弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告らの請求はいずれもこれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
       事   実
第一 当事者双方の求めた裁判
一 原告ら
1 被告は原告らに対し別紙表賃金カツト額欄記載の金員およびこれに対する昭和
四七年一〇月一四日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言
二 被告
 主文同旨の判決並びに担保を条件とする仮執行免脱の宣言
第二 当事者双方の主張
一 原告らの請求原因
1 被告は「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に
基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(以下
単に地位協定という)第一二条第四項の規定によつて、日米両国政府間において締
結された基本労務契約に基づく在日米軍基地従業員の法的雇用主であり、原告らは
被告に雇用され、現に別紙表記載の職種職場欄記載の職種職場に勤務する基地従業
員であり、且全沖繩軍労働組合(以下単に全軍労組という)の組合員である。
2 昭和四七年九月一五日(以下、本件当日という)、原告らのうち、別表記載の
一二二一番(a)から一三六三番(b)までの者、同一四七〇番(c)から一四八
一番(d)までの者、一四八二番(e)から一四九六番(f)までの者はそれぞれ
その職場において就労し、その余の原告らはそれぞれその職場において就労中、在
日米軍当局によりその就労を拒否されたものであるが、被告は原告らに対し同年九
月分の賃金のうち別紙表記載の賃金カツト額欄記載の賃金を支払わない。
3 昭和四七年九月分の賃金支給日は同年一〇月一三日である。
4 よつて、原告らは被告に対しそれぞれ別紙賃金カツト額欄記載の金員および右
金員の支給日の翌日である昭和四七年一〇月一四日以降支払済みに至るまで民法所
定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告の請求原因事実に対する認否
請求原因1ないし3の各事実はこれを認める。
三 被告の抗弁
 在日米軍は、地位協定第三条一項前段、および前記基本労務契約により基地内の
従業員に対する業務上の指揮命令権および基地の管理権を有するが、右権限に基づ
き本件当日、ハチマキを着用して就労しようとする原告らに対し、警告書もつて軍
施設内でのハチマキ着用行為は禁止されているからハチマキ着用者はハチマキを取
りはずして就労するかあるいは米軍施設内から出て行くよう警告をなし、更に、仮
にハチマキを着用して就労しても一切賃金の支払をしない旨通告したうえ、ハチマ
キを取りはずして就労するよう命じたが、原告らはこれに応ぜず、幅約五センチメ
ートル、長さ約八〇センチメートルの赤布に「全軍労」「大幅賃上」「大量解雇撤
回」等と黒書した赤布のハチマキを、また一部は赤布のまま何んらの文字も記載し
ないハチマキ(以下単に本件ハチマキという)を着用して就労ないし就労をしよう
とした。しかし、このようなハチマキを着用しての就労は、勤務時間内の組合活動
として許されないものであるから、雇用契約の本旨に従つた労務の提供にあたらな
いし、また右就労行為は、職場の秩序を乱すものであるから、この就労を拒否した
在日米軍の行為は正当である。本件のようにハチマキ着用のうえでの就労は、いわ
ゆるハチマキ闘争として、組合員の団結連帯感の高揚、使用者に対する示威を目的
とする闘争手段であり、勤務時間内の組合活動として就労者の職務に対する精神的
活動力の集中を妨げるものとして職務専念義務に違反する行為である。また、原告
らの就労場所である在日米軍基地は軍隊の使用する施設としての特殊性から、高度
の職場秩序職場規律の維持が要求されるものであり、ハチマキ着用による就労は職
場の秩序を著しく乱すものであるから、原告らのハチマキを着用しての就労の申入
れ、ないし就労は雇用契約上債務の本旨に従つた労務の提供ないし履行とはいえな
い。従つて原告らの本件のハチマキ着用による右就労がなされたとしても、またこ
れが在日米軍に拒否されこれをなすことができなかつたとしても右は債権者たる被
告ないし在日米軍の責によるものではなく、専ら原告らの責に基づくものであるか
ら原告らにおいて別紙表の賃金カツト額欄記載の賃金につきその請求権を有しない
というべきである。
四 原告らの抗弁事実に対する認否
 抗弁事実については認めるがその主張は争う。
 被告は原告らの本件ハチマキを着用した就労が勤務時間内の組合活動でありまた
右は心理上服従と闘争の二重構造的機能をもち、職務専念義務に反するものであ
り、また職場秩序を乱す行為であるから労働契約上債務の本旨に従つた履行とはい
えない旨主張するが、原告らの本件ハチマキ着用は全軍労組の組合員の連帯意識の
昂揚と団結の強化をはかるとともに組合の要求を内外に訴え、団結を示威するため
憲法二八条が保障する団結権、団体行動権に基づく正当な組合活動であるから、た
とえこれが勤務時間内になされたとしてもこれを制限するには合理的な理由がなけ
ればならず、単に使用者にとつて好ましくないということだけでは制限できないも
のである。また、近代的労使関係は労使の基本的立場が相違する以上、原告らにお
いて本件ハチマキ着用により心理上服従と拮抗の二重構造的機能が働きその限りで
原告らの精神的活動が職務への集中において、妨げられるとしてもこれは当然の前
提であり、そのことを理由として職務専念義務に違反するということはできない。
またハチマキ着用が他人の業務を妨害するような場合など具体的障害が生じる場合
にはたしかに職場秩序を乱すといいうるが、本件のような場合には、ハチマキの着
用により一切の有形的な行為は終了するものであつて他人の業務を妨害するような
ことはなくまた本件ハチマキの着用は静止的おだやかな表現行為にとどまるもので
あつて自己又は他人の業務の遂行に支障となることは全くない。そもそも労働契約
は約定した労務の提供を本質とし、その労務の提供がなされたか否かが債務の本旨
に従つた履行があつたか否かの唯一の基準となるのである。本件については原告ら
のほとんどが、ボイラーの修理、自動車の運転、軍需品のチエツク、単純事務等に
従事していたものであり、本件ハチマキを着用して就労したとしても労働契約上定
められた労働者の提供すべき労務内容には変りがないのであるから在日米軍におい
て原告らの就労を拒否すべき合理的理由はないというべきで、被告は賃金支払義務
を免れるものではない。
五 原告らの再抗弁
 沖繩の本土復帰前、全軍労組は一九六七年四月一八日から同月二一日までの四日
間、一九六八年四月一七日から同月一八日までの二日間、一九六九年五月二六日か
ら同月二七日までの二日間、一九七〇年一月六日から同月七日までの二日間、一九
七〇年八月二七日から同月二八日までの二日間の五回に亘りいわゆるハチマキ闘争
を行つたが、在沖米軍当局は右ハチマキ闘争を正当な組合活動として容認していた
ものであつて、右労使間においてハチマキを着用しての就労は正当な組合活動とし
て、賃金カツトの対象としない旨の暗黙の合意および労使慣行があり、この慣行は
既に、法的確信に支えられ、慣習法化している。
六 被告の再抗弁事実に対する認否
 再抗弁事実は不知。その主張は争う。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一 請求原因1(当事者の地位)、2(原告らの就労および賃金カツト)、3(賃
金の支給日)の各事実については当事者間に争いがない。
二 そこで、本件ハチマキ着用による就労の申し入れ、ないし就労が、労働契約上
債務の本旨に従つた労務の提供ないし履行といえるか否かにつき検討する。
 まず、在日米軍が地位協定(昭和三五年六月二三日条約七号)第三条一項前段に
「合衆国は施設及び区域内においてこれらの設定、運営警護及び管理のため必要な
すべての措置をとることができる」旨規定されているところ、右協定に基づき、日
本国政府とアメリカ合衆国政府との間に締結された基本労務契約により基地従業員
に対して在日米軍が業務上の指揮監督権を有することは当裁判所に顕著な事実であ
り、また、在日米軍が本件当日、本件ハチマキを着用して就労しようとした原告ら
に対し警告書をもつて軍施設内でのハチマキ着用行為が禁止されているので右ハチ
マキ着用者らは本件ハチマキを取りはずして就労するか米軍施設内から出て行くよ
う警告し、また本件ハチマキを着用して就労してもこれに対し一切賃金を支払わな
い旨通告したこと、しかるに、原告らは右在日米軍の右警告ないし命令に応ぜず、
本件ハチマキを着用して就労し、または、就労しようとしたことについては当事者
間に争いがない。
 ところで、原告らは、原告らによる前記のハチマキを着用しての労務の提供およ
び就労行為はその提供する労務の内容に何んらの変りもなく、また、原告らの職種
からみて職場の秩序を乱すものでないので賃金をカツトすることはできない旨主張
する。確かに、原告らのハチマキを着用しての就労行為は、いわゆるハチマキ闘争
であり、その目的とするところは組合員相互の連帯意識の昂揚と団結の強化をはか
るとともに、使用者に対して心理的圧迫を加え、他方、組合の要求を内外に訴えて
大衆の支持を要請することにあるとはいえ、他面では組合員の提供する労務の内容
には変りのないことからみると、右就労行為が使用者の正常な業務の運営を妨げる
ものでなく、また、職場の秩序を乱すものでないとすれば、使用者が右行為を違法
として組合員に対して懲戒その他の不利益処分をなすことはできないと解すべきで
ある。しかし、本件で問題となるところのハチマキ着用による就労行為が、雇用契
約上の債務の本旨に従つた履行または労務の提供といえるか否かの判断について
は、右行為はまさしく組合活動であり、組合活動は本来組合員の負担においてなす
べきであるから、使用者の負担に便乗した本件ハチマキ着用による就労は、使用者
がこれを容認する等の特段の事情のない限り、債務の本旨に従つた履行または労務
の提供があつたということはできないと解すべきである。
 そうだとすると原告らは、在日米軍が、その権限に基づき本件ハチマキを取りは
ずして就労を命じたにもかかわらずこれに応ぜず本件ハチマキを着用して就労しよ
うとしたり、また、就労したものであるから右就労は在日米軍の業務の正常な運営
の妨げとなつたか否か、またその職場の秩序が乱されたか否かを問わず雇用契約上
債務の本旨に従つた労務の提供、または、その履行があつたとはいえないと判断す
るのが相当である。
 従つて被告の本件抗弁は理由がある。
三 つぎに、原告らの再抗弁につき考えるに成立に争いない甲第一号証乙第一およ
び二号証証人gの証言および原告h(第一回)、同a、同i、同jの各本人尋問の
結果によれば、全軍労組の組合員は一九六七年四月一八日から同月二一日までの四
日間、幅約五センチメートル、長さ約八〇センチメートルの白布に「WAGE.H
IKE」と黒書したハチマキを着用し、一九六八年四月一七日から同月一八日まで
の二日間右同様のハチマキを着用し、一九六九年五月二六日から同月二七日までの
二日間右同様の形状の赤布に「首切り撤回」「春闘要求」「賃金引き上げ」等と黒
書したハチマキを着用し、一九七〇年一月六日から同月七日までの二日間右同様の
形状の赤布に「首切り撤回」と黒書したハチマキを着用し、同年八月二七日から同
月二八日までの二日間右同様のハチマキを着用し、それぞれいわゆるハチマキ闘争
を行つたが、米軍当局から賃金カツト等の処分はなされなかつたこと、在沖米軍の
合同労働委員長陸軍大佐kから全軍労委員長l宛の一九七二年一月七日付の「琉球
人雇用員による鉢巻、記章等の着用に関する政策」と題する書簡に、「琉球人雇用
員の職場における鉢巻等の着用に関する米軍の政策は次のとおり、aその職種を問
わず制服、特殊衣装を着用して接客を要求される職務にある者は鉢巻、腕章、記章
類その他特に目につくもの等の着用は認められない、例、調理士、ウエトレス、メ
イド、バスボーイ、売子、現金出納係、オープンメス、ピーエツクス、食堂等に勤
務する者、b、鉢巻類の着用により資材、機械の運転が危険をもたらす職場で就労
している者は鉢巻、腕章、懸章類の着用が認められない。但し、上記aおよびbに
定められていない雇用員だけが職場での鉢巻類着用を認められる」旨記載されてい
ること、しかし、沖縄の本土復帰後、在沖米軍が、在日米軍として「地位協定およ
び基本労務契約」に基づき、原告ら従業員に対し監督権を持つに至つてからは、ハ
チマキ着用による就労は許されないとの態度をとるに至り復帰直後、米軍基地の施
設内の各掲示板に施設内においてハチマキ闘争が禁止されていることを内容とする
「復帰後の労使の権利」と題する警告書を掲示し(乙第一号証)、更に昭和四七年
九月一三日に「在日米軍の施設及び区域内における従業員の行為」と題する右同趣
旨の警告書(在日米軍公報七二ー二号、乙第二号証)を原告らに配布してハチマキ
闘争の挙にでないよう警告したこと、昭和四七年七月二〇日、全軍労組牧港支部で
ハチマキ闘争を行つた際、在日米軍の武装兵約五〇〇名によつて、ハチマキ着用者
が基地内から退去させられたことおよび同年九月一二日牧港第二兵站部隊内の従業
員がハチマキを着用して四時間のストをなした際、基地司令官は基地内での右ハチ
マキ着用は禁止されているとして、相当数の武装兵をもつて、右ハチマキ着用者を
基地内から排除させたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。
 右事実によると、確かに、復帰前においては在沖米軍が原告ら組合員のハチマキ
着用による就労を黙認していたことは窺えるが、しかし、これをもつて、本件のハ
チマキ着用による就労当時、原告と被告および在日米軍間に被告らが右就労につき
賃金カツトをしないという法的拘束力をもつ慣行にまで至つていたと解することは
できず、また、原告と被告および在日米軍との間に賃金カツトをしないという合意
が存在すると認めることもできず、他に原告らの右主張を認めるに足りる証拠もな
い。
 してみると原告らの右再抗弁は採用し難い。
四 よつて、叙上の事実によると、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこ
れを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条九三条を適用し
て主文のとおり判決する。
(裁判官 山口和男 喜如嘉貢 仲宗根一郎)

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