弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
         理    由
 一、 本件抗告の要旨は、
 (一) 本件については抵当債権者A、抵当不動産所有者兼債務者B(抗告人)
間の熊本地方裁判所昭和二九年(ケ)第四五号不動産競売事件において、昭和三〇
年九月二日の競売期日にC外二名が最高価競買の申出をなしたところ、右競売手続
の進行中抵当債権者Dが抗告人に対し同一不動産につき抵当権実行の競売を申し立
て(同裁判所昭和三〇年(ケ)第九四号事件)、該申立は前記昭和二九年(ケ)第
四五号事件の記録に添付されたのであるが、一方Aの抗告人に対する抵当債権は、
右競売期日前、従つて原競落許可決定前に消滅し競売手続は取り消されたのにかか
わらず原裁判所は、抵当債権者Dの申し立てた競売事件において、前記三名の最高
価競買申出人は民訴第六四五条の法意に従い依然最高価競買申出人として取り扱わ
るべきものであるとなし、同人らに対し競落を許す決定をなした。
 (二) しかしながら民訴第六四五条は、第二の競売申立に対しても競売手続開
始決定をなしたと同一の効力を認めるに過ぎないもので、第二の申立後の競落にい
たるまでの競売手続が総べてその侭有効であるとの趣旨ではないから、前示三名に
対し競落を許した原決定は取り消さるべく、競売手続開始決定をなしたと同一の効
力を認められる時以後の競売手続は改めて進行さるべきものである。
 (三) かりに原競落許可決定は、民訴第六四五条により許さるべきものと仮定
しても、Dは昭和三〇年七月一五日抗告人に対し以後三ケ月間抵当債権の弁済を猶
予しその間抵当権を実行しない旨約しているので、同年八月二六日の本件競売期日
当時は抵当債権の期限はいまだ到来していなかつたので競売は許容さるべき限りで
なく、従つてこの点からも原競落許可決定は違法である。
 (四) 加之、競売申立人Dは昭和三〇年九月四日死亡し、同人の有した抵当債
権はその相続人E外四名において相続したところ、この点につき競売手続の受継が
ないので、結局本件競売手続は死者を競売申立人として進行した不法のものである
故、原決定は違法である。
 (五) よつて前三項の事由は競売法第三二条第二項、民訴第六七二条、第六八
一条第二項に該当するから、原競落許可決定を取り消すとの裁判を求めるというに
帰着する。
 二、 (一) 競売の申立をなす権利を有する者が二人以上ある場合に、その中
の何人かが先ず申立をなせば、これにより他の者が競売申立権を喪失するという道
理がないのは勿論であるが、だからといつて、各申立の都度それぞれ競売手続開始
決定をなして手続を併行するのは無用というよりも、彼是手続の牴触を生ずる虞も
あるので寧ろ有害であるからこれを許すべきでないのは論を俟たない。よつて第二
の申立及びそれ以後の申立を既存の競売手続に加入させ、該申立を既存の執行記録
に添付して配当要求の効力を生ぜしめ、もし既存の手続が停止され、または取消、
取下によつて終了する場合は、右記録に添付した時に開始決定を受けたと同一の効
力を生じ、第二以降の申立人のため、既存の手続を転用しその侭手続を進行すると
いうのが民訴第六四五条の趣旨とする所である。
 従つて抗告人の抵当債権者A(既存手続の競売申立人)に対する抵当債務が消滅
したため、たとえ該競売手続が取り消されたとしたところで、その前に抵当債権者
Dにおいて、同一不動産につき、抗告人に対し更に競売を申し立て、該申立が既存
の競売記録に添付されたことは本件記録上明らかであるから、既存手続における最
高価競買申出人たるC外二名に対し、原裁判所が競落を許す決定をなしたのは、も
とよりその所であつて、これに反し、競落不許の決定をなすべきであるとする抗告
人の所論(二)及び(五)は独自の見解で採用に値しない。
 (二) 抵当債権者Dが昭和三〇年七月一五日抗告人に対し同日以降三ケ月間抵
当債権の弁済を猶予し、その間は抵当権を実行しない旨約したとしても、原審が競
落許可決定をなしたのは、右猶予期間を経過した昭和三一年九月一一日であること
は記録上明らかであるから、たとえ最高価競買申出のなされた競売期日が右三ケ月
の猶予期間中のことであるにしても、競落許可決定当時には既に猶予期間が経過し
ている以上、執行裁判所として競落を許す決定をなしうべきことは民訴第五五〇条
第四号の解釈上当然であるので、かかる場合競落を許すべきでないとの所論(三)
及び(五)も理由がない。
 (三) 競売申立人Dが昭和三〇年九月四日死亡し、E外四名がその相続をなし
たことは、抗告人<要旨>提出の戸籍謄本の記載に徴し明らかであるけれども、抵当
権の実行としてなす不動産競売手続において抵当権者が死亡しても民訴の訴
訟手続の中断受継に関する規定は当然適用ないし準用はない。そのことは民訴第五
一九条第五五二条の反面解釈からも首肯しうる所であるばかりでなく、抵当不動産
に対する競売手続は訴訟手続のような債務名義取得の前提と異なり、抵当不動産に
つき換価権を有する抵当権者がこれを換価して抵当債権の満足をはかるという権利
実行上の手続であり、この点既に訴訟手続を経て債務名義を有する執行債権者が執
行の目的物を換価して債権の満足を目ざす権利実行上の強制執行手続に類似し、こ
の権利実行の段階における競売手続において競売申立人が死亡してもこれがため再
び訴訟手続の中断受継に関する民訴の規定を適用ないし準用する必要はないのであ
る。その上、抵当権実行の競売手続にあつては、債務名義は存しないので、競売手
続開始後に競売申立人が死亡しても民訴第五一九条の規定を準用する余地がなく、
また未登記抵当権者すら抵当権の実行をなしうる以上、競売申立人の相続人におい
て相続による抵当権移転の登記を経たと否とにかかわらず、既に開始した競売手続
は相続人のためこれを続行すべく、右死亡及び相続の事実が利害関係人の届出その
他により執行裁判所に明らかとなつた場合は、同裁判所は爾後相続人を申立人とし
て取り扱い競売期日その他の通知を相続人になすべく、また相続による競売申立人
の承継の登記を嘱託するのが相当である。もつとも該嘱託登記についてはそれがな
されていないからといつて、爾後の競売手続を続行すべからざるものとなすことは
できない。これに反し競売申立人の死亡及び相続の事実が執行裁判所に明らかでな
いかぎり、執行裁判所はそのまま不動産の換価手続を続行しうるのであつて、この
ことは前説示のようにこの場合競売手続の中断受継及び執行文付与の規定の適用な
いし準用がないということ、抵当権はその権利者の申立によつて権利実現の手続が
開始された以上、該権利者に一般承継があつたということのみで、抵当不動産の換
価権が阻止され喪失をきたすという道理のないことから当然導かれてくる結論であ
る。すなわち、競売手続開始後抵当権並びにそれによつて担保される債権が何人に
属するかということは、換価手続自体にかかわるというよりも、換価後の代金交付
手続において参酌すべき事柄にすぎないと解するのが相当である。
 記録によれば本件においてDが死亡した事実は原競落許可決定のなされたまで明
らかでなく、抗告人が当裁判所に戸籍謄本を提出するに及んで初めて明らかとなつ
たところであるから、原裁判所が昭和三〇年九月四日Dが死亡したにもかかわらず
競売申立人をDとして、競売手続を進行したのはやむを得ない事由による当然の措
置というの外なく、右は民訴第六七二条第六八一条第二項の競落の許可に対する異
議の原因のいずれにも当らずまた原裁判所がDを競売申立人として手続を進行した
ために抗告人がなんらかの不利益を被つたという点については毫も疏明がないので
抗告理由(四)及び(五)もまた理由がない。
 よつて本件抗告を棄却すべきものと認め主文の通り決定する。
 (裁判長判事 桑原国朝 判事 天野清治 判事 秦亘)

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