弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は、上告人の負担とする。
         理    由
 本件上告の理由は、別紙上告理由書記載のとおりであつて、これについて、當裁
判所は、次のように判断する。
 第一点
 農地調整法(昭和十三年法律第六十七号)は、昭和二十年法律第六十四号により
いわゆる第一次改正が、次いで昭和二十一年法律第四十二号によりいわゆる第二次
改正が行われ、第一次改正法は昭和二十一年二月一日(但し本件で関係のない一部
の規定は、同年四月一日)から、第二次改正法は昭和二十一年十一月二十二日か、
それぞれ施行せられたところ、農地の賃貸借の解約等の制限に関し、第二次改正法
は、「第九条第一項及び第三項中『解約』の上に『解除若ハ』を、同項の次に左の
一項を加える。前項ノ承認ヲ受ケズシテ為シタル行為ハ其ノ効力ヲ生ゼズ」と規定
し、かつ附則第三項において、「この法律施行後勅令で定める時期までは、第九条
第三項の規定中『市町村農地委員会ノ承認』とあるのは、『地方長官ノ許可』と、
同条第四項の改正規定中『承認』とあるのは『許可』と読み替へるものとする。」
と規定している。
 従つて右第二次改正法の施行後である昭和二十一年十一月二十二日以後におい
て、同法第九条第三項に規定<要旨第一>する賃貸借の解約の申入をするには、地方
長官の許可を受けなければならないこともちろんであるが、右第二次改
正法施行以前、従来の規定に従い、市町村農地委員会の承認を受けてなした解約申
入の効力は、右第二次改正法の施行により、何等の影響を受けることなく、所定の
期間の経過により、その効力を生ずるものと解するを相当とする。けだし法律は、
その施行以前に遡つて適用せられないことを原則とし、改正法に特にこのことにつ
いての規定の存しない限り、行為当時の法規により適法になされた法律行為の効果
が、その後改正法の施行により、遡つてその効力を失うものとは解せられないとこ
ろ前記第二次改正法は、その附則第二項においてその施行前従前の第六条第三号の
規定により、従前の第五条の規定による認可を受けないでした農地に関する契約の
あるものについて、第四条の改正規定を適用することを規定しているにかかわら
ず、施行前の第九条第三項の規定による市町村農地委員会の承認を受けてなした解
約の申入等について何等の規定をもしていないからである。上告人は、同法第二十
条の「第八条及第九条ノ規定ハ本法施行ノ際現ニ存スル農地ノ賃貸借ニモ亦之ヲ適
用ス(下略)」の規定は、右第二次改正注の規定について遡及効を認めたものであ
るから、右<要旨第二>改正法施行当時存在していた賃貸借については、改めて地方
長官の許可を得なければならないと主張するが、右第二十条は昭和十三
年法律第六十七号の附則であつて、第八条及び第九条の規定が昭和十三年八月一日
右法律第六十七号施行の際現に存する農地の賃貸借にも亦適用される旨を規定せる
に止まり、同条によつて、第二次改正法の施行により、前に掲げた附則第二項所定
の場合を除き、従前適法になされた法律行為の効果を遡つて失わしめる趣旨を規定
したものではない。してみれば被上告人が第二次改正法の施行前である昭和二十一
年六月十三日にa町農地委員会の承認を受け、同年六月十五日民法第六百十七条に
基いてなした解約申入の効果は、その後第二次改正法の施行により、その効力を矢
わないことを前提として、その効果を判断した原判決は相当であつて、これと反対
の見解に立つて原判決を非難する所論はこれを採用することができない。
 第二点
 昭和二十一年六月十三日当時施行されていた、昭和二十年法律第六十四号、いわ
ゆる第一次改正法による農地調整法第十五条の二及び第十五条の十一は、市町村農
地委員会の構成及び会議について、それぞれ上告人所論のように規定しているが、
右改正法は、その附則第四条において、「従前ノ規定ニ依ル市町村農地委員会又ハ
都道府県農地委員会ハ本法ニ依ル市町村農地委員会又ハ都道府県農地委員会ノ成立
ニ至ル迄存続スルモノトシ本法ニ依リ市町村農地委員会又ハ都道府県農地委員会ノ
権限ニ属セシメラレタル事項ヲ処理ス。前項ニ規定スルモノヲ除クノ外、第十五条
乃至第十五条ノ十八ノ改正規定施行ノ際市町村農地委員会又ハ都道府県農地委員会
ニ関シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム」と規定し、しかも右昭和二十一年六月
十三日当時、右改正法による市町村農地委員会が成立するに至らなかつたことは、
原判決の適法に認定するところである。してみれば、右附則第四条により、従前の
規定によるa町農地委員会が、従来の構成により、会議を開き、同法第九条による
承認をなすべきかどうかを議決したのは適法であつて、上告人がこれと異る見地に
立ち、改正法による委員会の構成を前提とする所論(1)は採用の限りでたい。
 また所論甲第一号証は、a町農地委員会長Aが、被上告人に対してなした承認の
指令であつて、承認の議決そのものではない。適法に構成せられた委員会におい
て、承認の議決が有効になされたことは、原判決の認定するところであり、すでに
議決にして有効に成立せる以上、これが外部に対する通知である指令は、会議に出
席せると否とを問わず、議事録に基き、会を代表する会長においてこれをなすは常
則であつて、敢て異とすべきではない。(当時の農地調整法施行令第三十条参照)
所論(2)も採用することができない。
 第三点
 原判決は適法な証拠に基き、本件畑の賃貸借の当事者は、被上告人と上告人とで
あつて、訴外Bを含まないものと認定しており、判決に掲げてある証拠によれば、
右の事実を認め得られないことはない。して見れば論旨は、つまるところ、原審が
適法になした事実認定を非難し、かつ原判決の認定しない事実を前提としてなされ
ているもので、適法な上告の理由とはならない。
 第四点
 <要旨第三>耕作物のある田畑の賃貸借について、民法第六百十七条による解約の
申入がなされた場合、右解約申入の趣旨が、現に耕作中の農作物の収穫
を終つた時から起算して、一年の期間経過後に賃貸借を終了せしめるものであると
きは、たとい収穫の終る前になされたとしても、右解約の意思表示は有効と解する
を相当とする。けだし、「収穫季節アル土地ノ賃貸借ニ付テハ其ノ季節後次ノ耕作
ニ着手スル前ニ解約ノ申入ヲ為スコトヲ要ス」と規定した民法第六百十七条第二項
の趣旨は、既に植付けた農作物の未だ熟さないうちに、賃貸借が終了し、土地の利
用を完全にすることができないことを避けようとするにあるものと解すべきである
から、たとい現に耕作中の農作物の収穫前になされた解約の申入でも、その収穫を
終つた時から起算すべき趣旨ならば、右に述べた法の趣旨に反することなく、これ
がため当事者の何人に対しても不測の不利益を被らしめるヒとはないし、また田畑
に、二種以上の農作物が順を追つて耕作せられているような場合、このようにする
のでなければ、ついに解約の申入の規定の適用を見ることはできないからである。
そして特に反対の事情の認められない限り、解約の申入をなしたものの意思は、前
記趣旨にあるものと解するを相当とするから、原審が、所論のように判示したのは
相当で、論旨は採用することができない。
 第五点
 原審は適法な証拠に基き、「解物当時から判決当時に至るまでの間において、そ
の間多少の変動もあるが、被上告人が保有した耕作面積は、田三反五畝、畑九反五
畝で、その家族は九名あり、うち四名が耕作能力を有し、殊に今次戦争前において
は、耕作能力ある人数に幾分の差違はあつたが、約三町七反の耕作を行つていたこ
ともあり、昭和二十三年度においては、何分の超過供出をなしていること。被上告
人は、農家として一家の生計をたてており、しかも今後純農として立ち行かんがた
めに本件畑の返還を求めており、本件耕作地を加えるも多きに過ぎるものではない
こと。一方上告人及びその父Bの保有する耕作面積は、本件の畑三反五畝を含め、
田一反九畝、畑少くとも五反三畝(昭和二十四午前半までは四反一畝)を有し、そ
の家族は十名であるが、そのうち耕作に当り得るものは、上告人の父(当六十七
午)、その妻(当六十六年)、上告人の妻(当三十九年)及び上告人の弟(当二十
三年)の四名であつて、上告人及びその妹は、いずれも学校の教員で、上告人一家
はいわゆる給料生活を主軸としている。殊に右上告人の父等による耕作の収穫は、
既に自家の用に充つるに不足な程度でその不足分は配給を受けて充しており、また
昭和二十三年度における米の供出量は、一斗程度であつたこと。」を認定してい
る。そして以上各当事者の耕作能力、農地生産増大の見込、解約による上告人の生
活の維持の能否等について考量すれば、被上告人は、農地調整法第九条第一項但書
にいわゆる正当の理由あるものと解するを相当とすべく、これと同旨に出でた原判
決よ相当であつて、論旨は、一部原判決の認定しない事実を論拠とし、かつ反対の
見地に立つて、原判決を論難するもので、採用することができない。
 以上の理由により論旨はいずれも、その理由がないから、本件上告は理由がない
と認め、民事訴訟法第四百一条、第八十九条、第九十五条を適用して、主文のとお
り判決した。
 (裁判長判事 小堀保 判事 原増司 判事 高井常太郎)

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