弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決のうち被告人A、同Bに関する部分を破棄する。
     被告人Aを禁錮七月に、被告人Bを禁錮六月に処する。
     ただし右両名に対しこの裁判確定の日から二年間右各刑の執行を猶予す
る。
     被告人Bから金三万八九二〇円を追徴する。
     原審における訴訟費用は、すべて被告人Aの負担とする。
     被告人Cの本件控訴を棄却する。
         理    由
 <要旨>次に控訴趣意二の量刑不当の主張に対する判断に入るに先だち、職権をも
つて被告人Aに関する法令の適用の当否を検討するのにまず原判決は被告人
Aの立候補届出前の原判示第一の(一)(三)および第四の金員供与および饗応接
待の所為もまた公職選挙法二二一条一項一号、三項に該当するものとしているが、
同条三項にいう「公職の候補者」とは、同法の規定にもとづく正式の立候補届出に
より候補者としての地位をもつに至つた者を称し、未だ正式の届出をしないいわゆ
る「公職の候補者となろうとする者」を包含しないことは最高裁判所判例(昭和三
四年(あ)第一一九〇号、昭和三五年二月二三日第三小法廷判決、刑集一四巻二号
一七〇頁)の示すとおりであるから、原判決が立候補届出前の原判示第一の(一)
の金員供与、同(三)省の饗応接待、第四の饗応接待の各所為につき同条三項を適
用したのは法令の適用を誤つたものといわなければならない。もつとも、被告人A
の所為としては、そのほかに原判示第一の(二)の被告人が立候補した後の現金三
万円供与があり、原判決はこれに対して同法二二一条一項一号、三項を適用し、こ
れと原判示第一の(一)(三)および第四の所為とは併合罪の関係にあるものとし
て右の三項の規定する法定刑のうち四年以下の禁錮刑を選択し、これに併合罪の加
重をしているのであるから、仮に原判示第一の(一)(三)および第四の所為に正
当な法令の適用をしたとしても、併合罪加重の結果は結局その処断刑が六年以下の
禁錮刑になることに変わりはない。しかし、原判決は、同一の処断刑の範囲内であ
るとはいえ、その掲げる適用条文よりみれば、原判示第一の(一)の現金五万円の
供与、同省の合計金七六九五円の饗応接待、第四の合計金四〇八〇円の饗応接待の
法定刑がいずれも三年以下の禁錮刑ではなく四年以下の禁錮刑であると誤解してこ
れに一応それぞれ刑罰評価を加え、これを基礎としてさらに正当な法令の適用をし
た原判示第一の(二)の現金三万円の供与と共にこれらを併合罪として全体として
の量刑判断をして主文の刑を導いたものと認めるほかなく、前示の供与などの回
数、その金額などからみて、その量刑判断の中で違法な刑罰評価をした部分の占め
る位置が特に大きいことに徴すれば、原判決にその法令適用の誤がなかつたならば
現になされた判決とは異なる判決がなされたであろう蓋然性が充分にあるといわざ
るをえないから、本件の法令の適用の誤は判決に影響を及ぼすことが明らかである
というべく、控訴趣意二に関する判断をまつまでもなく刑事訴訟法三九七条一項、
三八〇条により原判決のうち被告人Aに関する部分も破棄を免れない。
 (中略)
 よつて原判決中のこれらの部分については、これを破棄したうえ同法四〇〇条但
書の規定に従い、さらに自ら次のように判決する。
 原判決が被告人Aに関して認定した事実につき法令を適用すると、原判示第一の
(一)(三)、第四の各所為のうち事前運動の点は各公職選挙法一二九条、二三九
条一号(第一の(三)、第四につきさらに刑法六〇条を適用)に、供与ないし饗応
接待の点は各公職選挙法二二一条一項一号に該当し、原判示第一の(二)の立候補
届出後の所為は同法二二一条一項一号、三項に該当するところ、原判示第一の
(一)(三)および第四の所為はいずれも一個の行為にして二個の罪名にふれる場
合であるから刑法五四条一項前段、一〇条により重い供与罪ないし饗応接待罪の刑
に従い、所定刑のうち各禁錮刑を選択し、また原判示第一の(二)の所為について
も所定刑のうち禁錮刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪にあたるので重い
原判示第一の(二)の罪の禁錮刑に併合罪の加重をし、その所定刑期範囲内て処断
すべきところ、被告人Aは原判示のごとく茨城県鹿島郡a村の村議会議員選挙に立
候補したものであつてその当選をうる目的のため立候補届出前に現金五万円の供与
および二回の饗応接待、立候補届出後に現金三万円の供与をしたことに徴すると、
同被告人の刑責は軽視することができないといわねばならないが、所論が指摘する
同被告人に有利な情状を斟酌したうえ、同被告人を禁錮七月に処しなお情状にかん
がみ刑法二五条一項に従いこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予すること
とし、なお原審における訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文にのつとり同被
告人に負担させることとする。
 次に原判決が被告人Bに関して認定した事実につき法令を適用すると、原判示第
二の(一)(二)の所為は各公職選挙法二二一条一項四号に該当し、原判示第二の
(三)の(1)の(イ)ないし(二)および第四の各所為のうち事前運動の点は各
公職選挙法一二九条、二三九条一号(第四につきさらに刑法六〇条を適用)に、金
員供与、供与の申込ないし饗応接待の点は各公職選挙法二二一条一項一号に該当
し、また原判示第二の(三)の(2)の(イ)ないし(ハ)の立候補届出後の所為
は同法二二一条一項一号に該当するところ、原判示第二の(三)の(1)の(イ)
ないし(二)および第四の所為はいずれも一個の行為にして二個の罪名にふれる場
合であるから刑法五四条一項前段一〇条により重い供与罪、供与申込罪ないし饗応
接待罪の刑に従い、所定刑のうち各禁錮刑を選択し、また原判示第二の(一)
(二)同(三)の(2)の(イ)ないし(ハ)の所為についても所定刑のうち禁錮
刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪にあたるので犯情の最も重い原判示第
二の(三)の(1)の(ロ)の罪の禁錮刑に併合罪の加重をし、その所定刑期範囲
内で処断すべきところ、被告人Bは、原判示のごとく立候補着たる相被告人Aの選
挙運動者であつて同人の当選を得しめる目的のため同人から二回にわたり合計八万
円の現金供与をうけたうえ、Aの立候補届出の前後を通じ六回にわたり現金合計三
万七〇〇〇円の供与、また現金一万円の供与申込み、一回の饗応接待をしたことに
徴すると、同被告人の刑責は軽視しえないといわねばならず、所論が指摘する同被
告人に有利な情状を斟酌するとしても原判決と同一の刑たる禁錮六月に処するを相
当とし、なお情状にかんがみ刑法二五条一項に従いこの裁判確定の日から二年間右
刑の執行を猶予し、また公職選挙法二二四条後段により金三万八九二〇円を追徴す
ることとする。
 (その余の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 中野次雄 判事 寺尾正二 判事 藤野英一)

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