弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を次のとおり変更する。
     控訴人らは、各自、被控訴人Aに対し金二一万四、六九六円およびこれ
に対する昭和四五年六月一日以降完済に至るまで、被控訴人Bに対し金二万二、二
五〇円およびこれに対する昭和四三年一二月二六日以降完済に至るまで、被控訴人
Cに対し金四万六、二二九円およびこれに対する同年同月同日以降完済に至るま
で、被控訴人Dに対し金一万一一四円およびこれに対する同年同月同日以降完済に
至るまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。
     被控訴人らのその余の請求を棄却する。
     訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人Aと控訴人らとの間に生じた
ものはこれを二分しその一を同被控訴人のその余を控訴人らの各負担とし、被控訴
人B、同Cと控訴人らとの間に生じたものはこれを五分しその四を右被控訴人ら二
名のその余を控訴人らの各負担とし、被控訴人Dと控訴人らとの間に生じたものは
全部同被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人ら訴訟代理人は、「原判決中控訴人ら敗訴の部分を取消す。被控訴人らの
請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決
を求め、被控訴人ら訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の主張ならびに証拠の関係は、左に付加するほかは、原判決事実摘示
のとおりであるからこれを引用する。(但し、原判決三枚目裏行目に「除行」とあ
るのを「除行」と、同一一行目に「衝撃」とあるのを「衝撃」と、同八枚目表一〇
行目および末行に「除行」とあるのを「徐行」とそれぞれ訂正する。)
 (控訴人らの主張)
 原判決によれば、本件事故はもつぱら控訴人Eの過失により惹起されたもので、
被控訴人Bの過失は認められないというのであるが、控訴人らとしては右認定に到
底承服できないので、重ねて、被控訴人Bにも過失のあることを主張する。
 すなわち、被控訴人Bは、黄色の点滅信号が作動する本件交差点を通過するにあ
たり、時速約三〇キロメートルに減速し、左方を見たところ交差点にさしかかりつ
つある控訴人E運転の自動車を認めたが、右自動車の対面信号が赤の点滅であるの
で当然一時停止するものと判断してそのまま進行し、約二メートルの至近距離にい
たつてはじめて危険を感じて避譲措置をとつたというのである。
 そうすると、被控訴人Bは距離にして約三〇メートル、時間にして約三・六秒の
間控訴人Eの自動車を見ていなかつたことになる。ところで、交差点における黄色
の点滅信号は、青信号と異り、これに対面する車両に対し絶対的な優先通行権を与
えたものではなく、他の方向から同一交差点に入る車両がある場合にはその動静に
注意し、危険の発生を未然に防止する注意義務が課せられているのであり、しか
も、控訴人Eの進行してきた道路は、被控訴人Bの進行してきた道路より幅員が一
〇メートルも広い交通頻繁な駅前の大通りであるから、赤色の点滅信号を看過して
進入してくる車両がまつたくないとはいいえないのである。
 しかるに、被控訴人Bは控訴人Eの自動車を認めながら、右自動車が一時停止す
るか否かを確認せず、漫然一時停止するであろうと信じて他の方向に目を転じ前記
のような認識の空白を生ぜしめたため本件事故の発生をみたのである。そして、被
控訴人Bが、自動車運転者の常識にしたがい先に右方を見、ついで左方を見たなら
ば本件事故の発生を免れたことも明らかである。
 かように、本件事故は、被控訴人Bの右のような注意義務の懈怠もその一因をな
しているのであつて、控訴人Eの一方的過失によるものではない。
         理    由
 (本件事故の発生)
 一、 昭和四三年九月二九日の午後一〇時頃、長岡市c方面から新潟市方面に向
う道路(後記交差点までが国道一七号線右交差点から先は国道八号線、以下単に甲
道路という。)と柏崎市方面から国鉄長岡駅方面に向う道路(後記交差点までが国
道八号線、以下単に乙道路という。)とが交差する長岡市ab丁目交差点(以下本
件交差点という。)において被控訴人B運転の自動車(普通乗用車、以下単に甲車
という。)控訴人E運転の自動車(マイクロバス、以下単に乙車という。)とが衝
突し、その結果甲車、乙車ともに破損し、甲車に同乗していた被控訴人Cおよび同
Dの両名が負傷したことは当事者間に争いがない。
 (本件事故の態様および運転者の過失)
 二、 いずれも成立に争いのない、甲第四号証、同第六号証、同第九号証、同第
一三ないし第一六号証に、原審における控訴人Eおよび被控訴人Bの各本人尋問の
結果を総合すると次の事実が認められる。
 「本件交差点は、幅員約一六メートルの南北に走る甲道路と、幅員約二四メート
ルの東西に走る乙道路とがほぼ直角に交差し、交差点の四つ角はいずれもすみ切り
がなされているが、周囲は商店が密集し左右のみとおしがきかない交差点であるこ
と(甲第一三号証として提出されている実況見分調書には「みとおしは良好であ
る。」との記載があるが、右は、他の部分の記載からみて、道路に屈曲等がないた
め道路前方のみとおしが良いことをいうものと解される。)、本件事故直前、甲車
は甲道路を長岡市c方面から北進し、乙車は乙道路を柏崎市方面から東進し、いず
れも本件交差点を直進しようとしたこと、本件交差点には信号機が設置されていた
が、当時、甲道路上の車両を規制する信号機が黄色燈火の点滅すなわち『注意進
行』を、乙道路を進行する車両を規制する信号機が赤色燈火の点滅すなわち『一時
停止』をそれぞれ現示していたこと(甲車および乙車の進路ならびに信号機の状態
は当事者間に争いがない。)、甲車には被控訴人C、同Dおよび訴外Fの三名が同
乗していたこと、甲車を運転していた被控訴人Bは、時速約四〇キロメートルの速
度で走行してきたが、本件交差点の信号機の信号が黄色燈火の点滅であるのを見て
甲車の速度を減じ、時速約三〇キロメートルの速度で本件交点差に進入進行したこ
と、同被控訴人は、同交差点南端に設置された横断歩道附近を通過するころ左方道
路から本件交差点に接近しつつある乙車のライトを同交差点西端の横断歩道の西側
付近に認めたが(乙車のライトの認められた位置と右横断歩道との距離は原審にお
ける被控訴人B本人尋問の結果によつても明確でない。)、乙車がその対面する信
号機の表示にしたがつて一時停止するものと思い込み、以後乙車の動静には注意を
払わず、もつぱら自車の進路上にある本件交差点北端の横断歩道上の歩行者の状況
を注視しつつ進行したところ、本件交差点のほぼ中央付近まで進んだとき、甲車の
左手至近の距離に乙車が接近しているのを発見し、急拠これを避けようとしたが間
に合わず、乙車に衝突されたこと、他方、乙車を運転していた控訴人Eは、本件交
差点を左折する予定であつたがこれを変え、同交差点を直進して長岡駅方面へ進行
しようと考えたので、本件交差点に接近したころ従前の自車の速度時速約四〇キロ
メートルからその速度を落としながらバツクミラーにより同僚の運転する後続の自
動車が乙車の進行状況を認識できる位置を走行しているのを確めた、そして、乙車
の対面する信号が赤色燈火の点滅であることに気付きながら本件交差点の直前で一
時停止せず(乙車が一時停止しなかつたことは当事者間に争いがない。)、左右の
道路から同交差点へ進入しようとする車両の有無に注意もせず、自軍の速度を加速
して時速約三〇キロメートルの速度で本件交差点を通過しようとし、同交差点の中
央部分に到つたとき、はじめて乙車の右方約八ないし一〇メートルの位置に甲車が
接近しているのを発見しこれが避譲の措置をとつたが間に合わず、乙車の右前部を
甲車の左側面に衝突させたこと、右衝突により、甲車、乙車の双方が破損したほ
か、甲車を運転していた被控訴人Bに対し頸筋挫傷の、同乗者の被控訴人Cに対し
頭部顔面打撲傷ならびに左眼球結膜下出血の、被控訴人Dに対し左肩甲部、右背部
挫傷右足部挫傷の各傷害(右傷害の程度は後記認定のとおり)をそれぞれ負わせた
こと。」以上の事実が認められ、原審における控訴人Eおよび被控訴人Bの各本人
尋問の結果中の右認定に反する供述部分は措信できず、他に右認定を左右するに足
りる証拠はない。
 控訴人らは、「控訴人Eは、本件交差点の直前で時速約一五キロメートルに減速
して進行していたところ、乙車の対向車線を西方へ通り過ぎて行つた二台のタクシ
ーの陰から甲車が乙車の進路を横断しようとしているのを発見したものである。」
と主張する。そして、右の乙車の速度につき、前記控訴人本人尋問の結果中には、
「(本件交差点西端の)横断歩道上を停止寸前の低速で進行しながらバックミフー
で後続車を確認し、横断歩道を通り過ぎようとするところでギヤをサードにして少
し加速しながら進行したので、本件事故寸前の乙車の速度はせいぜい時速二〇キロ
メートルないし二五キロメートルであつた。」との趣旨の供述部分がある。しか
し、前掲甲第一三号証によれば、本件衝突までに甲車が本件交差点内を走行した距
離は約三〇メートル、同じく乙車が同交差点内を走行した距離が約二一メートルで
あることが認められるから、甲車が前認定のとおり時速約三〇キロメートルで進行
していた場合、乙車の速度が前記供述のとおりであるとすると、甲車本件交差点に
進入する以前にこ車が既に右交差点内を走行していた計算になる。そして仮りに甲
車の速度が右以上に高速であつたとすると、乙車はさらに本件交差点の中心寄りを
走行していたはずである。しかし、右のように甲車が本件交差点へ進入する以前に
て車が同交差点へ入つていたことを認めさせる資料はない。そして、右の「ギヤを
サードギヤにして加速した」との供述自体、乙車の速度をいつたん停止寸前まで減
速したとの供述がすこぶる疑わしいものであることを示しているから、いずれにし
ても前記本人尋問の結果中の乙車の速度に関する部分は信用しがたい。また、タク
シー二台とすれ違つた直後甲車を発見したとの供述部分も、もし本件事故直前に乙
車と反対方向に本件交差点を通過して行つた自動車があつたならば、甲車において
制動をかける等のこれに対処する措置をとつたはずであるのに、かような形跡は全
く認められないから、右供述部分も採用できない。(乙車を運転していた控訴人E
において甲車を発見するのが遅れたのは、前記供述のように他の通過車両があつた
からではなく、同僚の自動車が間違いなく乙車に追随して本件交差点を直進するか
否かをバツクミラーによつて確認しようとして前方および側方の注視を怠つたこと
によるものと推認される。)
 そこで、前記認定の事実をもとに各運転者の過失の有無を検討すると、まず、乙
車を運転していた控訴人Eには自車の対面する信号機の一時停止の信号にしたがつ
て本件交差点の直前で一時停止すべきであつたのにこれをなさず、しかも左右の交
通の安全を確認しないままに前記認定の速度で進行した点に過失があり、右過失が
主たる原因となつて本件事故が惹起されたものと認められる。
 しかし、本件事故当時本件交差点においては交通整理が行なわれておらず(当時
の本件交差点のように、交差点に設置された信号機の一方が黄色燈火の点滅を、他
方が赤色燈火の点滅をそれぞれ現示しているときは、右信号機は注意進行または一
時停止を命じているに過ぎないから、当該交差点は交通整理の行なわれていない交
差点にあたる。)、左右の見とおしがきかないのであり、また甲車の通行している
甲道路の幅員よりもこれと交差する乙道路の幅員が明らかに広いのであるから、甲
車を運転していた被控訴人Bは、道路交通法第四二条および第三六条第二項により
本件交差点において徐行すべきであつたのにこれを怠り(甲車の対面していた信号
機の注意進行信号は当然に徐行すべき義務を課しているものではないが、他の法条
による徐行すべき旨の規制を排除するものでもない。)、前記のように速度を時速
約三〇キロメートルに減じたのみで本件交差点を進行し、しかも乙車のライトを現
認しながらその動静に注意しなかつた点に過失があり、右の過失も本件事故発生の
一因をなしているものと認められる。
 (なお、控訴人らは、「控訴人Bは本件交差点へ進入するにあたり、まず左方を
見、ついで右方を見た点に過失がある。」と主張するが、右は左右の交通の安全の
確認方法としていずれがより適切であるかの問題に過ぎず、前認定の左右の道路か
らの車両の動静に注意して進行すべき義務の懈怠という過失と別個の過失を構成す
るわけではないから、この点を特に論ずる必要をみない。)
 (控訴人らの責任)
 三、 本件事故当時、控訴人東海陸送株式会社(以下単に控訴人東海陸送とい
う。)が乙車を自己のために運行の用に供していた者であることは当事者間に争い
がなく、前記甲第一四号証および控訴人E本人尋問の結果によれば、「本件事故
は、控訴人東海陸送に自動車運転手として勤務していた控訴人Eにおいて控訴人東
海陸送の業務である乙車の陸送中に惹起されたものであること。」が認められるか
ら、控訴人東海陸送は自動車損害賠償保障法第三条および民法第七一五条により、
控訴人Eは同法第七〇九条により、それぞれ、本件事故により被控訴人らが蒙つた
損害を賠償する義務がある。
 (損 害)
 四、 (一)被控訴人Aの損害
 1 本件事故により破損した甲車が被控訴人Aの所有する自動車であつたことは
当事者間に争いがなく、原審における被控訴人A本人尋問の結果および右本人尋問
の結果により成立の真正が認められる甲第一号証によれば、「被控訴人Aは、甲車
が本件事故によつて大破したので、昭和四三年一〇月五日、訴外新潟トヨタ株式会
社との間で甲車と同型同年式の自動車を代金二五万円で、買受ける契約を結び、そ
の引渡を受けたこと。」が認められる。
 そして、前記本人尋問の結果と右本人尋問の結果によつて成立の真正が認められ
る甲第三号証、原審証人Gの証言ならびに右証言によつて成立の真正が認められる
乙第一号証を総合すれば、「本件事故直前の甲車の時価は約二一万円であつたが、
同事故によつて大破した結果七、〇〇〇円程度の価値しかなくなつたこと、右の大
破した甲車は修理も可能であつたが、破損後の同車の残存価値は前述のとおり僅少
であるのと、修理には二五万円ないし二六万円を必要とすると見込まれたこと、事
故を起した自動車は修理しても後日事故の影響による欠陥が生ずることがあり、被
控訴人Aにとつて営業に使用することが困難であること、修理代とほぼ同額の代金
で甲車と同程度の自動車が購入できること、そこで被控訴人Aは破損した甲車を修
理せず前記売買により別の自動車を入手したものであること。」が認められるか
ら、前認定のいわゆる代車を購入するについて支出すべき二五万円をもつて、本件
事故により被控訴人Aが蒙つた損害というを妨げない。
 2 被控訴人Aは右代車購入にともなう自動車保険等の諸経費七万六、五六八円
も本件事故に基づく損害であると主張する。
 しかし、前述のとおり、被控訴人Aが破損した甲車の代車を購入したことについ
ては相当の理由があり、右代車の購入費用が本件事故による損害にあたるとはい
え、破損した甲車を修理して再び使用することも可能であつたのであるから、代車
購入に要する経費のうち前認定の修理費の見積額二五万円を超過する部分は本件事
故と相当因果関係に立つ損害にあたらないと解すべきである。そうすると、その余
の代車購入に伴う費用をも本件事故による損害であるとする被控訴人Aの主張は採
用するに由ないといわなければならない。
 3 前掲甲第一号証、成立に争いのない甲第二号証の七、原審における被控訴人
A本人尋問の結果によつて各成立の真正が認められる、甲第二号証の四、六、八な
いし一一および同第二号証と、右本人尋問の結果ならびに原審における被控訴人B
本人尋問の結果を総合すれば、「被控訴人Aは従来、野口自動車教習所の名称のも
とに、その所有にかかる甲車および他の一台の自動車を使用して自動車運転の個人
指導業を営んでいたものであるところ、本件事故により甲車が使用不能となつて前
記のようにいわゆる代車を購入することとしたが、右代車の整備や登録に時日を要
したため、本件事故後一五日を経過してようやく右代車を前記指導業に供すること
ができたこと、本件事故の発生がなく、被控訴人Aにおいて甲車を継続して使用で
きたならば、右使用により、必要経費を差引いて一日七、〇〇〇円宛、一五日で一
〇万五、〇〇〇円の収入をあげられたはずであること。」が認められる。
 もつとも、後記認定のとおり、被控訴人Aはみずから運転の実地指導にあたるほ
か、同Bを右指導業務にたずさわらせ、同被控訴人に対し日額二、〇〇〇円の給与
を支払つていたのであるが、被控訴人Bは本件事故によつて負傷したため右事故後
七日間前記指導業務に従事しなかつたので、被控訴人Aはその間被控訴人Bに対し
給与の支払をしなかつたから、被控訴人Aにおいて支払を免れた七日分の給与の額
一万四、〇〇〇円は、前記得べかりし収入の額から差引かれてしかるべきである。
 そうすると、被控訴人Aは、本件事故により右の差額九万一、〇〇〇円の得べか
りし利益を喪失したものと認められる。
 (二) 被控訴人Bの損害
 1 成立に争いのない甲第五号証の一、二および原審における被控訴人B本人尋
問の結果によれば、「被控訴人Bは、本件事故により前認定の潟害を負い、その治
療のため新潟県厚生農業協同組合連合会中央総合病院(以下単に中央病院とい
う。)において診療を受け治療費として七、一五一円を支払つたこと。」が認めら
れるから、同被控訴人は右と同額の損害を蒙つたものと認められる。
 2 前掲甲第一七号証、原審証人Fの証言ならびに原審における被控訴人Bおよ
び同Aの各本人尋問の結果に、弁論の全趣旨を参酌すれば、「被控訴人Bは父の同
Aが営む自動車運転指導業にたずさわり一日二、〇〇〇円の割合による給与の支給
を受けていたところ、前記受傷およびその治療のため本件事故後昭和四三年一〇月
一五日ころまでの間に七日間右指導業務に従事できず、その間給与の支払を得られ
なかつたので、七日分合計一万四、〇〇〇円の得べかりし利益を喪失したこと。」
が認められ、右認定に反する前記被控訴人B本人尋問の結果の一部は措信できな
い。
 3 本件事故によつて被控訴人Bが負つた傷害の部位は前記のとおりであるこ
と、前掲甲第四号証および原審における被控訴人B本人尋問の結果によつて認めら
れる、「同被控訴人の傷害は受傷後約七日の経過によりほぼ完治し、現在は時折頚
筋に多少の痛みを感じる程度である。」との事実、その他本件にあらわれた全資料
に鑑みると、被控訴人Bの本件事故による精神的苦痛を慰藉すべき金額は三万円を
もつて相当とすると認められる。
 (三) 被控訴人Cの損害
 1 前掲甲第六号証、いずれも成立に争いのない甲第七号証の一、二および同第
八号証の一ないし五ならびに原審における被控訴人C本人尋問の結果によれば、
「被控訴人Cは、本件事故によつて前記傷害を負い、右事故直後から昭和四三年一
〇月五日まで中央病院へ入院し、その後同年一一月上旬まで同病院へ通院してその
治療につとめ、治療費(入院費を含む)三万八、四九三円を支払つたこと。」が認
められ、右認定に反する前記本人尋問の結果の一部は措信できないから、同被控訴
人は右と同額の損害を蒙つたものと認められる。(前記甲第六号証に九月二六日入
院とあるのは本件事故発生の日である九月二九日の誤記であると認められる。)
 2 原審における被控訴人C本人尋問の結果により成立の真正が認められる甲第
一八号証および右本人尋問の結果によれば、「被控訴人Cは、見附市の岩九繊維工
業株式会社メリヤス縫製下請業H方に縫製工として勤め一か月二万円の給与を得て
いたが、本件事故によつて負傷したため休職のやむなきにいたつたこと。」が認め
られる。
 しかし、その休職期間については、前記本人尋問の結果および前認定の傷害の部
位、入院日数に、昭和四三年一一月六日よりのちに治療費の支払をしたことの証拠
を提出していない等の弁論の全趣旨を参酌すれば、「被控訴人Cは本件事故後昭和
四三年一二月末日まで休職したが、前記受傷による身体の故障のため稼働できなか
つたのは右事故後四〇日間で、その後の休職は結婚準備等右受傷以外の理由による
ものである。」と認めるのを相当とし、右認定に反する、前記本人尋問の結果およ
び前掲甲第一八号証の記載の各一部はいずれも措信できない。
 そうすると、被控訴人Cは、本件事故により前記四〇日から休日を除いた三五日
間欠勤したこととなるから、その間の給与を算出すると二万八、〇〇〇円となるの
で(前記本人尋問の結果によると、被控訴人Cの給与は日給で、一か月二万円を支
給されていたというのであるが、一か月の実働日数を知りえないから、従来一か月
二五日稼働していたものすなわち日給八〇〇円として算定)、同被控訴人は右と同
額の得べかりし利益を喪失したものと認められる。
 3 被控訴人Cの、傷害の部位、程度、加療および欠勤期間が前認定のとおりて
あること、原審における被控訴人C本人尋問の結果によつて認められる、「被控訴
人Cの傷害は一応全治したが、左眼の脇に傷痕が残つており、風邪をひいたときな
ど眼もとに痛みを感じる。」という事実その他本件にあらわれた全資料を総合する
と、被控訴人Cが本件事故によつて蒙つた精神的苦痛を慰籍すべき金額は一五万円
をもつて相当とすると認められる。
 (四) 被控訴人Dの損害
 1 いずれも成立に争いのない、甲第九、一〇号証、同第一一号証の一、二と原
審における被控訴人D本人尋問の結果によれば、「被控訴人Dは、本件事故によつ
て前記の傷害を負い、中央病院へ一日入院し、ついで昭和四三年一〇月一八日まで
の間に二ないし三回通院して治療を受け、治療費として少くとも二、〇六三円を支
払つたこと。」が認められるから、同被控訴人は右と同額の損害を蒙つたものと認
められる。(被控訴人Dにおいて同被控訴人が中央病院へ支払つた冶療費の額を証
明すべき証拠として提出しているのは甲第一〇号証および同第一一号証の一、二で
あるところ、右甲第一〇号証は昭和四三年一〇月一八日発行にかかる同年同月分の
医療費証明書であることからすると、甲第一一号証の一、二に記載の金額は甲第一
〇号証記載の合計額に含まれているとも考えられるので、同号証に記載されている
金額二、〇六三円をもつて同被控訴人が支払つたことの証明がある治療費の額と認
める。)
 2 被控訴人Dは、「同被控訴人は見附市の合資会社佐藤土建に勤務し日給二、
五〇〇円を得ていたところ、本件受傷により二〇日間その勤務を休みその間の収入
を得られなかつた。」と主張し、原審における被控訴人D本人尋問の結果によつて
各成立の真正が認められる甲第一九号証の一、二および右本人尋問の結果によれ
ば、「被控訴人Dは本件事故発生のころ、同被控訴人主張の会社に人夫頭として雇
われ、一日二、五〇〇円を支給されていたこと、同被控訴人は本件事故の翌日から
昭和四三年九月一九日まで欠勤したこと。」が認められる。
 しかし、前記本人尋問の結果によれば、「被控訴人Dの負傷は重いものではな
く、冶療としては湿布をした程度であること、同被控訴人は従来田植、稲刈等をな
すべきいわゆる農繁期には前記会社を欠勤して自家の農作業に従事していたのであ
るが、昭和四三年の被控訴人D方の稲刈は昭和四三年九月下旬または一〇月上旬か
ら約一か月を要したこと。」が認められるから、同被控訴人の前記欠勤が本件受傷
によるものとは認め難く、右本人尋問の結果中の被控訴人Dの主張にそう供述部分
および前掲甲第九号証(診断書)中の「昭和四三年一〇月一八日まで安静加療を要
した。」との記載はいずれも採用できない。
 よつて、被控訴人Dにおいて得べかりし利益を喪失したとの主張はその証明がな
いことに帰する。
 3 被控訴人Dの受傷の部位、加療に要した期間は前認定のとおりであること、
原審における被控訴人D本人尋問の結果によつて認められる、「被控訴人Dの傷害
は完治したが、腕を上げた際左肩に時折痛みを感じる。」との事実その他本件にあ
らわれた一切の資料に鑑みると、被控訴人Dが本件事故によつて蒙つた精神的苦痛
を慰籍すべき金額は五万円をもつて相当とすると認める。
 (過失相殺および保険金額の差引)
 五、 (一)本件事故の発生につき、被控訴人Bの過失がその一因となつている
ことは前認定のとおりであり、その過失の程度は同被控訴人の損害につきその二〇
パーセントを減ずべき程度であると認められる。
 そして、前認定のとおり、被控訴人Aは、同Bの父であつて、自己の所有にかか
る甲車を使用して自動車運転の指導業を営み、被控訴人Bをして運転の実地指導に
たずさわらせて報酬を支給していたこと、前掲甲第一五号証および原審における被
控訴人B本人尋問の結果によつて認められる、「本件事故は、被控訴人Bが、被控
訴人C、同Dほか一名に対し、長岡市c所在の運転試験場のコースを利用して運転
の指導をなしたのち、甲車に右被控訴人Cらを同乗させて見附市へ戻る途中におい
て発生した。」という事実ならびに被控訴人Aが本訴におて賠償を請求している損
害は甲車が本件事故によつて破損したこと基づく損害であることからすれば、損害
の公平な負担を目的とする過失相殺の法理からいつて、被控訴人Bの過失はいわゆ
る被害者側の過失として、被控訴人Aの損害額の算定についても斟酌すべきであ
る。
 (ちなみに、被控訴人CおよびDの両名は営業者およびその使用人である被控訴
人A、同Bに対し顧客の立場にあり、右被控訴人らと身分上ないしは生活関係上一
体をなすとみられる関係になく、いわゆる好意同乗者とみるべきものでもないか
ら、被控訴人C、同Dの各損害につき過失相殺をなすべきでないのは当然であ
る。)
 つぎに、いずれも自動車損害賠償保障法に基づく保険金として、被控訴人Bにお
いて一万八、六七一円の、同Cにおいて一七万二六四円の、同Dにおいて四万一、
九四九円の各給付を受けたことは当事者間に争いがない。
 そこで被控訴人らの有する損害賠償債権の額を算出すると次のとおりである。
 1 被控訴人Aについては前第四項(一)1および3の合計三四万一、〇〇〇円
から過失相殺としてその二〇パーセントを減ずると、二七万二、八〇〇円となる。
 2 被控訴人Bについては、前第四項(二)1ないし3の合計五万一、一五一円
から過失相殺としてその二〇パーセントを減じ、さらに前記保険金額を差引くと、
二万二、二五〇円となる。 (円位未満四捨五入)
 3 被控訴人Cについては、前第四項(三)1ないし3の合計二一万六、四九三
円から前記保険金額を差引くと四万六、二二九円となる。
 4 被控訴人Dについては、前第四項(四)1および3の合計五万二、〇六三円
から前記保険金額を差引くと一万一一四円となる。
 (反対債権による相殺)
 六、 (一)原審証人Iの証言により各成立の真正が認められる乙第二、三号証
および右証言によれば、「本件事故により破損した乙車は、いわゆる新車であつ
て、事故当時陸送中であつたため、長岡市において応急修理をしたうえ各務原市へ
逆送し、同車を製造した工場でさらに修理を加えたこと、その結果控訴人東海陸送
は訴外新陽いすゞモーター株式会社に対しては修理代金として七、七二〇円(乙第
二号証に記載の金額から電話料および写真代八〇〇円を控除した額)を支払い、訴
外川崎航空機工業株式会社に対しては二八万二、八〇〇円の修理代金債務を負担し
たこと。」が認められ、既に認定した被控訴人Aと同Bの関係からすれば、被控訴
人Bは、本件事故当時、被控訴人Aの被用者の立場で同被控訴人の事業の一環とし
て甲車を運転していたことが明らかであるから、被控訴人Aは同Bの使用者とし
て、控訴人東海陸送が本件事故によつて蒙つた損害を賠償する義務がある。
 そして、本件事故を惹起した控訴人東海陸送の被用者である同Eに過失があるこ
とは前認定のとおりであり、右の過失の程度は損害の算定につきその八〇パーセン
トを減ずべき程度と認められ、控訴人東海陸送の損害についても控訴人Eの前記過
失を斟酌すべきであるから、控訴人東海陸送は被控訴人Aに対し、前記修理代金の
合計額からその八〇パーセントを減じた五万八、一〇四円の損害賠償債権を有する
こととなる。
 <要旨>(二)控訴人東海陸送は右債権を自働債権とし、被控訴人Aの同控訴人に
対する前記損害賠償債権を受働債権として対等額で相殺すると主張する。
 民法第五〇九条は、相殺が例外的に許されない場合のひとつとして、不法行為に
よる損害賠償債権を受働債権とする相殺を禁止しているのであるが、右規定は被害
者保護の規定であつて、その趣旨とするところは、不法行為の被害者には現実の弁
済によつて損害の填補を受けさせようとすることと、報復的不法行為の誘発を防止
することのある。しかし、本件のように、自働債権および受働債権が双方の過失に
より惹起された同一事故に基づく損害賠償債権である場合、双方とも不法行為の被
害者であるのに一方の被害者にのみ現実の弁済の要請を強調することは同じく被害
者である他方の立場との間に著るしい不均衡を生ぜしめることになるし、自働債権
を本訴に対する反訴または別訴によつて訴求するのは自由であること、さらには、
民法上被害者みずからが不法行為による損害賠償債権を自働債権として相手方の
(不法行為以外の原因による)反対債権と相殺することは禁じられていないことを
勘案すると、現実弁済の要請を強調することは妥当性を欠き、また右のような場合
には、報復的不法行為の誘発という弊害を生ずる懸念は皆無である。そして自動車
の衝突事故のような社会的にみて一個の事実から生じた債権債務の関係につき相殺
による清算を許すときは、別訴による証拠調の反覆が回避でき、当事者にとつても
前記債権関係につき迅速簡明な決済が得られる利点がある。(なお、受働債権が自
動車損害賠償保障法による請求の場合には、被害者の保護を強化しようとする同法
の目的に照らし相殺禁止の適用を除外すべきでないとの考え方もあるが、本件の場
合は、自働債権、受働債権ともにいわゆる物損に基づく損害賠償債権であるから右
の点は問題とならない。また外形的には同一の不法行為によつて生じた債権であつ
ても、一方が故意により他方が過失によつて生じた場合に、双方ともに同質的な債
権であるとして単純に相殺を認めることには疑義がありうるが、本件の場合は双方
ともに過失による不法行為により生じた債権であるからこの点についてもなんら支
障はない。)
 以上要するに、本件のように、双方の債権が、双方の過失による一個の衝突事故
によつて生じた物損に基つく損害賠償債権である場合には、民法第五〇九条の適用
がなく、損害賠償債権を受働債権とする相殺ができると解すべきである。
 そして、控訴人東海陸送が本訴において被控訴人Aに対し前記相殺の意思表示を
したことは本件記録上明らかであるから、同被控訴人の二七万二、八〇〇円の前記
損害賠償債権は五万八、一〇四円の限度において相殺により消滅したものというべ
きである。
 (結論)
 七、 以上説示のとおりとすれば、控訴人らは各自被控訴人らに対し次の金員を
支払う義務がある。(控訴人両名はいわゆる不真正連帯債務の関係に立つ。)
 (一) 1 被控訴人Aに対し二一万四、六九六円
 2 同Bに対し二万二、二五〇円
 3 同Cに対し四万六、二二九円
 4 同Dに対し一万一一四円
 (二) 右各金員に対する後記の日以降各完済に至るまで民法所定年五分の割合
による遅延損害金
 1 被控訴人Aに対して支払われるべき損害金の始期を検討するに、同被控訴人
の損害にはいわゆる代車の購入代金が含まれ、右代金については同被控訴人が現実
に金員を支出したときに損害が発生し、同時に控訴人らにおいて右損害賠償債務に
ついて遅滞に陥るものと解すべきところ、前掲甲第一号証および原審における被控
訴人A本人尋問の結果によれば、右代金は二〇か月の分割払の方法によつて支払わ
れ、その最終の支払は昭和四五年五月末になされたものと推認される。そして、被
控訴人Aにつき認容されるべき前記損害賠償債権のいかなる部分が右の損害に該当
するか明らかになしえないから、支払義務者である控訴人らにとつて最も利益とな
るよう取扱い、控訴人らは、右債権の全額につき前認定の最終支払日の翌日である
昭和四五年六月一日以降の遅延損害金を支払うべきものと認める。
 2 被控訴人B、同C、同Dに対しては、同被控訴人らの全損害が発生したのち
であつて、本件訴状が控訴人らに送達された日の翌日であること記録上明らかな昭
和四三年一二月二六日以降の損害金が支払われるべきである。
 そうすると、被控訴人らの本訴請求は右の限度で正当として認容し、その余は失
当として棄却すべきである。
 よつて原判決の、被控訴人らの本訴請求に対する判断のうち、当裁判所の判断と
結論を異にする部分は不当であり、控訴人らの各控訴は当該部分に関しては理由が
あるから、原判決を主文掲記のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民
事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条、第九三条を適用して、主文のとおり判決
する。
 (裁判長裁判官 浅賀栄 裁判官 川添万夫 裁判官 秋元隆男)

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