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平成19年5月28日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成17年(ワ)第15981号著作権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成19年3月28日
判決
福岡市<以下略>
原告A
同訴訟代理人弁護士古沢博
同西内聖
川崎市<以下略>
被告B
同訴訟代理人弁護士後藤孝典
同復代理人弁護士飯田康仁
主文
1被告は,別紙書籍目録記載の書籍の複製又は頒布をしてはならない。
2被告は,原告に対し,金123万9072円及びこれに対する平成1
7年9月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,これを10分し,その3を原告の負担とし,その余を被
告の負担とする。
5この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙書籍目録記載の書籍を発行,販売又は頒布してはならない。
2被告は,原告に対し,金184万円及びこれに対する平成17年9月17日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告は,別紙広告目録1記載の謝罪広告を,株式会社税務経理協会発行の月
刊誌「税務通信」の「」欄の最終頁末尾,同頁の幅にわたNews&Information
,,,り設けた四角形の枠内に横書きにより見出しは12ポイント活字をもって
本文は10ポイント活字をもって,1回掲載せよ。
第2事案の概要
本件は,原告が,被告の執筆に係る別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件書
籍」という)の,別紙対照表1「本件書籍(被告著作物」欄記載の部分(以。)
下,各表現部分を「被告表現」と,各表現部分を総称して「被告各表現」とい
。),(「」うは原告の執筆に係る別紙著作物目録記載の著作物以下本件著作物
というの別紙対照表1本件著作物欄記載の部分以下各表現部分を。),「」(,
原告表現と各表現部分を総称して原告各表現というを複製又は翻「」,「」。)
案したものであり,被告には,同複製又は翻案について故意又は過失があるか
ら,被告は,本件著作物について原告が有する著作権(複製権,翻案権)及び
著作者人格権(氏名表示権)を侵害すると主張して,著作権法112条1項に
基づく頒布等の差止め,民法709条,著作権法19条,21条,27条に基
づく損害賠償金184万円(著作権侵害として金24万円,著作者人格権侵害
として100万円,上記各侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用として6
0万円)及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成17年9月17
日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに著
作権法115条に基づく謝罪広告を求めた事案である。
1前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠を末尾に記載する)。
(1)共著の執筆
原告と被告は,それぞれ,大学院において,Cから指導を受け(原告が被
告より先輩に当たる,現在,ともに,教授として,大学等で財政学,租税。)
論等の科目を担当する者であるが,Cの発案により,共著「租税論」を執筆
し,平成12年3月15日,株式会社税務経理協会(以下「税務経理協会」
という)から出版した(以下,同書籍を「共著」という。。。)
共著の出版に当たり,原告は,本件著作物,すなわち,共著中の第1章,
第3章,第4章,第6章,第8章及び第9章の執筆を担当した。一方,被告
は,共著中の第2章,第5章,第7章及び第10章の執筆を担当した。
(2)本件書籍
被告は,本件書籍を執筆し,平成16年5月1日,税務経理協会から出版
した。
(3)税務経理協会に対する訴訟の提起及び原告と税務経理協会との間の和解
原告は,平成17年8月4日,被告及び税務経理協会に対し,本件訴訟を
提起した(税務経理協会に対する請求は,被告に対する本訴の請求と共通す
るもののほか,本件書籍の在庫品の廃棄を求めるものであった。。)
平成19年3月28日,税務経理協会に対する弁論が本件から分離され,
同日の本件弁論準備手続期日において,原告と税務経理協会との間で,税務
経理協会が,①本件書籍の出版及び販売により,本件著作物について原告の
有する著作権及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したことを認め,原告
に対し謝罪すること,②本件書籍を回収するとともに,その在庫品を廃棄す
ること,③別紙広告目録2記載の条件及び内容で,広告を掲載すること,④
原告に対し,損害賠償金30万円を支払うことなどを内容とする和解が成立
した。
2争点
(1)著作権(複製権又は翻案権)侵害及び著作者人格権(氏名表示権)侵害の
有無並びに被告の故意・過失の有無(争点1)
(2)原告の損害額はいくらか(争点2)
(3)謝罪広告の要否(争点3)
3争点に関する当事者の主張
(()()(1)争点1著作権複製権又は翻案権侵害及び著作者人格権氏名表示権
侵害の有無並びに被告の行為・過失の有無)について
(原告の主張)
ア本件著作物の著作物性
(ア)原告は,本件著作物を執筆し,これを被告の執筆部分とともに,原告
と被告の共著「租税論」として,税務経理協会から出版した。
なお,共著は,原告と被告の共同著作物ではなく,各執筆者が,その
分担部分をそれぞれ独立して執筆したものであり,各人の執筆した部分
は,各執筆者の単独著作物に該当するものである。
(イ)本件著作物は,全体として,創作性を有する著作物である。
共著は,租税論の入門的教科書であり,その原理・原則・定説等を説
くものであるが,そうであるからといって,その創作性が否定されるも
のではない。既に説かれている原理・原則・定説を内容とする入門的教
科書であるからこそ,わかりやすい例を用い,文章の順序・運びに創意
工夫を凝らすことにより,優れた入門教科書が創作され得るのである。
Cは,弟子の育成のために共著の出版を発案し,自己の学識と経験に
基づいて,書籍の価格及びこれに連動して大体のページ数や章分け等の
大枠を指示・指導した上で,その具体的表現は,基本的に原告と被告の
自由な執筆に任せていた。
共著の内容に関するCの指示・指導は,①租税論の講義において使用
する教科書を執筆すること②租税の理論と制度を内容とし課税の経,,「
」(,,,,済学サイモン・ジェームズクリストファー・ノブズ著C監訳A
榊原正幸訳勁草書房発行乙6以下乙6文献という他の書籍,)(,「」。
(,,,,,,,乙1∼515∼2426∼5052∼59666769
枝番を含む)についても,同様に示す)のように,それらを分けて書。。
くこと,③わかりやすい例を用いて説明をするなど工夫を凝らすこと,
「」(,)(,)④はじめての財政学米原淳七郎著有斐閣発行乙4乙4文献
のように初心者でも読みやすいようにする⑤文体はリーディング,,,「
・やさしい財政学(古田精司著,中央経済社発行(乙3,乙3文献)」)
のように,読者に語りかけるような文体とすること,⑥データ等につい
ては「図説日本の税制平成10年度版(鈴木勝康編,財経詳報社,」
発行乙1乙1文献及び図説日本の税制平成11年度版田)(,)「」(
)(,),中一穂編・財経詳報社発行乙2乙2文献を参考にするとよいこと
というものであり,具体的な表現方法について,逐一詳細な指導・指示
があったわけではない。
被告は,平成11年8月10日の,原告,被告及びCの打合せにおい
て,Cから,具体的な指導を受けた旨を主張するが,被告が指摘する指
導は,個々の細かい内容・表現に関する質問に対する指導の域を出るも
のではない。
共著の作成につき,その実質的な制作者はCで,原告も被告もCの指
揮監督下において手足として原稿作成作業に従事したにすぎず,その制
,。作者ですらないという被告の主張は余りにも常識に反する極論である
原告は,弟子の育成にかける恩師の厚情に報いるため,限られた条件
内にあっても,全力を尽くし,創意工夫を凝らして,創作性のある本件
著作物を創作したのである。
(ウ)本件書籍中の被告の複製又は翻案に係る被告各表現は別紙対照表,,
1本件書籍被告著作物欄記載のとおりでありそれに対応する原「()」,
告各表現は,同表「本件著作物」欄記載のとおりであるが,上記対応部
分の個々の表現についても創作性があり,著作物である。具体的な主張
は,別紙対照表2「原告の主張」欄の各部分(同表の左端欄の番号は,
別紙対照表1の原告各表現及び対応する被告各表現に付した番号に対応
。)「」。するものであるに係る本件著作物の創作性記載のとおりである
イ原告各表現と被告各表現の同一性又は類似性
,,,被告の執筆に係る本件書籍は第1部から第4部合計13章からなり
,,,本文合計291頁のものであるが被告は本件書籍を執筆するに当たり
別紙対照表1記載のとおり,本件著作物から極めて多くの部分を原告の許
,()諾を受けることなく利用しこれと同一又は実質的同一性実質的類似性
を有する記述を行った。原告各表現と被告各表現とは,別紙対照表1記載
のとおり,84か所にわたり,同一又は実質的に同一(類似)である。個
々の表現における同一性又は類似性についての主張は,別紙対照表2「原
告の主張」欄の各部分に係る「同一性又は類似性」記載のとおりである。
ウ依拠性
原告各表現と被告各表現との対応関係は,別紙対照表1記載のとおりで
あって,被告が,被告各表現を執筆するに当たり,原告各表現を参照し,
これに依拠したことは明らかである。
エ故意又は過失
被告の上記行為は,本件著作物につき,原告の著作権(複製権又は翻案
権)を侵害するとともに,本件書籍の著作者として被告の氏名のみを表示
し,原告の氏名を表示しなかった点において,原告の有する著作者人格権
(氏名表示権)を侵害するものであり,この権利侵害は故意又は過失によ
るものである。
(被告の反論)
ア本件著作物の著作物性
共著は,以下の,共著出版に至る経緯に関する後記(ア)ないし(エ)記載の
とおり,原告及び被告共通の恩師であるCの発案により,租税論における
原理・原則・定説をわかりやすく解説するための初学者用の教科書として
制作され,執筆に当たり,全体構造,ページ数,ベースとすべき複数の著
作の指定,使用する用語,文体等に至るまで,逐一詳細に同人の指導・指
示を受けて作成されたものである。したがって,共著中の本件著作物に内
容上の創作性がないことはもちろん,その表現の具体的形式もいわば不可
避的に選択されたものであり,原告個人の個性が表れているとはいえず,
創作性がない。原告各表現に創作性がない旨の主張は,別紙対照表2「被
」「」。告の主張欄の各部分に係る本件著作物の創作性記載のとおりである
また,原告も被告も,Cの指揮監督下において,その手足として原稿作
成作業に従事していたものであるから,共著の実質的な制作者は,Cにほ
かならない。
(ア)Cによる発案
被告は,青山学院大学,同大学大学院及び千葉商科大学大学院におい
て,いずれもCを指導教授とし,原告も,青山学院大学及び同大学大学
院において,Cを指導教授としていた。
Cは,平成10年7月ころ,青山学院大学において,Cが担当してい
た「租税論」の講義を引き継ぐことが決定した被告に対し,同講義にお
いて使用する教科書を,原告及び被告の執筆により出版することを提案
し,具体的に,①その教科書は,理論も制度も現在抱えている租税問題
も,全体がその一冊でわかるような初学者向けの租税論の教科書とする
こと,②講義ノートを作成する際に,一緒に原稿も書いておくこと,③
平成11年3月までに脱稿し,同年6月には出版し,学生らの前期試験
に間に合わせるようにすること,④Cの指定する複数の本をいわゆる種
本として原稿を書くこと,⑤同人が,税務経理協会に出版の段取りをつ
けることを指示又は提案した。
,,,,原告及び被告は上記指示を受けてCとともに共同で目次を作り
分担箇所を決め,原稿作りに取りかかったが,同人の構想,つまり,共
著のコンセプトは,初学者向けの教科書であって,原理・原則・定説を
わかりやすく説くというものであったから,そこに学者としての原告,
被告が,内容・思想上の独創性を挿入させる余地はなかった。
(イ)Cによるベース本の指定,構成,文章スタイルの指定
Cは,共著作成に当たり,原告及び被告に,乙1ないし4文献,及び
,「」(,乙6文献並びに図説日本の財政平成10年度版増井喜一郎編
東洋経済新報社発行乙5乙5文献をベース種本にして原稿を)(,)()
書くように指示した。
これらは,財政学,租税を専門とする人間にとってのいわば公共財の
ようなものであり,書かれている内容は,租税・財政学における大原則
・大前提ばかりである。
そして,Cは,教科書の前段には理論として,乙6文献の第Ⅰ部のも
,,,,のを載せること後段は主に乙12文献をいわゆる種本にすること
構成は,目次の表記の仕方がすっきりしている乙6文献をモデルにする
こと,全B5版(35文字×28行)で,250頁から300頁以内に
することなど,共著の全体構造につき,詳細に原告及び被告に指示を出
,,,,,しまた教科書の難易レベルは乙4文献レベルで書くこと文体は
乙3文献で統一し,丁寧語で初心者に語りかけるものにすること,テク
ニカルタームを必ず原告被告間で統一することなど,共著の具体的表現
方法にも指示を出した。原告及び被告は,かかる指示に従って原稿を作
成していった。
また,上記種本としては,Cが指定した6冊のほかにも推薦本として
同人が指定したものがある。
(ウ)その他Cの詳細な関与
原告及び被告は,更に数度にわたる打合せ等を重ね,共著の原稿作成
が,Cの極めて具体的かつ丁寧な関与・指導の下で行われていった。
例えば,原告及び被告が,各自の原稿を持ち寄った平成11年8月1
,,。,0日の打合せの席においてCは以下のような指導をしたすなわち
①「第5章の包括的所得概念の説明のところに,例の『彼らの名前を取
ってヘイク=サイモンズの所得概念と呼ばれますと名前程度は入れよ。』
うA君のところにはよく外国人名が出てくるからしかしA君は外。。,,(
国人の名前を)出しすぎだよ,削れ。それとY=ΔW+Cの算式を1行
だけ入れる。よし,包括的所得概念の説明はこれでいいと,②「租税。」
原則が2人とも抜けているな。2章の頭で入れようか。ワグナーは9原
則あるけれど項目名の紹介だけ入れよう『日本の税制』19ページの図
を使って,③「第3章の所得効果と代替効果(原告原稿担当)と第5。」
章の累進税と労働意欲(被告原稿担当)が内容的にダブっている。どう
調整しようか。第3章の簡素な税(原告原稿担当)と第10章の税制改
革(被告原稿担当)が簡素な税でダブっている。このダブりはこのまま
で問題ない。第6章の支出税(原告原稿担当)と第10章の諸外国の税
制改革(被告原稿担当)がダブっている。ここは6章を縮める。第10
章の税制改革(被告原稿担当)と第8章の地方税(原告原稿担当)がシ
ャウプ勧告地方税改革と地租でダブっている。8章を縮小し,主体は1
0章にする。第8章の地方税(原告原稿担当)と第7章の資産課税(被
告原稿担当)が固定資産税でダブっている。7章を縮める,④「テク。」
ニカルタームを統一しよう,学生が迷うよ。制限的所得概念と所得源泉
説はどちらがよく使われる用語かな図説日本の税制はどっちを使っ。『』
ているかな。そうか,所得源泉説か。テクニカルタームの英語は本文か
らはすべて省くことに統一しよう,⑤「資産課税(被告原稿担当)の。」
全体像を図で入れたいんだ。何か参考の本があれば鳥瞰図に整理して。
資産課税はどんな税を範疇にしているのかが分かればいい。そして『こ
の章ではそのうち国税体系に入る相続税と贈与税と取り上げて説明しま
しょうとして説明に入る僕は図で見てみたい気がするなあこの。』。。」(
発言後,原告が「こういう図を何かで見ました。確か米原さんの『はじ
めての財政学』だったと思いますが」と言って,被告にメモで図を渡し
た,⑥「第1章(原告原稿担当)を序章とするか,イントロダクショ。)
ンとするかどっちがいいだろうかこの発言を受け被告がイン,」,(,,「
トロダクションの方が初心者らしい語感があっていいと思いますが」と
返答した「そうか,洋食で行くか,そうしよう」などである。。),。
(エ)以上のとおり入門教科書である共著はCの発意によって制作が始,,
,,,,,,,,まり完成に至るまで構成目次内容文体量使用する文献等
同人の深い関与を受け,誕生したものである。つまり,同書制作の過程
は,Cが同書を通じ,弟子である原告及び被告を育てようとした過程そ
のものなのである。
入門教科書という共著の内容的性質,Cによる構成,分量,内容,文
体及び量の指示,並びにベースとすべき種本の存在が,共著の内容・形
式を決定付けたのである。すなわち,共著の内容は,何ら,原告及び被
告による創作的なものとなる余地などなく,表現方法においても,種本
の存在,Cの詳細な関与・指示の結果,そう表現するよりほかはない,
というほどに不可避的なものであり,そこに原告独自の創造性が入り込
む余地はなかったのである。
また,共著の執筆においては,原告の担当部分に,被告もアイデア・
意見を提供し,その逆も行うなど相互に関与し合って制作し合ったもの
,。であるから各執筆者がその分担部分を独立して執筆したものではない
イ原告各表現と被告各表現の同一性又は類似性
平成15年度の新学期を迎えるに当たり,被告は,教科書として使用す
る共著の発注を税務経理協会に求めたが不良品を含めて在庫がほとんど,「
ありません。A先生にはその旨を以前にお知らせしてあるのですが,返答
をいただけてないのです」との回答を得た。。
共著を新学期における教科書として引き続き使用することを予定してい
た被告は,この回答に困惑し,共著の実質的制作者であるCに,在庫が切
れていること,原告がそのことを承知で再版発行を承諾せずに放置をして
いることを報告・相談したこの際Cから単著でお出しなさい書籍。,,「,
名も授業名のとおり租税論としなさいと指導を受けた被告は共著の。」。,
実質的制作者であるCの了承を得た以上,そして新学期まで時期的に切迫
していたという事情があったことから,迷うことなく新著の制作に取りか
かった。
以上の経緯で作成されたのが,本件書籍である。同書籍は,共著同様に
講義のために作成された教科書であり,ベースとした本も同じであり,被
告が記録していた共著作成時のCの具体的指示に従い作成されたものであ
って,その性質上,内容・表現が共著に似ているのはいわば必然である。
原告各表現と被告各表現の同一性又は類似性についての主張は,別紙対照
表2「被告の主張」欄の各部分に係る「同一性又は類似性」記載のとおり
である。
ウ依拠性
依拠性に関する原告の主張は否認する。
エ故意又は過失
本件書籍は,上記イ記載の経緯により作成されたのであり,それによれ
,,,ば被告において原告の著作権を侵害するという意識があるはずもなく
したがって,故意・過失もない。
オまとめ
原告は,被告各表現は,原告各表現の翻案・複製であると主張する。し
かし,共著(本件著作物)又は原告各表現は,そもそも著作物ではないの
だから,その翻案・複製など観念できない。
また「表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分におい,
て,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たら
ない」ところ,原告各表現と被告各表現との類似性は,原理・原則・定説
が述べられているという表現それ自体でない部分におけるものである。仮
に,表現上類似している点があったとしても,それは,本件書籍及び本件
著作物が,共通のコンセプト,共通の多数の種本,共通のCによる文体・
分量・用語使用等の詳細な指示・指導という多数の共通条件の下で作成さ
れたものである以上,不可避的に採用された表現であって,したがって,
「創作性のない部分」にほかならない。
以上のとおり,共著中の本件著作物は,種本等に基づくものであり,そ
の内容・表現に創作性はないが,仮に,本件著作物又は原告各表現に創作
性が認められたとしても,本件書籍及び被告各表現は,本件著作物の翻案
・複製に当たるものではない。
(2)争点2(原告の損害額はいくらか)について
(原告の主張)
被告の行為により原告が受けた損害は,次のとおりである。
ア財産上の損害
本件書籍の定価は,1部3200円(税別)であり,発行部数は,15
00部であった。
,,原告が本件著作物に関する著作権の行使により受けるべき金銭の額は
出版部数を基準とし,印税率を10%,共著のため印税を等分するとすれ
ば,
3,200円×1,500×0.1×0.5=240,000円
となり,これを原告の財産上の損害として請求する。
イ精神的損害
原告は,被告による著作者人格権(氏名表示権)侵害行為により精神的
損害を被った。原告の研究者としての地位,被告の研究者としての地位,
被告による原告の著作者人格権侵害の程度,侵害を生ずるに至った経緯,
故意又は過失の程度及びその態様等を総合すれば,その損害を慰謝すべき
額は,100万円を下らない。
ウ弁護士費用
被告の著作権(複製権又は翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権)侵
害行為の結果,原告は,やむなく弁護士に依頼して本件訴訟を提起し,弁
護士報酬として60万円の支払を余儀なくされ,同額の損害を被った。こ
れは,被告の上記行為と相当因果関係にある損害である。
(被告の反論)
共著は,創作性がなく,原告の著作物ではないのであるから,原告におい
て,著作権(複製権又は翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権)侵害によ
る損害の発生など観念できない。
(3)争点3(謝罪広告の要否)について
(原告の主張)
アこれまで述べた各諸事情を考慮すれば,原告が著作者であることを確保
し,原告の財政学,租税論の研究者としての名誉信用の回復を図るために
は,被告名での謝罪広告を行うことが必要である。
特に,被告には,自身の著作権・著作者人格権侵害行為の重大性・悪質
性についての認識が全くなく,訴訟提起前から現在に至るまで,原告の行
為を非難し挑戦的な態度を取り続けている甲6の3乙68など被,(,)。
告による著作者人格権侵害等を認めた判決が確定したとしても,被告が,
今後いかなる言動に出るかは予断を許さないものであるから,原告が著作
者であることを確保するための適当な措置として,謝罪広告の掲載が認め
られるべきである。
イ被告の反論に対する再反論
(ア)被告は共著には経済学者としての原告の人格が化体されていない,,
と主張する。
しかし,租税論の原理・原則・定説等を内容とする初心者用の入門的
教科書であっても,また,そのような教科書であればこそ,初学者の興
味を引き,理解しやすいよう,適切な例を用い,文章の順序や運びにつ
いて創意工夫を凝らす必要がある。このような創意工夫により,著作者
の個性的特徴,ひいてはその人格が顕現された優れた教科書が創作され
得るのである。
(イ)被告は本件書籍の実売部数発行元による回収本件書籍と謝罪広,,,
告の掲載を求める月刊誌「税務通信」との購読者層及び発行部数の差異
等について主張する。
,,,しかし本件書籍の実売部数1137部は未だ回収されてはおらず
。,,,販売されたまま残っているまた被告は本件書籍の購読者について
そのほとんどが被告の授業を受ける青山学院大学の学生であると主張す
るが実際の受講者が600名超であるとして乙68この受講者す,(),
べてが本件書籍を購入したとしても,約500部が被告の授業を受ける
学生以外の手に渡って残っているのであるこれらは当該専門分野財。,(
政学,租税学)の大学教員や関係者により購買され,また,多くの図書
館により購入され,所蔵されているものと思われる。
このように,本件書籍と「税経通信」との間には購買者層に著しい乖
離があるとの被告主張は誤りであり税経通信と本件書籍の実売部数,「」
を単純に比較しても意味がない。原告は,むしろ全国紙などのような発
行部数が多い媒体を避け,発行部数が比較的限定されており,かつ,本
件書籍の発行と関係のある税務経理協会発行の同誌を選択したものであ
る。
(ウ)被告は本件書籍を出版するきっかけとなった事情を主張するがか,,
かる事情は,謝罪広告の掲載の必要性を否定する根拠としては,全く意
味がない。なお,そこで,主張されている事情が事実と相違することは
前記のとおりである。
(エ)本件書籍に関し原告と税務経理協会との間で和解が成立し税務経,,
理協会が,別紙広告目録2記載の条件及び内容で,広告を掲載すること
が合意された。
しかし,同広告は,原告が,訴訟提起時に税務経理協会に対して求め
ていたものとは相当に異なるし,原告が被告に対して求めている謝罪広
告(前記「第1請求」の3)とは,内容,表現において異なる。
(オ)また被告が本件訴訟外において原告の本件著作物についての著作,,
権を否定する発言をしているかどうかは,謝罪広告の要否とは関係しな
いし,被告の受ける不利益は,被告自身の著作者人格権侵害行為による
ものであって,謝罪広告の掲載によるものではない。
(被告の主張)
仮に本件著作物に創作性が認められ,被告の原告に対する著作権侵害・著
作者人格権侵害の事実が認定されたとしても,謝罪広告は認められるべきで
はない。
ア本件著作物及び本件書籍は,教科書,しかも初心者向けのものである。
つまり,経済学者であるところの原告や被告が,その独自の見解や主張,
すなわち,独創性を発揮し得るたぐいの書籍ではなく,むしろ,経済学を
学ぶ者すべてにとっての共通認識を紹介する書籍であり,経済学者として
の原告の人格が化体されているものではないのである。このことは,Cの
発案,指導,多くの指定種本の存在等から明らかである。
イさらに,本件書籍の実売部数は,1137部であり,この実売された分
及び回収不能であった見本等を除いては,すべて税務経理協会において早
(),期原告からのクレーム発生直後の平成16年夏ころに回収済みであり
流通されなくなって久しい。しかも,上記実売分の購読者のほとんどが,
被告の授業を受ける大学の学生であり,教科書という特性上,それ以上に
流布していくたぐいのものでもない。したがって,原告の社会的名誉・声
望が害されたとまで認められないものである。
これに対し,原告が謝罪広告の掲載を求める月刊誌「税務通信」は,発
行部数月刊3万5千部もあり,多くの経済学関係者が定期購読している。
上記本件書籍の実売数と余りに差があるとともに,同書籍の購買者層と広
告を読むであろう読者層にも著しい乖離がある。そのような雑誌に,原告
の名誉回復をするための手段として,金銭賠償に加え,謝罪広告を掲載す
る必要性は認められない。
ウそもそも,被告が本件書籍を出版するきっかけとなったのは,共著が在
庫切れで,増刷予定もなく,教科書として共著を今後も使用しようとして
いた被告にとって,切迫していた状況が存在したからである。しかも,原
告は,税務経理協会からの在庫切れの連絡を,被告より先に受けていたに
,,。,もかかわらずこれにつき何らの対応もせず放置したのである被告が
原告のこの放置ぶりを出版社から聞くに及び原告は動かない自分の側,「,
だけで何とかしなければ」と考えたとしても,致し方ない状況であったの
である。被告は,このような状況をCに報告し相談したが,そのときの回
答は単著でお出しなさい書名は租税論でいいあれはいいタイト,「。『』。
ルだというものであったこの言葉を聞いた被告はそれに従い本件書。」。,
籍を書いた。
確かに,被告は,直接,先輩に当たる原告に断りを入れてはおらず,そ
のことは被告の注意不足として責められるべきことであるとしても,上記
切迫した状況,原告の放置,恩師の指示からすれば,上記注意不足は悪質
なものとはいえないはずである。
エ本件著作物は,前記のように,平成16年夏の時点で書店等から回収済
みであり,回復措置は一定程度執られている。また,原告と税務経理協会
との和解において,別紙広告目録2記載のとおりの広告が掲載されるので
あって,十分な原状回復措置がなされることが予定されており,これに加
え,金銭賠償のほかに,あえて被告に対し,謝罪広告を求める必要性はな
い。
オ被告は,本件訴訟において,本件著作物の創作性について争ってはきた
が,訴訟外の社会的場において,原告の本件著作物における著作権を否定
するような発言は一切しておらず,その意味でも被告に謝罪広告を掲載さ
せる必要性はない。
以上に対して,被告名義の謝罪広告が掲載されれば,被告は失職するの
であり乙68受ける不利益は余りに大きすぎる本件書籍の発表・出(),。
版経緯に,上記不利益を受けるほどの悪質性が被告に認められないのは前
記のとおりであり,謝罪広告を掲載する許容性に欠けることは明らかであ
る。
第3当裁判所の判断
1争点1(著作権(複製権又は翻案権)侵害及び著作者人格権(氏名表示権)
侵害の有無並びに被告の故意・過失の有無)について
⑴本件著作物の著作物性
ア被告は,本件著作物には全体として著作物性がないと主張するので,こ
の点について検討する。
被告は,本件著作物に著作物性がないとする根拠として,本件著作物を
含む共著は,原告及び被告共通の指導教授であるCの発案により,租税論
における原理・原則・定説をわかりやすく解説するための初学者用の教科
書として制作されたものであること,また,執筆に当たり,全体構造,ペ
ージ数,ベースとすべき複数の文献の指定,使用する用語,文体等に至る
まで逐一詳細に同人の指導・指示を受けて作成されたものであることを挙
げ,これらのことからすれば,本件著作物には内容上の創作性がなく,そ
の表現の具体的形式も不可避的に選択されたものであって創作性がないと
主張する。
イしかしながら,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するも
のであるから著作権法2条1項1号対象となる書籍などについて著作(),
,,物性を肯定するためには表現それ自体において創作性が発現されること
すなわち,表現上の創作性を有することが必要とされるものである。そし
て,表現上の創作性とは,独創性を有することまでは要せず,著作者の何
らかの個性が発揮されていることで足りると解すべきであるが,創作物が
言語によるものである場合,アイディアと一体となった表現や,表現形式
が制約されている表現,平凡かつありふれた表現などにおいては,筆者の
個性が発揮されているということは困難であり,創作的な表現であるとい
うことはできない。
そして,既に明らかとされている原理・原則・定説を解説する場合につ
いても,これをどのような文言,形式を用いて表現するかは,各人の個性
に応じて異なり得ることは当然である。したがって,原理・原則・定説を
内容とする租税論の入門的教科書であっても,わかりやすい例を用い,文
章の順序・運びに創意工夫を凝らすことにより,創作性を有する表現を行
うことは可能であり,記述中に公知の事実等を内容とする部分が存在する
としても,これをもって直ちに創作性を欠くということはできず,その具
体的表現に創作性が認められる限り,著作物性を肯定すべきものと解する
のが相当である。
また,共著の執筆が,Cの発案によるものであることに加えて,Cが,
被告の主張するとおり,ページ数,参考とすべき文献についての指導,使
,,用する用語文体等についての逐一詳細な指導・指示等を行ったとしても
実際に執筆する原告(及び被告)の具体的な表現が,一義的に決定される
というものではないから,これらにより,本件著作物の表現の具体的形式
が不可避的に選択されたものであるとか,あるいは,原告個人の個性が表
れていない,などということはできない。
なお,被告は,共著の実質的な制作者がCであると主張し,あるいは,
共著の執筆において,相互にアイディア・意見を提供したものであり,本
件著作物が原告の単独著作物であることを否定するかのような主張もする
が,Cの指導・指示に関する被告の主張によっても,具体的表現を行って
いない同人が,本件著作物の著作者であるとは到底評価することができな
,,いし本件著作物の執筆についての被告の関与の具体的な主張立証はなく
被告の主張は採用できない。
ウ以上からすれば,本件著作物を含む共著全体について,創作性がないと
の被告の主張は採用することができない。
(2)原告各表現の著作物性,原告各表現と被告各表現の同一性及び依拠性
上記⑴のとおり,本件著作物が全体として著作物性がないということはで
きないから,原告が,被告各表現において複製ないし翻案されたと主張する
原告各表現についての著作物性及び原告各表現と被告各表現の同一性につい
て,以下,検討する。
ア原告各表現の著作物性
著作物性を肯定するために要求される創作性は,上記⑴のとおり,独創
性を有することまでは要せず,著作者の何らかの個性が発揮されているこ
とで足りると解すべきであるが,創作物が言語によるものである場合,ア
イディアと一体となった表現,表現形式が制約されている表現,平凡かつ
ありふれた表現などについては,筆者の個性が発揮されているということ
は困難であり,創作的な表現であるとはいえない場合があると解される。
イ原告各表現と被告各表現の同一性
著作物の複製(著作権法21条,2条1項15号)とは,既存の著作物
に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することを
いう最高裁昭和50年(オ)第324号同53年9月7日第一小法廷判決・(
)。,(),民集32巻6号1145頁参照また著作物の翻案同法27条とは
既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持
しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情
を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上
の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為を
いう(最高裁平成11年()第922号同13年6月28日第一小法廷判受
決・民集55巻4号837頁参照。)
そして,著作権法は,前記のとおり,思想又は感情の創作的な表現を保
護するものであるから,既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思
想,感情若しくはアイディア,事実若しくは事件など表現それ自体でない
部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有
するにすぎない場合には,既存の著作物の複製及び翻案に当たらないと解
するのが相当である(前記平成13年最高裁判決。)
ウ依拠性
原告各表現と被告各表現の同一性が認められる場合に,それらが酷似し
ていたり,既に発行されている文献等に現れないものがそのまま使用され
ていたりするときは,上記第2,1(前提となる事実等)⑴における共著
の出版の経緯や,被告が,共著の再版ができないために,急遽,学生向け
教科書として本件書籍を執筆した旨主張していることなども併せ考慮する
と,被告各表現は,原告各表現に依拠して再製されたというべきである。
エ判断
以上を踏まえて,原告各表現の著作物性,原告表現と被告各表現の同一
性及び依拠性について検討すると,別紙対照表2「当裁判所の判断」記載
のとおり認められる。
⑶被告の故意・過失の有無
上記第2,1(前提となる事実等)⑴及び⑵の原告及び被告による共著の
作成の経緯や被告による本件書籍の執筆の経緯並びに上記⑵において認定し
た原告各表現と被告各表現との同一性の状況からすれば,被告には,原告の
著作権を侵害したことについて,少なくとも過失があるというべきである。
被告は,共著を教科書として使用することを予定していた新学期の開始を
間近に控えた段階で,原告の了承が得られないために共著の再版ができない
ことを知り,対応について相談したCから,被告単独の著作物として出版す
べきであるとの指導を受けて,本件書籍を執筆したのであり,原告の著作権
を侵害する意識もなく,過失も認められない旨主張するが,上記認定に照ら
し,被告が指摘する事情が存するとしてもこれらによって被告の過失が失わ
れると解することはできないから,被告の上記主張を採用することはできな
い。
⑷著作者人格権侵害
上記複製権侵害が認められる部分の被告各表現には,原告の氏名が表示さ
れていないから,同部分について,原告の氏名表示権の侵害が認められ,被
告は,上記⑶と同様の事情から,同侵害について,少なくとも過失があると
認められる。
⑸小括
そうすると本件書籍を複製し頒布する被告の行為は別紙対照表2裁,,,「
判所の判断」欄で認めた部分において,原告の本件著作物についての複製権
及び氏名表示権を侵害する行為に該当する。
そして,原告は,本件書籍の複製等の差止めを請求しているところ,本件
書籍中の同部分のみを分離することはできないから,同部分を含む本件書籍
全体について,その複製等の差止めを認容するのが相当である。
さらに,上記⑶及び⑷のとおり,被告には,原告の本件著作物における著
作権及び著作者人格権に対する侵害について,少なくとも過失があるという
べきであるから,民法709条に基づき,原告に生じた損害を賠償すべき義
務がある。
2争点2(原告の損害額はいくらか)について
(1)財産的損害について
本件書籍についてその定価は1部3200円税別発行部数は1,,(),,
500部であったことが認められる(弁論の全趣旨。)
また,本件書籍の使用料相当額は,上記定価の10パーセントと認めるの
が相当である。
さらに,本件書籍中,原告の本件著作物についての著作権を侵害するのは
別紙対照表2「裁判所の判断」欄で認めた部分であり,同部分の合計は行数
にして1084行である。本件書籍の1頁当たり行数は28行であるが,図
表,表題及び空白部分などを考慮し,1頁当たり20行として同部分を頁数
に直すと約54頁となる。本件書籍の本文の総頁数は291頁であるから,
総頁に対する侵害部分の頁数の割合を乗ずることとする。
そうすると,原告が被った財産上の損害は,8万9072円となる。
3,200円×1,500部×0.1×54/291≒89,072円
(2)精神的損害
被告による侵害の態様その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると,
氏名表示権の侵害に基づく慰謝料は,本件書籍の侵害部分1か所につき2万
円と認めるのが相当である。
本件書籍中,原告の氏名表示権を侵害するのは別紙対照表2「裁判所の判
断」欄で認めた61か所であるから,原告が被った精神的損害は,122万
円となる。
20,000円×61か所=1,220,000円
したがって,被告による氏名表示権侵害行為により被った精神的損害を慰
謝すべき額として原告が請求している100万円について,これを認容する
ものとする。
(3)弁護士費用
本件訴訟の性質,経緯その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると,
被告による著作権及び著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費
用は,合計15万円が相当である。
3争点3(謝罪広告の要否)について
著作者は故意又は過失により著作者人格権を侵害した者に対し著作者で,,「
あることを確保するため,又は「訂正その他著作者若しくは実演家の名誉若」,
しくは声望を回復するため」に適当な措置を請求することができ(著作権法1
),「」。15条謝罪広告もこの適当な措置に含まれるものということができる
このうち訂正その他著作者若しくは実演家の名誉若しくは声望を回復するた,「
」,,めに適当な措置を請求する場合の著作者の名誉声望とは著作者がその品性
徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価,すな
わち社会的名誉声望を指すものであって,人が自己自身の人格的価値について
有する主観的な評価すなわち名誉感情は含まれないものと解すべきである最,(
高裁昭和43年(オ)第1357号同45年12月18日第二小法廷判決・民集2
4巻13号2151頁参照。)
本件についてみると,まず,被告には,前記認定のとおり,原告の本件著作
物についての著作者人格権侵害について,少なくとも過失がある。
また,本件書籍中,原告の著作者人格権を侵害すると認められる部分は,前
記のとおり,頁数にして54頁であり,本件書籍の総頁数291頁の2割近く
にも当たること,原告表現と酷似する被告表現も少なくないこと,訴訟提起前
から現在に至るまで,被告は,自己の著作権・著作者人格権侵害行為の重大性
についての認識が乏しい面がうかがわれることなどの事情が認められる。これ
らの事情からすれば,本件において,謝罪広告を,著作者であることを確保す
る等のための適当な措置として認めることも十分考えられるところである。
しかしながら,本件書籍の実売部数が1137部と限られており,本件書籍
が,被告が大学で講義を行う際のテキストとして使用することを主たる目的と
して出版されたこともあって,これを購入したのは,主に,被告の講義の受講
生,財政学・租税学の分野の大学教員や関係者であって,それ以外の一般の購
入者はある程度限定されていると考えられるところ,上記第2,1(前提とな
る事実等(3)のとおり平成19年3月28日の本件弁論準備手続期日におい),
て,原告と税務経理協会の間で,和解が成立し,別紙広告目録2記載の条件及
び内容で,広告を掲載する旨の合意がなされたことにより,上記本件書籍の主
な購入者層と読者層の一部が重複すると認められる月刊誌において,同目録記
載のとおり,本件書籍には,本件著作物との間に,著作権法上の問題があるこ
とが明示されることになったのであるから,本件書籍における原告の著作者人
格権侵害部分について,原告が著作者であることを確保するための手段が既に
講じられているというべきである。また,上記の本件書籍の実売部数等の事情
からすれば,本件書籍によって,原告の社会的名誉声望が害されたとまでいえ
るかは必ずしも明らかでなく,仮に原告の社会的名誉声望の侵害が認められる
としても,著作者である原告の名誉又は声望を回復するための手段が十分講じ
られているというべきである。
したがって税務経理協会による上記広告に加えて著作者であることを確,,「
保するため,又は「訂正その他著作者若しくは実演家の名誉若しくは声望を」,
回復するため」に,更に被告による謝罪広告を行わせる必要があるとは認めら
れず,これを認めることはできない。
第4結論
よって,原告の請求は,被告に対し,著作権法112条1項に基づく本件書
籍の複製又は頒布の差止め,民法709条に基づく損害賠償金123万907
2円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成17年9月17日か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度
で理由があるからこれらを認容し,その余の請求はいずれも理由がないのでこ
れらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官清水節
裁判官山田真紀
裁判官片山信は,転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官清水節
(別紙)
著作物目録
次に掲げる書籍中,第1章,第3章,第4章,第6章,第8章及び第9章
書籍の名称「租税論」
著者名A・B
発行者D
発行所株式会社税務経理協会
発行日平成12年3月15日
(別紙)
書籍目録
書籍の名称「現代租税論−理論・法・制度−」
著者名B
発行者D
発行所株式会社税務経理協会
発行日平成16年5月1日
(別紙)
広告目録1
「謝罪広告」
「私は,書籍『現代租税論−理論・法・制度』を平成16年5月1日,株式会
社税務経理協会から発行しましたが,同書籍中において,私とA氏との共著『租税
論平成12年3月15日株式会社税務経理協会発行中のA氏執筆の同氏の著作』()
物部分を利用することにより,同氏の著作権および著作者人格権を侵害し,同氏に
。,。対し多大の迷惑をお掛けいたしましたよってここに同氏に対し謝罪いたします
B」
(別紙)
広告目録2
税務経理協会は,平成19年6月15日までの間に,同社発行の月刊誌「税経
通信」の「」欄の最終ページ末尾,同ページの幅にわたり設News&Information
けた四角形の枠内に,横書きにより,下記の広告を見出しは12ポイント活字を
もって,本文は10ポイント活字をもって,1回掲載するものとする。

見出し絶版のお知らせ
本文B著「現代租税論−理論・法・制度−(平成16年5月1日発」
行はA・B著租税論平成12年3月15日発行中のA氏執),「」()
筆部分との間に,著作権法上の問題があることが判明したため絶版と
し,A氏にお詫び致します。

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◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

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残り応募人数(2019年5月1日現在)
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