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平成22年3月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10207号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年3月3日
判決
原告X
同訴訟代理人弁理士中川邦雄
被告特許庁長官
同指定代理人岩田洋一
高木彰
安達輝幸
黒瀬雅一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2007−8499号事件について平成21年6月22日にした審
決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶
査定不服審判の請求について,特許庁において,下記2のとおりの本件補正を却下
した上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の
要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを
求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件出願及び拒絶査定
発明の名称:呼子付喘息治療薬吸入器
出願番号:特願2003−121760号
出願日:平成15年4月25日
国内優先権主張日:平成14年10月22日
手続補正日:平成18年11月21日(甲7)
拒絶査定日:平成19年2月26日
(2)審判請求及び本件審決
審判請求日:平成19年3月23日
手続補正日:平成19年4月20日(甲10。以下,同日付け手続補正書による
補正を「本件補正」という。)
審決日:平成21年6月22日
審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない。
原告に対する審決謄本送達日:平成19年7月2日
2本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載(ただし,平成18年11
月21日付け手続補正書による補正後のものである。以下「本願発明」という。)
微細粉末状薬剤が分包されたロタディスクをディスクカバーで覆った本体と,前
記ディスクカバーの針部でロタディスクを突き刺し微細粉末状薬剤を吸入する際の
吸入経路であり,空気を取り入れるための左右小孔が空けられ,微細粉末状薬剤を
拡散するための格子が設けられたマウスピースと,前記左右小孔のいずれかに取り
付けた空気の流れで音を発する呼子とからなり,十分に微細粉末状薬剤を吸入でき
ると音が発生するようにしたことを特徴とする呼子付喘息治療薬吸入器
(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載(ただし,下線部分は本件
補正による補正箇所であり,「/」は原文における改行箇所である。以下「本件補
正発明」という。)
微細粉末状薬剤が分包されたロタディスクを穴を覆うように載せディスクカバー
で覆った本体と,/前記ディスクカバーの針部でロタディスクを突き刺し微細粉末
状薬剤を吸入する際の吸入経路であり,空気を取り入れるための左右小孔が空けら
れ,微細粉末状薬剤を拡散するための格子が設けられたマウスピースと,/前記左
右小孔のいずれかに取り付けた吸気肺活量と微細粉末薬剤吸入経路の空気流量の差
を補正するための空気の流れで音を発する呼子とからなり,/十分に微細粉末状薬
剤を吸入できたときだけ音が発生するようにしたことを特徴とする呼子付喘息治療
薬吸入器
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本件補正発明は,下記の引用例1に記載さ
れた発明(以下「引用発明1」という。)に引用例2に記載された発明(以下「引
用発明2」という。)及び周知技術を適用することによって当業者が容易に発明を
することができたものであるから,独立特許要件を満たさないとして,本件補正を
却下し,本件出願に係る発明の要旨を本願発明のとおり認定した上,本願発明は引
用発明1に引用発明2及び周知技術を適用することにより当業者が容易に発明をす
ることができたものである,としたものである。
ア引用例1:特開昭62−41668号公報(甲1)
イ引用例2:特開昭49−124893号公報(甲2)
(2)なお,本件審決が認定した本件補正発明と引用発明1との一致点及び相違
点は,以下のとおりである。
ア一致点:細粉末状薬剤が分包されたロタディスクを穴を覆うように載せディ
スクカバーで覆った本体と,前記ディスクカバーの針部でロタディスクを突き刺し
微細粉末状薬剤を吸入する際の吸入経路であり,空気を取り入れるための左右小孔
が空けられたマウスピースと,前記左右小孔は吸気肺活量と微細粉末薬剤吸入経路
の空気流量の差を補正するための空気の流れを形成するようにした喘息治療薬吸入

イ相違点
(ア)相違点1:本件補正発明のマウスピースには,微細粉末状薬剤を拡散する
ための格子が設けられているのに対し,引用発明1のマウスピース(マウスピース
27)には格子が設けられていない点
(イ)相違点2:本件補正発明の喘息治療薬吸入器は呼子付喘息治療薬吸入器で
あり,左右小孔のいずれかに取り付けた吸気肺活量と微細粉末薬剤吸入経路の空気
流量の差を補正するための空気の流れで音を発する呼子が設けられており,十分に
微細粉末状薬剤を吸入できたときだけ音が発生するようにしたのに対して,引用発
明1の喘息治療薬吸入器(気管支喘息の患者に固形微粉状薬物を投与する装置)は,
左右小孔(一対の孔28)により,吸気肺活量と微細粉末薬剤吸入経路の空気流量
の差を補正するための空気の流れは形成される(マウスピースを通る空気の流れに,
一対の孔28を経て流入する空気の流れが加えられる)ものの,十分に微細粉末状
薬剤を吸入できたときだけ音を発生するようにした呼子が設けられていない点
4取消事由
本件補正発明と引用発明1との相違点2についての判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
本件審決は,引用例2には,粉末薬剤の吸入装置に笛等を設け,吸入装置を通る
空気の流れが装置を満足に作動させるのに十分な所望空気流が得られる場合に笛等
の音が聞き取れるようにすることが記載されており,このような笛等を引用発明1
の空気の流れが形成される箇所に設けて,十分に微細粉末状薬剤(固形微粉状薬
物)を吸入できたときだけ音を発するようにすることは当業者であれば容易に想到
し得ることであり,その際に空気の流れが形成される箇所の中から,左右小孔(一
対の孔28)により,吸気肺活量と微細粉末薬剤吸入経路の空気流量の差を補正す
るための空気の流れが形成される(マウスピースを通る空気の流れに,一対の孔2
8を経て流入する空気の流れが加えられる)箇所を選択する程度のことは単なる設
計的事項にすぎず,また,例示するまでもなく従来より周知の笛の一種である呼子
を笛等として採用することも単なる設計的事項にすぎないとして,相違点2に係る
本件補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことであると判断した。
しかしながら,引用発明2において最適であるとされている「オルフイス笛」と
本件補正発明における「呼子」とは構造が異なるから,引用発明1に引用発明2を
適用しても「呼子」の構成とすることはできない。また,引用例2には,吸気肺活
量と微細粉末薬剤吸入経路の空気流量の差を補正するための空気の流れが形成され
る機構は記載されておらず,全ての空気がオリフイス孔を通過しているものである
のに対して,本件補正発明は吸引される一部の空気のみを呼子に通しており,引用
発明2と明らかに異なる。さらに,「呼子」が笛の一種であり,従来から笛として
知られていたことは否定しないが,薬剤の吸入装置の分野において,呼子を採用す
ることが周知であるということはできないし,「呼子」の構造とすることが設計事
項であるということもできない。
したがって,本件審決による相違点2についての判断は誤りであり,本件補正を
却下した本件審決の判断も誤りであるから,本件審決は発明の要旨の認定を誤った
ものとして取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
引用発明1と引用発明2とは,喘息治療薬吸入器という同一の技術分野に属する
ものである。そして,喘息治療薬吸入器において,十分に微細粉末状薬剤を吸入で
きたかを客観的に確認できるようにすることは一般的課題であり,引用発明1にお
いても自明の課題であって,引用例2においてもこの趣旨が記載されているから,
当業者にとって引用発明1に引用発明2を適用することは容易に想到し得るもので
ある。
また,引用発明1は本件補正発明と同様に「微細粉末状薬剤の吸入経路を通る空
気の流れ」と「吸気肺活量と微細粉末薬剤吸入経路の空気流量の差を補正するため
の空気の流れ」の2つの空気の流れを有するものであり,引用発明1に引用発明2
を適用しようとすれば,結局この2つの空気の流れのうちのどちらかに笛等を設け
ることになるところ,微細粉末状薬剤の吸入経路に笛を設けた場合,微細粉末状薬
剤が笛等に滞留して使用者が確実に吸入することができないおそれがあることは明
らかであるから,「空気の流れが形成される箇所の中から,左右小孔(一対の孔2
8)により,吸気肺活量と微細粉末薬剤吸入経路の空気流量の差を補正するための
空気の流れが形成される」箇所を選択する程度のことは設計的事項にすぎない。
さらに,引用例2には,音響学的な笛,反響式笛,もしくはこれらの笛の特徴を
組み合わせた笛が列挙されており,これらの中から条件に合致する笛を選択するこ
とは当業者であれば当然になし得る設計的事項であるところ,本件補正発明の「呼
子」は発音する空気の噴流が縁等を通過することにより発生されたものである点で
音響学的な笛の一種であり,共鳴室を有するから,共鳴する構造体を有する反響式
笛の一種であって,引用例2に記載された笛の一種であるということができるので
あるから,引用発明1にこのような周知の「呼子」の構成を採用し,相違点2に係
る構成とすることは当業者にとって容易である。
なお,原告は,呼子の採用を周知であるとした点を問題にするが,本件審決は笛
の一種としての「呼子」自体が周知であると認定しているにとどまり,「呼子の採
用」を周知技術として認定したものではないから,原告の主張は本件審決を正解し
ないものであり,失当である。
以上によると,本件審決による相違点2についての判断に誤りはなく,取消事由
は理由がない。
第4当裁判所の判断
1引用例1の記載
引用例1には,下記(1)ないし(3)の表題の下に,それぞれ以下のような記載があ
る。
(1)産業上の利用分野
本発明は,患者が該投与装置から吸入することで患者に固形微粉状薬物を投与出
来る装置に関するものである。そのような装置は例えば気管支喘息のような気管支
の疾患に苦しむ患者に対してカプセルに収納された薬物を投与するものとして良く
知られている。そのような投与装置に患者がとりつけるカプセルに粉末又は他の微
粉形状にした薬物を供給することは周知である。かくして前記薬物はカプセルから
開放され,患者によって,通常は口から,時として鼻から吸入される。
(2)従来の技術及び発明が解決しようとする問題点
PCT出願公報第W082/01470号,第GB−A−1387954号及び
第GB−A−2061735号の全てはカプセルから微粉化形態の薬物を配合する
ための装置を記載している。
薬物を封じ込めるのにゼラチンから作られたカプセルを用いるのには幾つかの欠
点がある。即ち,ゼラチンは比較的不安定であり,物理的強度が不足しているので
前記カプセルは例えばガラスびんに入れる如く包装によって保護する必要がある。
カプセル及びそれらの内容物が環境によって劣下することが比較的短期間に発生す
る可能性がある。
英国特許第1387954号明細書に記載の装置においては,前記カプセルは
「ブリスタパック」と称するものに装着されている。…これには幾つかの不便があ
り,その1つは呼気作用が必要とされることで,この呼気作用は例えば喘息患者に
とっては吸気作用よりもより困難である。
第GB−A−2129691号明細書にはブリスタパック形態にある薬物を患者
に投与するための装置が示されている。
しかしながら,第GB−A−2129691号明細書に記載の実施例はかなりか
さばるという点で望ましくない。本発明の目的はこの問題点を解消する装置を提供
することである。
(3)実施例
第1図から第6図に示す装置は4つの主要部品,すなわちハウジング1,トレイ
2,回転可能支持体3及びカバー4である。
トレイ2の正面から延びてマウスピース27が設けられている。患者が本装置を
操作する時に薬物が同装置を出るのはこのマウスピースを通してである。マウスピ
ース中の空気の流れを改良するために該マウスピースには一対の孔28を設けるこ
とが出来る。
患者がマウスピース27を介して吸入作用を行なうと,発生する実質的に唯一の
空気の流れは孔17,これと並んでブリスタ内に形成された穴,壁35及びこれと
接触するリブ32によって画成されるチャンバ,及びマウスピース27を通っての
空気の流れであり,もしも孔28が設けられている場合には同孔を経てマウスピー
ス内に流入する空気の流れもこれに加えられるであろう。
2引用発明1について
(1)引用発明1の目的
上記1(1)及び(2)の引用例1の記載によると,引用発明1を含む引用例1に開示
された発明の課題とするところは,従来技術におけるブリスタパック形態にある薬
物を患者に投与するための装置がかなりかさばるという問題点を解消し,このよう
なタイプのコンパクトな固形微粉状薬物を投与する装置を提供することを目的とす
るものであると認められるところ,引用例1において,患者によって確実に吸入操
作が行われたことを確認することについての課題認識やこのような課題を解決する
ための手段についての記載は存在しない。
(2)マウスピースの構造
上記1(3)のとおり,実施例の説明として,空気の流れを改良するために一対の
孔28を設けることができること及びその場合には,患者による吸入作用によって
マウスピース27を通る空気の流れにこれらの孔28を経てマウスピース内に流入
する空気の流れが加わるであろうことが明示されている。
3引用発明2について
(1)引用例2には,次のアないしケの記載(1頁左欄9行∼2頁右下欄17
行)がある。
アこの発明は,薬剤等を吸込むための新しい型の装置に関する。
イ英国特許明細書第1122284,1182779号には細かく分割された
型の薬剤を吸込むための装置が記載され,…この装置を通る空気流の通過によって
プロペラ状部材の回転運動のみならず振動運動もまた生じる。この装置はその適当
な位置に容器を突通す装置を備えることができる。
ウ多数の他の装置もまた既に知られ,粉体および他の薬剤を吸込むために使用
され,多数のこれらの装置は,作動するためには,また吸込まれる空気流に薬剤を
分散させるためには使用者の吸気力に依存している。
エ実際にある装置においては,ある薬剤の処方を使用する場合,所与最小空気
速度が得られ(または最大空気速度が避けられ),装置の満足な作動(たとえば薬
剤の分散)を生ぜしめることが望まれる。ある場合には,とりわけ子供や老人に関
しては,この装置を満足に操作するように吸込むように使用者に教えることは困難
である。その上吸入装置は,しばしば吸気力が減少した人々たとえば呼吸器系の病
気をわずらっている者や子供によって使用される。従って吸気力の減じた人々が吸
入装置を使用する場合には,常にこの装置を通る空気の流れがこの装置を満足に作
動させるのに十分であるかどうかを決めることは可能とは限らない。それでこのよ
うな使用者は一定しないまたは不十分な薬剤を受ける。
オこの発明によれば,所望空気流が得られる場合聞取れるように示すようにさ
れた装置と組合せて,薬剤を肺に送り,使用者の吸気によって作動するようにされ
た吸入装置が提供される。
カこの装置を通る所望空気流が得られる場合聞取れるように示すようにされた
装置(指示装置)は,たとえば空気力学的な笛のような笛(1970年1月に発行
されたRobertCChanaud著「ScientificAmerican」の第40∼46頁参照)であ
る。空気力学的な笛は,だいたい三つの群すなわち(a)流体力学的な笛,(b)音響学
的な笛および(c)反響式笛に分類される。多数の普通の笛はこれらの群の一つ以上
の特徴を組合せている。流体力学的な笛としてはイオリアトーン発生器(たとえば
空気流内に配置された厚さの薄いシリンダ)およびうず巻型笛が挙げられ,このう
ず巻型笛において空気のうず巻流が管の開放端と接触する。音響学的な笛は空気の
噴流が縁,輪または孔を通過することにより発生されたものを有し,それぞれエッ
ジトーン,リングトーンまたはホールトーンを作る。笛付湯わかしの笛におけるよ
うに,介在する室を備えた二重オリフイス孔を通る空気の通過によって発生された
ホールトーンを使用するのが特に好ましい。音響学的な笛はフルートまたはオルガ
ンの管におけるように,共鳴するまたは反響する構造体が設けられるものを有する。
この発明のために英国の警察官により使用された型(簡単なフルート型)または米
国の警察官により使用された(音響室にゆるく取付けられた固形物たとえば豆等を
有する)型と同じ音響学的な笛が用いられる。リード笛もまた用いられる。他の指
示装置はプロペラ状部材を有し,これにおいて羽根が所与速度に達した場合騒音発
するように設計され,またはサイレンでもよい。前記指示装置のどれかは空気用バ
イパスと結合して使用され,この空気用バイパスは指示装置がやっと鳴始めるよう
になるか,または所望の空気流の割合で音を変えるようになるような寸法のもので
ある。
キ音の変化は容易に認められるようなものであるべきで,たとえば音量,音の
高さ,音質,周波数,音色等の変化である。音を出さない状態から音を出す状態に
なる変化またはこの反対の変化が好ましい。
ク指示装置は使用者がこの装置を通して吸込む場合に作動するが,使用者がこ
の装置を通して吐出す場合に作動しないことが好ましい。
指示装置は吸入装置と一体に作られるか,または別々に作られ,二つの部分はた
とえばねじ山,パヨネットばめまたは簡単な押込ばめによって共に取付けられるよ
うにして作られる。
ケ指示装置は薬剤が空気流に分散される箇所の下流で位置決めされるが,指示
装置の汚染を避けるため,指示装置は好ましくはこの箇所の上流に,たとえばこの
装置内への入気流の入口の箇所で位置決めされる。
(2)引用発明2として開示された事項
引用例2の上記(1)の記載によると,引用発明2は,呼吸器系の病気をわずらっ
ている者や子供のように吸気の弱い者が吸入装置を十分に作動させることができな
い結果,不十分な薬剤しか投与できないことが問題であるとの認識の下,十分な作
動が確保できているかどうかを確認するために,使用者が吸気によって所望の空気
流を発生された場合に笛やプロペラによる音が発生し,これを聞き取ることができ
るようにした指示装置と組み合わせた吸入装置の発明であると認めることができる。
また,上記指示装置に笛を用いる場合は,流体力学的な笛や音響学的な笛を用い
ることができることが認められるほか,上記指示装置の汚染を避けるために,指示
装置は薬剤が空気流に分散される箇所の上流に設けられること,空気用バイパスと
結合して使用されることも認められる。
4引用発明1と引用発明2とを組み合わせることの可否
(1)引用例1には,上記2のとおり,固形微粉状薬物を投与する装置に関して,
患者によって確実に吸入操作が行われたことを確認することについての課題認識や
このような課題を解決するための手段についての記載は存在しないのであり,引用
発明1に接した当業者が,直ちにこのような課題認識を有するとは認められない。
しかしながら,喘息治療薬吸入器をはじめとするこの種の薬剤吸入装置において,
必要,かつ,十分な量の薬剤を吸入することができるようにすることは一般的な課
題であると認められるところ,上記3のとおり,引用発明2には,そのような一般
的な課題が存在することを前提として,吸入装置を十分に作動することができてい
るかどうか確認することの必要性を課題として設定し,これを解決するために音響
学的な笛等を利用するという技術思想が開示されているばかりでなく,指示装置と
吸入装置との組合せに関して,指示装置が薬剤によって汚染されることを防ぐ必要
があることのほか,吸入装置の空気用バイパスに指示装置を結合させて所望の空気
流割合において使用する例についても開示されているということができるのである。
そうすると,空気の流れを改良するためにマウスピースに一対の孔28を設けた
吸入装置の発明である引用発明1に接した当業者にとって,引用例1に記載された
マウスピース及びこれに設けられた一対の孔28を通過する空気の流れは技術的に
自明な事項であるということができるところ,このような当業者が,同じく吸入装
置の発明である引用発明2に接した場合,引用例2に開示された上記のような技術
思想を引用発明1に適用し,上記一対の孔28の1つに,同孔を通過する空気流割
合によって音を発する音響学的な笛を設置することによって,引用発明2の技術思
想を引用発明1において実現しようとすることは容易であるといわなければならな
い。
そして,引用例2に記載されているとおり,指示装置に採用される笛は,音量,
音の高さ,音質,周波数,音色等の点において,容易に変化を認められるように設
計される必要があるのであり,上記のような音響学的な笛として,その一種である
ことに争いのない「呼子」を採用した上,一対の孔28の1つを通過する空気流に
よって適正に音を発するように調整することは,正に設計事項であるというべきで
ある。
(2)なお,原告は,本件補正発明の効果が顕著であると主張するので,以下,
この点について検討する。
本件補正発明の効果は,本件特許出願に係る明細書(平成18年11月21日付
け手続補正書による補正後のもの)の【0062】ないし【0065】に記載され
た以下の①ないし④のとおりのものであると認められる。
①呼子から音が出ることで治療薬を吸入する患者本人が十分に治療薬を吸入で
きたことを確認することが可能となる。
②吸入操作ができないお年寄りや小児の患者にも,吸入すると音が出ることを
説明することで,分かり易く吸入操作の説明をすることができる。
③呼子は脱着可能であるため,吸入器の操作に慣れた患者は呼子を取り外して
使うことができる。
④治療薬を自己吸入するタイプの吸入器の殆どが,呼子を取り付けた呼子付喘
息治療薬吸入器とすることができる。
しかしながら,上記①は引用例2記載の発明の奏する効果そのものであり,同②
はこれを別の観点から説明したものであって,引用例2記載の発明自体が奏する効
果でもある。また,引用例2においても,指示装置と吸入装置が別々に作られ,簡
単な取付機構により組み合わせられることが開示されているのであるから,上記③
についても,引用例2記載の発明自体が奏する効果である。さらに,上記④は,笛
(呼子)が着脱自在であること及び着脱の対象となる吸入装置の構造により導かれ
るものであって,上記③の効果の延長線上のものである。
そうすると,本件補正発明の効果は,引用発明1と引用発明2の効果を組み合わ
せた以上のものではないというべきであるから,原告の主張は前提を欠くものであ
る。
(3)以上によると,本件補正発明は,引用発明1及び引用発明2を組み合わせ
たものというべきであって,本件審決において,当業者が引用例2に記載された構
成を引用発明1に適用する過程について,「単なる設計的事項にすぎ(ない)」と
説示している点は不十分であるが,本件審決の本件補正発明と引用発明1との相違
点2についての判断は,その結論において誤りでないから,原告主張の取消事由は
理由がないといわざるを得ない。
5結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官高部眞規子
裁判官杜下弘記

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