弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告は,原告に対し,135万7500円及びこれに対する平成22
年11月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は被告の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1請求の趣旨
(1)被告は,原告に対し,256万7500円及びこれに対する平成22年11
月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
(3)仮執行宣言
2請求の趣旨に対する答弁
(1)原告の請求を棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,野宿生活をしていた原告が,平成22年11月16日,自転車でア
ルミ空缶を運搬していたところ,原告に対し職務質問を行おうとした大阪府甲
警察署の警察官が,同人が乗っていた地域活動用単車を原告の自転車に幅寄せ
するなどして原告を路上に転倒させ,更に,これに抗議した原告に対し,原告
の肩を両手で掴んで投げ飛ばす等の暴行を加え,原告に入院加療約3か月を要
する右脛骨膝関節内骨折,右第3ないし第5肋骨骨折等の傷害を負わせた(同
日に原告と甲警察署警察官の身体が接触し原告に傷害の結果が生じた出来事
を以下「本件事件」という。)と主張して,甲警察署を設置する被告に対し,
国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償及び遅延損害金の支払を求める事案で
ある。
2前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,本件各証拠及び弁論の全趣旨によ
り容易に認められる(証拠が掲示されていない事実は当事者間に争いがない。)。
(1)当事者等
ア原告は,本件事件当時,大阪府茨木市付近の河川敷で野宿生活をしながら,
廃棄されたアルミ空缶を回収して生活していた者である(原告本人1頁,弁
論の全趣旨)。
イ被告は,甲警察署を設置し,地方公務員である警察官に公権力の行使に当
たる職務を行わせている地方公共団体である。
ウA警察官は,本件事件当時,甲警察署に所属する巡査部長であった者であ
り,B警察官は,本件事件当時,甲警察署に所属する巡査であった者である
(A警察官及びB警察官を併せて以下「警察官ら」という。)。
(2)本件事件に至る経緯
ア原告は,平成22年11月16日午後10時35分ころ,アルミ空缶を入
れたビニール袋を荷台に積載した自転車に乗り,大阪府高槻市にあるスー
パーマーケット(以下「本件スーパー」という。)北側の道路を東方向から西
方向へ走行していた。原告が,別紙図面a地点(以下,地点については,別
紙図面上のものをいう。別紙省略)を走行していたところ,Ⅰ地点付近にお
いて,地域活動用単車(以下「単車」という。)で警ら中であったA警察官及
びB警察官は,原告に職務質問を行うため,原告が走行する自転車の後を追
い,本件スーパー北西角付近b地点において,原告に対し,走行を停止する
ように声をかけた。
原告は,自転車を停めることなく,本件スーパー北西角の交差点を左折し
て南方向へ進んだ。警察官らは,原告に追従して同交差点を左折し,c地点
で,原告に対し,再度走行を止めるように声をかけたが,原告は自転車の走
行を止めなかった。
イB警察官は,原告の進行方向に先回りするため,原告が走行する自転車を
追い抜き,その前方で単車を停めた。A警察官は,原告が走行する自転車の
右側を単車で併走した。
その後,原告は自転車から降り(降車に至る経緯には争いがある。),既に
単車から降りていたA警察官に近づき,原告とA警察官の身体が接触した結
果(接触の態様には争いがある。),原告とA警察官は地面に倒れ,原告は後
記(3)の傷害を負った(原告とA警察官の身体が接触してから原告に傷害が生
じるまでの両者の身体的接触を伴う行為を以下「本件各行為」という。)。
ウ原告は,応援要請を受け本件事件現場に臨場した警察官に,甲警察署に連
行された。
(3)原告の負傷状況
原告は,本件各行為により,入院加療約3か月を要する右脛骨膝関節内骨折,
右第3,第4及び第5肋骨骨折の傷害を負った。原告の右脛骨膝関節内の骨折
は,内側顆及び外側顆に生じていた(鑑定の結果)。
3争点
(1)警察官による職務を行うについての違法行為の有無(争点1)
(原告の主張)
アA警察官は,次のイのとおり,自身が運転する単車を原告の自転車に幅寄
せするなどして,原告を路上に転倒させ,これに抗議した原告に対し,原告
の肩を両手で掴んで投げ飛ばす等の暴行を加えて原告に傷害を与えたもので
あり,職務を行うについて違法に公権力を行使したものである。
イ原告は,警察官らから自転車を停めるように求められたが,何も悪いこと
はしていないから停まる必要はないと考え,自転車を停めなかった。B警察
官は,平成22年11月16日午後10時40分頃,d地点において単車の
スピードをあげて進み,原告の20メートル程前方のⅡ地点で原告の進路を
遮るように停止した。また,A警察官は,d地点から,原告の右側を併走し,
原告を本件スーパー側に追い込むように幅寄せしながら接近し,左手で原告
の右腕をわしづかみにし,力を入れて原告を押した。
原告は,そのため自転車のハンドル操作ができなくなり,斜め左前方に押
されていき,本件スーパー西側専門店搬入出入口の南側階段付近であるe地
点で,原告の自転車の前輪が縁石に衝突し,バランスを崩して自転車ととも
に左側に転倒した。
原告は,転倒した自転車を起こそうとしたが,アルミ空缶等を積んでいた
ため,その重さにより起こすことが出来ず,警察官らが助け起こそうとしな
かったことに立腹し,原告を転倒させたA警察官に対して,「何すんねや。」
と抗議し,両手を下げながらA警察官に近づいた。すると,A警察官は,原
告に一,二程度詰め寄り,突然両手で原告の両肩をつかみ,右足を原告の
右足膝裏側にかけて,全体重を原告にかけて,体を左方向に回転させて原告
を力いっぱいアスファルトの道路上に投げ飛ばした。原告は,A警察官に投
げ倒される寸前に,投げられないように右膝を伸ばして踏ん張ったところ,
右膝がねじれて「ぐきっ」という感覚が生じ,これにより右脛骨膝関節内骨
折の傷害を負った。
A警察官は,原告を掴んだまま,全体重を原告に押しかけるように原告の
上から覆い被さる状態で一緒にアスファルト道路面に倒れ込み,そのまま,
負傷による痛みのため起き上がることも抵抗することも出来ず路上に仰向け
に倒れている原告に全体重をかけて覆い被さり,これにより,原告は,右第
3,第4及び第5肋骨を骨折する傷害を負った。
(被告の主張)
ア警察官らは,次のイのとおり,職務を行うについて違法な行為を行ってお
らず,違法に公権力を行使したとはいえない。
イ警察官らは,平成22年11月16日午後10時ころから,それぞれ単車
に乗り,甲警察署管内における警ら活動を行い,同日午後10時43分ころ,
本件スーパー北東角の三又路の交差点前で単車を停止したところ,原告が,
警察官らの前方の東西道路を,青色自転車を運転し,その後部荷台に空缶が
入ったとみられるごみ袋1袋を積んで,東から西方向へ走行していくところ
を発見した。
警察官らは,原告の風体から一見して野宿生活風であるにもかかわらず,
乗車していた自転車が真新しく見えたことから,自転車が盗難等の被害品で
あるかもしれないと考え,原告に対し,職務質問を行うことにした。
警察官らは,原告を単車で追いかけ,B警察官が原告の自転車右側を併走
する状態になると,原告に対し,「警察です。お尋ねしたいことがあるので止
まってください。」と言って停止を求めた。しかし,原告は自転車を停止させ
ず,そのまま走行して本件スーパー北西角を左折して,同店西側南北道路を
南進した。B警察官は,原告に追従して併走し,原告に対し,「ちょっと止まっ
てください。」と言い,繰り返し停止を求め,左手を出して停止合図を送った。
しかし,原告はこれに応じず,逆に自転車の速度を上げ,逃走する素振りを
見せた。
そこで,B警察官は,原告に対する不審感を強め,原告の進行方向に先回
りし,単車から降りて職務質問を行おうと考え,原告の自転車を追い越した。
A警察官は,B警察官が原告の自転車を追い越したため,原告自転車の右側
に併走し,原告に対し,「止まってください。」と停止を求めた。しかし,原
告は,自転車を停めずに,走行中の自転車をA警察官の単車に寄せ,原告の
右肩とA警察官の左肩が接触した。
その後,原告は,自転車を停めて降車し,自転車をその場に叩きつけるよ
うに倒した。それを見たA警察官は,単車を停止させ,原告に対し,「何でぶ
つかってくるんや,公務執行妨害になるぞ。」と警告を発したところ,原告は,
A警察官に近づいた。原告とA警察官が向き合う状態になると,原告は,左
手でA警察官の右肩付近を1度突き,右手を振り上げて殴りかかろうとし,
更に,A警察官の胸ぐらをつかんできた。
A警察官は,原告を公務執行妨害罪の現行犯人と認め,左手で原告が振り
上げた右手をつかみ,右手で原告の左手をつかんだ。ところが,原告がA警
察官につかまれた手を振りほどこうとして暴れたため,A警察官は,このま
までは手を振りほどかれて殴られると感じ,原告の背中に自身の右手を回し,
原告の体を自身の方に引き寄せた。そうしたところ,A警察官が,後方に転
倒しそうになったため,体を左にねじり,左に回転しながら,原告が下に,
A警察官が上になって路上に転倒した。原告は右膝を下にして,右膝内面を
路面に打ち付けたことにより,右脛骨膝関節内骨折が生じた。
A警察官は,転倒後も,原告から服を引っ張られ,叩かれるなどされたが,
右手をつかんだまま制止し,同日午後10時45分,原告を公務執行妨害罪
の現行犯人として逮捕した。
(2)損害の発生及び損害額(争点2)
(原告の主張)
本件事件により原告に生じた損害は,以下のとおりである。
ア慰謝料241万円
(ア)原告は,本件事件により傷害を負い,1年以上の入通院を余儀なくされた。
(イ)A警察官は,自転車を運転する原告に対し単車で幅寄せして原告を転倒さ
せた上,幅寄せに対して抗議をした原告を投げ倒し,さらにその後も原告に
乗るなどしたものであり,A警察官が体格で原告を大きく上回り,柔道2段
であることからすれば,原告を投げ倒す行為等が危険であることはわかって
いたはずであるのに,敢えてそのような危険な行為に出たものであり,行為
態様は悪質かつ危険である。
(ウ)本件事件は警察官の野宿者に対する偏見,差別に起因するものであること,
基本的人権を擁護すべき警察官による行為であること,原告がホームレスと
いう弱い立場にあって理不尽な行為を受けたこと,今後,同種の事案の再発
を防止すべきであることが重視されるべきである。
(エ)警察官らは,原告に対し謝罪をしておらず,また,事実に反する証言をし
たり,虚偽の事実を記載した現行犯人逮捕手続書を作成したりするなどして,
事実の隠蔽を繰り返している。
(オ)以上の(イ)ないし(エ)の諸事情は,慰謝料の増額事由として斟酌されるべ
きであり,原告の被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料額は241万円
を下らない。
イ入院雑費15万7500円(入院期間105日×1日1500円)
(被告の主張)
事実は否認し,法的主張は争う。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実に加え,本件各証拠(甲1,甲2,甲8,甲9の1,甲9の2,
甲11,甲12(枝番含む。),甲15,原告本人,鑑定の結果)及び弁論の全
趣旨によれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。原告
の転倒態様の事実認定については,後記3で説明を補足する。
(1)原告は,平成22年11月16日午後10時35分ころ,アルミ空缶を入れ
たビニール袋を荷台に積載して自転車に乗り,別紙図面a地点を走行していた。
Ⅰ地点付近において,単車で警ら中であった警察官らは,自転車に乗った原告
を見つけ,原告に対して職務質問を行うため,原告が運転する自転車の後を追
いかけ,本件スーパー北西角付近のb地点において,原告に対し,走行を止め
るように声をかけた。
原告は,自転車を停めることなく,本件スーパー北西角の交差点を左折して
南方向へ進んだ。警察官らは,原告に追従して同交差点を左折し,c地点で,
原告に対し,再度走行を止めるように求めたが,原告は自転車の走行を止めな
かった。
(2)B警察官は,同日午後10時40分頃,d地点において同人が乗る単車のス
ピードをあげて,原告の20メートル程前方のⅡ地点で原告の進路を遮るよう
に単車を停めた。また,A警察官は,d地点から,原告の右側を併走し,原告
を本件スーパー側に寄せるような形で原告に接近した。
原告は,A警察官に幅寄せされたことから,斜め左前方へ進行し,本件スー
パー西側専門店搬入出入口の南側階段付近のe地点で,原告の自転車の前輪が
縁石に当たり,バランスを崩して自転車とともに左側に転倒した。
(3)原告は,転倒した自転車を起こそうとしたが,大量のアルミ空缶等を積んで
いたことから,その重さにより起こすことが出来ず,その際,警察官らが原告
を助けてその自転車を起こそうとしなかったことに立腹し,A警察官に対して,
「何すんねや。」と抗議し,A警察官に近づいた。
A警察官は,原告に数詰め寄り,両手で原告の両肩をつかみ,右足を原告
の右足膝裏側にかけて,体を左方向に回転させて原告をアスファルトの道路上
に投げ倒した。原告は,A警察官に投げ倒される寸前に,投げられないように
右膝を伸ばして踏ん張ったところ,右膝がねじれて,これにより原告は右脛骨
膝関節内を骨折する傷害を負った。
A警察官は,原告を掴んだまま,全体重を原告にかけるように原告の上から
覆い被さる状態で一緒にアスファルト道路面に倒れ込み,その後も全体重を原
告にかけるような形で原告にのしかかった(以上のA警察官の暴行行為を以下
「本件暴行行為」という。)。その際,原告は,右第3,第4及び第5肋骨を骨
折する傷害を負った。
(4)原告は,前記各傷害の治療のため,平成22年11月17日から平成23年
3月1日までの105日間,F病院において入院して手術を含む治療を受け,
平成23年12月8日から同月15日までの間,再入院し,内固定材料抜去術
を受けた。
2鑑定人Cの鑑定意見(以下「C鑑定意見」という。)の概要
(1)本件原告の右脛骨近位端関節内骨折の形態は,いわゆる粉砕骨折に該当し,
各骨折部は離解(分離)及び転位している。
(2)前記骨折は,大腿骨下端の外側顆が頸骨の膝関節面に当たって同時的に生じ
たものと推定される。内側顆の骨折片は,外側顆の骨折が生じた後に発生した
ものである。
(3)原告の右脛骨膝関節内骨折は,膝関節内における長軸方向に下方へ向かう外
力(過度の加重)と外反または回旋によって受傷したと考えられる。
(4)本件の右脛骨膝関節内骨折の形状に基づく推定傷機序に照らすと,原告が
主張する本件各行為の態様による場合,原告が右膝を伸ばして踏ん張って体重
が掛かっているところに膝関節部の外反(内側へ向かうX脚状の偏位)あるい
は回旋が起こるような外力が加わったとすると前記骨折が生じ得ると考えら
れる。
他方,被告が主張する本件各行為の態様による場合,前記骨折が生じ得ると
はいえない。
(5)原告の右第3,第4及び第5肋骨には,それらの外側部で縦列状に配列する
骨折がみられ,その遠位骨折端(前方)は内方へ離解及び転位している。
(6)原告の前記肋骨骨折は,胸郭への前方または後方からの圧迫作用によって生
じた可能性が高く,その場合,縦列状に骨折が生じている右第3ないし第5肋
骨の前面及び背面に当たる右前胸上部と右肩甲部を挟むように強い圧迫的外
力が作用したと考えられる。
3事実認定の補足説明
(1)本件事件における原告の転倒態様に関する当事者の主張
ア原告は,A警察官が,原告に詰め寄り,突然両手で原告の両肩をつかみ,
その右足を原告の右足膝裏側にかけて,全体重を原告にかけて,体を左方向
に回転させて原告を力いっぱいアスファルトの道路上に投げ飛ばし,原告が,
A警察官に投げ倒される寸前に,投げられないように右膝を伸ばして踏ん
張ったところ,右膝がねじれて「ぐきっ」という感覚が生じ,これにより右
脛骨膝関節内骨折が生じ,その後,A警察官が原告の上から覆い被さる状態
で一緒にアスファルト道路面に倒れ込み,その全体重をかけてA警察官の右
肘が原告の肋骨の上に乗る形でのしかかったことにより右第3,第4及び第
5肋骨の骨折が生じた旨主張する。
これに対し,被告は,A警察官に近づいた原告が,左手でA警察官の右肩
付近を1度突き,右手を振り上げて殴りかかろうとし,更に,A警察官の胸
ぐらをつかんできたため,A警察官が,左手で原告が振り上げた右手をつか
み,右手で原告の左手をつかんだところ,原告が暴れたため,A警察官は,
このままでは手を振りほどかれて殴られると感じ,原告の背中に自身の右手
を回し,原告の体を自身の方に引き寄せたが,その反動で後方に転倒しそう
になったため,体を左にねじり,左に回転しながら,原告が下に,A警察官
が上になって路上に転倒したのであり,原告が右膝を下にして右膝内面を路
面に打ち付けたことから右脛骨膝関節内骨折が生じた旨主張する。
イ原告の転倒態様に関する両者の主張については,原告の右脛骨膝関節内骨
折の発生機序について主張に大きな違いが存在する。一方で,原告の右第3,
第4及び第5肋骨の骨折の発生機序についての主張は,いずれの主張におい
ても,A警察官が上になり,原告が下になった状態で倒れ込んだという転倒
態様は共通しており,A警察官が全体重をかけて原告にのしかかったという
点は異なっている。
原告の右脛骨膝関節内骨折について,C鑑定意見は,前記2(1)ないし(4)
のとおり,原告の右脛骨膝関節内骨折の形状及び推定される成傷機序からす
れば,原告の主張する転倒態様においては前記骨折が生じ得るが,被告の主
張する転倒態様においては前記骨折が生じ得ないとしているのであり,以下,
原告の右脛骨膝関節内骨折に関するC鑑定意見の信用性を検討する。
(2)C鑑定意見の信用性の検討
アC鑑定人は,D大学大学院法医学教室の教授であり,弁論の全趣旨によれ
ば,受傷結果の成傷機序に関する鑑定の経験を豊富に有していると認められ
る。
イC鑑定人は,受傷結果の成傷機序を考察するにあたり,裁判所から送付さ
れた原告の本人調書,A警察官の証人調書,B警察官の証人調書,診断書(甲
1),写真撮影報告書(甲15),「公務執行妨害事件の被害状況の再現につい
て」と題する書面(乙3),E医師の意見書(乙9),E医師の証人調書,F
病院の原告に関するカルテ及び各種検査記録,「説明と同意書(手術・検査・
その他の治療)」と題する書面(甲11),CT画像(甲12の1ないし12
の4),原告代理人作成「鑑定事項の追加申出書(平成25年12月9日付)」,
症例報告(甲13の2)及び前記報告者の経歴(甲13の3)を鑑定資料と
した。
ウC鑑定人は,原告の右脛骨膝関節内骨折の成傷機序を検討するにあたり,
F病院における原告のCT検査データを自動CT画像解析システムに取り込
んで立体画像を作成した。原告の右脛骨膝関節内骨折を立体画像の横断像,
冠状断像及び矢状断像で観察すると,右脛骨近位端に複雑な骨折線が認めら
れたため,これをさらに立体的に観察するため,骨折片(骨折線で囲まれた
部分)毎に冠状断像上で異なる色でマスキングし,それらを合成することに
よって三次元画像を再構成した。
同画像を観察すると,右頸骨上面の中央やや外側(腓骨側)が陥没してお
り,原告の右脛骨膝関節内骨折は,前記部分を中心とする放射状の骨折線に
よって,外側顆,前面中央部,内側顆及び後面中央部の4個の骨折片が形成
されていた。この放射状陥没骨折の中心は,大腿骨下端の外側顆(腓骨側)
の関節面の隆起部が当たる部位に該当する。
同頸骨の前面をみると,前記の放射状骨折の中心から外側(腓骨側)及び
内側の下方へ向かってそれぞれ直線状に伸びる骨折が形成されており,類逆
「Y」字型あるいは「入」字型を呈している。その内側の骨折部は,放射状
骨折によって前面中央部と内側顆の2つの骨折片に分けられている。
同型骨の後面をみると,同様に前記の放射状骨折の中心から外側(腓骨側)
及び内側の下方へ向かってそれぞれ直線状に伸びる骨折が形成されており,
類逆「Y」字型あるいは逆「入」字型を呈している。その内側の骨折部は,
放射状骨折によって前面中央部と内側顆の2つの骨折片に分けられている。
以上の骨折の形態は,いわゆる粉砕骨折に該当し,前記の4つの主な骨折
片は離解(分離)し,それぞれ中心から,外,内,前及び後方へ向かって遠
心性に転位し,ずれている。
エC鑑定人は,前記ウの原告の右脛骨膝関節内骨折の成傷状況から,以下の
ように,その成傷機序を推定する。
原告の右脛骨膝関節内骨折は,同頸骨近位端の膝関節面外側部の大腿骨下
端の外側顆(腓骨側)の関節面の隆起部が当たる位置を中心として,放射状
に陥没骨折していることから,その中心部が外力の作用点(打撃点)と考え
られ,大腿骨下端の外側顆が頸骨膝関節面の同部に当たって同時的に生じた
ものと推定される。これを詳細にみると,放射状陥没骨折の中心から外側(腓
骨側)及び内側の下方へ向かってそれぞれ直線状に伸びる骨折の上部が,さ
らに前,後及び内側(C鑑定書27頁5行目「外側」の記載は「内側」の誤
りであると考えられる。)の3つに分かれていることから,前または後ろから
みて,それぞれ類逆「Y」字型あるいは「入」または逆「入」字型を呈する
骨折線が形成された後に,前面中央部の骨折及び後面中央部の骨折が生じた
と考えられる。この場合,前記のように大腿骨下端の外側顆が頸骨の膝関節
面に当たった直後に内側顆が当たることによって,中央部の前部及び後部の
骨折と内側顆の骨折に分離したことも考えられる。
前記のような形状の頸骨近位端の膝関節面外側部の骨折は,一般に,高所
から飛び降りて足から着地したり,片足に体重が掛かった状態で膝関節部の
無理な外反(X脚状の偏位)あるいは回旋が加わったりしたときに関節内に
生じる外力によって受傷するものであり,外部から頸骨近位端の外側顆や内
側顆を打撲したときの直接的な外力作用によって生じるものではない。
オC鑑定人は,以下の(ア)及び(イ)のように,前記エの原告の右脛骨膝関節
内骨折から推定される成傷機序と,原告及び被告が主張する原告の転倒態様
の整合性を検討している。
(ア)原告が主張するように,行為者がその右足を原告の右足にかけたときに,
原告が右膝を伸ばして踏ん張って体重をかけているところに,膝関節部の外
反(内側へ向かうX脚状の偏位)あるいは回旋が起こるような外力が加わっ
たとすると,原告に生じた右脛骨膝関節内骨折が生じ得ると考えられる。
(イ)一方,被告が主張するように,行為者が原告の体を引き寄せて,その身体
を左に捻り,左に回転しながら,原告と共に転倒した場合には,原告の両足
への負荷はむしろ少なくなると考えられるので,原告の右足に同人の体重が
かかる状態で膝関節部の無理な外反(X脚状の偏位)あるいは回旋が生じた
りするような状況を想定することはできず,原告に生じた右脛骨膝関節内骨
折が生じ得るとはいえない。
(ウ)C鑑定意見は,前記エのとおり,直接的な外力作用により,原告に右脛骨
膝関節内骨折が生じる可能性を排斥しており,このことからすると,C鑑定
意見は,被告の主張である,原告が右膝を路面に打ち付けたことにより右脛
骨膝関節内骨折が生じた可能性を排斥する趣旨であると解される。
カC鑑定人における以上の鑑定は,必要十分な鑑定資料のもとで分析して確
定した原告の右脛骨膝関節内骨折の形状に基づき,合理的に成傷機序を考察
したものであって,その内容には,経験則に反するような不合理な点が認め
られない。
よって,原告の右脛骨膝関節内骨折に関するC鑑定意見は信用することが
できる。
キ被告は,A警察官は,原告と共に体を捻って転倒しているのであるから,
原告が,この時,倒れまいとして足を踏ん張り,右膝関節部に外反あるいは
回旋が起こるような外力が加わった可能性があるから,被告が主張する原告
の転倒態様によっても原告の右脛骨膝関節内骨折は生じる旨主張する。
しかしながら,被告の主張によれば,A警察官と原告は,A警察官が原告
の体を自身に引き寄せた勢いでそのままA警察官の左後方に向けて体を捻り
ながら転倒したというのであり,原告が自身の身体を自由に制御できない状
況において,足を踏ん張ることができる状況が存在したと推認するのは困難
である。
したがって,被告の主張は認められない。
ク被告は,原告の主張を再現した写真(甲15)によれば,原告の右足は跳
ね上げられているだけであり,右膝関節部分が捻られた状況はないのである
から,原告の主張する態様により原告の骨折が生じ得るとするC鑑定意見に
は疑問がある旨主張する。
しかし,再現写真によって転倒態様を全て細かく再現することは困難であ
るところ,原告の主張する転倒態様を前提にするならば,甲15写真④の前
後において,C鑑定意見が指摘する右膝関節部に外反(内側へ向かうX脚状
の偏位)あるいは回旋が起こるような外力が加わった可能性は十分にあった
と認められる。
したがって,被告の主張は認められない。
(3)E医師の意見
アE医師は,C鑑定意見と異なり,原告の右脛骨近位端の骨折は,膝の内側
を強く道路に打ち付けたことにより発生したものであり,被告が主張する原
告の転倒態様によればこれを矛盾なく説明することができ,原告の主張態様
ではこれを説明することができない旨の意見書(乙9)を作成し,また,同
趣旨の証言をする(平成25年10月21日実施所在尋問)ので,以下,E
医師の意見の信用性を検討する。
イE医師は,G大学医学部法医学教室の教授であり,弁論の全趣旨によれば,
受傷結果の成傷機序に関する鑑定の経験を豊富に有していると認められる。
ウE医師は,意見書の作成にあたり,捜査機関から送付された診断書(甲1),
原告代理人作成にかかる写真撮影報告書(甲2),「公務執行妨害事件の被害
状況の再現について」と題する書面(乙3),F病院作成にかかる原告のレン
トゲン画像を資料とした(乙8)。
エE医師は,原告の右膝関節部周辺のレントゲン画像を分析し,原告は右脛
骨近位端のうち頸骨内側顆を骨折しており,当該骨折は,膝をつくようにし
て倒れ,道路などに頸骨内側顆を強く打ち付けた場合によく生じるものであ
る,仮に,原告が柔道の払い腰や大外刈りなどの技で思い切り投げられたと
したら,頸骨外側顆などの体の外側部を骨折するはずであるが,原告は頸骨
内側顆を骨折しているから,原告は,投げ飛ばされたのではなく,右膝を下
にして,かつ,右膝内側を路面に打ち付けるようにして倒れたことが明らか
である旨意見する。
オしかしながら,前記のE医師の意見は,以下のとおり,その信用性に疑問
がある。
(ア)E医師が意見作成の際に用いた,原告の右脛骨膝関節内骨折の形状を示す
客観的な資料は,F病院作成にかかるレントゲン画像のみであり,CT画像
等が資料に含まれておらず,その基礎資料は不十分であったと言わざるを得
ない。
なお,この点については,E医師も,CT画像が入手できれば,骨折部分
の立体画像を作成することができ,診断がわかりやすくなる旨証言するとこ
ろである(E証人19頁)。
(イ)また,E医師は,前記エのとおり,原告が右脛骨膝関節のうち頸骨内側顆
のみを骨折していることを前提に考察を行っているが,前記前提事実(3)及び
前記第3の3(2)ウのとおり,原告の骨折は,右頸骨近位端関節面上面の中央
やや外側(腓骨側)が陥没し,同部を中心とする放射状の骨折線によって,
外側顆,前面中央部,内側顆及び後面中央部の4個の骨折片を形成するもの
であって,頸骨外側顆にも骨折が発生しているのであるから,E医師が前提
とした原告の右脛骨膝関節内骨折の形状は不正確であり,原告の骨折の成傷
機序を考察するにあたり重要な前提を欠いたものと言わざるを得ない。
(ウ)以上のとおり,E医師の意見はその信用性に疑問があると言わざるを得ず,
採用できない。
(4)原告の肋骨骨折
原告の肋骨の骨折について,C鑑定意見は,前記のとおり,胸郭への前方ま
たは後方からの圧迫的外力による生じた可能性が高いと指摘した上,そのよう
な状況に該当する場面として,A警察官がその右肘を原告の右胸部に当てるよ
うな格好で原告に覆い被さっている場面(甲15の写真⑦)が概ねこれに該当
するとする。
前記認定のとおり,A警察官は,原告をつかんだまま,全体重を原告にかけ
るようにして原告の上から覆い被さる状態で原告と一緒にアスファルト路面
上に倒れ込んでおり,原告の供述によれば,A警察官は,その後,全体重を原
告にかけるような形で原告にのしかかったことが認められる(右脛骨膝関節内
骨折に関する供述については,原告の供述の信用性が警察官らの各供述の信用
性よりも高いといえ,そうすると,前記骨折と連続する行為についての供述の
信用性も原告の供述の方が高いと考えられる。)。そうすると,アスファルト路
面上に原告とA警察官が倒れ込んだ際に原告の胸郭への前方または後方から
の圧迫作用が生じた可能性は十分にあるというべきであるし,路面に倒れ込ん
だ後にA警察官が原告にのしかかった際に同様に圧迫作用が生じた可能性も
高いというべきであり,これは前記のC鑑定意見に整合し,他方,これに明ら
かに反する客観的証拠はないから,原告の肋骨骨折は,A警察官の前記の一連
の行為(本件暴行行為)により生じたものと認めるのが相当である。
なお,この点について,被告は,原告の肋骨の骨折が直接的な外力により生
じたものであることを前提に,C鑑定意見は,原告の肋骨が内側に折れている
点に触れず,直接外力と介達外力を見誤ったものである旨主張する。しかし,
原告の肋骨の骨折が直接的な外力の作用により生じたことを認めるに足りる
証拠はなく,他方,C鑑定意見は,原告の肋骨の骨折が圧迫的外力により生じ
たと判断するものであって,介達外力により生じたと判断するものではないか
ら,被告の前記の主張は前提が不適切であり,認められない。
(5)まとめ
前記(2)のとおり,C鑑定意見は信用性が高いと認められるからこれを採用し,
鑑定の結果及び弁論の全趣旨によれば,A警察官が,両手で原告の両肩をつか
み,右足を原告の右足膝裏側にかけて,体を左方向に回転させて原告をアス
ファルトの道路上に投げ倒し,これにより原告は右脛骨膝関節内骨折の傷害を
負ったと認められる。
原告の肋骨骨折については,前記(4)のとおり,A警察官の本件暴行行為に
より生じたと認められる。以上の各事実を前提に,本件各証拠及び弁論の全趣
旨によるならば,前記認定事実(2)及び(3)のとおりの事実が認められる。
4争点1(警察官による職務を行うについての違法行為の有無)について
(1)前記認定事実のとおり,A警察官は,近づいてくる原告に数歩詰め寄り,両
手で原告の両肩をつかみ,右足を原告の右足膝裏側にかけて,体重を原告にか
けて,体を左方向に回転させて原告をアスファルトの道路上に投げ倒し,原告
を掴んだまま,全体重を原告に押しかけるように原告の上から覆い被さる状態
で一緒にアスファルト道路面に倒れ込み,その後原告に全体重をかけてのしか
かったものである(本件暴行行為)。
本件暴行行為は,原告の身体を害する違法なものであって,A警察官は,同
行為により原告の身体が害されることにつき,少なくとも未必的に故意を有し
ていたものと認められるから,被告の公権力の行使に当たり,A警察官の故意
に基づく違法行為があったと認められる。
(2)アこの点につき,被告は,本件暴行行為の存在を否認した上で,A警察官の
原告に対する有形力の行使は,現行犯人である原告を逮捕することに伴うも
のである旨主張するので,この点につき検討する。
被告は,原告が,A警察官に近づき,左手でA警察官の右肩付近を1度突
き,右手を振り上げて殴りかかろうとし,更に,A警察官の胸ぐらをつかん
できたため,A警察官は,原告を公務執行妨害罪の現行犯人と認め,左手で
原告が振り上げた右手をつかみ,右手で原告の左手をつかんだ際に,原告が
A警察官につかまれた手を振りほどこうとして暴れたため,原告の背中に自
身の右手を回し,原告の体を自身の方に引き寄せたところ,後方に転倒しそ
うになったため,体を左にねじり,左に回転しながら,原告が下に,A警察
官が上になって路上に転倒し,その後,A警察官は原告を公務執行妨害罪の
現行犯人として逮捕したものであるから,A警察官の逮捕行為は正当な職務
行為であり,違法な公権力の行使は存在しない旨主張し,これに沿う証拠と
して,現行犯人逮捕手続書(甲7),A警察官の陳述書(乙6),B警察官の
陳述書(乙7),A証人及びB証人の各証言がある。
イしかしながら,A警察官及びB警察官の各供述における原告の転倒態様に
関する内容は,信用性の高いC鑑定意見と整合せず,原告の転倒態様に関す
る内容は本件事件の核心部分であることからすれば,A警察官及びB警察官
の各供述は全体として信用することができない。
ウまた,現行犯人逮捕手続書は,通常,逮捕行為後直ちに作成されるもので
あり,A警察官も,本件事件後,甲警察署に戻り逮捕手続書を作成した旨証
言しているところ(A証人27頁),原告を現行犯人として逮捕したことを
証する現行犯人逮捕手続書(甲7)においては,逮捕の年月は「平成22年
12月11日」と印字され,その上に「平成22年11月16日」と手書き
で訂正されていることが認められ,このことからは,同手続書が本件事件発
生後直ちに作成されたものではないことが窺われる。また,A警察官の証言
によれば,A警察官は,原告が甲警察署からF病院に治療に向かう際に同行
していないにもかかわらず(A証人14頁),前記手続書には,A警察官が
F病院において他の甲警察署の司法警察員に対し原告を引き渡した旨記載
されており,前記手続書には明らかに事実と異なる内容が記載されている。
以上からすると,現行犯人逮捕手続書(甲7)は信用性に乏しいと言わざる
を得ない。
エ以上からすれば,A警察官及びB警察官の各供述は信用することができず,
現行犯人逮捕手続書(甲7)の記載内容も信用できないことから,(2)ア記
載の各証拠をもって,前記第3の1の認定を覆すに足りず,他にこの認定を
左右するに足りる証拠はない。したがって,原告によるA警察官に対する暴
行は認められず,公務執行妨害罪の成立要件が充足される余地はないから,
公務執行妨害罪の成立可能性を前提とする被告の正当行為の主張は認めら
れない。
(3)以上のとおり,A警察官の本件暴行行為は,故意に基づく違法なものである
から,被告の公権力の行使に当たり,A警察官が,原告に対し,故意に違法な
行為を行ったものと認められる。
5争点2(損害の発生及び損害額)について
(1)入院雑費15万7500円
前記認定事実(4)のとおり,原告は,本件事件により受けた傷害の治療のため,
F病院に105日間入院したのであり,その入院雑費として1日につき150
0円を認めるのが相当である。
(2)慰謝料120万円
A警察官は,原告が公務執行妨害罪を構成する有形力を行使していないにも
関わらず,前記認定事実(2)及び(3)記載の態様で原告の身体の自由を制限し,
身体を害しているのであり,本件暴行行為は違法なものである。
前記認定事実(3)及び(4)のとおり,原告は,A警察官の本件暴行行為により,
105日間の入院加療を要する右脛骨膝関節内骨折及び右第3ないし第5肋
骨骨折を負わされたのであり,その結果は重大である。
また,A警察官は,虚偽の内容の現行犯人逮捕手続書を作成し,A警察官及
びB警察官は,本件の審理において事実と異なる供述をしており,これらのこ
とはあってはならない事態というべきである。
もっとも,本件各証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件事件当時,原告にお
いて職務質問の要件となる事由が存在しなかったとまではいえず(警察官職務
執行法2条1項参照),また,前記のとおり,警察官らは,自転車盗の可能性
を考慮して職務質問をしようとしており,原告がホームレスであることを理由
にしたとは認められず,さらに,原告が職務質問を試みる警察官らの制止を無
視して自転車の走行を継続したことが本件事件の契機となったことは否定で
きない。
以上の各事情を総合して考慮するならば,原告の精神的苦痛を慰謝するため
の慰謝料は120万円を認めるのが相当である。
6まとめ
前記のとおり,争点1についての判断のとおり,被告の公権力の行使に当た
る公務員たるA警察官が,その職務を行うにつき,故意によって違法に原告に
損害を被らせたものであり,争点2についての判断のとおり,その損害額は1
35万7500円であると認められるから,被告は,原告に対し,国家賠償法
1条1項に基づき,同額の損害賠償債務を負う。
第4結論
以上のとおり,原告の請求は135万7500円及びこれに対する遅延損害
金の支払を求める限度で理由があるからその限りで認容し,その余の請求は理
由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担については民訴法64
条ただし書を,仮執行の宣言については民訴法259条1項をそれぞれ適用し
て,主文のとおり判決することとする。
大阪地方裁判所第12民事部
裁判長裁判官古谷恭一郎
裁判官富張邦夫
裁判官望月一輝

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