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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告が株式会社A(以下「本件建築主」という。)に対してした別紙1建築
物目録記載の建築物(以下「本件建築物」という。)に係る平成24年1月1
0日付け建築確認処分(第○-○-○-○号。以下「本件建築確認処分」とい
う。)を取り消す。
第2事案の概要
本件は,本件建築主が建築を計画した本件建築物につき,被告が,本件建築
主に対し,建築基準法6条の2第1項に基づき,本件建築物の建築計画(以下
「本件建築計画」という。)に係る本件建築確認処分をしたところ,本件建築
物の周辺住民である原告らが,本件建築確認処分には建築基準法48条(用途
制限)違反及び東京都建築安全条例(昭和25年東京都条例第89号)4条違
反の違法等があると主張し,本件建築確認処分の取消しを求めている事案であ
る。
1前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに末尾記載の証拠及び弁論の全
趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者等
ア原告ら
(ア)原告Bは,別紙2物件目録記載1の建物(以下「原告B建物」とい
う。)を所有し,同所に居住している。
(甲14,16)
(イ)原告Cは,別紙2物件目録記載2の土地及び同記載3の建物(以下
「原告C建物」という。)を所有し,同所に居住している。
(甲14,17,18)
(ウ)原告B建物及び原告C建物と本件建築物等との位置関係は,別紙3
(甲15の写し)のとおりであり,その距離は次のとおりである。
a原告B建物
(a)本件建築物との距離約25m
(b)本件建築物の敷地との距離約21m
b原告C建物
(a)本件建築物との距離約14m
(b)本件建築物の敷地との距離約7m
(甲15)
イ被告
被告は,建築基準法の規定により指定を受けた指定確認検査機関である。
(2)本件建築確認処分等
ア第1回建築確認処分
(ア)被告は,平成22年1月7日,本件建築主に対し,本件建築計画に
係る建築確認処分(以下「第1回建築確認処分」という。)をした。
(イ)原告らを含む近隣住民は,平成22年2月23日,港区建築審査会
に対し,第1回建築確認処分につき審査請求をした。
(ウ)港区建築審査会は,平成22年6月30日,原告らを含む近隣住民
に対し,上記(イ)の審査請求を棄却する旨の裁決をし,同年7月7日,
当該近隣住民に対し,当該裁決に係る裁決書の謄本(甲2)を交付した。
(甲2)
イ第2回建築確認処分
(ア)被告は,平成22年11月16日,本件建築主に対し,第1回建築
確認処分に係る計画の変更の確認申請について建築確認処分(以下「第
2回建築確認処分」という。)をした。
(イ)原告らは,平成22年12月28日,港区建築審査会に対し,第2
回建築確認処分につき審査請求をした。
(ウ)港区建築審査会は,平成23年7月25日,原告らに対し,上記
(イ)の審査請求を棄却する旨の裁決(乙5)をした。
(乙5)
ウ第3回建築確認処分及び本件建築確認処分
(ア)被告は,平成23年9月21日,本件建築主に対し,第2回建築確
認処分に係る計画の変更の確認申請について建築確認処分(第○-○-
○-○号。以下「第3回建築確認処分」という。)をした。
(甲45)
(イ)被告は,平成24年1月10日,本件建築主に対し,第3回建築確
認処分に係る計画の変更の確認申請について本件建築確認処分をした。
(甲46)
(ウ)原告らは,平成24年1月18日,平成23年12月20日に第3
回建築確認処分がされたことを,平成24年1月16日に本件建築確認
処分がされたことをそれぞれ初めて知ったと主張して,港区建築審査会
に対し,これらの処分につき審査請求をした。
(3)本件訴えの提起等
ア原告らは,平成22年12月28日,第2回建築確認処分の取消しを求
めて本件訴えを提起した。
イ原告らは,平成24年1月19日,本件訴えの請求の趣旨を本件建築確
認処分の取消しを求めるものに変更する旨の民事訴訟法143条1項(行
政事件訴訟法7条)に基づく訴えの変更の申立てをした。
なお,原告らは,本件建築確認処分の取消しの訴えにつき,本件建築確
認処分についての審査請求に対する裁決を経ていないが,上記(2)の認定
事実及び証拠(甲2,乙5)によれば,原告らが,港区建築審査会に対し,
本件建築確認処分と主たる理由が共通する第1回建築確認処分及び第2回
建築確認処分につき,専らその共通する理由を攻撃対象とする審査請求を
したところ,いずれについても,港区建築審査会から,審査請求を棄却す
る旨の裁決を受けたことが認められるから,仮に原告らが本件建築確認処
分についての審査請求をしたとしても,もはや当該各裁決における港区建
築審査会の判断に変更の余地はないものと推認できること,原告らが平成
24年1月18日に本件建築確認処分について審査請求をしていることに
照らすと,行政事件訴訟法8条2項3号所定の「その他裁決を経ないこと
につき正当な理由があるとき」に該当するものと認められる。
(以上につき,顕著な事実)
(4)本件建築計画の概要
本件建築計画は,本件建築主が被告に提出した計画変更建築計画概要書
(甲46)及び設計概要書(甲4,乙79)その他の書類において,要旨次
のとおり記載されている。
ア地名地番東京都港区α×番1外
イ本件建築物の敷地
(ア)敷地面積
6922.02㎡
(イ)用途地域等
第1種中高層住居専用地域。なお,都市計画区域内(市街化区域),
準防火地域,第2種高度地区,日影規制4m/3h・2h及び下水道処
理区域内でもある。
(ウ)建築基準法52条1項及び2項の規定による建築物の容積率
180.40%
(エ)建築基準法53条1項の規定による建築物の建ぺい率
60.00%
(オ)敷地に建築可能な延べ面積を敷地面積で除した数値
180.40%
(カ)敷地に建築可能な建築面積を敷地面積で除した数値
70.00%
ウ本件建築物
(ア)主要用途
共同住宅・長屋(住戸数3)
(イ)工事種別
新築
(ウ)建築面積・建ぺい率
1673.27㎡・24.17%
(エ)延べ面積
①建築物全体9823.84㎡
②地階の住宅の部分3168.38㎡
③共同住宅の共用の廊下等の部分87.21㎡
④自動車車庫等の部分299.45㎡
⑤住宅の部分9505.15㎡
⑥延べ面積6268.80㎡
⑦容積率90.56%
(オ)建築物の数
①申請に係る建築物の数2
②同一敷地内の他の建築物の数0
(カ)建築物の高さ等
①最高の高さ15.00m
②階数地上4階,地下2階
③構造鉄筋コンクリート造,一部鉄骨造
④建築基準法56条7項の規定による特例の適用の有無等
有(道路高さ制限不適用)
(キ)建築物の配置等
a本件建築物は,計画建物1と計画建物2(管理室)で構成されてお
り,その配置は別紙4配置図のとおりである。
b計画建物1は,別紙5(乙89の写し)のとおり,次のような庭園
地下部分(以下「アネックス棟」という。別紙5の赤色部分)並びに
地上建物の北側部分(以下「本館棟共同住宅部分」という。別紙5の
黄緑色部分)及び南側部分(以下「本館棟専用住宅部分」という。別
紙5の青色部分)により構成されている(以下,本館棟共同住宅部分
及び本館棟専用住宅部分を併せて「本館棟」ともいう。)。
(a)本館棟共同住宅部分
本館棟共同住宅部分は,1階に共用部分であるロビーがあり,エ
レベーター又は階段で各階に移動できる構造で,各階段室に面して
存する玄関から各住戸(トイレ,流し台(台所),浴室,寝室が設
置されている。)に入る形式となっており,設計概要書の「室の用
途等について」欄には「共同住宅:賃貸住宅」と記載されている。
(b)本館棟専用住宅部分
本館棟専用住宅部分は,次のような構造になっており,設計概要
書の「室の用途等について」欄には「本館:専用住宅。本館2階の
住宅居住エリアはゲストルームであり,賃貸として使用しない」旨
の記載がある。
①1階の居室及び部屋は,主要な出入口,ホール,廊下,ピロテ
ィー,鉄板焼きコーナーを有するダイニング及びキッチン,洋
室,ホール2,コート,男女別のトイレ等で構成される。
②2階は,ホールとバルコニーがあり,<ア>リビング,寝室,
和室,キッチン,洗面バスルーム及び便所を有する右翼(北
側)の住戸と<イ>リビング,寝室,キッチン,洗面バスルー
ム及びトイレを有する左翼(南側)の住戸がある。
③3階は,中央部分の居間,主寝室,書斎,和室,クローゼット,
浴室,トイレ,テラス,乾燥室,洗濯室,脱衣室,サウナ,浴
室及びシャワーを有する1住戸があり,南側のダイニング,ホ
ール,キッチン及びパントリー等がある。
④4階は,リビングルーム,テラス,キッチン,和室,バスルー
ム及び露天風呂を有する1住戸があり,南側の書庫,前室及び
洋室がある。
⑤各階の共通する部分として,1階から4階に通じる階段3(な
お,階段1で屋上階(塔屋階)に通じている。),1階から4
階に通じる階段4,1階から屋上階に通じるエレベーター1及
び地階からアネックス棟へ接続するエレベーター2がある。
(c)アネックス棟
アネックス棟は,設計概要書の「室の用途等について」欄には
「アネックス棟フィールド:ゴルフ練習場でゴルフ打放し場であり,
燃え草のないものとする。アネックス棟:家族にて使用(不特定多
数の利用は無い。)」旨の記載がある。
エ許可・認定等
建築基準法68条の26構造方法等の認定
オ工事着工予定
平成22年1月23日
カ工事完成予定
平成25年1月7日
キなお,アネックス棟の建築に伴い,地下22mの深さまで親杭横矢板工
法によって掘削することとされている。
(甲5~7,46,乙79~89)
2争点
(1)原告らの原告適格の有無(本案前の争点)
(2)本件建築確認処分の適法性
3争点に関する当事者の主張の要旨
(1)争点(1)(原告らの原告適格の有無)について
(原告らの主張の要旨)
ア建築確認処分の取消しについては,少なくとも,建築確認処分の対象と
なった建築物の倒壊,炎上等により直接的な被害を受けることが予想され
る範囲の地域に存する建築物に居住し又はこれを所有する者及び当該建築
物の建築によって日照を害される者は,建築基準法がその生命,身体の安
全等又は財産として建築物を個別的利益としても保護しているから,当該
建築確認処分の取消しを求める原告適格を有する(すなわち,行政事件訴
訟法9条所定の「法律上の利益を有する者」に該当する)と解すべきであ
る。
イこれを本件についてみると,原告らは,次の点に照らして,本件建築確
認処分の取消しを求める原告適格を有し,行政事件訴訟法9条所定の「法
律上の利益を有する者」に該当することが明らかである。
(ア)本件建築物の日影は,冬至日において,原告B建物に1時間以上,
原告C建物には3時間程度それぞれ生ずることになるから(甲13),
本件建築物が建築されることにより,建築基準法上保護された原告らの
日照という個別的利益が侵害されるおそれがある。
なお,日照を阻害されるおそれがあることを理由として,建築確認処
分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するというためには,その
者に対する日照が当該建築物の建築によって直接阻害されるという関係
があることをもって足り,その阻害の程度が受忍限度を超えるかどうか
や当該建築確認処分が建築基準関係規定における日影規制に適合してい
るかどうかという点は,当該建築確認処分が違法であるかどうかという
本案の問題であるというべきである。
(イ)本件建築計画では,地階を22mも掘削してこれをH鋼横矢板で土
留めする計画になっているところ,一般に,掘削した深さと同じ距離の
範囲においては地盤沈下発生の蓋然性が高いと考えられており(社団法
人日本建築学会編「山留め設計施工指針」(甲37)でも,根切り山留
め計画における敷地内外の計測対象範囲として,掘削深さに対して洪積
地盤(注:約200万年から1万年前の洪積期に堆積した地盤)では1
倍程度,沖積地盤(注:1万年前から現在の沖積期に堆積した地盤)で
1.5倍~2倍程度が現実的な目安となるとされている。),とりわけ
本件建築計画で地下を約22m掘削する部分はN値(地盤強度の指標)
が極めて小さく軟弱な地層であるから,地盤沈下が発生する蓋然性が高
く,本件建築物の敷地から約21mの地点にある原告B建物及び本件建
築物の敷地から約7mの地点にある原告C建物が地盤沈下等による被害
を受け,建築基準法上保護された原告らの生命,健康及び財産という個
別的な利益が侵害されるおそれがある。
(ウ)原告らは,前提事実(1)ア(ウ)のとおり,本件建築物の敷地(及び
本件建築物の壁面)からその高さの2倍(30m)以内に建物を所有し
て居住している(具体的には,原告B建物は本件建築物の敷地から約2
1mの地点(本件建築物の北側設備機械スペースの目隠し部分(高さ1
3.2m)からみても30m以内),原告C建物は本件建築物の敷地か
ら約7mの地点(上記目隠し部分からみても20m以内)にある。)と
ころ,建築物が地震等で倒壊した場合,高さの範囲に限らず,倒壊した
建築物の一部がその範囲外に飛散することが十分考えられるから,本件
建築物が倒壊した場合には,建築基準法上保護された原告らの生命,健
康及び財産という個別的な利益を侵害されるおそれがある。
(エ)特定行政庁である港区が定めた港区中高層建築物等の建築に係る紛
争の予防と調整に関する条例(昭和54年港区条例第15号。以下「港
区建築紛争予防条例」という。甲19)は,敷地境界線から建築物の高
さの2倍の水平距離の範囲内にある土地又は建築物に関して権利を有す
る者及び当該距離内に居住する者を「近隣関係住民」とし(2条7号),
近隣関係住民に特別に説明会を求める権利(7条)及び話し合う機会
(7条の2)を付与し,あっせん等を申し立てる権利(8条)を与えて
いるのであって,港区建築紛争予防条例の趣旨目的(1条)と建築基準
法の目的との共通性も考慮すると,港区建築紛争予防条例における「近
隣関係住民」は,当該中高層建築物の建築確認処分の取消しを求めるに
つき原告適格が認められると解すべきであるところ,前提事実(1)ア
(ウ)の事実に照らすと,原告らが「近隣関係住民」に該当することは明
らかである。
(オ)本件建築計画に基づく工事により,原告らを始めとする近隣住民に
は,原告らが通勤等の日常生活において頻繁に用いる道路等で交通上の
著しい危険が発生し,また,粉塵等の発生により原告ら所有の自動車等
が傷むなどの被害が発生しており,建築基準法上保護された原告らの生
命,健康及び財産という個別的な法益が侵害されている。
(被告の主張の要旨)
ア原告らは,次のとおり,本件建築確認処分により原告らの保護すべき法
律上の利益を侵害されたとはいえない。
(ア)原告らの主張によっても,①原告Cが居住する土地建物には,冬
至日でさえ3時間程度しか日照が阻害されず,その阻害される範囲も非
常に限定されていること,②原告Bが居住する建物も,冬至日でさえ
1時間程度しか日照が阻害されないことに照らすと,日照阻害の程度が
軽微である。
(イ)原告らの主張によっても,本件建築主から工事を請け負った大手ゼ
ネコンが,本件建築主の所有する土地を22m掘ったからといって,周
辺地域で地盤沈下が起こる蓋然性が高いとはいえず,近隣住民の生命,
健康及び財産が侵害されるおそれがあるともいえない。
(ウ)問題となっている建築物が直立したまま90度倒れることを想定し
たとしても,直接被害が及ばない場合には,原告適格が認められないと
ころ,本件建築物の実際の高さは,原告らの居住地側は10.6mしか
なく,原告らが本件建築物から15m以上外側に居住していることから
すると,原告B建物及び原告C建物は,本件建築物の倒壊,炎上等によ
り直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に
該当しない。
(エ)原告らの主張によっても,港区建築紛争予防条例所定の「近隣関係
住民」であることから原告らに保護される個別的利益が明らかでない。
(オ)原告らの主張に係る粉塵等による自動車等への被害は,そもそも建
築基準法上近隣住民の個別的利益として保護されるものとは解されない
し,仮にこれらが建築基準法上個別的利益として保護されるものであっ
たとしても,原告らが実際にそのような被害を受けているかは明らかで
はない。
イ以上によれば,原告らが,本件建築確認処分の取消しを求める原告適格
を有せず,行政事件訴訟法9条所定の「法律上の利益を有する者」に該当
しないことは明らかである。
(2)争点(2)(本件建築確認処分の適法性)について
(原告らの主張の要旨)
ア用途制限違反
(ア)被告は,建築確認の対象となった建築物の用途が当該用途地域に適
合するものであること(建築基準法48条)を確認しなければならず,
特に本件建築計画の対象地がある第1種中高層住居専用地域では,当該
建築物の用途が建築基準法48条3項及び別表第二(は)項において限定
列挙された用途に含まれていると明確に判断することができない場合に
は,建築確認処分をすることはできないと解すべきところ,その際には,
建築主が確認申請書及び建築計画概要書の用途欄に記載した内容のみな
らず,確認申請書及び確認申請の際に提出された図面から客観的に用途
を判断すべきである。
(イ)これを本件についてみると,建築計画概要書の用途欄の記載のみな
らず,建築確認申請図面等によれば,次のとおり判断することができる。
a本館棟専用住宅部分
(a)共用部分1階の構成及び機能
共用部分1階は,トイレが男性用・女性用に分かれ,宿泊客等が
利用する共用の食堂として機能する大規模なキッチンやダイニング
が設置されていることからすれば,不特定多数の者が利用するもの
となっている。
(b)各居室・個室の構成及び機能
本件建築物の2階以上の部分は,独立した居室としての機能を有
している(長屋部分の2階にある二つの居室は,リビング・ベッド
ルームのほか,キッチン・バスルーム・トイレを独自に備えており,
同部分の3階及び4階も,螺旋階段で接続されている。また,共同
住宅とされる北側部分も2階及び3階に同じ間取りのダイニング・
リビング・トイレ・ユニットバスを備えた居室が配置されてい
る。)から,(滞在型)ホテルの客室の機能を有している(この点
は,本館棟地下1階の広大な倉庫・電気室・機械室等や本館棟1階
の更衣室・ユーティリティーといったサービス提供側のバックヤー
ドの部屋があることからも明らかである。)。
他方,被告主張の「ホテル又は旅館」該当性を否定する事情につ
いては,①本件建築物は,多数の公共交通機関を用いることがで
きる立地にあるし,本館棟の玄関前のスペースや広大な庭園部分を
駐車場として用いることも可能であり,上記の居室数(本館棟2階
に客室2室,3階及び4階に客室各1室)も考慮すれば,4台分の
駐車場で「ホテル又は旅館」として機能するに十分であること,②
インターネットを通じた予約等を行う「ホテル又は旅館」であれば,
ロビーやフロントという設備がなくてもその機能を十分果たすこと
ができるし,1階の別棟の管理室をロビーや受付に利用することや
本館棟1階のホールや地下1階の風除室やホールに簡易なロビーや
フロントを設置することも可能であることに照らし,駐車場が少な
いことや,ロビーやフロントがないことは,いずれも「ホテル又は
旅館」でないことの根拠とならない。
bアネックス棟
(a)アネックス棟は,深さ20m,水平投影面積約2200㎡の巨
大な空間であって,プール,ボーリングスペース,フィールドを有
するほか,シャワー・サウナ・化粧室を独自に有し,建築物の規模
からみて巨大な設備であり,社会通念上長屋に居住する家族が使う
規模のものではないこと等に照らすと,独立した機能を有するスポ
ーツ施設に当たることは明らかである。
(b)また,地下1階のデッキと称される部分は,フィールドと称さ
れる広大な空間に向かって椅子が設置されており,その先の西側か
ら北側,さらに東側にかけて「スクリーン」という巨大なスクリー
ン(西側壁に幅約24m,北側壁に幅24.5m,東側壁に幅24
m,高さは約11.5m~13.5m)が設置されていること,被告
自身がアネックス棟壁面に設けたスクリーンに映像を投影するため
の設備であることを認めていることに照らすと,これらの施設の用
途が「映画館」又は「劇場」であることは明らかである。
(c)仮に,本館棟専用住宅部分が長屋に該当するとしても,建築基
準法別表第二(は)項8号の「前各号の建築物に附属するもの」とは,
当該建築物より規模の小さいものであり,かつ,当該建築物との関
係で機能として必要不可欠であるものをいうと解すべきであるとこ
ろ,①アネックス棟の体積が本館棟のそれよりも大きく,アネッ
クス棟と本館棟の床面積比も2対3であること,②本館棟の用途
(長屋)からして,アネックス棟が機能上必要不可欠なものでない
こと,③アネックス棟は西側の階段1及び階段2から出入りが可
能であり,本館棟の地下駐車場からアネックス棟のスポーツ施設・
劇場・映画館に出入りすることも可能であることからすると,本館
棟に「附属するもの」とはいえない。
(ウ)上記(イ)の諸点を総合すれば,本件建築物の用途を「共同住宅・長
屋」,「住宅」と判断することはできず,むしろ客観的には(会員制)
リゾートホテル・(会員制)スポーツクラブと判断されるものである
(なお,本件建築主の説明(本件建築主は,近隣説明会において,米国
人の複数の家族がAに出資しており,出資比率に基づいて本件建築物を
利用すると説明している。)等によっても,本件建築物の利用者である
米国人らはこれに住むのではなく,持分に応じて滞在するにとどまると
いうのであるから,本件建築物の用途が住宅又は長屋ではなくホテルで
あることは明らかである。)。
そうすると,本件建築確認処分には,本件建築物の用途が第1種中高
層住居専用地域に建設することが許されないものである点で建築基準法
48条に違反する違法がある。
イ本館棟専用住宅部分の「共同住宅」としての建築基準関係規定違反
(ア)仮に前記アの用途制限違反が認められないとしても,「共同住宅」
とは,「2以上の住戸を有する一の建築物で,隣接する住戸間又は上下
で重なり合う住戸間で内部での行き来ができない完全分離型の構造を有
する建築物のうち,廊下・階段等を各住戸で共有する形式のもの」をい
うとされているところ,本館棟専用住宅部分は,前提事実のとおりの建
物の構成に照らすと,2階から4階までがそれぞれ住戸として独立して
いる反面,共通の階段とエレベーター,男女別のトイレを有しているこ
とのほか,次の事情を認めることができる。
a本館棟専用住宅部分は,電気,水道,ガスメーター等の設備系統は,
各戸別に系統されている蓋然性が高い。
b計画建物2の管理室は,その出入口が本館棟専用住宅部分の直通階
段及び避難経路を監視できる方向にあるから,その監視を目的とする
施設である。
c本館棟専用住宅部分の図面等(甲21,22,26)には,次のと
おり,その用途が共同住宅であれば必要であるが,長屋であれば不要
な事項の指示等がされている。
(a)避難距離
本件では,図面上に,明確に避難距離が示され,50m以下との
記載がされ,更には重複距離の算定がされている(建築基準法35
条,建築基準法施行令120条)。
(b)2以上の直通階段の設置及び共用廊下幅員
本件では,屋内階段が二つ設置され(建築基準法35条,建築基
準法施行令121条),共用廊下の幅員が1.2mとされている
(建築基準法35条,建築基準法施行令119条)。
(イ)上記(ア)の諸点を総合すれば,本館棟専用住宅部分の用途が共同住
宅であることは明らかである。
そうすると,本館棟専用住宅部分は,消防法の防火対象物に該当し,
かつ,延べ面積が6000㎡を超えているので,自動火災報知設備(消
防法施行令21条1項4号),屋内消火栓設備(消防法施行令11条1
項3号),共用廊下部分に非常用照明(建設基準法施行令126条の
4),地階には誘導灯(消防法施行令26条1項各号)などの設置が義
務付けられており,また,車いす使用者用駐車施設の設置が必要である
(高齢者,障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律,同法施行令
17条,東京都高齢者,障害者が利用しやすい建築物の整備に関する条
例)が,以上の設備等の設置が明らかにされていないから,以上の各建
築基準関係規定に違反するというべきである。
ウ一建物一敷地の原則違反
(ア)一建物一敷地の原則(建築基準法施行令1条1項1号)における
「一の建築物」に当たるか否かは,法令の趣旨及び目的の観点から検討
すべきものであるから,建築物を一体性のある建築物として許容するこ
とが法令の趣旨及び目的に反すると認められるときは,「一の建築物」
として許容することはできないと解すべきである。
(イ)これを本件についてみると,①アネックス棟は,西側の直通階段
からの避難が可能であり,本館棟専用住宅部分との避難上の一体性はな
いこと,②本館棟専用住宅部分は前記ア又はイのとおり「ホテル又は
旅館」又は「共同住宅」に当たるから,プールやボーリング施設のよう
なアネックス棟との関係では,その用途が異なり,旅館業又は居住に必
要不可欠なものではないこと,③本館棟専用住宅部分とアネックス棟
は,地下1階の廊下のエキスパンション・ジョイントで接続しているだ
けで,外観上も構造上も切り離されており,全体の建築面積及び床面積
からして極めて微小な接続にすぎず,本館棟専用住宅部分は地上部分が
中心であるのに対してアネックス棟は地下2層の建築物であることに照
らすと,本館棟専用住宅部分とアネックス棟との間に機能上,外観上及
び構造上の一体性を欠くから,一建物一敷地の原則に違反する。
エ東京都建築安全条例4条違反
(ア)建築基準法施行令2条1項6号ロに基づく建築物の屋上部分につい

a屋上部分の設備機械スペース
屋上部分の設備機械スペースについては,①設備機械スペースを
覆う目隠しが「建築物に設ける電気,ガス,給水,排水,換気,暖房,
冷房,消化,排煙若しくは汚物処理の設備」の一部として「建築設
備」に当たり,建築物に該当すること,②仮にこれが建築物に該当
しないとしても,当該目隠しは,その荷重を本件建築物の屋根が支え
ており,その風荷重(横からの風圧)を支えるために当該目隠しの柱
が本件建築物の屋根スラブにアンカーボルト等で連結されているもの
と考えられるから(乙9),機能上の一体性があり,外壁とも同一の
仕上げであるから建築物の外壁の一部として外観上の一体性を有する
上(甲28),その規模が大きく,「建設設備」である設備機械の目
隠しとして機能し,周辺に日影等の影響を発生させるから,本件建築
物と構造上一体のものとして,その全体が建築基準法施行令2条1項
6号ロの「階段室,昇降機塔,装飾塔,物見塔,屋窓その他これらに
類する建築物の屋上部分」に該当すると解すべきことからすれば,建
築基準法の趣旨に照らし,設備機械自体のみならずその周囲の目隠し
部分を含めて水平投影面積を算出すべきである。
b本館棟中央の巨大な構造物
本館棟中央の巨大な構造物(以下「本件パーゴラ」という。)は,
①建築物のために屋上から突出した構成物であるから,建築基準法
2条3号の「煙突」に該当すること,②これが「煙突」に当たらな
いとしても,本館棟のための設備であり,建築設備に該当することに
照らし,本件建築物と構造上又は外観上一体的なものとして屋上部分
の水平投影面積に含まれるべきである。
cペントハウス階(塔屋階)
屋上のペントハウス階(以下「PH階」という。)の部分A(別紙
4の赤色で囲った部分。以下同じ)は,階段室と思われるが,屋根が
あり,階段の大きさと比較して面積が大きいこと,PH階の部分B
(別紙4の青色で囲った部分。以下同じ。)は,昇降機塔と思われる
が,エレベーターの塔屋として通常の乗降に必要な規模以上の大きさ
であること等から,通常必要とされる規模を超えて余分な屋内的用途
があることが明らかであり,そもそも建築基準法施行令2条1項6号
ロの「屋上部分」に該当するものではなく,その高さは本来的に「建
築物の高さ」に加えられるべきものである。
(イ)以上によれば,建築基準法施行令2条1項6号ロに基づく建築物の
屋上部分としては,上記(ア)a(屋上部分の設備機械スペース)及び上
記(ア)b(本件パーゴラ)の水平投影面積約321.5㎡(=(9.4m×1
1.7m)+(11.3m×8.4m)+(11.0m×10.6m))をも算入すべきであり,
その点だけ見ても全体の建築面積の8分の1(206.75㎡)を大き
く超過しているから,上記(ア)a及びbの各部分の高さも本件建築物の
高さに算入しなければならず,また,上記(ア)cの部分の高さも,当然
のことながら本件建築物の高さとして算入する必要がある。そこで,上
記(ア)の各部分の高さを算入すると,本件建築物の実際の高さは18.
47mとなる。
そうすると,本件建築物の延べ面積が3000㎡を超え,かつ,その
高さが15mを超えることから,本件建築物の敷地に関しては,東京都
建築安全条例4条1項,2項により幅員6m以上の道路に10m以上の
長さで接しなければならないが,本件建築計画上,当該敷地に接してい
る道路の幅員は北4.51m,東4.33m,西4.19mにすぎないか
ら,本件建築確認処分には,東京都建築安全条例4条1項,2項に違反
する違法がある。
(ウ)本件建築計画は,平均グラウンドレベルからパラペット天井までを
本件建築物の「最高の高さ」としているが,本件建築物の敷地は,北側
道路が高く,それよりも南側が低い形状(その高低差は2m以上ある)
であるにもかかわらず,平均地盤面算定図(確認申請図面のA012。
甲30)の領域A-1では,玄関部分等で人工的に削られて極めて平坦
な地盤面とされ,道路境界の地盤の形状と建物の平均地盤面の形状が著
しく異なるから,意図的な盛土が行われた疑いが強く,このような意図
的な盛土に基づいて設定された本件建築物の高さは,違法である。
オ容積対象床面積の過小算定の違法
次の各部分については,本件建築物の容積対象床面積として算入すべき
であるのに,建物求積図(甲31,32)では,当該階段1及び階段2の
床面積が算定されていないから,容積対象床面積の算定を過小に行ってい
る違法がある。
(ア)アネックス棟西側に設置された階段1及び階段2(甲23,24参
照)は,いずれも屋根が存在し,高さも十分であるから,屋内的な用途
があることに照らすと,それらの本館棟免震ピット階及び本館棟地下1
階(B1階)に相当する床面積(乙83,84の「屋内避難階段1」及
び「屋内避難階段2」とある部分の各床面積)も本件建築物の容積対象
床面積として算入すべきである。
(イ)アネックス棟の本館棟免震ピット階にある広大なキャットウォーク
(甲23参照)は,網の目のように全面に広がっており,幅が1mを超
える部分もあり,全体として,物を設置したり,他の用途に用いたりす
るといった屋内的用途があり,継続的に用いることができるから,本件
建築物の容積率対象床面積に算入すべきである。
(ウ)本館棟専用住宅部分の1階全面に設置された免震ピット(甲23,
29参照)は,免震層下端からB1FLまでの高さが2650㎜となっ
ていて物を置くなどするのに十分であり,屋内的用途に用いることが可
能であるから,全面的に本件建築物の容積率対象床面積に算入すべきで
ある。
カ建築基準法施行令121条違反
建築基準法施行令121条の「直通階段」とは,同令120条に基づく
歩行距離の制限内にある直通階段をいうと解すべきところ,本件建築物に
おいては,アネックス棟B1で階段室までで細い通路を伝って92.53
m(甲22)であり,アネックス棟B2で階段室までで最大55.05m
(甲21)であるから,建築基準法施行令120条に基づく歩行距離の制
限内にある直通階段を2方向に有しないことが明らかである。
したがって,本件建築物には,建築基準法施行令121条に違反する違
法がある。
キ本件建築計画には開発許可を経ていない違法があること
本件建築物の敷地は,平成16年1月1日当時,その南側に森が存在し,
土地に起伏があったにもかかわらず(甲42,43),平成21年11月
当時若しくは現在,上記森が存在せず,土地も平坦になっているから,土
地の形質変更(都市計画法4条12項)を内容とする開発行為が行われた
といえる。
しかしながら,本件建築物の敷地については,当該開発行為の許可がさ
れていないから,本件建築確認処分には,都市計画法29条に違反する違
法がある。
なお,仮に,本件建築主の前所有者が当該開発行為をその許可を受けず
に行ったとしても,本件建築確認処分との関係では,開発許可を適法に取
得しなかった違法は,その取消事由になると解すべきである。
ク「軽微な変更」に該当しないことによる違法
本件建築主が軽微な変更として行った変更は,法適合性について危険側
への変更を伴う実質的な判断を伴うものであり,軽微な変更(建築基準法
6条1項,建築基準法施行規則3条の2)に該当しないから,これらの変
更が行われた本件建築確認処分は,違法である。
(被告の主張の要旨)
ア用途制限に違反しないこと
(ア)a指定確認検査機関は,申請された建築物について建築主の属性・
建築物の規模・構造等から,申請外の用途に使用されるおそれを判断
した上,建築確認を行うかあるいは不適法処分を行うかについての裁
量判断を行う権限は与えられておらず,申請された用途として使用す
ることが可能であれば,そのような用途として使用される建築物であ
ることを前提として,審査を行うべきであるところ,建物が「住宅」
と「ホテル又は旅館」とのいずれに該当するかについては,法令上判
断基準が示されていないから,被告としては,建築確認の対象となっ
た建築物がその構造・建築設備の内容からみて,確認申請書に記載さ
れたとおりの用途に使用されることが認められ,これが法令の関係規
定に合致していれば,建築確認処分をすることになる。
b建築物の用途としての「長屋」とは,住宅のうち「2以上の住戸を
有する一の建築物で,隣接する又は上下で重なり合う住戸間で内部で
の行き来ができない完全分離型の構造を有する建築物のうち,廊下・
階段等を各住戸で共有しない形式のもの」をいうとされている(乙1
の2)。
また,建築物の用途としての「ホテル又は旅館」に関しては,ウィ
ークリーマンション,サービスアパートメント,会社の寮及び保養所
等の「ホテル又は旅館」に該当するかどうかが書面のみでは必ずしも
明らかでない建築物については,当該施設が旅館業法の適用対象とな
る「人を宿泊させる営業」に該当するか否かにつき,①施設の管
理・経営形態を総合的に見て,宿泊者のいる部屋を含め施設の衛生上
の維持管理責任が営業者にあるものと社会通念上認められること,②
施設を利用する宿泊者がその宿泊する部屋に生活の本拠を有さないこ
とを原則として営業しているものであることという条件を有している
か否かを判断の目安とし,事前に保健所に相談するなどして,総合的
に判断する必要があるとされている(乙1の1)。
(イ)これを本件についてみると,本件建築主が被告に提出した建築確認
申請書等(なお,被告は,本件建築物の用途につき,その設計者である
D株式会社の担当者から詳細な聞き取りも行っている。)によれば,本
件建築物の主要用途は「共同住宅・長屋」とされていることのほか,次
のとおり認めることができる。
a本館棟共同住宅部分
本館棟共同住宅部分は,前提事実のとおりの構造であり,賃貸住宅
として使用するものとされている。
また,本館棟共同住宅部分は,計画建物1の北側出入口が主要な出
入口であり,本館棟専用住宅部分との間で内部で往来することはでき
ない。
b本館棟専用住宅部分
本館棟専用住宅部分は,その主要な出入口である玄関が計画建物1
の1階東側にあり,各階に配置された室は,設計概要書(甲4,乙7
9)の「室の用途等について」という右下欄に,あくまで専用住宅と
して使用され,本館2階の住宅居住エリアはゲストルームであり,賃
貸として使用しない旨が明記され,駐車場も少なく,ホテルであれば
当然あるはずのフロントやクロークもなく,旅館業法2条所定の旅館
業(ホテル・旅館等の設備において,宿泊料を受けて,人を宿泊させ
る営業)を行うことをうかがわせる事情はない。
また,上記の点に加え,本館棟専用住宅部分の構造等に照らすと,
本館棟専用住宅部分は,①施設の管理・経営形態を総合的にみて,
宿泊者のいる部屋を含め施設の衛生上の維持管理責任が営業者にある
ものと社会通念上認められること,②施設を利用する宿泊者がその
宿泊する部屋に生活の本拠を有さないことを原則として営業している
ものであることという条件のいずれも満たさないことが明らかである。
cアネックス棟
アネックス棟は,プール,ボーリング及びゴルフの練習ができると
はいえ,そもそもこれが本館棟専用部分の「附属建物」に該当するか
否かは,アネックス棟が本館棟専用住宅部分から独立しているといえ
るか否か(使用方法についての設計者による図面への記載,独立した
出入口の有無等)によって判断すべきものであるところ,アネックス
棟は,①直接の出入口がなく,本館棟専用住宅部分の玄関を使用し
なければならず,独立した建築物でもないこと,②その駐車場も本
件建築物全体で4台分程度しかなく,スポーツクラブであれば当然に
あるはずのフロントが存在しないこと,③設計概要書(甲4)には
「アネックス棟:家族にて仕様(不特定多数の利用は無い。)」と記
載されていること,④本館棟専用住宅部分の延べ面積(約5200
㎡)は,アネックス棟の延べ面積(約3700㎡)の約1.4倍であ
ることからすると,長屋(専用住宅)に附属する運動施設であると判
断することができる。
また,アネックス棟は,スクリーンが設定されているものの,フィ
ールドは個人用スポーツ施設であって映画鑑賞等のための観客席等の
設置は予定されておらず,デッキにも規模からして家族での利用を超
える多数の観客席が設置されるとは考えられないから,これをもって
「映画館」又は「劇場」に該当するとはいえない。
(ウ)上記(イ)の諸点を総合すれば,本館棟共同住宅部分及び本館棟専用
住宅部分がそれぞれ独立した出入口を有し,共有部分を有しないことを
も併せ考慮すると,本館棟共同住宅部分は「共同住宅」,本館棟専用住
宅部分は「長屋」,アネックス棟は本館棟専用住宅部分に附属する運動
施設にそれぞれ該当すると判断することができる。
そうすると,本件建築物の敷地の用途地域は,第1種中高層住居専用
地域であり,建築し得る建物に住宅及び共同住宅が含まれ(建築基準法
別表第二(は)項),このような建築物に附属するもので建築基準法施行
令130条の5の5に該当しないものの建築も認められている(同項8
号)から,本件建築物の上記用途は,いずれの点においても建築基準法
48条に違反しない。
イ本館棟専用住宅部分が「共同住宅」に該当しないこと
前記ア(イ)の諸点によれば,本館棟専用住宅部分は,一戸建て住宅を多
数世帯で利用するものであり,これと本館棟共同住宅部分との間が内部で
往来することができない構造であって,それぞれ独立した出入口があり,
共有部分がないことのほか,次の点を併せ考慮すれば,本館棟専用住宅部
分の用途が「長屋(専用住宅)」に該当し,「共同住宅」に該当しないこ
とは明らかである。
a本館棟専用住宅部分の設備系統は,次のとおりである。
(a)水道については,確認申請図である「衛生設備系統図(給水・給
湯・ガス)」(乙12)によれば,給水本管が二つに分岐し,それぞ
れの配管に「50Φ給水メーター(レジデンス,アネックス用)」,
「32Φ給水メーター(アパート用)」が設置されているところ,後
者の先には「32Φ給水メーター」が二つ設置されている(したがっ
て,各住戸にメーターが設置されている。)が,前者の先にはメータ
ーが付いていない(したがって,各住戸にはメーターが設置されてい
ない。)。
(b)ガスについても,確認申請図である「衛生設備系統図(給水・給
湯・ガス)」(乙12)によれば,本管が二つに分岐し,共同住宅部
分の配管にはガスメーターが二つ設置されているが,長屋(専用住
宅)用の配管にはガスメーターが一つしか設置されていない。
(c)電気系統については,確認申請図である「送電系統図」(乙1
3)によれば,<ア>送電系統図の左上部分から計画建物に引き込ま
れ,<イ>送電系統図の中央やや左上の「Wh」と記載された部分にメ
ーターが一つ設置されているが,<ウ>本館棟専用住宅部分の電気系
統に関する記載はない。また,被告は,平成23年11月11日,本
件建築物の設計者であるD株式会社から,各戸別に電気設備を系統す
る設計はされていないことを確認した。
b計画建物2の管理室は,計画建物全体の出入口付近に設置されており,
当該出入口側を向いているから,管理人が計画建物全体の管理を行うた
めのものであることが予想される。したがって,当該管理室が上記のよ
うな位置関係で設置されることは,管理室の出入口の向きも含め,本館
棟専用住宅部分が長屋であることと矛盾するものではない。
c原告らが指摘する図面等の指示等をもって,本館棟専用住宅部分が共
同住宅であるとはいえない。
ウ一建物一敷地の原則に反しないこと
①本館棟専用住宅部分とアネックス棟は,地下1階(B1階)の廊下
のエキスパンション・ジョイントで接続されているだけでなく,地下での
接続部分が相互に連絡しており(甲22),構造上,外観上及び形態上一
体と判断するに十分な接続を有していること,②アネックス棟は,避難
用出入口を除き,直接出入りする出入口がなく,本館棟専用住宅部分の玄
関を使用しなければならないこと,③アネックス棟は,本館棟専用住宅
部分に居住する家族のレクリエーション施設として利用されるものとされ
ていること及び上記②の事実をも併せ考慮すれば,アネックス棟の主要な
用途に即した機能は本館棟専用住宅部分の居住者のみにより使用されるこ
とが想定されており,本館棟専用住宅部分とアネックス棟との間に機能上
の一体性が認められること,④避難上の一体性は考慮要素に含まれると
しても,重要性は高いものではないと考えられることに照らすと,本館棟
専用住宅部分とアネックス棟は,一体性のある建築物として「一の建築
物」に該当するというべきである。
したがって,計画建物1(本館棟専用住宅部分及びアネックス棟)は,
一建物一敷地の原則に反するものではない。
エ東京都建築安全条例4条に違反しないこと
(ア)建築基準法施行令2条1項6号ロに基づく建築物の屋上部分につい

a屋上部分の設備機械スペース
そもそも屋上部分の設備機械自体は,建築基準法2条3号の「建設
設備」であって建築物に該当する。他方,設備機械スペース周辺の目
隠し部分は,建築物屋上に基礎を設け,独立して設置されているもの
であって工作物であり,建築物の構造体である柱を延長して目隠しの
支柱にするなどして,建築物と構造上一体になるよう構成されている
ものではないから,建築基準法施行令2条1項6号ロの「階段室,昇
降機塔,装飾塔,物見塔,屋窓その他これらに類する建築物の屋上部
分」に該当するものではない。
そうすると,原告らが指摘する本件建築物の設備機械スペースの範
囲は,屋根で覆われているわけでもなく,建築物から独立した目隠し
のための工作物(塀)に囲まれているにすぎないから,その全ての部
分を設備機械の水平投影面積として算出する必要はなく,設備機械自
体等の水平投影面積のみを算出すればよい。
b本件パーゴラ
本館棟中央の本件パーゴラは,建築物とは独立した装飾のための工
作物であって,柱と上部の棚で構成される屋根のない工作物であるか
ら,建築基準法2条3号の「建設設備」に該当せず(また,建築基準
法2条4号の「煙突」とは,一般に,空筒で,燃料の燃焼を助ける通
風の役をし,また煤煙を空中に排出させる設備をいうと考えられると
ころ,上記のような工作物である本件パーゴラがこれに該当しないこ
とは明らかである。),かつ,外観上は骨組みだけであり,建築物屋
上に基礎を設け,独立して設置されているものであること(乙9)か
らすると,建築物と構造上一体ではないから,建築基準法施行令2条
1項6号ロの「階段室,昇降機塔,装飾塔,物見塔,屋窓その他これ
らに類する建築物の屋上部分」に該当せず,本件建築物の高さに算入
すべき部分ではない。
cPH階の部分A及び部分B
PH階の部分Aは,階段室であってその踊り場部分が階段の大きさ
と比較して面積が極端に大きいとは考えられず,PH階の部分Bも,
エレベーターの塔屋であって,通常の乗降に必要な規模以上の大きさ
であるとはいえないから,これらはいずれも建築基準法2条1項6号
ロの「屋上部分」に該当する。
(イ)以上によれば,建築基準法施行令2条1項6号ロに基づく建築物の
屋上部分としては,階段室・昇降機塔の部分のほか,設備機械自体等の
水平投影面積,天窓等の屋上部分及び本件については屋上突起物である
工作物の基礎や軽微でないためハト小屋(乙3の青色部分)の屋上突出
部分を算入することになるから,これらを合計した面積181.60㎡
(乙11参照)は,本件建築物(本館棟・アネックス棟)の建築面積
(1654.03㎡)の8分の1(206.75㎡)を明らかに下回って
おり,本件建築物の屋上部分をその高さに算入する必要はない。
そうすると,本件建築物の高さは,15m以下であると認められるか
ら,原告らの主張に係る東京都建築安全条例4条違反の違法はない。
(ウ)なお,原告らは,本件建築物の敷地に意図的な盛土があった旨主張
するが,そもそも本件建築物が建築される部分の地盤面はおよそ平坦で
あり(甲20,乙6),本件建築主が港区環境街づくり支援部開発指導
課に対して事前相談を行い,当該敷地の整備が開発行為に該当しないと
の回答を得ていること(乙7)等に照らし,そのような事実はなく,被
告の判断に係る本件建築物の高さに違法はない。
オ容積対象床面積の算定が過小ではないこと
原告らの主張に係る各部分は,次のとおり本件建築物の容積対象床面積
として算入する必要がないから,容積対象床面積の算定を過小に行った違
法はない。
(ア)原告らの主張に係るアネックス棟西側に設置された階段1及び階段
2(甲23,24)については,そもそも延べ面積は建築物の各階の床
面積の合計によるとされているところ(建築基準法施行令2条1項4
号),原告らが算入すべきと主張する床面積部分(甲23,24)はア
ネックス棟地下1階(B1階。甲22)の中の上方空間を示しているに
すぎないから,建築物の階に当たらない当該床面積部分を容積対象床面
積に算入すべきものではない。
(イ)原告らの主張に係るアネックス棟のキャットウォークは,天井裏内
に設置された天井全体に設けた照明設備の保守点検用の通路(ただし,
このうち幅が広くなった部分は,アネックス棟壁面に設けたスクリーン
に映像を投影するための設備の保守点検用の通路である。)にすぎず,
アネックス棟内部を眺めることができるようなギャラリー(甲39)等
ではなく,人が一定時間以上そこに滞留し,継続して使用されるもので
ないから,その全体が容積対象床面積に算入されるものではない。
(ウ)原告らの主張に係る免震ピットは,免震装置の保守点検を行うため
に免震装置の周りにある程度の空間が予定されているものであり,出入
りのための階段及びタラップにも「点検用」と記載されている(甲2
3)から,屋内的用途に使用されるものと判断することはできず,容積
対象床面積に算入すべきものではない。
カ建築基準法施行令121条に違反しないこと
建築基準法施行令120条は,その文言上,全ての直通階段が「表の数
値以下となるように設けなければならない」と規定していないことが明ら
かであるところ,原告らの主張に係るアネックス棟地下1階(B1階)に
おいて,直通階段である階段2までの歩行距離が35.89mであり(甲
21の破線部分参照),アネックス棟地下2階(B2階)において,直通
階段である階段1までの歩行距離が24.31mであるから(甲22の破
線部分参照),いずれも建築基準法施行令120条に基づく歩行距離の制
限内(40m)であり,同条に違反しない。
そして,アネックス棟は,直通階段が階段1及び階段2の二つ設置され
ているから,建築基準法施行令121条にも違反しない。
キ本件建築計画に開発許可は不要であること
そもそも開発許可は,開発行為をしようとする者(都市計画法29条1
項柱書き)が受けなければならない許可であり,開発行為とは主として建
築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行う土地の区画形質
の変更をいう(同法4条12項)ところ,原告らの主張によっても上記目
的で行う土地の区画形質の変更があったことは具体的に明らかにされてお
らず(そもそも土地の区画形質の変更が上記目的で行われない限り,原則
として都市計画法上の開発行為に該当せず,開発許可を要しない。),本
件建築物の敷地は本件建築主が取得した時点までに更地になっており,本
件建築主が港区環境街づくり支援部開発指導課に対して事前相談を行って
その整備が開発行為に該当しないとの回答を得ていることに照らすと,本
件建築物の敷地について開発許可を適法に受けていないという事実はない。
ク「軽微な変更」に該当することなど
第3回建築確認処分が第2回建築確認処分から変更された内容は,別紙
6のとおりであり,本件建築確認処分が第3回建築確認処分から変更され
た内容は,別紙7のとおりであるところ,本件建築主が行った変更内容は,
数字の誤記(図面との不整合)の訂正(甲35)や計算の誤りの修正(甲
34)にすぎず,原告らの主張するような,建築物の高さが上昇したり,
屋上部分の水平投影面積が増加するようなものではない。仮に,上記変更
内容が建築基準法6条1項及び建築基準法施行規則3条の2所定の「軽微
な変更」に該当しないとしても,それが違法であれば当該変更について効
力が生じないだけであり,これをもって本件建築確認処分を取り消すこと
はできない。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(原告らの原告適格の有無)
(1)行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条
1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」と
は,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,
又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた
行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消さ
せるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護す
べきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにい
う法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然
的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を
有するものというべきである。そして,当該処分の相手方以外の者について
上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根
拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並
びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場
合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と
目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該
利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法
令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこ
れが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)(以
上につき,最高裁平成16年(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判
決・民集59巻10号2645頁参照)。
そこで,以下,上記の観点から,本件建築確認処分の相手方以外の者であ
る原告らが,本件建築確認処分の取消しを求める原告適格を有するか否かに
ついて検討する。
(2)建築基準法は,52条及び57条の2において建築物の容積率制限,5
5条及び56条において高さ制限を定めているところ,これらの規定は,本
来,建築密度,建築物の規模等を規制することにより,建築物の敷地上に適
度な空間を確保し,もって,当該建築物及びこれに隣接する建築物等におけ
る日照,通風,採光等を良好に保つことを目的とするものであるが,そのほ
か,当該建築物に火災その他の災害が発生した場合に,隣接する建築物等に
延焼するなどの危険を抑制することをもその目的に含むものと解するのが相
当である。そして,同法6条1項は,建築主は,建築物を建築しようとする
場合等においては,当該工事に着手する前に,その計画が建築基準関係規定
に適合するものであることについて,確認の申請書を提出して建築主事の確
認を受け,確認済証の交付を受けなければならないものとし,また,同法6
条の2第1項は,上記建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであ
ることについて指定確認検査機関の確認を受け,確認済証の交付を受けたと
きは,当該確認は建築主事による確認と,当該確認済証は建築主事の確認済
証とみなすとしている。容積率制限や高さ制限の規定の上記の趣旨・目的等
をも考慮すれば,上記の各規定は,建築物及びその周辺の建築物における日
照,通風,採光等を良好に保つなど快適な居住環境を確保することができる
ようにするとともに,当該建築物が地震,火災等により倒壊,炎上するなど
万一の事態が生じた場合に,その周辺の建築物やその居住者に重大な被害が
及ぶことがないよう適切な設計がされていることなどを審査し,安全,防火,
衛生等の観点から支障がないと認められる場合にのみ建築確認をすることと
しているものと解される(最高裁平成9年(行ツ)第7号同14年1月22
日第三小法廷判決・民集56巻1号46頁参照)。以上のような,上記の各
規定の趣旨・目的,同項が建築確認を通して保護しようとしている利益の内
容・性質等に加え,同法が建築物の敷地,構造等に関する最低の基準を定め
て国民の生命,健康及び財産の保護を図ることなどを目的とするものである
(1条)ことに鑑みれば,上記の各規定は,(a)建築確認に係る建築物の
倒壊,炎上等による被害が直接的に及ぶことが想定される周辺の一定範囲の
地域に存する他の建築物について,その居住者の生命,身体の安全等及び財
産としてのその建築物を,(b)当該建築物により日照,通風を阻害される
周辺の他の建築物について,その居住者の健康を,それぞれ個々人の個別的
利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そう
すると,①建築確認に係る建築物の倒壊,炎上等により直接的な被害を受
けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し又はこれを所有す
る者及び②当該建築物により日照,通風を阻害される周辺の他の建築物に
居住する者は,それぞれ当該建築確認の取消しを求めるにつき法律上の利益
を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相
当である(前掲最高裁平成14年1月22日第三小法廷判決,最高裁平成9
年(行ツ)第159号同14年3月28日第一小法廷判決・民集56巻3号
613頁参照)。
そして,上記①の建築物の炎上,倒壊等により直接的な被害が及ぶことが
予想される範囲は,<ア>高さ2mを超えるがけの下端からの水平距離がが
け高の2倍以内のところに建築物を建築する場合等に高さ2mを超える擁壁
を設けなければならない旨を規定する東京都建築安全条例6条2項の規定や,
<イ>中高層建築物の敷地境界線からその高さの2倍の水平距離の範囲内に
ある土地又は建築物に関して権利を有する者及び当該範囲内に居住する者等
を近隣関係住民とし,建築主の近隣関係住民に対する説明会の開催等,建築
主と近隣関係住民との間の中高層建築物の建築に伴って生ずる日照,通風及
び採光の阻害,風害,電波障害等並びに工事中の騒音,振動等の周辺の生活
環境に及ぼす影響に関する紛争に係るあっせん及び調停について規定する港
区建築紛争予防条例2条7号,7条,7条の2,8条及び10条の規定等を
も併せ考慮すると,その敷地から当該建築物の高さの2倍の程度の距離の範
囲内をいうと解すべきである。
(3)これを本件についてみると,前提事実及び証拠(甲13)によれば,次
の事情を指摘することができる。
ア本件建築物は,その高さが15mであるところ,原告Bが居住する原告
B建物との距離は約25m(本件建築物の敷地と原告B建物との距離は約
21m)であり,原告Cが居住する原告C建物との距離は約14m(本件
建築物の敷地と原告B建物との距離は約7m)である。
イ本件建築物が完成した場合,本件建築物の北側に居住する原告らは,少
なくとも冬至日において,その日影により,原告Bが1時間程度,原告C
が3時間程度,日照阻害を受けることになる。
(4)上記の各事実を総合すれば,原告らは,①本件建築物の倒壊,炎上等
により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に
居住する者に該当するとともに,②本件建築物により日照阻害を受ける周
辺の建築物に居住する者に該当するから,原告らの主張するその余の点を検
討するまでもなく,上記①及び②の各観点において,本件建築確認処分の取
消しにつき原告適格を有するものと認められる。
(5)これに対し,被告は,①原告らの上記日照阻害は,その程度が軽微で
あるから,原告らの原告適格を基礎付けるに足りず,また,②本件建築物
は,原告らの居住地側における実際の高さが10.6mしかなく,これが直
立したまま90度に倒れたと想定しても,原告B建物及び原告C建物が本件
建築物の倒壊,炎上等により直接的な被害を受けることが予想されない旨主
張するが,①の点については,原告らは,前記(3)で認定したとおり,本件
建築物が完成した場合には現に日照阻害を受ける以上,少なくとも本件建築
確認処分により自己の法律上保護された利益を必然的に侵害されるおそれが
あるといわざるを得ないから,日照阻害の程度等をもって原告適格を否定す
ることはできず,また,②の点については,前記(2)に説示したところに照
らして首肯することができず,いずれも採用することができない。
(6)以上によれば,原告らは,本件建築確認処分の取消しにつき原告適格を
有するものと認められる。
2争点(2)(本件建築確認処分の適法性)
(1)用途制限違反の有無について
ア建築基準法は,(ア)第一種中高層住居専用地域内においては,別表第
二(は)項に掲げる建築物以外の建築物は,特定行政庁が第一種中高層住居
専用地域における良好な住居の環境を害するおそれがないと認め,又は公
益上やむを得ないと認めて許可した場合を除き,建築してはならない旨を
規定し(48条3項),(イ)別表第二(は)項に掲げる建築物として,①
住宅,②住宅で事務所,店舗その他これらに類する用途を兼ねるもの
のうち政令で定めるもの,③共同住宅,寄宿舎又は下宿,④学校(大
学,高等専門学校,専修学校及び各種学校を除く。),図書館その他これ
らに類するもの,⑤神社,寺院,教会その他これらに類するもの,⑥
老人ホーム,保育所,身体障害者福祉ホームその他これらに類するもの,
⑦公衆浴場(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条6
項1号に該当する営業に係るものを除く。),⑧診療所,⑨巡査派出
所,公衆電話所その他これらに類する政令で定める公益上必要な建築物の
ほか(同項1号,(い)項1号~9号),⑩大学,高等専門学校,専修学
校その他これらに類するもの(同表(は)項2号),⑪病院(同項3号),
⑫老人福祉センター,児童厚生施設その他これらに類するもの(同項4
号),⑬店舗,飲食店その他これらに類する用途に供するもののうち政
令で定めるものでその用途に供する部分の床面積の合計が500㎡以内の
もの(3階以上の部分をその用途に供するものを除く。同項5号),⑭
自動車車庫で床面積の合計が300㎡以内のもの又は都市計画として決定
されたもの(3階以上の部分をその用途に供するものを除く。同項6号),
⑮公益上必要な建築物で政令で定めるもの(同項7号),⑯①~⑮の
建築物に附属するもの(建築基準法施行令130条の5の5所定の自動車
車庫,畜舎及び危険物の貯蔵又は処理に供するものを除く。同項8号)を
規定している。これは,都市計画法に基づいて都市計画区域に定められた
地域及び地区(同法8条)が,都市の健全な発展と秩序ある整備を図り,
国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的として定め
られたものであることから(同法1条参照),そのような土地利用計画を
実現するとともに,市街地の環境の保全等を図るため,原則として,当該
地域又は地区の別に応じてその地域又は地区内に建築することができる建
築物を制限した上,当該地域又は地区内における住居の環境を害するおそ
れや公益上の必要等に応じて,特定行政庁の許可を条件として,その例外
を許容することとしたものと解される。
そして,建築確認は,建築基準法6条1項に基づき,建築主事又は指定
確認検査機関が,建築物の建築等の工事が着手される前に,当該建築物の
計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて公権的に判断
する行為であるところ,建築主事(指定確認検査機関)の上記判断は,建
築主が提出した確認の申請書(確認の申請)に基づいて行われることを予
定している(このことは,建築基準法6条13項及び6条の2第9項にお
いて,建築主事(指定確認検査機関)が申請書の記載(申請の内容)によ
って建築基準関係規定に適合するかどうかを決定することができない場合
を予定していることからも明らかである。)。その確認の申請書(確認の
申請)は,①建築基準法施行規則別記第2号様式による正本(これには,
主要用途欄に,主たる用途をできるだけ具体的に記入することとされてい
る(「(注意)」欄4⑩参照)。)及び副本に,a付近見取図,配置図,
各階平面図,床面積求積図,二面以上の立面図,二面以上の断面図,地番
面算定表,基礎伏図,各階床伏図,小屋伏図及び構造詳細図を添えるほか,
b当該建築物に適用される建築基準関係規定に応じて必要とされる図書
及び書類(建築基準法48条の規定が適用される建築物については,敷地
の位置を(平成23年国土交通省令第37号による改正前においては,併
せて,隣地にある建築物の位置及び用途をも)明示した付近見取図,用途
地域の境界線を明示した配置図,危険物の種類及び数量を明示した危険物
の数量表,事業の種類を明示した工場・事業調書(同規則1条の3第1項
の表二(二二)の項参照))を添えたもの,②同規則別記第3号様式によ
る建築計画概要書等とされている(同規則1条の3,3条の3参照)。
以上のような建築基準法その他の法令の各規定の文言,趣旨及び目的等
に加え,そもそも建築物の用途は,同一の形状の建築物であっても建築主
の使用目的によって変わり得るから,必ずしもその形状等から客観的に判
別することはできず,現に,確認の申請書(確認の申請)として建築基準
法施行規則別記第2号様式による正本等に添えられる上記①bの図書及び
書類をみても,確認の申請の対象となった建築物の用途によっては,その
用途が客観的に明らかになるものもあるものの,その建築物の用途を問わ
ず全ての建築物につきその用途を客観的に明らかにするに足りるものとま
ではいえないことをも併せ考慮すれば,建築主事又は指定確認検査機関は,
建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて建築
基準法6条1項又は同法6条の2第1項の確認をするに当たり,当該建築
物が同法48条により建築を制限される建築物であるかどうかを判断する
に際しては,建築主が提出した確認の申請書(確認の申請)に基づき,当
該確認の申請書の主要用途欄に記載された用途が当該建築物の主たる用途
であるかどうかを,当該確認の申請書の主要用途欄の記載を始めとして当
該建築物の用途を示す目的でされた記載を中心に添付書類を含む申請書の
記載に照らして客観的に判断すれば足り,構造等から当該用途に供するこ
とが不可能であって他の用途に供されることが明らかであるなど,異なる
用途に供されるものと判断すべき特段の事情がない限り,当該確認の申請
書の記載のうち当該建築物の用途を示す目的でされた記載以外のものを殊
更に重視してこれを判断することや,当該確認の申請書の記載を離れた他
の事情を考慮してこれを判断することまでは要しないと解すべきである。
以上の説示に反する限りで原告らの主張(前記第2の3(2)(原告らの
主張の要旨)ア(ア))は,採用することができない。
イ以上の解釈を踏まえ,本件についてみると,前提事実によれば,本件建
築物は,本件建築確認処分に係る計画変更建築計画概要書(甲46)にお
いて,その主要用途が「共同住宅・長屋(住戸数3)」とされているとこ
ろ,①「共同住宅」は,2以上の住戸を有する一の建築物であって隣接
する住戸間又は上下で重なり合う住戸間で内部での行き来ができない完全
分離型の構造を有するもののうち,廊下・階段等を各住戸で共有する形式
のものをいい,②「長屋」は,上記建築物のうち,廊下・階段等を各住
戸で共有しない形式のものをいうものと解されるから(乙1の2),以下,
上記のような「共同住宅・長屋」が本件建築物の主たる用途であるかどう
かにつき,本件建築主が提出した確認の申請書に基づいて検討する。
(ア)本館棟共同住宅部分
前提事実及び証拠(乙85,86)並びに弁論の全趣旨によれば,本
館棟共同住宅部分(別紙5の黄緑色部分)は,1階から3階まであり,
①1階には,主要な出入口と共用のロビー等があり(乙85),②
2階及び3階には,それぞれ階段室に面する玄関を出入口とする住戸
(トイレ,流し台(台所),浴室,寝室がある。)が各1戸存在するが,
2階の住戸と3階の住戸との間で内部での行き来ができない完全分離型
の構造を有しており(乙86),③1階の共用のロビー及び1階から
3階までの階段室を2階及び3階の各住戸で共有する形式となっている
ところ,設計概要書における「室の用途等について」欄には「共同住
宅:賃貸住宅」と記載されていることが認められる(そして,本件全証
拠によっても,本館棟共同住宅部分の用途について当該確認の申請書
(確認の申請)の他の記載内容等からこれと異なる用途に供されるもの
と判断すべき特段の事情は認められない。)。
以上の事実によれば,本館棟共同住宅部分は,「共同住宅」に当たる
というべきである。
(イ)本館棟専用住宅部分
a前提事実及び証拠(乙12,13,84~87)並びに弁論の全趣
旨によれば,本館棟専用住宅部分(別紙5の青色部分)について,次
の事実を認めることができる。
(a)本館棟専用住宅部分の1階には,東側(乙85の下側)に住宅
の主要な出入口があり,ホール,廊下,ピロティー,鉄板焼きコー
ナーを有するダイニング及びキッチン,洋室,ホール2,コート,
男女別のトイレ等がある(乙85)。
(b)本館棟専用住宅部分の2階には,中央の階段から上がったとこ
ろにホール及びこれに隣接する西側バルコニーがあるほか,当該ホ
ールをはさんで北側と南側(乙86下段の右側と左側)に住戸部分
がそれぞれ存在する。そして,<ア>北側の住戸部分には,リビン
グ,寝室,和室,キッチン,洗面バスルーム及び便所があり,<イ>
南側の住戸部分には,リビング,寝室,キッチン,洗面バスルー
ム及びトイレがある(以上につき,乙86)。
(c)本館棟専用住宅部分の3階は,中央から北側(乙86上段の右
側)にかけて住戸部分があるほか,南側(乙86上段の左側)にダ
イニング,ホール,キッチン及びパントリー等がある。当該住戸部
分には,居間,主寝室,書斎,和室,クローゼット,浴室,トイレ,
テラス,乾燥室,洗濯室,脱衣室,サウナ,浴室及びシャワーがあ
る(以上につき,乙86)。
(d)本館棟専用住宅部分の4階は,中央から北側(乙87下段の右
側)にかけて住戸部分があるほか,南側(乙87下段の左側)に書
庫,前室及び洋室がある。当該住戸部分には,リビングルーム,テ
ラス,キッチン,和室,バスルーム及び露天風呂がある(以上につ
き,乙87)。
(e)本館棟専用住宅部分は,上記のほか,1階から4階に通じる階段3
(なお,階段1で屋上階(塔屋階)に通じている。),1階から4
階に通じる階段4,1階から屋上階に通じるエレベーター1及び地
階からアネックス棟へ接続するエレベーター2等があるが,本館棟
共同住宅部分と共有する廊下・階段等はない(乙85~87)。
(f)本館棟専用住宅部分と本館棟共同住宅部分とは,それらの住戸間で内
部での行き来ができない完全分離型の構造を有している。
なお,本館棟専用住宅部分には,ホテルに通常設置されているフ
ロントやクロークに類する設備は存在せず,また,駐車場に関して
は,地下1階(B1階)に約2台分の駐車スペースがある(乙8
4)にすぎない(なお,本館棟共同住宅部分には2台分の駐車場が
ある(乙85)。)。
(g)本館棟専用住宅部分の設備系統については,次のとおりである。
①水道については,本館棟共同住宅部分につながる配管(32Φ
給水メーター(アパート用)より先の部分)には二つのメーター
が設置されているが,本館棟専用住宅部分につながる配管(50
Φ給水メーター(レジデンス,アネックス用)より先の部分)に
はメーターが設置されていない(乙12)。
②ガスについても,本館棟共同住宅部分につながる配管には二つ
のガスメーターが設置されているが,本館棟専用住宅部分につな
がる配管に設置されたガスメーターは一つである(乙12)。
③電気系統についても,送電系統図(乙13)上,本館棟専用住
宅部分の各住戸部分にメーターを設置する旨の記載はない。
(h)設計概要書の「室の用途等について」欄には「本館:専用住宅。
本館2階の住宅居住エリアはゲストルームであり,賃貸として使用
しない」旨の記載がある。
b以上の事実によれば,確かに,本館棟専用住宅部分(別紙5の青色
部分)の2階から4階にかけての各住戸部分のうち,特に2階部分の
住戸部分は,上記のような間取りに鑑みると,それぞれ起臥寝食の場
所として独立に用いることが可能であるとも考えられるが,これらの
住戸部分は,本館棟共同住宅部分と異なり,そのいずれもが内部で相
互に行き来することが可能であるし,その設備系統についても1戸の
住戸であることが前提とされていること等に鑑みると,客観的にみて,
これらの住戸部分が独立していることが明白であるとまではいえない
から,設計概要書中の「これらの住戸部分が1戸の専用住宅である」
旨の記載部分に不自然不合理な点はないというべきである。他方,本
館棟専用住宅部分のトイレが男女別となっていることやキッチンやダ
イニングの規模が大きいことも,本館棟専用住宅部分の全体の規模や
全体的な間取り等に鑑みれば,必ずしもホテル又は旅館であることを
客観的に基礎付けるものとはいえないし,かえって,本館棟専用住宅
部分にはホテルに通常設置されているフロントやクロークに類する設
備は存在せず,駐車場も約4台分にとどまるなどの事情が認められ,
本件全証拠によっても,他に,これらの住戸部分が宿泊施設であり,
本館棟専用住宅部分がホテル又は旅館であることをうかがわせる事情
は認められず,本館棟専用住宅部分の用途について当該確認の申請書
の他の記載内容等から長屋(専用住宅)とは異なる用途に供されるも
のと判断すべき特段の事情も認められない。
以上の諸点を総合すれば,本館棟専用住宅部分は,1戸の専用住宅
として,隣接する本館棟共同住宅部分の各住戸とは内部での行き来が
できない完全分離型の構造を有しており,廊下・階段等を各住戸で共
有しない形式のものといえるから,「長屋」に当たるというべきであ
る。
cこれに対し,原告らは,前記第2の3(2)(原告らの主張の要旨)
アのとおり,①本館棟専用住宅部分の各住戸部分が滞在型ホテルの
客室の機能を有するから,本館棟専用住宅部分は「ホテル又は旅館」
に該当し,②駐車場が4台分しかないこと及びロビーやフロントと
いう設備がないことは,本館棟専用住宅部分の「ホテル又は旅館」該
当性を否定するものではない旨主張する。
しかし,①の点について,原告らが主張する上記各住戸部分の形状
や設備等のみをもって,これらの住戸部分がホテル等の宿泊施設であ
るとはいえず,また,②の点に関して原告らが主張する諸点が少なく
とも本館棟専用住宅部分の「ホテル又は旅館」該当性を積極的に基礎
付けるものといえず,確認の申請書の主要用途欄や「室の用途につい
て」欄に記載された用途とは異なり,「ホテル又は旅館」の用途に供
されるものと判断すべき特段の事情があるとはいえないことは,上記
bのとおりであるから,原告らの上記主張を採用することはできない。
(ウ)アネックス棟
a前提事実及び証拠(甲29,乙2,79~82,85)並びに弁論
の全趣旨によれば,アネックス棟(別紙5の赤色部分)について,次
の事実を認めることができる。
(a)アネックス棟は,深さ約20mの地下2階建ての建物であり
(その地上部分は,庭園(芝)になっている(乙85)。),①
地下2階(B2階)には,フィールドと呼ばれる大きな空間(これ
は,地下1階までの吹き抜けとなっている。),ボーリングレーン
及びボーリングスペース並びに機械室等があり(乙81),②地
下1階(B1階)には,プール,シャワー,サウナ,更衣室及びデ
ッキ等があるほか,本館棟専用住宅部分に接続する廊下等があり,
本館棟専用住宅部分との間でエキスパンション・ジョイントで接続
されているだけでなく,地下で接続部分が相互に連絡している(乙
79,82)。
なお,アネックス棟は,その西側に屋内避難階段1が,その南西
側に屋内避難階段2がそれぞれ設置されており,これらの階段から
地上に出ることができる(乙80~82)。
(b)上記(a)①(B2階)のフィールドには,その先の西側から北
側,さらに東側にかけて「スクリーン」という巨大なスクリーン
(西側壁に幅約24m,北側壁に幅24.5m,東側壁に幅24m,
高さは約11.5m~13.5m)が設置されている(乙82)。
(c)被告の算出結果(乙2)によれば,アネックス棟の延べ面積は
約3700㎡であるのに対し,本館棟専用住宅部分の延べ面積は約
5200㎡である。
(d)設計概要書の「室の用途等について」欄には「アネックス棟フ
ィールド:ゴルフ練習場でゴルフ打放し場であり,燃え草のないも
のとする。アネックス棟:家族にて使用(不特定多数の利用は無
い)」旨の記載がある。
b以上の事実によれば,アネックス棟は,①ゴルフ練習場,プール
及びボーリング場としての設備を有するが,②本館棟専用住宅部分
に面する庭園の地下に位置する地下2階建ての建築物であって,独立
した直接の出入口を有しておらず(なお,屋内避難階段1及び屋内避
難階段2は,いずれも建築基準法施行令120条,122条及び12
3条等の規定に基づいて設置される地上に通ずる直通階段であるから,
これらをもって独立した直接の出入口とみることは相当ではない。),
③本館棟専用住宅部分との間で,エキスパンション・ジョイントで
接続されているだけでなく,地下で接続部分が相互に連絡しており,
アネックス棟の利用者は本館棟専用住宅部分の玄関を主たる出入口と
して利用することが予定されていることに照らすと,設計概要書中の
「アネックス棟が,本館棟専用住宅部分の居住者家族においてゴルフ
練習場,プール及びボーリング場として利用するものである」旨の記
載部分に不自然不合理な点はないというべきであり,居住者と関係の
ない不特定多数の者の利用を予定していることが明らかであるとはい
えず,他に,アネックス棟の用途について当該確認の申請書(確認の
申請)の他の記載内容等から上記用途と異なる用途に供されるものと
判断すべき特段の事情も認められない(なお,アネックス棟が建築基
準法施行令130条の5の5所定の自動車車庫,畜舎及び危険物の貯
蔵又は処理に供するものに当たらないことは明らかである。)。
以上の諸点を総合すれば,アネックス棟は,運動施設であって本館
棟専用住宅部分に附属するもの(建築基準法別表第二(は)項8号参
照)に当たるというべきである。
cこれに対し,原告らは,前記第2の3(2)(原告らの主張の要旨)
アのとおり,前記アネックス棟が,①その規模等に照らすと,独立
した機能を有するスポーツ施設に当たる,②スクリーンの存在やデ
ッキの構造等に照らすと,「映画館」又は「劇場」に当たる,③そ
の機能や出入口等に照らすと,本館棟専用住宅部分に附属するものと
はいえないなどと主張する。
しかし,①の点については,上記bで指摘した諸点に加え,アネッ
クス棟は,その延べ面積が本館棟専用住宅部分のそれと比べて小さい
し,上記b①のとおり,地下のスポーツ施設としてゴルフ練習場やプ
ール等を設けるものであるから,その水平投影面積が大きくなること
もやむを得ないことをも併せ考慮すれば,原告らが指摘するアネック
ス棟の大きさ(深さや水平投影面積)等の点のみをもって,独立した
機能を有するスポーツ施設ということはできない。②の点については,
アネックス棟の間取り等に鑑みれば,前記a(b)で説示したスクリー
ンの存在や地下1階(B1階)のデッキに観客席を設ける余地がある
ことをもって,これが客観的にみて「映画館」又は「劇場」に当たる
ことが明らかであるとまではいえないし,③の点についても,上記b
で説示したところに照らし,原告らが主張する点のみをもって本館棟
専用住宅部分に「附属するもの」に当たらないとはいえない。
したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。
(エ)小括
以上によれば,本件建築物は,①「共同住宅」である本館棟共同住宅
部分(住戸は2戸),②「長屋」である本館棟専用住宅部分(住戸は1
戸),③本館棟専用住宅部分に附属するものであるアネックス棟により
構成されるから,その主要用途が「共同住宅・長屋(住戸数3)」であ
ると認められるところ,本件建築物の敷地の用途地域である第一種中高
層住居専用地域内において建築することが許される「住宅」(建築基準
法48条3項,別表第二(は)項1号,(い)項1号)・「共同住宅」(同
表(は)項1号,(い)項3号)・「これらの建築物に附属するもの」(同
表(は)項8号)に当たる。
したがって,これと同旨の判断をした本件建築確認処分には,建築基
準法48条違反の違法は認められない。
(2)本館棟専用住宅部分の「共同住宅」としての建築基準関係規定違反の有
無について
原告らは,前記第2の3(2)(原告らの主張の要旨)イのとおり,本館棟
専用住宅部分は,その用途が「共同住宅」に該当することを前提として,こ
れが消防法上の「防火対象物」に該当し,かつ,延べ面積が6000㎡を超
えているにもかかわらず,自動火災報知器等の設置がされていないから,消
防法その他の建築基準関係規定に違反する旨を主張する。
しかしながら,本館棟専用住宅部分が「長屋」に該当することは,前記
(1)イ(イ)で説示したとおりであり(なお,原告ら指摘に係る①計画建物
2の管理室が本館棟専用住宅部分の監視を目的とすることや,②本館棟専
用住宅部分の図面等に共同住宅であれば必要な事項の指示があることは,そ
のような事実が認められたとしても,本館棟専用住宅部分が「長屋」である
ことと矛盾するものではないから,前記(1)イ(イ)の判断を左右しない。),
これに反する事実を前提とする原告らの上記主張は,その余の点を検討する
までもなく,採用することができない。
したがって,本件建築確認処分には,原告らの主張の違法は認められない。
(3)一建物一敷地の原則違反の有無について
原告らは,前記第2の3(2)(原告らの主張の要旨)ウのとおり,本館棟
専用住宅部分とアネックス棟が外観上及び構造上の一体性を欠くことをもっ
て,一建物一敷地の原則(建築基準法施行令1条1項)に違反する旨主張す
るが,アネックス棟が,運動施設であって本館棟専用住宅部分に附属するも
の(建築基準法別表第二(は)項8号参照)に当たることは,前記(1)イ(ウ)
のとおりであるから,これに反する原告らの上記主張は,その余の点を検討
するまでもなく,採用することができない。
したがって,本件建築確認処分には,一建物一敷地の原則違反の違法は認
められない。
(4)東京都建築安全条例4条違反の有無について
ア関係法令の定め
(ア)東京都建築安全条例は,建築基準法40条(同法88条1項におい
て準用する場合を含む。)による建築物の敷地,構造及び建築設備並び
に工作物に関する制限の附加,同法43条2項による建築物の敷地及び
建築物と道路との関係についての制限の附加等については,この条例で
定めるところによる(1条)とし,延べ面積(同一敷地内に2以上の建
築物がある場合は,その延べ面積の合計とする。)が1000㎡を超え
る建築物の敷地は,①その延べ面積が3000㎡を超えるものは,長
さ10m以上道路に接しなければならず(4条1項),②その延べ面
積が3000㎡を超え,かつ,建築物の高さが15mを超えるものにつ
いては,長さ10m以上幅員6m以上の道路に接しなければならない
(4条1項及び2項)旨を規定している。
ここでいう建築物の「高さ」については,原則として,地盤面からの
高さによる(建築基準法施行令2条1項6号)が,建築基準法56条1
項3号に規定する高さ等を算定する場合を除き,階段室,昇降機塔,装
飾塔,物見塔,屋窓その他これらに類する建築物の屋上部分の水平投影
面積の合計が当該建築物の建築面積の8分の1以内の場合においては,
その部分の高さは,12m(建築基準法55条1項及び2項,56条
の2第4項,59条の2第1項(55条1項に係る部分に限る。)並
びに別表第四(ろ)欄2の項,3の項及び4の項ロの場合には,5m)ま
では,当該建築物の高さに算入しないこととされている(建築基準法施
行令2条1項6号ロ)。
(イ)建築基準法2条は,①「建築物」とは,土地に定着する工作物の
うち,屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを
含む。),これに附属する門若しくは塀,観覧のための工作物又は地下
若しくは高架の工作物内に設ける事務所,店舗,興行場,倉庫その他こ
れらに類する施設(鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設
並びに跨線橋,プラットホームの上家,貯蔵槽その他これらに類する施
設を除く。)をいい,建築設備を含むものとするとし(1号),②
「建築設備」とは,建築物に設ける電気,ガス,給水,排水,換気,暖
房,冷房,消火,排煙若しくは汚物処理の設備又は煙突,昇降機若しく
は避雷針をいう(3号)と規定している。
イ本件建築物の高さ
(ア)原告らは,本件建築物の高さを算定するに当たり,①屋上部分の
設備機械スペース,②本件パーゴラ,③PH階の部分A及び部分B
の高さを算入すべきである旨を主張するから,以下,順次検討する。
(イ)屋上部分の設備機械スペース
a証拠(甲28,29,乙9,11,87,88)及び弁論の全趣旨
によれば,本件建築物の屋上部分のうち設備機械スペース(乙87及
び乙88の「設備機械スペース」部分参照。)は,その中に,①
様々な大きさの設備機械(これらがいずれも「建築物に設ける電気,
ガス,給水,排水,換気,暖房,冷房,消化,排煙若しくは汚物処理
の設備」(建築基準法2条3号)に該当することは,当事者間に争い
がない。)が多数設置され,その周囲を広く覆うように,②目隠し
壁が設置されるところ,この②の目隠し壁は,本件建築物の屋上に基
礎を設け,独立して設置されるものであること,個々の①の設備機械
と②の目隠し壁との間には場所によって相当の空間が確保されている
ことが認められる(なお,原告らは,当該目隠し壁の柱が本件建築物
の屋根スラブから立ち上がっている基礎にアンカーボルト等で連結さ
れている旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。)。
b以上の事実によれば,上記a①の設備機械は,建築設備(建築基準
法2条3号)に該当するから,建築物に当たる(同条1号参照)が,
同②の目隠し壁は,個々の設備機械や本件建築物の構造体である柱等
とは構造的一体性を欠く独立の工作物として設置されるものであり,
かつ,個々の設備機械の目隠しではなく,その周囲を含む設備機械ス
ペース全体の目隠しとしての機能を果たすものであることに照らすと,
建築基準法施行令2条1項6号ロの「階段室,昇降機塔,装飾塔,物
見塔,屋窓その他これらに類する建築物の屋上部分」には当たらない
というべきである(この点,甲36には,階段室,昇降機塔,装飾塔,
屋窓その他これらに類する建築物の屋上部分の例として「キュービク
ル等の電気設備機械(周囲の目隠し部分を含む。)」を掲げているが,
これは典型的な事例として,電気設備機械とその周囲を直接に覆う目
隠し部分がある場合を例示したものと解されるから,上記のような本
件とは事案が異なるというべきである。)。
したがって,原告らの主張(前記第2の3(2)(原告らの主張の要
旨)エ(ア)a)は,採用することができない。
(ウ)本件パーゴラ
a証拠(甲28,乙9,11,88)及び弁論の全趣旨によれば,本
件パーゴラは,つるを匍わせて日陰棚を作ることができるように屋根
に当たる部分に一定の間隔を置いて棒を並べ,この屋根部分を柱で支
える構造の工作物であり,本件建築物の屋上に基礎を設け,本件建築
物と構造上一体とされることなく,独立して設置されるものであると
認められる。
b以上の事実によれば,本件パーゴラは,その構造上,建築基準法2
条3号の「煙突」に当たらないことは明らかであり,その他同号所定
の建築設備に該当することを基礎付ける事情(なお,原告らは,本件
建築物のために設置されたものであれば本件建築物の建築設備に該当
する旨主張するが,同号が建築設備に該当する建築物に設けられた設
備等を具体的に列挙していることに鑑みれば,同号に該当する設備等
というためには抽象的に当該建築物のための設備というだけでは足り
ないというべきであり,原告らの上記主張を採用することはできな
い。)も認められない上,本件建築物の屋上部分とは構造上独立して
設置される工作物であるから,建築基準法施行令2条1項6号ロの
「階段室,昇降機塔,装飾塔,物見塔,屋窓その他これらに類する建
築物の屋上部分」には当たらないというべきである。
したがって,原告らの主張(前記第2の3(2)(原告らの主張の要
旨)エ(ア)b)は,採用することができない。
(エ)PH階の部分A及び部分B
証拠(甲20,乙9,11,84~88)及び弁論の全趣旨によれば,
①PH階の部分A(別紙4の赤色で囲った部分)は,階段室であるが,
その水平投影面積(22.281㎡。乙11参照)は,本館棟専用住宅
部分の地下1階(B1階)からの階段室と比較してその面積が大きく異
なるものとはなっていないこと,②PH階の部分B(別紙4の青色で
囲った部分)は,エレベーターの塔屋であり,建築基準法施行令2条1
項6号ロの「昇降機塔」には,昇降機の乗降ロビーであって通常の乗降
に必要な規模程度のものが含まれると解されるところ(甲36参照),
PH階の部分Bの水平投影面積(17.402㎡。乙11参照)は,そ
の約半分をエレベーター用の空間が占め,その余が通常の乗降用の空間
であることに照らすと,通常の乗降に必要な規模程度のものであること
が認められる。
そうであるとすれば,PH階の部分A及び部分Bは,いずれも建築基
準法施行令2条1項6号ロの「階段室,昇降機塔,装飾塔,物見塔,屋
窓その他これらに類する建築物の屋上部分」に当たるというべきであり,
これに反する原告らの主張(前記第2の3(2)(原告らの主張の要旨)
エ(ア)c)は採用することができない。
(オ)以上によれば,被告が本件建築物につき建築基準法施行令2条1項
6号ロに基づく建築物の屋上部分として算出した水平投影面積(181.
60㎡。乙11)については,その算出の前提となった事実及び計算方
法に誤りは認められないというべきである。
そうすると,本件建築物の屋上部分の水平投影面積181.60㎡は,
本件建築物(本館棟・アネックス棟)の建築面積1673.27㎡(前
提事実(4)ウ(ウ)参照)の8分の1(209.19㎡。小数点以下第3位
を四捨五入。)を明らかに下回っているから,その屋上部分の高さは,
本件建築物の高さに算入しないこととなり(建築基準法施行令2条1項
6号ロ),本件建築物の高さは15mとなる。
なお,原告らは,前記第2の3(2)(原告らの主張の要旨)エ(ウ)の
とおり,意図的な盛土に基づいて設置された本件建築物の高さが違法で
あると主張するが,原告らの主張に係る意図的な盛土の事実が認められ
ないことは後記(7)イで説示するとおりであるから,原告らの上記主張
を採用することはできない。
ウ小括
以上に説示したところ及び前提事実によれば,本件建築物(延べ面積6
268.80㎡,高さ15m)は,延べ面積3000㎡を超えるが,その
高さが15mを超えないことから,東京都建築安全条例4条1項の適用が
あるところ,その敷地の北側,西側及び東側において長さ10m以上で道
路に接していることは明らかであって,同項の要件を満たしている。
したがって,本件建築確認処分には,東京都建築安全条例4条に違反す
る違法は認められない。
(5)容積対象床面積の過小算定の違法の有無について
ア関係法令の定め等
延べ面積は,原則として,建築物の各階の床面積の合計によるが,建築
基準法52条1項に規定する延べ面積(建築物の容積率の最低限度に関す
る規制に係る当該容積率の算定の基礎となる延べ面積を除く。)には,自
動車車庫その他の専ら自動車又は自転車の停留又は駐車のための施設(誘
導車路,操車場所及び乗降場を含む。)の用途に供する部分の床面積を算
入しないこととされ(建築基準法施行令2条1項4号),また,床面積は,
建築物の各階又はその一部で壁その他の区画の中心線で囲まれた部分の水
平投影面積によることとされている(同項3号)。
そして,国土交通省の建設省住指発第115号昭和61年4月30日付
け住宅局建築指導課長通知(甲39)は,ピロティ,ポーチ等で壁,扉,
柱等を有しないものを床面積に算入するかどうかは,当該部分が居住,執
務,作業,集会,娯楽,物品の保管又は格納その他の屋内的用途に供する
部分であるかどうかにより判断するものとし,「体育館等のギャラリー等
は,原則として床面積に算入するが,保守点検等一時的な使用を目的とし
ている場合は,床面積に算入しないこととしている。
イアネックス棟西側の階段1及び階段2について
原告らは,アネックス棟西側の階段1及び階段2について,それらの本
館棟免震ピット階及び本館棟地下1階(B1階)に相当する床面積(乙8
3,84の「屋内避難階段1」及び「屋内避難階段2」とある部分の各床
面積)も本件建築物の容積対象床面積として算入すべきである旨を主張す
る。
しかしながら,前記アのとおり,床面積は,建築物の各階又はその一部
を対象として算定すべきところ,前記(1)イ(ウ)a(a)で認定した事実に
よれば,アネックス棟は,地下2階建ての建物であり,原告らの主張する
本館棟免震ピット階及び本館棟地下1階(B1階)に相当する階は存在せ
ず,かつ,屋内避難階段1及び屋内避難階段2は,いずれも建築基準法施
行令120条,122条及び123条等の規定に基づいて設置される地上
に通ずる直通階段であり,原告らが算入すべきと主張する部分はアネック
ス棟地下1階の中の上方空間を示しているのにすぎないと認められるから,
原告らの主張の上記部分をアネックス棟の床面積に算入する必要はないと
いうべきである。
したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。
ウアネックス棟のキャットウォークについて
原告らは,アネックス棟のキャットウォーク部分を床面積に算入すべき
である旨を主張する。
しかしながら,前記(1)イ(ウ)aで認定した事実及び証拠(甲29,乙
5,83)並びに弁論の全趣旨によれば,アネックス棟の地下1階(B1
階)の天井裏内に,その天井全体に設けた照明設備の保守点検用の通路が
設置されており,このうち幅が広くなった部分は,アネックス棟壁面に設
けたスクリーンに映像を投影するための設備の保守点検用の通路であるこ
とが認められる。
以上の事実によれば,原告らの主張のキャットウォーク部分は,天井の
照明設備又はスクリーンに映像を投影するための設備の保守点検を用途と
するものであり,地下1階の運動施設(プールやゴルフ練習場等)のギャ
ラリー等としての使用を目的とするものではないから,建築基準法施行令
2条1項3号所定の「各階又はその一部で壁その他の区画の中心線で囲ま
れた部分」として,アネックス棟の床面積に算入する必要はないというべ
きである。
したがって,以上の説示に反する原告らの主張を採用することはできな
い。
エ本館棟専用住宅部分の免震ピットについて
原告らは,本館棟専用住宅部分の免震ピットを本件建築物の床面積に算
入すべきである旨を主張する。
しかしながら,証拠(甲29,乙67の2,83)及び弁論の全趣旨に
よれば,本館棟専用住宅部分の地下の免震ピットは,免震装置に加え,そ
の保守点検用の空間により構成されていることが認められるから,免震ピ
ット内に原告らの主張に係る相当の空間があることのみをもって,これが
屋内的用途に用いるものとはいえない。
そうであるとすれば,免震ピットは,建築基準法施行令2条1項3号所
定の「各階又はその一部」として本館棟専用住宅部分の床面積に算入する
必要はないというべきである。
したがって,以上の説示に反する原告らの主張を採用することはできな
い。
オ小括
以上に加え,本件全証拠によっても,他に被告による容積対象床面積の
算定が過小であると認めるに足りる事情はうかがわないことに照らすと,
本件建築確認処分には,容積対象床面積の算定を過小に行った違法はない
ものと認められる。
(6)建築基準法施行令121条違反の有無について
ア建築基準法等の定め等
(ア)建築基準法35条は,別表第一(い)欄(1)項から(4)項までに掲げる
用途に供する特殊建築物,階数が3以上である建築物,政令で定める窓
その他の開口部を有しない居室を有する建築物又は延べ面積(同一敷地
内に2以上の建築物がある場合においては,その延べ面積の合計)が1
000㎡を超える建築物については,廊下,階段,出入口その他の避難
施設,消火栓,スプリンクラー,貯水槽その他の消火設備,排煙設備,
非常用の照明装置及び進入口並びに敷地内の避難上及び消火上必要な通
路は,政令で定める技術的規準に従って,避難上及び消火上支障がない
ようにしなければならない旨を規定しており,その委任を受けて定めら
れた建築基準法施行令120条1項は,直通階段の設置として,「建築
物の避難階以外の階(地下街におけるものを除く。)においては,避難
階又は地上に通ずる直通階段(傾斜路を含む。)を居室の各部分からそ
の一に至る歩行距離が次の表の数値以下となるように設けなければなら
ない」旨を規定している。これは,建築物の上層階又は地階の直通階段
から居室の最も遠い部分までの距離を一定の範囲に制限することにより,
非常時において直通階段による屋外への速やかな避難を可能とすること
を目的とするものと解される。
構造
居室の種類
主要構造部が
準耐火構造で
あるか又は不
燃材料で造ら
れている場合
(単位m)
上欄に掲げる
場合以外の場
合(単位m)
(1)116条の2第1項1号に該当
する窓その他の開口部を有しな
い居室又は建築基準法別表第一
(い)欄(4)項に掲げる用途に供
する特殊建築物の主たる用途に
供する居室
3030
(2)建築基準法別表第一(い)欄(2)
項に掲げる用途に供する特殊建
築物の主たる用途に供する居室5030
(3)(1)又は(2)に掲げる居室以外の
居室
5040
(イ)同じく建築基準法35条の委任を受けて定められた建築基準法施行
令121条1項は,2以上の直通階段を設ける場合として,「建築物の
避難階以外の階が,①劇場,映画館,演芸場,観覧場,公会堂又は集
会場の用途に供する階でその階に客席,集会室その他これらに類するも
のを有するもの(1号),②ホテル,旅館若しくは下宿の用途に供す
る階でその階における宿泊室の床面積の合計,共同住宅の用途に供する
階でその階における居室の床面積の合計又は寄宿舎の用途に供する階で
その階における寝室の床面積の合計が,それぞれ100㎡を超えるもの
(5号)又は③同項1号から5号までに掲げる階以外の階であって,
5階以下の階でその階における居室の床面積の合計が避難階の直上階に
あっては200㎡を,その他の階にあっては100㎡を超えるもの(6
号ロ)に該当する場合においては,その階から避難階又は地上に通ずる
2以上の直通階段を設けなければならない」旨を規定し,同条3項は,
「1項の規定により避難階又は地上に通ずる2以上の直通階段を設ける
場合において,居室の各部分から各直通階段に至る通常の歩行経路のす
べてに共通の重複区間があるときにおける当該重複区間の長さは,居室
の各部分から,当該重複区間を経由しないで,避難上有効なバルコニー,
屋外通路その他これらに類するものに避難することができる場合を除き,
建築基準法施行令120条に規定する歩行距離の数値の2分の1を超え
てはならない」旨を規定している。これは,2以上の直通階段を設けて
2方向に避難路を確保することにより,火災時に一方が通行不能になっ
た場合の避難を可能とし,より安全性を高めることを目的とするものと
解される。
(ウ)以上のような建築基準法35条,建築基準法施行令120条1項並
びに121条1項及び3項の文言及びこれらの規定の目的等に鑑みれば,
建築基準法35条所定の建築物の避難階以外の階については,居室の各
部分から直通階段(複数ある場合はその一)に至る歩行距離が建築基準
法施行令120条1項の要件を満たす直通階段を設けるものとした上で,
更に建築基準法施行令121条1項所定の階については,2方向の避難
路を確保するため,2以上の直通階段を設けることを義務付けたにすぎ
ない(そのため,建築基準法施行令121条3項は,居室の各部分から
各直通階段に至る通常の歩行経路についての共通の重複区間の長さに関
する制限をするにとどめている。)というべきであるから,同条1項に
より2以上の直接階段を設ける場合においても,そのいずれもが建築基
準法施行令120条1項の要件を満たすことまでは要しないものと解す
るのが相当である。
原告らの前記主張(前記第2の3(2)(原告らの主張の要旨)カ)は,
以上の説示したところ(殊に,建築基準法施行令120条1項の文言)
に反するから,採用することができない。
イこれを本件のアネックス棟についてみると,前提事実,前記(1)イ(ウ)
aで認定した事実及び証拠(乙81,82)並びに弁論の全趣旨によれば,
アネックス棟については,①地下1階(B1階)及び地下2階(B2
階)のいずれにも屋内避難階段1及び屋内避難階段2という直通階段が二
つ設けられているところ,②地下2階(B2階)については,居室の各
部分から屋内避難階段1又は屋内避難階段2までの歩行距離が最も遠い部
分で36.98m又は39.7m(乙81の破線部分参照。なお,共通の重
複区間の長さも10m又は12.92mである。)であり,③地下1階
(B1階)については,居室の各部分から屋内避難階段1までの歩行距離
が最も遠い部分で24.31m(乙82の破線部分参照。なお,共通の重
複区間の長さも14.15mである。)であり,いずれも40m以下(建
築基準法施行令120条1項表(3)項下欄参照。共通の重複区間の長さに
ついては,その2分の1である20m以下)であると認められる。
以上の事実によれば,アネックス棟は,建築基準法120条1項の要件
を満たす直通階段が設置されており,かつ,建築基準法121条1項に基
づき同条3項に適合する直通階段が2以上設置されているから,本件建築
確認処分には,建築基準法120条1項及び121条1項違反の違法はな
いものと認められる。
(7)開発許可の要否について
ア都市計画法は,都市計画区域又は準都市計画区域内において開発行為を
しようとする者は,あらかじめ,国土交通省令で定めるところにより,都
道府県知事等の許可を受けなければならず(29条1項),ここでいう
「開発行為」とは,主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供
する目的で行なう土地の区画形質の変更をいう(4条12項)旨を規定し
ている。
したがって,都市計画法29条1項の許可を受けるべき「開発行為」と
は,土地の区画形質の変更のうち「主として建築物の建築又は特定工作物
の建設の用に供する目的」で行われるものに限られることが明らかである。
イこれを本件についてみると,証拠(甲30,42~44,乙6~8)及
び弁論の全趣旨によれば,①本件建築主は,平成20年7月29日,本
件建築物の敷地である港区α×番1の土地(地目宅地,地積5637.6
2㎡)を同日付け売買により取得し,その所有権移転登記(乙8)を経由
したところ,同土地は,平成16年頃はその敷地の南側に森が存在したが,
遅くとも本件建築主が取得するまでの間に更地になっていたこと,②本
件建築物の東側道路は,北側が高く,南側が低くなるよう傾斜しているが,
第1回建築確認処分に係る確認の申請がされた当時,本件建築物の敷地と
なる上記土地の地盤面はおおむね平坦であったこと(乙6。なお,原告ら
は,本件建築物の東側道路と本件建築物の敷地との地番面の形状の違いか
ら,意図的な盛土がされた旨主張するが,意図的な盛土がされたことを認
めるに足りる証拠はなく,以上の認定事実をも併せ考慮すれば,原告らの
主張の上記事実のみをもって意図的な盛土がされたことを推認することも
できない。),③本件建築主は,港区環境街づくり支援部開発指導課に
対し,本件建築計画について開発行為に係る事前相談をしたところ,同課
から,切土・盛土等の整備が開発行為に該当しないとの回答を得たこと
(乙7)が認められる。
以上の事実によれば,本件建築主が本件建築物の敷地となる土地を取得
する前に当該土地が更地になっていたことは明らかであるから,仮に当該
土地を更地にする行為が土地の区画形質の変更に該当するとしても,当該
行為は本件建築主が主として本件建築物の建築の用に供する目的で行った
ものとはいえないし,本件建築主の前主が行った当該行為をもって,本件
建築主が本件建築物の建築の用に供する目的で行ったものとすることもで
きない。他に,本件建築主が本件建築計画に関して主として建築物の建築
又は特定工作物の建設の用に供する目的で行なう土地の区画形質の変更を
したと認めるに足りる事情もない。
したがって,本件建築確認処分には,都市計画法29条に違反する違法
はないものと認められる。
以上の説示に反する原告らの前記主張(前記第2の3(2)(原告らの主
張の要旨)キ)は採用することができない。
(8)「軽微な変更」の違法について
前記第2の3(2)(原告らの主張の要旨)クの原告らの主張は,要するに,
本件建築確認処分に至るまでの間に,建築基準法6条1項,建築基準法施行
規則3条の2所定の軽微な変更に該当しない計画の変更があったことをもっ
て,本件建築確認処分の違法があるというものと解される。
この点,建築基準法6条1項後段,6条の2第1項は,建築主事又は指定
確認検査機関の確認を受けた建築計画の変更をして、建築物を建築しようと
する場合に,当該建築計画の変更が建築基準法施行規則3条の2が定める
「軽微な変更」に当たるときを除いて,建築主事又は指定確認検査機関の確
認を受けなければならないものとしている。したがって,建築計画の変更が
「軽微な変更」に当たらない場合には,改めて建築主事又は指定確認検査機
関の確認を受けることなくそのような変更をして建築物を建築することは違
法であることになるが,そのことは当初の建築確認処分の適法性や効力を何
ら左右するものではない。そうすると,原告らが「軽微な変更」に当たらな
い建築計画の変更があることを建築確認処分の取消事由として主張すること
は,主張自体失当というべきである。
また,建築基準法6条1項及び6条の2第1項の文言及び趣旨に照らすと,
これらの規定は,当初の建築物の計画についての確認の効力がそのまま存続
することを前提として,その変更部分についてのみ,建築主事又は指定確認
検査機関の確認を受ければ足りるとしているものではなく,変更に係る建築
計画の全体について建築主事又は指定確認検査機関の確認を受けることを義
務付けているというべきであるから,建築計画の変更をして建築物を建築し
ようとする場合の確認処分は,建築主事又は指定確認検査機関が,変更に係
る部分以外の部分を含む変更後の建築計画の全体につき,改めて建築基準法
令の規定等に適合するか否かを判断し,適合すると判断した場合に既にされ
た建築確認処分に代えてされる確認処分であると解される。前提事実によれ
ば,本件建築確認処分は,第3回建築確認処分に係る建築計画の変更の確認
申請についてされたものであるが,その時点における変更に係る部分以外の
部分を含む変更後の建築計画の全体につき,改めて建築基準法令の規定等に
適合するか否かを判断し,適合すると判断したものであると認められるから,
仮に,それ以前にされたものも含めた建築計画の変更につき原告らの主張す
る「軽微な変更」に該当しない変更があったとしても,それらの変更後の建
築計画について本件建築確認処分がされたものであって,軽微な変更に該当
しない変更があることそれ自体が本件建築確認処分の取消事由になり得ない
ことは明らかである。
原告らの上記主張は,以上に説示したところに反するから,その余の点を
検討するまでもなく,採用することができない。
(9)まとめ
以上によれば,本件建築確認処分は,適法であると認められる。
3結語
よって,原告らの請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟
費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文を
適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官川神裕
裁判官内野俊夫
裁判官林史高は差し支えのため署名押印できない。
裁判長裁判官川神裕

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