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平成25年10月30日判決言渡
平成25年(行ケ)第10036号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成25年9月30日
判決
原告日本テクノ株式会社
訴訟代理人弁護士恩田俊明
訴訟代理人弁理士工藤一郎
訴訟復代理人弁護士吉原崇晃
被告特許庁長官
指定代理人藤井昇
同田村嘉章
同田部元史
同堀内仁子
主文
1特許庁が不服2011-25478号事件について平成24年1
2月28日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2前提となる事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成22年12月6日,名称を「デマンドカレンダー」とする発明につ
いて,特許出願(特願2010-271825。以下「本願」という。)したが,平
成23年8月24日付けで拒絶査定がされ,これを不服として,同年11月25日,
拒絶査定不服審判請求(不服2011-25478)をした。
特許庁は,平成24年12月28日,本件審判の請求は成り立たない旨の審決(以
下「審決」という。)をし,審決の謄本は,平成25年1月10日,原告に送達され
た。
2本願に係る発明の内容
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の内容は,次のとおりで
ある。
「一の電気料金請求期間を一枚に収め,かつ同期間の最初の日から最後の日まで日
単位で一定区画を占有させ,同じ週の各日の区画は左から右へ横方向に並べ,同じ
曜日の各日の区画は上から下へ縦方向に並べて配置されたカレンダーであって,
各日の区画の横軸として,縦方向に眺めた場合に各日の区画にて同じ曜日の同じ
時刻の目盛となるように左から右へ向かう時間経過で配置される時刻軸と,
各日の区画の縦軸として,横方向に眺めた場合に同じ週の各日の区画にて同じデ
マンド値の目盛となるように配置されるデマンド値軸と,
各日の区画にて前記各軸の目盛に従って各デマンド時限のデマンド値を指示する
デマンド値指示と,を有し,
各日の区画は,各日の日出時刻と日没時刻を前記時刻軸の目盛に従って指示する
日出没時刻指示を有するデマンドカレンダー。」
3審決の概要
(1)審決の理由は,別紙審決書写に記載のとおりである。審決は,要するに,本
願発明は,甲6(特開2008-77345号公報。以下「引用例1」という。)に
記載の発明(以下「引用発明」という。)及び甲7(国際公開第2009/1510
78号。以下「引用例2」という。)に開示された事項に基づいて当業者が容易に発
明することができたとするものである。
(2)審決が認定した引用発明は,次のとおりである。
「処理日を含む過去1ヶ月を指定された表示対象期間として,一画面に表示し,
かつ,表示対象期間の最初の日から最後の日まで日単位で一定区画を占有させ,同
じ週の各日の区画は左から右へ横方向に並べ,同じ曜日の各日の区画は上から下へ
縦方向に並べて配置されたカレンダであって,
各日の区画の横軸として,縦方向に眺めた場合に各日の区画にて同じ曜日の同じ
時刻の目盛となるように左から右へと向かう時間経過で配置される時刻軸と,
各日の区画の縦軸として,横方向に眺めた場合に同じ週の各日の区画にて同じエ
ネルギ消費量の実績値の目盛となるように配置されるエネルギ消費量の実績値の軸
と,
各日の区画にて各軸の目盛に従って各デマンド時限のエネルギ消費量の実績値を
表示するエネルギ消費量の実績値の棒グラフによる表示と,を有する
省エネ支援カレンダ。」
(3)審決が認定した本願発明と引用発明の一致点,相違点は次のとおりである。
ア一致点
「一の期間を一枚に収め,かつ同期間の最初の日から最後の日まで日単位で一定
区画を占有させ,同じ週の各日の区画は左から右へ横方向に並べ,同じ曜日の各日
の区画は上から下へ縦方向に並べて配置されたカレンダーであって,
各日の区画の横軸として,縦方向に眺めた場合に各日の区画にて同じ曜日の同じ
時刻の目盛となるように左から右へと向かう時間経過で配置される時刻軸と,
各日の区画の縦軸として,横方向に眺めた場合に同じ週の各日の区画にて同じデ
マンド値の目盛となるように配置されるデマンド値軸と,
各日の区画にて前記各軸の目盛に従って各デマンド時限のデマンド値を指示する
デマンド値指示と,を有する
デマンドカレンダー。」である点。
イ相違点1
一の期間が,本願発明では,「一の電気料金請求期間」であるのに対して,引用発
明では,「処理日を含む過去1ヶ月を指定された表示対象期間」である点。
ウ相違点2
本願発明では,「各日の区画は,各日の日出時刻と日没時刻を時刻軸の目盛に従っ
て指示する日出没時刻指示を有する」のに対して,引用発明では,そのような特定
はなされていない点。
第3取消事由に係る当事者の主張
1原告の主張
(1)取消事由1-引用発明認定の誤り1(デマンド値の利用の有無)
電力の消費に関して用いられる「デマンド値」とは,最大需要電力を意味するも
のであり,また,「デマンド時限」とは,当該デマンド値測定のための単位時間を意
味する。我が国におけるデマンド時限は,電力会社により30分と定められるのが
通常である。そして,一定期間内(通常は1か月)において複数取得されるデマン
ド値のうち最大のデマンド値をピークデマンド値とし,所定期間(通常は1年)の
うちの各期間のピークデマンド値のうち最も大きな値に対応した基本料金が以後の
所定期間に適用される。そのため,デマンド値の把握は,電力基本料金の抑制を願
う電力需要者にとって大きな関心事である。
引用例1の記載(【0027】,【0058】,【0059】)を踏まえると,引用例
1の【図3】のグラフで表示されるエネルギーの消費実績値の棒グラフの個数(表
示単位)は,消費量計測手段における計測単位時間と同期して表示されるべきもの
と理解される。しかるに,当該グラフは,1時間ごとの合計24個で構成されてお
り,また,計測単位時間は,「所定の時間」とされ,特段の限定はされていないこと
に照らすならば,引用発明においては,消費実績値の表示単位時間には特段の関心
は示されていない。このように,引用例1はデマンド値の測定を念頭に置いたもの
ではなく,引用例1には,デマンド時限において計測される受電電力の最大値を当
該デマンド時限ごとに表示する技術的思想は開示されていない。
したがって,引用発明が「各デマンド時限のエネルギ消費量の実績値を表示する
エネルギ消費量の実績値の棒グラフによる表示」を含むとした審決の認定は誤りで
ある。
(2)取消事由2-引用発明認定の誤り2(比較対象となる目標情報の有無)
引用例1の記載(【請求項1】,【0059】,【0072】,【0075】,【0020】)
からすると,引用発明は,あらかじめエネルギーの消費目標値を設定しておくこと
や,当該消費目標値との消費実績との比較を行うことが技術的特徴であると解され
る。また,引用発明では,各区画単独で省エネ行動のための情報が充足している。
したがって,引用例1には,エネルギーの消費実績値と消費目標値との比較におい
て省エネ行動計画構築の指針とするための技術的思想は開示されているが,最大デ
マンド値を超えないような事前準備を行うための技術的思想は開示されていない。
この点,引用例1の【請求項1】には,省エネ支援用情報として消費実績値のみ
を用いることをも許容する記載もあるが,当該構成に対応した効果は,実績値が表
示されることにより実績値を認識できることであって,それ以上の作用・効果を奏
するものではない。
そうすると,引用発明を「各日の区画にて各軸の目盛に従って各デマンド時限の
エネルギ消費量の実績値を表示するエネルギ消費量の実績値の棒グラフによる表
示」を含むとした審決の認定は,誤りである。
(3)取消事由3-相違点2についての容易想到性判断の誤り
引用例2に記載の発明においては,「日の出・日の入りの時刻」の情報の用いられ
方が本願発明や引用発明とは全く異なる。また,引用発明に引用例2に記載の事項
を適用したとしても,それぞれの作用機能に関する着眼点が異なるから,本願発明
を容易に想到することはできない。したがって,引用例2に記載の事項が引用発明
と同一技術分野であるとして引用発明に適用できるとし,本願発明を容易に想到す
ることができるとした審決には,誤りがある。
すなわち,引用例2の記載(【請求項1】,【0009】,【0116】,【0117】,
【0152】,【0175】,【0178】,【0179】)からすると,引用例2に記載
されている発明は,スケジュール情報の入力に基づいてエネルギー消費の変動をシ
ュミレートする発明であり,スケジュール情報は,機器の使用状況を踏まえて事後
的に入力され,表示の対象は,スケジュール情報を踏まえたシミュレーション結果
であって,シミュレーションはタイムゾーンを変更することによる影響を判定ロジ
ックを用いて評価するために行うものである。
このように,引用例2においては,タイムゾーンは,本来,適切な機器使用に向
けられた時間帯として観念されるもので,不適切な機器利用を前提とした時間帯と
位置づけることは,タイムゾーンが本来持つ意味と矛盾する。
引用例2に記載の発明は,将来あるいは仮想のエネルギー消費量をシミュレーシ
ョンするものであり,過去あるいは現在のエネルギー消費量をマネジメントするも
のではない。
2被告の反論
(1)取消事由1-引用発明認定の誤り1(デマンド値の利用の有無)に対して
引用例1には,電力量計で単位時間ごとの電力消費量を計測して実測値を得るこ
とが記載されている。引用例1では,特に「デマンド時限」という表現は用いられ
ていないが,電力量計で単位時間ごとの電力消費量を計測する場合,その単位時間
を「デマンド時限」として設定することは,ごく普通に行われることであるから,
引用例1に接した当事者は,電力量計を用いた電力消費量の計測を「デマンド時限」
を単位時間として行うことも認識するものというべきである。
引用発明は,エネルギー消費者に対して省エネルギーへの意識付けを行うもので
あるとされている。省エネルギーへの意識付けとは,エネルギー消費者が,単にエ
ネルギー消費量に留まらず,料金の多寡も認識することによってもたらされるもの
であるから,引用発明においても,それに見合う合理的な単位時間を設定すること
が想定される。
(2)取消事由2-引用発明認定の誤り2(比較対象となる目標情報の有無)に対
して
引用例1の【0042】や【請求項1】には,省エネ支援カレンダにおいて,デ
ータ表示領域内に配置される省エネ支援用情報は,消費実績値と消費目標値の両方
を表示するものだけでなく,消費実績値のみを表示するものを含むものとして記載
されている。引用例1は,各日のデータ表示領域内に消費実績値を含む省エネ支援
用情報が配置されて構成されるカレンダ形式の表示態様に係るものであって,本願
発明と軌を一にする技術思想を開示するものというべきである。
(3)取消事由3-相違点2についての容易想到性判断の誤りに対して
引用例2の記載からすると,「タイムゾーン」とは,スケジュール情報を規定する
ものであって,その実施形態において,タイムゾーンが設定された時間帯が機器を
オフする時間帯となるとともに,本来,スケジュール情報では機器をオフすべき時
間帯ではあるが,機器がオンされることにより,電力が無駄に消費されているかど
うかを監視する時間帯であると解釈できる。そうすると,タイムゾーンを「夜間の
消し忘れを監視する時間帯」や「早朝の消し忘れを監視する時間帯」とすることは,
タイムゾーンの解釈と何ら矛盾するものではない。
引用例2に記載された事項は,エネルギー消費量を計測した上で,電力が無駄に
消費されている時間帯があるかを監視して,過去あるいは現在のエネルギー消費量
をマネジメント(管理)するものであるから,原告の主張は理由がない。
引用発明と引用例2に記載された事項は,いずれも電力に関する省エネルギーの
ための支援システムである点で共通しており,引用発明は,時間軸に対応して,エ
ネルギー消費量(デマンド値)以外にもエネルギー消費と関連する在不在情報等を
表示しようとするもので,引用例2に開示された事項と技術思想が共通している。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,引用発明についての審決の認定に誤りがあると判断する。その理由
は,以下のとおりである。
1認定事実
(1)本願明細書(甲1)の記載及び本願発明の特徴
ア本願明細書の記載内容(図1は別紙のとおり。)
「【背景技術】
【0002】
従来,デマンド値などの変化をグラフ表示により利用者に把握させる技術が存在する。例えば特
許文献1においては,時間別のエネルギー消費量や日別のエネルギー消費量を各画面のバーグラフ
として表示することが可能な情報システムが開示されている。」
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,従来技術においては,各日の各デマンド時限のデマンド値を把握しつつ,他の複
数の日のデマンド値と比較することが難しかった。例えば,特許文献1においては,時間別のエネ
ルギー消費量や日別のエネルギー消費量を各画面においてそれぞれ表示することはできるものの,
一画面で同時に表示することはできなかった。このため,利用者は例えばある日の所定時間帯(例
えば,15時00分~15時30分)のエネルギー消費量と別の日のエネルギー消費量を比較する
場合,ある日のエネルギー消費量を記憶した上で画面の切り替えを行い,他の複数の日のエネルギ
ー消費量と比較する必要があった。
【0005】
以上の課題を解決するために,一の電気料金請求期間を一枚に収め,かつ同期間の最初の日から
最後の日まで日単位で一定区画を占有させ,同じ週の各日の区画は左から右へ横方向に並べ,同じ
曜日の各日の区画は上から下へ縦方向に並べて配置されたカレンダーであって,各日の区画の横軸
として,縦方向に眺めた場合に各日の区画にて同じ曜日の同じ時刻の目盛となるように左から右へ
向かう時間経過で配置される時刻軸と,各日の区画の縦軸として,横方向に眺めた場合に同じ週の
各日の区画にて同じデマンド値の目盛となるように配置されるデマンド値軸と,各日の区画にて前
記各軸の目盛に従って各デマンド時限のデマンド値を指示するデマンド値指示と,を有するデマン
ドカレンダーを提案する。」
「【発明の効果】
【0008】
以上のような構成をとる本発明によって,ある日のデマンド値を把握しつつ,視線をそのまま横
方向又は縦方向にずらすことによって他の複数の日のデマンド値と容易に比較することが可能にな
る。」
「【0012】
<デマンドカレンダー>
図1は,本実施形態のデマンドカレンダーの一例を示した図である。」
「【0013】
図2は,本実施形態のデマンドカレンダーの各日の区画の一例を示した図である。この図に示す
ように,本実施形態のデマンドカレンダーの「各日の区画」0200は,「時刻軸」0201と,「デ
マンド値軸」0202と,「デマンド値指示」0203と,を有する。ここで,デマンド値とはデマ
ンド時限における平均使用電力のことをいう。また,デマンド時限は電力会社などが設定した時間
の区切りであり,例えば「0~30分,30~60分」の30分間単位が考えられる。
【0014】
デマンド値は,電気料金の基本料金の計算に使用されたり,契約電力の基準となったりするため,
過去所定期間(例えば,過去12カ月)の最大値を更新しないように過去の電力使用の状況を鑑み
て対策を立てる必要がある。」
「【0053】
<デマンドカレンダー>
図9に示すように,本実施形態の「デマンドカレンダー」は,基本的に実施形態1に記載のデマ
ンドカレンダーと同様であるが,各日の区画にて各軸の目盛に従って各デマンド時限において理想
とすべきデマンド値を指示する「理想デマンド値指示」0901をさらに有することを特徴とする。
【0054】
ここで,理想デマンド値指示はデマンド値指示と一見して区別可能なようにする。例えば,デマ
ンド値指示がバー表示である場合は理想デマンド値指示を曲線表示や折れ線表示とし,デマンド値
指示が折れ線表示や曲線表示である場合は理想デマンド値指示をバー表示とすることなどが考えら
れる。また,デマンド値指示と理想デマンド値指示の色を異ならせることも考えられる。
【0055】
上記の構成とすることにより,各デマンド時限の現実のデマンド値と理想とすべきデマンド値を
比較することができると同時に,視線を横方向又は縦方向などにずらすことによって,理想とすべ
きデマンド値が日によってどのように異なるかを一見して把握することができる。例えば,水曜日
の各デマンド時限において理想とすべきデマンド値と木曜日の各デマンド時限において理想とすべ
きデマンド値がどのように異なるかなどについて視線をずらすことによって容易に把握することが
できる。」
「【0098】
<デマンドカレンダー>
図18に示すように,本実施形態のデマンドカレンダーは,基本的に実施形態1に記載のデマン
ドカレンダーと同様であるが,各日の区画は,各日の日出時刻・と日没時刻を前記時刻軸の目盛に
従って指示する日出日没指示(1801)をさらに有することを特徴とする。
【0099】
時刻軸の目盛に従って日出時刻と日没時刻を指示することによって,各日のデマンド値を比較す
る際に,日出時刻や日没時刻も考慮に入れることが可能になり,デマンド値の比較をさらに的確に
行うことが可能になる。例えば,デマンド値の上昇の理由は日没に伴う照明装置などの消費電力の
増加に起因するものではないかと推測することが可能になる。」
イ本願発明の特徴
上記アの記載によれば,本願発明の特徴は,以下のとおりである。すなわち,従
来技術においては,各日の各デマンド時限のデマンド値を把握しつつ,他の複数の
日のデマンド値と比較することが難しかったとの課題を解決するため,本願発明は,
各日のデマンド値を把握しつつ,視線をそのまま横方向又は縦方向にずらすことに
よって他の複数の日のデマンド値と容易に比較することを可能にし,各日の日出時
刻と日没時刻を前記時刻軸の目盛に従って指示する日出日没指示を有することによ
り,各日のデマンド値を比較する際に,日出時刻や日没時刻も考慮に入れることを
可能とし,デマンド値の比較をさらに的確に行うことを可能とする点に特徴がある。
デマンド時限は,電力会社などが設定した時間の区切りであって,例えば「0~3
0分,30~60分」の30分間単位が考えられること,デマンド値はデマンド時
限における平均使用電力であり,電気料金の基本料金の計算に使用されたり,契約
電力の基準となったりするため,過去所定期間(例えば,過去12カ月)の最大値
を更新しないように対策を立てることができるようにすることが必要となる。
(2)引用例1(甲6)の記載及び引用発明の特徴
ア引用例1の記載
引用例1には,次のとおりの記載がある(甲6。図3(a)は別紙のとおり。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,エネルギ消費者に対して省エネルギへの意識付けを行う省エネルギ支援システムに関
する。」
「【0007】
本発明に係る省エネルギ支援システムの上記第1の特徴構成によれば,画像データ生成手段によ
って生成された省エネ支援カレンダ表示用画像データが与えられた表示装置上に,指定された表示
対象期間について,対応する日のデータ表示領域内に省エネ支援用情報に基づく表示データが配置
されたカレンダ形式の省エネ支援カレンダを表示可能な状態となる。エネルギ消費者は,この表示
装置上に表示される省エネ支援カレンダによって,表示対象期間に係るエネルギ消費量の実績値や
評価結果等の省エネ支援用情報を曜日別或いは週別に確認することができ,曜日別或いは週別の過
去の行動の比較が容易であると共に,これらの過去の行動を参照して今後の省エネ行動への指針と
することができる。」
「【発明の効果】
【0020】
本発明の構成によれば,エネルギ消費者が表示装置上に表示される省エネ支援カレンダを確認す
ることで,表示対象期間に係るエネルギ消費量の実績値や評価結果を認識可能である。特に,消費
実績値が消費目標値以下に抑制された場合にのみ所定の評価結果が対応する日のデータ表示領域内
に配置される構成とすることで,エネルギ消費者は省エネ支援カレンダの当該評価結果の配置状況
を視覚的に確認して,自己の省エネ行動に対する結果を知ることができると共に,今後の省エネ行
動への指針とすることができる。」
「【0022】
本発明システムは,エネルギ消費者のエネルギ消費量の実績値(以下,「消費実績値」と称する)
を,所定の方法の下で設定されたエネルギ消費量の目標値(以下,「消費目標値」と称する)との間
の比較処理を行うことで消費実績値に対する評価処理を行うと共に,当該評価結果をカレンダ形式
で表示可能に構成された省エネルギ支援システムである。以下では,まず図1を参照して本発明シ
ステムの全体構成について説明をした後,カレンダ形式による評価結果の表示態様についての説明
を行う。」
「【0027】
消費量計測手段11は,例えば電力量計等で構成され,空間2内で消費されたエネルギ量(電力
量計であれば電力量)を計測する。消費量計測手段11によって計測された消費実績値は一時記憶
手段13によって一時的に記録される。尚,消費量計測手段11は,所定の時間毎の消費量を計測
可能であり,一例として,以下では1時間毎のエネルギ消費量を計測可能であるとする。」
「【0042】
画像データ生成手段25は,指定された表示対象期間に係る省エネ支援カレンダを表示するため
の表示用画像データを生成し,所定の表示装置(例えば操作端末14の操作画面)上に当該表示用
画像データを出力する機能的手段である。ここで,省エネ支援カレンダとは,指定された表示対象
期間に属する日を同一曜日が同一列又は同一行となるようにマトリクス状に整列して形成される一
般的なカレンダ表示に加えて,各日のデータ表示領域内に,前記在不在情報と,前記評価結果,前
記消費実績値,及び前記消費目標値の内の少なくとも一の情報(以下,これらの情報を「省エネ支
援用情報」と総称する)が配置されて構成されるカレンダ形式の表示態様である。又,表示対象期
間とは,カレンダとして表示させるために外部から指定される期間であり,所定月(例えば200
6年9月),処理日を含む月(例えば2006年9月25日であれば9月),或いは処理日を含む過
去1ヶ月(例えば2006年9月25日であれば8月26日から9月25日まで)等のように指定
される構成とすることができる。」
「【0051】
[省エネ支援カレンダの画面例]
次に,画像データ生成手段25によって生成される省エネ支援カレンダ表示用画像データによっ
て表示装置上で表示可能な省エネ支援カレンダの表示態様の一例について,図2~図8を参照して
説明する。
【0052】
図2は,省エネ支援カレンダの一画面例である。図2に示される省エネ支援カレンダ30は,カ
レンダ表示領域31,週毎評価集計領域32,及び曜日毎評価集計領域33の3領域で構成される。
尚,図2は,表示対象期間として2006年9月が指定された場合の一画面例を示しており,日曜
日を起点として2006年9月に係る全30日を含む5週間分が表示されている。尚,表示対象期
間が月で指定される場合に,表示される5週間内に指定月以外の月(前月,或いは次月)が含まれ
る場合には,これらの月に属する日は,指定月と識別できるように色分けをするものとしても良く,
又,休日と平日とを識別するために更に別の色分けをしても良い。図2では,前月に属する日(2
006年8月27日から8月31日まで)については灰色で塗りつぶすことで指定月(2006年
9月に属する日)との識別を可能としており,又,土曜日,日曜日及び祝日については網掛けを付
して平日との識別を可能としている。
【0053】
尚,表示対象期間として月が指定された場合,表示方法として指定された月の初日を起点として
表示する表示方法と,図2に示すように日曜日を起点として表示する表示方法とを切替可能に構成
されているものとしても構わない。
【0054】
カレンダ表示領域31は,表示対象期間に属する日を,同一曜日が同一列又は同一行となるよう
にマトリクス状に整列したカレンダ形式の表示がされる領域である。このとき,表示対象期間に属
する日毎に,当該日の省エネ支援用情報が表示されるデータ表示領域34が形成される。」
「【0058】
図3は,省エネ支援カレンダ30の各日に係るデータ表示領域34の表示例である。図3(a),
(b)及び(c)は,夫々2006年9月1日,10日,及び19日のデータ表示領域の表示例を
示している。
【0059】
図3(a)に示されるように,データ表示領域34には,消費目標値が折れ線41で示されてお
り,消費実績値が棒グラフ42で示されている。又,不在時間帯と滞在時間帯とが識別されて表示
されており,図3(a)では,不在時間帯42aが滞在時間帯より濃く塗りつぶされている。尚,
折れ線,或いは棒グラフによる表示形式は一例であって,この形式に限定されるものではない。又,
不在時間帯と滞在時間帯の識別方法についても,図3上に示されるような濃淡を相違させる方法に
限られず,形状,模様,色彩,又はこれらの組み合わせによって両者を相違させることで識別可能
に構成されるものとして良い。」
「【0071】
図6は,あるエネルギ消費者の,ある日のデータ表示領域内の表示例であり,図6(a)と図6
(b)とは,同一曜日で異なる日のデータ表示例であるとする。以下では,図6(a)が2006
年9月14日木曜日のデータ表示であり,図6(b)が2006年9月21日木曜日のデータ表示
であるとする。
【0072】
図6では,両日共に評価結果が表示されていないことから,エネルギ消費者は当該表示内容を確
認して両日共に消費実績値を消費目標値以下に抑制できなかったことを認識する。このとき,図6
(a)及び(b)を検討すると,不在時間帯51a及び51bに係る消費実績値と消費目標値との
乖離と,他の時間帯(滞在時間帯)に係る消費実績値と消費目標値との乖離との間に,大きな差異
が見られない。即ち,このエネルギ消費者は,不在時と滞在時とでエネルギ消費量にあまり相違が
ないことが分かる。通常,滞在時と不在時とを比較すると,滞在時の方がエネルギ消費量が顕著に
大きくなると言えるため,かかる点を考慮すると,このエネルギ消費者は不在時のエネルギ消費量
を削減する余地があると想定することができる。従って,今後は不在時のエネルギ消費量を削減す
るような省エネ行動を取り組むことで,消費実績値を消費目標値以下に抑制することができる可能
性があると言える。
【0073】
又,このエネルギ消費者は,両日ともに14時から18時まで不在にしていることが分かる。図
面上には図示していないが,他の木曜日についても同様に14時から18時まで不在にしていた場
合,かかる曜日のかかる時間帯は常に不在状態であり,防犯の観点からは好ましくない状態である
ことが分かる。エネルギ消費者は,図2に示される省エネ支援カレンダ30を確認した際に,特に
同一曜日に同一時間帯が不在状態であれば,図2の表示例では所定の同一列領域が他の領域とは異
なる表示態様になるため,同一曜日の同一時間帯に不在状態である旨を認識することができる。従
って省エネ支援カレンダの表示によって,例えば同一曜日内における不在時間帯を可能な範囲内で
ずらす等の防犯対策上の行動を推進する効果も期待できる。
【0074】
図7は,図6のエネルギ消費者とは異なる別のエネルギ消費者の,ある日のデータ表示領域内の
表示例であり,図7(a)と図7(b)とは,同一曜日で異なる日のデータ表示例であるとする。
以下では,図7(a)が2006年9月22日金曜日のデータ表示であり,図6(b)が2006
年9月29日金曜日のデータ表示であるとする。
【0075】
図7も,図6と同様,両日共に評価結果が表示されていないことから,エネルギ消費者は当該表
示内容を確認して両日共に消費実績値を消費目標値以下に抑制できなかったことを認識する。この
とき,図7(a)及び(b)を検討すると,18時から23時にかけての時間帯52a,52bに
係る消費実績値と消費目標値との乖離が,他の時間帯における乖離と比較して際立って大きいこと
が分かる。即ち,このエネルギ消費者は,18時から23時にかけての時間帯のエネルギ消費量が
特に大きいために消費目標値以下に抑制できていないことを知ることができる。言い換えれば,1
8時から23時にかけての時間帯においては,省エネ行動を行う余地が存在すると言えるため,か
かる時間帯のエネルギ消費量の抑制を図る省エネ行動を取り組むことで消費実績値を消費目標値以
下に抑制することができる可能性があると言える。
【0076】
図8は,ある一週間についての省エネ支援カレンダ31上の表示画面の一例であり,2006年
9月3日から9月9日までの一週間について表示されている。この表示されている時点が2006
年9月9日である場合,エネルギ消費者は,表示内容を確認することでこの一週間については前日
まで全て消費実績値を消費目標値以下に抑制できていることを認識すると共に,当日(2006年
9月9日)も目標値以下に抑制することができれば,今週については全て消費目標値以下に抑制す
ることができて,週毎評価集計領域32に達成表示が付されることを認識する。これによって,当
日の省エネ行動を積極的に取り組む動機付けとすることができる。」
イ引用発明の特徴
引用発明は,エネルギ消費者が表示装置上に表示される省エネ支援カレンダを確
認することで,表示対象期間に係るエネルギ消費量の実績値や評価結果を認識可能
にするものであり,引用発明により,エネルギ消費者は,この表示装置上に表示さ
れる省エネ支援カレンダによって,表示対象期間に係るエネルギ消費量の実績値や
評価結果等の省エネ支援用情報を曜日別或いは週別に確認することができ,曜日別
或いは週別の過去の行動の比較が容易であるとともに,これらの過去の行動を参照
して今後の省エネ行動への指針とすることができるなどの効果を奏する点に特徴が
ある。
2取消事由1(引用発明認定の誤り1-デマンド値の利用の有無)について
当裁判所は,引用発明に「各デマンド時限のエネルギ消費量の実績値を表示する
エネルギ消費量の実績値についての棒グラフによる表示」があるとした審決の認定
には,誤りがあると判断する。
本願発明は,従来技術においては,各日の各デマンド時限のデマンド値を把握し
つつ,他の複数の日のデマンド値と比較することが困難であったとの課題を解決す
るための発明である。本願明細書には,「デマンド時限」とは電力会社などが設定し
た時間の区切りであって,例えば「0~30分,30~60分」の30分間の単位
が考えられるとされ,「デマンド値」とはデマンド時限における平均使用電力を指し,
「デマンド値」が,電気料金の基本料金の計算に使用されたり,契約電力の基準と
されたりするため,過去所定期間(例えば,過去12カ月)の最大値を更新しない
ように対策を立てる必要がある旨が記載されている。
他方,引用例1には,「所定の時間」について,電力会社などが設定した時間の区
切りであることや,「所定の時間毎のエネルギ消費量の実績値」が,電気料金の基本
料金の計算に使用されることや契約電力の基準となることについての記載及び示唆
はない。のみならず,引用例1では「一例として,以下では1時間毎のエネルギ消
費量を計測可能であるとする」としており,電力会社で通常採用される30分単位
のデマンド時限(甲9)と異なる単位時間を例示していることからすれば,引用発
明においては,当該「所定の時間」としてデマンド時限を採用することは示されて
いないと解するのが相当である。
そうすると,引用発明に,「各日の区画にて各軸の目盛に従って各デマンド時限の
エネルギ消費量の実績値を表示するエネルギ消費量の実績値の棒グラフによる表示
と,を有する」との構成中の「各デマンド時限のエネルギ消費量の実績値を表示す
る」との技術事項が記載,開示されているとした審決の認定には,誤りがある。
以上に対して,被告は,乙1ないし乙4を提出し,「電力量計で計測する単位時間
をデマンド時限として設定すること」及び「デマンド時限として1時間を単位とす
ること」は周知慣用であるから,引用例1の記載に接した当業者は,デマンド時限
を単位時間として行うことも認識すると主張する。
しかし,これらの事項が周知慣用であったとしても,引用例1において,「所定の
時間」及び「所定の時間毎のエネルギ消費量の実績値」との記載が,デマンド時限
及びデマンド値として認識され,開示されるものではない。このように,デマンド
時限及びデマンド値を開示しない引用例1の記載に接した当業者は,デマンド時限
を単位時間として行うことを認識するともいえないから,被告の主張は採用の限り
ではない。
3結論
以上のとおりであり,その余の点を判断するまでもなく,審決には,取消事由1
に係る引用発明認定の誤りがある。本願発明と引用発明とは,少なくとも,本願発
明が,「デマンド値を用い,デマンド値軸を備えるデマンドカレンダーである」のに
対して,引用発明は,「エネルギ消費量の実績値を用い,エネルギ消費量の実績値の
軸を備える省エネ支援カレンダである」点において相違するものであって,審決は
この相違点についての判断を逸脱している。したがって,取消後の審判手続におい
ては,上記相違点についても,本願発明が引用発明から容易に想到することができ
るか否かを判断することが必要となる。よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
八木貴美子
裁判官
小田真治
別紙
本願明細書の【図1】
引用例1の【図3】(a)

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