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平成26年6月27日判決言渡
平成23年(行ウ)第674号第二次納税義務納付告知処分取消請求事件
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
東京国税局長が原告に対して平成22年5月19日付けでした株式会社P1
の平成20年度法人税の滞納国税本税6億3043万8619円及びこれに対
する加算税2億647万5500円についての第二次納税義務に係る納付通知
書による告知処分(ただし,平成23年5月23日付け裁決により一部取り消
された後のもの)を取り消す。
第2事案の概要
原告と株式会社P1(以下「滞納会社」という。)は,いわゆるP2の運営
に関与していた会社であるところ,原告は,滞納会社の唯一の株主として,同
社から剰余金の配当(188億9011万1520円。以下「本件配当」とい
う。)を受けた。その後,東京国税局長は,本件配当が国税徴収法39条にい
う「第三者に利益を与える処分」に当たるとして,原告の納付の限度額を15
1億1208万9216円(本件配当の額から源泉所得税額を控除した額)と
する,滞納会社の滞納国税に係る第二次納税義務の告知処分(以下「本件告知
処分」という。)をした。本件は,原告が,本件告知処分(ただし,平成23
年5月23日付け裁決により一部取り消された後のもの)が違法であると主張
して,その取消しを求める事案である。
1関係法令等の定め
(1)国税徴収法(ただし,平成19年法律第6号による改正前のもの。以下「徴
収法」という。)
ア39条
滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足
すると認められる場合において,その不足すると認められることが,当該
国税の法定納期限の一年前の日以後に,滞納者がその財産につき行つた政
令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡(担保の目的でする譲
渡を除く。),債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると
認められるときは,これらの処分により権利を取得し,又は義務を免かれ
た者は,これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者が
その処分の時にその滞納者の親族その他の特殊関係者であるときは,これ
らの処分により受けた利益の限度)において,その滞納に係る国税の第二
次納税義務を負う。
イ34条
法人が解散した場合において,その法人に課されるべき,又はその法人
が納付すべき国税を納付しないで残余財産の分配又は引渡しをしたときは,
その法人に対し滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると
認められる場合に限り,清算人及び残余財産の分配又は引渡しを受けた者
(前条の規定の適用を受ける者を除く。以下この条において同じ。)は,
その滞納に係る国税につき第二次納税義務を負う。ただし,清算人は分配
又は引渡しをした財産の価額の限度において,残余財産の分配又は引渡し
を受けた者はその受けた財産の価額の限度において,それぞれその責めに
任ずる。
(2)国税徴収法施行令14条
法第39条(無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務)に規定す
る政令で定める処分は,国及び法人税法第2条第5号(公共法人の定義)に
規定する法人以外の者に対する処分で無償又は著しく低い額の対価によるも
のとする。
2前提事実(当事者間に争いがないか,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨によ
り容易に認定することができる事実)
(1)当事者等
アP3は,平成11年6月28日,P4及びP5とともに,「株式会社P
6」の商号で,企業経営及び財務のコンサルティング等を目的とする会社
(現商号は「株式会社P7」。以下「P7社」という。)を設立し,同社
の代表取締役に就任して,投資事業を行うこととした。同社は,平成12
年9月,関東財務局に投資顧問業者として登録され,平成13年3月,内
閣総理大臣から投資一任契約の認可を受けた。同社の当時における株主と
その出資割合は,P3(48パーセント),P8株式会社(以下「P8」
という。)(45パーセント),P4(2パーセント),P5(2パーセ
ント),その他(3パーセント)であった。(乙1,2,38)
イ滞納会社は,平成5年11月10日,P8を発起人として,「P9株式
会社」の商号で設立された株式会社である(乙6)。P3は,休眠中であ
った滞納会社を買い取り,平成12年1月6日,その商号を「株式会社P
10」に,その目的を企業経営及び財務のコンサルティング等に変更した
が,平成16年6月まで,滞納会社をそのまま休眠させていた。その後,
滞納会社は,同月1日,商号を「株式会社P11」に変更し,P3は,同
月14日,同社の代表取締役に就任した。P8は,この頃,新たに滞納会
社の株式を取得し,当時における株主とその出資割合は,原告(約45.
3パーセント),P8(約45パーセント),その他(約9.7パーセン
ト)であった。(乙10,38,72)
ウ原告は,P3が,平成11年10月28日,「有限会社P12」の商号
で,資本金300万円を全額出資して,文書の作成及び管理等を目的とし
て設立した会社であり,平成20年8月1日,現商号に変更した(乙17,
18)。
(2)P13の概要
アP13L.P.(以下「P13」という。)は,平成13年1月,タックス・
ヘイブン(租税回避地)である英領ケイマン諸島(以下「ケイマン」とい
う。)の法律に基づき設立されたリミテッド・パートナーシップである。
P13は,投資家から出資を受けて,日本国内の上場企業等に出資した
上,株主として経営の提言を行い,株価を上昇させた上で株式を売却する
ことなどによって,投資を回収する事業(以下「本件投資事業」という。)
を行うことを目的としていた。
P13は,ゼネラル・パートナーとリミテッド・パートナーから構成さ
れており,ゼネラル・パートナーは,P14Ltd.(以下「P14社」とい
う。)であり,リミテッド・パートナーは,P15Ltd.(以下「P15社」
という。)のほか,本邦や海外の投資家から構成されていた。(甲32,
33,乙38,59)
イP14社は,平成12年12月,P13などの管理等を目的として,ケ
イマン法に基づき設立された法人であり,その設立時の役員は,P3,P
4,P5及びその他4名であった。P14社は,平成13年12月17日
の時点において,議決権付普通株式を501株,Aクラス利益配当株式(各
事業年度の配当等を合計150万円まで優先して受け取る権利を有する株
式)を340株,Bクラス利益配当株式(Aクラス利益配当株式に事業年
度の配当等を実施した後,各事業年度の配当等を受け取る権利を有する株
式)を200株それぞれ発行しており,同日時点において,Bクラス利益
配当株式の株主とその出資割合は,P15社110株(55パーセント),
P840株(20パーセント),P418株(9パーセント),P5
14株(7パーセント),その他18株(9パーセント)であった。
他方,P15社も,平成12年12月,ケイマン法に基づき設立された
法人であり,その役員にはP3,P5ほか2名が就任した。P15社のB
クラス利益配当株式(その内容はP14社と同一である。)は100株発
行され,平成13年3月26日時点において,その実質的な株主は,P3
80株(80パーセント),P410株(10パーセント),P51
0株(10パーセント)であった。(甲32,33,37,乙38,64,
71,74,75)
ウP13は,P14社に対し,管理費用として,P13の出資総額の2パ
ーセントに相当する金額を毎年支払い,成功報酬として,時価会計により
算定されるP13の純資産が出資金を超える部分の20パーセントに相当
する金額(以下「本件成功報酬」という。)を支払うこととされていた(甲
32,乙72)。
エP3とP8は,本件投資事業の開始当初,課税を免れるため,本件成功
報酬をケイマン法人であるP14社に留保し,将来的にP14社の出資者
の間で出資割合に応じて配分することを予定していた。そして,P3,P
4及びP5は,P8に対し,P14社が発行予定株式(議決権付普通株式
500株と利益参加株式200株)を発行した後は,株式の追加発行を行
わないことなどを約する念書を差し入れた。(甲37,乙72,73)
オP3とP8は,本件投資事業の開始当初,紹介業務(ファンドに出資す
る投資家を募集し出資をしてもらう業務)を行った者に対して紹介料を支
払うことを合意した。P8は,P13などへの投資を行う一般投資家を募
集することとし,日本国内において「P16投資事業組合」を組成し,そ
の業務執行組合員となり,同組合に自ら出資するとともに,同組合への出
資者を募集した。同組合への出資者としては,P3やP4から紹介を受け
た投資家も含まれていた。同組合は,出資金を,P13のリミテッドパー
トナーとなっている「P17投資事業組合」に出資することにより,P1
3に投資していた。また,P8は,上記組合からの出資のほか,同社自身
でも出資を行っており,P8がリミテッドパートナーとして負担する成功
報酬は免除されていた。(甲30,33,乙72)
カP13への最低出資額は原則として10億円であり,出資総額は,平成
13年末で約482億円,平成14年末で約534億円,平成15年末で
約517億円,平成16年末で約567億円,平成17年末で約1188
億円であった(乙1[96頁])。
他方,P14社が収受した本件成功報酬は,平成13年(事業年度)が
5億4420万600円,平成14年が2億888万8599円,平成1
5年が15億4175万1157円,平成16年が17億1862万51
49円,平成17年が118億5829万2919円であり,その合計額
は,158億7176万2424円であった(乙72,76)。
(3)P13の運営
アP14社は,平成13年6月29日,P7社との間で投資一任契約(以
下「本件投資一任契約」という。)を締結し,P7社に対し,P13の運
用全般を委任した(甲13,乙61,65)。
イP7社は,P13の投資顧問業務のほか,アクティビスト業務(投資対
象の会社の価値を上げるため,当該投資先会社に株主提案を行うなどの活
動をする業務)を行っていたが,平成16年6月頃,アクティビスト業務
を分離して,同社のアクティビスト部門等を滞納会社に移管することとし
た。
これに伴い,P7社は,同月1日,商号を現商号に変更し,P18が同
社の代表取締役に就任した。そして,P7社は,同月25日,滞納会社と
の間で,P13に関するアクティビスト業務につき業務委託契約を締結し
た。他方,滞納会社は,同月1日,商号を「株式会社P11」に変更し,
P3は,同月14日,同社の代表取締役に就任した。
もっとも,その後も,P7社と滞納会社は,P3の主導の下で一体的な
経営がされており,両社の事務所は,平成16年6月以降,同じビルの同
一階に隣り合って設けられ,個々の従業員がP3から直接指揮命令を受け
ていた。(乙1[95頁],10,65)
ウP18は,P7社の代表取締役であったが,年に2,3回開催される同
社の取締役会に出席するのは,P3の依頼を受けて,同社の取締役であっ
たP8の関係者に投資案件の内容を説明する場合に限られていた。また,
P18は,P7社が締結したP14社や滞納会社との業務委託契約(後記
(4)の契約書に係るもの)の詳細を把握しておらず,原告の業務内容につい
ても把握していなかった。(乙65)
エP14社は,滞納会社及び原告に対し,P13への投資家の紹介業務又
は保守業務(出資した投資家に対してファンドの投資運用成果と今後の見
通しに関する状況を報告するなどして投資を継続してもらう業務)を委託
することとし,後記(4)のとおり契約書を締結した。また,P14社は,P
4の支配下にあった株式会社P19(以下「P19社」という。)に対し,
P13への投資家の紹介業務及び保守業務を委託した。なお,その他の関
連会社として,P4の支配下にあった有限会社P20(以下「P20社」
という。)と,P5の支配下にあった有限会社P21(以下「P21社」
という。)とがあり,両社は,平成16年10月31日の時点において,
滞納会社の株主であった(甲36,乙38,弁論の全趣旨)。
(4)通常報酬及び成功報酬に関する契約書等
アP3及びP4は,平成13年5月頃,P13に係る本邦での税務上の取
扱いについて,税理士から,①P14社とP7社との取引(投資一任業務
に係る報酬)に対しては,移転価格税制が適用となり,その額が独立企業
間価格に比べて過少である場合には,独立企業間価格でP7社の日本にお
ける課税所得が算定されることとなること,②P14社が日本国内で業務
を行っているとされた場合には,日本での法人税の課税対象となることな
どの指摘を受けた(甲13,32,37)。P3は,平成14年12月3
1日頃,P14社の役員を辞任した(乙75)。
イP14社とP7社との間の契約書
P14社及びP7社は,平成13年6月29日付けで,本件投資一任契
約に関し「投資一任契約書」(乙61)を作成した。同契約書には,P1
4社がP7社に対し,投資顧問報酬として,基準日における受託資産の額
に一定の割合を乗じた額を毎年支払う旨の条項(10条)があった(乙6
1)。
また,両社は,平成16年前半頃,平成13年12月21日付けで,「成
功報酬に関する覚書」(乙62。以下「本件覚書」という。)を作成した。
本件覚書には,P14社が,P7社に対し,本件投資一任契約に関し,成
功報酬として,P14社において収受した本件成功報酬の60パーセント
に相当する金額を支払う旨の条項(1条)があった。
ウP7社と滞納会社との間の契約書
P7社及び滞納会社は,平成16年6月25日,同日付け業務委託契約
書(乙3)を作成した。その内容は,P7社が,滞納会社に対し,本件投
資一任契約に関し,アクティビスト業務を委託する(1条)とともに,当
該業務の報酬として,以下の金額を支払うというものであった。
(ア)上半期の報酬として,毎年12月末日におけるP13の純資産額の
0.3パーセントに相当する金額(3条1項(1))
(イ)下半期の報酬として,毎年6月末日におけるP13の純資産額の0.
3パーセントに相当する金額(3条1項(2))
(ウ)上記(ア)及び(イ)にかかわらず,P7社において本件覚書に基づき
受領した成功報酬の80パーセントに相当する金額(3条1項(3))
エP14社と滞納会社との間の契約書
P14社及び滞納会社は,平成16年12月28日頃,同日付け「投資
家の保守業務に関する契約書」(乙68)を作成した。その内容は,P1
4社が,滞納会社に対し,投資家の保守業務を委託する(1条)とともに,
当該業務の報酬として,以下の金額を支払うというものであった。
(ア)上記業務の報酬として,委託投資家の毎年6月末日及び12月末日
における預かり資産額の0.375パーセントに相当する金額(4条)
(イ)上記業務の追加報酬として,委託投資家からP13への投資が行わ
れその純資産額が増加した場合における当該増加額の0.375パーセ
ントに相当する金額(5条)
(ウ)上記業務の成功報酬として,P14社において受領した本件成功報
酬の40パーセントに相当する金額(6条)
オP14社と原告との間の契約書
P14社及び原告は,平成16年前半頃,平成12年12月31日付け
で,「投資家の紹介業務に関する報奨金契約書」(乙98)を作成した。
その内容は,①P13に関する紹介業務及び保守業務について,P14社
が原告に対して委託すること,②P14社は,原告に対し,上記業務の報
酬として,業務報酬(4条)と成功報酬(5条)を支払い,成功報酬はP
14社が収受した本件成功報酬の40パーセントに相当する金額とすると
いうものであった(甲37,乙71,98)。
なお,原告,滞納会社及びP19社がP14社から受領することとされ
ていた上記の各成功報酬は,本件成功報酬の40パーセントに相当する金
額のうち,各社が担当した投資家に係る出資業務等に対応する部分をいう
ものである(甲40)。
(5)滞納会社における通常報酬及び成功報酬の受領状況等
(以下,滞納会社の平成15年11月1日から平成16年10月31日まで
の事業年度を「平成16年10月期」,同年11月1日から平成17年10
月31日までの事業年度を「平成17年10月期」,同年11月1日から平
成18年10月31日までの事業年度を「平成18年10月期」,同年11
月1日から平成19年10月31日までの事業年度を「平成19年10月期」
という。)
ア通常報酬
滞納会社は,通常報酬として,P7社から,上記(4)ウ(ア)及び(イ)の条
項に基づき,平成16年10月期において1億4565万7344円を受
領した。また,滞納会社は,P7社からは,上記の各条項に基づき,P1
4社からは上記(4)エ(ア)及び(イ)の条項に基づき,平成17年10月期に
おいて合計7億1226万9242円を受領し,平成18年10月期にお
いて合計4億7804万9658円を受領し,これらを売上として計上し
た。
イ成功報酬
滞納会社は,P7社からは上記(4)ウ(ウ)の条項に基づき,また,P14
社からは上記エ(ウ)の条項(以下,これらの条項を併せて「本件成功報酬
条項」という。)に基づき,平成17年10月期において,9億9554
万6374円を受領し,また,平成18年10月期において,65億32
60万3002円を受領し,これら合計75億2814万9376円を売
上として計上した(以下この金額を「本件係争売上金額」という。)。そ
の具体的な受領状況は別紙2のとおりである。
なお,滞納会社が,P14社が収受した本件成功報酬に由来する金員を,
平成16年10月期以前の時期において受領していたことを認めるに足り
る証拠はない。
(6)本件投資事業の手仕舞い
アP3は,P13等において,株式会社P22の株式の買い付けと売却を
行い,多額の利益を得ていたところ,P3及びP7社は,平成18年6月
23日,上記の取引に関して,証券取引法(インサイダー取引の禁止)違
反の公訴事実で東京地方裁判所に起訴された。これに伴い,P3は,同年
7月28日付けの文書により,出資者に対し,P13を清算する旨の通知
を行った。(乙1,55)
イP13のファンド・マネージャーは,同年4月末頃,シンガポール共和
国法人のP23Pte.Ltd.に変更された(乙55)。また,P3は,同年5
月22日,滞納会社の代表取締役を辞任した(乙10)。
ウP8は,P7社の株式990株(45パーセント)を保有していたとこ
ろ,同月15日頃,これをP7社に対して14億580万円で売却した(乙
78,84)。また,P8は,滞納会社の株式5338株(約45パーセ
ント)を保有していたところ,同日頃,これを滞納会社に対して26億9
835万9000円(1株当たり50万5500円)で売却した(乙26)。
上記売却の金額の決定については,P8がDCF法等による将来価値を含
む売却価格とすべきであると主張し,P3が本件成功報酬の20パーセン
ト(P8のP14社への出資割合)であると主張して,交渉が難航したが,
上記の売却価額合計41億415万9000円は,P8の出資元本と本件
成功報酬総額158億7176万2424円の20パーセント相当額との
合計額である41億1935万2485円に見合うものであった(甲34,
37,乙72)。
エP5は,平成18年4月頃,原告及びP8以外の5名の者が保有してい
た滞納会社の株式(合計1151株)を,総額5億8183万500円(1
株当たり50万5500円)で取得し,その後,同年9月28日,原告に対
し,これを20億9389万9200円(1株当たり181万9200円)
で売却した(乙15,24,27)。
オP4は,成功報酬の形でP14社から支払を受けていたP19社及びP
20社の株式を,平成18年9月から12月にかけて売却し,合計約9億
円の利益を得た(乙79,80,弁論の全趣旨)。
カ上記ウ及びエの結果,原告は,平成18年10月期末において滞納会社
の唯一の株主となった。
(7)滞納会社の原告に対する本件配当の実施等
ア本件配当の原資等
(ア)滞納会社の損益計算上,平成17年10月期における売上高(以下
「平成17年10月期売上」という。)は29億565万7132円で
あり,当期未処分利益の額は44億9696万3871円であったとこ
ろ,当該金額が次期繰越利益として処理された(乙28〔損益計算書〕)。
(イ)滞納会社は,平成18年1月4日,麻布税務署長に対し,平成17
年10月期の法人税について,受取配当等の益金不算入などの減算要素
を計上し,欠損金額を92億7103万277円とし,還付金額を20
億6244万6496円とする確定申告書を提出し,麻布税務署長は,
平成18年1月13日,上記還付金額の支払決定をして,同金額を滞納
会社に還付した(乙15,32)。
(ウ)滞納会社の損益計算上,平成18年10月期における売上高は12
1億1116万3275円であり,当期純利益の額は158億6096
万5481円であった(乙29)。そして,上記(ア)の繰越利益の額に
上記当期純利益の額を加え,平成18年10月26日に行われた利益剰
余金の配当額1000万円を控除した203億4792万9352円が,
同社の同期末における利益剰余金となった(乙57)。
(エ)滞納会社は,同年6月26日,資本金の額を5000万円から10
00万円に減少させるとともに,資本準備金の額を4億6043万21
4円から0円に減少させ,その合計額5億43万214円を資本剰余金
へ振り替えた(乙10,29〔株主資本等変動計算書〕,48)。
(オ)滞納会社の平成18年10月期末における資産の額は,194億6
086万585円,その純資産の額は,189億284万3282円で
あった(乙29〔貸借対照表〕)。
(カ)滞納会社は,平成19年1月5日,麻布税務署長に対し,平成18
年10月期の法人税について,確定申告書を提出した。同確定申告にお
いては,繰越欠損金を控除し,所得金額は0円とされていた(乙16)。
イ本件配当の実施
(ア)滞納会社は,平成18年11月24日,定時株主総会を開催し,上
記ア(ウ)の利益剰余金を原資として,同年10月31日午後5時現在の
株主名簿に記載された株主,すなわち原告に対し,188億9011万
1520円の剰余金配当(本件配当)を実施して,同年11月24日を配
当が効力を生ずる日とする旨の議案の賛否を諮り,これが承認可決され
た(甲10)。
(イ)上記(ア)の本件配当の額から源泉所得税額37億7802万230
4円を控除した151億1208万9216円が,平成19年1月11
日,90億円と61億1208万9216円の2度に分けて,原告の普
通預金口座に振り込まれた。
ウ原告の確定申告
原告は,平成17年12月1日から平成18年11月30日までの事業
年度(以下「平成18年11月期」という。)の法人税の確定申告をした
が,その内容は,当期利益金額を258億3776万3767円としたも
のの,受取配当等の益金不算入額(本件配当を含むもの)255億632
7万5065円などの減算により,所得金額を0円とするものであり,か
つ,本件配当に係る源泉所得税額37億7802万2304円につき還付
を受ける旨のものであった。その結果,原告においては,本件配当金に係
る利益につき租税負担が生じないこととなった(乙19)。
エ滞納会社のその後の状況
(ア)滞納会社の決算報告書上,平成19年10月期以降,本件告知処分
に至るまでの間,売上高の計上はなかった(乙51ないし53)。また,
滞納会社は,平成18年10月31日に本店所在地の事務所の賃貸借契
約を解除し,事務所から退去した(乙54)。
(イ)滞納会社は,本件配当の決議を行った株主総会において,取締役報
酬金額を3000万円以内とする決議も行い,平成18年5月に滞納会
社の代表取締役に就任していたP4に対して,平成19年4月までの間,
役員報酬等を支払っていた(甲10,22,乙8)。また,平成19年
6月までの間,その資産は50億円以上計上されていたが,その後は7
000万円程度となった(甲25)。なお,滞納会社は,平成18年1
2月,株式譲渡の違約金に関して民事訴訟を提起した(甲26)。
(ウ)滞納会社は,平成20年7月24日,商号を現商号に変更し,P2
4が同社の代表取締役に就任した。そして,滞納会社は,同年8月7日,
麻布税務署長に対し,同年7月25日に休眠した旨の届出をした(乙1
4)。
(8)滞納会社等における修正申告等
ア東京国税局は,P3,P4,P7社,滞納会社,原告などについて税務
調査を行い,本件成功報酬条項等に基づいて滞納会社等が受領した金員は
滞納会社等の売上ではなく,本件係争売上金額等を減算し,預り金として
処理するとともに,その一部はP3の所得として認定すべきであるなどの
見解を有していたところ,P3はこれを否定する意見を複数回にわたって
述べて争った(甲13,27,30,乙63,64,71)。そして,東
京国税局が,上記の見解に立って,P3に対し,①P3個人の平成17年
分,平成18年分の所得税の修正申告,②滞納会社の平成17年10月期
の法人税の修正申告(平成18年10月期は減額更正を予定すること)を
慫慂し,原告の平成17年5月期から平成19年11月期までの法人税の
減額更正などを予定し,その内容をなす考え方や数値を伝えたところ,P
3はこれに従った修正申告をする意思があること,滞納会社に対しては当
時の経営者等に対して修正申告を行うよう申し入れることを表明した(甲
27,乙58)。
イ本件修正申告
滞納会社は,平成20年7月23日,麻布税務署長に対し,平成17年
10月期の法人税について,上記(7)ア(イ)の確定申告に係る還付金額20
億6244万6496円を6億8577万5543円に修正し,その差額
13億7667万900円(百円未満切捨て)を納付すべき税額とする旨の
修正申告書を提出した(以下,「本件修正申告」といい,これに係る申告書
を「本件修正申告書」という。)。本件修正申告においては,「売上(P7
社分)」が過大計上であるとされ,9億9554万6374円が所得金額
から減算されている(乙11別表4)。そして,麻布税務署長は,平成2
0年7月29日,本件修正申告に係る過少申告加算税額を2億647万5
500円とする旨の賦課決定をした。
ウ本件更正処分
麻布税務署長は,平成20年7月29日,滞納会社の平成18年10月
期の法人税について,減額更正処分(以下「本件更正処分」という。)を行
った。本件更正処分においては,P7社及びP14社を売上先とする売上
65億3260万3002円が過大計上であるとされ,所得金額から減算
されている。なお,本件更正処分により納付すべき税額に変動はなかった。
(乙34)
(9)本件告知処分に至る経緯等
ア麻布税務署長は,平成20年9月12日,滞納会社に対し,本件修正申
告により納付すべきこととなった法人税13億7667万900円のうち
6億3044万4572円及び上記(8)イの過少申告加算税2億647万
5500円について,各納期限までに納付されなかったことから,国税通
則法37条の規定に基づき督促状を送付した。
イ処分行政庁は,同月26日,国税通則法43条3項の規定に基づき麻布
税務署長から上記の滞納国税について徴収の引継ぎを受けた(乙35の1
及び2)。
ウ滞納会社の同年10月31日時点における資産は,現金・預金1万25
29円,未収入金7933円の合計2万462円であった(乙51)。
エ処分行政庁は,平成21年10月23日,上記の未納法人税のうち,そ
の時点においても未納であった6億3043万8622円及び上記の未納
過少申告加算税2億647万5500円について,滞納会社の財産として,
滞納会社が原告に対して有する,平成19年1月11日に原告が配当金と
して交付を受けた188億9011万1520円のうち,会社法461条
に規定する分配可能額を超えて交付を受けた配当金60億7033万16
06円の返還請求権を差し押さえた(甲18)。
オ滞納会社の平成21年10月31日時点における資産は,現金・預金1
8万8451円及び未収入金3円の合計18万8454円であった(乙5
2)。
カ処分行政庁は,平成22年2月12日,上記の財産の差押えを解除した
(甲20)。
キ処分行政庁は,同年5月19日,上記の未納法人税のうち,その時点に
おいても未納であった6億3043万8619円及び上記の未納過少申告
加算税2億647万5500円(以下,併せて「本件滞納国税」という。)
について,滞納会社の財産に滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額
に不足すると認められるとして,原告に対し,徴収法39条の規定に基づ
き,納付通知書により,本件配当の金額である151億1208万921
6円を納付の限度額とする第二次納税義務を負う旨の告知処分(本件告知
処分)をした(乙36)。
なお,原告の第二次納税義務は,原告について発生した還付金の充当等
により履行済みである。
(10)本件訴訟に至る経緯等
ア原告は,平成22年5月28日,国税不服審判所長に対し,本件告知処
分の全部の取消しを求める旨の審査請求をした。
イ国税不服審判所長は,平成23年5月23日,本件告知処分のうち,納
付すべき限度の額につき75億2814万9376円を超える部分を取り
消す旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし,本件裁決は,同月26
日,原告に通知された(甲3の1及び2)。本件裁決の理由は,本件配当
の全部が,直ちに徴収法39条に規定する「第三者に利益を与える処分」
に該当するということはできないが,本件成功報酬条項に基づく滞納会社
の売上合計75億2814万9376円は,P14社の受領する本件成功
報酬に相当する利益を分配したもので,当該売上に相当する配当額につい
ては,「第三者に利益を与える処分」に該当するというものであった(乙
38)。
ウ原告は,同年11月22日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事
実)。
3争点及び争点についての当事者の主張
本件の主たる争点は,本件配当が徴収法39条にいう「第三者に利益を与え
る処分」に当たるか否かであり,具体的には,①本件配当には,配当原資の算
出の基礎となり得ない過大な売上が含まれているなどの点からして「第三者に
利益を与える処分」に当たるといえるか(争点1),②本件配当は,実質的に
みて解散した会社における残余財産の分配(徴収法34条)と同視することが
できるという点からして「第三者に利益を与える処分」といえるか(争点2)
が争われている。
(被告の主張の要旨)
(1)徴収法39条の第二次納税義務
ア徴収法39条に定める第二次納税義務の制度趣旨について
徴収法第三章(同法32条ないし41条)に定める第二次納税義務の制度
は,形式的には第三者に財産が帰属している場合であっても,実質的には,
納税者にその財産が帰属していると認めても公平を失しないようなときに
おいて,形式的な権利の帰属を否認して私法秩序を乱すことを避け,形式
的に権利が帰属している者に対して補充的に納税義務を負担させることに
より,徴税手続の合理化を図るために認められた制度であり,本来の納税
義務者の財産につき滞納処分をしても徴収すべき国税に不足すると認めら
れる場合に限り,その者と一定の関係がある者に対し,第二次的にその納
税義務を負わせるものである。
すなわち,徴収法が規定する第二次納税義務は,租税徴収の確保を図る
ため,租税負担の公平性の観点を重視し,一定の第三者に対し,補充的に
納税上の責任を負わせる制度であるといえる。
そして,徴収法39条の第二次納税義務は,納税者が無償又は著しい低
額で財産を処分し(以下「無償譲渡等」という。),そのため納税が満足
にできないような資産状態に立ち至らせた場合において,その受益者に対
して直接第二次納税義務を負わせる制度である。
第二次納税義務の上記制度趣旨に鑑みれば,徴収法39条の制度趣旨に
ついても,租税負担の公平性の観点が根底にあることは明らかであり,同
条に規定する第二次納税義務の賦課に当たっては,租税負担の公平性の観
点を踏まえた上で判断されるべきである。
イ徴収法39条に定める無償譲渡等について
徴収法39条の無償譲渡等は,特定の行為類型に属する処分行為よりも
広い概念であるといえ,①第三者に異常な利益を与えるものであるか否か,
②実質的にみてそれが必要かつ合理的な理由に基づくものであるか否かと
いう観点によって判断されるべきものである。
また,会社法における剰余金配当の全てが否定されるものではないが,
徴収法39条の規定に照らし,違法配当に限定して同条が適用されるべき
理由はなく,たとえ適法な配当であっても,同条の要件を満たせば,同条
の無償譲渡等に該当する場合があるというべきである。
(2)本件配当が第三者に異常な利益を与え,実質的にみて必要かつ合理的な理
由に基づかないものであること(争点1)
ア上記(1)イの観点からすると,下記のとおり,本件配当は,第三者に異常
な利益を与え,実質的にみて必要かつ合理的な理由に基づかないものであ
る。
(ア)本件配当が配当原資に含まれない金額を基礎として計算されている
こと
本件配当は,平成18年10月31日現在の滞納会社の利益剰余金を
原資とするものであるところ,当該利益剰余金額には,本来算出の基礎
となり得なかった金額が含まれている。
①過大計上された売上合計75億2814万9376円が含まれて算
出されていること
滞納会社は,本件修正申告において,売上9億9554万6374
円を所得金額から減算した(乙11別表4)。すなわち,滞納会社の
平成17年10月期における確定した決算に基づく損益計算書の当期
利益金額34億9455万8267円は,上記減算額が過大に計上さ
れた売上高を基礎として算出された計数である。
そして,滞納会社の平成18年10月期における「繰越利益剰余金」
の「前期末残高」44億9696万3871円は,滞納会社の平成1
7年10月期の当期利益金額34億9455万8267円を含むもの
である。
また,本件更正処分において,P7社その他P13関連法人に対す
る売上として計上されていた65億3260万3002円が,実際に
は滞納会社の収益ではないとして所得金額から減算されている。すな
わち,平成18年10月期の滞納会社の確定した決算に基づく損益計
算書の当期純利益金額158億6096万5481円は,上記減算額
が過大に計上された売上高を基礎として算出された計数である。
このように,本件配当は,配当原資に,いずれも過大計上された平
成17年10月期の売上に相当する9億9554万6374円及び平
成18年10月期の売上に相当する65億3260万3002円の合
計75億2814万9376円が含まれて算出されている。
②本件修正申告により納付することとなった13億7667万900
円が含まれて算出されていること
滞納会社は,本件修正申告において,確定申告によって既に還付を
受けた還付金額20億6244万6496円を6億8577万554
3円に修正し,その差額13億7667万900円を納付すべき税額
としている。
滞納会社の平成17年10月期の当期利益金額34億9455万8
267円は,法人税等還付額20億6244万6496円を含むもの
であるが,同期の確定した決算に基づく損益計算書の法人税等還付額
は,上記差額13億7667万900円の分だけ過大に計上されてい
たことになる。
そして,この過大に計上された法人税等還付額を基礎として平成1
7年10月期の当期未処分利益金額44億9696万3871円が算
出され,これが滞納会社の平成18年10月期における繰越利益剰余
金となっている。
このように,本件配当は,配当原資に,本件修正申告により納付す
ることとなった法人税の還付金額の差額13億7667万900円が
含まれて算出されている。
③小括
以上のとおり,本件配当の配当原資である滞納会社の平成18年1
0月期の利益剰余金額203億4792万9352円には,本来算出
の基礎となり得なかった金額が含まれていたのであるから,原告は,
本件配当によって異常な利益を得ていたというべきである。
そして,適正な会計処理に基づかずに行われた本件配当は,実質的
にみて必要かつ合理的な理由により行われたとはいえない。
(イ)一般の株式配当に比べて著しく高額の配当を実施していること
平成18年当時の東証一部上場会社における株式平均利回りについて
みると,概ね株価の1パーセント程度であった。滞納会社の株価は,平
成18年5月頃には1株50万5000円であったものが,本件配当が
実施される2か月前の同年9月頃には,1株181万9200円になっ
ているところ,本件配当における配当額は,1株当たり289万548
0円であったから,本件配当は,通常の経済活動における配当に比し,
著しく高額の配当であったことが認められ,このことは,本件配当が原
告に異常な利益を与えるものであったことを示している。
(ウ)資本金及び資本準備金を資本剰余金に振り替えて分配可能額を大き
くしていること
滞納会社は,本件配当が行われた平成18年10月期に資本金400
0万円及び資本準備金の全額4億6043万214円を減少させ,その
合計額5億43万214円を資本剰余金へ振り替え,資本剰余金を12
億4306万4603円とした。上記減資等により,滞納会社は,原告
に対して,より多くの配当を実施することができるようになった。
ところで,原告の唯一の株主であるP3は,平成18年5月後半から
証券取引法違反で取調べを受けており,自身が同法違反容疑で逮捕,起
訴される可能性について認識していたものと推認されるところ,滞納会
社は,P3が同法違反で逮捕,起訴されたならば,事業を停止し,滞納
会社の利益剰余金を分配することを予定していたものと推認される。
上記(ア)の事情に加え,原告は,事業を停止して過大に保有するに至
った滞納会社の財産からより多くの分配を原告が受けられるよう企図し,
滞納会社をして,あらかじめ資本金及び資本準備金の減資をした上,そ
の資産の大部分をもって本件配当を行わせたと認められるのであるから,
本件配当は,実質的にみて必要かつ合理的理由に基づかず,原告に異常
な利益を与えるものと評価されるべきである。
(エ)本件配当に係る利益については租税負担が生じないように処理さ
れていること
P3は,滞納会社の代表取締役を務めたほか,原告の唯一の株主であ
るなど,P7社,滞納会社,原告等の会社を一体として統括して運営し
ていた(以下,これらの会社を総称して「P2」という。)ところ,本
件配当当時,P2の関連事業を終了せざるを得ず,滞納会社は,かかる
剰余金について有用な使途がない状態であったというのであるから,本
件配当は,事実上,P2の運用益を原告に分配したものにほかならない。
また,本件配当の効力発生日の属する原告の平成18年11月期にお
ける法人税の確定申告によれば,原告の当期利益金額が258億377
6万3767円である一方で,受取配当等の益金不算入額が255億6
327万5065円となっており(乙19別表4),結果的には,原告
の平成18年11月期における所得金額は0円であった。そして,当該
確定申告において,原告は,所得税額等の49億3989万3162円
全額の還付を受ける旨の申告をしており,その内訳についてみると,本
件配当に係る源泉所得税額37億7802万2304円が含まれている
(乙19・9枚目)。
さらに,P3は,本件配当の実施後,原告から短期に資金の融通を受
けている(乙49)。
以上のとおり,本件配当は,実質的にはP2の運用益を原告に分配し
たにすぎないものであるところ,原告は,法人税法上の受取配当等の益
金不算入の制度を利用して所得金額を圧縮し,その圧縮によって,結果
的には,負担していた源泉所得税の還付を受けており,本件配当に係る
利益について租税負担が生じていない。また,P2がP3一人の主導下
で運営され,P3が原告から短期に資金の融通を受けている状況を勘案
すれば,P3は,P2の運用益の分配に当たり,滞納会社を経由させ,
原告に対して本件配当を実施する方法を利用すれば,租税負担が一切生
じないことを熟知した上で,そのような状況を作出したものと評価すべ
きである。この点からも,本件配当は,実質的にみて必要かつ合理的な
理由に基づくことなくされたものと評価できる。
(オ)小括
上記(ア)ないし(エ)の事情からすれば,本件配当は,原告に対して異
常な利益を与え,実質的にみて必要かつ合理的な理由に基づかないもの
である。また,P3が,実質的には自らの主導下でP2を運営しており,
本件配当時における滞納会社の株主が,原告のみであり,原告の唯一の
株主が,P3であったことからすれば,原告に第二次納税義務を課した
としても租税負担の公平性を害しない。
したがって,本件配当は,徴収法39条に定める無償譲渡等に該当す
るというべきである。
イ本件修正申告又は本件更正処分における所得誤認を本件告知処分の取消
事由として主張することはできないこと
(ア)原告は,本件修正申告における売上の減算は,国税局側が指示した
ものに対して滞納会社がやむを得ず従ったものにすぎず,本件更正処分
における売上の減算も,国税局側が不合理な判断により一方的に売上金
を減算したものであって,いずれもその金額について合理的な算定根拠
は一切存在しない旨主張する。
(イ)しかし,主たる課税処分等が不存在又は無効でない限り,主たる納
税義務の確定手続における所得誤認等の瑕疵は,第二次納税義務の納付
告知の効力に影響を及ぼすものではなく,第二次納税義務者は,上記納
付告知の取消訴訟において,確定した主たる納税義務の存否又は数額を
争うことはできないと解される(最高裁昭和48年(行ツ)第112号
同50年8月27日第二小法廷判決・民集29巻7号1226頁(以下
「最高裁昭和50年判決」という。)参照)。
そして,第二次納税義務は,主たる納税義務が具体的に確定したこと
を前提とするものであり,租税徴収の確保を図る必要があること,第二
次納税義務者たる第三者は,主たる納税義務者に準ずるものとみること
ができることからすれば,主たる納税義務に係る課税処分の瑕疵が第二
次納税義務の納付告知処分に承継されるとして,第二次納税義務の取消
しを求めることができないだけでなく,課税処分の所得誤認を理由に,
第二次納税義務の要件を欠くとして,第二次納税義務の納付告知処分の
取消しを求めることもできないというべきである。
(ウ)本件において,①本件配当時の滞納会社の株主は,原告のみであっ
たこと,②本件配当時の原告の株主は,P3だけであったこと,③滞納
会社が過大計上した売上の相手先であるP7社における原告の出資割合
が平成17年3月31日時点及び平成18年3月31日時点において約
46パーセントであったこと,④同じく過大計上した売上の相手先であ
るP14社のBクラス利益配当株式に基づく実質的なP3の出資割合が
44パーセントであったことを勘案すれば,滞納会社と原告には一体性
ないし密接な関連性が認められる。
したがって,最高裁昭和50年判決の法理に照らし,原告は,滞納会
社に係る本件修正申告又は本件更正処分における所得誤認を,本件告知
処分の取消事由として主張することができないというべきである。
ウ滞納会社が売上に過大計上した75億2814万9376円はP3らが
当初より合意していた分配率に基づく分配額に対応するものであること
(ア)原告は,滞納会社等の国内関連会社は,投資家の保守業務等を行っ
ており,これら業務に見合う業務委託料を支払わず,利益をP14社に
留保するのでは,実態に沿わず,税務上問題ではないかとの指摘を税理
士より受け,税務の適正化を図り,業務委託料を支払うこととしたもの
であり,本件配当も,P2関連事業が終了した後に生じた剰余金の有用
な使途がなかったために行ったもので,受取配当等の益金不算入につい
て定める法人税法23条の要件を満たす配当であったため,租税負担が
生じなかったにすぎない旨主張する。
しかし,原告の上記主張には,以下のとおり理由がない。
(イ)P3,P5及びP4(以下「P3ら」という。)は,当初,本件成
功報酬に相当する利益を,タックス・ヘイブン地域であるケイマン所在
のP14社に留保し,P3ら及びP8等で分配する予定であった。具体
的には,P3らは,上記利益を,P344パーセント,P512.
5パーセント,P414.5パーセント,P820パーセント,そ
の他9.5パーセントの割合で分配する旨の合意をしていた(以下「本
件利益分配合意」という。)。
ところが,P3は,国税局が他社の租税回避に係る調査を行っている
旨聞き及んだことから,P14社の収益に課税されることを懸念し,こ
れを逃れるため,同社に留保している利益を国内法人に移転させること
とした。
そして,P14社は,P7社に対しては本件成功報酬の60パーセン
トを支払うこととし,原告,P19社等に対しては本件成功報酬の40
パーセントを支払うこととしたところ,P8は,P7社の株式を45パ
ーセント所有していたことから,27パーセント(本件成功報酬の60パ
ーセント×P8の出資割合45パーセント)の分配率による利益配分を
受けることとなり,P8の出資割合に基づく利益の分配は維持されるこ
ととなった。
(ウ)平成13年から平成17年までの間にP14社がP13から獲得し
た本件成功報酬の合計額は158億7176万2424円であり(乙7
6別紙6),P8らに以下のとおり分配された。
①P8への分配
P8は,平成16年4月頃,滞納会社の株式の45パーセントに相
当する株式を取得した。その後,P8は,P3からの買取りの申出に
応じて,平成18年5月15日,滞納会社の株式5338株(取得価額
8億9996万110円)を26億9835万9000円で滞納会社
へ売却するとともに,P7社の株式990株(取得価額4950万円)
を14億580万円でP7社へ売却し(乙76ないし78),約32
億円の利益を得た。
②P5への分配
P5は,平成18年9月22日,成功報酬の形でP14社から支払
を受けていた関係法人であるP19社の株式5万3400株(取得価
額150万円)を1億50万円で有限会社P25へ売却したほか,同月
28日,P7社の株式88株(取得価額1億2496万円)を1億59
36万8000円で原告へ売却するとともに,滞納会社の株式115
1株(取得価額5億8183万500円)を20億9389万9200
円で原告へ売却し(乙24,27,86,87),合計約16億円の
利益を得た。
③P4への分配
P4は,平成18年9月19日,P19社の株式5万3400株(取
得価額150万円)を1億50万円で有限会社P25へ売却するとと
もに,同年12月13日,同様に成功報酬の形でP14社からP19
社を経由して支払を受けていた関係法人であるP20社の株式60株
(取得価額300万円)を8億1261万1145円で有限会社P26
へ売却し(乙79,80),合計約9億円の利益を得た。
また,P4が代表取締役を務める株式会社P27(以下「P27社」
という。)に対し,P14社からP19社を経由して約13億円の成
功報酬が支払われた。
P4は,本件成功報酬の受領を基因として株式価値が高まったP1
9社及びP20社の株式を売却することにより,より多くの売却益を
得ているのであるから,P14社の本件成功報酬に相当する利益につ
いて,実質的な分配を受けたものというべきである。
④P3への分配
P3は原告の唯一の株主であり,原告は滞納会社の平成18年10
月期末における唯一の株主であるところ,同期末において,滞納会社
に移転された本件成功報酬の一部である75億2814万9376円
が,本件配当を通じて原告に移転した。
(エ)滞納会社が売上に過大計上した75億2814万9376円は,形
式的には,本件成功報酬条項に基づいて受領したものとされている。
しかしながら,上記(イ)の経緯に加え,①P14社とP7社との間の
本件覚書について,実際の作成年月日からあえて日付を遡らせて作成さ
れていること,②P3の主導で運営されていたとはいえ,P7社の代表
取締役であるP18ですら,本件覚書の内容や滞納会社とP7社との間
の業務委託契約の内容を十分に把握していなかったこと,③現にP14
社に留保していた本件成功報酬に相当する利益が滞納会社に移転され,
又はP7社を経由して滞納会社に移転された滞納会社の平成17年10
月期及び平成18年10月期において,滞納会社の所得金額及び納付税
額は生じていないことも考慮すれば,滞納会社のP2業務に係る活動実
態のいかんにかかわらず,P14社又はP7社が滞納会社に対して本件
成功報酬を対価とする業務を委託した事実は認められない。本件成功報
酬条項は,本件成功報酬に相当する利益を滞納会社に移転する手段とし
て作出されたものといえる。なお,本件成功報酬条項に基づく売上金額
は,滞納会社の平成17年10月期及び平成18年10月期においての
み計上され,それ以前には計上されていない。
そして,P3は,本件成功報酬条項という手段を通じて滞納会社に移
転された,本件成功報酬に相当する利益の一部である75億2814万
9376円が,本件配当を通じ,P3が唯一の株主である原告に移転す
ることで,P14社が平成13年から平成17年までに獲得した本件成
功報酬の合計約158億円の44パーセントを上回る利益を確保した。
また,上記(ウ)のとおり,P4も,約158億円の6パーセントに相当
する約9億円の利益を受けるとともに,同人が代表取締役を務めるP2
7社がその8パーセントに相当する約13億円の成功報酬の支払を受け,
P8も,約158億円の20パーセントに相当する約32億円の利益を
得ており,P5も,約158億円の10パーセントに相当する約16億
円の利益を得た。
P3ら及びP8に対する上記分配状況を併せ考慮すると,このような
複雑な経過を経て,偶然にも,本件利益分配合意の分配率に近似する率
でP3ら及びP8が金員を得ることは考え難いから,P3ら及びP8の
間で,本件利益分配合意に従い,本件成功報酬に相当する利益を分配し
ていたものと認められる。
(オ)この点,原告は,P8関係者が,P3が本件成功報酬に相当する利
益を国内法人に移転した方法を確認しておらず,P8がP7社及び滞納
会社の株式を売却するに際し,DCF法等に基づく将来価値を含む売却
価格の決定を求めていたことをもって,本件利益分配合意は既に撤回さ
れていた旨主張する。
しかし,そもそも本件成功報酬に相当する利益を国内法人に移転する
ことを決めたのは,P3であることからすれば,その方法も,P3にお
いて主導的に決定するのが当然であるし,P8がP7社の株式所有を通
じて本件成功報酬に相当する利益に対する分配割合を確保することとし
たということは,同社に本件成功報酬に相当する利益の一部が移転され
ることを前提とするものであるから,P8がその利益を国内法人に移転
する具体的な方法を確認していなかったとしても,そのことは,本件利
益分配合意が撤回されていたことを示すものではない。
また,P8において,予定していたP7社からの配当ではなく,P7
社及び滞納会社の株式を売却するという方法で本件成功報酬に相当する
利益の分配を受けることとなったことから,まずはDCF法等による売
却価格の決定を求めたとしても,不自然ではない。そして,最終的には,
本件成功報酬に対する,P8の出資割合である20パーセントに相当す
る額をP8の分配額とするのが当初からの約束であるとのことで,P3
及びP8の認識が合致しているし,P8が従前からP7社の株式を所有
していたこと及びP7社が本件成功報酬以外の収益も得ていたことを併
せ考慮すれば,P8は,本件成功報酬に相当する利益の実質的分配以外
の要因によるキャピタルゲインも考慮した上で,当該株式の売却価格の
決定を求めたと考えられるのであるから,本件利益分配合意が存続して
いることに変わりはない。
したがって,原告の上記主張には理由がない。
(カ)原告は,東京国税局長が,P3に対しては,本件成功報酬に相当す
る利益のうち,P3の出資割合相当額につき,P14社からの利益配当
であるとして,これを所得とする旨の本件修正申告を行わせたのに,P
5及びP4並びに両名の所有会社であるP19社及びP21社に対して
は,P3や滞納会社等とは異なる課税処理を行い,P8その他P14社
の他の株主についても不合理な課税処理を行っている旨主張する。
しかし,本件関係者の課税関係は,その申告内容又は税務調査の結果
により認定可能な課税標準等若しくは税額等によるものであり,個々の
事情によって決せられるものである。P5,P4及びP8等並びにP1
9社及びP21社の課税処理の有無,内容は,本件配当が,原告に異常
な利益を与え,実質的にみて必要かつ合理的な理由に基づかないもので
あることの判断に影響を及ぼさないものである。原告の上記主張には理
由がない。
(キ)以上のとおり,本件成功報酬条項は,P14社に留保していた本件
成功報酬に相当する利益への課税を回避するため,これを滞納会社に移
転させる手段にすぎず,これに基づき滞納会社が売上に過大計上した7
5億2814万9376円は,本件利益分配合意の分配率に従って,本
件成功報酬に相当する利益の一部を滞納会社に帰属させたものであるか
ら,本来であれば配当原資に含めることはできない。
そして,P3は,上記利益を本件配当の形式をもって原告に移転させ
ることにより,受取配当等の益金不算入の制度を利用し,租税負担が生
じない状況を作出したといえる。
(3)本件配当は,徴収法34条に規定する第二次納税義務との対比からも,徴
収法39条に定める無償譲渡等に該当すること(争点2)
ア徴収法34条の適用要件について
租税債務は,各税法で定める課税要件を充足することにより抽象的,客
観的に成立し,税額を確定するための手続を経て具体的に確定するが,徴
収法34条は,税額が確定する前に,残余財産の分配又は引渡しをした場
合や,残余財産の分配等の際に当該法人が実際に国税を滞納しておらず,
その後の更正等により徴収不足が生じた場合にも,残余財産の分配等を受
けた者等に対し,第二次納税義務を賦課することを認めるものである。当
該規定は,法人が事実上の解散状態にあるにとどまる場合には,適用する
ことができない。
しかし,法人が法的解散手続をとるか否かは,当該法人側の問題であり,
一方で,国税の徴収権の消滅時効が5年であり,当該消滅時効はその援用
を要せず,その利益を放棄できないものであること(国税通則法72条1項
及び2項)からすれば,事実上の解散状態にとどまる場合に,徴収法39条
の規定による第二次納税義務を賦課できないとすると,国税を滞納した法
人がその裁量によって法的な解散手続をとらずに残余財産の分配又は引渡
しを行った上で,国税の徴収権の消滅時効を成立させることができること
となり,第二次納税義務の制度趣旨及び租税負担の公平性の観点から,著
しく不合理な状況が生じることとなる。
そこで,法人が事実上解散状態にある場合においては,第二次納税義務
の制度趣旨及び租税負担の公平性を勘案して,徴収法39条の第二次納税
義務を賦課することができると解される。
イ滞納会社は平成18年10月期をもって事実上解散したこと
滞納会社は,法的な解散手続はとっていないが,以下の事情を勘案すれ
ば,平成18年10月期をもって事実上解散したものと推認される。
すなわち,滞納会社の決算報告書によると,平成18年11月1日から
平成19年10月31日までの事業年度においては売上高の計上がなく
(乙50),これ以降,本件告知処分がされた平成22年5月19日までの
各事業年度の損益計算書には,売上高の計上はされていない(乙51ないし
53)。
また,滞納会社は,平成18年10月期の最終日である同年10月31
日をもって本店所在地の事務所の賃貸借契約を解除し,同年11月18日
に同事務所から退去しており(乙54),同期をもって,営業活動を終わら
せたことが推認される。
以上に加え,滞納会社が平成20年7月25日以降休眠していることも
考慮すれば,滞納会社における平成18年11月1日以降の活動は,休眠
に向けた会社資産と負債の整理にすぎず,会社清算手続と同視できる。そ
して,滞納会社は,上記(2)のとおり,平成18年10月期中に,資本金及
び資本準備金の減資を行い,分配可能額をあらかじめ大きくして,同期に
おける滞納会社の資産額194億6086万585円の約97パーセント
に相当する金額を配当したのであるから,本件配当は,会社清算手続にお
ける残余財産の分配等と同視できる。
ウ小括
以上のとおり,本件配当は会社清算手続における残余財産の分配と同視
できるものと評価し得るのであるから,徴収法34条の適用場面と対比す
れば,本件配当についても,原告が徴収法39条の第二次納税義務を負う
とするのが妥当であり,そのように解しても租税負担の公平性を害するも
のではない。
(原告の主張の要旨)
(1)株主に対する剰余金配当に係る無償譲渡等の該当性について
株式会社の株主に対する剰余金配当は,リスクの伴う投資に対する対価で
あって,本来的に法的かつ経済的な正当性を有するものであり,これを否定
することは,株式会社制度(会社法105条2項参照),ひいては我が国の
経済制度の根幹の否定につながる。
そうすると,第二次納税義務という形であれ,会社法上の株主に対する剰
余金配当を実質的に否定する扱いは,原則として許されるべきではなく,剰
余金配当が無償譲渡等として第二次納税義務の根拠となり得るのは,会社法
上は配当を行えない場合であるにもかかわらず,配当名目で株主に金銭を支
払った場合(違法配当)のように,実質的に剰余金配当とはいえない場合に
限られるべきである。具体的には,剰余金配当が無償譲渡等に該当するため
には,①第三者に異常な利益を与えるものであり,かつ,②実質的にみてそ
れが必要かつ合理的な理由に基づかないものであることが必要である。
(2)本件配当は第三者に異常な利益を与えるものではなく,実質的にみて必要
かつ合理的な理由に基づかないものではないこと(争点1)
ア本件配当に至る経緯
滞納会社は,投資家のP3が経営し,企業の経営及び財務のコンサルテ
ィング,有価証券の保有,運用,売買及び投資,並びに投資事業組合及び
投資事業有限責任組合財産の管理運営業務等の事業(以下「ファンド関連
業務」という。)を行っていたものであり,その一環として,滞納会社自
らもP13への出資を行っていた。
ところが,平成18年6月,P3に対する強制捜査が行われたことによ
り,P13は,同年7月以降,順次,投資を手仕舞いせざるを得なくなっ
た。P13が投資対象として保有していた有価証券を処分して利益を確定
し,滞納会社を含むP13の出資者に対して,その持分に応じてP13財
産の配分を行ったため,平成18年10月期,滞納会社には多額の剰余金
が発生した。他方,ファンド関連事業も終了せざるを得なかったことから,
滞納会社は,かかる剰余金について有用な使途がない状態であった。この
ような場合,剰余金を内部留保しておくのは不合理であり,配当によって
株主に対して還元を行うことが必要かつ合理的な措置であった。
そこで,滞納会社は,P13の解散及びファンド関連事業の終了に伴い
発生した多額の剰余金を株主に還元するため,平成18年11月24日,
本件配当に係る株主総会の決議をし,平成19年1月11日,株主である
原告に配当金の支払をした。
イ本件配当が原告に異常な利益を与えるものでないこと
株式会社における剰余金の配当は,それぞれの会社において,配当可能
利益という法律の枠内で配当政策をどうするのかという個別具体的かつ各
会社の根幹に関わる重大な判断を経て決定されるもので,安定配当とする
か否かも会社の自由な選択によるものであるから,安定配当でなければ異
質であるなどということはできない。そして,一般投資家や外国人投資家
が増加し,明確かつ公正な株主の権利実現を求める声が高まっていること
を背景に,上場企業においてさえ従来の伝統的な安定配当ではなく,業績
連動による配当を採用する企業が増えている。
また,滞納会社は,東証一部上場会社や日経平均の対象ではない上,平
成17年10月期に29億円,平成18年10月期に121億円の営業収
益を上げているところ,滞納会社の規模でかかる営業収益を上げる会社は
特殊な存在であるから,本件配当当時の東証一部上場会社における株式平
均利回り等は,滞納会社に当てはまらない。
さらに,滞納会社は,本件配当に先立ち,法律の手続を踏んで適法な減
資等を行ったもので,これをもって「異常な利益」の根拠とされるいわれ
はない。
以上を踏まえると,本件配当は,原告が株主として滞納会社に対して有
する剰余金配当請求権に基づき,株主に帰属すべき財産が配当という形で
還元されたものにすぎず,そもそも徴収法39条にいう「利益」と評価す
るべきものではなく,ましてやこれが原告に異常な利益を与えるものでな
いことは明白である。
ウ本件配当が実質的にみて必要かつ合理的な理由に基づくものであること
本件配当は,滞納会社に多額の剰余金が発生する一方で,その有用な使
途を欠く状態であったため,滞納会社における無駄な内部留保を避けるた
めになされたものであって,実質的にみて必要かつ合理的な理由に基づく
ものであったといえる。
この点,滞納会社,原告及びP3の三者は,いずれも法的に別個の人格
を有しているのであって,三者の株主関係や,株主(P3)が会社(原告)
から短期の資金融通を受けたこと等を根拠に,上記の必要性ないし合理的
な理由を否定することはできない。
また,原告に本件配当に係る租税負担が生じなかったのは,本件配当が,
受取配当等の益金不算入について定める法人税法23条の要件を満たす配
当であったからにすぎない。
エ小括
本件配当は,配当決議を経てなされた適法かつ通常の配当であり,原告
に異常な利益を与えるものではなく,また,実質的にみて必要かつ合理的
な理由に基づくものであるため,無償譲渡等に該当せず,原告には第二次
納税義務は発生しない。
(3)滞納会社に係る売上の減算について
ア本件修正申告又は本件更正処分における所得誤認を,本件告知処分の取
消事由として主張することができること
最高裁昭和50年判決は,主たる納税義務が申告又は決定若しくは更正
等により具体的に確定している場合に,徴収法又は地方税法の規定する特
別の関係にある第三者に該当し,第二次納税義務者とされる者が,確定し
た主たる納税義務の存否又は数額すなわち課税処分の結論の判断につき拘
束され,これを争うことができないと判示した。
他方,原告は,徴収法39条にいう無償譲渡等を受けた第三者に該当す
るか否かを争っているのであり,確定した主たる納税義務の存否又は数額
を争うものではないから,最高裁昭和50年判決の法理は適用されず,原
告は,本件修正申告又は本件更正処分における所得誤認を,本件告知処分
の取消事由として主張することができる。
イ滞納会社が受領した報酬は合理的なものであること
(ア)滞納会社が行っていた業務及びその重要性
P13は,アクティビスト・ファンドとして有名であった。アクティ
ビスト・ファンドが買収対象とするのは,余剰資金を抱えており1株当
たりの純資産額が高いにも関わらず,株価が低迷している企業の株式で
ある。このような企業の株価が低迷しているのにはそれなりの理由があ
り,株主を軽視した恣意的な経営がなされているのがその典型である。
アクティビスト・ファンドは,そのような企業に対して,無駄な余剰資
金があればそれを株主に還元する(具体的には増配や自己株式の取得な
どを行う。)よう求めるとともに,経営改善のために経営陣の交代を求
めることもある。また,アクティビスト・ファンドの活動の過程におい
ては,事実上の各種提案のほか,株主提案権の行使,株主総会における
支持の拡大のための委任状争奪戦なども行われる。
アクティビスト・ファンドは,株主としての権利行使を通じて,対象
企業の株主価値を向上させていくことをその活動の目的としており,こ
れが成功した場合は,株主価値向上によって株価も上昇してファンドの
利益となる。
このように,アクティビスト・ファンドであるP13において,アク
ティビスト業務は,P13の利益を生み出すためになくてはならない業
務であり,P13の運用成績に直結する重要な業務であった。また,P
13において,投資家を募ってファンドに出資してもらうこと(紹介業
務)や,出資した投資家に対して,ファンドの投資運用の成果と今後の
見通しに関する状況を定期的に報告するほか,出資者からの個別の問い
合わせに応じるなどして,出資者がファンドへの投資を継続するよう働
きかけること(保守業務)も,投資先の会社に対する議決権比率を高め
てそれを維持し,会社に対する影響力を保持するために必要不可欠で重
要な業務であった。
P14社は,その運営するP13に関する主要な業務について,当初
から外注で賄うことを予定していた。そして,滞納会社や原告等は,P
14社から委託を受け,あるいは同社から委託を受けたP7社から再委
託を受けて,P13に関する運用業務,投資家の紹介・保守業務その他
の実務を遂行していた。
滞納会社は,アクティビスト業務のほか,投資家の保守業務を行って
いたが,その業務には,投資希望者に対してP13の概要や契約内容を
説明し,出資までの手続の案内その他サポートを行うことも含まれてい
たから,厳密にいえば,これは,「出資確定前のサポート業務及び出資
後の保守業務」(以下「保守業務等」という。)である。そして,滞納
会社の保守業務等の対象となる投資家は,そのほとんどが海外投資家で
あったところ,海外投資家の保守業務は,制度や言語の違い,時差など
があることに加え,海外投資家は国内投資家と比べてファンドの運用状
況についてより厳しい目を向けることが多いことから,その負担は国内
投資家の保守業務と比べて格段に重かった。
以上のとおり,滞納会社は,アクティビスト・ファンドであるP13
において,重要な業務を行っていた。
(イ)滞納会社が受領した報酬の合理性
P13の組成当時,本件成功報酬に相当する利益は,P14社に留保
されることが予定されていたが,上記(ア)のとおり,滞納会社,原告そ
の他の国内の関係会社(以下「本件国内各社」という。)が,P13に
関する運用業務,投資家の紹介・保守業務その他の実務を遂行するよう
になったところ,本件国内各社にこれに見合う業務委託料を支払わず,
利益をP14社に留保するのでは,実態に沿わず,税務上問題ではない
かという指摘を税理士より受けたため,税務上の適正化を図って,本件
国内各社に合理的な業務委託料を支払うこととした。
上記税理士の指摘は,具体的には,「国外関連者から支払を受ける対
価の額が独立企業間価格に満たないとき(中略)は,当該国外関連取引
は独立企業間価格で行われたものとみなして課税所得の算定が行われ
る」,「独立企業間価格とは同様の取引について第三者において成立し
うるであろう価額をいい,比較可能な第三者との取引があればこれに準
じて決定されるべきである。」というものであった(甲32)。この点,
日本国内の既存のファンドの成功報酬に関する調査結果によれば,成功
報酬の割合としては20パーセント前後が最も多く,当該割合による成
功報酬であれば,「独立企業間価格」であるといえるところ,本件国内
各社は,P14社を通じて,合計するとP13の利益の20パーセント
を成功報酬として受領することとなっていたから,本件国内各社が成功
報酬として受領する業務委託料は,「独立企業間価格」として妥当なも
のであった。
また,上記(ア)で述べた滞納会社が行っていた業務の重要性に照らす
と,アクティビスト業務について,滞納会社に対し,P7社がP14社
から受領する成功報酬の80パーセントに相当する業務委託料が支払わ
れ,また,投資家の紹介・保守業務について,滞納会社を含む3社に対
しP14社が投資家から受領する成功報酬の40パーセントが支払われ
ることは,何ら過大ではない。
(ウ)滞納会社に対する業務委託に実態があったこと
P14社及びP7社の間で本件覚書が実際に調印されたのは,平成1
6年半ばであったが,これは,上記(イ)の経緯があったものの,関係者
が多忙だったという事情による。そして,調印の際,税務上合理的な内
容に改めるという目的に鑑み,書面の日付もP13の運用益が上がり成
功報酬が発生する当初に遡る方が適正であるとの考えのもと,本件覚書
の日付を遡らせた。このように,本件覚書が日付を遡って作成されたこ
とは,滞納会社に対する業務委託に実態がなかったことを示すものでは
ない。
また,P18が,東京国税局の聴取に対し,業務委託の内容を十分に
把握していなかったと回答したのは,契約書の作成経緯に関してであっ
て,業務実態に関してではない。
さらに,滞納会社において平成17年10月期及び同18年10月期
に所得金額及び納付税額が生じていないのは,損金処理等をした結果,
所得金額がなくなったからであり,業務実態がなかったからではない。
ウ本件利益分配合意が維持されていた旨の被告の主張が不合理であること
(ア)P14社の株主らに支払われた「配当」額の割合が同社に対する出
資割合と乖離していること
P14社の各株主に実際に支払われた金額は,被告の主張とは異なり,
本件利益分配合意の前提となった同社に対する出資割合とは大きく乖離
している。
例えば,P14社に対する出資割合に従えば,P5には,同社が得た
成功報酬合計158億7176万2424円の12.5パーセントに相
当する約19億8000万円の利益が分配される必要があるが,被告の
主張によれば,P5は「約16億円の利益を得た」とされ,4億円近く
も乖離がある。また,P8は,P14社に対する出資割合が20パーセ
ントであるのに,被告の主張によれば,P8の取り分が27パーセント
となり,大きな乖離が生じている。P3も,P14社に対する出資割合
が44パーセントであるのに,被告がP3と同視する原告に移転した7
5億円強の金員は,上記成功報酬合計額の48パーセントに相当する。
このような乖離が生じるのは,P14社の利益の配分という前提自体が
真実ではないからである。
(イ)P8が自ら適正と考える評価による株式の買取りをP3に求め,交
渉していること
P8は,滞納会社及びP7社が各社の自己株式を買い取る際,P14
社に対する出資割合に基づいて価格を決定するのではなく,DCF法等
による将来価値を含む売却価格の決定を求めてP3と交渉していた。そ
して,P3側が株式譲渡価格を値切るための駆け引きとして,P14社
に対する出資割合(20パーセント)に基づいて価格を決定することを
主張したのに対して,P8はこれを争っていたのであり,滞納会社及び
P7社による株式の買取りが,当初の合意に従ったP14社の利益の配
分という性質を有するものでないことは明らかである。
(ウ)被告が必要な主張立証を果たしていないこと
被告は,P3ら及びP8の間において,滞納会社の平成18年10月
期に至っても本件利益分配合意が存続していたことを直接裏付ける証拠
を提出しておらず,本件利益分配合意に従ってP14社の株主全員に対
して実際に利益が配分されたという金員の流れも主張,立証できていな
い。
また,P14社の株主のうち,P4及びP5は,同人らがP14社か
らの配当を放棄したとの明らかに不合理な認定に基づき,配当に対する
課税が行われておらず,P4の所有会社であるP19社やP5の所有会
社であるP21社も,売上の減算を前提とした更正処分はされていない。
P8についても同様である。このように,被告は,P14社の利益配当
に対する課税がなされたことも立証できていない。
エ本件修正申告等に係る売上の減算につき合理的な算定根拠がないこと
東京国税局は,原告,滞納会社,P3らに対する税務調査を一通り終え
た段階において,本件利益分配合意が存続していたという前提で,本件国
内各社の売上は,名目上のものにすぎず,その実態は,P14社が,本件
国内各社を経由して,P14社の各株主に対して配当を行った資金の流れ
にすぎないという,極めて不合理で,事実に反する見解を示した。
しかし,税務調査を受けた当時,P3は,刑事事件において被告人の立
場にあり,一審において実刑判決を受け,控訴中であった。仮にP3が課
税処分を受け,それがマスコミに漏れてP3が脱税した旨報道されること
になれば,情状において不利になり,一審の実刑判決が維持されることも
考えられ,それだけは絶対に避ける必要があった。P3は,東京国税局の
担当者との面談において,東京国税局の提案する処理について「到底納得
できない」などと繰り返し述べたが,上記のリスクを避ける必要があった
こと,また,修正申告をしても東京国税局からは守秘義務を厳守して絶対
にリークしないとの確約があった上,課税額において譲歩案が示されたこ
ともあり,本件修正申告に応じたものである。そして,税務調査の対象と
なったその他の会社も,P3において課税額の多くを担う結論になること
から,同様に修正申告に応じるに至った。
本件修正申告は,東京国税局が一方的に算定して指定してきた金額をそ
のまま書き写して行われたもので,その算定根拠は滞納会社に示されず,
売上の減算につき合理的な算定根拠は一切存在しないものであった。また,
合理的な算定根拠が存在しないことは,本件更正処分も同様である。
(4)徴収法34条が適用される場面との対比において原告が第二次納税義務を
負うことにはならないこと(争点2)
ア事実上の解散状態にあるだけでは徴収法39条を適用できないこと
徴収法は,第二次納税義務について類型ごとに限定列挙しているのであ
り,ある類型に当てはまらないものを,無理やり他の類型に当てはめよう
とすることは,租税法律主義(憲法84条)に反する極めて不当なもので
あって,到底認められない。また,徴収法34条の趣旨が当てはまるのは,
法人がその活動を終了するという極めて例外的な場面においてのみである
と解される。そうすると,本件において,滞納会社が事実上解散状態にあ
るというだけで,原告に対し徴収法39条に基づく第二次納税義務を課す
ことはできないというべきである。
イ滞納会社は事実上の解散状態になかったこと
上記アの点は措くとしても,以下の各事情によれば,滞納会社が平成1
8年10月期をもって事実上解散したということはできない。
(ア)本件配当後も役員報酬が支払われていること
本件配当が決議された滞納会社の平成18年11月24日の株主総会
において,同時に,取締役の報酬金額を年額3000万円以内とする旨
の議案が上程されて承認された(甲10)。そして,本件配当後,取締
役であったP4に対し,毎月100万円が役員報酬等として支払われて
いた(甲22)。
(イ)事業の継続を予定して滞納会社の株式が譲渡されていたこと
本件配当が決議された平成18年11月24日,原告とP4との間で
株式譲渡契約が締結され,同契約に基づき,P4は,同月26日付けで
原告の有する滞納会社の発行済株式全部を3000万円で譲り受けた。
P4は,新たな事業機会が生じた場合には滞納会社において事業を継続
することを考慮に入れた上で,当該株式を取得した。
(ウ)事務所の賃貸借契約解除が事業活動を終了する目的でないこと
滞納会社は,平成18年7月以降,その事業を大幅に縮小したため,
無駄な経費を削減するべく賃料が月額331万62円と高額であった従
前の事務所の賃貸借契約を解除し,P4の自宅において業務を行うこと
とした。
(エ)本件配当後も滞納会社が多額の資産を保有又は管理していたこと
滞納会社は,本件配当後も約50億ないし60億円という多額の資産
を保有し,その管理を行っていた(甲25)。また,滞納会社は,ある
事業会社の株式譲渡に関する基本合意について,取引相手に違約があっ
たことから,平成18年12月6日,当該取引相手を被告として,合計
25億5142万8000円の違約金の支払を求める訴訟を東京地方裁
判所に提起した(甲26)。
(5)国税当局において第二次納税義務の根拠がないと判断していたこと
ア本件配当金の支払から約1年半にわたり本件告知処分がなかったこと
本件修正申告の際,滞納会社に納税資金のないことが問題となったが,
東京国税局から,P3に対し,P3側が滞納会社に貸し付けることで納税
資金を手当てしてもらいたいとの要請があり,P3は,守秘義務が厳守さ
れて修正申告の事実がリークされないことを条件に,当該要請に応じるこ
とにした。このとき,東京国税局から,「一部でもよいから,早期に貸付
けを実行してもらいたい。」との強い要請があった。
そこで,P3側は,P3の控訴審判決前の段階で一部(約3分の1)の
貸付けに応じることとし,平成20年7月17日にP4(滞納会社の元副
社長)が代表を務めるP27社が1億円を,同月22日に原告が2億50
00万円を,同月23日にP5(滞納会社の元副社長)が代表を務めるP
21社が1億2000万円を,それぞれ滞納会社に貸し付け,滞納会社は,
この合計4億7000万円を原資として,同月23日,4億8334万9
928円を納税した。
ところが,東京国税局は,上記の約束を反故にし,守秘義務に違反して
マスコミにリークを行い,同年8月28日,主要紙その他報道機関が一斉
にP3に対する追徴課税を報じるに至った。そこで,P3は,残額の貸付
けを中止した。
このように,東京国税局が,滞納会社に納税資金がないことを本件修正
申告の当時から認識していたにもかかわらず,本件配当金の支払から約1
年半にわたって第二次納税義務に基づく告知処分をしなかったのは,原告
につき第二次納税義務の根拠がないと判断していたからである。
イ配当金返還請求権の差押え及び解除がされたこと
上記アでP3が残額の貸付けを中止した後,東京国税局は貸付けの履行
をP3に要請したが,P3はこれに応じなかった。すると,東京国税局長
は,突如,本件配当が違法配当であるとして,本件配当金のうち60億7
033万1606円について,滞納会社の原告に対する返還請求権を差し
押さえた。
仮に原告につき第二次納税義務が成立するのであれば,かかる差押えは
不要であったから,上記差押えが行われた事実自体,東京国税局長が原告
に第二次納税義務が成立するとは考えていなかったことの証左である。
また,東京国税局長は,原告において差押対象となった配当金の返還請
求権が存在しないこと及びその理由を説明したところ,上記差押えを解除
した。上記差押え当時,滞納会社の滞納税額が合計8億3691万412
2円であったのに対し,上記のとおり差押財産の価額が60億円以上もあ
ったことからすれば,東京国税局長が,上記差押えを解除したのは,本件
配当が違法配当に該当しないことを明確に認識したからにほかならない。
第3当裁判所の判断
1「第三者に利益を与える処分」の意義等について
(1)国税通則法42条は,国税の徴収に関しても,民法424条の詐害行為取
消権の規定を準用することとしており,国税の納税者がした財産の譲渡行為
等が詐害行為に該当するときは,徴収職員はその行為を訴訟によって取り消
した上で当該財産に対して滞納処分を執行することができるが,国税に関す
る詐害行為の全てを訴訟をまって処理していたのでは,国税の簡易迅速な確
保を期すことができない。そこで,徴収法39条は,納税者が無償又は著し
い低額で財産を処分し,そのため納税が満足にできないような資産状態に立
ち至った場合には,その受益者に対して直接第二次納税義務を負わせること
により,実質的に詐害行為の取消しをしたのと同様の効果を得るために設け
られたものと解される。このような立法趣旨に照らすと,同条にいう「第三
者に利益を与える処分」とは,滞納者の積極財産の減少の結果,第三者に利
益を与えることとなる処分をいうものと解される。
(2)会社法に基づく剰余金の配当は,会社が,株主に対し,その有する株式の
数に応じて会社の財産(配当財産)を分配する行為であり,その分配可能額
は,同法に基づいて計算方法が法定されている。そうすると,滞納者たる会
社が行った剰余金の配当が,法令の定めに違反し,分配可能額を超過するも
のであるときは,「第三者に利益を与える処分」に該当することは明らかで
ある。また,上記(1)の徴収法39条の趣旨に照らせば,剰余金の配当が法令
に違反するとまではいえない場合であっても,例えば,滞納会社の利益剰余
金の中に,滞納会社の売上として計上することにつき合理性を欠くにもかか
わらず計上された金額に由来する部分(以下「過大売上分」という。)が含
まれていることなどの理由により,当該金額を配当することが,滞納者たる
会社の株主に異常な利益を与え,実質的にみてそれが必要かつ合理的な理由
に基づくものとはいえないと評価することができるときは,当該金額に係る
配当は,「第三者に利益を与える処分」に当たると解することが相当である。
(3)上記第2の3のとおり,本件においては,過大売上分の有無が争点となっ
ているところ,被告は,本件配当の前提となった売上が,本件修正申告及び
本件更正処分により減算された上で,滞納会社の法人税の税額が確定してい
る以上,最高裁昭和50年判決の法理に照らし,本件告知処分を受けた者は,
本件修正申告及び本件更正処分における所得誤認をいうことになる事由を本
件告知処分の取消事由として主張することはできない旨主張する。
そこで検討するに,最高裁昭和50年判決は,主たる課税処分等が不存在
又は無効でない限り,主たる納税義務の確定手続における所得誤認等の瑕疵
は,第二次納税義務の納付告知の効力に影響を及ぼすものではなく,第二次
納税義務者は,納付告知の取消訴訟において,確定した主たる納税義務の存
否又は数額を争うことはできない旨判示したものである。
しかしながら,本件では,原告が徴収法39条所定の第二次納税義務者に
当たるか否かそれ自体が問題となり,同条所定の要件である「第三者に利益
を与える処分」を受けた取引相手に該当するか否かが争点となっているとこ
ろ,徴収法39条所定の第二次納税義務者は,本来の納税義務者から無償又
は著しく低い額の対価による財産譲渡,債務の免除その他第三者に利益を与
える処分を受けたという取引相手にとどまり,常に本来の納税義務者と一体
性又は親近性のある関係にあるということはできないのであって,当然に,
本来の納税義務者との一体性を肯定して両者を同一に取り扱うことが合理的
であるということはできない。そして,主たる納税義務が申告によって確定
する場合には,第二次納税義務者が本来の納税義務者の申告自体を直接争う
方法はないのであるが,そのことから逆に,行政権の違法な行使によって権
利利益の侵害が生ずる場合にまで,これを争う方法を否定する結論を導くべ
きであるとは考えられない(最高裁平成16年(行ヒ)第275号同18年
1月19日第一小法廷判決・民集60巻1号65頁参照)。また,本件にお
いて,原告は,滞納会社には過大売上分はない(すなわち,本件更正処分が
前提とする滞納会社の所得はその分増加すべきである)と主張して争ってい
るところ,原告が,滞納会社に対する減額更正である本件更正処分自体を争
う訴訟を提起した上,その中で上記のような主張することが許されるとする
ことが適切であるとも考え難い。
そうすると,徴収法39条に基づいて第二次納税義務の納付告知を受けた
者は,当該納付告知を争う訴訟において,滞納者の申告により確定した税額
や滞納者の受けた更正処分により確定した税額を争うことができないとして
も,同条所定の要件である「第三者に利益を与える処分」を受けた取引相手
に当たるか否かという点に関しては,滞納者の申告における所得金額を構成
する具体的な内容や滞納者の受けた更正処分で認定された所得金額を構成す
る具体的な内容に拘束されることなく,それとは異なる主張をすることも許
されると解するべきである。
以上のとおりであるから,被告の上記主張は採用することができない。な
お,このように解するとしても,滞納者において,過大売上分があるという
内容において修正申告をした事実が存在する以上,当該事実は,過大売上分
があるかないかの判断に当たって考慮し得る事情であるというべきであるか
ら,本件修正申告及び本件更正処分の内容は,本件配当の「第三者に利益を
与える処分」該当性を判断するに当たり,無関係なものとして当然に排除さ
れるべきものではない。
2過大売上分の有無について
(1)本件投資事業開始当初の合意について
前記前提事実(2)のとおり,①P14社は,P13のゼネラル・パートナー
として,P13の管理等を行うことを目的として設立されたこと,②P13
は,平成13年から本件投資事業を開始したところ,P3とP8は,本件投
資事業の開始当初,本件投資事業の利益につき課税されることを免れるため,
本件成功報酬をケイマン法人であるP14社に留保し,将来的にP14社の
出資者の間で出資割合に応じて配分することを予定していたこと,③平成1
3年12月末の時点において,P14社への出資者は,P15社の出資者も
含めて勘案すれば,P820パーセント,P344パーセント,P51
2.5パーセント,P414.5パーセントであったこと,④P3らは,
P8に対して,平成13年1月付けで作成されたP14社に関する念書(乙
73)を差し入れ,P14社の株式の追加発行を行わないことを約していた
ことが認められる。
以上の事情を総合すれば,P3らとP8との間では,本件投資事業の開始
当初,P14社に留保される本件成功報酬については,将来,P14社に対
する出資割合に応じた配分を行う旨の合意(以下「当初配分合意」という。)
がされていたと認めることができる。
(2)本件成功報酬の発生と滞納会社の業務との関係について
前記前提事実(2)のとおり,①P13への出資総額は,平成13年から平成
16年までの間,概ね500億円程度であり,上記の期間中の利益としてP
14社が収受すべき本件成功報酬は,各年において概ね2億円から17億円
程度であったこと,②P13の手仕舞いが行われて本件投資事業が終了した
時点での本件成功報酬の合計額は約158億円であったことが認められる。
また,前記前提事実(2)ないし(4)のとおり,③P8は,投資事業組合を組
成して,P13などへの投資を行う一般投資家を募集し,この紹介業務に関
して紹介料の支払を得ていたこと,④P7社は,平成13年6月,P14社
との間で投資一任契約を締結して,投資顧問業務を行っていたほか,アクテ
ィビスト業務を行っていたこと,⑤P3は,平成16年6月頃,P7社から,
アクティビスト業務を分離して,これを滞納会社に移管することとしたが,
業務の実態としては従前とは実質的な変更がなく,P3の主導の下で一体的
な経営がされていたこと,⑥上記の移管とほぼ時期を同じくして,P14社
とP7社との間の成功報酬に関する契約書(本件覚書,作成日付を平成13
年12月まで遡及させたもの),P7社と滞納会社との間の業務委託(アク
ティビスト業務)に関する契約書,P14社と滞納会社との間の業務委託(保
守業務)に関する契約書,P14社と原告との間の業務委託(紹介及び保守
業務)に関する契約書(作成日付を平成12年12月まで遡及させたもの)
がそれぞれ作成されたこと,⑦滞納会社は,上記各契約書の内容に従い,平
成16年7月以降,P7社から,通常報酬の支払を受けるようになり,また,
平成17年1月以降,P14社から,通常報酬の支払を受けるようになった
こと(弁論の全趣旨)が認められる。
そして,前記前提事実(4)及び(5)のとおり,⑧上記各契約書には,本件成
功報酬に関する条項が置かれており,その内容は,P14社はP7社に対し
て本件成功報酬のうち60パーセントを支払うこと,P7社は滞納会社に対
して上記60パーセントのうち80パーセントを支払うこと,P14社は滞
納会社,P19社及び原告が扱う出資者に関する紹介及び保守業務に関して
合計で本件成功報酬のうち40パーセントを支払う旨のものであったこと,
⑨滞納会社は,平成17年1月以降,P7社から,本件成功報酬条項に基づ
く金員を受領するようになり,また,平成18年1月以降,P14社から,
本件成功報酬条項に基づく金員を受領するようになったことが認められる。
なお,滞納会社が,P14社が収受した本件成功報酬に由来する金員を,平
成16年10月期以前の時期において受領していたことを認めるに足りる証
拠はない。
他方,P8は,租税回避行為に対する国税局の調査が行われている事案の
存在を聞き及び,P14社に留保されていた本件成功報酬を国内に移転する
ことを了承したが,その方法については確認をしておらず,P8の取り分に
ついては,P7社の株式を45パーセント取得していることで保全すること
ができると認識していた(乙72)。
以上の事情を総合すると,①P7社及びその一部を分社化した滞納会社は,
本件投資事業開始当初から,投資顧問業務(アクティビスト業務を含む)を
行っており,その役割は本件投資事業の中核的なものであったということが
できるものの,本件成功報酬をP14社から受領することの直接の根拠とな
っている本件覚書等は本件投資事業が開始されて3年程度経過した後に作成
されたものであること,また,本件覚書の条項に基づいて受領した本件成功
報酬の60パーセント相当金額の中には当初の合意においてP8が取得すべ
きこととされていた本件成功報酬部分も含まれていたことを勘案すると,本
件覚書等に基づいてP7社及び滞納会社が受領した本件成功報酬の全てが,
本件投資事業における両社の業務の対価であると評価することはできないと
いわざるを得ない。②また,滞納会社は,アクティビスト業務のほかに,保
守業務を行っていたとされるところ,保守業務の内容は,既に出資した投資
家に対してファンドの投資運用成果と今後の見通しに関する状況を報告する
などして投資を継続してもらう業務にすぎず,他の業務に比して重要性が劣
るものであり,かつ,保守業務に伴う業務報酬(通常報酬)を得ていた時期
は平成17年1月以降であって短期間であるにもかかわらず,滞納会社が本
件成功報酬条項に基づいて保守業務に関して受領した金額は約12億円であ
って,本件成功報酬の1割弱にも及ぶことを勘案すると,上記の金額が本件
投資事業における滞納会社の保守業務の対価であると評価することはできな
いといわざるを得ない。
加えて,本件覚書等に基づくと,P14社が収受した本件成功報酬は,全
てP7社,滞納会社,原告などの成功報酬として移転され,P14社には本
件成功報酬が全く留保されないことになるが,このような事態は,P14社
がP13のゼネラル・パートナーの立場にあって,ファンドに関する各種業
務の本来的な委託者であることに照らすと,P14社がその業務の多くを外
注していたという事情を考慮したとしても,独立企業間における取引として
は異常なものであるとの評価を免れない。
(3)P13の手仕舞いに伴う利益分配状況等について
前記前提事実(6)及び(7)のとおり,①P3は,平成18年6月に刑事訴追
を受け,P13を手仕舞いすることとしたこと,②それに伴い,P8は,平
成18年5月頃,保有していたP7社の株式と滞納会社の株式をそれぞれP
7社と滞納会社に売却し,その結果,実質的には本件成功報酬の20パーセ
ント(P8のP14社の出資割合)に相当する金員を得たこと,③また,P
5は,平成18年4月頃,滞納会社の株式を取得した上,同年9月にこれを
原告に売却し,その差額相当の金額(約15億円)を得て,実質的には本件
成功報酬の約9.5パーセントに相当する金員を得たこと,④P4は,成功
報酬の形でP14社から支払を受けていたP19社及びP20社の株式を平
成18年9月から12月にかけて売却し,合計約9億円の金員を得たこと(な
お,P4は,ほかに,P14社からP19社を経由して約13億円を得たこ
とがうかがわれ,これを合わせると,実質的には本件成功報酬の約14パー
セントに相当する金員を得たこととなる。),⑤P3は,原告の唯一の株主
であり,かつ,原告は,平成18年10月期末において滞納会社の唯一の株
主であったことから,P3は,実質的にみて本件配当に相当する金額の利益
を享受する立場にあったことが認められる。
以上の事情を総合すれば,P13の手仕舞いに伴い,P3らとP8は,当
初配分合意における配分割合どおりではないものの,それとは大きな齟齬が
ない内容において,本件成功報酬の配分を行ったものということができる。
(4)本件修正申告及び本件更正処分について
前記前提事実(8)のとおり,本件配当後,P3,P4,P7社,滞納会社,
原告などについて税務調査が行われ,P3は,本件訴訟における原告の主張
と同様の意見を述べていたが,結局,課税庁が示した本件係争売上金額等を
減算すべきであるとの見解に従い,個人の所得税の修正申告を行ったほか,
滞納会社は平成17年10月期の法人税について本件修正申告を行うことと
し,減額更正となる平成18年10月期の法人税については本件更正処分が
行われ,原告の法人税についても減額更正が行われたことが認められる。上
記のような税務調査の内容とその後のP3や滞納会社の対応ぶりに加えて,
滞納会社と原告は,いずれもP3の主導の下で本件投資事業に関与していた
会社であることを勘案すると,本件修正申告がされたことは,原告において
も,課税庁の上記の見解を事実上受け入れていたと評価することができる。
(5)小括
以上のとおり,平成13年に本件投資事業が開始された当初,P3らとP
8との間では,P14社が収受すべき本件成功報酬についての配分の合意(当
初配分合意)があったことが認められ,その後,平成16年になって,P1
4社,P7社,滞納会社等との間で本件成功報酬条項を含む契約書が作成さ
れたものの,本件成功報酬条項に基づいて滞納会社が受領した本件成功報酬
については,これを滞納会社の業務の対価たる売上であると評価することに
は困難がある一方,その後,P13の手仕舞いに際しては,当初配分合意と
大きな齟齬がない内容において本件成功報酬が配分され,本件配当後に行わ
れた税務調査において,P3は,本件係争売上金額等を減算する内容での本
件修正申告等を行うに至ったというのである。これらの点を総合勘案すれば,
P13の手仕舞いの時点においても,当初配分合意はなお存続していたと評
価すべきであり,本件成功報酬条項に基づく成功報酬(本件係争売上金額)
を滞納会社の売上として計上することには合理性がないというべきである。
上記と異なる原告の主張は,採用することができない。
(6)原告の主張について
ア原告は,P4及びP5については,P14社への出資者であるのに,所
得税の課税が行われておらず,P4及びP5の支配下にあるP19社等の
法人税についても,売上の減算を前提とした更正処分が行われていないこ
と,また,P8についても同様であることからして,売上の減算は不合理
であると主張する。
しかしながら,P3の支配下にあったP7社,滞納会社及び原告と,そ
うではない会社とでは,本件成功報酬の取扱いに関する事情を異にし,売
上についての評価も異なったものとなる可能性があるのであるから,それ
に伴って課税関係を異にするとしても,本件における判断を直ちに覆すに
足りるものとまではいえない。したがって,原告の上記主張は採用するこ
とができない。
イ原告は,本件修正申告は,東京国税局の一方的に算定し指定してきた金
額をそのまま書き写して行われたもので,P3がこれに応じたのは,刑事
事件において実刑判決を受けて控訴中であるなどの状況にあったことによ
るものである旨主張する。
しかしながら,前記前提事実(8)のとおり,本件修正申告等に至るまでの
間,東京国税局とP3との間では本件係争売上金額等の減算の当否等を巡
って明示的な意見の相違があり,P3は,複数回にわたって自己の意見を
述べて東京国税局の説得を図ったが,最終的には東京国税局が示した数値
に従って本件修正申告等に及んだことからすると,本件修正申告等につい
て上記(4)のとおり評価することは妨げられないというべきである。したが
って,原告の上記主張は採用することができない。
ウ原告は,業務委託契約が存在するにもかかわらず,業務の提供と報酬と
の間に対価関係がないとする被告の主張は,少なくとも租税法上の評価と
しては,当該契約の有効性を否認するものであるが,このような否認は許
されない旨主張する。
しかしながら,本件における争点は,徴収法39条にいう「第三者に利
益を与える処分」に当たるか否かを判断する前提として,滞納会社が本件
配当の時点において計上していた売上が合理的なものと評価されるべきか
否かという点にすぎず,本件成功報酬条項の有効性それ自体ではないから,
いわゆる事実認定による否認の許否が問題となる場面ではない。したがっ
て,原告の上記主張は採用することができない。
3本件配当の「第三者に利益を与える処分」該当性について
(1)上記2のとおり,本件係争売上金額を滞納会社の売上として計上すること
については合理性を欠くと認められるところ,滞納会社の損益計算上,平成
17年10月期売上が減少すれば,その分だけ同期における当期未処分利益
の額が減少し,翌期への繰越利益も減少するという関係にあり,また,平成
18年10月期売上が減少すれば,その分だけ同期における当期純利益の額
が減少するという関係にある(前記前提事実(7))から,本件配当の原資とな
った利益剰余金には,過大売上分が含まれているということができる。
(2)前記前提事実(7)のとおり,①滞納会社は,本件配当に先立ち,資本金の額
を1000万円に減少するとともに,資本準備金を取り崩し,約5億円を資
本剰余金に振り替え,資本剰余金を約12億円としたこと,②滞納会社の平
成18年10月期末における資産の額は約194億円であったところ,本件
配当はその大部分である約188億円を唯一の株主である原告に支払うもの
であったことが認められる。このような配当は,株式会社が正常に営業を継
続している場合においては想定し難く,実質的には,解散に伴う残余財産の
分配に類する行為であるということができる。
また,本件配当中に含まれる過大売上分は,もともと,P14社に留保さ
れていた利益に由来するものであるところ,前記前提事実(7)のとおり,この
利益については,原告が本件配当金を受領するまでの過程において税負担が
生じることなく,原告が取得することができるという結果が生じていた。
上記(1)の点に加えて,これらの点をも考慮すれば,本件配当中に含まれる
過大売上分は,株主に異常な利益を与え,実質的にみてそれが必要かつ合理
的な理由に基づくものとはいえないものと評価すべきことが明らかである。
(3)以上のとおり,本件配当には,本件係争売上金額に相当する過大売上分が
含まれ,本件配当を行うことが,滞納会社の株主に異常な利益を与え,実質
的にみてそれが必要かつ合理的な理由に基づくものとはいえないと評価する
ことができるから,その余の点(争点2)について判断するまでもなく,本
件配当は,本件係争売上金額に係る部分の限度において「第三者に利益を与
える処分」に当たるというべきである。
4本件告知処分の適法性
滞納会社の本件滞納国税は,滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に
不足すると認められ(前記前提事実(9)),その不足すると認められることが,
平成18年11月24日に行われた本件配当という第三者に利益を与える処分
に基因することは明らかであるから,滞納会社の特殊関係者である原告(前提
事実(6))は,本件係争売上金額75億2814万9376円の限度において,
本件滞納国税の第二次納税義務を負う。本件告知処分に先立ち,処分行政庁が
いったん配当金返還請求権の差押えを行ったがその後解除をしたこと(前記前
提事実(9))は,上記判断を左右するものではない。
したがって,本件告知処分(ただし,本件裁決により一部取り消された後の
もの)は適法である。
5結論
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担に
つき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決す
る。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官谷口豊
裁判官下和弘
裁判官中丸隆は,転補につき署名押印することができない。
裁判長裁判官谷口豊
(別紙2)
(単位:円)
(注)平成17年11月1日の欄に記載した「△3,987,936」は,平成17年10月
期の売上計上額が減額されたものである。
売上計上日
相手先
合計
訴外P7社訴外P14社
平成17年
10月期
平成17年2月17日97,166,444-
平成17年7月4日156,743,830-
平成17年7月14日741,636,100-
計995,546,374-995,546,374
平成18年
10月期
平成17年11月1日△3,987,936-
平成18年1月10日-63,789,012
平成18年2月1日101,308,007-
平成18年3月1日348,777,947-
平成18年3月1日273,513,734
平成18年3月1日37,084,366
平成18年3月10日-30,903,638
平成18年5月20日940,590,285-
平成18年7月31日3,560,242,863-
平成18年8月15日-1,180,381,086
計5,257,529,2661,275,073,7366,532,603,002

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