弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件非常上告を棄却する。
         理    由
 検事総長の非常上告理由について。
 一件記録によれば、被告人A、同Bの両名が相被告人C、同D外三名と共同して
暴力行為等処罰に関する法律第一条違反行為をしたものとして、昭和二三年一二月
三〇日福島地方裁判所平支部に起訴されたところ、同二四年四月五日同裁判所は、
起訴に係る右所為は、被害者に対する強姦罪の構成要素でこれと不可分の関係にあ
つて、しかも、強姦罪については、告訴が取下げられたから暴力行為についても公
訴権が消滅したとの理由で公訴棄却の判決を言渡したこと、検察官が右判決に対し
控訴の申立を為し、仙台高等裁判所は、右の公訴事実を認定して被告人等の所為を
暴力行為等処罰に関する法律に違反するものとして所論の有罪判決を為し、被告人
両名に対する該判決がそれぞれ確定するに至つたこと、並びに、昭和二七年七月一
一日当裁判所第二小法廷は、右仙台高等裁判所の判決に対し上告を申立てた相被告
人C、同Dの両名に対し、前記平支部の判決と同様の理由を以て原判決を破棄し右
両名に対する公訴を棄却する旨の判決をしたことは、いずれも、所論のとおりであ
る。
 しかし、暴力行為等処罰に関する法律第一条の違反行為は、同条所定の構成要件
を充足するによつて成立する非親告罪であつて、その内容が数人共同して暴行をし
た場合でも必ずしも刑法一七七条前段の強姦罪の構成要素ではなく、まして、これ
と不可分の一体を為すものではない。従つて、検察官が、同法律第一条違反の公訴
事実のみを、何等姦淫の点に触れずに、同条違反の罪として起訴した以上、裁判所
は、その公訴事実の範囲を逸脱して、職権で親告罪である強姦罪の被害者が姦淫さ
れた点にまで審理を為し、その暴力行為は、起訴されていない該強姦罪の一構成要
素であると認定し、しかも、当該強姦罪については告訴がないか又は告訴が取消さ
れたとの理由をも明示して、公訴を棄却する旨の判決を為し、これを公表するがご
ときこと(そして、かくのごときは、却つて被害者の名誉を毀損し、強姦罪を親告
罪とした趣旨を没却すること勿論である。)の許されないこというまでもない。
 果して然らば、被告人両名に対する原確定判決の審判は、前記当裁判所第二小法
廷の判決とは相反するが、何等法令に違反した点が認められないから、本件非常上
告は、その理由がないものといわなければならない。
 よつて、旧刑訴五一九条に従い、主文のとおり判決する。
 この裁判は裁判官斎藤悠輔並びに裁判官藤田八郎の各補足意見及び裁判官田中耕
太郎、同霜山精一、同栗山茂、同小谷勝重、同谷村唯一郎、同本村善太郎の反対意
見を除く裁判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官斎藤悠輔の補足意見は、次のとおりである。
 反対意見は、附加理由として、「本件の如き輪姦事件の場合、その犯罪構成要素
の一部である暴行行為のみを抽出して、之を暴力行為等処罰に関する法律違反とし
て起訴しその有罪判決確定後は、強姦罪の適法な告訴がなされても、もはや同罪を
もつて起訴し及び審判することができなくなる不合理な結果を招来する」旨主張す
る。しかし、本件は、暴力行為等処罰に関する法律違反事件であつて、輪姦事件で
はない。これを輪姦事件と見るのは、起訴の範囲を逸脱し、強姦罪を親告罪とした
趣旨に反して、いわれなく被害者の名誉を毀損するものである。また、論旨のいわ
ゆる不合理な結果を招来するのは、親告罪である強姦罪においてのみ特有な問題で
はなく、非親告罪である一罪の一部について、(例えば、強盗を暴行又は窃盗とし、
殺人未遂を傷害とするがごとく)確定判決を受けたような場合は、常に同一の不合
理な結果を生ずるのである。これは、わが国の立法者が憲法三九条所定の二重処罰
禁止の規定を誤解して被告人のため不利益な再審を全面的に認めなかつたためであ
つて、旧刑訴四八六条二号は、かかる不合理な結果を生じないように規定してあつ
たのである。(なお、被告人の不利益のための再審手続規定並びに刑法五八条を廃
止したのは、全く条理に背く明白な誤解であり、極つて顕著な「行過ぎ」の一例で
あることについては、私の意見判例集四巻九号一八〇九頁一八一〇頁参照)。され
ば、かかる附加理由は、反対説の根拠となり得ないばかりでなく、むしろ、一定の
条件の下に被告人の不利益のための再審を認める必要を痛感せしめる一理由に過ぎ
ないものというべきである。
 裁判官藤田八郎の補足意見は次のとおりである。
 本件起訴にかかる被告人等の所為が暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項に
該当することは明らかであつて、ただ記録にあらわれた証拠からすれば右暴力行為
は、一面において、強姦の手段として為されたものであることがうかがわれるので
ある。かかる場合に強姦について告訴がないからといつて、右起訴はその訴追要件
を欠くが故に不適法として公訴棄却の判決をすべきものでないことは、昭和二六年
(れ)第一七三二号同二七年七月一一日言渡当裁判所第二小廷法判決中、私が少数
意見として記したとおりであるから、これを本件の補足意見として引用する。
 裁判官田中耕太郎、同霜山精一、同栗山茂、同小谷勝重、同谷村唯一郎、同本村
善太郎の反対意見は次のとおりである。
 われわれは昭和二六年(れ)第一七三二号、同二七年七月一一日第二小法廷判決
(判例集六巻七号刑事八九六頁以下)理由と同一理由により、多数意見に反対する
ものである。よつて、右第二小法廷の判決理由をここに引用する。
 なお、右の外、次の理由をも附加する。即ち強姦罪は暴行又は脅迫と姦淫とが合
一して構成される単一の犯罪であり、暴行脅迫罪の外に姦淫の罪が成立するもので
はない。
 しからば、本件の如き輪姦事件の場合、その犯罪構成要素の一部である暴行行為
のみを抽出して、之を暴力行為等処罰に関する法律違反として起訴しその有罪判決
確定後は、強姦罪の適法な告訴がなされても、もはや同罪をもつて起訴し及び審判
することができないこととなり、その結果は謂われなく強姦罪としての刑責(暴力
行為等処罰に関する法律第一条の法定刑は三年以下の懲役刑又は罰金刑であるが、
強姦罪の法定刑は二年以上十五年までの懲役刑である)を免れるという不合理な結
果を招来するに至るものである。以上の各点より考えても、強姦罪の場合、その手
段行為となつた暴行(即ち強姦罪の構成要素となつた暴行)に関する公訴が提起さ
れた場合、裁判所は審理の結果それが強姦罪の手段行為である暴行と認めるときは、
強姦罪全般としての審判権があること、したがつてそれには適法な告訴のあること
が訴訟条件となることの理の一つを知り得べきである。
 果して然らば、被告人A、同Bの強姦罪については公訴提起前すでに適法に告訴
が取消されていたのにかかわらず、その強姦罪の構成要素の一部である暴行行為に
ついて、右被告人両名に対し、暴力行為等処罰に関する法律違反罪なりとして公訴
が提起された本件について、右両被告人に対し同罪ありとして有罪の言渡をした仙
台高等裁判所の確定判決は法令の解釈を誤つたもので、その審判法令に違反するも
のである。従つて、本件非常上告は理由がある。そして右原判決は被告人等に不利
益であるから刑訴施行法二条旧刑訴五二〇条一号に従い原判決を破棄し、旧刑訴三
六四条六号により被告人両名に対し公訴棄却の判決を言渡すべきものである。
  昭和二八年一二月一六日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    入   江   俊   郎

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