令和2年7月30日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成30年(ワ)第19783号損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日令和元年12月5日
判決
原告株式会社Shapes
上記訴訟代理人弁護士高橋隆二
同寺島英輔
被告エクササイズコーチジャパン株式会社
(旧商号:株式会社ShapesInternational)
(以下「被告会社」という。)
被告A
(以下「被告A」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士神田孝
同井嶋倫子
被告B
(以下「被告B」という。)
上記訴訟代理人弁護士二宮麻里子
主文
1被告会社は,原告に対し,7442万6732円及び内3000万円に対して25
は平成30年7月24日から,内4442万6732円に対しては令和元年7月
3日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告会社は,原告に対し,別紙原告商標目録記載の移転登録の抹消登録手続を
せよ。
3原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,原告に生じた費用の36分の7及び被告会社に生じた費用の125
分の7を被告会社の負担とし,その余の費用を原告の負担とする。
5この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告会社は,原告に対し,1億3086万円及び内3000万円に対しては平10
成30年7月24日(訴状送達の日の翌日)から,内1億0086万円に対して
は令和元年7月3日(訴えの変更申立書の送達の日の翌日)から,各支払済みま
で年5分の割合による金員を支払え。
2被告A及び被告Bは,原告に対し,被告会社と連帯して,9324万円及び内
3000万円に対しては平成30年7月24日(訴状送達の日の翌日)から,内15
6324万円に対しては令和元年7月3日(訴えの変更申立書の送達の日の翌日)
から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3主文第2項同旨
第2事案の概要等
1事案の概要20
本件は,原告が,被告会社,被告A及び被告B(以下,これらの被告3名を「被
告ら」と総称する。)に対し,以下の請求をする事案である(以下のの請
求のうち被告会社に対する請求は,それらが重なる範囲において選択的併合の関
係にある。)。
原告は,原告と被告会社との間の譲渡契約に基づき,別紙原告商標目録記載25
の商標(以下「本件商標」といい,本件商標に係る商標権を「本件商標権」と
いう。)を被告会社に対して移転登録をした後,原告が当該譲渡契約を解除し
たところ,上記解除後も被告会社が本件商標権と類似する別紙被告標章目録記
載の各標章(以下,同目録記載1ないし4の標章をそれぞれ「本件被告標章1」
などといい,本件被告標章1ないし4を併せて「本件被告標章」という。)を使
用していたと主張して,被告会社に対し,主位的には不当利得返還請求権に基5
づき,予備的には不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき,本件被告標章の
使用について使用許諾料相当額の支払を求める。(上記第1の1の請求。以下
「第1請求」という。)
権について,被告らが原告を害する目的をもって共謀して不使用取消審決を経10
て本件商標権の商標登録の取消しを確定させたと主張して,被告らに対し,民
法719条1項前段,民法709条に基づく損害賠償請求権に基づき,本件被
告標章の使用について使用許諾料相当額の支払を求める。(上記第1の2の請
求。以下「第2請求」という。)
の解除を理由として,被告会社に対し,原状回復請求権に基15
づき本件商標権の移転登録抹消登録手続を求める。(上記第1の3の請求。以
下「第3請求」という。)
2前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容
易に認められる事実)
原告は,健康トレーニング,健康管理の企画及びコンサルタント業務,スポ20
ーツトレーニングに対する指導及び業務委託等を目的として,平成18年5月
23日に設立された株式会社であり,パーソナルトレーニング等の指導者とし
て活動するC(以下「C」という。)が代表取締役である。
原告は,平成18年9月,東京都渋谷区において「Shapes」という名
称のパーソナルトレーニングジムを開設した。25
原告は,平成20年8月21日に登録出願され,同年10月31日に設定登
録された本件商標権を有していた。(甲1)
被告Aが代表取締役であった株式会社ラスカ(以下「ラスカ」という。)は,
平成22年4月16日,原告との間で,原告がラスカに対して,本件商標や原
告及びCが有するダイエットや女性ボディメイクのパーソナルトレーニング
ジム経営に関するノウハウ等を使用させ,ラスカがその対価として原告に対し5
ライセンスフィーを支払う旨のライセンス契約を締結した。
平成22年11月22日,フィットネスクラブの経営,企画,運営及び管理
並びにフランチャイズチェーン加盟店の募集,経営指導等の経営コンサルティ
ング等を目的として,被告Aを代表者とする被告会社が設立された。
原告と被告会社は,平成23年2月8日,ラスカが有する上記ライセンス契10
約上の地位を実質的に被告会社に承継させるため,上記ライセンス契約と同内
容のライセンス契約を新たに締結した。被告会社は,同月頃以降,「Shape
s」のブランド名を使用してパーソナルトレーニングジムの運営を開始した。
原告と被告会社は,平成23年4月1日,上記ライセンス契約について,被
告会社がフランチャイズ展開できるように内容を変更するとともに,同年8月15
30日,ライセンスの存続期間を30年に変更する旨の変更をした。(甲26,
27,乙イ16。以下,同年8月30日に締結されたライセンス契約を「本件
ライセンス契約」という。)。
原告及びCと被告会社は,平成23年12月14日,原告又はCが有してい
たパーソナルトレーニング事業に関する営業権等を被告会社に対して譲渡す20
る事業譲渡契約(以下「本件営業譲渡契約」という。)及びCが被告会社から一
定割合の顧問料を継続的に受領する旨の顧問契約(以下「本件顧問契約」とい
う。)を締結した。
本件営業譲渡契約では,原告又はCが有していた,本件商標権を含むパーソ
ナルトレーニング事業に関する営業権,商標権,ノウハウ,ロゴ,キャッチフ25
レーズ等の知的財産権等の一切の権利を被告会社に対して譲渡することが定
められた。(甲28の1)
本件顧問契約では,被告会社が,Cに対し,平成24年1月1日から,顧問
料として,Shapes心斎橋店については売上高(顧客から支払われる入会
金,手数料,指導料その他の全ての金員)の5パーセント,Shapes梅田
店については売上高の4パーセント,その他のShapesの店舗については5
売上高の3パーセントの金員を支払う旨が定められるなどしていた。(甲28
の2)
原告は,平成24年2月10日,本件営業譲渡契約に基づき,被告会社に対
し,本件商標権の移転登録手続をした。
原告は,本件顧問契約に定められた平成24年5月分以降の顧問料の支払を10
被告会社が拒絶したことを理由として,被告会社に対し,平成24年9月26
日付け解除通知書をもって,本件営業譲渡契約及び本件顧問契約を解除する旨
の意思表示をした(以下,この解除を「本件解除」ということがある。)。
原告ないしCは,平成24年10月,本件営業譲渡契約の本件解除を理由と
して,被告会社に対して本件商標権の移転登録の抹消登録等を求めて訴訟を提15
起した(当庁平成24年(ワ)第29533号損害賠償請求事件等。以下「別
件訴訟」という。)。(弁論の全趣旨)
別件訴訟について,東京地方裁判所は,平成27年7月,本件解除が有効で
あるとして,本件商標権の移転登録抹消登録請求を認容等する判決をした。
上記判決に対しては控訴がされたところ,知的財産高等裁判所は,平成2820
年2月,本件解除は有効であるとしたものの,本件商標権について登録が抹消
されたことイ)を理由として本件商標権の移転登録抹消登録請求を棄
却した。同判決はその後確定した。(乙イ1,弁論の全趣旨)
被告会社による本件被告標章の使用と商標登録
ア被告会社は,平成23年2月頃以降,「Shapes」のブランド名を使用25
してパーソナルトレーニングジムを運営している。
平成23年1月頃の被告会社のホームページのトップページでは,その上
部の左側に本件被告標章1が使用されているほか,その本件被告標章1の右
側に「Shapesとは」などの項目が設けられて本件被告標章3が使用さ
れるとともに,それらの項目の下側に複数の写真が掲載され,その中に店舗
の壁面に本件被告標章2が大きく表示されている写真もあった。(甲6)5
平成26年3月12日時点の被告会社のホームページでは,タイトルタグ
に「女性専用パーソナルトレーニングジムShapes(シェイプス)」と記
載されて本件被告標章4が使用されているほか,トップページ上部の左側に
本件被告標章1が使用されるとともに,その本件被告標章1の右側に「Sh
apesとは」という項目が設けられて本件被告標章3が使用され,それら10
の下部に「Shapes(シェイプス)は女性ダイエット&ボディメイク専
門です。」と記載され,さらにその下に「METHODトップモデルと同じ
ダイエット&ボディメイク方法」として,「私たちShapes(シェイプ
ス)のトレーニングの特徴は…」などと記載されて本件被告標章4が複数回
使用されていた。(甲18)15
平成26年3月17日時点の被告会社のホームページでは,「SHOP
LIST」として店舗名が記載されており,店舗名をクリックすると各店舗
の詳細が記載されたウェブページが開く仕様となっていた。六本木本店のウ
ェブページでは,遅くとも平成25年3月頃には店舗の壁面に本件被告標章
2が大きく表示されており,その他の店舗のウェブページでも,平成28年20
ないし平成29年頃の時点で各店舗のトレーニングルームの壁面,廊下,店
舗入口,受付の背面などに本件被告標章1又は2が大きく表示されていた。
(甲19,20(枝番を含む。),21(枝番を含む。))
イ被告会社は,平成24年2月1日,本件被告標章1及び3についての商標
登録出願をして,本件被告標章1及び3は,同年7月6日,指定役務を第425
1類「技芸・スポーツ又は知識の教授,フィットネス・エクササイズ・ダイ
エット及びボディートレーニングに関する知識の教授,フィットネス・エク
ササイズ及びボディートレーニングの個人指導,運動施設の提供,フィット
ネス・エクササイズ・ダイエット及びボディートレーニングに関する施設の
提供,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の
供覧,図書の貸与,スポーツの興行の企画・運営又は開催,運動用具の貸与,5
録画済み記録媒体の貸与」及び第44類「美容,理容,入浴施設の提供,あ
ん摩・マッサージ及び指圧,カイロプラクティック,きゅう,柔道整復,は
り,医業,医療情報の提供,健康診断,歯科医業,調剤,栄養の指導,医療
用機械器具の貸与,美容院用又は理髪店用の機械器具の貸与,エステティッ
クサロンにおける美容,エステティックサロン用の機械器具の貸与,日焼け10
施設の提供,アロマテラピーの提供,美容・理容に関する情報の提供,美容・
理容に関する指導及び助言,美容院・エステティックサロン・ネイルサロン・
美顔サロンに関する情報の提供,ダイエットの個人指導」として登録された。
(甲5,乙イ3)
ウ被告会社は,遅くとも平成29年12月20日までに,被告会社が運営す15
る店舗のブランド名を「Rebornmyself」に変更し,同日以降,
被告会社のホームページや店舗でも,「Rebornmyself」の標
章を使用するようになった。(乙イ6,29,30の1及び2,弁論の全趣旨)
商標の不使用取消審判について
ア被告Bは,平成26年11月28日,被告会社を被請求人として,本件商20
標について商標法50条に基づく不使用取消審判請求をした(取消2014
-300963号審判事件。以下「本件不使用取消審判請求」という。審判
の予告登録日は同年12月17日。)。(甲2)
被告会社は,上記事件について,代理人弁理士を選任したが,答弁はしな
かった。(甲4)25
イ特許庁は,平成27年3月31日,本件不使用取消審判請求について,被
請求人である被告会社が使用についての証明などをしない限り商標登録の
取消しを免れないところ被告会社が答弁していないことを述べて,本件商標
の登録を取り消す旨の審決(以下「本件不使用取消審決」という。)をした。
本件不使用取消審決は同年5月11日付けで確定し,同年6月5日に本件商
標権の登録の抹消についての登録がされた。(甲2,4)5
ウ原告は,平成27年6月25日,被告会社及び被告Bが共謀して本件商標
権を害する目的をもって本件不使用取消審決を確定させたとして,特許庁に
対し,商標法58条1項に基づき本件不使用取消審決の取消しを求めて再審
の請求をした。(乙イ15)
特許庁は,平成28年10月31日,原告の上記再審請求を却下する旨の10
審決をした(再審2015-950001号審判事件)。(甲31,乙イ15)
原告は,平成28年11月28日,上記審決に対して,被告を被告会社及
び被告Bとする審決取消訴訟(以下「本件審決取消訴訟」という。)を提起
した(知的財産高等裁判所平成28年(行ケ)第10254号事件)。本件
審決取消訴訟で,被告Bは,公益的観点から不使用登録商標の排除のために15
上記アの審判請求をした旨主張した。原告は,被告らが共謀して原告の利益
を害する目的をもって本件不使用取消審決をさせたことを尋問事項として,
被告Bの本人尋問の申出をして,同申出は採用された。被告Bは,被告会社
の代表者と共謀したことはない旨が記載された陳述書を提出したが,適式の
呼出しを受けたにもかかわらず,裁判所に事前の連絡をすることなく,本人20
尋問期日に出頭しなかった。(甲8)
知的財産高等裁判所は,平成29年12月25日,被告会社と被告Bが共
謀して本件商標権を害する目的をもって本件不使用取消審決をさせた事実
を認定して,特許庁の再審請求却下審決を取り消す旨の判決をした。その後,
上告却下及び上告受理申立不受理決定を経て,同判決は確定した。(甲8,弁25
論の全趣旨)
特許庁は,上記取消判決を受けて,再審2015-950001号審判事
件について更に審理し,平成31年3月27日,平成27年3月31日の本
件不使用取消審決を取り消し,本件不使用取消審判請求を却下する旨の審決
をし,その後,上記審決は確定し,本件商標権を抹消する登録は抹消された。
(甲31,弁論の全趣旨)5
3争点
本件営業譲渡契約の解除の効果-本件商標権が解除による原状回復の対象
となるか(争点1)
本件商標と本件被告標章の類否(争点2)
本件被告標章の使用についての不当利得返還請求権の成否10
で主位的請求)(争点3)
本件被告標章の使用についての不法行為に基づく損害賠償請求権の成否(前
本件不使用取消審決を得たことについての被告会社,被告A及び被告Bの共
同不法行為に基づく損害賠償請求権の成否(争点5)15
信義則違反の抗弁-本件訴訟が前訴の蒸し返しであり信義則上許されない
ものであるか(争点6)
原告の損失,損害の有無と損失額及び損害額(争点7)
4争点に対する当事者の主張(なお,被告Bは,第9回弁論準備手続期日におい
て,被告会社及び被告Aの主張を全て援用すると述べた。)20
本件営業譲渡契約の解除の効果-本件商標権が解除による原状回復の対象
となるか(争点1)
(原告の主張)
本件営業譲渡契約の解除により,本件商標権は当事者間においては遡及的に
原告に帰属することになり,原告に返還すべきものとなることから,原告は,25
被告会社に対して本件商標権の移転登録抹消登録手続請求権を有する。
(被告らの主張)
本件営業譲渡契約の時点で本件商標権の価値はゼロ評価であり,被告会社が
引き受けた未消化前払費用債務によって十分な対価性が認められるから,別件
訴訟で認められた解除は,未消化前払費用債務の対価部分を除いた残余部分に
ついての一部解除であると解すべきである。そして,本件商標権以外の商標権5
が既に原告名義になっていることに照らせば,本件商標権は解除の原状回復の
対象とはならない。
また,原告は,本件顧問契約に定められたアドバイス等を提供することなく
552万6511円を不当に利得しており,本件商標権に550万円を超える
価値はなかったのであるから,原告が本件商標権の移転登録の抹消登録手続を10
請求することは当事者間の公平に反し権利濫用というべきである。
本件商標と本件被告標章の類否(争点2)
(原告の主張)
ア本件商標と本件被告標章1の類似性
本件商標と本件被告標章1は,大きな欧文字で「Shapes」をやや右15
方に傾斜させた形状で横書きしている点で共通する。本件被告標章1の「S
ha」の文字の下部には,小さなブロック体の文字で「RebornMy
self」と記載されているところ,「Shapes」と「RebornM
yself」が別個の単語として認識されていることや,「Shapes」の
文字は「RebornMyself」の文字の約10倍程度の大きさであ20
ることを考慮すると,一般消費者は,本件被告標章1の「Shapes」の
部分が役務の出所表示機能を有する部分であると認識する。したがって,本
件被告標章1の要部は「Shapes」の部分である。
本件商標と本件被告標章1の要部(Shapes)を対比すると,その称
呼はいずれも「シェイプス」であって同一である。また,本件商標と本件被25
告標章1の要部の外観は,字体は異なるものの,いずれも右方に傾斜した欧
文字の「Shapes」であって同一である。さらに,一般にダイエット等
をする行為をシェイプアップと称することから,「Shape」は,「フィッ
トネス・エクササイズ及びボディトレーニングに関する教授,フィットネス・
エクササイズ及びボディトレーニングに関する施設の提供」等という指定役
務の需要者や取引者に対しては,「痩身・減量・ダイエットにより姿形を整え5
るための指導(を業として行う者)」という同一の観念を有する。
上記のとおり,本件商標と本件被告標章1は,その要部において,外観,
称呼及び観念のいずれも同一であるから,社会通念上同一の商標である。
イ本件商標と本件被告標章2の類似性
本件被告標章2は,本件被告標章1の構成から,背景の線による図形部分10
と「RebornMyself」の部分を削除した構成を有するものであ
り,本件商標との類似性は本件被告標章1より強い。
ウ本件商標と本件被告標章3の類似性
本件商標と本件被告標章3は,称呼,観念が同一である。被告会社は,被
告会社のホームページにおいて,本件被告標章3に営業地を付記して「Sh15
apes六本木店」などと記載している。これらの表示中の本件被告標章3
は,各店舗が被告会社の営業に係る店であることを認識できる態様により使
用されている。
エ本件商標と本件被告標章4の類似性
本件被告標章4は,本件被告標章3の標章にその称呼を括弧書きでカタカ20
ナ表記したものにすぎない。本件被告標章4は,被告会社のホームページに
おいて被告会社のトレーニングジムサービスの出所を表示する態様で使用
されている。
(被告らの主張)
ア本件商標と本件被告標章1の類似性25
外観については,本件商標が欧文字「h」から右に伸延する対向する一対
の横置きU字図形と,最右端の「s」から左に伸延する横置きU字図形によ
って欧文字「Shapes」を取り囲み,最右端の「s」上部に球体図形を
3つ配置して光沢を表現した金属的かつ幾何学的な構成であるのに対し,本
件被告標章1は,柔らかいイメージの筆記体の「Shapes」の背景に赤
色の植物模様が大きく施された女性的なイメージで統一されており,本件商5
標にはない顕著な図形要素がある。また,本件商標が白黒のモノトーンであ
るのに対し,本件被告標章1は背景の植物模様を赤色とするなど,常にカラ
ーで使用されている。両者は外観において大きく異なる。
称呼については,本件商標からは「シェイプス」,「シェープス」という称
呼しか生じないが,本件被告標章は「シェイプスリボーンマイセルフ」と10
いう別個の称呼が生じる。一般に,ダイエット行為などを「シェイプアップ」
と呼ぶことに照らせば,本件商標の指定役務「フィットネス・エクササイズ
及びボディートレーニングに関する教授」(第41類)との関係では,「シェ
イプス」や「シェープス」という称呼は自他識別性が強いとはいえず,むし
ろ「リボーンマイセルフ」というメッセージに強い自他識別力がある。両者15
は称呼において大きく異なる。
観念については,「Shapes」は体形を意味する一般的な用語であり
ダイエットに係るビジネスにおいて強い自他識別力はない。他方,本件被告
標章1の「rebornmyself」は,「自分自身を再生する」,「新
しい自分に生まれ変わる」という特別な意味が含まれている。それは,単な20
るトレーニングによる体形の変化を超えて新たな人生を始めるという意味
を持つものであり,両者は観念において大きく異なる。
取引の実情については,需要者は,「パーソナルトレーニング」や「パーソ
ナルジム」などの用語で検索したジムについて,自ら店舗の立地,料金,営
業時間,店舗設備や清潔感,入会時の説明内容,体験入会での印象等を比較25
検討して入会を決意するものであり,「Shapes」という名前を信用し
て入会することはない。
以上によれば,本件商標と本件被告標章1との類似性はない。
イ本件被告標章2ないし4の類似性
否認ないし争う。
本件被告標章の使用についての不当利得返還請求権の成否(争点3)5
(原告の主張)
ア本件商標権は本件営業譲渡契約の解除によって遡及的に原告に帰属して
いたことになるから,原告は,被告会社から本件商標権の返還を受けていれ
ば,本件被告標章を使用する被告会社に対し,少なくとも本件商標権のライ
センス料相当額を取得することができた。10
被告会社は,本件営業譲渡契約の解除の効力が発生した平成24年9月2
8日以降,本件商標権についての使用権限がないことを知りながら,無権限
で本件被告標章を使用していたのであるから,法律上の原因なく本件商標権
についてのライセンス料相当額の支払いを免れるという利益を受け,他方,
原告は少なくとも被告会社から支払われるべきライセンス料相当額が得ら15
れていないという損失を被っている。
したがって,原告は,被告会社に対し,本件商標権のライセンス料相当額
につき不当利得返還請求権を有する。
イ被告会社が登録商標を有していたとしても,本件被告標章2ないし4は被
告会社が有する登録商標と類似の標章にすぎないものであり,それらの使用20
については,不当利得が成立する。
また,被告会社は,本件営業譲渡契約により本件商標権の移転を受けた後,
本件商標権と実質的に同一の本件被告標章1及び3について商標法4条1
項11号の適用を受けずに商標登録を受けた。その後,原告が被告会社の債
務不履行により本件営業譲渡契約を解除したため被告会社は上記商標を保25
持する正当な利益を失った。このように,被告会社の債務不履行に起因して
本件営業譲渡契約が解除された本件においては,被告会社は,上記の商標権
の行使を援用する正当な利益を有しないから,被告会社による被告会社が自
ら商標権を有することに基づく主張は権利濫用として許されない。
(被告らの主張)
ア被告会社が使用していたのは本件被告標章1及び3であるところ,これは5
被告会社が出願し,登録された商標である。原告はその商標登録の無効を主
張する余地はなく,被告会社が本件被告標章1及び3を使用することには法
律上の原因が認められる。
本件営業譲渡契約は,Cが経営から解放されることを希望したことにより
締結されたものであり,被告会社が商標法4条1項11号の適用を回避する10
ために計画的に本件商標権の譲渡を受けた事実はない。また,被告会社は,
標準文字の「Shapes」(本件被告標章3)について,本件商標権の帰属
に関わらず出願登録することができた。さらに,被告会社は既に独自デザイ
ンの「Shapesrebornmyself」のサービスマークを用
いてフランチャイズ展開をしており,加盟店の営業活動を守るためにそのデ15
ザインの商標を登録することが必要不可欠であったことから,本件被告標章
1を商標登録した。本件被告標章1及び3の商標登録出願に商標法4条1項
11号の適用を潜脱する意図や目的はなく,これらの商標権を有することに
基づく主張が許される。
イ商標権は特許権と異なりそれ自体が財産的価値を有するものではなく,そ20
の使用方法によって財産的価値が生じる。被告会社が60店舗の出店を実現
できたのは,被告会社の営業努力と営業戦略に基づくものであり,本件商標
の集客力によるものではない。また,本件被告標章1と本件商標は類似性が
なく,被告会社は本件商標を使用して利益を得ていたとはいえない。したが
って,被告会社には本件商標を使用したことによる利得が存在しない。25
不当利得された財産に受益者の行為が加わることによって得られた収益
については,社会観念上,受益者の行為の介入がなくても損失者が財産から
当然取得したであろうと考えられる範囲において損失があるものと解すべ
きである。原告において被告会社の行為の介入がなくても当然に60店舗の
出店を実現できたという可能性はない。したがって,原告には損失も発生し
ていない。5
本件被告標章の使用についての不法行為に基づく損害賠償請求権の成否(争
点4)
(原告の主張)
ア商標権の譲渡契約が解除された場合,契約当事者間において権利関係の変
動が明らかであり,第三者の取引の安全を考慮する必要はないから,移転登10
録の抹消登録をすることなく権利移転の効力を認めるべきである。また,仮
に権利移転の効力が認められないとしても,少なくとも当事者間では元の権
利者に権利者たるべき地位が認められるべきである。
原告と被告会社間では,原告は,本件営業譲渡契約の解除後,本件商標権
の商標権者又は本件商標権の商標権者たるべき地位を有していた。被告会社15
は,本件被告標章の使用により,原告の本件商標権ないし本件商標権の商標
権者たるべき地位を侵害した。
イ本件被告標章の使用についての不当利得返還請求権の成否(争点3)の原
告の主張イと同様の理由により,被告会社が本件被告標章1及び3を使用す
ることも不法行為となる。20
(被告らの主張)
否認ないし争う。また,本件被告標章の使用についての不当利得返還請求権
の成否(争点3)の被告らの主張と同様の理由により,被告会社が本件被告標
章1及び3を使用することが不法行為となることはない。
本件不使用取消審決を得たことについての被告会社,被告A及び被告Bの共25
同不法行為に基づく損害賠償請求権の成否(争点5)
(原告の主張)
ア被告会社及び被告Aの不法行為について
被告会社は,別件訴訟において本件商標権の移転登録抹消登録手続請求が
認容される見通しとなったことから,不使用取消審判制度を悪用して本件商
標権を消滅させることにより,原告に対する本件商標権の返還請求を法律上5
不可能にした。被告会社は,本件商標権が消滅することにより,本件商標(社
会通念上同一の商標を含む)を合法的に使用する権利を専有できるほか,原
告から本件商標権に基づく本件被告標章の使用の差止を求められるリスク
を回避できることになるから,上記行為に及ぶ強い動機がある。
上記の被告会社の不法行為は,被告Aが会社の業務執行として被告会社を10
代表して行ったものである。被告Aは,本件不使用取消審判請求への対応を
委任した弁理士に対し,当該審判請求への答弁を放置するように指示した。
イ被告Bの不法行為について
被告Bは,被告会社が本件商標権と同一又は類似である本件被告標章を使
用している事実を認識していたか,又は容易に認識できる状況にあったにも15
かかわらず,あえて本件不使用取消審判請求を行った。
被告Bは,本件不使用取消審決の確定の前後を通じ,本件商標と同一又は
類似の商標についての使用又は登録出願をしておらず,かえって被告会社に
よる同一内容の商標についての登録出願を黙認していた。
被告Bは,本件不使用取消審判請求をした積極的動機を容易に主張立証で20
きたにもかかわらず,そのような主張立証をせず,本件審決取消訴訟におい
て裁判所から適式の呼出しを受けたにもかかわらず正当な理由なく尋問期
日に出頭しなかった。
不使用取消審判請求をすることは,外形上は商標法50条に基づく権利の
行使であるが,被告Bの行為は,被告会社との事前共謀に基づき原告の本件25
商標権を故意に消滅させるという加害目的に向けた手段の一部を構成する
ものであり,第三者の商標使用や商標選択の余地ないし自由度を拡大すると
いう不使用取消審判請求の公益目的に反し,制度趣旨を逸脱するものである
から,権利濫用というべきものであり顕著な違法性を有する。
ウ被告らの不法行為についての関連共同性について
上記ア,イによれば,被告らは,本件商標権を消滅させることそれ自体を5
目的として,共謀により原告を害する目的をもって本件不使用取消審決を確
定させたといえる。被告らには,共謀と原告を害する目的という極めて強い
主観的関連共同性が存在する。
エ損害及び因果関係について
被告らは,上記の不法行為により,本件商標権の消滅が確定した平成2710
年5月11日以降,被告会社に対する本件商標権侵害による差止請求権の発
生及び行使を妨害した。その結果,原告は,本件商標権侵害による損害と同
等の損害を被ったものであり,被告らに対し,少なくともライセンス料相当
額の損害賠償請求権を有している。
(被告らの主張)15
ア被告会社及び被告Aの不法行為について
本件不使用取消審判請求は,被告会社及び被告Aが申し立てたものではな
いし,本件商標は予告登録前3年の間に使用された事実がなく,被告会社が
本件不使用取消審判請求に対して答弁をしていたとしても結論は変わらな
かったのであるから,被告会社及び被告Aは積極的に加害行為をしたとはい20
えず,また,加害行為の具体的認識もなかったことから故意も認められない。
本件商標は社会的に使用されていない状態であり,被告会社としては本件
不使用取消審判請求に対して反論の余地はなかったのであるから,上記請求
に対して答弁する義務はなく,また,不使用取消審判が提起されていること
を原告に知らせる義務もないから,被告会社及び被告Aの対応に過失や違法25
性はない。
イ被告Bの不法行為について
被告Bは,長期にわたって使用されていない本件商標を取り消すことに公
益的観点から理由があると考え,取消審決が出される可能性があるという一
応の心証を得た後に本件不使用取消審判請求をした。商標法50条の趣旨に
照らせば,積極的な自己使用目的を有しない不使用取消審判請求がされたと5
しても不合理ではない。
ウ被告らの不法行為についての関連共同性について
被告会社及び被告Aと被告Bは一切面識や利害関係がなく,本件不使用取
消審判請求について共謀した事実もない。
信義則違反の抗弁-本件訴訟が前訴の蒸し返しであり信義則上許されない10
ものであるか(争点6)
(被告らの主張)
原告は,被告会社に対し,本件営業譲渡契約の解除により被告会社が本件ラ
イセンス契約上の競業避止義務や商標及びノウハウ使用停止義務を負うなど
と主張して損害賠償等を求める訴訟を提起した(東京地方裁判所平成27年15
(ワ)第34338号,平成28年(ワ)第17767号事件)。同訴訟につい
て,東京地方裁判所は,被告会社の競業避止義務や商標及びノウハウ使用停止
義務を否定するなどして原告の請求をいずれも棄却した。
原告は,上記訴訟の控訴審で,被告会社の競業避止義務違反や商標及びノウ
ハウ使用停止義務違反が否定された部分を不服の対象とせず,本件ライセンス20
契約に基づくライセンス料相当額の損害賠償請求権が存在しないことが確定
している。当事者が具体的に締結した契約条項に基づく請求権を争わないと表
明したにもかかわらず,それと実質的に同一の請求権について原状回復義務の
不履行や不当利得返還請求を根拠に請求することは矛盾した訴訟態度である。
形式的には訴訟物を異にしていたとしても,本件訴訟は,上記訴訟の蒸し返し25
である。また,被告会社が主に使用していた本件被告標章1は,その設定登録
日(平成24年7月6日)から5年以上が経過しており,除斥期間の経過によ
り原告による無効主張が許されないところ,これまで無効を主張してこなかっ
た原告に本件被告標章1の使用についての損害賠償を認めることは,法律関係
の安定を企図した商標法47条の趣旨に反する。これらの事情によれば,本件
訴訟は信義則上許されるものではない。5
(原告の主張)
否認ないし争う。
原告の損失,損害の発生の有無及びその額(争点7)
(原告の主張)
ア被告会社が運営する店舗の数は別紙「ライセンス料相当額計算書」(以下10
「別紙計算書」という。)の「店舗数」欄記載のとおりであり,各店舗が売り
上げる各月の売上額合計は別紙計算書の「被告会社チェーン売上高」欄記載
のとおりである。本件のライセンス料相当額は,上記売上額合計の3パーセ
ントを下回ることはない。
第1請求について,被告会社が本件被告使用標章を使用することにより原15
告は本件商標権を実質的に侵害されたといえるから,原告には,別紙計算書
のとおり,被告会社による本件被告標章の使用期間のうち平成30年3月末
日までの期間について,使用許諾料相当額の合計額である1億2055万9
230円の損失,損害が発生した。原告は,被告会社に対し,主位的には不
当利得返還請求権,予備的には不法行為に基づく損害賠償請求権を根拠とし20
て上記の額の請求をする。
第2請求について,原告は,被告らの共同不法行為の一環である本件不使
用取消審決がされたことにより,上記審決が確定した平成27年5月11日
以降ライセンス料相当額の支払を確定的に受けることができない状態にな
り,原告には,同日以降平成30年3月末日までの間における使用許諾料相25
当額の損害が発生した。原告は,被告らに対し,民法719条1項前段,民
法709条に基づく損害賠償請求権を根拠として上記の額を請求する。
イ原告及びCはダイエット及びボディメイクの世界では有数の周知性を獲
得しており,被告会社は原告が構築していた「Shapes」ブランドがダ
イエット及びボディメイクの分野において優れた業態であることに着目し,
原告が有していた商標やノウハウ等を使用することで多数の店舗を展開す5
ることを目指してライセンス契約を結んだ。被告会社は,上記のように「S
hapes」ブランドの価値を認めて原告とのライセンス契約を締結し,対
価の支払いを約束して本件商標の使用権を得た。被告会社は,本件営業譲渡
契約の解除後も,「Shapes」ブランドの使用に執着している。
本件ライセンス契約は,被告会社のフランチャイズ展開によって店舗数が10
増加することや,被告会社の営業努力によって店舗数を拡大することを前提
として合意したものであるから,本件営業譲渡契約の解除後に被告会社のフ
ランチャイズ店舗が増加し,それらの売上合計額が増えていたとしても,そ
れは当該ライセンス契約において予定されていた事情であり,本件訴訟にお
いてライセンス相当額を減額する根拠にはならない。15
(被告らの主張)
ア被告会社が多数の店舗を展開できたのは,被告会社の企画力,店舗デザイ
ン力,フランチャイズについてのノウハウによるものであり,その際,被告
会社は本件被告標章1を使用していた。本件商標や「Shapes」ブラン
ドには顧客吸引力はない。実際,「Shapes」から「Rebornmy20
self」にブランドチェンジした後の平成30年1月ないし3月の売上げ
は,「Shapes」ブランドを使用していた平成28年及び平成29年の
1月ないし3月の売上げを大きく上回った。また,女性専用のパーソナルト
レーニングジムの入会動機は,店舗の立地,料金,営業時間,店舗設備や清
潔感,入会時の説明内容,体験入会での印象等が中心であり,商標は需要者25
の主たる入会動機にならない。
本件ライセンス契約において,ライセンス料は原告が指定したサービスマ
ーク,トレードマーク及び原告が提供したノウハウの対価であるとされてい
る。「Shapes」ブランド自体に集客力がほとんど認められないことに
照らせば,上記ライセンス料はC個人によるトレーナーとしてのノウハウ提
供や指導の対価であって商標使用の対価ではない。そして,Cはノウハウや5
指導を被告会社に対して提供していないのであるから,ライセンス料は発生
しない。
イ第1請求について,被告らの責任が認められ,原告の損失,損害が認めら
れるとしても,ライセンス料相当額は売上額の0.1パーセントとすること
が相当である。10
第2請求について,被告らの責任が認められ,原告の損害が認められると
しても,原告が請求できる損害はあくまで相当因果関係がある損害に限られ
るのであり,それは原告が本件商標を復活させて移転させるために要した手
続費用(再審請求や知財高裁等への提訴費用)にとどまる。
第3争点に対する判断15
1争点1(本件営業譲渡契約の解除の効果-本件商標権が解除による原状回復の
対象となるか否か)について
原告は,被告会社に対し,平成23年12月14日,本件商標権を含む原告の
事業を譲渡する本件営業譲渡契約を締結し,平成24年2月10日,本件営業譲
渡契約に基づき本件商標権の移転登録手続をした(前提事実)。20
原告は,被告会社の債務不履行を理由として平成24年9月27日付けの本件
解除により,本件営業譲渡契約を解除した(前提事実。なお,別件訴訟におい
て本件解除が有効であると認められている)。本件商標権は,本件
営業譲渡契約に基づいて被告会社に譲渡されたのであるから,本件営業譲渡契約
により原告から被告会社に対して譲渡された本件商標権は,上記契約の解除によ25
る原状回復の効果により原告に帰属すべきことになる。なお,本件商標権は,本
件不使用取消審決が一度確定したが,その後,本件不使用取消審決を取り消す旨
の審決が確定したため,当初から消滅していなかったこととなる(前提事実)。
以上によれば,原告の被告会社に対する本件商標権の移転登録の抹消登録手続
請求(第3請求)が認められる。
これに対し,被告会社は,本件営業譲渡契約時点では本件商標権には価値がな5
いことから本件商標権は解除の原状回復の対象にはならないことや,原告は過大
に顧問料相当額を受領しているから本件営業譲渡契約の解除によって本件商標
権が復帰したと主張することは権利濫用であることなどを主張する。しかし,上
記事情は本件商標権が解除による原状回復の対象とならないことを基礎付ける
ものとは認められず,被告会社の主張は採用することができない。10
2争点2(本件商標と本件被告標章の類否)について
被告会社は,前提事実のとおり本件被告標章を使用しているところ,原告は,
本件商標と本件被告商標が類似している旨主張し,被告らは,これを争うので以
下検討する。
本件商標の外観,称呼及び観念15
本件商標の外観は,別紙原告商標目録記載のとおりであり,やや右方に傾斜
させてブロック体で横書きされた欧文字の「Shapes」について,「h」の
上部を起点として右に伸延する横置きのU字型の図形と,最右端の「s」の上
部を起点として左に伸延する横置きのU字型の図形によって「Shapes」
を取り囲むとともに,最右端の「s」上部に球体図形を3つ配置したものであ20
る。このうち,背景にあるU字型の図形や最右端の「s」上部に記載された球
体図形からは出所識別機能としての称呼や観念が生じることはなく,本件商標
の中では,「Shapes」の欧文字が取引者又は需要者に対して強く支配的
な印象を与える部分であるといえる。
本件商標からは,「シェイプス」又は「シェープス」の称呼が生ずる。25
また,「Shapes」は,「形,形状」などといった意味を有する比較的平
易な英単語である「Shape」の複数形ともいえ,「形,形状」などの観念が
生ずる。また,美容のために運動をして体形などを整えることが「シェイプア
ップ」といわれることがあることなどに照らせば,指定役務であるフィットネ
スに関する教授や施設の提供等の需要者や取引者においては,「Shapes」
の部分から「体形」といった観念を生ずることもあると解される。5
本件被告標章の外観,称呼及び観念
ア本件被告標章1の外観,称呼及び観念
本件被告標章1の外観は,別紙被告標章目録記載1のとおりであり,やや
右方に傾斜させて筆記体で横書きされた欧文字の「Shapes」の背景に
植物を想起させる模様が赤色で描かれており,「Sha」の文字の下部には10
濃い赤色で小さなブロック体により「RebornMyself」と記載
されている。
本件被告標章1は,欧文字の「Shapes」が大きく記載されており「S
ha」の下部に記載された「RebornMyself」の文字は,「Sh
apes」と比較して明らかに小さく記載されている。「Shapes」の背15
景にある模様から直ちに出所識別機能としての称呼が生じることはない。そ
して,「Shapes」と「RebornMyself」の間に称呼上,一
体とされるような結び付きがあるとはいえないし,それらの間に直ちに観念
上の結び付きがあるとはいえない。これらから,本件被告標章1の中では,
「Shapes」の欧文字が取引者又は需要者に対して強く支配的な印象を20
与える部分であるといえる。
そして,本件被告標章1のうち上記の支配的な印象を与える部分からは,
「シェイプス」又は「シェープス」との称呼が生じる。また,本件被告標章
1の観念については,被告会社がパーソナルトレーニングジムの運営を行い,
その店舗やホームページで本件被告標章を使用していることなどに照らせ25
ば,本件商標と同様,「Shapes」の部分から,「形,形状」などの観念
を生ずるほか,「体形」という観念が生ずることもあると認められる。
イ本件被告標章2の外観,称呼及び観念
本件被告標章2の外観は,別紙被告標章目録記載2のとおりであり,本件
被告標章1から,背景にある模様や,「Sha」の下部に記載された「Reb
ornMyself」の文字を削除したものである。本件被告標章2から5
は,本件被告標章1と同様,「シェイプス」又は「シェープス」との称呼が生
じ,「形,形状」などの観念を生ずるほか,「体形」という観念が生ずること
もあると認められる。
ウ本件被告標章3の外観,称呼及び観念
本件被告標章3の外観は,別紙被告標章目録記載3のとおりであり,ゴシ10
ック体で横書きされた欧文字の「Shapes」というものである。本件被
告標章3からは,本件被告標章1と同様,「シェイプス」又は「シェープス」
との称呼が生じ,「形,形状」などの観念を生ずるほか,「体形」という観念
が生ずることもあると認められる。
エ本件被告標章4の外観,称呼及び観念15
本件被告標章4の外観は,別紙被告標章目録記載4のとおりであり,ゴシ
ック体で横書きされた欧文字の「Shapes」の右側に,それと概ね同じ
大きさで,括弧書きにしたゴシック体のカタカナ文字「(シェイプス)」を併
記したものである。このうち,上記のカタカナ文字は,括弧書きで示されて
いて「Shapes」の読み方を記載したものといえるから,それほど強い20
印象を与えるものではない。本件被告標章4からは,本件被告標章1と同様,
「シェイプス」又は「シェープス」との称呼が生じ,「形,形状」などの観念
を生じるほか,「体形」という観念が生ずることもあると認められる。
本件商標と本件被告標章の類否
ア本件商標と本件被告標章1の類否25
本件商標と,本件被告標章1のうち強く支配的な印象を与える部分である
「Shapes」について,その称呼はいずれも「シェイプス」又は「シェ
ープス」である点で一致し,「形,形状」などの観念を生じるほか,「体形」
という観念が生ずる点でも一致する。また,それらの外観について,文字が
ゴシック体であるか筆記体であるかという点で相違するが,やや右方に傾斜
させた黒色の欧文字で横書きされた「Shapes」である点では一致し,5
それらの外観は類似する。
以上を考慮すると,本件被告標章1は,本件商標に類似するものと認めら
れる。
イ本件商標と本件被告標章2ないし4の類否
本件商標と本件被告標章2ないし4の称呼はいずれも「シェイプス」又は10
「シェープス」となる点で一致しており,「形,形状」などの観念を生じるほ
か,「体形」という観念が生ずる点でも一致する。
また,本件商標と本件被告標章2ないし4の外観についても,文字がゴシ
ック体であるか筆記体であるかという相違(本件被告標章2)や,括弧括弧
書きでゴシック体のカタカナ文字「(シェイプス)」が併記されているという15
相違(本件被告標章4)が存在するものの,黒色の欧文字で横書きされた「S
hapes」の点では一致し,それらの外観は類似していると認められる。
以上を考慮すると,本件被告標章2ないし4も本件商標に類似するものと
認められる。
ウ被告らは,フィットネスやエクササイズ等に関する本件商標の指定役務の20
需要者や取引者においては,「パーソナルトレーニング」や「パーソナルジ
ム」などの用語によってインターネットで検索したジムについて様々な要素
を自ら比較検討して入会を決意するものであり,「Shapes」という名
前を信用して入会することはないから,本件商標と本件被告標章の間に誤認
混同を生ずるおそれがあるとはいえないと主張する。25
しかし,フィットネスやエクササイズ等の需要者,取引者において,全て
の者がインターネットで何らかの検索をするとは認められないほか,仮にそ
のような検索をする者がいたとしても,本件において使用されている商標が
類似するにも関わらず誤認混同が生ずるおそれがないといえる事情がある
とは認められない。被告らの主張は採用することはできない。
以上によれば,本件商標と本件被告標章はいずれも類似すると認められる。5
そして,本件商標権の指定役務は,別紙原告商標目録のとおり,フィットネ
ス・エクササイズ及びボディートレーニングに関する教授,フィットネス・エ
クササイズ及びボディートレーニングに関する施設の提供,セミナーの企画・
運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,スポーツの興行の企
画・運営又は開催,運動用具の貸与,録画済み記録媒体の貸与であるところ,10
前提事実のとおり,被告会社が提供する役務はフィットネス・エクササイズ
及びボディートレーニングに関する教授又はフィットネス・エクササイズ及び
ボディートレーニングに関する施設の提供であるといえ,それらは上記指定役
務と同一又は類似のものであると認められる。
3争点3(本件被告標章の使用についての不当利得返還請求権の成否)について15
被告会社は,平成23年2月頃以降「Shapes」のブランド名を使用し
て,パーソナルトレーニングジムを運営しており,このことに前
少なくとも,本件営業譲渡
契約の解除の翌日以降平成29年12月20日まで本件被告標章1,3及び4
をホームページ上で使用するとともに本件被告標章2を各店舗で使用してい20
たと認められる。
前記1のとおり,本件商標権は本件営業譲渡契約の解除により原告に帰属す
べきものであり,被告会社は,本件商標の移転登録の抹消登録をすべきであっ
た。
また,前記2のとおり,被告会社による本件被告標章の使用は,本件商標と25
類似する商標を本件商標と同一又は類似の役務の提供に当たって利用に供す
るものに本件商標と類似する商標を付す行為であり,本件商標権を侵害すると
みなされ,本件商標権の商標権者から許諾を得る必要がある行為である。
そうすると,被告会社は,原告に対して,本件被告標章の使用の許諾を得る
ために相当な使用許諾料を支払う必要があったといえるところ,そのような使
用許諾料を支払うことなく店舗の広告宣伝等に本件被告標章を使用し,売上げ5
を得ていたのであるから,被告会社は,少なくとも,上記の使用許諾料に相当
する利得を得ており,他方,原告は,本件被告標章の使用を許諾していれば得
られたと考えられる使用許諾料相当額の損失を被ったと認められる。
被告会社は,被告会社が60店舗の出店を実現できたのは,被告会社の営業
努力と営業戦略に基づくものであり,本件商標の顧客吸引力によるものではな10
いから,被告会社は本件商標を使用して利益を得ていたとはいえず,原告に損
失は発生していないと主張する。しかし,上記のとおり,被告会社は本件被告
標章を使用していたのであり,少なくとも,被告会社にはその使用許諾料相当
額についての利得が存在し,原告にはそれに対応する損失が発生したといえる。
被告会社の主張は採用することはできない。15
また,被告会社は,本件被告標章の使用について,被告会社が登録した商標
権の行使であるから,正当な権限に基づくものであり,その使用に係る利得の
保持については法律上の原因を有すると主張する。
被告会社は,本件被告標章のうち,本件被告標章2及び4については商標登
録をしていない。したがって,被告会社が本件被告標章2及び4を使用するこ20
とが商標権に基づくものであるとはいえず,それらの使用に係る利得の保持に
ついては法律上の原因を有しないことは明らかである。他方,被告会社は,本
件被告標章のうち,本件被告標章1及び3については商標登録をしており(前
提事実),被告会社が,本件被告標章1及び3をパーソナルトレーニング
ジムの店舗やホームページで使用することは,被告会社が商標権を有する商標25
を使用する行為といえる。しかしながら,本件においては,被告会社は,本件
営業譲渡契約により本件商標権の移転を受け,その後,本件商標と類似する本
件被告標章1及び3について商標法4条1項11号の適用を受けることなく
商標登録を受けたものの,被告会社の債務不履行を理由として本件営業譲渡契
約が解除され,本件商標権が原告に復帰すべきものとなったという事情がある。
このような事情に照らせば,被告会社が,原告に対し,本件解除後に本件被告5
標章1及び3を使用することが商標権に基づく正当な行為であると主張する
ことは権利の濫用として許されないというべきである。
以上によれば,本件被告標章の使用は,被告会社の正当な権限に基づくもの
であるとはいえないから,被告会社がその使用に係る利得の保持について法律
上の原因を有するとはいえない。10
被告会社は,別件訴訟の判決により本件営業譲渡契約の解除の効果によって
本件商標権が本来は原告に帰属すべきものであることを認識していたといえ
るから,本件被告標章の使用許諾料相当額の利得を保持することが法律上の原
因を欠くことについて悪意であったというべきである。被告会社は本件被告標
章1及び3に係る商標権を有しているが,それに基づく本件被告標章1及び315
の使用が正当な権利行使であるとはいえないことは上記で説示したとおり
であるから,上記の認定は左右されない。
以上によれば,原告は,被告会社に対し,本件商標権の使用許諾料相当額に
つき不当利得返還請求権(民法703条,同704条前段)を有する。
なお,原告は,第1請求について,予備的にライセンス料相当額の損害賠償20
請求をするが,この損害額が不当利得返還請求権に基づく上記損失額を超える
とは認められないから,予備的請求である不法行為に基づく損害賠償請求権の
成否(争点4)は判断しない。
4本件不使用取消審決を得たことについての被告会社,被告A及び被告Bの共同
不法行為に基づく損害賠償請求権の成否(争点5)について25
原告は,第2請求として,本件解除によって原告に返還(移転登録)されるべ
き本件商標権について,被告らが原告を害する目的をもって共謀して本件不使用
取消審決を経て本件商標権の商標登録の取消しを確定させたものであり,そのよ
うな共同不法行為によって,本件商標権の消滅が確定した平成27年5月11日
以降,被告会社に対する本件商標権侵害による差止請求権の発生及び行使が妨害
されたため,本件商標権侵害による損害と同等の損害を被ったなどと主張する。5
特許庁は本件不使用取消審決を取り消し,
本件不使用取消審判請求を却下する旨の審決をし,その後,上記審決が確定し,
本件商標権を抹消する登録が抹消された。現在,原告が,本件商標権に基づき,
被告会社に対し,本件解除後,一貫して本件商標権が原告に帰属すべきであった
ことに基づく主張をすることに支障はない(本件の第1請求)。また,被告らの行10
為により,本件商標権を抹消する登録がされた後からその抹消する登録が抹消さ
れるまでの間は,原告が本件商標権を行使することに支障があったといえるとし
ても,その期間に上記支障があったことによって原告に第2請求で原告が請求す
る損害が発生したことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,その余を判断するまでもなく,原告の第2請求については理由が15
ない。
5信義則違反の抗弁-本件訴訟が前訴の蒸し返しであり信義則上許されないも
のであるか(争点6)について
被告らは,本件訴訟前に,原告が提起した訴訟において,原告の被告に対す
る本件ライセンス契約に基づくライセンス料相当額の損害賠償請求権が存在20
しないことが確定しているから,本件訴訟の提起は蒸し返しであり,信義則上
許されないと主張する。また,被告会社が主に使用していた本件被告標章1は,
その設定登録日である平成24年7月6日から5年以上が経過しており,除斥
期間の経過により原告による無効主張が許されないところ,これまで無効を主
張してこなかった原告に本件被告標章1の使用についての損害賠償を認める25
ことは,法律関係の安定を企図した商標法47条の趣旨に反し,本件訴訟は信
義則上許されないと主張する。
後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア原告は,平成27年,被告会社に対し,本件営業譲渡契約が解除されたに
も関わらず被告会社が事業を継続しており,被告会社は本件ライセンス契約
上の商標及びノウハウ使用停止義務に違反するなどと主張して,標章の使用5
停止や損害賠償等を求める訴訟を提起した(東京地方裁判所平成27年(ワ)
第34338号。なお,同事件は平成28年に被告会社が提起した平成28
年(ワ)第17767号事件と併合して審理された。)。
同訴訟において,原告は,「ライセンシーは,本契約に基づき提供されたラ
イセンス対象事業に関するノウハウ,情報及びトレードマークの使用を直ち10
に停止させなければならない」旨を定めた本件ライセンス契約の条項(16
条1項①)の債務不履行を理由として損害賠償を請求するなどした。
イ東京地方裁判所は,平成30年8月,上記アの訴訟における原告の請求の
うち,本件ライセンス契約の商標及びノウハウ使用停止義務に違反したこと
を理由とする損害賠償について,本件営業譲渡契約は本件ライセンス契約に15
代えて締結されたものであり,本件営業譲渡契約の締結に伴い本件ライセン
ス契約は合意解約されたものであるから,本件ライセンス契約に基づく原告
の請求には理由がないとして,これを棄却した。(乙イ2)
上記判決に対して原告は,控訴したが,上記棄却部分を不服の対象とせず,
控訴審において控訴棄却判決がされて,上記判決が確定した。(甲17,乙イ20
34)
アの訴訟における損害賠償請求は,本件ライセンス契約に基づくもの
であり,そこに定められた条項の違反に基づく請求であった。これに対し,本
件訴訟は,原告が本件商標権を有することを前提として,被告会社が本件被告
標章を原告の許諾を得ずに使用したことによる使用許諾料相当額の不当利得25
返還や損害賠償を請求するものである。これらの請求の訴訟物は異なる。また,
本件不使用取消審決が確定して本件商標権が消滅
した状態にあり,原告が本件商標権に基づいて被告会社に対して本件被告標章
の使用許諾料相当額を請求することに支障があった。
これらの事情に照らせば,本件訴訟が既にされた訴訟の蒸し返しであるとは
いえず,その提起が信義則に反するものであると評価することはできない。5
また,本件被告標章1は設定登録日(平成24年7月6日)から5年以上が
経過している。しかし,少なくとも,のとおり,一度は,本件不使
用取消審決が確定して本件商標権の抹消登録がされたが,その後再審において
上記審決が取り消されて同抹消登録が抹消されたなどの本件の経緯に照らし
ても,被告らとの関係で,そのような期間の経過をもって,原告が不当利得返10
還請求(前記3)をすることができなくなるとはいえない。
以上によれば,本件訴訟の提起は前訴の蒸し返しであり信義則上許されない
という被告らの主張は採用できない。
6原告の損失,損害の有無と損失額及び損害額(争点7)について
原告は,被告会社の本件被告標章の使用について,第1請求では被告会社に15
対して平成24年10月1日から平成30年3月末日までの使用許諾料相当
額を請求する。
原告が使用許諾料相当額を請求し得る期間について
ア被告会社は,少なくとも,本件営業譲渡契約の解除が
された平成24年9月以降,平成29年12月20日まで本件被告標章1,20
3及び4をホームページ上で使用するとともに,本件被告標章2を各店舗で
使用していた。
本件被告標章の使用の期間について,原告は,被告会社は,平成31年4
月時点でも本件被告標章1を使用していたと主張し,被告会社のホームペー
ジ画面(甲22の1)を提出する。25
しかし,
「Rebornmyself」のブランド名を使用していたのであり,本
件被告標章を使用する理由はなかった。上記画面はインターネットアーカイ
ブのシステム上の問題によって過去の画像データが表示されている可能性
が否定できないものであり(乙イ31ないし33の3),上記画面を根拠と
して被告会社が平成31年4月時点で本件被告標章1を使用していたとは5
認められず,他に原告が主張する事実を認めるに足りる証拠はない。
イ第1請求について,前記3のとおり,原告は,本件解除により,被告会社
に対し,本件被告標章の使用許諾料相当額を請求することができる。本件営
業譲渡契約は平成24年9月26日付けの解除通知書をもって解除された
のであり,原告は,少なくとも,被告会社に対して,原告が請求する平成210
4年10月1日から被告会社が本件被告標章を使用していた平成29年1
2月20日までの間の使用許諾料相当額について,その利得の返還を求める
ことができる。
原告が請求し得る使用許諾料相当額について
ア平成24年10月から平成29年12月までにおける被告会社が運営す15
る店舗の月ごとの売上額の合計は,別紙計算書の「被告会社チェーン売上高」
欄記載のとおりであり,店舗数は別紙計算書の「店舗数」欄記載のとおりで
ある(争いがない。)。
イ本件の使用許諾料相当額の算定を検討するに当たり,原告と被告会社間の
本件ライセンス契約には,以下の条項があった。20
①本件ライセンス契約は,ライセンサーである原告はライセンシーである
被告会社に対して,Shapes及びCの商標・サービスマーク・その他
の標章及びダイエット・ボディメイクのノウハウを用いて,統一されたS
hapesブランドのもとに継続して事業を行う権利を与え,その代償と
してライセンシーは一定の対価を支払い,相互の繁栄を図ることを目的と25
する。(1条)
②原告は,本件ライセンス契約に基づき,ライセンサーの保有するトレー
ドマーク,ノウハウを利用して,許諾地域において,ボディメイクやダイ
エットを目的として,女性顧客に対するパーソナルトレーニングを実店舗
ジムで行うサービスを行う権利を付与する。(3条1項)
本件ライセンス契約において,「トレードマーク」とは,サービスマー5
ク,ロゴ,ラベル,スローガンなど,「Shapes」の名称(Shape
sGirlを含む。),「C」の名称,その他随時使用されるイメージ統一の
ための全ての表示のうち,原告によって随時指定されるものを意味する。
(2条1項)
本件ライセンス契約において,「ノウハウ」とは,ダイエット及びボディ10
メイクにおける知識,経験,能力,サービスメニュー,サービスプログラ
ム,オペレーションマニュアル,スタッフトレーニング,店舗開店及び運
営等,顧客にサービスを提供する仕組みで,ライセンサーやその関係者が
保有しているものうち,原告によって随時指定されるものを意味する。(2
条2項)15
③被告会社は,原告から,原告の指定する方法で,その所有するライセン
ス対象事業に関するトレードマーク,システム,コンテンツに関する情報
の提供及びノウハウの開示を受け,ノウハウを使用することができる。(5
条)
④被告会社は,業務を遂行するに当たり,ライセンス対象事業の品質及び20
サービスの均一性を維持し,Shapes及びCブランド全体の名声と信
用を向上させるように努めなければならない(8条①)
⑤被告会社は,本件ライセンス契約に基づき開設した各店舗の売上げにつ
いて,第1店舗について5パーセント,第2店舗について4パーセント,
第3店舗目以降について3パーセントの割合の合計額をライセンスフィ25
ーとして原告に支払う(9条1項)。
ウ本件ライセンス契約では,ライセンスフィーについて,第1店舗について
5パーセント,第2店舗について4パーセントと定められるほか,第3店舗
目以降は3パーセントと定められた。
本件ライセンス契約では,被告会社は,本件商標の使用が許されるほか,
パーソナルトレーニング等の指導者として活動するCの名称を含むトレー5
ドマークを使用することができ,パーソナルトレーニングジムを既に開設し
運営していた原告の幅広いノウハウも使用することができるものであった。
したがって,本件ライセンス契約において,本件商標権に関する部分はその
使用許諾料のうちの一部であったといえる。このことに,被告会社は本件営
業譲渡契約の解除後も平成29年12月20日まで「Shapes」を含む10
商標の登録出願をするなどして,本件商標に一定の顧客誘引力があったこと
がうかがえること,本件における前提事実記載の経緯や被告会社が運営する
店舗数が相当数に及ぶことなどを踏まえると,本件商標権の使用許諾料相当
額としては,被告会社が運営する店舗の売上額合計の2パーセントをもって
相当であると認める。15
第1請求における損失額(小数点以下切り捨て。以下同じ。)
によれば,第1請求における損失額は,以下のとおりとなる。
ア平成24年10月1日から平成29年11月30日までの売上額
36億7007万6000円
イ平成29年12月1日から同月20日までの売上額20
5126万0645円
(計算式)
7945万4000円×20日/31日≒5126万0645円
ウ上記アとイの合計
37億2133万6645円25
エ損失額
7442万6732円
(計算式)
37億2133万6645円×0.02≒7442万6732円
7小括
以上によれば,原告の第1請求については前記6で認定した損失額の限度で理5
由があり,原告の第2請求については前記4のとおり理由がなく,原告の第3請
求については前記1のとおり全て理由がある。
第4結論
よって,原告の請求は主文記載の限度で理由があるからその限度で認容し,その
余は理由がないからいずれも棄却することとして主文のとおり判決する。10
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官柴田義明15
裁判官佐藤雅浩
裁判官安岡美香子は転勤のため署名押印することができない。
裁判長裁判官柴田義明
(別紙)
原告商標目録
商標登録番号5177809号
出願年月日平成20年8月21日5
登録年月日平成20年10月31日
商品及び役務の区分第41類
指定役務フィットネス・エクササイズ及びボディートレ
ーニングに関する教授,フィットネス・エクサ
サイズ及びボディートレーニングに関する施設10
の提供,セミナーの企画・運営又は開催,電子出
版物の提供,図書及び記録の供覧,スポーツの
興行の企画・運営又は開催,運動用具の貸与,録
画済み記録媒体の貸与
登録商標15
甲区順位番号2番
[特定承継による本権の移転]
受付年月日平成24年2月10日20
受付番号001888
登録名義人株式会社ShapesInternational
以上
(別紙)
被告標章目録
1.
2.
3.
4.15
(別紙)ライセンス料相当額計算書
単位:円
平成24年(2012年)10月~平成30年(2018年)3月
営業月
被告会社
チェーン売上高
(1000円未満は切り捨て)
店舗数店舗平均額
ライセンス料
相当額
2012年(H24年)10月分19,934,000121,661,167598020
2012年(H24年)11月分14,297,000121,191,417428910
2012年(H24年)12月分15,166,000111,378,727454980
2013年(H25年)1月分25,508,000122,125,667765240
2013年(H25年)2月分29,490,000132,268,462884700
2013年(H25年)3月分42,293,000133,253,3081268790
2013年(H25年)4月分39,089,000133,006,8461172670
2013年(H25年)5月分38,520,000132,963,0771155600
2013年(H25年)6月分32,722,000132,517,077981660
2013年(H25年)7月分36,072,000132,774,7691082160
2013年(H25年)8月分35,612,000132,739,3851068360
2013年(H25年)9月分32,984,000142,356,000989520
2013年(H25年)10月分35,244,000152,349,6001057320
2013年(H25年)11月分30,048,000161,878,000901440
2013年(H25年)12月分31,995,000161,999,688959850
2014年(H26年)1月分51,841,000173,049,4711555230
2014年(H26年)2月分39,983,000192,104,3681199490
2014年(H26年)3月分47,800,000202,390,0001434000
2014年(H26年)4月分46,418,000212,210,3811392540
2014年(H26年)5月分52,671,000222,394,1361580130
2014年(H26年)6月分47,701,000232,073,9571431030
2014年(H26年)7月分41,424,000261,593,2311242720
2014年(H26年)8月分46,044,000261,770,9231381320
2014年(H26年)9月分59,736,000292,059,8621792080
2014年(H26年)10月分53,570,000281,913,2141607100
2014年(H26年)11月分43,463,000321,358,2191303890
2014年(H26年)12月分34,859,00035995,9711045770
2015年(H27年)1月分69,194,000342,035,1182075820
2015年(H27年)2月分49,702,000351,420,0571491060
2015年(H27年)3月分60,332,000351,723,7711809960
2015年(H27年)4月分59,935,000371,619,8651798050
2015年(H27年)5月分77,794,000391,994,7182333820
2015年(H27年)6月分55,864,000401,396,6001675920
2015年(H27年)7月分53,216,000441,209,4551596480
2015年(H27年)8月分42,170,00044958,4091265100
2015年(H27年)9月分49,331,000471,049,5961479930
2015年(H27年)10月分44,146,00049900,9391324380
2015年(H27年)11月分33,918,00047721,6601017540
2015年(H27年)12月分29,309,00043681,605879270
2016年(H28年)1月分89,004,000521,711,6152670120
2016年(H28年)2月分74,533,000521,433,3272235990
2016年(H28年)3月分85,446,000511,675,4122563380
2016年(H28年)4月分102,991,000531,943,2263089730
2016年(H28年)5月分123,550,000532,331,1323706500
2016年(H28年)6月分104,764,000512,054,1963142920
2016年(H28年)7月分95,396,000521,834,5382861880
2016年(H28年)8月分84,252,000521,620,2312527560
2016年(H28年)9月分83,156,000521,599,1542494680
2016年(H28年)10月分60,424,000531,140,0751812720
2016年(H28年)11月分69,921,000531,319,2642097630
2016年(H28年)12月分61,093,000521,174,8651832790
2017年(H29年)1月分68,471,000531,291,9062054130
2017年(H29年)2月分72,748,000521,399,0002182440
2017年(H29年)3月分87,343,000521,679,6732620290
2017年(H29年)4月分95,445,000531,800,8492863350
2017年(H29年)5月分109,376,000522,103,3853281280
2017年(H29年)6月分106,910,000522,055,9623207300
2017年(H29年)7月分100,170,000521,926,3463005100
2017年(H29年)8月分91,603,000521,761,5962748090
2017年(H29年)9月分91,443,000511,793,0002743290
2017年(H29年)10月分84,696,000511,660,7062540880
2017年(H29年)11月分77,946,000521,498,9622338380
2017年(H29年)12月分79,454,000511,557,9222383620
2018年(H30年)1月分90,002,000501,800,0402700060
2018年(H30年)2月分82,564,000501,651,2802476920
2018年(H30年)3月分96,545,000482,011,3542896350
合計4,018,641,000-1,682,848120,559,230
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