弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由は別紙のとおりである。
 論旨は、原判決は憲法一四条一項、四四条、四三条、四七条、一三条、一一条の
解釈適用を誤つた違法があつて憲法七六条三項後段に違反し、また、民訴法三九五
条一項六号に該当する違法、その他法令の解釈を誤つた違法がある旨を主張するの
であるが、要するに、原判決が公職選挙法一四条による同法別表二は違憲ではない
としたのを非難するに帰する。
 しかし、各選挙区にいかなる割合で議員数を配分するかは、立法府である国会の
権限に属する立法政策の問題であつて、議員数の配分が選挙人の人口に比例してい
ないという一事だけで、憲法一四条一項に反し無効であると断ずることはできず、
現行の公職選挙法一四条による同法別表二が選挙人の人口数に比例して改訂されな
いため、不均衡を生ずるに至つたとしても、現在の程度では、なお立法政策の当否
の問題に止まり、違憲問題を生ずるものと認められないことは、当裁判所大法廷が
昭和三八年(オ)四二二号事件について、同三九年二月五日言い渡した判決(民集
一八巻二号二七〇頁)の判示するとおりである。所論の他の憲法各条項に違反しな
いことも、右判決の趣旨に照らして明白である。また、右別表二が違憲でないとす
る以上、原判決の説明に不十分な点または妥当を欠く点があるとしても、所論のよ
うな理由不備、理由齟齬の違法はないものというべく、また、所論のように法令の
解釈を誤つた違法もないものといわなければならない。
 論旨はすべて理由がない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官田中二郎の意見がある
ほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 裁判官田中二郎の意見は、次のとおりである。
 私は、本件上告を棄却した多数意見の結論はこれを支持するが、その理由とする
ところには、にわかに賛成しがたい。殊に、多数意見が、昭和三九年二月五日言渡
しの大法廷判決を引用して、「公職選挙法一四条による同法別表が選挙人の人口数
に比例して改訂されないため、不均衡を生ずるに至つたとしても、現在の程度では、
なお立法政策の問題に止まり、違憲問題を生ずるものと認められない」とし、その
程度の如何によつては、選挙の違憲無効をきたす場合があることを示唆している点
に疑問を抱かざるを得ない。
 一、そもそも、各選挙区にどのような割合で議員数を配分するかの問題は、多数
意見が説示しているように、「立法府である国会の権限に属する立法政策の問題で
あつて、議員数の配分が選挙人の人口に比例していないという一事だけで、憲法一
四条一項に反し無効であると断ずる」ことはできない。それは、各選挙区への議員
数の配分を決定するにあたつては、人口比率を特に重視するとはいえ、それ以外に
も、次に述べるようなあわせ考慮すべき要素が少なくなく、これらの要素を全く無
視して、人口比率だけで判断することは許されないからである。すなわち、選挙の
管理執行上、在来の行政区画を基礎として選挙区を決定することが便宜かつ必要で
あること、およびこれに伴つて選挙区に大小の差の生ずることが避けがたいこと、
しかも、参議院議員については、三年ごとに半数改選を行なうことを制度の建前と
して採用している憲法四六条の趣旨にそつて議員数の配分を行なわなければならな
いとすれば、各選挙区の議員数を人口数にかかわらず、現行の最低二人を更に低減
することは困難であること等を考慮する必要があり、その他選挙母体について合理
的に考慮に値いする歴史的・地理的・社会的諸条件等を無視し去ることも妥当とは
いいがたいであろう。人口比率だけでなく、これらの諸要素をあわせ考慮すること
は、正に立法府である国会の合理的裁量的決定に委ねられるべきことであつて、こ
れらの点について、司法的判断のよるべき一定の明確な客観的基準が見出しがたい
以上、具体的に何が法であるかを宣言することを任務とする裁判所の判断すべきこ
とがらではないといわなればならない。
 ところで、多数意見は、「別表二が選挙人の人口数に比例して改訂されないため、
不均衡を生ずるに至つたとしても、現在の程度では、なお立法政策の当否の問題に
止まり、違憲問題を生ずるものと認められない」とし、あたかも程度の如何によつ
ては、違憲無効をきたす場合があるかのごときことを示唆している。しかし、いつ
たい、どの程度に不均衡を生じた場合に、違憲無効であるとの判断を下すのであろ
うか。一定の明確な客観的基準を見出しがたい以上、判決で違憲とすべき場合のあ
り得ることを約束してみても、それにあたるものとして提起される訴訟はすべて、
結局、その基準に達しないものとして排斥されてしまうのではなかろうか、若しそ
ういうことになれば、それは、決して裁判所に対する信頼を高めるゆえんではなく、
却つてこれを損う結果となるを免れがたいであろう。
 私は、さきに述べたように、議員数の配分は、立法府である国会が人口比率だけ
でなく、叙上の諸要素を考慮し、合理的裁量によつて決定すべきであり、現行の別
表二は、人口比率だけについていえば、たしかに不均衡を生じているとの非難を免
れがたいが、それだけでは、裁判所として違憲無効とは断ずることはできず、また、
仮りに近時の急激な人口の都市集中に伴い、更に不均衡の程度が増大したとしても、
その故をもつて直ちに違憲無効と断ずることもできないと考える。もつとも、理論
上には、違憲無効の主張をなし得べき場合が絶対にないとまではいえない。しかし、
それは不均衡の程度を理由としてでなく、立法府である国会が、憲法の趣旨を没却
してその裁量権を濫用し、全く恣意的に議員数の配分を行なつたことが客観的に一
見明白であることを理由とする場合に限られるべきである。かような場合には、裁
判所もまた、その議員数の配分を違憲無効と断じなければならないであろうが、実
際上には、このようなことは、われわれの常識では考えられないことであつて、こ
のような訴訟について、法律上、何らの定めがないのも、むしろ、当然というべき
である。(なお、公職選挙法二〇四条の規定が、このような訴訟を予定していない
と解すべきことは、次に述べるとおりである。)
 二、次に、本件では、公職選挙法二〇四条の選挙の効力に関する訴訟の手続をふ
んでいる。これは、いわゆる民衆訴訟の性質を有する訴訟であつて、この訴訟で、
別表二の定める議員数の配分の違憲無効を主張して争うことができるかどうかも頗
る疑問としなければならない。というのは、公職選挙法二〇四条の定める選挙の効
力に関する訴訟制度は、元来は、選挙の管理執行上の瑕疵を是正することを目的と
した制度であつて、議員数の配分の違憲の主張のごときものは、全く予想していな
いというべきだからである。選挙の管理執行上の瑕疵の是正を目的としているため
に、訴訟の結果、当該選挙が無効ということになれば、同法の定めるところに従つ
て再選挙を行なうことになつており、しかも、この再選挙は、これを行なうべき事
由が生じた日から四〇日以内に行なうべきものとされているのである(同法一〇九
条四号、一一〇条二項、三四条一項参照)。しかし、若し、右の訴訟の結果、再選
挙の根拠となる公職選挙法(別表二)自体の違憲無効が断定されることになれば、
まず、その改正が行なわれなければならないことになるが、僅か四〇日のうちにこ
れを行なうことは事実上不可能である。そうだとすると、違憲無効の別表二によつ
て、違憲無効の選挙を繰り返すか、改正法の成立するまでの相当の期間、国権の最
高機関の一部の存立を否定せざるを得ないこととなる(衆議院についても同じ問題
が生ずる可能性があり、場合によつては、国会両院の存立が否定され、従つて法律
の改正自体が行なえない場合の生ずる可能性がないわけではない。)。これらのこ
とを総合して考えてみると、公職選挙法別表二が憲法の平等条項に違反して無効で
あることの主張のごときは、同法二〇四条の定める選挙の効力に関する訴訟制度の
全く予想していないところであつて、同条による訴訟としては、本来、許されない
ところと解すべきであろう。
 もつとも、別表二に基づく議員数の不均衡が各選挙区間における投票価値の平等
を損じ、各選挙人の平等権を侵害することを理由とする訴えの途を開くため、右の
二〇四条の規定を強いて拡張解釈し、同条による訴訟を認めることが、一つの考え
得る方法であるかも知れない。しかし、仮りに同条による選挙無効の判決があつた
とすれば、叙上のように四〇日以内に再選挙を行なわなければならないことになる
が、再選挙までの僅かの期間に別表二の改正を行なうことは事実上不可能であり、
しかも無効と判断された現行法の別表二に基づく再選挙の実施もまた許されないと
いうことになれば、裁判所としては、別表二が憲法一四条に違反するとしても、そ
の違法は、選挙の結果に異動を及ぼさないものとして、選挙無効の主張は、これを
排斥するほかはない。
 叙上の何れの点からいつても、本件上告を棄却した多数意見の結論は、これを支
持し得るものと考える。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    田   中   二   郎

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