弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人佐藤光将の上告理由一について。
 本件の如き詐害行為取消訴訟において、被告とすべきものは、財産返還請求の相
手方たる受益者または転得者のみをもつてすれば足り、債務者を共同被告とすべき
ものではないと解するのを相当とする(明治四三年(オ)第一四八号明治四四年三
月二四日大審院判決・民録一七輯一一七頁、大正六年オ第一六九号大正六年三月三
一日大審院判決・民録二三輯五九六頁等)。論旨は、これと異なる見解に立つもの
であつて、採用することができない。
 同二について。
 上告人A1が上告人A2に対してした本件採掘権の譲渡行為を取り消す旨の一項
が、原審の是認した第一審判決主文にあらわれていないことは、所論のとおりであ
る。しかし、被上告人の第一審及び原審を通ずる弁論の全趣旨によれば、被上告人
は右譲渡行為の取消を求め、かつ、これを前提として本件採掘権取得登録の抹消を
求めているものであることが明らかであり、また、原判決の理由に徴するに、原審
は、上告人A1による右譲渡行為をもつて、詐害行為にあたるものとし、これを取
り消すのが相当であるとして、右譲渡行為に対する取消の判断をしたうえ、上告人
A2は本件採掘権取得登録の抹消登録手続をすべき義務があるとの判断をしたこと
が明らかである。してみれば、本件の場合は判決主文に前示取消の一項を遺脱した
ものと解せられるところ、前叙の如く、すでに理由中にその旨の判断がされている
以上、右の判決主文の遺脱は判決における明白な誤謬にすぎないものと解するのが
相当である。しからば、右の暇疵をもつて原判決を破棄する理由とするには足りな
いものというべきであるから、論旨は採用することができない。
 同三について。
 詐害行為取消訴訟につき、取消を請求せんとする債権者は受益者または転得者の
悪意を立証する必要がなく、受益者または転得者においてその善意であることの立
証責任を負うものとすることは、大審院判例の認めるところであつて(大正七年(
オ)第五五一号大正七年九月二六日大審院判決・民録二四輯一七三〇頁、昭和五年
(オ)第一六三八号昭和六年九月一六日大審院判決・民集一〇巻八〇六頁等)、今
なお、その変更の必要を認めない。論旨は、採用することができない。
 同四について。
 金銭債権は、いわば、債務者の一般財産を担保として成立しているものなのであ
るから、債権者の詐害行為取消権の対象を、所論の如く、当該保全債権発生時に債
務者の有していた財産に関する行為のみに限定すべきいわれはない。従つて、論旨
は、独自の見解にすぎず、採用の限りではない。
 同五について。
 原審が適法に確定した事実によれば、上告人A1は、他に資産がなく、多額の債
務を負担しているのに、唯一の資産たる本件採掘権を自己の子たる上告人A2に譲
渡したというのであるから、別段の反証がない以上、原審が本件採掘権の右譲渡を
もつて詐害行為と認定判断したのは相当であつて、原判決に所論の如き審理不尽に
よる違法は認められない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見
で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   件 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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