弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
    一 原判決中被上告人が上告人の代表取締役の地位にあることの確認及び
Dが上告人の代表取締役の地位にないことの確認を求める請求に係る部分を破棄し、
右部分につき本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
    二 原判決中被上告人が上告人の取締役の地位にあることの確認を求める
請求に係る部分に関する本件上告を棄却する。
    三 その余の本件上告を却下する。
    四 前二項に関する上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 一 上告代理人斎藤勉の上告理由第一点及び第二点について
 1 原審が確定した事実関係は、次のとおりである。
  (一) 上告人の発行済株式総数は四〇〇〇株であり、これを被上告人とDが各
二〇〇〇株保有している。
  (二) 昭和四九年六月三〇日当時、上告人の取締役には被上告人、D、E及び
Fの四名が、代表取締役には被上告人が、それぞれ就任していた。
  (三) 被上告人が昭和四九年七月一日取締役を辞任した旨の辞任届及び上告人
の同日付け臨時株主総会においてGをその後任取締役に選任する旨の決議がされ、
上告人の同日付け取締役会においてDを代表取締役に選任する旨の決議がされたと
する各議事録が存し、同月五日、上告人の商業登記簿に「同月一日付けをもって、
被上告人が取締役及び代表取締役を辞任し、Gが取締役に就任し、Dが代表取締役
に就任した」旨の登記がされているが、実際には、被上告人が取締役を辞任した事
実はなく、また、右株主総会及び取締役会は開催されておらず、右各決議が存在す
るものということはできない。
  (四) 上告人の商業登記簿には、昭和五九年一月三一日D、F及びGの三名が
取締役に就任し、Dが代表取締役に就任した旨の登記がされている。
  (五) D及びFは、被上告人が昭和四九年七月一日に上告人の取締役を辞任し
た事実はなく、同日付けの臨時株主総会及び取締役会における前記各決議も存在し
ないとする被上告人の主張が本件訴訟において認められた場合に備え、同年六月三
〇日当時上告人の取締役に選任されていた者により改めて取締役会を開催した上、
被上告人を代表取締役から解任して新たに代表取締役を選任すべく、これを議題と
する取締役会の招集を被上告人に請求したところ、被上告人は、これに応じ、昭和
六〇年一月二四日D及びFに対し取締役会招集通知を発した。
  (六) 右通知に基づき、同月三〇日、D、F及び被上告人が参集して上告人の
取締役会が開催され、被上告人を上告人の代表取締役から解任し、Dを代表取締役
に選任する旨の決議がされた。
 2 上告人は、被上告人が上告人の取締役を辞任した事実がなく、前記昭和四九
年七月一日付けの各決議が存在しないとしても、昭和六〇年一月三〇日に開催され
た取締役会において、被上告人を代表取締役から解任し、Dを代表取締役に選任す
る旨の決議がされたから、被上告人の本件請求のうち、被上告人が上告人の代表取
締役の地位にあることの確認及びDが上告人の代表取締役の地位にないことの確認
を求める請求は理由がないと主張した。
 3 原審は、前記事実関係のもとにおいて、昭和六〇年一月三〇日当時における
上告人の取締役は、商業登記簿に記載されたD、F及びGの三名であることを理由
に、同日に開催されたとする上告人主張の取締役会は、上告人の取締役会というこ
とはできず、右取締役会の決議は存在しないと解すべきであると判断して、上告人
の右主張を排斥し、被上告人の右請求を認容した。
 4 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
  すなわち、記録中の上告人の定款によると、上告人の取締役の任期は二年、員
数は五人以内と定められていることが、また、同じくその商業登記簿によると、昭
和四九年六月三〇日当時上告人の取締役又は代表取締役に就任していた者は、いず
れも、昭和四七年一二月二五日に選任(重任)されたものであることが窺われると
ころ、前記事実関係によれば、被上告人が上告人の取締役を辞任した事実はないと
いうのであるから、被上告人はその任期が満了する昭和四九年一二月二五日まで上
告人の取締役たる地位を有していたものというべきところ、同日の経過をもって、
被上告人のみならず、D、E及びFの三名の任期も満了するから、上告人は商法二
五五条に定める取締役の員数を欠くことになり、したがって、同法二五八条一項に
基づき、右四名は、新たに選任された取締役が就職するまで、引き続き上告人の取
締役としての権利義務を有するものといわなければならず、また、同法二六一条三
項、二五八条一項に基づき、被上告人は、同様に、引き続き代表取締役としての権
利義務を有するものといわなければならない。
  もっとも、上告人の商業登記簿上は、昭和五九年一月三一日に新たにD、F及
びGの三名が取締役に選任された旨の登記がされていることは原審が確定したとこ
ろであり、また、記録中の上告人の商業登記簿によると、その前の昭和五三年五月
二五日、昭和五六年一月三一日にも新たに取締役が選任された旨の登記がされてい
ることが窺われる。しかし、昭和四九年七月一日付けの株主総会におけるGを取締
役に選任する旨の決議が存在するものとはいえないことは前記のとおりであるとこ
ろ、このように取締役を選任する旨の株主総会の決議が存在するものとはいえない
場合においては、当該取締役によって構成される取締役会は正当な取締役会とはい
えず、かつ、その取締役会で選任された代表取締役も正当に選任されたものではな
く(ちなみに、本件においては、Dを代表取締役に選任する旨の昭和四九年七月一
日付けの上告人の取締役会の決議自体存在しないことは、原審が確定しているとこ
ろである。)、株主総会召集権限を有しないから、このような取締役会の招集決定
に基づき、このような代表取締役が招集した株主総会において新たに取締役を選任
する旨の決議がされたとしても、その決議は、いわゆる全員出席総会においてされ
たなど特段の事情がない限り(最高裁昭和五八年の第一五六七号同六〇年一二月二
〇日第二小法廷判決・民集三九巻八号一八六九頁参照)、法律上存在しないものと
いわざるを得ない。したがって、この瑕疵が継続する限り、以後の株主総会におい
て新たに取締役を選任することはできないものと解される。そして、本件において
は、このような特段の事情についての主張立証はない。
  してみると、昭和六〇年一月三〇日当時、被上告人、D、F及びEの四名は、
商法二五八条一項に基づき、上告人の取締役としての権利義務を有していたもので
あり、このうち被上告人、D及びFの三名によって同日開催された取締役会におけ
る、被上告人を上告人の代表取締役から解任し、Dを代表取締役に選任する旨の前
記決議は、招集通知を欠いたEが出席してもなお決議の結果に影響を及ぼさないと
認めるべき特段の事情がある場合には有効と解すべきものである(最高裁昭和四三
年(オ)第一一四四号同四四年一二月二日第三小法廷判決・民集二三巻一二号二三
九六頁参照)から、この場合にあっては、被上告人は、上告人の取締役としての権
利義務は依然として有するものの、代表取締役としての権利義務は消滅し、Dが代
表取締役たる地位を取得したものといわなければならない。したがって、昭和六〇
年一月三〇日の時点においては被上告人、D、E及びFの四名が上告人の取締役で
あるとはいえないことを理由に、同日開催された取締役会における前記決議は存在
しないものと解し、被上告人が上告人の代表取締役の地位にあることの確認及びD
が上告人の代表取締役の地位にないことの確認を求める被上告人の請求を認容すべ
きものとした原判決には、法令の解釈適用を誤り、ひいては審理不尽の違法がある
ものというべきであり、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は、
以上の趣旨をいうものとして理由があり、原判決中右請求に係る部分は、破棄を免
れない。そして、右部分については、昭和六〇年一月三〇日開催の取締役会の決議
の効力につき更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すべきで
ある。
 二 同第三点について
  被上告人は、商法二五八条一項に基づき、任期満了後も引き続き取締役として
の権利義務を有するものと解されることは、前示のとおりである。しかして、記録
によれば、被上告人は、右任期満了後に、被上告人が上告人の取締役の地位にある
ことの確認請求を含む本件訴訟を提起したものであることは明らかであるところ、
このような場合には、右請求は、同項に基づく取締役の権利義務を有する者として
の地位の確認を求める趣旨のものと解するのが相当であるから、被上告人が任期満
了により取締役を退任したものであるか否かについて釈明を求めなかった原審の措
置に違法はない。論旨は、採用することができない。
 三 なお、上告人は、原判決中その余の請求に係る部分については、上告理由を
記載した書面を提出しない。
 四 よって、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、三九九条、三九九条の
三、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    貞   家   克   己
            裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    坂   上   壽   夫
            裁判官    園   部   逸   夫

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