弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人小林右太郎、同中松澗之助、同平松勇の上告趣意は末尾に添附した別紙書
面記載の通りである。
 弁護人小林右太郎上告趣意第一点について。
 しかし、原判決において証拠として挙示した原審公判における被告人の供述によ
れば、被告人が取扱つた本件物件は塩酸ヘロインと表示した罐に入つていたという
し、被告人もまたBから本件物件を返してくれといわれたとき、取締厳重な麻薬で
あることを知つたのである、そしてCに右物品の売却方を頼んだとき、Cはあぶな
い薬品だから一人では持つて行かれないというので、被告人はDをCにつけてやつ
たといつて居る事実を認めることができるから、被告人は本件物件が塩酸ヘロイン
であることは知つていたと推認し得る、仮に量が多いので本物か否かを疑つたとし
ても、本件物件が高価に売れるものであることを知つて居り、あぶない薬品だと思
つたといつているのであるから、少くも塩酸ヘロインであることについて未必の認
識はあつたものといわなければならない、しかも本件物件は、鑑定の結果塩酸ヂア
セチルモルヒネ(ヘロイン)であることが明らかにされている、従つて原判決が被
告人の原審公判廷の供述により所論の事実を認定したとしても、虚無の証拠によつ
て事実を認定したという違法はない。
 なお原判決は、被告人の自白の外に共同被告人の原審公判廷の自白をも証拠とし
て挙示しているのであり、共同被告人等の原審公判廷における供述も塩酸ヘロイン
であることについて少くとも未必の認識はあつたと認めしむるに足るもので原判決
は被告人の自白だけで事実を認定したものとはいい得ない。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 原判決の認定した事実によれば本件物件を金十五万円に見積り、被告人が買受け
るキヤラコ代金の内金の代りとして交付したというのであるから、原判決において
適用した昭和二〇年一一月二〇日厚生省令第四四号第一条にいわゆる「販売」に該
当するものと解すべきである。論旨は被告人はEの詐欺にかかつて本件物件を同人
に交付したのであるから、キヤラコ売買代金の内金の代りとして本件物件を譲渡し
たことは無効であるから、右省令の販売に当らないと主張するが、右省令の趣旨は
塩酸ヘロインの所有はもとより其一切の処分を禁止するにあるのであつて、被告人
の行為が瑕疵あるものであるとしても本件の成否に関係なきものであるから、所論
の点について審理を遂げないとしても、審理不尽とはいい得ない。論旨は理由がな
い。
 弁護人中松澗之助、同平松勇の上告趣意第一点について。
 原審公判調書によれば原審相被告人Fは本件塩酸ヘロイン二罐の内同人の手許に
返つた一罐は、その中味だけを海中に投棄し罐は他に使用するつもりで取つておい
た、と供述しており、罐が海水につかつたとか、罐を水で洗つたとかいう事実は述
べていない、そしてFに対する警察官の聴取書及記録第九一丁の領置書によれば、
Fは右中味だけ捨てて取つておいた塩酸ヘロインの空罐を警察官に提出し、警察官
は之を証第一号として領置したことが認められるし、岡山県刑事部課長は右証一号
を岡山県衛生試験所長に交付して其罐に附着している薬品の鑑定を依頼したところ、
同試験所地方技官Gが之を試験し、右薬品は塩酸ヂアセチルモルヒネであると鑑定
したのである、故に本件物件が客観的に塩酸ヂアセチルモルヒネであることは明ら
かにされている、なるほど被告人Aが取扱つた罐は既に所在不明で鑑定はできない
が、之と同じ物として被告人も認めた他の一罐について鑑定されているのであるか
ら特別の事情の無いかぎり被告人の扱つた本件物件が鑑定した物件と別種の物であ
るとは考えられない。以上のように本件物件が現実に塩酸ヂアセチルモルヒネであ
る以上被告人が其取扱つた物が塩酸ヂアセチルモルヒネであると供述している場合、
其供述により本件物件を塩酸ヂアセチルモルヒネであると認めても、何等経験則に
反するところはない。なお原判決が被告人の原審公判廷における自白だけで有罪を
宣告したことを非難する点については弁護人小林右太郎上告趣意第一点について説
明した通りであるから重ねて説明することを省略する、論旨は理由がない。
 同第二点について。
 原判決挙示の証拠によれば、原審相被告人Bは、はじめから、ヘロインをキヤラ
コ売買代金の内金又は手附金とすることについては知つていなかつたのであるが、
これを売る意思であり、被告人Aも初めは売却の意思であり、Dも之を売却するも
のであることを知つて居り、最後になつてAとDとの間においてこれをキヤラコの
内金にしたことを認め得る、そして原判決において適用した厚生省令第一条にいわ
ゆる「販売」が通常の売却は勿論本件のように代金の内金代りとして譲渡したよう
な場合をも包含することは前に説明したとおりであるから、原判決が被告人A、B、
D、は販売方を共謀してキヤラコ代金の内入として本件物件を交付し以つて本件物
件を販売した旨を判示したとしても所論の如き理由齟齬の違法はない、論旨は理由
がない。
 同第三点について。
 しかし原判決は所論麻薬二封度入一個を岡山市から京都市迄輸送した行為と同物
件を京都市において販売した行為とはそれぞれ別個の行為であり、しかも継続した
意思で行つたものとは認定していない。従つて被告人の犯行を併合罪として処罰し
たことは当然である、論旨は原審の事実認定と異る見解に基くものであるから採用
し難い。
 同第四点について。
 しかし検事の控訴申立書には「昭和二三年二月二五日検事に通知す裁判所事務官」
との印判が押してあり、その「検事」という文字が「被告人」と訂正されてあるが、
右訂正の個所にも裁判所事務官とした下にも係員の捺印のないこと、及び控訴申立
通知控に被告人の氏名が抹消されていることは所論の通りであるが、右控訴申立書
の印判で検事の控訴のあつたことは被告人に通知されたものと認め得る、仮に右印
判により被告人に通知のあつたことが認められないとしても原審公判調書によれば
原審公判廷において裁判長は被告人Aをふくむ全被告人に対し検事控訴のあつたこ
とを告げているので被告人は検事が求刑をする時迄之を知らないとはいえないし、
又何等弁護権行使に妨げとなることもないことを推認し得るから、仮に検事が控訴
したことを被告人に通知しなかつたとしても原判決に影響を及ぼすことはないから
破棄の理由とはならない。論旨は理由がない。
 よつて旧刑事訴訟法第四四六条により主文の通り判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二四年七月二六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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