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平成12年(ネ)第2490号 実用新案権侵害差止等請求控訴事件
平成12年11月21日口頭弁論終結。原審・横浜地方裁判所平成8年(ワ)第22
42号
     判    決
 控訴人(被告)  中興化成工業株式会社
 代表者代表取締役 【A】
 訴訟代理人弁護士 寒河江孝允、武藤元、補佐人弁理士 鈴江武彦、河井将次
 被控訴人(原告) 本多産業株式会社
 代表者代表取締役 【B】
 訴訟代理人弁護士 川上英一、飯島康博、補佐人弁理士 池田宏
     主    文
 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
 被控訴人の請求を棄却する。
 訴訟費用は、第1、第2審とも被控訴人の負担とする。
     事実及び理由
第1 控訴人の求めた裁判
 主文第1、第2項同旨の判決。
第2 事案の概要
 被控訴人は、名称を「蛇行防止コンベアベルトのガイド体」とする本件考案につ
いての登録第2053947号の実用新案権者であるが、控訴人製造、販売に係る
原判決別紙物件目録(一)、(二)記載の製品(イ号物件、ロ号物件)が本件実用
新案権を侵害するとして、これら製品の製造等の差止め等及び損害賠償を請求し、
原判決は、控訴人に対し、イ号物件、ロ号物件の製造、販売の差止めと廃棄及びこ
れらの半製品の廃棄を命じ、請求額の一部につき損害賠償を命じた。
 争点を含む事案の概要は、原判決事実及び理由中の第二に示されているとおりで
ある。
第3 控訴理由(要点)
 1 構成要件bについて
 (1) 本件考案における構成要件b「右ガイド体は複数の細い紐を編組することに
より構成される」のガイド体4は、複数の編組された各紐を更に互いに編組してい
る構成である。このことは、本件明細書において、本件ガイド体4の構成につき以
下のように記載されていることから明らかである。
 「編組された複数の紐の内、1本の紐に着目した場合、この1本の紐は編組され
ているために、ある部分では外側へ位置したり、他の部分では内側に位置したりし
て内外に廻って編組されている。他の各紐も同様である。」(本件公告公報第4欄
23~27行)
 「編組された複数の紐5a、5b、5c、・・・の内、1本の紐に着目した場
合、この1本の紐は編組されているために、ある部分では外側へ位置していたもの
が、他の部分では内側へ位置するように内外に回って編組されている。なお、他の
各紐も同様である。」(同第5欄40~44行)
 (2) イ号物件の構成Bにおけるガイド体4としての紐は、その中心に芯糸が存在
し、その周囲を複数の細いより糸(合撚糸)5a、5b、5c、・・・が互いに編
組された構成であるが、このような中芯と外周の二重構造から成る紐の構成物は、
次のように、本件考案の出願(昭和63年11月16日)前から公知となってお
り、新規な真新しい技術でも物質でもない。したがって、イ号物件のガイド体の紐
は単に公知のものを使っているにすぎない。このような構成のガイド体の紐は、本
件考案の構成要件bの範囲から除外されるべきである。
 すなわち、実開昭61-176299号公報(乙9)においては、本件と全く同
じアラミド繊維糸等の化学繊維を用いて、互いに編組された外周体とその中芯に米
国デュポン社製の高品質ケブラーと称するやはりアラミド繊維で成形される心
(芯)線の存在する、二重構造のロープ(同公報のロープとは、本件でいうガイド
体としての紐と同義語として使っている。)の構成が示されている。
 東京製綱維ロープ株式会社カタログ(昭和59年10月ころ=乙10-1、2、
昭和61年6月ころ=乙11-1、2)には、外周がポリエステル等の化学繊維に
よる編組構成により成り、中芯が米国デュポン社製ケブラー繊維より成る内外二重
構造のロープ(本件でいうガイド体の紐と同義語)の構造が示されている。
 2 構成要件cについて
 (1) 本件考案における構成要件c「その断面形状が右主動プーリ及び従動プーリ
の周面に形成されているガイド溝に過不足なく嵌合するような形状に形成されてい
ることを特徴とする蛇行防止コンベアベルトのガイド体」のガイド体4は、その断
面形状が、「ガイド体4の側面がガイド溝の側面に当接支持されるように形成さ
れ」た構成である。したがって、本件考案のガイド体4は、「断面形状がガイド溝
の側面にすき間なく当接支持され」た構造でなければならない。このことは、本件
明細書の考案の詳細な説明及び図面に次のとおり明確に示されている。
 「その断面形状が上記主動プーリおよび従動プーリの周面に形成されているガイ
ド溝に過不足なく嵌合するような形状に形成されていることを特徴とする」(本件
公告公報第4欄11~14行)
 「ガイド体4の側面がガイド溝のテーパ状側面に当接支持されてコンベアベルト
本体1がガイドされる。」(同第5欄30~31行)
 「ガイド体の断面形状を主動プーリおよび従動プーリの周面に形成されているガ
イド溝に過不足なく嵌合するように形成して」(同第7欄4~6行)
 また、本件考案の図面第5図は、ガイド体4が、ガイド溝に過不足なく嵌合して
いる形状を示しているが、その形状は、ガイド体4の側面がガイド溝に当接支持さ
れるものであることが明示されている。
 (2) 「過不足なく嵌合」という本件考案の登録請求の範囲の記載は、本件考案の
当初明細書の登録請求の範囲には記載がなく、その考案の詳細な説明にも一切存在
していなかったもので、唯一、本件考案の当初図面第5図の説明として、「第5図
は、このようにして得られたコンベアベルトのガイド体4を主または従の円筒状の
ローラ11のガイド溝12に嵌合させた所を示し、ガイド体4の側面がガイド溝1
2のテーパ状側面に当接支持されてコンベアベルト本体1がガイドされる。すなわ
ち、ガイド体4の下面は底面13に当たらない。」との記載があった。
 したがって、本件出願経過における前後の技術内容の一貫性からみて、本件考案
の構成要件cの「過不足なく嵌合する」とは、ガイド体4の断面形状である側面が
ガイド溝12のテーパ状側面に過不足なく当接支持される構成であることが明らか
であり、本件考案はこのように限定した構成要件であるから、本件考案におけるガ
イド体4の側面形状は、ガイド体の形状、構造に当接支持(合致させ)されるよう
にその形状が形成されるものである。
 (3) これに対し、イ号物件におけるガイド体である紐は、いずれもガイド体4は
プーリの周面に形成されているガイド溝の形状に関係なく「適度な間隔」をもって
嵌合するように形成されているものであるから、「当接支持」される構成ではな
く、イ号物件の構成Cは本件考案の構成要件cを充足しない。
 3 ロ号物件について
 以上のとおり、イ号物件が本件考案の構成要件b、cを充足しないと解されるの
と同じ理由により、ロ号物件の構成B、Cも本件考案の構成要件b、cを充足しな
い。
 4 損害額について
 (1) 本件考案は、コンベアベルト全体の権利ではなく、コンベアベルトに付され
る「ガイド体」に限定した権利である。したがって、仮に権利侵害があるとして
も、損害額の算定においては、あくまでガイド体の利益相当部分が損害となる。
 (2) ガイド体とその取り付け加工費等一切の金額としては、コンベアベルト全体
の価格の33%となる。控訴人に賠償義務があるとしてもその額は、コンベアベル
ト全体価格の33%を越えることはない。
第4 被控訴人の反論
 1 構成要件bについて
 控訴人は、本件考案の構成要件bをもって、複数の編組された各紐を更に互いに
編組している構成であると主張するが、登録請求の範囲の記載に基づかないもので
ある。
 2 構成要件cについて
 (1) 控訴人は、本件考案の構成要件cにつき、本件考案のガイド体4は、「断面
形状がガイド溝の側面にすき間なく当接支持され」た構造でなければならないと主
張するが、これも登録請求の範囲の記載から遊離して主張するものにすぎない。
 本件考案の構成要件cは、実用新案登録請求の範囲の記載によると「ガイド体
は、その断面形状が主動プーリ及び従動プーリの周面に形成されているガイド溝に
過不足なく嵌合するような形状に形成されていること」であり、イ号物件のガイド
体4はプーリ11の周面に形成されているガイド溝に適度な間隔をもって嵌合する
ように形成されていることである。これを比較すると、イ号物件のガイド体4も本
件のガイド体と同様に、プーリの周面に形成されているガイド溝に嵌合しているこ
と、かつ、イ号物件のガイド体4も、ガイド溝12に適度な間隔をもって嵌合して
いるので、本件考案のガイド体と同様に、プーリの周面に形成されているガイド溝
に過もなく不足もなく、すなわち適度に嵌合するような形状に形成されていること
になるから、イ号物件の構成Cは本件の構成要件cを充足する。
 (2) 明細書の考案の詳細な説明中の考案の解決課題、作用、効果等の記載に従っ
てみると、本件考案の構成要件cによって、登録請求の範囲中の「右記ベルト本体
が所定の位置を走行できるように案内するためのガイド体(構成要件aの一部)」
のように、ベルト本体はスムーズに走行でき、つまりガイド体によって抵抗を受け
ることなく走行でき、かつベルト本体はガイド体によって案内され蛇行防止される
ものである。そして、本件考案の公告公報の「ガイド体が主動プーリおよ従動プー
リに形成されているガイド溝内を案内される時に」(第4欄17~18行)の記載
のように、ベルト本体はスムーズに走行されかつ案内されるものであり、また、公
告公報の「複数の細い紐を編組してガイド体を構成するとともに、その断面形状を
主動プーリおよび従動プーリの周面に形成されているガイド溝に過不足なく嵌合す
るように形成して(いる)ので、上記ガイド体が主動プーリおよび従動プーリに形
成されているガイド溝中に嵌合して走行するときに」の記載(第7欄3~8行)の
ように、ベルト本体はスムーズに走行され、ガイド体によって案内される。
 (3) 「過不足なく嵌合」の構成は、本件考案の直接かつ一義的な効果、すなわ
ち、「右記ガイド体が主動プーリ及び従動プーリに形成されているガイド溝中に嵌
合して走行するときに伸縮力が加えられると、右記伸縮力に応じて編組体が良好に
変形する。したがって、ガイド体の各部に偏ったストレスが可及的にかからないか
ら、スムーズなガイド性を確保することができるとともに、繰り返し湾曲させられ
てもガイド体が破損することがなく、耐久性に優れた蛇行防止用コンベアベルトを
提供することができる。」を達成するための大前提であり、「過不足なく嵌合」の
意味が「適度に・・・ベルト本体の走行にも支障がなく、同時にベルト本体を案内
し、蛇行防止を図るために適度であること」の前提が、登録請求の範囲の記載及び
明細書全体に示されているのである。
 3 控訴理由のその余の主張について
 すべて争う。
第5 当裁判所の判断
 当裁判所は、以下に説示する理由により、イ号物件及びロ号物件の構成C(原判
決で「構成要件C」と表記している構成「ガイド体4はプーリ11の周面に形成さ
れているガイド溝12に適度な間隔をもって嵌合するように形成されているこ
と」)は、本件考案の構成要件cを充足しないものであり、被控訴人主張のその余
の点について判断するまでもなく、イ号物件及びロ号物件は本件考案の技術的範囲
に属するものではないと判断する。
 1 構成要件cに関する登録請求の範囲の記載の解釈
 本件考案の構成要件cは、「その断面形状が右主動プーリ及び従動プーリの周面
に形成されているガイド溝に過不足なく嵌合するような形状に形成されていること
を特徴とする蛇行防止コンベアベルトのガイド体」であり、文言上「過不足なく嵌
合するような」は、ガイド体の断面形状を特定する用語として使用されていること
が明らかである。
 そして、証拠(乙6-1~8)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、本件考
案の出願において、平成4年4月2日付け拒絶理由通知書に対し、同年6月19日
付けでした手続補正により、登録請求の範囲の記載中の「編組した後の全体の断面
形状を略丸形、角形とした」との明らかに形状に関する記載を、「(ガイド体の)
断面形状が・・・ガイド溝に過不足なく嵌合するような形状に形成されている」と
補正したことが認められ、この経緯からしても、「過不足なく嵌合するような」は
ガイド体の断面形状についての構成を意味するものと解さざるを得ない。
 2 考案の詳細な説明の記載
 証拠(甲5、乙6-3)によれば、本件考案の出願当初明細書及び補正後の明細
書(公告公報)の考案の詳細な説明に、「第5図は、このようにして得られたコン
ベアベルトのガイド体4を主又は(または)従の円筒状のローラ11のガイド溝1
2に嵌合させた所を示し、ガイド体4の側面がガイド溝12のテーパ状側面に当接
支持されてコンベアベルト本体1がガイドされる。即ち(すなわち)、ガイド体4
の下面は底面13に当らない。」(当初明細書9頁9~15行、公告公報第5欄2
7~33行)との記載があり、実施例に関するものであるが、ガイド体の断面形状
を特定する記載となっている。
 また、証拠(甲5、乙6-3、6、7)によれば、補正後の明細書には、本件考
案の考案の詳細な説明の効果の項に、「以上詳述した如くこの考案によれば、複数
の細い紐を編組してガイド体を構成するとともに、その断面形状を主動プーリおよ
び縦(従)動プーリの周面に形成されているガイド溝に過不足なく嵌合するように
形成して(いる)ので、上記ガイド体が主動プーリおよび縦(従)動プーリに形成
されているガイド溝中に嵌合して走行するときに伸縮力が加えられると、上記伸縮
力に応じて編組体が良好に変形する。したがって、ガイド体の各部に偏ったストレ
スが可及的にかからないから、スムースなガイド性を確保することができるととも
に、繰り返し湾曲させられてもガイド体が破損することなく、耐久性に優れた蛇行
防止用コンベアベルトを提供することができる。」(公告公報第7欄3~14行)
との記載があること、このうち、「その断面形状を主動プーリおよび縦(従)動プ
ーリの周面に形成されているガイド溝に過不足なく嵌合するように形成して(い
る)」の部分は、平成4年6月19日付け手続補正によって加わったものであるこ
とが認められる。ここにおいても、ガイド体の断面形状をガイド溝に過不足なく嵌
合するように形成することを前提にした記載がされている。
 3 構成要件cについての総合判断
 前記1で説示したように、登録請求の範囲の記載中の「過不足なく嵌合するよう
な」はガイド体の断面形状に関する構成であり、その「過不足なく」と「嵌合す
る」との文言の通常の意味からすれば、ガイド体の断面形状がガイド溝にはみ出さ
ず、かつ、空隙なくはまり合う形状に形成されていることと解するのが自然であ
る。他方で、前記2に認定したとおり、考案の詳細な説明中には、実施例の説明と
して「ガイド体4の側面がガイド溝12のテーパ状側面に当接支持され」との記載
に続き、「ガイド体4の下面は(ガイド溝12の)底面13に当たらない」旨の記
載があり、また、本件考案が蛇行防止を目的とするコンベアベルトのガイド体に関
するものであって、コンベアベルトの蛇行を防止するとともに、コンベアベルトの
スムーズな動きに支障とならない構成が必要なことは、技術上明らかであるから、
ガイド体とガイド溝とがすべての面において完全に密着し、何らの空隙もないもの
では、かえって目的を達し難いことも理解され、本件考案の構成要件も、完全に嵌
合することまでを要件としているものではない。
 以上の点に照らすと、本件考案においては、ガイド体の断面形状はガイド溝の断
面形状とほぼ同一の形状に形成され、両者に空隙部分があるとしても、ガイド体と
ガイド溝が、少なくともいずれかの面において当接しているとの構成を有するもの
と理解することができる。そして、前記2に認定した本件考案の明細書の考案の詳
細な説明における実施例に関する記載及び図面によれば、断面形状が台形のガイド
溝中に、ほぼ同一幅の台形の断面形状を有するガイド体が嵌合され、ガイド体はガ
イド溝の底面とは接していないが、ガイド体の両側面がガイド溝のテーパ状両側面
に当接支持される態様のものが示されており、この態様は、ガイド溝の両側面にガ
イド体の両側面が当接されるものであって、上記解釈に沿うものである。そして、
前記2の本件考案の公告公報第7欄3~14行の効果の記載に照らせば、この実施
例の構成のものが、ガイド体とガイド溝とが断面形状において「過不足なく嵌合す
る」ような形状に形成するとの構成に合致するものというべきである。
 これに反し、ガイド体とガイド溝との間に間隔を有して両者が接することのない
断面形状の構成のものは、登録請求の範囲の解釈からは導くことのできないもので
あるし、上記の説示によれば、このような構成のものまでが、本件発明の明細書及
び図面の記載から導かれるものと解することはできない。
 原判決は、登録請求の範囲の「過不足なく」は、機能的にみて、コンベアベルト
の動きを停めることなく、またコンベアベルトの蛇行を放置することなく機能する
ような嵌合状態となることと理解すべきであるとして、そのような機能が確保され
る限り、設計上はガイド溝とガイド体との接点の位置関係にはある程度様々な態様
のものが包含されると解するのが相当である旨判断し、被控訴人の主張もこれを支
持するものである。しかし、以上の説示に照らすと、このような解釈は、ガイド体
とガイド溝との関係につき補正により規定した登録請求の範囲の内容から離れて、
何らの限定もないものと解するに等しく、採用することができない。
 4 イ号物件及びロ号物件の構成Cとの対比
 イ号物件及びロ号物件の構成Cは、「ガイド体4はプーリ11の周面に形成され
ているガイド溝12に適度な間隔をもって嵌合するように形成されていること(第
5図、第6図、第7図参照)」というものである。各第6図、第7図には、断面形
状が長方形のガイド溝中に、縦、横の長さが約半分の長方形の断面形状を有するガ
イド体が嵌合され、ガイド体とガイド溝の底面及び両側面とは広く離れていて、当
接する部分のない構成が図示されており、イ号物件及びロ号物件において、ガイド
体はガイド溝との間で接することはないから、3で説示した本件考案の構成要件c
を充足するものではない。
第6 結論
 よって、被控訴人の本訴請求は理由がなく、本件控訴は理由があるので、主文の
とおり判決する。
  東京高等裁判所第18民事部
          裁判長裁判官   永   井   紀   昭
             裁判官   塩   月   秀   平
             裁判官   橋   本   英   史

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