弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を左のとおり変更する。
     昭和四二年七月一一日東京都北区長に対する届出によつてした控訴人と
被控訴人との協議離婚は無効であることを確認する。
     控訴人と被控訴人とを離婚する。
     被控訴人は控訴人に対し一〇〇万円および内金七〇万円に対する昭和四
三年一二月六日以降右内金支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払
え。
     控訴人のその余の請求を棄却する。
     訴訴費用は、第一、二審を通じて五分し、その二を控訴人、その余を被
控訴人の各負担とする。
     この判決第三項は、金七〇万円の支払いを命ずる部分に限り仮に執行す
ることができる。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人は控訴人に対し
て金二〇〇万円および内金一〇〇万円に対する昭和四三年一二月六日以降右内金支
払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも
被控訴人の負担とする。」旨の判決および右判決中一〇〇万円の支払いを命ずる部
分につき仮執行の宣言を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の提出、援用および認否は、次に、附
加、補充するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
 一 控訴代理人は、次のように述べた。
 1 控訴人は、被控訴人に対し昭和四三年一月一〇日東京家庭裁判所に協議離婚
無効の調停を申し立てたが、被控訴人が裁判所の数回の呼び出しにも応じないの
で、話し合いの機会がなく、被控訴人は控訴人と同居の意思がなかつたので、控訴
人は、やむをえず、被控訴人との間に婚姻を継続し難い重大な事由があるとして離
婚を請求したのである。
 2 被控訴人は、昭和四三年四月三〇日、Aと婚姻したから、控訴人は、被控訴
人に対し右不貞行為を原因として離婚を請求する。
 3 控訴人は、いわゆる離婚後の扶養を求める趣旨で本件財産分与の請求をする
ものである。なお、婚姻中に当事者双方の協力によつて得た財産はないが、被控訴
人は、時価約二、〇〇〇万に相当する現住土地建物を所有しているほか、給料とし
て、昭和四四年当時で一か月約七万八、〇〇〇円、賞与として同年七月九万九、〇
〇〇円、同年一二月二〇万二、〇〇〇円の収入を得ているものである。
 二、 被控訴人は、次のように述べた。
 1 被控訴人が呼び出しを受けなから、東京家庭裁判所の調停期日に出頭しなか
つたことは認める。
 2 被控訴人が控訴人主張の当時、Aと婚姻したことは認める。
 3 一3の控訴人主張事実のうち、被控訴人が主張の土地建物を所有しているこ
と、被控訴人の昭和四四年当時の収入額が主張のとおりであることはいずれも認め
るが、右土地建物の時価が主張のとおりであることは否認する。右時価は、約一、
〇〇〇万円である。
 三、 証拠(省略)
         理    由
 その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な
公文書と推定すべき甲第一号証の一、原審における証人B(一部)、控訴人本人の
各供述によつて成立を認める乙第一号証、原審における控訴人本人および被控訴本
人(一部)の各供述によれば、控訴人と被控訴人とは、昭和四一年七月五日見合し
て交際したうえ、翌四二年五月一日結婚式を挙げ、東京都北区a町b丁目c番地被
控訴人方において共同生活に入つたこと、控訴人は、被控訴人の承諾のもとに、同
月一三日控訴人と被控訴人との婚姻届を東京都北区長に提出して受理されたことが
認められる。原審における証人B、被控訴本人の各供述中右認定に反する部分は、
原審における控訴人本人の供述に照らして採用することができず、ほかにこれを動
かすだけの証拠はない。
 二、 前顕甲第一号証の一によれば、昭和四二年七月一一日東京都北区長に対し
て控訴人と被控訴人との協議離婚の届出がされた事実を認めることができる。とこ
ろで、甲第二号証(離婚届)の存在に前顕甲第一号証の一、原審における証人B、
同C(一部)、原審および当審における控訴人の各供述ならびに弁論の全趣旨を総
合すれば被控訴人は、肩書住所地の借地上に、兄からの資金援助により旅館を建築
所有していて控訴人にその経営の手伝をさせる予定であつた。控訴人はこのことを
結婚前から被控訴人より告げられていたけれども被控訴人の控訴人に対する態度が
命令的一方的であつて夫婦協力の意向が示されなかつたため控訴人は不満を抱き、
これをその母Bに告げたので昭和四二年五月二四日頃上京したBが被控訴人に対し
連れ込み旅館のような経営を止めてほしいし、普通の旅館にして控訴人との共同経
営にして収益の一部を控訴人にも分けてやつてほしいと要求したので、被控訴人は
これを憤慨しBに帰れといつて追い帰した。そこで控訴人は被控訴人の態度に不満
であつたので何の挨拶をしないでBとともに実家に帰つた。その後両者の間に格別
の話合のなされないままに経過したところから、被控訴人は、控訴人において婚姻
を継続する意思がないものと考え同年七月一一日頃、控訴人の諒解を受けることな
く離婚届に控訴人の氏名を記載し被控訴人方にあつた有合印を押捺して控訴人名義
の部分を偽造し、これを東京都北区長に提出したことが認められる。原審における
証人C、被控訴人本人の各供述中右認定に反する部分は採用することができず、ほ
かにこれを動かすだけの証拠はない。右事実によれば、離婚届が提出された当時控
訴人は被控訴人と離婚する意思もその意思の表明もなかつたのであるから、右届出
は、無効であり、したがつて本件協議離婚の無効確認を求める控訴人の請求は、正
当であるといわなければならない。
 三、 次に被控訴人は前記のとおり昭和四二年七月一一日頃離婚届出をしたので
あるから、これにより婚姻を破壊したことはいうまでもない。そこで、その事情を
更に検討するに原審における控訴人本人(一部)、原審および当審における被控訴
本人の各供述および弁論の全趣旨によれば、昭和四二年五月下旬控訴人の母Bが上
京する頃まで夫婦間に婚姻関係の継続を危くするような格別の風波はなかつたので
あるが、前記のようにBが上京して被控訴人の意に反する発言をすると被控訴人は
出てゆけといつて手を振り上げてBを道路上に追い出し、なお問題解決のため仲人
であるCを交えて話し合いをした際結論を得ないまま途中で打ち切つて、仲人とも
ども母を追い帰したので、控訴人は事態の好転を期待して函館市の実家に帰つたの
であるが、同月二八日頃被控訴人に電話したところ、同人から離婚訴訟を提起する
かも知れないといわれたので、事の意外に驚き、同年六月一日母とともに上京し
て、被控訴人に電話連絡したが面会を拒絶され、次で、同月四、五日頃、Cを介し
被控訴人方に帰りたい旨申し入れたが、これまた被控訴人に拒絶され、新宿区にあ
る控訴人の弟の下宿先に身を寄せ、重ねて、被控訴人に電話したが、被控訴人は、
来てはならないと答えたこと、控訴人はかねて被控訴人からその先妻と協議離婚す
るにあたり出張中別居していた先妻の荷物が盗まれたと聞かされていたところが
ら、控訴人の荷物を東京在住の同人の弟妹方に移すために被控訴人方に立ち寄つた
際、被控訴人に生活費を要求したが要領をえないまま別居生活を続け、遂にやむを
えず昭和四三年一月一〇日東京家庭裁判所に協議離婚無効の調停を申し立てたが、
被控訴人が数回の呼び出しに応じないので同年七月本件離婚無効の訴に及んだこ
と、および被控訴人は、昭和四三年四月三〇日頃からAと結婚し同棲を開始してい
たことが認められる。
 右事実によれば被控訴人が離婚を決意するに至つた動機に控訴人がBとともに実
家に帰つたことが挙げられ、前記のように格別の挨拶をしなかつたことは軽卒の譏
を免れないので控訴人に落ち度がないではないが、婚姻関係の破綻の主たる責任は
被控訴人にあると認めるのが相当であるから、控訴人の離婚請求は民法第七七〇条
第一項第五号に則り理由があるといわなければならない。
 四 そこで、慰籍料および財産分与請求につき判断する。
 1 控訴人は、三に認定したような被控訴人の責に帰すべき所為により婚姻を継
続し難い状態にいたらせられたものであるから、被控訴人は、控訴人に対し、これ
により同女の蒙つた精神上の苦痛に対し慰籍料を支払う義務がある。そして、前記
三に認定した事実に前顕甲第一号証の一、公文書であるから成立を認める甲第一号
証の二、原審における被控訴人、原審および当審におおける控訴人各本人の供述に
よつて認められる、被控訴人は、昭和三年八月五日生れで控訴人との婚姻が再婚で
あり、控訴人が昭和九年三月一五日生れで初婚であること、控訴人が精米および養
鶏業を営むD夫妻の二女で昭和二七年高校卒業後昭和三八年六月から全販連東京青
果事務所に勤務しているうち東京都結婚相談所を介して、当時大学を卒業し、専売
公社に公社員として勤務していた被控訴人と知りあつたものであること、控訴人が
前認定のような事情で夫婦共同生活僅か二十数日で破婚の憂き目を見るに至つたこ
とおよび本件離婚請求に至るまでのいきさつを斟酌するとその慰籍料の額は金七〇
万円をもつて相当と考える。
 <要旨>2 次に、離婚に伴う財産分与は、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同
の財産を清算分配し、かつ、離婚後における一方の当事者の生計の維持をは
かることを目的とするものであると解するのが相当である(最高裁昭和四三年
(オ)第一四二号同四六年七月二三日判決裁判所時報五七六号一頁参照)。
 ところが、その方式および趣旨により公務員とみなされる者が作成したものと認
められるから真正な公文書と推定すべき甲第三号証の一、二、その方式および趣旨
により公務員が作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第四号
証の一ないし五、同第五号証の一ないし三、原審における被控訴本人、原審および
当審における控訴人本人の各供述ならびに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認め
られる。すなわち、(一)被控訴人は、埼玉県川口市d町e丁目f番g宅地一五
六・五七平方メートルおよびその地上の家屋番号h番の二コンクリートブロック造
陸屋根二階建居宅一棟床面積一階一〇三・五三平方メートル、二階一〇五・一八平
方メートルの被控訴人所有家屋など時価一、〇〇〇万円を超える資産を有し、右所
有家屋およびその敷地には、専売共済組合を債権者とする自らの債務のため債権額
二一〇万円の一番抵当権および東京労働金庫を債権者とする自らの債務のため債権
額三〇〇万円の二番抵当権が設定されているが、被控訴人は昭和四四年一一月当時
で毎月七万八、一九七円の給料のほか、同年七月九万九、三〇八円、同年一二月二
〇万二、九九四円の賞与その後これを上廻る給与を得ているのに対し、控訴人は、
嫁入り道具のほかみるべき財産はなく、同年四月以降タイピスト見習としてそれま
で経験のなかつたタイプライテイングをはじめ、昭和四六年六月当時で毎月手取り
三万六、七〇〇円の収入を得、アパート代を支払つて自活していること、(二)被
控訴人の前記不動産は、控訴人の協力によつて得たものではないこと、右の事実を
認めることができ、(三)なお、前叙のとおりの生年月日から推せば、控訴人の再
婚には困難が伴い、中年から開始したタイプライター技術の修得に相当長期間の訓
練期間を必要とするのはみやすいところであるから、これらの事実に前記慰籍料額
を参酌すれば、被控訴人は、控訴人に対し、その扶養のための財産分与として金三
〇万円を支払うのが相当である。
 五 してみれば、被控訴人に対し、昭和四二年七月一一日東京都北区長に対する
届出によつてした控訴人と被控訴人との協議離婚の無効確認および控訴人と被控訴
人との離婚にあわせ慰籍料として金七〇万円およびこれに対する不法行為ののちで
あること明らかな昭和四三年一二月六日以降支払いずみに至るまで民法所定年五分
の割合による遅延損害金ならびに財産分与として三〇万円の支払いを求める限度に
おいて、控訴人の請求は正当であるからこれを認容しうるが、その余は失当である
からこれを棄却すべく、右と趣旨を異にするかぎりにおいて、原判決は不当であつ
て本件控訴は理由があり、原判決中その余は相当であつてこれに対するかぎり本件
控訴は理由がないから、民訴法三八四条、三八六条を適用して原判決を主文第一な
いし五項のとおり変更し、訴訴費用の負担につき同法八九条九二条九六条を、慰籍
料七〇万円の支払いを命ずる部分に関する仮執行宣言につき同法一九六条一、三項
をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 西川美数 裁判官 園部秀信 裁判官 森綱郎)

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