弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
一 被告が原告太平洋観光株式会社に対してした以下の各処分を取り消す。
1 平成六年四月一日から平成七年三月三一日までの事業年度の法人税について、
平成一〇年二月一七日付けでした再更正のうち所得金額三億一六六八万一七一〇
円、納付すべき税額一億一九二一万二三〇〇円を超える部分、平成九年五月三〇日
付けでした過少申告加算税賦課決定及び平成一〇年二月一七日付けでした過少申告
加算税再賦課決定
2 平成七年四月一日から平成八年三月三一日までの事業年度の法人税について、
平成九年五月三〇日付けでした更正(ただし、平成一〇年二月一七日付けでした再
更正により減額された後の部分)のうち所得金額三億四九八七万六五八九円、納付
すべき税額一億四二一六万〇三〇〇円を超える部分及び平成九年五月三〇日付けで
した過少申告加算税賦課決定(ただし、平成一〇年二月一七日付け変更決定により
減額された後の部分)
3 平成五年五月から平成六年三月まで、平成六年五月から平成七年三月まで及び
平成七年五月から平成八年三月までの各月分の源泉徴収に係る所得税について平成
九年五月三〇日付けでした納税の告知及び不納付加算税賦課決定
二 被告が原告米日交易株式会社に対してした以下の各処分を取り消す。
1 平成六年四月一日から平成七年三月三一日までの事業年度の法人税について、
平成一〇年二月一七日付けでした再更正のうち所得金額三億〇四〇二万〇四五七
円、納付すべき税額一億一五一七万四〇〇〇円を超える部分、平成九年五月三〇日
付けでした過少申告加算税賦課決定及び平成一〇年二月一七日付けでした過少申告
加算税再賦課決定
2 平成七年四月一日から平成八年三月三一日までの事業年度の法人税について、
平成九年五月三〇日付けでした更正(ただし、平成一〇年二月一七日付けでした再
更正により減額された後の部分)のうち所得金額三億八七六五万九六〇七円、納付
すべき税額一億五六九九万〇一〇〇円を超える部分及び平成九年五月三〇日付けで
した過少申告加算税賦課決定(ただし、平成一〇年二月一七日付け変更決定により
減額された後の部分)
3 平成五年五月から平成六年三月まで、平成六年五月から平成七年三月まで及び
平成七年五月から平成八年三月までの各月分の源泉徴収に係る所得税に
ついて平成九年五月三〇日付けでした納税の告知及び不納付加算税賦課決定
第二 事案の概要
 本件は、消費者金融業を営む同族会社である原告らが、金融機関からの借入れに
際し原告らの代表取締役から連帯保証を受けたことに対し、同代表取締役に対し支
払い、損金に算入して申告した保証料について、被告が、保証料としての適正額を
超えており、当該超過部分は損金に算入できない過大な役員報酬であると認定し、
原告らの法人税について、右超過額の損金算入を否認して、更正及び過少申告加算
税賦課決定等の処分(前記第一の一、二の各1、2項記載の各処分)を、また、原
告らの源泉徴収に係る所得税について、右超過額を所得税の源泉徴収の対象となる
給与等にあたるものと認めて納税告知及び不納付加算税賦課決定等の処分(前記第
一の一、二の各3項記載の各処分)をしたことに対して、原告らが、右認定を争
い、右各処分(以下「本件各処分」という。)の取消しを求めた事案である。
一 前提となる事実
 以下の事実は、当事者間に争いがない事実並びに甲一号証ないし四号証、乙一号
証ないし一〇号証、乙一二号証ないし一五号証及び弁論の全趣旨により認定するこ
とができる事実である。
1 原告太平洋観光株式会社及び原告米日交易株式会社の概要
 原告太平洋観光株式会社(以下「原告太平洋観光」という。)は、消費者金融業
等を営む同族会社であり、発行済株式のうち、代表取締役会長のAが三九パーセン
トを、同人の妻で同社の取縮役であるBが六パーセントを、同人の長男で同社の代
表取締役社長であるCが四パーセントをそれぞれ所有するなど、A及びその親族関
係にある個人が発行済株式の九八パーセントを所有している。
 原告米日交易株式会社(以下「原告米日交易」という。)も、消費者金融業等を
営む同族会社であり、発行済株式のうち、代表取絡役会長のAが五三・七五パーセ
ントを、同社の取締役であるBが一六・二五パーセントを、同社の代表取締役社長
であるCが二六・二五パーセントをそれぞれ所有するなど、A及びその親族関係に
ある個人が発行済株式の九八・二五パーセントを所有している。
2 本件保証料の支払
 平成五年四月一日から平成六年三月三一日まで、平成六年四月一日から平成七年
三月三一日及び平成七年四月一日から平成八年三月三一日までの各事業年度(以
下、それぞれ「平成六年三月期」、「平成七年三月期」及び「平成八年三
月期」という。)における原告太平洋観光の取引金融機関ごとの各月初めの借入金
(ただし、Aが連帯保証人又は連帯債務者になっているもの。)の残高、連帯保証
人及び担保の提供の状況は、別表一の1ないし3記載のとおりであり、原告米日交
易の右借入金残高等の状況は、別表二の1ないし3記載のとおりである。
 原告らは、Aが右各借入金について連帯保証人又は連帯債務者になったこと(以
下、一括して「本件保証」という。)に対し、平成元年四月一日から、保証料とし
て、保証に係る借入金の各月初めの残高に月利率〇・一六六六六六六パーセント
(年利率二パーセントに相当)を乗じて計算された額を支払い(以下「本件保証
料」という。)、これを支払利息として各事業年度の損金に算入して法人税の申告
をした。
 平成五年四月から平成八年三月までの本件保証料の支払額は、別表三の1ないし
3及び同四の1ないし3の各項目⑦記載のとおりである。
 なお、A以外の原告らの役員及び原告ら相互も原告らの借入金の一部を保証して
いるが、右保証に対しては保証料は支払われていない。
3 Aに対する役員報酬の支給限度額
 原告らが株主総会決議及びこれに基づく取締役会決議によって定めたAに対する
役員報酬の限度額(年額)は、いずれも、平成六年三月期が四八〇〇万円、平成七
年三月期が五四〇〇万円、平成八年三月期が五九四〇万円であり、原告らは、右各
事業年度に、本件保証料と別途に、同人に対し役員報酬として右と同額の金員を支
払ずみである。
4 本件各処分の経緯
(一) 原告らの確定申告
 原告らが、平成六年三月期から平成八年三月期までの法人税についてした確定申
告及び修正申告の経緯は別表五及び同六記載のとおりである。
(二) 処分の経緯
(1) 法人税関係
 原告らの前記(一)の各事業年度の法人税について、被告がした更正及び再更正
の経緯は別表五及び同六記載のとおりである。
 また、被告は、右各法人税に係る過少申告加算税について、平成九年五月三〇日
付けで右各表の「過少申告加算税の額」欄記載の額の賦課決定をし、平成一〇年二
月一七日付けで、平成七年三月期について、右各表の「過少申告加算税の額」欄記
載の額の賦課決定を、平成八年三月期について、右各表の「過少申告加算税の額」
欄記載の額を減額する変更決定をした。
(2) 源泉所得税関係
 原告らの平成五年五月分から平成六年三月分まで、平成六年五月分か
ら平成七年三月分まで及び平成七年五月分から平成八年三月分までの源泉徴収に係
る所得税(以下「源泉所得税」という。)について被告がした納税告知及び不納付
加算税の賦課決定の経緯は別表五及び同六記載のとおりであり、各月分の内訳は別
表七記載のとおりである。
(三) 処分の理由
(1) 法人税関係
ア 被告は、法人が金融機関から借入れをするに際して代表取締役等の役員の保証
を受け、当該役員に対して保証料を支払う場合、法人税法上損金として認められる
保証料の額は、信用保証協会の最高保証料率である年利率一パーセントを適用して
算出される額を上限とするのが合理的であるとの見解のもとに、原告らがAに支払
った保証料のうち、同人の各月初めの債務保証額の残高に右保証料率(一か月あた
り一二分の一パーセント)を乗じて算出した額(別表三の1ないし3及び同四の1
ないし3の項目④記載の額)を損金として認めることができる各月の適正な保証料
の額とし、これを超える部分(別表三の1ないし3及び同四の1ないし3の「報酬
とされる額」欄記載の額。以下「本件否認部分」という。)を同人に対する各月の
報酬と認定した。
 そして、本件否認部分は右支給限度額を超える役員報酬となることから、被告
は、原告らが損金に算入して申告していた本件否認部分を法人税法三四条一項及び
同法施行令六九条により、過大な役員報酬として原告らの損金に算入できないもの
と認め、原告らの法人税について前記(二)(1)の各更正の処分をした。
 なお、被告は、原告太平洋観光の平成八年三月期の法人税の更正において、同原
告の新規取得土地の負債利子の損金不算入額(租税特別措置法六二条の二)の申告
額が過大であったとして、所得金額の計算において一七万九七二五円の減算を認
め、原告米日交易の平成七年三月期の法人税の更正において、同原告の交際費の損
金不算入額の申告額が誤記により一円過大であったとして、同額を所得金額の計算
において加算し、同原告の平成八年三月期の法人税の更正において、同原告の新規
取得土地の負債利子の損金不算入額(租税特別措置法六二条の二)の申告額が過大
であったとして、所得金額の計算において一七万九七二五円の減算を認めた。
イ 平成六年三月期の法人税の更正及び過少申告加算税賦課決定の各取消し(平成
九年一一月六日付け異議決定)は、右更正が国税通則法七〇条一項に規定する期間
を経過した後に
された無効な処分であったことを理由とするものである。
ウ 平成七年三月期の法人税の再更正(増額)及び過少申告加算税再賦課決定(平
成一〇年二月一七日付け)は、右更正取消しに伴い、平成六年三月期の所得金額に
対して課される事業税額が減少し、その分平成七年三月期の損金額が減少し所得金
額が増加して法人税額が増加したことを理由とするものである。
 また、平成八年三月期の法人税の再更正(減額)及び過少申告加算税変更決定
(平成一〇年二月一七日付け)は、右再更生に伴い、平成七年三月期の所得金額に
対して課される事業税額が増加し、その分平成八年三月期の損金額が増加し所得金
額が減少して法人税額が減少したことを理由とするものである。
エ なお、各処分における所得金額及び税額の計算は、被告第一準備書面の第三の
三、四項及び第四の3、4項記載のとおりである。
(2) 源泉所得税関係
 被告は、本件否認部分が、原告らのAに対する役員報酬として、所得税の源泉徴
収の対象となる給与等にあたると認め、前記(二)(2)の各処分をした。
5 原告らの不服申立て
 原告らがした不服申立ての経緯は別表五及び同六記載のとおりである。
二 争点
 原告らが主張する本件各処分の違法事由は、①本件保証料は適正な額であり全額
が損金として認められるべきであるのに、被告が、本件否認部分を損金として認め
なかったこと、そして、これに伴い本件否認部分を役員に対する報酬と認め源泉所
得税徴収の対象となる給与等と認定したこと、②平成五年五月分から平成六年三月
分までの源泉所得税の納税告知に関して、平成六年三月期の法人税の更正が取り消
されて納税義務がないことになったのに納税告知をしたことであり、本件争点及び
これに関する当事者の主張は、以下のとおりである。
1 本件保証料のうち、損金として認められる額を、信用保証協会の最高保証料率
(年利率一パーセント)を適用して算出される額を上限とすると解することが一般
に公正妥当と認められる会計処理の基準(法人税法二二条四項)の観点からみて合
理的であるか。
(一) 被告の主張
 会社役員が会社の債務を保証する場合であっても、会社の資力等によっては、債
権者から現実に保証の履行を求められる可能性がある立場にあり、また、相応の個
別的事情が存在する場合もあるから、会社役員が保証料を受領することを全面的に
否定することは相当でないとも考えられる。
 
しかし、保証料の名目で支払われた金員を総て損金に算入することを認めれば、会
社による保証料率の恣意的な設定により利益調整を自由にすることを可能とし、ま
た、過大な役員報酬を保証料の名目で支払うことにより損金に算入することを可能
ならしめ、課税上看過できない不公平を生じさせることになりかねない。特に同族
会社の場合は容易に恣意的な保証料率の設定が行われるおそれがある。
 一方、各社の個別事情だけを勘案して会社ごとに適正な保証料率を認定する運用
を行った場合には、その判断にばらつきが生じるおそれがあり、課税の公平を害
し、また、課税に関する予測可能性を失わせるおそれがあるから、課税の公平を図
り、課税の予測可能性を確保するためには、適正な保証料率の認定にあたり、一定
の客観的基準を設定し、個別的な事情はその基準の枠内で考慮できるに過ぎないと
解することが要請される。
 そして、会社役員による会社の債務の保証が、役員個人の利益を図るという営利
的な目的及び性格を持つものではなく、商法上会社の利益を図る義務を負い、専ら
会社の利益を図ることを目的として職務執行にあたるべき役員が、職務執行の一環
として行うという性格を持つものであり、社会通念上もそのように認識されてい
て、現実に保証料の支払が行われている事例はほとんどないことからすれば、会社
は、保証人となる役員に対して保証料を支払わないか、支払うとしても極めて控え
めな保証料率を設定すべきことが経済的にみて合理的といえるのであり、右料率
は、同様に非営利性を特徴とする信用保証協会が中小企業のために行う債務保証の
保証料率(上限年利率一パーセント)を参考として同様に定めることが合理的であ
る。このような意味での合理性は、法人税法二二条四項にいう一般に公正妥当と認
められる会計処理の基準を構成しているとみるべきである。
 本件において、右基準を修正すべき事情は認めらないから、本件保証料のうち、
信用保証協会の最高保証料率である年利率一パーセントをもって算出した範囲内の
部分に限り、損金算入が許される適正な保証料と認めた被告の認定は適法なもので
ある。
(二) 原告らの主張
(1) 取締役は会社に対して会社の債務を保証すべき義務を負うものではない。
取締役が会社債務を保証するということは、個人的な信用と財産を会社のために保
証責任追求の危険にさらし提供するということであり、金融機関が要
求するためにやむなく行う、取締役としての法定の業務執行を超えた行為である。
また、取締役がその地位及び職責の故に会社のために債務保証をするとしても、対
価として保証料を受領することの可否及びその額とは別の問題であり、保証の目的
から非営利的な行為であるということはできない。
 一方、会社は取締役の保証によって初めて金融上の利益を得ることが可能となり
恩恵を受ける。よって、会社に支払能力があれば、相当の対価を支払うのは当然許
されることであり、取締役が相応の保証の対価を受領することが会社の利益を犠牲
にして自己の利益を図ることになるものではない。
(2) 被告は、取締役が保証料の支払を受けることが異例である旨主張している
が、同族会社で取締役が会社債務を保証した場合に保証料の支払いが可能であるこ
とを理解しているところはほとんどなく、また、同族会社は中小企業であることが
多く、保証料を支払う余力がないのが現実である。
(3) 信用保証協会は中小企業の育成の見地から、その全体としての負担能力も
考慮して保証料率を民間の保証会社より低くしているのであって、保証の趣旨にお
いて取締役の保証と共通するところはない。また、信用保証協会は、保証するにつ
いて、次のような特別に有利な特徴を有していて取締役の保証と異なり、これを同
一に論じることは適切ではない。
ア 信用保証協会は、保証を行うか否かについて選択権を有するが、取締役にはこ
の選択権がないことがほとんどである。
イ 信用保証協会は、納税義務が免除されている(法人税法二項六号の公益法人等
に該当する。)のに対し、取締役には免除がなく、Aの場合、税率六二パーセント
の所得税及び市県民税を課されるので、二パーセントの保証料の支払を受けても
〇・七パーセントしか手元に残らない。
ウ 信用保証協会は、中小企業信用保険公庫と保険契約を締結することができる
が、取締役にはこのような保険制度はない。
エ 信用保証協会は、保証限度額を個人法人の場合二億円までとし、保証期間も最
長二〇年間までとしている。また、保証について別に担保物や保証人の提供等もで
きる。これに対し、取締役の保証には金額、期間とも制限がなく、会社から担保等
を徴求することも困難である。
(4) 保証料額の相当性は、会社の業務内容(業種、規模、資金需要の目的、事
業収益の状況等)及び業績、保証の必要性及び危険(金額、期間)、保証人
の保証能力等の事情を総合的に考慮して、判断されるべきである。なお、同族会社
と非同族会社で取締役の保証料率に差異を設ける合理的理由はない。
ア 原告らの業種は小口消費者金融業であり、信用保証協会の保証を受けることが
できない。また、原告らがAに保証を受けている債務は二〇億円以上であり、信用
保証協会の保証と比較できない。
イ 原告らの金融機関からの借入は、顧客に貸し出し直接金利という利益を生むも
のであるから、原告らにとって、借入のため相応の保証料を支払っても見合うもの
であり、また、原告らの経営は、現に年利率二パーセントの保証料を支払い、役員
報酬、役員賞与、配当を支払ってなお、原告太平洋観光が三六パーセント、原告米
日交易が三一パーセントの自己資本率を維持しているように健全であるから、右程
度の料率の保証料は対価として十分に支払うことができる。
ウ 本件保証料の適正さを判断するにあたり参考とすべきは民間の保証会社の借入
金の使途を限定しない一般のフリーローン、カードローンの保証料であり、その保
証料率は二・五ないし五・〇パーセントである。都銀が消費者金融を行う場合のコ
ストについてはランニングコストが三パーセント、保証料が二パーセントで、これ
に資金調達コストが加わるのが平均的とされているし、信用保証協会が課税法人で
あれば、税引後一パーセントの収益をあげるためには保証料率を二・三パーセント
程度に設定しなければならない計算となる。
 これらの個別具体的な事情に照らせば、原告らが支払った年利率二パーセントの
保証料は、合理的な範囲内のものである。
2 平成五年五月分ないし平成六年三月分の源泉所得税の納税告知が、平成六年三
月期の法人税の更正が取り消されたことに伴い取り消されるべきか。
(一) 被告の主張
 平成六年三月期の法人税の更正が取り消されたのは、同処分をなし得る期限(国
税通則法七〇条一項)を徒過したという形式的・手続的な事由によるものであり、
本件否認部分に係る役員報酬の支払の事実を否定したものではない。
 よって、右事実に基づき所得税法上当然に確定した源泉徴収義務の範囲が、右処
分の取消しによって左右されることはないから、右事業年度中の源泉所得税に係る
本件各納税告知を取り消すべき理由はない。
(二) 原告らの主張
 右期間の源泉所得税に係る本件各納税告知については、その基となった平成六年
三月期の法人税の更正
が、国税通則法七〇条一項に規定する期間の経過により、右処分をする権限がなか
ったという実体的理由に基づき取り消されたのであるから、原告らは、右事業年度
中の源泉所得税について実体的に徴収、納付すべき義務が無かったことになる。
 よって、右期間の源泉所得税に係る本件各納税告知も取り消されるべきである。
第三 当裁判所の判断
一 争点1について
1 法入税法は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金
の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、売上原価等の原価の額、
販売費、一般管理費その他の費用の額、損失の額で資本等取引以外の取引に係るも
のとし(二二条三項)、これらの額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基
準(以下「公正処理基準」という。)に従って計算されるべきものとしている(同
条四項)。
 会社の代表取締役等の役員が会社の債務について保証を行う場合に、その対価と
して会社から支払われる保証料については、本来、会社と当該役員との間の合意に
より、商法等に定める手続を行ったうえで、その金額等の内容を自由に決定し得る
ものである。
 しかし、法人税の課税の局面で、右保証料をその多寡に関わらず総て損金に算入
することを認める場合には、保証料の額の操作により会社が自由に利益を減少させ
ることが可能となるうえ、法人税法上損金算入に制限のある役員に対する報酬を保
証料の名目により支払い、右制限を事実上無意味にする結果を容易に実現できるこ
とになるから、公正処理基準の観点から、損金に算入できる保証料額は、諸般の事
情に照らし社会通念の許容する合理的な範囲内の金額に限られると解することが相
当である。
 本件保証に対して保証料を支払うことの合理性は、Aが原告らの債務を保証する
ことにより結果として保証債務の履行を強制される危険を負担しているため、これ
に対する対価を支払うことが許容され得ることにあるといえるところ、同人は原告
らの役員として原告らの債務を保証しているにすぎず、保証の受託を業とする者で
はないから、そもそも右危険に見合う保証料収入を得るだけの大量の保証を受託す
ることはあり得ず、本件保証における右危険度に応じた合理的な対価の額を直接的
に算定することは不可能である。
 よって、本件保証の目的、趣旨を踏まえた上で、他の保証事例における保証料の
相場や算定基準等を参考として、本件保証における適正な
保証料額を決定せざるを得ない。
2 役員による会社債務の保証の性質
 甲三号証、甲四号証、甲二一号証、証人D、同Eの各証言及び弁論の全趣旨によ
れば、金融機関は、会社に融資するに際しては、融資先の代表取締役等の役員を連
帯保証人とすることを確立した取り扱いとしており、本件保証に係る融資において
も、金融機関がA等原告の役員らに対して、当該役員の支払能力を具体的に調査す
ることなく、専ら役員たる地位に着目して債務保証を求めている事実を認定するこ
とができる。
 そして、甲五号証の1ないし3、甲一二号証の3、甲一三号証の3及び乙四二号
証によれば、原告太平洋観光の平成八年三月期末の自己資本比率(貸借対照表上の
資本の額を資本及び負債の合計金額で除して一〇〇を乗じた数値)は三六・一パー
セント、原告米日交易の同期の自己資本比率は三〇・七パーセントに及び、平成八
年度の全国の継続黒字企業の自己資本比率の平均値(二五・三パーセント)や平成
一〇年度の消費者向け貸金業を営む黒字企業の自己資本比率の平均値(一七・五パ
ーセント)を大きく上回ること、原告太平洋観光の貸倒率(年間の回収不能金及び
延滞金の合計額が期末貸付金等の債権合計額に占める割合)は三・七六パーセン
ト、原告米日交易の同期の貸倒率は三・八六パーセントにすぎないことが認めら
れ、原告らの財務内容はいずれも健全であるといえる。
 このように、金融機関が、原告らのように十分に経済的信用があって、貸付先と
して何ら不安がないと思われる会社に対しても、その代表取締役など当該会社の経
営について権限と責任を有する地位にある役員の債務保証を要求しているのは、信
用の補完を主たる目的としているのではなく(具体的に信用の補完を期待する場合
には必要とされる信用に見合った担保の提供を求めることが確実な方法であ
る。)、当該役員に対して債務保証という厳格な法的貴任を負わせることによっ
て、当該役員に自覚と責任をもって経営に当たらせることを主たる目的とするもの
であり、また、当該役員としては、保証の引受自体によって直接利益を得ることを
意図して保証するものではなく、金融機関から融資を得て当該会社の経営を維持拡
大することが間接的に自己の利益につながることと、忠実に当該会社の経営にあた
る責任を有する立場にあることから、経営上必要な融資を受けて会社の利益をはか
るため、職務上金融機関の要求に応じざ
るを得ないことにより、債務保証を引き受けているものと解される。
 Aによる本件保証についても、前記各認定事実からすれば右と同趣旨のものであ
ると推認され、これに反する事実を認めるに足りる証拠はない。
3 役員による保証に対する保証料支払の実態
 乙一六号証及び乙一八号証によれば、被告の実施した熊本国税局管内の貸金業を
営む法人で年間売上金額が五〇〇〇万円を超える一七六社の法人のうち、県庁所在
地及びそれに準じる税務署管内に本店を有する法人一五六社を対象とする調査の結
果、役員あるいはその親族が法人の債務保証をしている場合において保証料の支払
をしている法人は皆無であり、例外的に担保提供に対して被担保債務の年利率一パ
ーセント以下の担保提供料を支払っている事例が存在した事実を認定することがで
きる。
 右事実からすれば、会社の債務を保証した役員に対する保証料の支払は社会的に
むしろ異例のことであり、このような場合の保証料額については、実務上形成され
社会的に認知された価額ないしその算定基準が存在していないことが明らかである
から、他社における同種保証料支払の実状との比較によって、本件保証料の額の適
正さを検討することは不可能である。
4 民間の保証会社による保証との対比
 原告らは、本件保証料の適正さを判断するには、民間の保証会社の保証料を参考
にすべきであると主張する。
 民間の保証会社による保証は、営利行為として行われるものであり、その徴する
保証料は、当該保証会社の信用力の提供への対価である。保証会社は保証事故発生
時には保証債務の全額を履行することが当然に予定されていることから、これに対
応できるように多数の保証委託取引を行って多額の保証料収入を確保し、保証料額
は、保証事故が発生した場合に備えるための予想負担額を確保し、その他、業務の
維持、遂行に伴う直接的な費用及び間接的な費用、さらには、株主などに配当する
ための一定の利益を確保することを予定して設定されることになる。
 これに対して、役員の保証は、役員個人の支払能力には限界があるため保証事故
発生の際に保証人が保証債務の全額を履行することを当然には予定しておらず、役
員が保証を業務とし、自らが役員となっている会社以外と多数の保証取引を行って
いることは通常あり得ないから、多数の保証事故が発生した場合の役員の経済的負
担を他の保証料に転嫁することは予定されていない
。役員が自らの支払能力を超える額の債務を保証した場合には、現実に保証の履行
ができない以上、保証債務額の多寡に応じて役員の経済的負担が変わることはな
い。役員にとって、保証のための費用を当然には必要とせず、保証によって利益を
あげるべき要請もない。
 このような相違からすれば、民間の保証会社の保証料を決定する前提となってい
る事実は、役員の保証においては存在していないから、前者の保証料に関する事実
を後者の保証料の適正額を決定する参考にすべき合理性はなく、さらに、保証の趣
旨及び目的においても、民間の保証会社は、営利を目的として、当該保証会社の信
用力を提供してその対価として保証料を受領しているのに対し、本件保証を含む会
社の役員の保証は、前記のとおり、金融機関側において、役員の信用力の提供自体
を期待するものではなく、経営責任を明確化することを目的とし、役員側において
は、保証の引受自体によって利益を得ることを目的とするものではなく、職務上会
社の利益のために保証を引き受けているのであって、両者の間には著しい相異があ
るというべきであるから、本件保証の適正な保証料額の決定にあたって民間の保証
会社の保証料を参考にすることは相当ではない。
 よって、原告らの右主張は採用できない。
5 信用保証協会の保証における保証料との対比
 被告は、本件保証について、信用保証協会が行う債務保証の保証料率(上限年利
率一パーセント)によって算出された額を保証料の適正額の上限とすることが合理
的であると主張するので、以下、右基準が相当であるかについて検討する。
 信用保証協会は、信用保証協会法に基づき設立された法人で、中小企業者等が銀
行その他の金融機関から貸付等を受けるについてその貸付金等の債務を保証するこ
とを主たる業務とし、これによって中小企業者等に対する金融の円滑化を図ること
を目的とする(信用保証協会法一条、二〇条一項)。信用保証協会が徴する信用保
証料は、中小企業者の信用保証委託に応ずる対価であり、信用保険料、損失の補
填、経費等制度運営上必要な費用に充当することを予定するものであり、利益を得
ることは予定していない。この信用保証料は最高で保証する債務額の一パーセント
(年利率)と定められており、保証の種類及び金額に応じて、それ以下の料率で、
各協会ごとに定められている(甲六号証の1ないし3、乙二〇号証、乙四〇号
証)。
 右認定
事実によれば、右保証の制度は、営利を目的としない性質の保証である点で本件保
証と共通しているといえる。
 そして、本件保証のように会社の代表取締役等の役員が当該会社の債務の保証を
行い、その対価として保証料の支払を受ける場合において、その適正な額を確定す
る基準については、前記検討のとおり、右支払が行われること自体が例外的である
こと、対価の趣旨に見合った額を直接的に算出することは不可能であり、比較の対
象となり得る適切な事例も存在しないこと、そして、右基準が会社の役員に対する
給付の損金算入の限度額を画する意味において問題とされていることを考慮する
と、営利を目的としない性質の共通性を重視して、保証のための費用額の範囲内の
金額を受領し、利益を得ないことを前提として設定されている信用保証協会の保証
料の算出基準を参考として定めた基準(保証する債務額の年利率一パーセントを上
限とする。)により、会社の役員が当該会社の債務を保証した場合に支払われるべ
き適正な保証料額を確定すべきであるとする被告の主張は相当であると認めること
ができる。原告らは、本件保証と信用保証協会の保証との間の相異点を縷々主張す
るが、右結論を覆すに足りるものとは認め難い。
 なお、もとより、会社の役員が当該会社の債務を保証するについては、諸々の個
別的な事情が存在し得るものであり、右基準は個々の保証の個別的事情を考慮して
その適用の可否及び修正が検討されるべき場合もあり得るが、本件保証に関する個
別事情としては、原告らの財務内容が健全であり保証人が保証債務の履行を求めら
れる危険性が小さいという保証料額を低減すべき事情が存在するのみで、前記基準
以上の保証料を支払うことを合理的とすべき事情の存在は認められない。
 したがって、公正処理基準に照らし、本件保証における適正な保証料額は、保証
の対象となる債務額に年利率一パーセントを適用して算出される金額を上限とする
のが相当であり、本件保証料のうち、同額の範囲内は、保証委託の費用(法人税法
二二条三項)として損金に算入することができるが、これを超える本件否認部分
(別表三の1ないし3及び同四の1ないし3の「報酬とされる額」欄記載の金額)
は、右費用としては損金に算入することができないことになる。
6 右5の結論により、本件否認部分は、費用にあたる保証料とは認められず、そ
の結果、法人税法三四条に規定する役
員報酬(同条三項及び法人税基本通達九―二―一三参照)に該当することになるか
ら、右報酬として損金に算入できるかどうかを判断すべきことになる。
 しかし、役員報酬のうち、定款の規定、株主総会の決議等により定められている
役員報酬の限度額を超える部分の金額は、過大な役員報酬として損金の額に算入し
ないこととされている(法人税法三四条一項、同法施行令六九条)ところ、本件各
事業年度において、原告らが株主総会決議等により定められたAに対する役員報酬
の限度額の全額を、本件否認部分とは別途に同人に支払ずみであることは前記のと
おりであるから、右規定により、本件否認部分は、過大な役員報酬とされ、損金の
額に算入することはできないことになる。
 したがって、本件否認部分を損金に算入することを否認した本件各事業年度の法
人税に係る更正、再更正の各処分はいずれも適法である。
7 右6のとおり、右更正等の各処分は適法であり、また、原告らに、右各更正等
において納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎と
されていなかったことについて、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があ
るとは認められないから、本件各事業年度の法人税に係る各過少申告加算税の賦課
決定及び再賦課決定はいずれも適法である。
8 また、前記5の結論からすれば、Aが原告らから支払を受けた本件保証料のう
ち、本件否認部分は、債務保証を受託する対価としての保証料ではなく、所得税法
二八条一項に規定する給与等に該当する給付と認めることが相当である。
 よって、原告らは、これに対応する額の源泉所得税(別表七記載の金額)を徴収
し納付すべき義務を負うことになるから、同金額の源泉所得税の納付を告知した本
件各納税告知はいずれも適法である。
9 右8のとおり、本件各納税告知は適法であり、また、原告らに、本件各納税告
知による税額を納付しなかったことについて、国税通則法六七条一項ただし書に規
定する正当な理由があるとは認められないから、本件各納税告知に係る各不納付加
算税の賦課決定はいずれも適法である。
二 争点2について
1 原告らは、平成五年五月分から平成六年三月分までの各納税告知の基になった
平成六年三月期の法人税の更正が取り消されたことにより、右各納税告知も取り消
さなければならないと主張するので検討する。
2 源泉徴収による所得税の納税義務は、給与等源泉徴収すべ
きものとされている所得の支払の時に成立し(国税通則法一五条二項)、源泉徴収
等による国税は、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額
が確定する(同条三項)。
 また、法人税の更正の処分は、現実になされた行為計算そのものに実体的変動を
生じさせる効力までは有しない。
 したがって、平成五年五月分から平成六年三月分までの本件各納税告知の適法性
は、右期間に、納税告知に係る源泉所得税の対象となる給与等の支払の事実があっ
たかどうかによって決定されるべきものであって、原告らの平成六年三月期の法人
税の更正及びその取消しによって、本件保証料に関する原告らの行為計算が否認さ
れたこと、及び、その後、否認されないことになったことは、Aに対する所得税の
課税関係に何らの影響を及ぼすものではない。
 なお、原告らに対する平成六年三月期の法人税の更正の取消しは、当該更正が、
いずれも国税通則法七〇条一項に規定する期間を経過した後になされた処分である
という手続上の瑕疵を理由とするものであり、同期間において原告らがAに対し保
証料名目で支払った金員のうち本件否認部分が役員報酬にあたるとする被告の認定
が誤りであることを認めたわけではないから、被告が、所得税の課税関係において
右否認部分を役員報酬にあたると認定することは、右更正の取消しと何ら矛盾しな
い。
3 よって、原告らの右主張は理由がない。
三 以上のとおり、本件各処分は適法であり、原告らの請求はいずれも理由がない
から、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
宮崎地方裁判所民事第二部
裁判長裁判官 中山顕裕
裁判官 中村心
裁判官 菊井一夫

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