弁護士法人ITJ法律事務所

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平成29年2月28日宣告
平成28年944号殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
判決
主文
被告人を懲役14年6か月に処する。
未決勾留日数中90日を刑に算入する。
押収してある折りたたみ式ナイフ1本(平成29年押第6号の1)を没収
する。
理由
(犯罪事実)
第1被告人は,平成26年6月頃,芸能活動をしていたA(以下「被害者」とい
う。)の存在を知り,平成27年頃から被害者の出演する舞台を複数回見に
行き,花や本等のプレゼントを渡していた。被告人は,被害者に恋愛感情を
抱くようになり,平成28年1月17日,被害者がシンガーソングライター
として出演するライブに行き,誕生石付きの腕時計と本3冊を被害者にプレ
ゼントとして手渡した。その後,被告人は,被害者のツイッターにプレゼン
トが要らないのであれば返してほしいとの書き込みをしたが,同年4月28
日に実際に腕時計等が被害者から返送されてくると,自尊心が傷つけられた
と感じて怒りを覚え,被害者のツイッターやブログなどに被害者を罵倒する
ような言葉を書き込んだところ,被害者にツイッターやブログへの書き込み
のほか,ツイッターについては閲覧もできなくなる措置を講じられ,逆恨み
してさらに怒りを募らせていった。被告人は,同年5月14日,被害者のブ
ログを閲覧して同月21日に東京都小金井市で開催されるライブに被害者が
出演することを知り,ライブの日に被害者に接触を図って腕時計等を返送し
た理由等について問いただそうと考えるとともに,被害者に相手にされなか
った場合には被害者を殺害してしまおうと考えるに至り,インターネット通
信販売で折りたたみ式ナイフ(平成29年押第6号の1)を購入した。
被告人は,同月21日,ライブ会場の最寄駅付近で被害者を待ち受け,や
って来た被害者に「話できますか。」などと声を掛け,被害者がこれを拒絶
したにもかかわらず,なおも食い下がりライブ会場付近まで被害者を追従し
た。被害者は,このような被告人の態度を受けて,携帯電話機で110番に
発信するとともに,被告人に対し開演前なので関係者以外立入禁止であると
告げた上でライブ会場に入ろうとした。被告人は,被害者から話合いを拒絶
されたと悟り,絶望,憤激して,同日午後5時5分頃,東京都小金井市a町
b丁目c番d号e内において,被害者(当時20歳)に対し,殺意をもって,
持っていた上記折りたたみ式ナイフ(刃体の長さ約8.4センチメートル)
で,その頸部,胸部,背部等を多数回突き刺すなどしたが,被害者に入院加
療約107日間を要する頸部刺創による内頸静脈損傷,前頸静脈損傷及び顔
面動脈損傷並びに胸部及び背部刺創による右肺損傷,全治不明の右頸部刺創
による口輪筋力低下及び右舌下神経麻痺等,出血性ショックによる低血圧等
に基づく左同名半盲等並びに心的外傷後ストレス障害の傷害を負わせたにと
どまり,殺害の目的を遂げなかった。
第2被告人は,業務その他正当な理由による場合でないのに,平成28年5月2
1日午後5時5分頃,前記e内において,前記折りたたみ式ナイフ1本を携
帯した。
(事実認定の補足説明)
1被告人は,最終陳述において殺意を否認するが,前記折りたたみ式ナイフ
(以下「本件ナイフ」という。)という鋭利な刃物で,被害者の首や胸等の
身体の枢要部を多数回突き刺したものであり,このような犯行態様からは,
犯行時に殺意があったことは明らかである。また,殺意の発生時期と計画性
の有無について検察官と弁護人との間で争いがあるため,前記のとおり認定
した理由を以下補足して説明する。
2関係各証拠によれば,被告人は,平成28年4月28日の時点で,被害者か
ら腕時計等のプレゼントを返送されたことで怒りを覚え,被害者にツイッタ
ーやブログへの書き込みや,ツイッターについては閲覧もできなくなる措置
を講じられたことでさらに怒りを募らせていたこと,同年5月14日に,被
害者が同月21日にライブイベントに出演することを知り,腕時計等を返送
した理由を問いただすために被害者に会うことを決めた後,本件ナイフを購
入したことが認められる。これらの事情からすれば,被告人が,同月21日
に,ライブに出演する被害者との接触を試み,被害者が話合いに応じない態
度をとった場合には,被害者を殺害する意図を有していたと認めることがで
きる。また,被告人が,同日,犯行現場近くのコンビニエンスストアで,バ
ッグの中に入れておいた本件ナイフをズボンのポケットに移し替え,被害者
との話合いがかなわないと分かるや躊躇なく本件ナイフを使用して被害者に
襲い掛かっている点も,被告人が被害者を殺害するために本件ナイフを購入
したことを裏付けるものといえる。さらに,被告人は,捜査段階においても,
平成28年5月14日の時点で,同月21日のライブで被害者に接触し,被
害者が腕時計等を返送した理由を話してくれないなど,被害者の態度によっ
ては最終手段として被害者を殺害しようと考え,本件ナイフを購入したと述
べているところ,公判段階においてこれと供述が大きく変遷した理由も何ら
説明していないことから,上記捜査段階における供述は信用すべきものとい
える。
この点に関し,被告人は,公判期日において,本件ナイフは被告人が被害
者と話合いをする際の精神的な支えとなるお守りのようなものとして購入し
たにすぎないと供述する。しかし,被害者と話をするために本件ナイフが精
神的支えになる理由について合理的な説明は全くなく,本件犯行直前にバッ
グの中からわざわざズボンのポケットに移し替えていることとも整合しない
ものであって,被告人の上記公判供述は信用できない。また,弁護人は,被
告人が本件犯行後に119番通報していることをもって計画性はなかったと
主張するが,犯行を終えた後に119番通報したからといって,計画性があ
ることと矛盾するものではないから,かかる事情をもって上記認定は左右さ
れない。
3以上のとおり,平成28年5月14日の時点において,条件付きではあるが,
被告人が被害者に殺意を抱き,実行する際の凶器として本件ナイフを購入し
ていたことが認められ,本件犯行に一定の計画性があったといえる。
(法令の適用)
罰条
第1の行為刑法203条,199条
第2の行為銃砲刀剣類所持等取締法31条の18第3号,22条
刑種の選択第1の罪につき有期懲役刑,第2の罪につき懲役刑
併合罪の加重刑法45条前段,47条本文,10条(重い第1の罪の刑
に刑法47条ただし書の制限内で加重)
未決勾留日数の算入刑法21条
没収刑法19条1項2号,2項本文(主文掲記のナイフは第1
の犯罪行為の用に供した物で,被告人以外の者に属しな
い。)
訴訟費用の不負担刑訴法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1本件は,①芸能活動をしていた被害者に恋愛感情を抱いていた被告人が,手渡
したプレゼントを返送した理由を被害者に問いただそうとしたが,相手にされず
拒絶されたことで憤激し,殺意をもって,被害者を折りたたみ式ナイフで多数回
刺し,入院加療約107日間を要する内頸静脈損傷等,全治不明の口輪筋力低下
等及び心的外傷後ストレス障害の傷害を負わせたという殺人未遂,②その際,本
件ナイフを正当な理由なく所持したという銃砲刀剣類所持等取締法違反の事案で
ある。
2まず,犯行態様についてみると,鋭利な折りたたみ式ナイフを使用して,被害
者の背後から急襲し,首や胸,背中など生命維持に不可欠な主要血管や臓器が集
中する部位を,目撃者の制止を無視し,被害者が抵抗できない状態になった後も
執拗に刺し続けるなど,主だったものだけで34箇所もの刺切創を生じさせる多
数回の刺突行為等に及んでいる。その際,被告人は,被害者の頸部の主要静脈に
穴があいたり,右肺に達するほどの強い力で刺突行為を行っている。犯行態様が
危険かつ悪質であったことは,被害者が緊急搬送時,意識レベルが低く,呼吸や
心拍も弱い危険な状態に陥り,緊急手術の末一命をとりとめたものの,出血性シ
ョックで死亡していてもおかしくないような容態であったことからも明らかであ
る。
また,被害者は,約107日間の入院加療が必要な前頸静脈損傷や右肺損傷
等の傷害,全治不明の口輪筋力低下,左同名半盲,左第5指運動障害などの傷害
を負ったほか,心的外傷後ストレス障害により,日常生活に困難をきたしている
など,被害者に与えた影響は深刻で,結果は重大である。
前記のとおり,本件犯行は一定の計画性をもって行われたものであるし,態
様の執拗性等からすれば,殺意は非常に強固なものであったというべきである。
被告人は,芸能活動を行っている被害者のファンという立場を超えて,一方的に
被害者に恋愛感情を抱き,その思いが受け入れられず,プレゼントを返送された
こと等をもって落ち度のない被害者を逆恨みして,本件犯行に及んでいるのであ
り,動機に酌むべきところは一切なく,その意思決定には厳しい非難が値する。
上記の各事情,特に犯行態様の悪質性と危険性の高さに鑑みれば,本件犯行
の行為責任から導き出される刑期の幅は,DVを除く男女関係又は怨恨を動機
とし,凶器に刃物を使用した単独犯による殺人未遂1件のうち被害者の落ち度が
ない事案の中で,最も重い部類に属するというべきである(なお,凶器に刃物を
使用した単独犯による殺人未遂1件のうち被害者の落ち度がなく,傷害結果が6
か月以内から全治不明,考慮した前科等なし,という事案の量刑分布を前提とし
ても,上記の評価は変わらない。)。
3以上のような行為責任から導き出される刑期の幅の中で,理不尽な犯行に巻
き込まれ,心身に重大な傷害を負ってシンガーソングライター等としての活動
が困難となり,今もリハビリを続ける被害者とその家族の処罰感情が峻烈であ
ること,被告人は,殺意に関して不合理な弁解に終始するなど内省が深まって
いるとは評価できないが,客観的な行為については概ね認め,一応の謝罪の言
葉は述べ,前科前歴はないこと,被告人の実父が出廷し今後の監督を誓ってい
ること,弁護人を通じ被害者に200万円の被害弁償を申し出ていることなど
の一般情状をも考慮して,主文のとおり刑を量定した。
(求刑懲役17年・折りたたみ式ナイフ1本の没収)
平成29年3月6日
東京地方裁判所立川支部刑事第2部
裁判長裁判官阿部浩巳
裁判官平野佑子
裁判官畦地英稔は転勤のため署名押印できない。
裁判長裁判官阿部浩巳

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