使用した露
光方法として,レーザー光線の走査を行わない方法も存在するが「本実,
施形態ではステップアンドスキャン方式の露光装置(スキャナー」とも「
呼ばれる)を例に説明する(段落【0061)と記載されているよう。」】
に,実施の形態として具体的に説明され,使用されている方法は,レーザ
ー光線を走査する露光方法である。
そして,審決において挙げられた文献についてみると,特開平6−14
8897号公報(甲6)には「この状態で,レーザ光源とレーザビーム,
13を線走査または面走査できる機構とを有する描画装置(図示せず)を
介して,タンク11の上方から紫外線硬化樹脂10に向けて紫外線による
描画(露光)を施し,この時に硬化する紫外線硬化樹脂10をメッシュ2
上に積層させて開口部4を有する第1層の遮蔽膜3aを形成する(同図
(b(段落【0018)と記載され,特開平11−174686号))。」】
公報(甲7)には「・・・設定された図案,例えばCAD図案に従って,
紫外線レーザービームを走査させて前記樹脂を選択的に硬化させる・・。
・(段落【0026】)と記載され,また,特開2003−107723」
号公報(乙1)には「・・・例えば,上述の電子ビーム露光法や,レー,
ザビーム露光法では,電子ビームやレーザビームを感光材料3の所定の領
域に走査して,その領域を感光する・・・(段落【0028)と記載。」】
されており,露光するためのレーザー光線を走査する技術は,本件出願の
優先日(平成15年11月19日)前に周知であったものと認められる。
また,本願明細書の実施例1において使用された露光装置であって,本
件出願の優先日前に公然実施されていることが明らかである「ペンタック
ス株式会社製DI−2080」も,その製品仕様(乙4)によれば,光源
に紫色レーザーダイオード(LD)を採用し,イメージング方式は二次元
表示素子走査露光であるから,露光の際にレーザー光線の走査を行ってい
るものと認められる。
ウしたがって,照明光源にレーザー光線を使用した露光方法において,レ
ーザー光線の走査を行うことは,本件出願の優先日前に周知の技術であっ
たものであり,当業者が必要に応じて適宜採用し得る手段にすぎないもの
と認められる。
エそうすると,引用文献2には,レーザー光線により「走査しながら」露
光することが具体的に記載されていると認定できないとしても,審決は,
引用文献2に記載された露光方法に当然に含まれる,周知の走査による露
光方法の部分を引用発明2として認定していると解し得るし,引用発明2
として,レーザー光線により「走査しながら」露光することのみを認定す
ることが誤りであるとしても,本願発明と前記引用発明1との相違点のう
ち,レーザー光線につき「走査しながら」露光することは,単に周知の技
術を採用したものにすぎず,当業者が容易になし得ることであるから,引
用発明2の認定の誤りは,本願発明の容易想到性の判断の結論に影響を及
ぼすものではない。
(4)したがって,審決による引用発明2の認定に誤りがあるとしても,取消事
由1に関する審決の誤りは,審決の結論に影響を及ぼさないことになる。
3取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について
(1)引用発明1に引用発明2を適用する動機付けにつき
ア原告は,平面的回路パターン形成用メタルマスクの分野における引用文
献2にレーザーを使用した場合の記載が存在するとしても,それをバンプ
電極用メタルマスクの分野における引用発明1に適用する動機付けは存在
しないと主張する。
原告は上記主張の前提としてバンプ電極用のメタルマスクは厚く2,,(
0∼80μm,メタルマスクを作る際のパターン形成用の感光性樹脂層)
は,そのメタルマスクの厚さよりも更に厚いものが用いられるところ,レ
ーザーは圧倒的に出力が小さいため,このような厚い感光性樹脂層をレー
ザーで露光することは実用的でないと考えられていた旨主張する。
イしかし,引用文献2に記載されたメタルマスクが「プリント配線板基,
材表面にパターンを形成したメタルマスクを密着させ,蒸着物質を気相法
により基材表面に蒸着させて回路を形成するプリント配線板の製造方法」
(特許請求の範囲1)で使用するものであるとしても,引用文献2には,
アディティブ法によるメタルマスクの製造に関して,光源としてレーザー
光線を使用することのほか,フォトレジスト層の厚さを「さらに好ましく
は20∼200μm」とすることが記載されている(前記2(1)イ参照)
から,20∼200μmの厚さのフォトレジスト層(感光性樹脂層)をレ
ーザー光線で露光することが開示されているといえる。
また,レジストパターンの製造法に関する特開2003−114521
号公報(乙2)や特開2003−140329号公報(乙3)には「塗,
布されるレジスト層の厚みは,用途により異なるが,乾燥後の厚みで1∼
100μm程度であることが好ましく(乙2の段落【0061,乙3の」】
段落【0033)との記載とともに「レジスト層の積層が完了した後,】,
工程(ii)として,画像状に活性光線を照射して,露光部の前記レジスト
層を光硬化させる・・・また,マスクパターンを用いずにレーザー直接。
描画露光を行うこともできる乙2の段落0066乙3の段落0。」(【】,【
038)と記載されているから,甲9の段落【0003】の記載にかか】
わらず,20∼80μmの厚さを含む比較的厚い感光性樹脂層に対して,
レーザー光線で露光することは,本件出願の優先日前から行われていたこ
とと認められ,格別困難であったとはいえない。
ウしたがって,レーザーで厚い感光性樹脂層の露光を行うことは実用的で
ない旨の原告の主張は理由がなく,引用文献2記載のメタルマスクが,蒸
着による平面的回路パターン形成に用いられるメタルマスクであるとして
も「さらに好ましくは20∼200μm」の厚さのフォトレジスト層を,
レーザー光線で露光する工程を経て形成されるものである以上,引用文献
2記載のメタルマスクを製造するためのレーザー光線による露光と,バン
プ電極形成用のメタルマスクを製造するためのレーザー光線による露光と
を区別すべき理由はない。
エそうすると,引用発明1の「パターニングしたレジストをマスクにし,
てバンプ電極形成用のメタルマスクをアディティブ法で作製する際におけ
る,レジストのパターン形成」に対して,同じくアディティブ法によるメ
タルマスク製造における,同程度の厚さのフォトレジスト膜をパターン形
成する手段である,引用文献2記載のレーザー光線による露光方法を適用
することの動機付けは,技術分野の関連性,課題の共通性等からみて,当
然に存在するということができ,引用文献2記載のアディティブ法による
メタルマスクの製造方法を,バンプ電極形成用メタルマスクをアディティ
ブ法で形成する引用発明1に適用することは,当業者が容易に想到し得る
ことである。
したがって,引用発明1に引用発明2を適用する動機付けは存在しない
との原告の上記主張は採用することができない。
(2)周知技術1を採用する動機付けにつき
ア原告は,審決が周知技術1の例として挙げた2つの発明は,いずれもマ
スク上の開口部の平面形状を正確に転写することを目的とするスクリーン
メッシュに関する発明であり,技術的分野が異なる上,開口部の内部壁面
の平滑性に関しては全く問題にしておらず,バンプ電極用メタルマスクの
製造において周知技術1を採用する動機付けも存在しないと主張する。
イしかし,審決は「パターンマスクを介さずに感光材料に直接照射・露,
光すること(周知技術1)が,レーザー露光の技術分野において従来よ」
り周知であることを立証するために,甲6及び甲7を挙げたものである。
すなわち,審決は,引用文献2に「アディティブ法によりメタルマスク
を形成する際に,導電性表面を有するベースフィルム上にフォトレジスト
層を形成し,紫外線のレーザー光線により露光し,現像を行うこと」が記
載されており,引用発明1のアディティブ法に,引用発明2のアディティ
,,,ブ法を適用することを前提にその際レーザー露光の技術分野において
従来より周知である,レーザー光線をパターンマスクを介さずに感光材料
に直接照射・露光すること(周知技術1)を採用することは,当業者が容
易に想到し得るものと認定判断したものである。
ウところで,甲6及び甲7においては,パターンマスクを介さずにレーザ
ー光線を感光材料に直接照射する方法が,いずれもスクリーン印刷に使用
するスクリーン(スクリーンメッシュ)の製造工程において用いられてい
るが,乙2(発明の名称「感光性樹脂組成物,感光性エレメント,レジス
トパターンの製造法およびプリント配線板の製造法,出願人日立化成」
工業株式会社,公開日平成15年4月18日。段落【0064】∼【0
066)及び乙3(発明の名称「感光性樹脂組成物,これを用いた感光】
性エレメント,レジストパターンの製造法およびプリント配線板の製造
法,出願人日立化成工業株式会社,公開日平成15年5月14日。」
段落【0037【0038)に,一般的な基板(回路形成用基板)上】,】
に形成したレジスト層の露光においても「マスクパターンを用いずにレ,
ーザー直接描画露光を行うこともできる」と記載されていることから明。
らかなように「パターンマスクを介さずに感光材料に直接照射・露光す,
ること(周知技術1)は,スクリーンメッシュの製造においてのみ使用」
される技術ではなく,一般的なレーザー露光の技術分野において,周知の
技術であるといえる。
したがって,審決は,一般的なレーザー露光の技術分野における周知技
術としての「パターンマスクを介さずに感光材料に直接照射・露光する,
こと(周知技術1)を引用発明1に適用するものであって,スクリーン」
メッシュの製造方法にのみ用いられる露光方法を,引用発明1に適用する
ものではない。
エまた,甲6及び甲7がスクリーンメッシュに関する発明であって,原告
が主張するように,バンプ電極形成用メタルマスクにおいて要求される程
度の「開口部内部壁面の平滑性」が求められるものではないとしても,甲
6及び甲7上「パターンマスクを介さずに感光材料に直接照射・露光す,
ること」が「開口部内部壁面の平滑性」を劣化させるとの記載はなく,他
に,甲6及び甲7記載の周知技術1を引用発明1に適用することが困難で
あることを示唆する記載も見当たらないから,周知技術1を採用すること
に阻害要因があるということはできない。
オ以上のとおり,審決が認定した「パターンマスクを介さずに感光材料に
直接照射・露光すること(周知技術1)は,スクリーンメッシュの製造」
に特化した技術ではなく,一般的なレーザー露光の技術分野における周知
技術であるから,バンプ電極形成用メタルマスクの製造におけるレーザー
露光の工程において,周知技術1を採用することに何ら困難性はないとい
うべきである。
(3)レーザーの配置等につき
ア原告は,レーザーをアレー状に配置することで個々のレーザーの出力は
小さくてすむことになり,レーザーをアレー状に配置して感光性樹脂層全
体に焦点が合致するように収束し,走査しながら感光性樹脂層に直接照射
・露光を行うことによって特段の効果が得られることになるからこそ,本
願発明においてはレーザーをアレー状に配置しているのであり,本願発明
のような目的がなければ,レーザーをアレー状に配置するという動機付け
は得られない旨主張する。
しかし,以下のとおり「レーザーをアレー状に配置」することが,直,
ちに「個々のレーザーの出力は小さくてすむ」との作用効果を奏するもの
ではない。
イまず,原告は「本願発明においては弱いレーザー光を束ねて用いてい,
る「感光性樹脂層を硬化させるためのエネルギーは一定であるので,複」,
数のレーザーを用いれば,各レーザーの出力は必然的に小さくてすむこと
になる」等主張し,これらの主張は,複数のレーザーを同じ場所に照射す
るとの趣旨であると解されるが,このような主張は本願明細書の記載に基
づくものではない。
すなわち,レーザーのアレー状の配置については,本願発明の特許請求
の範囲に「複数の紫外線半導体レーザーをアレー状に配置して各レーザー
光を該感光性樹脂層に焦点が合致するように収束し,走査しながら直接照
射・露光を行い」と記載され,本願明細書に「例えば,複数の紫外線半導
体レーザーをアレー状に配置し,各レーザー光を感光性樹脂層に焦点が合
致するように収束し,走査しながら,開口部を描画する(段落【001。」
3)と記載されるのみであって,感光性樹脂層の同じ場所にレーザー光】
を束ねて照射するとの記載はなく,また本願明細書の上記記載から,複数
のレーザーを一箇所に集中して用いることが自明であるともいえない。
ウそうすると「レーザーをアレー状に配置」することには,複数のレー,
ザーがそれぞれ別の箇所の感光性樹脂層に焦点が合致するように収束する
ものも含まれ,必ずしも「一つ一つのレーザーの出力が小さくてすむ」,
ように照射することに限られるものではないから,この点に関する原告の
主張は,特許請求の範囲のみならず,本願明細書の記載にも基づかないも
のである。
エまた,原告は「レーザーをアレー状に配置して感光性樹脂層全体に焦,
点が合致するように収束」すると主張しており,この点に関して「一つ,
の強いレーザー光を用いる場合,感光性樹脂層は焦点が合わされた部分か
ら硬化していくため,厚みのある感光性樹脂層を均等に硬化させることが
できないのに対し,レーザーをアレー状に配置すれば,複数のレーザーの
焦点を感光性樹脂の『層』全体にわたって合わせることができ,開口部内
部壁面の深さ方向が均質に硬化する」旨主張する。。
原告の上記主張は「各レーザーの焦点の深さを互いに異ならせ,それ,
らのレーザーを束ねることによって,複数のレーザーの焦点を感光性樹脂
の「層」の厚さ方向全体にわたり分散させて合わせることができ,感光性
樹脂層を均質に露光できる」との趣旨であると解されるが,本願発明の特
許請求の範囲や本願明細書には,原告の上記主張に沿った記載は見当たら
,,「『』ずレーザーを束ねることも複数のレーザーの焦点を感光性樹脂の層
」,,全体にわたって合わせることも本願明細書には何ら記載されておらず
本願明細書の記載から自明な事項でもないから,原告の主張は本願明細書
の記載に基づくものではなく,採用することができない。
オまた,原告は,本願発明の「各レーザー光を該感光性樹脂層に焦点が合
致するように収束」することに関して,バンプ電極を形成するための感光
性樹脂層は厚いものであるから「点」でなく「層」に焦点を合致させる,
という構成は当然ではないと主張するが,既に検討したとおり,本願発明
,「『』の特許請求の範囲の記載が複数のレーザーの焦点を感光性樹脂の層
全体にわたって合わせること」を意味していると解することはできず,ま
た,複数の焦点を「層」全体にわたって合致させることが,本願明細書の
記載から自明であるともいえない。
したがって,この点に関する原告の主張も,本願明細書の記載に基づく
ものではなく,採用できない。
カそして,引用発明1及び2ともに,露光・現像することにより,パター
ンを有するレジスト層を作成し,それにアディティブ法によるメッキをし
て,メタルマスクを作成する方法である以上,感光性樹脂層の層の厚さ方
向についても硬化される必要があることは当然であるから,感光性樹脂層
の層の深さ方向についても,感光性樹脂層が硬化する程度に,感光性樹脂
「層」に光の焦点が合致するものであることは明らかである。
したがって,審決が「レーザー光の焦点を露光する層に合致させること
は当然である」と認定したことに誤りはない。。
キ以上のとおり,原告主張の「レーザーをアレー状に配置すること」によ
る作用効果は,本願発明の特許請求の範囲の記載だけでなく,明細書の記
載にも基づかず,また,その作用効果自体も本願明細書に記載されていな
いものであるから「レーザーをアレー状に配置して感光性樹脂層全体に,
焦点が合致するように収束し,走査しながら感光性樹脂層に直接照射・露
光を行うことによって特段の効果が得られることになる」とはいえない。
したがって「本願発明のような目的がなければ,レーザーをアレー状,
に配置するという動機付けは得られない」との原告の主張は,その前提に
おいて失当であり,複数のレーザーをアレー状に配置することについて,
格別の困難性があるということはできない。
(4)発明の効果(平滑性の向上)につき
ア原告は,本願発明の効果(マスクの開口部の内部壁面の平滑性の向上)
について「レーザー光線が均質で直進性の高い光線である」ことにより,
得られるものではなく,これについては,一般には,円滑な開口部形状を
有するフォトマスクを用いた方が,レーザーを走査しながら直接照射する
よりも円滑になると考えるのが通常であり,レーザーを走査した方が内部
壁面が円滑になるという発想に想到するのは容易ではないと主張する。
また,原告は,別紙の図2が従来技術(フォトマスクを介して光を感光
性樹脂層に照射・露光を行う方法)により得られたメタルマスクの開口部
内部壁面の写真であり,図3が本願発明の方法により得られたメタルマス
,。クの開口部内部壁面の写真であるとして本願発明の効果を主張している
イしかし,原告は,審判段階では「感光性樹脂を紫外線半導体レーザー,
で露光し,感光性樹脂で開口部に対応する凸部を形成したとき凸部の壁面
が平滑になる理由は,(1)フォトマスクを使用した露光の場合には,フォ
トマスクのコーナーで光の回折が生じ,またフォトマスク素材における光
の屈折があるため均等な硬化が妨げられるのに対し,紫外線半導体レーザ
ーの収束ビームでフォトマスクを介さず直接露光した場合にはそのような
事情がないこと,(2)レーザー光は直進性が強く,光硬化が深さ方向で均
一であること,によるものと解される(審判請求書の手続補正書[甲1。」
6]の2頁下から4行∼3頁2行)と主張していたものであり,これらの
主張,特に上記(2)の主張は,本願発明の効果が「レーザー光線が均質で
直進性の高い光線である」ことにより得られるものではないとする原告の
本訴での主張と矛盾するものである。
,(),,そして広辞苑第6版株式会社岩波書店発行にはレーザーにつき
「位相がよく揃い収束性もよいので,狭い面積にきわめて高密度の光エネ
ルギーを集中させうる」と記載されており「レーザー光線が均質で直進。,
性の高い光線である」ことは技術常識といえる。
ウ他方で,本願明細書やその他の証拠を検討しても「メタルマスクの開,
口部内部壁面の平滑性の向上」との効果が,直進性の高いレーザー光線を
採用したことにより得られるものではないとする根拠は見当たらないこと
からすれば,本願発明の作用効果は,レーザー光線を採用したことにその
一因があるものと推認される。
そして,前述のとおり「均質で直進性の高い光線である」レーザー光,
,,線を照射すれば照射された感光性樹脂層の内部壁面が平滑になることは
当業者であれば当然予測し得ることである。
また,フォトマスクを使用した露光の場合には,フォトマスク開口部の
コーナーでの光の回折やフォトマスク素材における光の屈折により均等な
硬化が妨げられるのに対し,本願発明では,フォトマスクを介さず直接露
光するため,平滑な開口部壁面が得られるとしても,前記(2)で検討した
,「」とおりパターンマスクを介さずに感光材料に直接照射・露光すること
(周知技術1)の採用は,当業者が容易に想到し得ることであり,同周知
技術1を採用した場合には,パターンマスク(フォトマスク)がなく,光
の回折や屈折等の問題が生じないことは当然に予測し得るから,パターン
マスクを使用しないことに基づく作用効果は格別のものということはでき
ない。
エなお,原告準備書面(1)に添付された写真である別紙の図2及び3に示
されたメタルマスクが,それぞれどのような装置により,どのような製造
条件で形成されたメタルマスクであるかは不明であり,図3に示されたメ
タルマスクが,本願発明に含まれるいずれかの実施例に基づいて得られた
ものかも定かではなく,これらの写真をもって,本願発明の作用効果の有
無を判断することはできない。
(5)以上のとおり,引用発明2及び周知技術に基づいて,相違点1に係る本願
発明の構成を想到することは,当業者にとって容易であり,また,当該相違
点1に基づく作用効果も,当業者が容易に予測し得る程度のものである。
したがって,相違点1についての審決の認定判断に誤りはなく,原告の主
張する取消事由2は理由がない。
4取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
(1)臨界的意義
ア原告は,20μm∼80μmという範囲は,バンプ電極用のメタルマス
クの厚さ(20∼80μm)であり,バンプ電極用メタルマスクを作る際
のパターン形成用の感光性樹脂層を,レーザーで直接照射・露光するとい
う発想は,本願発明のような視点に立たなければ得られないものであるか
ら,当該厚さには臨界的意義があると主張する。
イ原告の上記主張は不明確であるが,前記3(1),(2)のとおり「バンプ,
電極形成用メタルマスクを作る際のパターン形成用の感光性樹脂層を,レ
ーザーで直接照射・露光するという発想」は,引用発明1,2及び周知技
,,,術に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるから原告の主張は
その前提において失当である。
ウそして,本願明細書(甲21)の段落【0015】には「・・・本発,
明のメタルマスクの厚みは,形成するはんだ電極の形状,用途によって異
なるが,はんだバンプ電極としては印刷特性からは20∼100μmが好
ましく,20∼80μmが更に好ましい。一般にメタルマスクの厚が薄く
なればメタルマスクの強度の点から印刷特性に変化はなくても,変形が生
。」,,じ易いと記載されておりバンプ電極用のメタルマスクの厚さとして
,,20∼80μmが好ましいことが記載されているものの本願明細書には
厚さを「20μm∼80μm」とすることが,それ以外の厚さとすること
と比較して,異質な効果や顕著な効果を奏することを示す記載や示唆もな
いから「20μm「80μm」という値自体に臨界的意義を見出すこ,」,
とはできない。
エしたがって,審決が「メタルマスクの厚さは,形成するバンプなどのク
リームはんだパターンの形状・大きさ,メタルマスクの装着性や耐久性,
電極パッドとの密着性などを考慮して,当業者が適宜設計しうる事項にす
ぎず,メタルマスクの厚さについて『20μm『80μm』という値,』,
自体にも特段の臨界的意義も見いだせない。」と認定判断したことに誤
りはない。
(2)したがって,相違点2についての審決の認定判断に誤りはなく,原告の主
張する取消事由3は理由がない。
5結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はすべて理由がない。よって,原告の請
求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官東海林保
裁判官矢口俊哉

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