弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役一年六月に処する。
     原審における訴訟費用中鑑定人Aに支給した部分を除く外全部被告人の
負担とする。
     本件公訴中銃砲刀剣類等所持取締令違反の点は無罪。
         理    由
 弁護人那須六平の控訴の趣意は同人提出の同趣意書に記載の通りであるから、こ
れを引用する。
 同第一点の(一)に付いて。
 <要旨>銃砲刀剣類等所持取締令に所謂銃砲中には故障の為一時弾丸発射の機能に
障害があつても通常の手入又は修理を施せば右機能を回復することができる
銃砲をも含むと解するを相当とするが通常の手入又は修理の域を超え新規製作に近
い改造を施さなければ該機能を回復できない程度のものは右に所謂銃砲の内には含
まれないと解すべきこと立法の趣旨に照らし蓋明白である。本件に付これを観るに
当審鑑定人Bの鑑定の結果によれば本件管打銃は金属部全体に亘り発錆甚だしく深
く地金に喰い込んでいて撃発させても撃鉄凹部の中央針と管台先端との間には約三
ミりの間隙が存し接触しない。該銃の弾丸発射機能を回復するには撃鉄部全部を取
替え、且管台部を削取り、新しく撃鉄部先端凹部に符合するように形成した管台を
取付け、撃鉄の安全装置即ち第一役止めを引鉄を引くことによつて撃発しないよう
に修理改造しなくてはならない。右の修理は技術優秀な鉄工所でなければできず、
その費用は一万円以上を要するとなつており、又原審第二回公判における鑑定人A
も機関部が全部錆びていて修理を加えても使用できないと思う改造しなければ発射
する様にできない。
 新規に作らなければならないのでそんなにしてまで使用する人はないと思う旨述
べている。尤も同鑑定人は該修理は半日と千円でできるとも述べていること原判決
摘示の通りであるが右供述部分は前顕B鑑定人の鑑定の結果に照らしても又A鑑定
人の他の供述部分との釣合から云つてもたやすく信用できない。これを要するに右
両鑑定人の鑑定の結果によれば本件筒打銃は新規製作に準ずる大改造を施せばいざ
しらず通常の手入又は修理を施す程度を以てしては到底弾丸発射の機能を回復し得
ないものと断ずるの外ない。そうだとすれば右銃は銃砲刀剣類等所持取締令に所謂
銃砲には該当しないと解するを相当とすべく、この点の論旨は理由があり原判決は
この点において破棄を免れない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十七条第四百条但書に則り原判決を破棄し次の如く自
判する。
 なお自判に先だち念の為他の論旨(但量刑不当の点を除く)に付いても一応その
判断を示して置く、
 (一) 原審公判におけるC証人の供述中論旨に引用の部分は甚だしく吾人の常
識に反し又理路整わず到底信用できない原判決が該部分を証拠に採用しなかつたの
は当然である。
 (二) 論旨に引用の原審公判におけるD証人の証言から直ちに論旨のような結
論はでて来ないのみならずDの警察員及検察官に対する供述調書その他原判決が採
用した証拠によれば被告人は所謂記事差止料としてDの手を経て金五万円を受取つ
たものであり又その金がE医師から出るものであることは事前にこれを熟知してい
たことを認むるに十分である。
 当裁判所は原判決挙示の証拠により同判決摘示第一乃至第三の犯罪事実及前科の
事実を認定する。
 法律に照らすと右第一、二の事実は各刑法第二百五十二条第一項に、第三の事実
は同第二百四十九条第一項に該当するところ被告には前示前科があるので同法第五
十六条第五十七条に則り夫々累犯の加重をなし、以上は同法第四十五条前段の併合
罪であるから同法第四十七条第十条第十四条に従い重い第三の罪の刑に法定の加重
をした刑期範囲内で被告人を懲役一年六月に処し原審における訴訟費用中主文掲記
の部分は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により全部被告人の負担とする。
 本件公訴中被告人は法定の除外事由がないのに昭和三十年九月頃から同三十一年
二月六日迄同市a町b番地の被告人居宅において管打銃一挺を蔵置し所持していた
ものであるとの点は前記の通り該銃は銃砲刀剣類等所持取締令に所謂銃砲とは認め
られないので刑事訴訟法第三百三十六条に則り無罪の言渡をなすべきものとする。
 よつて主文の通り判決する。
 (裁判長裁判官 柳田躬則 裁判官 青木亮忠 裁判官 尾崎力男)

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