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平成27年(行ヒ)第177号法人税更正処分等取消請求事件
平成28年2月29日第二小法廷判決
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
第1事案の概要等
1本件は,平成21年2月2日にb株式会社(同日に変更されるまでの商号は
B株式会社。以下「b社」という。)から新設分割(以下「本件分割」という。)
により設立された上告人が,本件分割は法人税法(平成22年法律第6号による改
正前のもの。以下「法」という。)2条12号の11の適格分割に該当しない分割
(以下「非適格分割」という。)であり,法62条の8第1項の資産調整勘定の金
額が生じたとして,同日から平成21年3月31日まで,同年4月1日から同22
年3月31日まで,同年4月1日から同23年3月31日まで及び同年4月1日か
ら同24年3月31日までの各事業年度(以下「本件各事業年度」という。)に係
る各法人税の確定申告に当たり,上記の資産調整勘定の金額からそれぞれ所定の金
額を減額し損金の額に算入したところ,四谷税務署長が,組織再編成に係る行為又
は計算の否認規定である法132条の2を適用し,上記の資産調整勘定の金額は生
じなかったものとして所得金額を計算した上で,本件各事業年度の法人税の各更正
処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各更正処分等」という。)
をしたため,上告人が,被上告人を相手に,本件各更正処分等(上記各更正処分に
ついては各申告額を超える部分)の取消しを求める事案である。
2関係法令の定め等
(1)法2条12号の11は,適格分割について,同号イからハまでのいずれか
に該当する分割をいう旨規定し,同号イは,その分割に係る分割法人と分割承継法
人との間にいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式等の全部を直接又は間接
に保有する関係その他の政令で定める関係がある場合の当該分割を掲げている。
同号イの規定を受けて,法人税法施行令(平成22年政令第51号による改正前
のもの。以下「施行令」という。)4条の2第6項1号は,当該分割が単独新設分
割である場合にあっては,当該分割後に分割法人と分割承継法人との間にいずれか
一方の法人が他方の法人の発行済株式等の全部を直接又は間接に保有する関係(以
下「当事者間の完全支配関係」という。)が継続すること(当該分割後に分割法人
を被合併法人とする法2条12号の8の適格合併が予定されている場合は,これに
加えて,当該合併後,合併法人と分割承継法人との間に上記の関係が継続するこ
と)が見込まれている場合における当該分割法人と分割承継法人との間の関係が,
同条12号の11イに規定する政令で定める関係に当たる旨規定する。
(2)法57条1項は,確定申告書を提出する内国法人の各事業年度開始の日前
7年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額がある場合には,当該欠損金
額に相当する金額は,当該各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入する
旨規定し,同条2項は,適格合併が行われた場合において,被合併法人の当該合併
の日前7年以内に開始した各事業年度(以下「前7年内事業年度」という。)にお
いて生じた未処理欠損金額があるときは,合併法人の当該合併の日の属する事業年
度以後の各事業年度における同条1項の規定の適用については,当該前7年内事業
年度において生じた未処理欠損金額は,それぞれ当該未処理欠損金額の生じた前7
年内事業年度の開始の日の属する当該合併法人の各事業年度において生じた欠損金
額とみなす旨規定する。
(3)法62条1項は,内国法人が分割により分割承継法人にその有する資産及
び負債の移転をしたときは,当該移転をした資産及び負債の当該分割の時の価額に
よる譲渡をしたものとして,当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する旨
規定し,法62条の3第1項は,内国法人が法2条12号の13の適格分社型分割
(同条12号の10の分社型分割のうち適格分割に該当するもの)により分割承継
法人にその有する資産及び負債の移転をしたときは,法62条1項の規定にかかわ
らず,当該資産及び負債の当該分割の直前の帳簿価額による譲渡をしたものとし
て,当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する旨規定する。
(4)法62条の8第1項は,内国法人が非適格分割により分割法人から資産又
は負債の移転を受けた場合において,当該内国法人が当該分割により交付した金銭
の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該移転を受けた資産及び負債の時価純
資産価額を超えるときは,その超える部分の金額のうち政令で定める部分の金額
は,資産調整勘定の金額とする旨規定する。
同条4項は,同条1項の資産調整勘定の金額を有する内国法人は,各資産調整勘
定の金額に係る当初計上額を60で除して計算した金額に当該事業年度の月数を乗
じて計算した金額に相当する金額を,当該事業年度において減額しなければならな
い旨規定し,同条5項は,同条4項の規定により減額すべきこととなった資産調整
勘定の金額に相当する金額は,その減額すべきこととなった日の属する事業年度の
所得の金額の計算上,損金の額に算入する旨規定する。
(5)法132条の2は,税務署長は,組織再編成(合併,分割,現物出資若し
くは事後設立又は株式交換若しくは株式移転をいう。以下同じ。)に係る同条各号
に掲げる法人(組織再編成をした一方の法人若しくは他方の法人(1号),組織再
編成により交付された株式を発行した法人(2号)又は前2号に掲げる法人の株主
等である法人(3号))の法人税につき更正又は決定をする場合において,その法
人の行為又は計算で,これを容認した場合には,組織再編成により移転する資産及
び負債の譲渡に係る利益の額の減少又は損失の額の増加,法人税の額から控除する
金額の増加,1号又は2号に掲げる法人の株式の譲渡に係る利益の額の減少又は損
失の額の増加,みなし配当金額の減少その他の事由により法人税の負担を不当に減
少させる結果となると認められるものがあるときは,その行為又は計算にかかわら
ず,税務署長の認めるところにより,その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠
損金額又は法人税の額を計算することができる旨規定する。
3原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)a株式会社(以下「a社」という。)は,国内外の会社の株式等を取得す
ることにより当該会社の事業活動を支配,管理することを目的とする株式会社であ
り,本件分割当時,dはその代表取締役社長を,cはその取締役を務めていた。
i株式会社(以下「i社」という。)は,情報処理サービス業及び情報提供サー
ビス業等を目的とする株式会社であり,本件分割当時,cはその代表取締役社長
を,dはその取締役会長を務めていた。なお,i社の議決権の所有割合は,a社が
約42.1%,米国のe社が約34.9%,その他の株主が約23.0%であっ
た。
(2)a社は,平成17年2月,英国の企業から,b社の発行済株式の全部を取
得し,同社を完全子会社とした。b社は,情報通信事業用施設の保守,管理及び運
営等を目的とする株式会社であり,同年5月に通信事業を分割して売却するなど
し,データセンター(サーバー類を収容している施設をいう。以下同じ。)に関す
る事業に特化して事業を行っていた。
b社には,平成14年3月期(平成13年4月1日から同14年3月31日まで
の事業年度。以下,他の事業年度も同様に表記する。)から平成18年3月期まで
欠損金が発生し,平成20年3月31日時点で,その未処理欠損金額は合計約66
6億円であったところ,b社の利益は,平成19年3月期以降,毎年20億円程度
であり,上記未処理欠損金額を償却するには相当な期間がかかることが見込まれて
いた。そして,上記未処理欠損金額のうち平成14年3月期に発生した約124億
円は,同22年3月期以降は法57条1項により損金に算入することができなくな
るものであった。
(3)b社は,平成20年3月頃,同社の営むデータセンターに係る設備投資資
金の調達とa社への財務面の寄与を目的として,b社を分割して新設会社の株式を
公開するなどの案を検討したが,a社の担当部署は,この案ではb社の未処理欠損
金額の全てを損金算入等により処理することができないと見込まれることなどか
ら,これに代わる案として,同年10月頃までに,事業譲渡による案と分社化によ
る案を作成した。これらの案においては,b社の未処理欠損金額のうち,平成14
年3月期に発生した約124億円は,法57条2項にいう前7年内事業年度におい
て生じた未処理欠損金額に該当しないことから,事業譲渡又は非適格合併により処
理し,それ以外のものは,b社とa社の他の子会社との適格合併により処理するこ
ととされたが,これらの案は,b社の有する未処理欠損金額を全て処理することを
可能とするものであった。
(4)dは,平成20年10月中旬,b社に関する上記の各案について報告を受
け,b社をa社の他の子会社ではなくi社に売却し合併させることが適切であると
考えた。そこで,dは,同月27日,cらi社の常勤取締役に対し,i社によるb
社の買収を提案し,さらに,a社は,同年11月21日,i社に対し,書面によ
り,i社がb社を700億円で買収することなど次の①から④までの手順で組織再
編成を行う提案(以下「本件提案」という。)をした。
本件提案における組織再編成の手順は4段階で構成されており,その概要は,①
b社が新設分割により簿価34億円の新会社を設立する,②b社がi社に対し新会
社の発行済株式全部を174億円で譲渡し,b社は新会社の株式譲渡益140億円
を平成14年3月期分及び同15年3月期分の未処理欠損金額の一部と相殺する,
③a社がi社に対しb社の発行済株式全部を700億円(税務上資産200億円,
事業資産326億円及び現金174億円の合計額)で譲渡する,④i社が平成21
年3月31日までにb社を吸収合併し,b社の未処理欠損金額の残額を承継し,i
社の事業収益と相殺する,というものであった。なお,上記③の「税務上資産20
0億円」とは,本件提案においてi社がb社から引き継ぐことが想定されていた未
処理欠損金額の残額約500億円に税率40%を乗じて算出されたものである。
(5)b社の代表取締役であるfは,平成20年12月10日頃,dから,本件
提案を実行する旨告げられ,これを了承した。
b社は,平成21年1月7日,データセンターの営業,販売及び商品開発に係る
事業に関する権利義務を新設分割により新たに設立する会社(上告人)に承継させ
る旨の新設分割計画を作成し,同月21日開催の取締役会において,新設会社の成
立の日を同年2月2日とすることを決定した。そして,同日,上告人が本件分割に
より設立され,b社の取締役が上告人の取締役にも就任し,b社の従業員も全て上
告人に雇用されることとなった。なお,本件分割は,法2条12号の10の分社型
分割に当たるものである。
本件分割においてb社に交付された上告人の株式の評価額は115億円であり,
上告人が本件分割により移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額は14億66
06万1640円であり,その差額は100億3393万8360円であった。
(6)i社は,平成21年2月19日開催の取締役会において,b社から上告人
の発行済株式全部を115億円で買収すること,a社からb社の発行済株式全部を
450億円で買収することを決定した。なお,同取締役会においては,買収価格は
合計565億円であるが,実際の買収価格は450億円であり,上記115億円は
短期間でi社に戻ることが確認された。
(7)b社は,i社との間で,平成21年2月19日付けで,保有する上告人の
発行済株式全部をi社に対して115億円で譲渡する旨の株式譲渡契約を締結し,
同月20日,これをi社に譲渡した(以下,この譲渡を「本件譲渡1」とい
う。)。
なお,同月2日の本件分割当時,i社とb社との間でその後に本件譲渡1が行わ
れることがあらかじめ計画されており(以下,この計画を「本件計画」とい
う。),本件分割後にb社が上告人の発行済株式の全部を直接又は間接に保有する
関係(当事者間の完全支配関係)が失われる見込みとなるため,本件分割は,施行
令4条の2第6項1号の要件を満たさないこととなり,法2条12号の11イの適
格分割に該当しないもの(非適格分割)となった。
(8)a社は,i社との間で,平成21年2月23日付けで,保有するb社の発
行済株式全部をi社に対して450億円で譲渡する旨の株式譲渡契約を締結し,同
月24日,これをi社に譲渡した(以下,この譲渡を「本件譲渡2」という。)。
(9)i社は,平成21年2月25日開催の取締役会において,b社との合併を
決定し,同日,b社との間で,i社がb社の権利義務全部を承継しb社が合併後に
解散する旨の合併契約を締結した。そして,同年3月30日,上記合併契約に基づ
くi社とb社との合併(以下「本件合併」という。)の効力が発生した。
(10)上告人は,本件分割当時にi社が上告人の発行済株式全部を取得する本件
譲渡1が計画されており,したがって,本件分割後にb社と上告人との間に施行令
4条の2第6項1号の当事者間の完全支配関係が継続することが見込まれていると
はいえず,本件分割は非適格分割に当たるとして,本件分割によりb社に交付され
た上告人の株式の評価額115億円と,上告人が本件分割により移転を受けた資産
等の時価純資産価額14億6606万1640円との差額である100億3393
万8360円を,法62条の8第1項の資産調整勘定の金額(以下「本件資産調整
勘定金額」という。)とした。
そして,上告人は,本件資産調整勘定金額のうち本件各事業年度に対応する金額
(平成21年3月期につき3億3446万4612円,同22年3月期から同24
年3月期までにつきそれぞれ20億0678万7672円)を損金の額に算入し
て,本件各事業年度に係る各法人税の確定申告を行った。
(11)これに対し,四谷税務署長は,本件分割の時点で本件譲渡1が見込まれて
いたことを理由に本件分割を非適格分割としたことは,上告人に本件資産調整勘定
金額を生じさせること等を目的とした異常ないし変則的なものであり,これを容認
した場合には,法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるとして,
法132条の2に基づき,本件資産調整勘定金額が生じなかったものとして上告人
の本件各事業年度に係る所得金額を計算し,本件各更正処分等をした。
第2上告代理人小林啓文ほかの上告受理申立て理由第二について
1組織再編成は,その形態や方法が複雑かつ多様であるため,これを利用する
巧妙な租税回避行為が行われやすく,租税回避の手段として濫用されるおそれがあ
ることから,法132条の2は,税負担の公平を維持するため,組織再編成におい
て法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われ
た場合に,それを正常な行為又は計算に引き直して法人税の更正又は決定を行う権
限を税務署長に認めたものと解され,組織再編成に係る租税回避を包括的に防止す
る規定として設けられたものである。このような同条の趣旨及び目的からすれば,
同条にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」と
は,法人の行為又は計算が組織再編成に関する税制(以下「組織再編税制」とい
う。)に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減
少させるものであることをいうと解すべきであり,その濫用の有無の判断に当たっ
ては,①当該法人の行為又は計算が,通常は想定されない組織再編成の手順や方法
に基づいたり,実態とは乖離した形式を作出したりするなど,不自然なものである
かどうか,②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理
由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で,当該
行為又は計算が,組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したもので
あって,組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその
適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが
相当である。
2組織再編税制の基本的な考え方は,実態に合った課税を行うという観点か
ら,原則として,組織再編成により移転する資産及び負債(以下「移転資産等」と
いう。)についてその譲渡損益の計上を求めつつ,移転資産等に対する支配が継続
している場合には,その譲渡損益の計上を繰り延べて従前の課税関係を継続させる
というものである。このような考え方から,組織再編成による資産等の移転が形式
と実質のいずれにおいてもその資産等を手放すものであるとき(非適格組織再編
成)は,その移転資産等を時価により譲渡したものとされ,譲渡益又は譲渡損が生
じた場合,これらを益金の額又は損金の額に算入しなければならないが(法62条
等),他方,その移転が形式のみで実質においてはまだその資産等を保有している
ということができるものであるとき(適格組織再編成)は,その移転資産等につい
て帳簿価額による引継ぎをしたものとされ(法62条の2等。適格分社型分割につ
いては法62条の3),譲渡損益のいずれも生じないものとされている。
法2条12号の11の適格分割については,分割による資産等の移転に譲渡損益
を発生させず,帳簿価額による引継ぎをしたものとして譲渡損益の計上を繰り延べ
るものとされている(法62条の2,62条の3。なお,適格分割においては譲渡
損益が発生しないため,資産調整勘定の金額の損益算入等について定める法62条
の8は適用されない。)。施行令4条の2第6項が,法2条12号の11イに規定
する適格分割の要件として,分割後に分割法人と分割承継法人との間に当事者間の
完全支配関係等が継続することが見込まれていることを必要としているのは,当該
分割の時点で,当該分割後に当事者間の完全支配関係等が継続することが見込まれ
ていれば,移転資産等に対する支配が分割後も継続すると認められることによるも
のと解される。
3前記事実関係等によれば,本件の一連の組織再編成に係る行為である本件分
割,本件譲渡1,本件譲渡2及び本件合併は,a社による平成20年11月の本件
提案における手順を基礎として,同社の完全子会社であるb社の未処理欠損金額の
うち平成22年3月期以降は損金に算入することができなくなる約124億円を余
すところなく活用するため,b社に本件分割を行わせることにより上告人を設立
し,一方でb社に上記未処理欠損金額のうち当期利益により償却することができな
い約100億円に相当する譲渡益を発生させ,これにより上記未処理欠損金額のう
ち上記約100億円を償却し,他方で上告人に法62条の8第1項に基づく上記譲
渡益相当額と同額の資産調整勘定の金額を発生させることにより,上記未処理欠損
金額のうち上記約100億円を上告人の資産調整勘定の金額に転化させ,上告人に
おいてこれを以後60か月にわたり償却し得るものとするため,平成21年3月3
0日までのごく短期間に計画的に実行されたものである。
そして,上記のとおりb社に約100億円の譲渡益を発生させ,上告人に同額の
資産調整勘定の金額を発生させるためには,本件分割が当事者に譲渡損益を生じさ
せる非適格分割である必要があったことから,本件では,本件分割をあえて非適格
分割とするため,分割後に分割法人と分割承継法人との間に当事者間の完全支配関
係が継続することが見込まれているという施行令4条の2第6項1号の要件を満た
さないこととなるように,b社と上告人との当事者間の完全支配関係を一時的に断
ち切るものとして,本件分割と本件譲渡2の間に本件譲渡1を行う本件計画が立て
られ,そのとおり実行されたものとみることができる。しかも,本件譲渡1の4日
後に行われた本件譲渡2により,b社は上告人とともにi社の完全子会社となり,
さらに,その翌日にi社とb社との間で合併契約が締結され,その約1か月後に本
件合併の効力が生じたというのであるから,本件の一連の組織再編成を全体として
みれば,b社による移転資産等の支配は本件分割後も継続しているといえるのであ
って,本件分割は適格分割としての実質を有すると評価し得るものである。その
上,仮に本件分割後に本件譲渡1が行われなくとも,本件譲渡2と本件合併により
i社によるb社の吸収合併と上告人の完全子会社化は実現されたのであり,本件譲
渡1が行われたのは本件譲渡2のわずか4日前であり,本件合併の約1か月前であ
ることなどからすると,そもそも本件譲渡1を行う事業上の必要性は希薄である
上,本件譲渡1の対価である115億円が本件譲渡2及び本件合併によりいずれi
社に戻ることが予定されていたことなども考慮すると,本件譲渡1を行うことにつ
き,税負担の減少以外に事業目的等があったとは考え難い。
したがって,本件計画を前提とする本件分割は,平成22年3月期以降は損金に
算入することができなくなるb社の未処理欠損金額約100億円を上告人の資産調
整勘定の金額に転化させ,上告人においてこれを以後60か月にわたり償却し得る
ものとするため,本来必要のない本件譲渡1を介在させることにより,実質的には
適格分割というべきものを形式的に非適格分割とするべく企図されたものといわざ
るを得ず,本件計画を前提とする点において,通常は想定されない組織再編成の手
順や方法に基づくものであるのみならず,これにより実態とは乖離した非適格分割
の形式を作出するものであって,明らかに不自然なものであり,税負担の減少以外
にその合理的な理由となる事業目的等を見いだすことはできない。
4以上を総合すると,本件計画を前提とする本件分割は,組織再編成を利用し
て税負担を減少させることを意図したものであって,適格分割の要件を定める法2
条12号の11イ及び施行令4条の2第6項1号,適格分社型分割につき譲渡損益
の計上の繰延べを定める法62条の3並びに資産調整勘定の金額の損金算入等につ
いて定める法62条の8の本来の趣旨及び目的を逸脱する態様でその適用を受ける
もの又は免れるものと認められるというべきである。
そうすると,本件計画を前提とする本件分割は,組織再編税制に係る上記各規定
を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものとし
て,法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認めら
れるもの」に当たると解するのが相当である。所論の点に関する原審の判断は,以
上の趣旨をいうものとして是認することができる。
第3上告代理人小林啓文ほかの上告受理申立て理由第三について
法132条の2は,前述のとおり,組織再編成の形態や方法は複雑で多様である
ため,これを利用する巧妙な租税回避行為が行われやすいことから設けられたもの
である。そして,同条は,平成19年法律第6号による改正前において,「合併等
をした一方の法人若しくは他方の法人又はこれらの法人の株主等である法人」を受
けて「これらの法人の行為又は計算」と規定し,行為又は計算の主体である法人を
更正又は決定を受ける法人に限定していなかったところ,上記改正においては,同
条の適用対象となる法人の範囲が拡大され,同条各号に掲げられることとなったた
め,同条柱書きの「次に掲げる法人」を受けて「その法人の行為又は計算」と規定
されることとなったにすぎず,上記改正が行為又は計算の主体である法人を更正又
は決定を受ける法人に限定するものであったとはうかがわれない。以上のような同
条の趣旨及び改正の経緯等を踏まえると,同条にいう「その法人の行為又は計算」
とは,更正又は決定を受ける法人の行為又は計算に限られるものではなく,「次に
掲げる法人」の行為又は計算,すなわち,同条各号に掲げられている法人の行為又
は計算を意味するものと解するのが相当である。
したがって,本件計画を前提とする本件分割が,本件各更正処分等を受けた上告
人の行為ではなく,本件分割の分割会社(同条1号)であるb社の行為であるから
といって,同条による否認の対象とならないとはいえない。これと同旨の原審の判
断は正当として是認することができる。
第4結論
以上によれば,論旨はいずれも採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官小貫芳信裁判官千葉勝美裁判官鬼丸かおる裁判官
山本庸幸)

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