弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 被告は、別紙第二目録記載の書籍を印刷、製本及び頒布してはならない。
二 被告は、その所有する別紙第一目録記載の絵画、彫刻及び模型を撮影したフイ
ルム、第一目録記載の絵画、彫刻及び模型の印刷用原版並びに同第二目録記載の書
籍を廃棄せよ。
三 被告は、原告に対し、三四七万〇九二〇円及びこれに対する昭和六二年二月二
〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は、これを五分し、その四を原告、その余を被告の各負担とする。
六 この判決は、右一ないし三に限り、仮に執行することができる。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文一及び二同旨
2 被告は、原告に対し、二八〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から
支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、被告の負担とする。
4 右1及び2について仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1(一) 【A】(以下「【A】」という。)は、別紙第一目録記載の絵画、彫刻
及び模型(以下「本件著作物」といい、その著作権を「本件著作権」という。)の
著作者である。
(二) 原告は、【A】の妻であるところ、【A】が昭和四三年一月二九日に死亡
したことにより、唯一の相続人として、本件著作権を含む【A】の全財産を相続に
より承継取得した。
2(一) 被告は、昭和六一年一〇月頃、別紙第二目録記載の書籍(以下「本件書
籍」という。)に本件著作物を複製して掲載し、同書籍を頒布した。そして、被告
は、現に、本件書籍を印刷、製本及び頒布するおそれがある。
(二) 本件著作物を撮影したフイルム(以下「本件フイルム」という。)及び本
件著作物の印刷用原版(以下「本件原版」という。)は、いずれも専ら前記侵害行
為の用に供されたもの、本件書籍は、前記侵害行為を組成したものであつて、これ
らの廃棄は、前記侵害の予防に必要である。
3 被告は、前記本件書籍の頒布行為が本件著作権を侵害するものであることを知
り、又は過失によりこれを知らないで、昭和六一年一〇月頃、本件書籍を二万部頒
布したものであるところ、損害の額と推定される右侵害行為による利益の額は、本
件書籍一部当りの定価一九〇〇円から作成原価五〇〇円を控除した一四〇〇円に右
販売部数二万を乗じた二八〇〇万円である。仮に右主張が理由がないとしても、原
告は、本件著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受け
た損害の額として、その賠償を請求することができるところ、右の本件著作権の行
使につき通常受けるべき金銭の額は、本件書籍一部当りの定価一九〇〇円の一〇パ
ーセントの額に実際の販売部数一万八二六八を乗じた三四七万〇九二〇円であるか
ら、原告は、少なくとも右額の賠償を請求することができる。
4 よつて、原告は、被告に対し、本件著作権に基づき、本件書籍の印刷、製本及
び頒布の差止め、本件フイルム、本件原版及び本件書籍の廃棄、損害賠償金二八〇
〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年
五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1の事実は認める。
2 同2(一)の第一文の事実は認め、同2(一)の第二文及び同2(二)の事実
は否認する。
3 同3のうち、本件書籍一部当りの定価は認め、同書籍の販売部数は一万八二六
八部の範囲で認め、その余の事実は否認する。
三 抗弁
1 本件書籍は、次に述べるとおり、著作権法四七条に規定する小冊子に該当する
ので、被告の行為は、原告の本件著作権を侵害しない。
(一) 被告は、本件著作物の原作品の所有者から、本件著作物をその原作品によ
り公に展示することについて同意を得た者である。
(二) 本件書籍は、昭和六一年一〇月三一日から同六二年四月五日までの間に、
東京、大阪、京都、広島及び福岡において開催された被告主催のレオナール・フジ
タ展(以下「本件展覧会」という。)の観覧者のために、同展覧会に展示された本
件著作物を含む【A】の作品の解説又は紹介をすることを目的として発行された。
本件書籍は、本件展覧会の観覧予定人数の範囲内の部数だけ発行されたが、このこ
とは、本件書籍が専ら観覧者のために頒布されるものであることを示している。
(三) 本件書籍は、【A】の作品中、本件展覧会の展示作品のみを掲載している
が、本件展覧会及び【A】の作品の紹介又は解説を前段に、図版部を中段に、
「【A】年譜」等の資料を後段にそれぞれ配置して、本件展覧会の意義並びに
【A】及びその作品の全体像が浮かび上がるよう構成している。また、図版部に
は、鑑定書と共に本件著作物を掲載しているが、各作品ごとに、題名、著作年、画
材、彫刻・模型の場合には材質、手法、署名の有無・位置・態様、作品の大きさ、
作品の所有者名等の資料的事項を例外なく記載している。そして、別紙第一目録二
五、二八、二九、六九、七四、七五及び九〇記載の作品については、特別の説明文
を付している。
(四) 本件書籍は、規格二四〇mm×二四〇mm、紙質はアート紙、装丁はフラ
ンス装、総頁数は一四三頁であり、また、本件著作物の複製形態は、最大でも右規
格に納まる程度の縮小されたもの、複製枚数一一三枚、複製頁数八九頁であつて、
これらの内容は、美術展において一般に小冊子として著作権者の許諾なしに観覧者
に複製頒布されているカタログと同一であり、鑑賞用として市場で取引される画集
のように独立の市場価値を有するものではない。
2 被告は、昭和六〇年頃から、東洋と西洋を結ぶ非凡な創造的芸術家である
【A】の生誕一〇〇年を記念して、日仏文化交流を推進し、フジタ芸術を讃え紹介
しようと、展覧会の開催を企画し、その準備を進め、昭和六二年二月頃には、本件
展覧会開催の実施可能性が見えてきたので、原告に対し、本件展覧会開催及び展覧
会用カタログの発行についての許諾を、礼を尽くして丁重に要請したが、原告は、
理由もなくこれを拒否した。被告は、原告に対し、著作権料相当額の謝礼金の支払
いを提示するなど、更に協力を要請して交渉を続けたが、原告は、これをかたくな
に拒否した。本件展覧会は、日仏両国美術界の一大催事であり、フランス側名士の
協賛を得た国際的文化問題であるので、被告は、本件展覧会の開催を放棄すること
はできず、予定どおり開催した。本件書籍は、このような本件展覧会の観覧者のた
めの出展作品の解説又は紹介を目的として発行された抗弁1のとおりの書籍であつ
て、同書における本件著作物の複製及び同書の発行は、文化的所産の公正な利用で
あるから、著作権の恣意的行使によつてこれを妨げる原告の本訴請求は、権利濫用
であり許されない。
四 抗弁に対する原告の認否及び反論
1 抗弁1及び2は否認する。
2(一) 本件書籍は、次に述べるとおり、小冊子に該当しない。
(1) 本件書籍は、一四四頁であり、そのうち図版部は、九八頁を占め、その中
に一三〇点の作品が複製掲載されているが、解説の付された作品は、このうち七点
のみである。
(2) 本件書籍は、上質のアート紙を用い、表裏表紙は厚手の上質アート紙を用
い、金色の装丁が施されており、また、本件著作物の複製形態は、最小五五mm×
八〇mmで、大部分は一頁の半分以上の大きさを有し、ほぼ原寸大のものも八点存
するが、これらの点も含め、本件書籍は、鑑賞用として市場で取引される画集と比
べ内容的に遜色なく市場価値を有するものである。
(二) 原告の本訴請求は、権利濫用に当たらない。すなわち、美術展の開催に
は、最低二年間程度の準備期間が必要であるのであるから、被告が真摯に原告の許
諾を求めるのであれば、右準備期間の当初の段階でこれを求めるべきであるのに、
被告は、開催のほとんど直前になつて協力を求めたのであつて、被告が真摯に許諾
を求めたとは考えがたく、当初から本件展覧会の開催を強行するつもりであつたこ
とは明らかである。ところで、原告は、被告から協力を求められて後、調査したと
ころ、被告は、昭和五七年のダリ展において、【B】の拒否の手紙を承諾の手紙に
変造するなどして展覧会を強行したことを知つた。原告がこのような被告の協力の
求めを拒否したのには、正当の理由がある。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一 請求の原因1及び同2(一)第一文の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、まず、抗弁1について判断する。
 著作権法四七条は、美術の著作物又は写真の著作物の原作品により、第二五条に
規定する権利を害することなく、これらの著作物を公に展示する者は、観覧者のた
めにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小冊子にこれらの著作
物を掲載することができる旨規定するところ、その趣旨とするところは、美術の著
作物又は写真の著作物の原作品により、これらの著作物を公に展示するに際し、従
前、観覧者のためにこれらの著作物を解説又は紹介したカタログ等にこれらの著作
物が掲載されるのが通常であり、また、その複製の態様が、一般に、鑑賞用として
市場において取引される画集とは異なるという実態に照らし、それが著作物の本質
的な利用に当たらない範囲において、著作権者の許諾がなくとも著作物の利用を認
めることとしたものであつて、右規定にいう「観覧者のためにこれらの著作物の解
説又は紹介をすることを目的とする小冊子」とは、観覧者のために著作物の解説又
は紹介をすることを目的とする小型のカタログ、目録又は図録といつたものを意味
し、たとえ、観覧者のためであつても、実質的にみて鑑賞用の豪華本や画集といえ
るようなものは、これに含まれないものと解するのが相当である。この点について
更に敷えんすると、右の「小冊子」に該当するというためには、これが解説又は紹
介を目的とするものである以上、書籍の構成において著作物の解説が主体となつて
いるか、又は著作物に関する資料的要素が多いことを必要とするものと解すべきで
あり、また、観覧者のために著作物の解説又は紹介を目的とするものであるから、
たとえ、観覧者に頒布されるものでありカタログの名を付していても、紙質、規
格、作品の複製形態等により、鑑賞用の書籍として市場において取引される価値を
有するものとみられるような書籍は、実質的には画集にほかならず、右の「小冊
子」には該当しないものといわざるをえない。
 これを本件についてみるに、成立に争いがない甲第一号証によれば、(1)本件
書籍は、規格二四〇mm×二四〇mm、紙質はアート紙、装丁はフランス装、表裏
表紙は厚手の上質アート紙を用いた金色の装丁、総頁数は一四三頁であり、また、
本件著作物の複製形態は、最大のものが右規格に納まる程度に縮小されたもの、最
小のものが五五mm×八〇mm、大部分が一頁の半分以上の大きさ、原寸に近いも
のが八点、複製枚数一一三枚、複製頁数八九頁であること、(2)本件書籍は、
【A】の作品中、本件展覧会の展示作品のみを掲載し、本件展覧会及び【A】の作
品の紹介又は解説を前段に、図版部を中段に、「【A】年譜」等の資料を後段にそ
れぞれ配置して構成し、また、図版部には、鑑定書と共に本件著作物を掲載し、各
作品ごとに、題名、著作年、画材、彫刻・模型の場合には材質、手法、署名の有
無・位置・態様、作品の大きさ、作品の所有者名等の資料的事項を例外なく記載
し、七点の作品については説明が付されていること、以上の事実が認められる。そ
して、成立に争いのない甲第三、第四、第五号証の各一、二、第六号証、第七号証
の一、二、第八号証、第九号証の一、二、それぞれ「カラーブツクス足立美術
館」、「カラーブツクス日本の画家―近代洋画」、「中国への旅 東山魁夷小画
集」、「アートギヤラリーブツクス足立美術館」、「新潮美術文庫モデイリアー
ニ」、「新潮美術文庫ロートレツク」、「クリムトのデツサン」、「クレーの素
描」であることについて争いのない検甲第一ないし第八号証によれば、本件書籍と
同程度又はそれ以下の規格、紙質、作品の複製形態等を有する書籍が、鑑賞用の画
集として市場で取引されている事実が認められる。以上認定の事実によれば、本件
書籍は、実質的にみて鑑賞用として市場で取引されている画集と異なるところはな
いから、著作権法四七条の規定に関する前説示に照らし、右規定にいう「小冊子」
に該当するものとは認められず、したがつて、被告の抗弁1は採用するに由ないも
のといわざるをえない。この点に関して、被告は、本件書籍の内容は、美術展にお
いて一般に小冊子として著作権者の許諾なしに複製頒布されているカタログと同一
であり、鑑賞用として市場で取引される画集のように独立の市場価値を有するもの
ではない旨主張するところ、成立に争いのない乙第一号証、第七号証の二、第九、
第一二号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第七号証の一、弁論の全趣旨によ
り真正に成立したものと認められる乙第二ないし第六号証、第八、第一〇、第一一
号証、それぞれ「デユフイ展のカタログ」、「パスキン展のカタログ」、「キスリ
ング展のカタログ」、「シスレー展のカタログ」、「ユトリロ展のカタログ」、
「マネ展のカタログ」、「藤田嗣次展のカタログ」、「ムンク展のカタログ」、
「ジヤコメツテイ展のカタログ」、「マン・レイ展のカタログ」、「国吉康雄と近
代ヨーロツパの名画展のカタログ」、「フオロン展のカタログ」、「アンリ・ルソ
ーの夜会展のカタログ」、「ヘンリー・ムーア展のカタログ」、「ミロの世界展の
カタログ」、「ターナー展のカタログ」、「鈴木信太郎展のカタログ」、「フラン
シス・ベーコン展のカタログ」、「松本竣介展のカタログ」、「写実の系譜Ⅱ 大
正期の細密描写」、「ミユンヘン近代美術展のカタログ」、「ガラス一〇〇年フラ
ンス・ドームの栄光展のカタログ」、「北海道の美術展のカタログ」、「世界現代
ガラス展のカタログ」、「日本のガラス造形・昭和展のカタログ」、「一九五〇年
代展のカタログ」、「一九六〇年代展のカタログ」、「一九七〇年以降の美術展の
カタログ」、「井上武吉新作展のカタログ」、「現代美術の四〇年展のカタロ
グ」、「ひろしま美術館常設展のカタログ」、「近代日本画の名作展のカタロ
グ」、「フランス近代絵画名作展のカタログ」、「レオナール・フジタ画集」、
「デユフイ画集」、「キスリング画集」、「シヤガール画集」、「マネ画集」、
「ヘンリー・ムーア画集」、「ミロのリトグラフ画集」、「ルノワール画集」、
「福岡県立美術館開館記念特別展のカタログ」、「高島野十郎展のカタログ」、
「イギリスのニードルワーク展のカタログ」、「現代デザインの展望展のカタロ
グ」、「ヨーロツパのレース展のカタログ」、「京都の日本画一九一〇―一九三〇
展のカタログ」、「今日のジユエリー世界の動向展のカタログ」であることについ
て争いのない検乙第二ないし第四二号証、第四四号証の一、二、第四五ないし第五
〇号証を総合すると、本件書籍と同程度ないしはそれ以上の規格、紙質等を有する
カタログが、著作権者の許諾を受け、あるいは許諾を受けないで、展覧会や美術館
において、観覧者のために著作物の解説又は紹介をすることを目的とするものとし
て頒布されていること、美術館関係者や美術専門家の中には、著作権法四七条の規
定にいう「小冊子」の概念は、社会環境の変化、観覧者の要求等によつて当然変わ
るものであつて、その実情に照らすと、昨今のカタログは、右の小冊子に該当する
ものと解すべきであるとする意見を有する者があることが認められる。右認定の事
実によれば、現に、本件書籍と同程度ないしはそれ以上の規格、紙質等を有するカ
タログの少なくとも一部は、著作権者の許諾を受けないで、展覧会等において、観
覧者のために著作物の解説又は紹介をすることを目的とするものとして頒布されて
いるという実情にあると認められるが、実情がそうであるとしても、著作権法四七
条の規定の趣旨に関する前説示によると、右のカタログをもつて右規定にいう「小
冊子」に該当するということはできず、したがつてまた、許諾を受けていないとい
うことも、事実上そうであるというにとどまるものといわざるをえず、かえつて、
右のようなカタログが右の「小冊子」に該当するとすれば、右規定の趣旨とすると
ころに反して、著作物を公に展示する者に対し、著作権者の許諾なしに著作物を本
質的に利用することを許す結果となることを認め、著作権者の利益を不当に害する
ことになるものというべきであつて、社会環境の変化、観覧者の要求等から、昨今
のカタログが本件書籍程度ないしはそれ以上のものになつてきたという事実を著作
権法四七条の規定の解釈に当たつて考慮するとしても、本件書籍のように実質的に
みて鑑賞用として市場で取引されている画集と異ならないようなものまでも、右の
「小冊子」に該当するものと解するときには、著作権者の利益を不当に害すること
になつて、右規定の趣旨に反することになるものというほかはなく、したがつて、
被告の右主張は、採用することができない。
三 次に、抗弁2について判断する。
 被告は、原告に対し、本件展覧会の開催及び展覧会用カタログの発行について許
諾ないしは協力を要請してきたが、原告は、理由もなくかたくなにこれを拒否した
ものであるが、本件書籍における本件著作物の複製及び同書の発行は、文化的所産
の公正な利用であるから、著作権の恣意的行使によつてこれを妨げる原告の本訴請
求は、権利の濫用であり許されない旨主張するので、審案するに、成立に争いのな
い乙第一四ないし第二一号証によれば、被告は、昭和六一年二月から同年九月まで
の間、原告に対し、被告主張の要請をしてきたことが認められるところであり、ま
た、前認定の事実によると、本件書籍における本件著作物の複製及び同書の発行
は、【A】の著作物の解説又は紹介を目的とするものであつて、文化的所産の利用
に関するものであるということができるが、原告は、本件著作物の著作権者とし
て、被告主張の要請に応じるか否かの自由を有するものであり、その要請に必ず応
じなければならないとする理由はなく、また、文化的所産の利用であれば、それが
著作権の対象であつても任意になしうるというものでもなく、かえつて、著作物の
利用を許諾するか否かは著作権者の任意になしうることであるところ、その反面、
被告主張の事実が被告の行為を正当化するものとも認められないから、原告が許諾
なしに本件著作物を利用した被告に対し本訴請求をすることは、何ら権利の濫用に
当たらないものといわざるをえない。また、本件記録上、その他原告の本訴請求が
権利の濫用に当たるものと認めるべき立証は存しない。したがつて、被告の抗弁2
も、採用の限りでない。
四 以上の認定判断を総合すると、特に反証のない本件にあつては、請求の原因2
(一)第一文及び同2(二)の事実を認定することができる。
五 次に、原告の損害賠償の請求について判断するに、前項までに認定したところ
によれば、被告は、少なくとも過失により本件著作権侵害行為をしたものと認めら
れるところ、原告は、損害の額と推定される利益の額について、定価から作成原価
を控除した額である旨主張するにとどまる。しかし、書籍の出版には、一般に作成
原価のほか、広告費、人件費等の諸経費を要するところ、これら経費をも控除した
額をもつて利益の額であると解すべきである。そうすると、諸経費に関する主張立
証のない本件にあつては、結局、右利益の額を認定することができない。そこで、
次いで、本件著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額の主張について検討する
に、本件書籍の定価が一九〇〇円であり、実際の販売部数が一万八二五八部である
事実は、当事者間に争いがなく、そして、成立に争いのない乙第二一号証及び弁論
の全趣旨によれば、本件著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額は、本件書籍
の定価の一〇パーセントの額が相当であると認められるから、その総額は、計算上
三四七万〇九二〇円となる。
六 結論
 以上のとおりであるから、原告の請求は、本件書籍の印刷、製本及び頒布の差止
め、本件フイルム、本件原版及び本件書籍の廃棄、損害賠償金三四七万〇九二〇円
及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかである昭和六二年
二月二〇日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支
払いを求める限度で理由があるから、これを認否し、その余は、理由がないから、
これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本
文、仮執行宣言について同法一九六条一項の各規定を適用して、主文のとおり判決
する。
(裁判官 清永利亮 設楽隆一 長沢幸男)
(別紙)
第一目録
一 「パリの高架鉄道」 一九一七年 個人蔵
二 「凧あげ」 一九一七年頃 個人蔵
三 「横たわる二人と鳩」 一九一七年頃 パリ 【C】氏蔵
四 「腰かける二人の少女と鶏」 一九一七年頃 個人蔵
五 「鳥かご」 一九一七年頃 個人蔵
六 「若い娘とバラ」 一九一七年頃 パリ 【C】氏蔵
七 「花に水をやる女」 一九一七年頃 パリ 【C】氏蔵
八 「読書する若い娘」 一九一八年パリ 【C】氏蔵
九 「黒シヤツを着た男の子」一九一八年 パリ 【D】夫人蔵
一〇 「二人の少女」 一九一八年頃 ジユネーブ プチ・パレ美術館蔵
一一 「カーニユ風景」 一九一八年頃 個人蔵
一二 「カーニユ風景」 一九一八年 スイス 【E】氏蔵
一三 「ビセートルの門」 一九一八年 【F】氏蔵
一四 「涅槃」 一九一八年頃 個人蔵
一五 「お茶をもつ三人の娘」 一九一八年頃 【F】氏蔵
一六 「聖母子」 一九一八年 パリ 【C】氏蔵
一七 「キリストの磔刑」 一九一八年頃 個人蔵
一八 「キリストの降誕」 一九一八年 個人蔵
一九 「聖母子」 一九一八年頃 ヴアチカン美術館蔵
二〇 「桃の枝」 一九一七年頃 【F】氏蔵
二一 「白い酒壺とバラ」 一九一八年頃 【F】氏蔵
二二 「アネモネ」 一九一八年頃 個人蔵
二三 「栗色と金髪と赤毛の少女たち」 一九二〇年 個人蔵
二四 「若い娘と鏡」 一九二二年 パリ 【C】氏蔵
二五 「私の部屋、目覚し時計のある静物」 一九二一年 パリ ジヨルジユ・ポ
ンピドウー芸術文化センター、国立近代美術館蔵
二六 「バラのある静物」 一九二二年 ツウエルン=アイジンベル画廊蔵
二七 「横たわる裸婦」 一九二二年 フランス ニーム美術館蔵
二八 「私の部屋、アコーデオンのある静物」 一九二二年 パリ ジヨルジユ・
ポンピドウー芸術文化センター、国立近代美術館蔵
二九 「友情」 一九二四年 リブルヌ美術館蔵
三〇 「自画像」 一九二四年 ブリユツセル 個人蔵
三一 「自画像(慈善病院のベツドにて)」 一九二四年 個人蔵
三二 「パイプを吸う自画像」 一九二六年頃 ツウエルン=アイジンベル画廊蔵
三三 「画家の肖像」 一九二七年 【G】氏蔵
三四 「作家自作の肖像マスク」 一九三一年頃 個人蔵
三五 「聖母子」 一九二四年頃 個人蔵
三六 「ソフアーに腰かける少女」 一九二四年 個人蔵
三七 「少女と子狐」 一九二四年 パリ レバノン・フランス銀行蔵
三八 「女ともだち」 一九二五年 スイス 【E】氏蔵
三九 「裸婦座像」 一九二五年 ル・アーブル アンドレ・マルロー美術館蔵
四〇 「裸婦」一九二七年 パリ ギヤラリー・ギニエ画廊蔵
四一 「女ともだち」 一九二六年 個人蔵
四二 「女ともだち」 一九二六年 ジユネーブ プチ・パレ美術館蔵
四三 「アンナ・ド・ノワイユの肖像(油絵のための下絵)」 一九二六年頃 パ
リ 【C】氏蔵
四四 「アンナ・ド・ノワイユの肖像」 一九二六年頃 パリ 【C】氏蔵
四五 「若い女性の肖像」 一九二七年 個人蔵
四六 「エレーヌ・ベルトロの肖像」 一九二七年 個人蔵
四七 「眠れる女」 一九二八年 個人蔵
四八「二人の裸婦」 一九二九年 パリ ジヨルジユ・ポンピドウー芸術文化セン
ター、国立近代美術館蔵
四九 「少女と猫」 一九二九年 フランス 個人蔵
五〇 「おさげの少女」 一九二九年 フランス 個人蔵
五一 「インク壺のある静物」 一九二九年 個人蔵
五二 「寝そべる猫」 一九二五年【H】氏蔵
五三 「犬」 一九二九年頃 パリ市近代美術館蔵
五四 「跳びかかる猫」 一九三三年頃 パリ市近代美術館蔵
五五 「ライオンと女調教師」 一九三〇年 ジユネーブ プチ・パレ美術館蔵
五六 「若い女性の肖像」 一九三一年 個人蔵
五七 「母と子」 一九三三年 ベルギー ヴユイスト美術館蔵
五八 「日本の子供」 一九三六年 個人蔵
五九 「少女像」 一九三四年 個人蔵
六〇 「中国の赤ん坊」 一九三四年 個人蔵
六一 「満州(旧)の女」 一九三四年 個人蔵
六二 「公衆浴場の入口」 一九三五年 個人蔵
六三 「フランス人形と日本人形」 一九三五年 【I】氏蔵
六四 「満州(旧)の男」 一九三四年 個人蔵
六五 「メイ」 一九三九年 スイス 個人蔵
六六 「若い女性の肖像」 一九三九年 個人蔵
六七 「若い女性の肖像」 一九三九年 個人蔵
六八 「白い帽子の女(胸像)」 一九三九年 個人蔵
六九 「カフエ」 一九四九年 パリ ジヨルジユ・ポンピドウー芸術文化センタ
ー、国立近代美術館蔵
七〇 「少女と猫」 一九五〇年 パリ 【D】夫人蔵
七一 「二人の少女」 一九五〇年頃 パリ 【D】夫人蔵
七二 「母と子」 一九五〇年 個人蔵
七三 「パリの小さな広場」 一九五〇年頃 個人蔵
七四 「エドガー・キネ・ホテル」 一九五〇年 パリ カルナヴアレ美術館蔵
七五 「花河岸、ノートル=ダム・ド・パリ」 一九五〇年 パリ ジヨルジユ・
ポンピドウー芸術文化センター、国立近代美術館蔵
七六 「フオークを持つ少女」 一九五一年 パリ 【C】氏蔵
七七 「ピンクのリボンの少女」 一九五一年 パリ ダニエル・マラング画廊蔵
七八 「女性の肖像」 一九五一年 個人蔵
七九 「【J】の肖像」 一九五二年 パリ 【J】氏蔵
八〇 「雉子のある静物」 一九五二年 個人蔵
八一 「少女と猫」 一九五二年頃 個人蔵
八二 「寝そべる猫」 一九五二年 個人蔵
八三 「少女と猫と犬」 一九五二年 【K】氏蔵
八四 「母と子」 一九五二年 パリ市近代美術館蔵
八五 「母子像」 一九五二年 個人蔵
八六 「少女と子供」 一九五二年 パリ市近代美術館蔵
八七 「少女と鳥」 一九五二年頃 個人蔵
八八 「ジヤン・ロスタンの肖像」 一九五五年頃 パリ市近代美術館蔵
八九 「ジヤン・ロスタンの肖像」 一九五五年 パリ カルナヴアレ美術館蔵
九〇 「少年像」 一九五六年 個人蔵
九一 「少女像」 一九五六年 個人蔵
九二 「少女とコーヒー挽き」 一九五七年フランス カーニユ=シユル=メール
城砦美術館蔵
九三 「少女と果物」 一九五八年頃 個人蔵
九四 「【L】夫人とその娘たち」 一九五七年 スイス 【L】氏蔵
九五 「カフエの中(サン・ジエルマンのビストロ)」 一九五八年 パリ市近代
美術館蔵
九六 「聖母子」 一九五九年 ランス サン∥ドニ美術館蔵
九七 「聖母子」 一九五九年 個人蔵
九八 「少女と鳩」 一九六〇年 パリ 【D】夫人蔵
九九 「黄色い帽子の娘」 一九六一年 パリ 【M】氏蔵
一〇〇 「少年像」 一九六一年 個人蔵
一〇一 「少年像」 一九六一年 個人蔵
一〇二 「少女像」 一九六一年 個人蔵
一〇三 「少女像」 一九六一年 個人蔵
一〇四 「少女とパン」 一九六六年 パリ 【D】夫人蔵
一〇五 「キリスト」 一九六六年 ジユネーブ プチ・パレ美術館蔵
一〇六 「作家自作のノートル・ダム・ド・ラ・ペ礼拝堂の模型」 一九六六年 
ランス シヤンパーニユ・ムーム社蔵
(別紙)
第二目録
被告の編集、製作、発行の「生誕一〇〇年記念 レオナール・フジタ展 L´eo
nard Foujita」と題する書籍

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
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