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裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 被告人提出の上告趣意書は、「高等裁判ニ於テ申上グベク控訴致シマシタガ私ハ
無資力無財ノタメニ官選弁護士殿ヲ附ケテ戴キマシタガ裁判ノ当日マデ弁護士殿ト
御逢ヒ出来ズ何モ事件ノ内容ヲオ話出来ズ裁判トナリ法廷ニ立チマシタガ夢中デ何
モ云エズ前ノ調書通リデ行イ懲役四年ヲ渡レマシタ。私ニワ年老イタル母ト妻ガ困
苦ト戦イ生活致シテ居ル事ヲ思イ私ガ前科者トナツタレバドンナニカ二人ワ悲シム
事ダラウト安事諦メ切レズ上告致シマシタソシテ法ノ情ニスガリ此々ニ趣意書ヲ書
マシタ次第デス。
 私ワ昭和拾七年九月弍拾参日ニ緬旬領ラングーンニ於テ左腹部足腰右腕ニ戦傷シ
同年拾弍月四日ニ野戦病院ヨリ緬旬領ラングーン兵站病院ニ還送同年拾弍月弍拾八
日ニ内地還送トナリ病院船(ベイノスアイレス号)ニテ昭和拾八年一月参日仏印西
貢着同年同月拾日A陸軍病院ニ着同病院ヨリ同年弍月拾七日B陸軍病院ニ転送同年
参月弍拾七日C陸軍病院ヨリ傷療養ノタメニ同年四月拾弍日ニD陸軍病院E療養所
ニ療養中ノ処昭和拾九年参月拾参日ニ第五項症デ奉公杖並ニ傷痍軍人証及記章オ受
領兵役免除トナリ出所致シマシタ。ソシテ療養所ニテ旋盤ノ職業補導ヲ受ケマシタ
ノデ旋盤工トシテ都内墨田区a町b番地ノF製作ニ迎エラレ通勤致シ同区同町c番
地二母トニ人デ暮シテ居リマシタ。父ワ私ガ出征中昭和拾七年拾月拾四日ニ老衰ニ
テ死ニマシタ。同所勤務中昭和弍拾年参月九日ノ空襲デ一切焼カレ都内目黒区d町
e番地ノ叔父ノ家デ田舎ニ疎開シタノデ後ヲ借リ受ケ住ンデ居リマシタ処同年五月
弍拾五日ニ再度戦災ニ遭ヒ知人デアル都内墨田区f町西g丁目h番地Gサン方ニ避
難シ会社ノ焼跡整理ニ通ツテ居リマシタガ会社ガ急ニ栃木県i駅前ニ疎開シタノデ
一ケ月バカリ通ツテ居リマシタガjカラ二時間三十分モカゝルノデ通イ切レズヤメ
テ荒川ノH木工所ニ一ケ月千五百円位ノ収入デ勤メ始メテ居リマシタトコロガGサ
ンノ元ノ御主人一家七人ガ信州ノ疎開先カラ引上ゲテ来タノデ同町同番地ノIサン
ノ二階ヲ一時借リマシタ。ソシテ妻ヲ迎エ楽シク共カセギシ一生懸命働イテ居リマ
シタガ亦モIサン一家ガ疎開先デモメ事ガ有リ急ニ六人帰エツテ来タノデ私共モ心
苦シク住ンデ居ラレズ亦何処ヲ尋ネテモ家モ室モ無ク仕方無ク都内墨田区f町西l
丁目m番地ノ知人所有ノ防空壕ヲ借リ受ケ一時シノイデ居リマシタが運ノ悪イ時ワ
悪イモノ同所モ昭和弍拾弍年一杯デ地所ヲ空渡シテクレト地主サンカラ言渡レ一時
ワドウシタモノカト安事H木工所ノ主人ニ頼ミマシタラソレワ困ルダラウ工場ノ一
部ヲ直シテヤルカラ少シ待ツ様ニ云ワレ私達ワソレヲ楽シミニ頑張ツテ居リマシタ
ガタマタマ私ガ通ツテ居リマス途中ノj交番前ニ住ンデ居ルJサン此ノ人ハ私ガ再
度ノ戦災ニ遭ヒGサンノ家ニ一時一緒ニ避難シタ人デ一ケ年振リデ遭ツタノデ懐シ
ク思イJサンニ家ワスグソコダ寄ツテオ茶デモ呑ンデ行カナイカト云ワレ寄リマシ
タ処、家ノ中ニ大勢人ガ居テ金ヲ山ニ積ンデ賭博ヲヤツテ居リマシタ。私ワ鳴鳴オ
金ノ有ル所ニハ有ルモノダナアト思ワズ言マシタラJサンガドウダネ張ツテ見ナト
云ワレ私ワ悪イ事トワ知リナガラ鳴ゝアノオ金ガ有レバ家ノ心配モナク母ヤ妻ヲ嬉
コバス事ガ出キルト思イ夢中デ大事ナ生活費ノ金子二千円ヲ出シテJサンニ云ワレ
ル通リ張ツテ見マシタラ始メ五六回ワ面白イ様ニ儲リ千二百円儲ツタノダカラヤメ
レバ良イノダガJサンガモツトヤレバ沢山儲カルノダト云イマシタノデ亦張ツタラ
コンドワ取ラレ亦張リ亦取ラレ忽チ手元ニ千二百円シカ無クナツテ居リマシタラJ
サンガ今日ワヤメ様ト云フト一人ヘリ二人ヘリ私モ残念ニ思イ乍ラ外ニ出帰リマシ
タ。ソシテ亦明ル日勤メルフリデ昨日八百円取ラレテ居ルノデ取戻シテヤロウトJ
サンノ家ニ行キ朝カラ張リ出シマシタトコロ亦々残リノ金ヲ全部取ラレガツカリ見
テ居リマシタラJサンガ真中ニ坐ツテ居タKサント云フ博奕打ニ何カ話ヲシタラJ
サンガ頼ムヨト手ヲ上ゲタラ其ノKサンガ千円ノ金ヲハイ使イナ、其ノ金ワ都合ノ
良イ時デイゝヨト借シテクレマシタノデ私ワ嬉コンデ亦張ツテ見マシタラ忽チ此ノ
金モトラレテシマイマシタ。トコロガJサンガ今日ワコレマデダト云フト亦一人減
リ二人減リ皆帰リ出シタノデ私モ立上ルトJサンガ鳴ゝ一寸Lサン待ツテクレト云
フノデ立チドマツタラKサンガ出テ来テ岩サン先ツキノ金ヲ頼ムヨト云ツタノデ私
ワハイ必ズ月末ニワ何ントカ致シマスト云イマシタラKサンワイキナリオイ馬鹿ヲ
云フナ俺達ワ明日ヲシラナイ命ダ。スグ返セト云フノデ驚キソレヂヤ話ガ違フデシ
ヤウト云フト何ヲ云フカ借シタ金ヲ返セト云フノダ君ノ金ヲクレト云フノヂヤナイ。
返セネエ金ヲ何ンデ借リルノダ俺ヲ誰レダト思ツテイル。ナメルナヨト驚カサレ私
ワドウシタモノカトコンドワJサンニ頼ミマシタラLサン今無イナラ家ニ行ツテ払
エバイイヨトスマシテ居ルノデ私ワシマツタト思ツタガ、モウ駄目ダKガ出テ来サ
ア文句ヲ云ワズ俺ト一緒ニ行コウト云イダシタノデ私ワ一緒ニ行ツタラ大変ダ母ヤ
妻ワ何モシラナイノニ心配ヲ此ノ上亦懸ケタクナイト思イ、何ヲトモアレ金策ガ第
一ダト二三時間位知人ヲ尋ネマシタが金策付カズ亦Jサン宅ニ行キ明日一杯待テモ
ラウ積デ頼ミニ行キマシタラ既ニ其ノ時ワ遅クJサンノ内儀サンガ出テ来テLサン
ノ返事ガ遅カツタノデ今Kサント若衆ガオ宅エ伺ツタ処ダト云ワレテ、シマツタ母
ヤ妻ニ申訳ノ無イ事ヲシテシマツタト思ツタガ仕方ナイ。何ニシテモ金策ガ第一ト
其ノ足デ世田ケ谷ノ警視庁自警会ニ住ンデイル叔父ニ願ツテ見ヤウト向島ヨリ渋谷
迄行キ下高井戸線デpマデ行キ自警会ニ八時三十分頃ニ着キマシタガ叔父ノ息子ガ
警察官デアル事ヲ思イ出シ、コンナ迷惑ナコトワ頼メナイト幾度カ家ノ前ヲ行ツ戻
リツ二時間バカリ迷ツテ居リマシタガ入レズ、フトH木工所ノ主人ノ事ヲ思イ出シ、
アアソウダ主人ニ前借シテ一時返シテシマオウト思イ付其ノ足デ荒川ニ向ツテ歩イ
テキマシタ時間ハ拾時三十分過ギテ居リマシタノデ電車ガ有リマセンデシタ。渋谷
ヨリ上野浅草向島トソシテ隅田公園ヨリtu丁目迄デ来タラ、急ニ二人ノ男ガ一丁
位前カラ附イテキタ或イワ隅田公園ノ当リカ良ク解リマセンガコノ男ガ急ニ立チド
マリ、オイ君々ト呼ビ留タノデ、ビツクリシ、何ンデスカト云イマスト、一人ノ男
ガオイ大将煙草ヲ一本クレト云フノデ私ワ気味悪ク思イ無言デ居リマシタラ、オイ
何ントカ云エト一人ガ云フノデ、私ワ無イト云フト、オイ嘘ヲ付ケト急ニ一人ガ後
ニ廻ツテ私ノ物入レニ手ヲ入レタノデ何ヲスルンダト云ヒマシタラ何モシナイト私
ノ煙草ケースヲ取リ出シモウ一人ワ別ノ物入レニ手ヲ入レ蟇口ヲ取ツタノデ、アツ
コノ人達ワ盗人ダヘタ騒イデ焼跡デ人ガイナイシ何ヲサレルカ解ラナイト思イマシ
タカラダマツテ居リマシタラ一人ハ蟇口ヲ取ツタ男ガオイ大将不景気ダネドウダイ
ト煙草ヲ一本私ニヨコシ火ヲ付ケテクレ、ドウダイ俺達ニ手ヲ借セヨ分ケ前ヲヤル
ゼト云ゝ出シタノデコレワ大変ダゾト思イ居リマスト、オイオシカ何ントカ云エ悪
イ様ニワシナイゼト云ツテ居タノデスキヲ見テ逃ゲ出ソウトシタラ忽チ一人ニ捉エ
ラレ逃ゲルカコレオ見ロト一人ワピストルヲ一人ワ小刀ヲ付ケ出シタノデ怖シクナ
リ、何ントカ逃ゲ出サウト思ツタガ、私ワ足ニ戦傷シテ跛ナノデ逃ゲラレナイト感
念シ、ダマツテ居リマシタラ一人ノ男ワ大将俺ノ云フ通リヤレバヨイノダト一丁バ
カリ戻リM病院ニ行キオ前ワ俺達ヨリ躰ガ小サイカラアノ廻転窓カラ入レンシテ鍵
ヲ開ケロ。ソシテ第一ニ自転車ヲ出シ何ンデモ金ニナル物ヲ取ツテシマエ、此々ノ
家族ワ四人ダカラ若シ誰カ来タテ表ニ二人居ルンダト驚カシテヤレ、後ニワ俺達ガ
付イテ居ル解ツタラ入レ逃ゲタリ変ナマネヲ行フトコレガモノオ云フゾ、入レトイ
キナリ私ノ上衣ヲ取リ腰ニ下ゲテ居リマシタル手拭ヲ取リ、コレデ顔ヲ覆セト云ワ
レ私ワ受ケ取リ中ニ入リ草履ヲヌギ上リ、私ワ感エマシタ。コレワ大変ダヘタ行フ
ト命ガ危険ダウマクヤツテ主人ニ合ヒ一切ヲ咄シ詫ビ様ト想イ付玄関ヨリ廊下ニ行
キマシタラモウスデニ一人ノピストルヲ持ツタル男ガ廊下ノ外ニ待ツテ私ノ方ヲ睨
ンデ居リマシタ。廊下ワ硝子戸ナノデ見透シナノデピストルヲ持ツタル男ノ云フ通
リスルヨリ仕方ガ有リマセンデシタ。一番先ニ入ツタ室ワ看護婦サンノ室デ蚊帳ヲ
張ツテ寝テ居リマシタノデ私ワドウシタモノカト感エテ居リマシタラ看護婦サンガ
目ヲサマシタノデ私ワスマナイガ金ヲクレト云イマシタラ金ワナイト云フノデソノ
時計ヲクレト云々マシタラコレモヤレナイト云フノデ私ワソレデハ家族ワ何人ダト
尋ネマシタラ三人ダト云イマシタ。私ワソレヂヤ主人ニ遭シテクレト云イマシタソ
シテ看護婦サント一緒ニ主人ノ部屋ニ行キマシタラ主人ワ起キテ居マシタノデ主人
スマナイガ復員ダガ金ヲ少シ借シテクレト云々マシタラ主人ワ奥サンニ財布ヲ持テ
来サセ中カラ千円ヲ数エテクレマシタカラ、私ワ廊下ヨリ中ニ入リ主人ニ一切ヲ話
シテト思イ後ヲ見マシタラピストルデ私ヲ覗ツテモツト取レトヤツテ居ルノデ怖ロ
シクナリ中ニ入ルノヲヤメテ主人スマナイガ表ニ二人居ルカラモウ少シクレト云々
マシタラ亦金ヲ数エテ八百円クレマシタノデオ金ヲ物入レニ入レ様トシマシタラ煙
草ノケースヲ落シタノデ取リ上ゲマシタラバ中ノ鏡が壊レテ居リマシタ。私ワ鳴々
悪イ事ヲシテシマツタ許シテクレト心デ妻ニ詫ビ、ナゼナラバ鏡ワ女ノ心ダト昔カ
ラ聞イテ居リマシタカラデス。私ワソコデ思イ主人電話ヲ掛ケテモイイト云シタ。
トコロガ其ノ時ニ急ニ表デ強盗ワマダ居ル居ルト云フ声ヲ聞キビツクリ声ヲ聴ク迄
ハ看護婦サンガ私ヲ主人ノトコロニ案内シテ其ノ足デ裏カラ抜ケテ居タ事ワ知ツテ
居リマシタカラ逃ゲ出サナクトモヨカツタノデス此ガノ時ワ夢中デ怖ロシクナリ裏
カラ逃ゲ出シタノデスガ跛デアルタメ忽チ大勢ニ捉ツテ警察ニ連レテ行カレマシタ
ガ調書ニワ仕返シガ怖ロシク驚カサレヤラサレマシタト云エズ裁判トナリマシタガ
事実ハ右ノ通リデゴザイマス。私ガ二人ノ男ニ驚サレ犯シタガ私ワ毎日通フノニ雨
カ急ギデナイ限リワM病院ノ前ヲ二、三回ワ必ズ通リ亦M病院カラ約三丁位シカ離
レテイナイH木工所ニ勤メテ居ルノニ顔ヲ覆面シロト云ワレタガ覆ワナカツタ事実
亦半ズボン一枚デ裸デ入リ表モ裏モ終リマデ鍵ヲ開ケズニイタ事私ガ怖ロシクテ主
人ト話シオシタ時モ絶エズ慄エテ思フ様ニ話ヲ出キ得ナカツタ事実亦M病院ノ先生
ニモ看護婦サンニモ御聴キ願ツテモ相違ゴザイマセン。亦千八百円ノ金子ワ捉エラ
レルト同時ニ全部オ返シ致シマシタ事モ書タシテオキマス亦今日デワ年老タル母ワ
喰ワンガタメニ都内墨田区a町ノN商会ニ雑役婦トシ勤メテ居リマス亦妻ワヤハリ
喰ワンガタメニ私ノ帰ルマデト書置ヲシテ浅草方面ニ女中ニ住込ンダトノ事過日母
ガ面会ニ参リマシタノデ妻ノ事ヲ尋ネマシタラ昨年拾月弍拾七日ヨリ行方不明ダト
ノ事デス亦私ワ傷ガ因デ昨年拾一月ヨリ坐骨及肋骨神経痛ガ起リ悩ンデ居リマス。
今日私ヲ待ツ母ヤ妻ノモトニ前科者トセズ執行猶予ノ恩典ニ浴シオ返シ下サレルノ
デシタレバ何年ニテモ此々ニ御誓ヒ申上ゲマス右ノ通リデ御座居マスレバ何卒法ノ
情ヲモチマシテ御推察下サレ私ヲ御許シ下サレン事ヲ願ヒ上ゲマス次第デス」と謂
うのである。
 以上、上告趣意は稍々明瞭を欠くのであるが結局之を要約すると、(1)所謂官
選弁護人を附されたのが公判の当日で、従つて弁護人に直接事件の内容に付き聴取
つて貰うことが出来なかつたとの点、(2)次に応召・戦傷・療養・兵役免除・家
庭帰還・空襲罹災・結婚・就職等縷々苦境の経過や家庭の実情等を述べた上、最後
に本件犯罪の動機、就中犯行当夜氏名不詳の二人の男から拳銃等で脅かされ無止本
件犯行に出ずるに至つたこと、従つて右は緊急避難的の行為であること、以上の如
き事情であるから執行猶予を与えられたいと謂うにあるのである。
 そこで按ずるに、(1)の事実は本件上告を以て不服を申立てた第二審裁判所の
公判での事柄ではなくて、第一審公判でのことであるが、官選弁護人を選任せらる
ゝのは第一回公判期日前適当の時期、即ち弁護準備の出来得る時期であることは出
来る限り望むべき事ではあるが、実際問題としては第一回公判期日の前日或はその
当日私選弁護人が選任せらるゝことは屡々ある実例であり、又法律問題としては公
判当日の選任はいけないと言う論拠や理由は別段にないのである。而して記録に依
れば本件事案の内容は比較的簡単であり、且つこの第一審公判期日に被告人からも
又弁護人からも敢て公判延期の申出等なく、異議なく弁論が行われた次第であつて、
従つて以上は何れの点から論じても不服の理由とすることは出来ないのである。次
に(2)の前段の被告人の経歴及び家庭の実情等、次にその後段即ち犯行当夜氏名
不詳の二人の男から拳銃等で脅かされ無止、本件犯行を行わねばならぬ端目に陥つ
たと言う事実、従つて緊急避難的行為である如き主張の点であるが、右後段の主張
は本件記録上では第一・二審では少しもかゝる事実を申立てた形跡のない所である
が、それは偖て措くとしても、かゝる事実上の申立や及び之等の事情等を汲んで執
行猶予にして貰いたい等の訴えは、日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措
置に関する法律第十三条第二項の規定に依つて、すべて当裁判所に対する上告理由
とは為し得ないのである。
 弁護人石田寅雄提出の上告趣意書は「原裁判所は被告人の本件犯行を以て強盗罪
に問擬されたが凡そ強盗罪の成立には脅迫して財物を強取したことを必要とするの
に唯一の証拠として援用された原審証人O、同Pの証言によつても被告人が被害者
Pを脅迫の結果同被害者が金員を提供したとしても同人の反抗を抑制する程度に至
らなかつたことは明白である。即ち同証人Pの供述によれば「主人かといふので黙
つていると騒がしてすまないが金をかしてくれえと言ふのでその男を見るに今申し
た様な恰好をしてやせているし其上何だか震へている様でしたので腕力でなら負け
やしないと思ひましたが云々、Oが外へしらせに行つたことは気配でわかりました
から成可く時間をとる様に札を一枚々々丁ねいに四回位数へますと云々」恐しかつ
たかとの問に対し「相手が震へてますし廊下から一歩も近寄つて来ないので大した
事はありませんでした云々」又証人Oの証言によるも「私が一寸見た時それは私達
の病院で使ふ指先消毒器の様なものだと思ひました」「起された時はびつくりしま
したが乱暴もしない様なので大した事はないと思ひ少し落着きました」先生はどう
だつたかとの問に対し「落着いて話して居られひどくこわがつていた様子はありま
せんでした云々」右証人等の供述及第一審以来の一貫した被告人の全供述等によつ
ても本犯行は恐喝罪であることは明白であるにも拘らず原裁判所が之を強盗罪と断
じたのは事実を不当に誤認し擬律錯誤の違法あるものと信ずる」と謂うのである。
 然し原審が証拠に採つて居るのは、所論原審に於ける証人O同Pの供述ではなく
て、同人等に対する司法警察官の各訊問調書(及び此外、原審の採証は原審公判に
於ける被告人の供述)である。而して右各訊問調書(及び前示原審公判に於ける被
告人の供述)に依れば、その手段方法は強盗罪を構成するに充分のものと言わねば
ならない。論旨は原審の採証以外の事項を引用して以て独自に恐喝罪を立論するも
のであつて、帰着する所は原審の事実認定の攻撃にあり、かゝる主張は上告適法の
理由とならないこと、前示被告人提出上告趣意書に対する説明末段引照の法条の通
りである。論旨は理由がない。
 以上の通り本件上告はすべて理由がないから、刑事訴訟法第四百四十六条に従い
主文の通り判決する。
 此判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官福尾彌太郎関与
  昭和二三年一〇月三日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
 裁判官藤田八郎は差支につき署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
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なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
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詳細は、面談の上、決定させてください。

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◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

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