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裁判例


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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1原告A
平成29年10月22日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の沖縄
県第1区における選挙を無効とする。
2原告B
平成29年10月22日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の沖縄
県第2区における選挙を無効とする。
3原告C
平成29年10月22日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の沖縄
県第3区における選挙を無効とする。
4原告D
平成29年10月22日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の沖縄
県第4区における選挙を無効とする。
第2事案の概要
本件は,平成29年10月22日施行の衆議院議員総選挙(以下「本件選挙」
という。)について,沖縄県第1区ないし第4区の選挙人である原告らが,衆
議院小選挙区選出議員の選挙(以下「小選挙区選挙」という。)の選挙区割り
に関する公職選挙法の規定は憲法に反し無効であるから,これに基づき施行さ
れた本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選
挙無効訴訟である。
1前提事実
括弧内に掲記した証拠(枝番があるものは枝番を含む。)等によれば,以下
の各事実等を認めることができる。
本件選挙は平成29年10月22日に施行されたところ,原告Aは本件選
挙の沖縄県第1区,同Bは同第2区,同Cは同第3区,同Dは同第4区の各
選挙人であり,同月23日,本件訴えを提起した(顕著な事実及び争いのな
い事実)。
衆議院議員の選挙制度は,昭和25年に制定された公職選挙法においては,
中選挙区単記投票制が採用されていたが,平成6年の同法の一部改正により,
小選挙区比例代表並立制に改められた(以下,上記改正後の当該選挙制度を
「本件選挙制度」という。)。
本件選挙施行当時の本件選挙制度によれば,衆議院議員の定数は465人
とされ,そのうちの289人が小選挙区選出議員,176人が比例代表選出
議員とされ(公職選挙法4条1項),小選挙区選挙については,全国に28
9の選挙区を設け,各選挙区において1人の議員を選出し(同法13条1項,
別表第1。以下,後記の改正の前後を通じてこれらの規定を併せて「区割規
定」という。),比例代表選出議員の選挙(以下「比例代表選挙」という。)
については,全国に11の選挙区を設け,各選挙区において所定数の議員を
選出するものとされている(同法13条2項,別表第2)。総選挙において
は,小選挙区選挙と比例代表選挙を同時に行い,投票は小選挙区選挙及び比
例代表選挙ごとに1人1票とされている(同法31条,36条)。
選挙区の改定については,平成6年の公職選挙法の上記一部改正と同時に
成立した衆議院議員選挙区画定審議会設置法(以下,後記の改正の前後を通
じて「区画審設置法」という。)により,衆議院議員選挙区画定審議会(以
下「区画審」という。)が,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し,
調査審議し,必要があると認めるときは,その改定案を作成して内閣総理大
臣に勧告するものとされている(同法2条)。平成24年法律第95号によ
る改正前の区画審設置法(以下「旧々区画審設置法」という。)は,上記改
定案を作成するに当たっての区割りの基準(以下,後記の改正の前後を通じ
て「区割基準」という。)については各選挙区の人口の均衡を図り,各選挙
区の人口(官報で公示された最近の国勢調査又はこれに準ずる全国的な人口
調査の結果による人口をいう。)のうち,その最も多いものを最も少ないも
ので除して得た数が2以上とならないようにすることを基本とし,行政区画,
地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないとす
る(3条1項)とともに,各都道府県の区域内の選挙区の数は,各都道府県
にあらかじめ1を配当することとし(以下,このことを「1人別枠方式」と
いう。),これに,その余の小選挙区選出議員の定数に相当する数を人口に
比例して各都道府県に配当した数を加えた数とするとされていた(同条2項。
以下,この区割基準を「旧々区割基準」といい,この規定を「旧々区割基準
規定」という。)。なお,選挙区の改定に関する上記の勧告は,国勢調査の
結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に行うものとされ,
さらに,区画審は,各選挙区の人口の著しい不均衡その他特別の事情がある
と認めるときにも,上記の勧告を行うことができるものとされている(同法
4条)。
区画審は,平成12年10月に実施された国勢調査(以下「平成12年国
勢調査」という。)の結果に基づき,平成13年12月,衆議院小選挙区選
出議員の選挙区に関し,旧々区画審設置法3条2項に従い,各都道府県の議
員の定数につきいわゆる5増5減を行った上で,同条1項に従って各都道府
県内における選挙区割りを策定した改定案を作成して内閣総理大臣に勧告し,
これを受けて,平成14年7月,その勧告どおり選挙区割りの改定を行うこ
となどを内容とする公職選挙法の一部を改正する法律(平成14年法律第9
5号)が成立した。
平成21年8月30日に施行された衆議院議員総選挙(以下「平成21年
選挙」という。)の小選挙区選挙は,同法により改定された選挙区割り(以
下「旧々選挙区割り」といい,平成24年法律第95号による改正前の公職
選挙法13条1項及び別表第1を併せて「旧々区割規定」という。)の下で
施行されたものであり,平成12年国勢調査の結果による人口を基にすると,
旧々区割規定における選挙区間の人口の最大較差が1対2.304(乙2の
1)となっていた。
このような平成21年選挙について,最高裁平成22年(行ツ)第207
号同23年3月23日大法廷判決・民集65巻2号755頁(以下「平成2
3年大法廷判決」という。)は,旧々区割基準のうち1人別枠方式に係る部
分及び同区割基準に従って改定された旧々区割規定の定める旧々選挙区割り
は憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたが,こうした状態
につき憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえ
ず,旧々区割基準規定及び旧々区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に
違反するものということはできないと判示した。上記違憲状態にあったとさ
れた理由は,1人別枠方式は,人口の少ない地方における定数の急激な減少
への配慮等の視点から導入された方策であって,その合理性には時間的な限
界があり,かつ,本件選挙制度がその導入から10年以上を経過して定着し
安定した運用がされていた平成21年選挙時には,その不合理性が投票価値
の較差としても現れ,その立法時の合理性が失われていたこと,加えて,投
票価値の平等と相容れない作用を及ぼすものとなっていたことから,憲法の
投票価値の平等の要求に反する状態に至っているというものである。他方,
平成23年大法廷判決は,選挙区の改定案の作成に当たり,選挙区間の人口
の最大較差が2倍未満になるように区割りをすることを基本とすべきものと
する旧々区画審設置法3条1項の定めは,投票価値の平等の要請に配慮した
合理的な基準を定めたものということができるとも判示した。
平成24年11月16日に,衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における
人口較差を緊急に是正するための公職選挙法及び衆議院議員選挙区画定審議
会設置法の一部を改正する法律(以下「平成24年改正法」という。)が成
立し,同月26日公布され,同法2条の規定を除いて,同日施行された(平
成24年改正法附則1条)。その内容は,①1人別枠方式の廃止(3条。す
なわち,同条では,区割基準の改定案の作成に当たっては,各選挙区の人口
の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,その最も多いものを最も少ないもの
で除して得た数が2以上とならないようにすることを基本とし,行政区画,
地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないとの
点のみ定められた。)及び②いわゆる0増5減(各都道府県の選挙区数を増
やすことなく議員1人当たりの人口の少ない5県の各選挙区数をそれぞれ1
減ずることをいう。以下同じ。2条)であった。しかし,同月16日に衆議
院が解散されたため,1人別枠方式を廃止する旨の平成24年改正法3条(以
下,平成24年改正法による改正後の区画審設置法3条を「旧区画審設置法
3条」といい,同条に定める区割基準を「旧区割基準」という。)は施行さ
れたものの,旧々区割規定の改正には至らない状態で,同年12月16日に
衆議院議員総選挙(以下「平成24年選挙」という。)が旧々区割規定の定
める旧々選挙区割りに基づいて施行された。なお,平成24年選挙当日にお
ける選挙区間の選挙人数の最大較差は,選挙人数が最も少ない高知県第3区
と選挙人数が最も多い千葉県第4区との間で1対2.425であり,高知県
第3区と比べて較差が2倍以上になっている選挙区は72選挙区であった
(乙2の2,弁論の全趣旨)。
平成24年改正法の成立後,区画審による審議が行われ,平成25年3月
28日,区画審は,内閣総理大臣に対し,各都道府県の選挙区数の0増5減
を前提に,選挙区間の人口較差が2倍未満となるように17都県の42選挙
区において区割りを改めることを内容とする選挙区割りの改定案の勧告を行
った。そして,上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする公職選挙
法の改正事項を定める平成25年法律第68号(以下「平成25年改正法」
という。)が同年6月24日に成立し,同月28日に公布され施行された。
平成25年改正法による改正後の平成24年改正法中の上記0増5減及びこ
れを踏まえた区画審の上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする公
職選挙法の改正規定は同年7月28日から施行され,これにより,各都道府
県の選挙区数の0増5減とともに上記改定案のとおりの選挙区割りの改定が
行われ(以下,同日の施行に係る公職選挙法13条1項及び別表第1を併せ
て「旧区割規定」といい,旧区割規定による選挙区割りを「旧選挙区割り」
という。),平成22年10月に実施された国勢調査の結果による選挙区間
の人口の最大較差は1.998倍に縮小された(乙3ないし6,弁論の全趣
旨)。
最高裁平成25年(行ツ)第209号,第210号,第211号同年11
月20日大法廷判決・民集67巻8号1503頁(以下「平成25年大法廷
判決」という。)は,旧々区割規定が憲法に違反するとして,旧々選挙区割
りの下で施行された平成24年選挙を無効とすることを求めた選挙無効訴訟
において,平成21年選挙時に既に憲法の投票価値の平等の要求に反する状
態に至っていた旧々選挙区割りの下で再び施行されたものであること,選挙
区間の較差は,平成21年選挙時よりも更に拡大して最大較差が2.425
倍に達していたこと等に照らせば,平成24年選挙時において,旧々選挙区
割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわざるを
得ないと判示した。次いで,憲法上要求される合理的期間内における是正が
されなかったか否かについて,同判決は,平成24年選挙までに,1人別枠
方式を定めた旧々区画審設置法3条2項の規定の削除と全国の選挙区間の人
口較差を2倍未満に抑えることを可能とする0増5減による定数配分の見直
しが行われ,これに沿った区割り改定の枠組みが定められたことを是正実現
に向けた一定の前進と評価した上,旧区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙
制度の整備については,そうした漸次的な見直しを重ねることによってこれ
を実現していくことも,国会の裁量に係る現実的な選択として許容されてい
るところと解されること等に照らすと,国会における是正の実現に向けた取
組が立法裁量権の行使として相当なものでなかったということはできず,憲
法上要求される合理的期間を徒過したものと断ずることはできないと判断し,
この点において旧々区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するも
のということはできないと判示した。その上で,国会においては,今後も,
旧区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続
けられていく必要があるというべきであるとした。
その後,国会の与野党による衆議院選挙制度に関する実務者協議において
も議員の定数の削減の手法及び削減数等に関して意見を集約することができ
なかったことから,平成26年6月19日,衆議院選挙制度に関する調査・
検討等を行うため,衆議院議長の諮問機関として,15名の委員によって構
成される「衆議院選挙制度に関する調査会」(以下「選挙制度調査会」とい
う。)が設置され,一票の較差の是正等についての議論がされた(乙8,9,
弁論の全趣旨)。
平成26年11月21日に衆議院が解散され,同年12月14日,旧選挙
区割りの下で衆議院議員総選挙(以下「平成26年選挙」という。)が施行
された。
平成26年選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は,選挙人数
が最も少ない宮城県第5区と選挙人数が最も多い東京都第1区との間では1
対2.129であり,宮城県第5区との較差が2倍以上となっている選挙区
は13選挙区であった(乙2の3,弁論の全趣旨)。
平成26年選挙につき,最高裁平成27年(行ツ)第253号同年11月
25日大法廷判決・民集69巻7号2035頁(以下「平成27年大法廷判
決」という。また,平成23年大法廷判決,平成25年大法廷判決及び平成
27年大法廷判決を併せて「本件各大法廷判決」ということがある。)は,
上記のような投票価値の較差が生じた主な要因は,旧選挙区割りにおいては,
前記0増5減の措置における定数削減の対象とされた県以外の都道府県につ
いて旧区割基準に基づいて配分された定数の見直しを経ておらず,1人別枠
方式を定めた旧々区画審設置法3条2項が削除された後の旧区割基準に基づ
いた定数の再配分が行われていないことから,いまだ多くの都道府県におい
て,そのような再配分が行われた場合に配分されるべき定数とは異なる定数
が配分されていることにあるというべきであり,上記の投票価値の較差が生
じたことは,全体として旧区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備
が実現されていたとはいえないことの表れというべきであるなどとして,旧
選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわ
ざるを得ないと判示した。そして,平成27年大法廷判決は,投票価値の較
差が違憲状態にあることへの対応や合意の形成に様々な困難が伴うことを踏
まえ,旧区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備については,上記
のような漸次的な見直しを重ねることによってこれを実現していくことも国
会の裁量に係る現実的な選択として許容されていると解されるとした上で,
平成26年選挙は,前回の平成24年選挙から約1年11か月後の衆議院解
散に伴い,平成25年改正後の平成24年改正法の施行による選挙区割りの
改定から約1年5か月後に施行されたものであり,その改定後も国会におい
ては引き続き選挙制度の見直しが行われ,衆議院に設置された検討機関にお
いて投票価値の較差の更なる縮小を可能にする制度の見直しを内容とする具
体的な改正案などの検討が続けられていることなどを併せ考慮すると,国会
における是正の実現に向けた取組は,平成23年大法廷判決及び平成25年
大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なものでなかった
ということはできず,本件において憲法上要求される合理的期間を徒過した
ものと断ずることはできないなどとして,旧区割規定が憲法14条1項等の
憲法の規定に違反するものということはできないと判示した。その上で,国
会においては,今後も,衆議院に設置された検討機関において行われている
投票価値の較差の更なる縮小を可能にする制度の見直しを内容とする具体的
な改正案の検討と集約が早急に進められ,旧区画審設置法3条の趣旨に沿っ
た選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要があるというべ
きであるとした。
選挙制度調査会は,平成28年1月14日,衆議院議長に対し,投票価値
の較差の是正方法等について答申(以下「調査会答申」という。)をした。
調査会答申は,①衆議院議員の定数を従前の475人から10人削減して
465人とし,そのうち小選挙区選挙の定数を6人削減して289人とする
ことなどを答申するとともに,②小選挙区選挙の定数を各都道府県に配分す
配分方式として,各都道府県の人口を一定の数値で除し,
それぞれの商の整数に小数点以下を切り上げて得られた数の合計数が小選挙
区選挙の定数と一致する方式(いわゆるアダムズ方式)により行うこととし,
各都道府県の議席は,その人口を当該数値(除数)で除した商の整数に小数
点以下を切り上げて得られた数とす都道府県への議席配分の見直
しは,10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果による人口に基づき行う
倍以上の選挙区が生じたときは,区画審は,各選挙区間の較差が2倍未満に
なるように関係選挙区の見直しを行うものとすることなどを相当とした(以
上,乙10)。
⑿調査会答申を受けて国会において検討が行われた結果,平成28年5月2
0日,衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の一部を改正する
法律(平成28年法律第49号)が成立した(以下「平成28年改正法」と
いい,同改正後の区画審設置法を「新区画審設置法」という。)。
平成28年改正法は,前記調査会答申に沿ったものであり,衆議院議員の
定数を10人(うち小選挙区選出議員は6人)削減するとともに,衆議院小
選挙区選出議員の選挙区間における人口較差の是正措置について,①衆議院
小選挙区選出議員の選挙区の改定案の作成は,各選挙区の人口(10年ごと
に行われる大規模国勢調査の結果による日本国民の人口である。平成28年
改正法施行直後のものは,平成32年の国勢調査である。)の均衡を図り,
各選挙区の人口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数
が2以上とならないようにすることとし,行政区画,地勢,交通等の事情を
総合的に考慮して合理的に行わなければならないとし(新区画審設置法3条
1項),②改定案の作成に当たっては,各都道府県の区域内の衆議院小選挙
区選出議員の選挙区の数は,各都道府県の人口を小選挙区基準除数(その除
数で各都道府県の人口を除して得た数(1未満の端数が生じたときは,これ
を1に切り上げるものとする。)の合計数が公職選挙法4条1項に規定する
衆議院小選挙区選出議員の定数に相当する数と合致することとなる除数をい
う。)で除して得た数(1未満の端数が生じたときは,これを1に切り上げ
るものとする。)として(同法3条2項),配分方式についていわゆるアダ
ムズ方式を採用し,③大規模国勢調査の実施から5年目に当たる年に行われ
る国勢調査の結果に基づく各選挙区の最大較差が2倍以上になったときは,
各都道府県の選挙区数を変更することなく,区画審が較差是正のために選挙
区割りの改定案の作成及び勧告をすること(同法3条3項,4条2項)とし
た。また,併せて,平成28年改正法附則は,平成32年の大規模国勢調査
までの特例措置として,①区画審が,平成27年の国勢調査(以下「平成2
7年国勢調査」という。)の結果に基づいて,平成28年改正法による改正
後の区画審設置法2条の規定による改定案の作成及び勧告を行うこと(同法
附則2条1項),②上記改定案の作成に当たっては,0増6減を前提に,6
減の対象として,平成27年国勢調査人口を基にアダムズ方式により各都道
府県の定数を算定し,従前の定数より減となる都道府県のうち,当該都道府
県の人口をアダムズ方式に基づく定数で除した値が小さい順に6都道府県を
選択して定数減とし,その余の都道府県については従前と同数とすること(同
法附則2条2項),③上記改定案の作成に当たっては,平成27年国勢調査
に基づいて算定された人口比最大較差を2倍未満にするとともに,平成32
年見込人口(平成27年国勢調査人口に,平成27国勢調査人口を平成22
年国勢調査人口(平成22年の国勢調査の結果による日本国民の人口)で除
して得た数を乗じて得た数)に基づいて算定された人口比最大較差を2倍未
満とすることを基本とすること(同法附則2条3項)などが定められた(以
下,平成28年改正法による改正後の区画審設置法3条に定める区割基準を
「新区割基準」といい,同法附則2条に定める区割基準を「本件区割基準」
という。)。
⒀区画審は,平成29年4月19日,内閣総理大臣に対し,各都道府県の選
挙区数の0増6減を前提に,平成27年国勢調査に基づく選挙区間の人口較
差が2倍未満となるように19都道府県の97選挙区において区割りを改め
ることを内容とする選挙区割りの改定案の勧告を行った(乙14)。
そして,上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする平成28年改
正法の一部を改正する平成29年法律第58号(以下「平成29年改正法」
という。また,平成24年改正法,平成25年改正法,平成28年改正法及
び平成29年改正法を併せて「本件各改正法」ということがある。)が同年
6月9日に成立し,同月16日に公布され施行された。そして,平成29年
改正法による改正後の平成28年改正法中の上記0増6減及びこれを踏まえ
た区画審の上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の
改正規定は同年7月16日から施行され,これにより,各都道府県の選挙区
数の0増6減とともに上記改定案のとおりの選挙区割りの改定が行われ(以
下,同日の施行に係る公職選挙法13条1項及び別表第1を併せて「本件区
割規定」といい,本件区割規定による選挙区割りを「本件選挙区割り」とい
う。),平成27年国勢調査の結果による選挙区間の人口の最大較差は1.
956倍に縮小されるとともに,平成32年見込人口を基にしても,1.9
99倍に縮小された(乙14の1)。
⒁平成29年9月28日,衆議院が解散され,同年10月22日,本件選挙
区割りの下で本件選挙が施行された。
本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の較差は,選挙人数が最も少な
い選挙区(鳥取県第1区)と比べて,選挙人数が最も多い選挙区(東京都第
13区)との間で1対1.979であり,これが2倍未満となったのは本件
選挙制度開始後初めてのことである。なお,鳥取県第1区と原告らがそれぞ
れ属する沖縄県第1区ないし第4区との間では,順に1対1.129,1対
1.204,1対1.305,1対1.201である(乙1,弁論の全趣旨)。
2争点及びこれに関する当事者の主張
本件の争点は,本件区割規定及びこれに基づく本件選挙区割りの合憲性であ
り,具体的な争点及びこれに関する当事者の主張は以下のとおりである。
本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた

(原告らの主張)
ア憲法56条2項,1条及び前文第1文は,次のとおり,「人口比例選挙」
を保障している。
すなわち,憲法1条及び前文第1文は,「主権の存する日本国民」,「日
本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し,」と定
めている。そして,憲法56条2項は,この「行動」の内容につき,「両
議院の議事は,・・・出席議員の過半数でこれを決し・・・」と規定し,
国会での議事を多数決で決定して,国政の在り方を決める権力(主権)を
行使することを定めている。そうすると,国会議員の多数意見は,国民の
多数意見と等価でなければならず,国会議員の多数意見と国民の多数意見
とを等価とするためには,各選挙区に人口比例によって定数を配分する「人
口比例選挙」(主権者の多数が国会議員の多数を選出できる制度)が保障
される必要があり,国会にはこれを否定するような区割りをする裁量権は
ない。
そうすると,選挙制度に関し国会に裁量があるとしても,各選挙区間の
投票価値の較差を1対1とすることを原則とし,仮にそれを達成すること
ができないのであれば,その理由を国会が正当に考慮することができる他
の政策的目的ないし理由との関連で合理的に説明する必要があるというべ
きであって,それがされない限りは,違憲との評価を免れない。
イ平成23年大法廷判決は,最大較差2倍以上は違憲であるとしただけで,
2倍未満であればそれだけで合憲とする趣旨のものではなく,あくまで,
投票価値の平等(人口比例選挙)が基準であり,もし仮に投票価値の平等
(人口比例選挙)からの乖離がある場合は,憲法上その投票価値の平等(人
口比例選挙)からの乖離を正当化するために国会で考慮された事情に,当
該乖離を正当化し得る合理性があることが必要であるとするものである。
そして,地域性に係る問題のために,殊更にある地域(都道府県)の選挙
人と他の地域(都道府県)の選挙人との間に投票価値の不平等を生じさせ
るだけの合理性があるとはいい難く,上記問題解決のために採用された1
人別枠方式は違憲であるとした。
そうすると,本件選挙が合憲であるというためには,少なくとも,①投
票価値の較差が(最大)2倍未満であること,②1人別枠方式等地域性に
係る問題のため以外に,選挙人の住所(都道府県)を根拠として生じる投
票価値の不平等を正当化し得る合理性があることが必要となる。
しかし,本件選挙区割りは,わずか6つの県について定数配分の見直し
がされたにすぎず,残り41都道府県では,本件各大法廷判決において,
憲法の投票価値の平等の要求に反すると判断された1人別枠方式によって
配分された議員定数が維持されている。もっとも,平成22年の大規模国
勢調査に基づいて人口比例方式であるアダムズ方式により再配分したとき
は7増13減となるところ,うち6減の県は,本件選挙区割りにおける6
減の県と共通するから,7増7減の対象となる12都県において,1人別
枠方式の議員定数がそのまま温存され,1人別枠方式を原因とする不合理
な投票価値の不平等が残存していることとなる。また,本件選挙区割りは,
人口比例方式たるアダムズ方式による選挙区割り採用の前の暫定的措置に
すぎないから,国会も,本件選挙区割りが1人別枠方式を廃止すべきとの
本件各大法廷判決の要請を満たしていないことを認識している。
したがって,本件選挙区割りは違憲である。
(被告の主張)
ア憲法が要求している投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する絶
対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的な
いし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,選挙制度
の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められている。したがって,
国会の定めた区割規定は,国会の裁量権の行使として合理性を有する限り,
憲法に違反するものではない。
本件各大法廷判決は,一貫して,諸般の事情を総合考慮して,選挙区間
の人口の最大較差が2倍未満になるように区割りをすることを基本とする
旧区画審設置法3条につき,投票価値の平等に配慮した合理的な基準を定
めたものと評価している。したがって,最大較差が2倍未満となるような
立法措置を講じ,かつ,それにより実際の選挙区間の最大格差を2倍未満
とすることができたのであれば,国会は,本件各大法廷判決の求めた立法
措置を講じたものということができる。
そして,平成28年改正法及び平成29年改正法による本件選挙区割り
により,選挙区間の最大較差が1.956倍,本件選挙当時でも1.97
9倍に縮小されたのであるから,本件区割規定に基づく本件選挙区割りは,
憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていないことが明らかで
ある。
また,上記の各点に照らすと,本件区割規定に基づく本件選挙区割りの
具体的内容等は,これが投票価値の平等の要求に反する状態に至っていな
いとの結論を左右するものではない。仮に本件選挙区割りの具体的内容等
を考慮するとしても,その内容は,国会ができる限りの検討及び協議等を
尽くした上,本件各大法廷判決の趣旨に沿って定めたものであり,十分な
合理性がある以上,やはり本件区割規定に基づく本件選挙区割りが憲法の
投票価値の平等の要求に反する状態にあったとはいえない。
イどのような配分方式を採ったとしても,必ずしも全都道府県について議
席の再配分が必要となるわけではない。本件各改正法により,1人別枠方
式が廃止されていることは明らかであるし,本件各改正法による0増5減
及び0増6減も,1人別枠方式の廃止を前提としてなし得たものである。
さらに,本件各改正により,本件各大法廷判決が指摘した1人別枠方式の
構造的な問題も解決された。したがって,原告らの主張は理由がない
憲法上要求される合理的期間内における是正の有無
(原告らの主張)
最高裁判例法理のように投票価値の不平等の解消のための合理的期間を考
慮することは,憲法98条1項に違反する。
仮に衆議院の小選挙区選出議員に係る選挙区間の投票価値の不平等の解消
のために一定の合理的期間が必要であると解するとしても,平成25年大法
廷判決は,上記期間の起算点を平成23年大法廷判決の言渡し日である平成
23年3月23日と解しているところ,本件選挙の日までに既に6年7か月
弱が経過しているから,上記期間が経過したというべきである。
(被告の主張)
本件各改正法は,本件各大法廷判決を踏まえた立法裁量権の行使として十
分に相当なものであって,国会が,本件選挙までに,本件区割規定に基づく
本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反するなどということは全
く認識できない状態にあった。
したがって,本件選挙区割りの違憲状態の是正が,憲法上要求される合理
的期間内においてされなかったということはできない。
第3当裁判所の判断
1に反する状態に至っ
ていたか)について
憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば投票価値の平等を要求してい
るものと解される。他方,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定す
る絶対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目
的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであるところ,
国会の両議院の議員の選挙については,憲法上,議員の定数,選挙区,投
票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとされ(43条
2項,47条),選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認
められている。
衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採
用される場合には,選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決
定するに際して,憲法上,議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる
限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求めら
れているというべきであるが,それ以外の要素も合理性を有する限り国会
において考慮することが許容されているものと解されるのであって,具体
的な選挙区を定めるに当たっては,都道府県を細分化した市町村その他の
行政区画などを基本的な単位として,地域の面積,人口密度,住民構成,
交通事情,地理的状況などの諸要素を考慮しつつ,国政遂行のための民意
の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請
との調和を図ることが求められているところである。したがって,このよ
うな選挙制度の合憲性は,これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお,
国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによ
って判断されることになり,国会がかかる選挙制度の仕組みについて具体
的に定めたところが,上記のような憲法上の要請に反するため,上記の裁
量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認することができ
ない場合に,初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきであ
る(最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・
民集30巻3号223頁,最高裁昭和56年(行ツ)第57号同58年1
1月7日大法廷判決・民集37巻9号1243頁,最高裁昭和59年(行
ツ)第339号同60年7月17日大法廷判決・民集39巻5号1100
頁,最高裁平成3年(行ツ)第111号同5年1月20日大法廷判決・民
集47巻1号67頁,最高裁平成11年(行ツ)第7号同年11月10日
大法廷判決・民集53巻8号1441頁,最高裁平成11年(行ツ)第3
5号同年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1704頁,最高裁平
成18年(行ツ)第176号同19年6月13日大法廷判決・民集61巻
4号1617頁,本件各大法廷判決参照)。
イ上記の見地に立って,本件選挙当時の本件区割規定及びこれに基づく本
件選挙区割りの合憲性について検討する。
平成27年大法廷判決は,各選挙区間の選挙人数の最大較差が1対2.
129,較差が2倍以上の選挙区が13選挙区であった平成26年選挙に
ついて,1人別枠方式を定めた旧々区画審設置法3条2項が削除されても
なお,平成24年改正法において定数削減の対象とされた県以外の都道府
県において,旧区割基準に基づいた定数の再配分が行われておらず,上記
の較差の存在は,全体として旧区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度
の整備がされていないことの表れであるなどとして,旧選挙区割りにつき
憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったとしたものである。
平成28年改正法は,小選挙区選挙の定数を各都道府県に配分する方式
につき,旧区割基準に代えて,各都道府県の区域内の選挙区の数を平成3
2年以降10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果に基づきいわゆるア
ダムズ方式により配分した上で,各選挙区間の人口の最大較差が2倍以上
とならないようにするとの新区割基準を定めるとともに,大規模国勢調査
の中間年に実施される国勢調査の結果,較差2倍以上の選挙区が生じたと
きは,区画審が,各選挙区間の較差が2倍未満になるように関係選挙区の
見直しを行うものとすることなどを定めるものである。さらに,同法附則
において,平成32年の大規模国勢調査までの措置として,平成27年国
勢調査の結果に基づく平成28年改正法による改正後の区画審設置法2条
の規定による改定案の作成をすることが定められ,その作成に当たり,0
増6減を前提に,6減の対象として,平成27年国勢調査人口を基にアダ
ムズ方式により各都道府県の定数を算定し,従前の定数より減となる都道
府県のうち,当該都道府県の人口をアダムズ方式に基づく定数で除した値
が小さい順に6都道府県を選択して定数減とし,上記改定案の作成に当た
っては,平成27年国勢調査に基づいて算定された人口比最大較差を2倍
未満にするとともに,平成32年見込人口に基づいて算定された人口比最
大較差を2倍未満とすることを基本とすることなどが定められ,これを受
けた平成29年改正法により本件選挙区割りが定められた。
平成28年改正法のうち,新区画審設置法3条1項は,選挙区間の人口
の最大較差が2倍未満になるように区割りをすることを定め,そのような
区割りは,投票価値の平等に配慮した合理的な基準であると解されるとこ
ろ(本件各大法廷判決参照),今後,平成32年の国勢調査の結果を踏ま
えて,新区割基準の下で更なる較差の是正を図るための立法措置がされる
ことが予定されている。加えて,それまでの当面の是正措置として,上記
のとおり,上記各改正法により,本件選挙当日における選挙区間の選挙人
数の最大較差は1.979倍と初めて2倍未満にまで縮小し,平成32年
見込人口を基にしても,1.999倍に縮小されている。
そうすると,平成28年改正法は,平成27年大法廷判決において違憲
状態とされ,その是正を求められていた旧区割基準を見直し,上記のとお
りのより較差の是正を図ることのできる新区割基準を導入したものという
ことができるから,上記改正法は,平成27年大法廷判決が要請したとこ
ろに沿って,新区画審設置法3条1項の趣旨を踏まえた較差の是正を図っ
たものとみることができるとともに,今後も上記の較差から更なる較差の
是正を図ることを予定したものと評価できる。そして,平成29年改正法
による本件区割基準に基づく本件選挙区割りは,平成27年国勢調査の結
果に基づき,新区割基準の考え方を一部取り入れるなどして定められ,そ
の結果,上記の程度までの較差の縮小がされていること,本件区割基準は,
平成32年の大規模国勢調査に基づく新たな区割りをするまでに限って適
用されるのであって,新区画審設置法3条1項の趣旨に沿うのみならず,
より較差を小さなものとする選挙制度の整備を漸次的に行うものと評価で
きることに照らすと,新区割基準による選挙区割りを実施するまでの間の
措置として,国会が本件区割規定に基づく本件選挙区割りを定めたことが,
投票価値の平等との関係において国会の裁量の範囲を逸脱するものである
ということはできない。
以上によれば,本件選挙当時の本件選挙区割りが,憲法の投票価値の平
等の要求に反する状態に至っていたということはできない。
原告らは,憲法が「人口比例選挙」を保障することを前提に,本件選挙が
合憲であるというためには,選挙人の住所(都道府県)を根拠として生じる
投票価値の不平等を正当化し得る合理性があることが必要であり,1人別枠
方式等の地域性に係る問題はそのような合理性を有しないとした上で,本件
選挙区割りは,わずか6つの県について定数配分の見直しがされたにすぎず,
残り41都道府県(アダムズ方式による配分との比較では12都県)では,
本件各大法廷判決において,憲法の投票価値の平等の要求に反すると判断さ
れた1人別枠方式を維持しているなどとして,本件選挙区割りが違憲である
旨主張する。
確かに,本件選挙区割りは,平成28年改正法により定められた新区割基
準に基づいて定数の再配分が行われて定められたものではなく,前記前提事
実のとおり,平成28年改正法による改正前の各都道府県の定数を一部修正
して0増6減することにより定められたもので,上記6減の対象となってい
ない都道府県については,上記改正前の1人別枠方式に基づく小選挙区定数
のままとされている。
しかし,
しており,平成32年の大規模国勢調査に基づいてアダムズ方式による定数
の再配分とそれに基づく選挙区割りがされることは確実な状況にあり,本件
選挙区割りはそれまでのいわば手当てとしてされたものである。このように
直近の大規模国勢調査に合わせて選挙区割りを実施することに合理性がある
ことは否定できず,その間に最小限度の必要な手当てを行うことにとどめる
ことが国会の裁量の範囲を逸脱するということはできない。そして,平成2
3年大法廷判決は,平成21年選挙時の投票価値の較差が,選挙区間の人口
の最大較差が2倍未満という投票価値の平等に配慮した合理的な基準を超え
た状態であったことを前提に,このような較差が生じる主たる要因が1人別
枠方式にあるとし,平成21年選挙時にはその合理性が失われていたことか
ら,1人別枠方式を要因として投票価値の較差が生じることを許容できない
とするものと解され,平成25年大法廷判決も同様である。また,平成27
年大法廷判決も,旧選挙区割りについて,1人別枠方式を定めた旧々区画審
設置法3条2項が削除され,0増5減の措置を採った上でもなお上記のよう
な較差が生じていることを前提に,前記前提事実のとおり,旧選挙区割りが
全体として旧区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備が実現されて
いたとはいえないなどと判示したものと解される。
そうすると,本件選挙時においては,国会による較差是正に向けた取組が
進められており,その一環として,本件選挙時の選挙区間の人口の最大較差
が2倍未満という投票価値の平等に配慮した合理的な基準を下回るものとな
った以上,本件選挙区割りが上記認定のようなものであったとしても,その
ことをもって,本件選挙区割りが,1人別枠方式を維持したものと評価でき
るとか,あるいは新区画審設置法3条1項の趣旨に沿ったものではないと評
価できるものではない。
2以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告らの請求は
いずれも理由がない。
よって,原告らの請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所那覇支部民事部
裁判長裁判官多見谷寿郎
裁判官蛭川明彦
裁判官神谷厚毅

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