弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件控訴を棄却する。
     被控訴人の原判決添付目録記載の土地に対する地上権の存続期間を昭和
二三年七月一六日から五〇年と定める。
     当審における訴訟費用はこれを二分し、その一を控訴人、その余を被控
訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し原判決添付目録記
載の土地を明け渡せ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判
決および仮執行の宣言ならびに被控訴人が右土地の地上権を有すると認められる場
合につき予備的に、右地上権存続期間確定の裁判を求め、被控訴代理人は、控訴棄
却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の提出、援用および認否は、次のとおり
付加、補正するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。
 一、 控訴代理人は、次のとおり述べた。
 (一)、 地上権に関する法律は、同法律施行前他人の土地において工作物また
は竹木を所有するためその土地を使用する者に関する推定規定であるところ、墓
は、工作物であつてもその所有権は墓地経営者にあるのではなく、当該埋葬檀家に
存するのであるから、被控訴人はみずから墓を所有するため本件土地を使用してき
たものとはいえず、したがつて埋葬檀家が地上権者として推定されることはありえ
ても、被控訴人が地上権者と推定されるわけはない。
 (二)、 被控訴人のした境内地の墓地転換は、かねて被控訴人に対して本件土
地の返還を求めていた控訴人の示唆によつてなされたものであり、被控訴人は右墓
地転換がなされれば本件土地上の墓を他へ移転してこれを控訴人に返還する旨申し
述べて墓地転換についての承諾を求めてきたので、控訴人は、永年の懸案が解決す
るものと考えて欣然右申し入れを承諾したものである。
 (三)、 かりに被控訴人の本件土地使用が地上権の推定を受けるとするなら
ば、右地上権は存続期間の定めのないものであり、したがつて、民法施行法四四条
の趣旨に鑑み、おそくとも民法施行の日から五〇年を経過した昭和二三年七月一六
日をもつて存続期間が終了したものと解すべきであり、もしそうでないとすれば、
右法条および民法二六八条二項に基づきその存続期間を定めるよう請求する。
 二、 被控訴代理人は、次のとおり述べた。
 (一)、 みずから工作物または竹木を所有しなくても、他人に該土地を賃貸し
他人をしてその地上に工作物または竹木を設けさせもつてその土地の使用をなさし
める者も、地上権に関する法律による地上権者の推定を受けうるのであり、まし
て、宗教法人は、寺と檀家とが一体となつて墓地を使用するのみならず、宗教法人
自身も現実に墓碑、竹木を所有しているのであるから、地上権者としての推定を受
けうるのは当然である。
 (二)、 地上権に関する法律は、明治三三年四月一六日以前に他人の土地にお
いて工作物または竹木を所有するためその土地を使用する者を、使用貸借、賃貸
借、転貸借のいずれとを問わず、また永代使用、一時使用のいずれとを問わず、一
応地上権者と推定するものであり、右推定に不服のある者は右法律施行後裁判によ
つてこれを是正させることとしたのであるが控訴人は、被控訴人が明治二九年から
本件土地を使用しているのに、しかも本件土地と隣接する地域にありながら、当時
なんらの不服をも述べなかつたのであり、これは被控訴人が本件土地の地上権者た
ることを承認していたからにほかならない。
 (三)、 被控訴人は、その境内地を墓地に転換する際に隣地の所有者から承諾
書を徴するにあたり、なんらかの条件を望む者に対してはその条件を記載したうえ
承諾書に署名押印を得たが、控訴人先代はなんらの条件も付さず、被控訴人の求め
に応じて快よく署名押印したのであり、また、控訴人先代存命中被控訴人との間に
なんらの紛争も起きていないことは、墓地転換の承諾に関して控訴人主張のとおり
の約定がなされなかつた証左である。
 三、 証拠(省略)
         理    由
 一、 本件土地がかつて控訴人の所有であつたことおよび被控訴人が現に本件土
地を墓地として使用して占有していることは当事者間に争いがない。
 二、 被控訴人は、本件土地が控訴人の所有ではなく、控訴人から長泉寺を経て
被控訴人へと順次譲渡され現に被控訴人の所有に属すると主張するから考えるに、
成立に争いのない甲第一号証、官公署作成部分の成立に争いなくその余の部分につ
き原審および当審における被控訴人代表者本人尋問の結果により成立を認める乙第
一号証、当審証人Aの証言によつてB名下の印の真正を認めることにより成立を推
認する乙第二号証、当審における被控訴人本人尋問の結果により成立を認める乙第
三号証、原審および当審における被控訴人代表者本人尋問の結果により成立を認め
る乙第四号証、原審における控訴人および被控訴人各代表者本人尋問の結果および
弁論の全趣旨によれば、長泉寺はかねて土葬可能の墓地を所有していなかつたとこ
ろ、明治六年太政官布告により火葬が禁止されたため、明治七年監督官庁の許可を
得て、控訴人から本件土地を含む控訴人所有の墳墓地八〇坪(二六四・四六平方メ
ートル)の無償使用を許され、その後これを同寺の埋葬墓地としていたこと、聞成
寺もその頃長泉寺と同様に控訴人から本件土地付近の墳墓地八〇坪(二六四・四六
平方メートル)の使用を許されたこと、本件土地については明治一二年二月五日東
京府から控訴人に対して持主を控訴人として地券が交付されたこと、長泉寺および
聞成寺は明治八年に火葬の禁止が解かれた後も右各項墓地を使用していたこと、他
方、被控訴人は明治二九年頃まで東京市a区b町c番地にあつたが、同町d番地所
在の被控訴人所有の墓地の一部が火災後の市区改正により道路敷となることになつ
たので、被控訴人は同年六月二三日長泉寺から被控訴人の檀家のための墓地として
本件土地を「永代使用」することを承諾され、その頃同所に墓碑等を移転し、以後
被控訴人において本件土地を被控訴人の檀家のための墓地として使用しているこ
と、被控訴人はその頃本件土地に隣接する東京市e区f町g番地の宅地ならびに同
町h番地の宅地および同地上の家屋を買い受け、同年八月八日付で東京府知事の許
可を受け、同月頃同所に被控訴人寺院を移転したこと、被控訴人は右六月二三日長
泉寺に対し本件土地の使用料名義で一五〇円を支払つたことおよび聞成寺は大正三
年にいたり控訴人から使用を許されていた前記墳墓地を控訴人に返還し、また長泉
寺も昭和一〇年にいたり控訴人から使用を許されていた前記墳墓地中被控訴人が使
用中の本件土地を除いた部分を控訴人に返還したことが認められる。右認定事実に
よれば、本件土地は長泉寺が控訴人から譲渡を受けたものではなく、かえつて、長
泉寺は控訴人から本件土地の無償使用を許されたにすぎないものであつて、本件土
地の所有権は現に控訴人に属するものということができる。もつとも、前掲乙第一
号証および原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人が長泉寺に支
払つた前記使用料名義の一五〇円は、本件土地の面積を五〇坪(一六五・二八平方
メートル)あるものとして支払つたものであつて、一坪(三・三〇平方メートル)
あたり三円であり、坪あたり単価は右移転に際し被控訴人が買い受けた前記f町g
番地の宅地九五坪(三一四・〇四平方メートル)の代金三〇〇円、同町h番地の宅
地一一五坪(三八〇・一五平方メートル)および同地上の家屋二四坪七合五勺(八
一・八一平方メートル)の代金四七〇円にほぼ匹敵する金額であつたことおよび被
控訴人はその後控訴人または長泉寺に対して使用料、地代等の金員の支払をしてい
ないことが認められるが、右事実も本件土地の所有権の帰属に関する前記判断を覆
えすに足りるものではない。
 三、 次に、被控訴人の本件土地について地上権を有する旨の主張について考え
るに、控訴人が長泉寺との間に本件土地につき地上権設定契約を締結したことを認
めるに足りる証拠はないから、被控訴人が長泉寺から本<要旨第一>件土地の地上権
を譲り受けた旨の主張は、前提を欠くに帰するものであつて、採用するに足りな
い。しかし、前記認定したところによれば、被控訴人は明治二九年以降
控訴人所有の本件土地を墓地として使用してきたのであるから、明治三三年四月一
六日施行された「地上権ニ関スル法律」の施行以前から墓碑等墳墓のための工作物
を所有するため本件土地を使用する者にあたり、したがつて、被控訴人は同法一条
により反証のないかぎり本件土地について地上権を有するものと推定されるべきで
ある。控訴人は、墳墓の所有権は檀家に属するから、檀家が地上権者と推定される
のであれば、格別、被控訴人が地上権者たりうるわけがないと主張する。当審にお
ける被控訴人代表者本人尋問の結果(第二回)によれば、被控訴人が檀家に対して
本件土地に墓石などを設置させており、右墓石の所有権は檀家に属することが認め
られる。しかし、前記「地上権ニ関スル法律」施行の当時被控訴人が檀家に対して
本件土地を区画してその使用権を譲渡していたことは、これを認めるに足りる証拠
がないのみならず、右本人尋問の結果によれば、前記法律施行当時すでに本件土地
上に被控訴人の歴代住職の墓および先々代の墓があり、これらが被控訴人の所有に
属するものであることならびに本件土地上に無縁仏の墓が存在し被控訴人がこれを
管理していることが認められるのであり、右事実をあわせ考えれば、右法律施行当
時、被控訴人は控訴人に対する関係で本件土地につき墓地経営のため包括的な使用
権を有していたのみならず、みずからも墳墓所有のため本件土地を使用していたも
のであり、各檀家は被控訴人の右使用権に依拠してその各区画された部分に墳墓を
所有し右部分を墓地として使用していたものと解するのが相当である。してみれ
ば、被控訴人が右法律の施行とともに本件土地の地上権者としての推定を受けるこ
とになんら妨げはないものというべきであるから、控訴人の右主張は理由がない。
 そこで、次に、前記推定を覆えす反証となるべき事実の存否について考えるに、
控訴人は被控訴人が本件土地につき一時使用の目的による使用貸借上の権利を有す
るにすぎない長泉寺からこれを控訴人に無断で転借したものであると主張し、前掲
乙第一および第四号証中には、被控訴人の本件土地使用が長泉寺からの借受もしく
は借地によるものである旨の記載があるが、右記載から直ちに控訴人の右主張を認
めることはできず、ほかに右主張を認めるべき証拠はない。かえつて、前記認定の
ように、長泉寺は控訴人から無償で本件土地を含む墳墓地の使用を許され、その後
本件土地を除いた残余の部分を控訴人に返還するまでに約六〇年を経過しており、
また聞成寺が控訴人から使用を許された墳墓地を控訴人に返還したのも約四〇年を
経過した後であつたのであり、さらに本件土地が控訴人方に隣接した位置にあるこ
とは当事者間に争いがないから、被控訴人が長泉寺に代わつて本件土地を墳墓地と
して使用すれば控訴人としては直ちにこれを知り得たものというべきところ、被控
訴人がその使用を開始するにあたつて控訴人の承諾を得たことおよび控訴人が被控
訴人の右使用についてその頃異議を唱えたことを認めるべき証拠のないことをあわ
せ考えれば、控訴人の右主張はこれを否定せざるを得ない。そして、ほかに右推定
を覆えすに足りる主張立証のない以上、被控訴人は本件土地の地上権者と推定すべ
きである。
 四 控訴人は、昭和二六年六月被控訴人との間にその所有の境内地の墳墓地への
地目変更を条件として本件土地の地上権を消滅させる合意が成立したと主張し、成
立に争いのない甲第四号証の一ないし四によれば、被控訴人所有の境内地四筆が昭
和二六年九月一四日墓地に地目変更されていることは明らかであるが、右地目変更
を条件とする本件土地の地上権消滅の合意がなされたことについては、当審証人C
の証言ならびに原審および当審における控訴人代表者本人尋問の結果中、右主張に
そう部分は、成立に争いのない乙第七号証(墓地拡張申請に対する承諾書)になん
ら右合意に関する記載のない事実ならびに原審および当審における被控訴人代表者
本人尋問の結果に照らして、たやすくこれを採用しがたく、ほかに右主張を認める
に足りる証拠はない。したがつて控訴人の右主張は失当であり、本件土地明渡の請
求は理由がない。
 <要旨第二>五、 次に、控訴人は、もし被控訴人が本件土地の地上権者と推定さ
れるならば、存続期間の定めがないからこれを定めることを請求すると
主張するから考えるに、右地上権が存続期間の定めのないことは前記認定したとこ
ろにより明らかであるから、裁判所としては、当事者たる控訴人の請求により、民
法施行法四四条、民法二六八条二項の規定に従い、同条所定の諸事情を斟酌して。
その設定の時から二〇年以上民法施行の日より五〇年以下の範囲内においてその存
続期間を定めるべきものであるところ、民法施行の日から五〇年を経過した日は昭
和二三年七月一六日であり、したがつて、すでに右同日を経過していることが明ら
かであるが、このような場合には、裁判所はまず設定後二〇年ないし民法施行後五
〇年の範囲内において存続期間を定めるとともに右期間経過と同時に暗黙で地上権
が設定されたものとみなし、同日からさらに二〇年ないし五〇年の範囲内において
存続期間を定めるべきものと解するのが相当である。そこで、本件土地が墳墓地と
して使用されていることその他被控訴人が本件土地を使用するにいたるまでの事情
ならびに本件土地をめぐる控訴人、被控訴人および長泉寺間の交渉の経緯等に関し
て認定した前記諸事実をあわせ考えれば、被控訴人の本件土地に対する地上権の存
続期間は民法施行後五〇年を選んだうえ、右期間を経過した昭和二三年七月一六日
から五〇年と定めるのが相当である。
 六、 よつて、控訴人の本件土地明渡請求を棄却した原判決は相当であつて、本
件控訴は理由がないから、民訴法三八四条に従いこれを棄却することとし、控訴人
の請求に基づき、本件土地の地上権の存続期間を主文第二項のように定めることと
し、当審における訴訟費用の負担につき、同法九五条、八九条を適用して、主文の
とおり判決する。
 (裁判長裁判官 西川美数 裁判官 園部秀信 裁判官 森綱郎)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛