弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件即時抗告を棄却する。
理由
1本件抗告の趣意は,弁護人林一蔵作成の別紙「即時抗告申立書」(写し)記載のとおりで
ある。
論旨は,要するに,検察官が任意開示した司法警察員巡査部長A作成の平成19年11月
12日付「事故前における追跡事実の判明について」と題する捜査報告書(以下「本件捜査報
告書」という。)中に非開示部分が存在したため,同弁護人において,当該非開示部分が
刑訴法316条の15第1項6号の類型証拠に該当する旨主張し,証拠開示命令の請求をしたの
に対し,原裁判所は,当該非開示部分は同規定の類型証拠に該当しないとして,請求を
棄却したが,原決定は,刑訴法316条の15第1項6号の法解釈を誤るもので不当であり,原
決定を取り消して本件捜査報告書の非開示部分の開示命令を求める,というのである。
2そこで検討するに,刑訴法316条の15第1項6号の「供述録取書等」とは,刑訴法316条の
14第2号に定義されているとおり,「供述書,供述を録取した書面で供述者の署名若しく
は押印のあるもの又は映像若しくは音声を記録することができる記録媒体であって供述
を記録したもの」のことであり,警察官が捜査の過程で作成する捜査報告書は,警察官の
「供述書」と言える。他方,刑訴法316条の15は,特定の検察官請求証拠の証明力を被告人
側が適切に判断できるようにするために,その証明力の判断に重要であると認められる
一定類型の証拠の開示を認めようとするものであり,「供述録取書等」が供述者の署名若
しくは押印により内容の正確性が担保されているか,機械的正確さによって録取内容の
正確性が保障されているものに限られている。これらを併せ考慮すると,刑訴法316条の
15第1項6号の「検察官が特定の検察官証拠請求により直接証明しようとする事実の有無
に関する供述」を内容とする供述書,供述録取書又は上記記録媒体は,供述者が直接体
験した事実を記載したものあるいはその供述を録取・記録したものに限られ,伝聞供述は
含まれないものと解するのが相当である(実質的にも,捜査報告書に記録されている聴
取内容は,重要性も様々である上,聴取の密度も必ずしも高くなく,聴取相手による確
認も経ていないものであり,供述証拠の中でも信用性が高いとは言えないことに加え,
捜査報告書では,参考人の説明内容を記載するだけでなく,捜査官の推測や判断にわた
る記載部分が含まれていることも多く,これを開示することによる弊害も少なくない。)。
当審において,改めて,検察官に対し本件捜査報告書の提示を命じ,検討したが,本
件捜査報告書中の非開示部分は,刑訴法316条の15第1項6号の類型証拠には該当しないも
のと認められる。
弁護人は,本件捜査報告書の非開示部分は刑訴法316条の15第1項6号の類型証拠に該当
すると主張し,その理由として,刑訴法316条の15第1項6号は「直接証明しようとする事
実の有無に関する供述」と規定し,「直接証明しようとする事実の有無を直接認識した
者の供述」と規定していない,捜査報告書の方が供述録取書になっている情報より生の
情報に近く,被告人・弁護人の防御上重要性が高いこともある,もし,捜査の対象者か
らの聞き込みの結果などを供述録取書にすれば類型証拠となり開示が義務的であるが,
供述を記載した捜査報告書の形にとどめておけば類型証拠として開示が義務的ではない
という取扱いがなされるとすれば,例えば,参考人の供述を録取しながらあえて供述録
取書とせず捜査報告書中に記載しておいて,義務的な開示を回避しようとすることも起
こりかねない,などと述べるが,刑訴法316条の20による証拠の開示請求では証拠の類型
による限定がないのと異なり,本件は刑訴法316条の15による一定類型の証拠の開示を求
めるものであるところ,本件捜査報告書の非開示部分がその類型に該当しないことは前
述したとおりである。所論は採用できない。
3よって,本件捜査報告書の非開示部分の開示請求を棄却した原決定は正当であり,本
件即時抗告には理由がないから,刑訴法426条1項後段によってこれを棄却することとし,
主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官・古川行男,裁判官・上寺誠,裁判官・池田聡介)

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