弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
 本件仮処分申請を却下する。
 訴訟費用は申請人の負担とする。
       理   由
一 申請人は「被申請人は、申請人の職種を第一級無線技術士の資格を有する者が
備えている知識を必要とするものにとどめおかねばならず、申請人に対し申請人を
被申請人の技術局技術制作部送信課から技術局放送部に配置転換するとの意思表示
をしてはならない。」との仮処分の裁判を求め、その理由は、要するに、申請人は
第一級無線技術士の資格を有するところ、被申請人との間に同資格を有する者が備
えている知識を必要とする職種に限定して労働契約を締結した。ところが被申請人
は、申請人が承諾もしないのに昭和五一年二月一〇日申請人を同月二〇日付で技術
局技術制作部送信課から技術局放送部に配置転換することを内示した。しかし配転
先は前記労働契約によつて定められた職種外であり、申請人の同意なくして被申請
人はこのような配転命令をなし得ないものである。しかし、このままでは被申請人
は同月二〇日右配転の意思表示をなすことは明らかで、そうすれば申請人はこの命
令を拒否するか、従うかの二者択一を迫られ、前者を選ぶときは業務命令拒否を理
由に解雇が予想され、一旦配転に応ずると、仮処分ないし本案訴訟で勝訴するまで
第一級無線技術士の誇りをないがしろにされる労務に従事せざるを得ず、よつて受
ける精神的屈辱は筆舌に尽し難い。よつて申請人は、前記の労働契約に基き被申請
人に対して、申請人の職種が第一級無線技術士の資格を有する者が備えている知識
を必要とするものであることの確認を求める請求権を有し、右確認請求の本案訴訟
を提起する準備をしているが、前述の事情から一旦本件配転命令がなされると回復
し難い損害を蒙ることになる。よつて、本件申請に及んだというにある。
二 被申請人は「申請人の申請を却下する。申請費用は申請人の負担とする。」と
の裁判を求め、申請の理由に対する答弁として、申請人と被申請人間に成立した労
働契約は申請人の主張するような職種を限定した労働契約ではない。
 すなわち、被申請人が申請人を採用する当時、第一級無線技術士の有資格者を募
集していたところ申請人はこれに応募し、被申請人会社の正規の入社手続を経たう
え就業規則に従つて試用期間六ケ月を経て昭和三七年七月一日社員となつたもので
ある。
 右入社に際し、被申請人と申請人との間で文書による雇用契約を締結したが、そ
の内容は次のとおりである。
 (イ)申請人は、被申請人会社の定める就業規則を承認し、これに従つて就業す
る義務を負う。(ロ)被申請人会社は申請人を就業規則に定める労働条件をもつて
就業させる義務を負う。(ハ)この契約締結後、就業規則の改廃があつた時は、被
申請人会社、申請人ともにそれに従うものとする。
 そして当時の被申請人会社の就業規則第三四条には「社務の都合により、任地の
変更、職種、職場の異動又は社外業務に出向させることがある」と定められてい
る。
 以上のとおり、第一級無線技術士たる資格を採用の条件としたものであるがその
職種を限定して雇用契約を締結したものではない。
 保全の必要性は争う。なお、配転命令の発令前の内示の段階で将来ありうべき配
転命令の意思表示を事前に禁止したり、配転の効力を停止せしめたりする仮処分の
申請は許されないものである。概ね以上のとおり主張した。
三 そこで検討するに、本件仮処分の申請のうち、申請の趣旨前段は具体的配転の
当否には何ら言及していないもので、それだけでは実効を収め得るものではないか
ら、その要点は申請の趣旨後段にあるものと考えられる。そしてそこでは申請人
は、本件労働契約に基き、被申請人は申請人の同意なき限り、申請人に第一級無線
技術士有資格者としての知識を必要とする職種以外の業務に就労することを命ずる
ことを得ず、申請人は同職種以外の業務に従事する義務を負わないという法律関係
を被保全権利として、労働契約で限定合意された右職種の範囲を越える技術局放送
部への配転の意思表示の事前差止めを求めるというにある。
 かりに申請人主張の限定された労働契約の存在を前提とするならば本件疎明によ
つて認められる技術局放送部は第一級無線技術士の知識を要する職場として適当と
はいえないから、申請人の同意なくして同職場へ配転命令がなされたときは前記の
職種を限定された労働契約上の法律関係を被保全権利として右配転命令の効力を停
止し、従前の職場に労働契約の存続することの仮の地位を求めることが可能である
が、本件にあつては疎明によると被申請人は前記放送部へは未だ配転するとの意思
表示はなく、その前段階である内示があつたに過ぎない。そして右内示によつては
申請人の労働契約上の地位には法律的に何らの変動をきたすものではないから、前
記労働契約上の地位にあることの仮の地位を認めることは理論的に困難であるとい
わなければならない。
 そして申請人主張の労働契約の存在を前提としても、申請人が被申請人に対し就
労請求権を有するものとはいえず、現段階で不作為請求権を肯定することもできな
いと解される。
 なお、申請人の主張する被保全権利の構成を配転命令権なる形成権の不存在確認
請求権と理解してみても、一般に形成権の存否を争おうとする者は、形成権行使後
にその形成の効果を争いその無効を前提とする権利関係を主張して争えば足りるの
であるから、形成権の行使前にその不存在を確認の対象とする利益はないと言うべ
きであつて、かかる形成権不存在確認請求権なるものを被保全権利とする本件配転
命令の事前差止めの仮処分申請も認め難いものといわなければならない(この点、
申請人には本件配転命令が発令されればこれを拒否するかこれに従うかの二者択一
を迫られ、拒否すれば被申請人によつて業務命令拒否を理由に解雇されることが予
想されるし、これに従つたうえで本件配転命令の効力停止を求める仮処分を申請し
たり本件配転命令の無効確認訴訟を提起したとしても、その本案判決が確定するま
では不本意な職場で労働しなければならないという事実上の不利益が予想されるこ
とにかんがみ、形成権の存否についての争いが裁判所の判断に適する程度に成熟し
裁判所による即時確定の利益、必要が認められるときには、形成権行使前にその不
存在を訴求することができる、とする見解もあり得ようが、これは民事訴訟理論と
して是認し難いばかりか、仮に右見解を前提にしてみても、本件の場合、配転命令
未発令の現段階において、申請人に対してなされるかも知れない将来の配転命令の
有効無効という紛争の最終的解決に裁判所の判断を求めることが有効適切と言える
程度に前記紛争が成熟しているとは認め難い。)。
 よつて、申請人の職種が被申請人との間の労働契約上の合意によつて、申請人の
主張するようなものに限定されていたか否かを含むその余の点を判断するまでもな
く、本件申請は失当であるから却下せらるべく、民事訴訟法第八九条を適用して主
文のとおり決定する。
(裁判官 岡野重信 中根与志博 榎下義康)

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