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平成25年10月30日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成24年(ワ)第18038号特許権侵害差止請求事件
口頭弁論終結日平成25年9月2日
判決
東京都江東区<以下略>
原告株式会社エヌ・ティ・ティ・データ
同訴訟代理人弁護士笠原基広
同中村京子
同訴訟復代理人弁護士竹中大樹
同補佐人弁理士木村満
同桜田圭
同鈴木洋雅
東京都大田区<以下略>
被告池上通信機株式会社
同訴訟代理人弁護士松葉栄治
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙イ号物件目録記載の製品を製造し,販売し,又は販売の申出を
してはならない。
2被告は,前項記載の製品を廃棄せよ。
第2事案の概要
本件は,「位置特定方法および装置」との名称の特許権(以下「本件特許
権」という。)の特許権者である原告が,ヘリコプターの機体に搭載されたデ
ジタルヘリコプターテレビ用機上設備に別紙イ号物件目録記載の製品(以下
「イ号製品」という。)を接続した場合の位置特定装置(以下「イ号装置」と
いう。)は,本件特許の請求項7記載の発明(以下「本件発明」という。)の
技術的範囲に属するから,被告が業としてイ号製品を製造,販売する行為は本
件特許権を侵害するものとみなされる(特許法101条1号,2号)と主張し,
特許法100条1,2項に基づき,イ号製品の製造,販売及び販売の申し出の
差止め並びにイ号製品の廃棄を求める事案である。
1前提事実(争いのない事実以外は,証拠等を末尾に記載する。)
(1)当事者等
ア原告は,システムインテグレーション事業等を行っている株式会社であ
る。
イ被告は,業務用放送機器及び通信機器の製造販売等を行っている株式会
社である。
(2)本件特許権
ア原告は,以下の内容の特許権を有している。
特許番号特許第2695393号
発明の名称位置特定方法および装置
出願日平成7年4月10日
出願番号特願平7-84350
登録日平成9年9月12日
イ原告は,本件特許権の特許権者であった川崎重工業株式会社から専用実
施権の設定を受け,平成23年3月15日受付により,その登録をし,さ
らに,同社から本件特許権の譲渡を受け,同年12月13日受付により,
その登録をした(甲1)。
(3)本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」といい,本判決末尾に添付
する。)の「特許請求の範囲」における,請求項7の記載は以下のとおりで
ある。
「空中を移動可能な機体と,機体の位置を特定する機体位置特定手段と,
機体に搭載され,地表面上の目標物を撮影する撮影手段と,機体に対して,
撮影手段の向いている方向を検出する方向検出手段と,地表面の起伏につい
ての高度情報を含む三次元的な地勢データを記録しておく地表面記録手段と,
機体位置特定手段,撮影手段,方向検出手段および地表面記録手段からの出
力に応答し,機体の位置から撮影手段の向いている方向に延ばした直線と地
表面との交点を算出し,目標物の位置として特定する演算処理手段と目標物
の位置と目標物を撮影する視野とを,地名等のわかる二次元地図上に表示す
る手段とを含むことを特徴とする位置特定装置。」
(4)本件発明の構成要件の分説
本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件
を「構成要件G」などという。)。
G空中を移動可能な機体と,
H機体の位置を特定する機体位置特定手段と,
I機体に搭載され,地表面上の目標物を撮影する撮影手段と,
J機体に対して,撮影手段の向いている方向を検出する方向検出手段と,
K地表面の起伏についての高度情報を含む三次元的な地勢データを記録し
ておく地表面記録手段と,
L機体位置特定手段,撮影手段,方向検出手段および地表面記録手段から
の出力に応答し,機体の位置から撮影手段の向いている方向に延ばした直
線と地表面との交点を算出し,目標物の位置として特定する演算処理手段

M目標物の位置と目標物を撮影する視野とを,地名等のわかる二次元地図
上に表示する手段とを含む
Nことを特徴とする位置特定装置。
(5)イ号製品等
アイ号製品は,被告の製造販売に係る,別紙イ号物件目録記載の撮影位置
表示装置である。
イイ号装置は,イ号製品を,ヘリコプターに搭載されたデジタルヘリコプ
ターテレビ用機上設備(GPS装置及びカメラ装置〔カメラ防振装置を含
む。〕)及び機体姿勢計測設備に接続した場合における,上記ヘリコプタ
ー,機上設備,機体姿勢計測設備及びイ号製品から構成される位置特定装
置を指すものである(甲9)。
ウ(ア)イ号装置の構成に関する当事者の主張は別紙イ号装置説明書記載の
とおりである(以下,同説明書記載の構成を,それぞれ「構成g」など
という。)。
(イ)構成gないしk,構成l中段については当事者間に争いがない。
(ウ)構成l前段及び後段
a構成l前段に関し,被告は,カメラ位置(構成l中段)及びカメラ
の撮影方向(構成j,l中段)を求める方法を具体的に特定する主張
をするところ,原告は,イ号装置において,カメラ位置及びカメラの
撮影方向が被告の主張する方法によって求められていることについて
争うものではない。
b被告は,構成l前段に関し,イ号装置において「記録媒体からの出
力を取得」することを否認する。しかし,これは,イ号装置において,
カメラ位置及びカメラの撮影方向を求めた上で,上記カメラ位置から
撮影方向に向かって延ばした直線上に25m間隔で点を順次取り,そ
の緯度・経度・標高のデータ列を算出し,その緯度・経度情報に基づ
いて「数値地図50mメッシュ(標高)」データ(以下「メッシュデ
ータ」という。)に順次アクセスして,当該緯度・経度に最も近いメ
ッシュ中心点の標高データを取得し,視線上の点と順次比較するとい
うプロセスでデータへのアクセスが行われており,メッシュデータが
記録された記録媒体からの出力が,視線上で点を順次取る以前の段階
(カメラ位置及びカメラの撮影方向を求める段階)でなされるわけで
はないと主張することによるものであり,構成l記載の演算処理にお
いて,記録媒体に記録されたメッシュデータが用いられること自体を
争うものではない。他方,原告も,イ号装置におけるデータ処理が被
告の主張する順序によって行われることにつき争うものではないと解
される。
c構成l後段に関し,出力対象を「目標物の位置」(原告)と呼ぶか
「中心点の座標」(被告)と呼ぶかにつき,当事者間に争いがあるが,
イ号装置が,構成l中段で算出された点(カメラ位置から撮影方向に
向かって延ばした直線上に25m間隔で取られた点であって,その標
高値が,緯度・経度において最も近いメッシュ中心点の標高値よりも
初めて低い値となった点)の緯度・経度・標高を出力するものである
ことについては,当事者間に争いがない。なお,被告の主張は,イ号
装置のパンフレットにおいて,地図上に表示される二重丸印を「中心
点」と表記していること(甲9)に基づくものであると認められる。
d以上によれば,構成lに係るイ号装置の客観的構成につき当事者間
に実質的な争いはないものと認められるのであって,双方の主張は,
「…地表面記録手段からの出力に応答し」(構成要件L前段)及び
「目標物の位置」(構成要件L後段)の充足の成否の問題に帰着する
ものと解される。
(エ)構成m
構成mに関し,表示対象が「前記目標物の位置」(原告)であるか
「前記中心点の位置」(被告)であるかにつき当事者間に争いがあるが,
上記表示対象が同一の点の位置を指すものであり,上記主張の相違が
「目標物の位置」(構成要件M)の充足の成否の問題に帰着するもので
あることは前記(ウ)でみたとおりである。
エ(ア)aイ号装置におけるヘリコプターは「空中を移動可能な機体」(構
成要件G)に,GPS装置は「機体の位置を特定する機体位置特定手
段」(構成要件H)に,カメラ防振装置を含むカメラ装置は「機体に
搭載され,地表面上の目標物を撮影する撮影手段」(構成要件I)に
各相当する。
bイ号装置は,機体姿勢計測設備からの機体姿勢情報(ロール・ピッ
チ・方位角)及びカメラ防振装置からのカメラ情報(パン・チルト
角)に基づき,カメラの撮影方向を求めるものであるから,イ号装置
の機体姿勢計測設備及びカメラ防振装置は,「機体に対して,撮影手
段の向いている方向を検出する方向検出手段」(構成要件J)に相当
する。
cイ号装置は位置特定装置(構成要件N)である。
(イ)以上によれば,イ号装置は,構成要件G,H,I,J及びNを充足
する(当事者間に争いがない。)。
(6)被告の行為
ア被告は,イ号製品を業として製造し,近畿管区警察局大阪府情報通信部,
同兵庫県情報通信部及び中国管区警察局島根情報通信部から工事を受注し
た際に,その工事材料の一部としてイ号製品を納入した。また,被告は,
東京都警察情報通信部,関東管区警察局茨城県情報通信部,同新潟県情報
通信部,九州管区警察局鹿児島県情報通信部及び同沖縄県情報通信部から
工事を受注した第三者に対し,イ号製品を販売した。
イ被告は,平成22年7月21日,本件特許権者であった川崎重工業株式
会社との間で,被告の製造する撮影位置表示装置と本件特許の各請求項記
載の発明との関係について協議を行った(甲5)。
2争点
(1)イ号装置は本件発明の技術的範囲に属するか。
ア構成要件Kの充足性
イ構成要件Lの充足性
ウ構成要件Mの充足性
(2)本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか。
ア乙4号証に基づく進歩性欠如の成否
イ乙5号証に基づく進歩性欠如の成否
ウ乙6号証に基づく進歩性欠如の成否
エ乙24号証に基づく進歩性欠如の成否
オ記載要件違反の有無
(3)間接侵害の成否
ア特許法101条1号所定の間接侵害の成否
イ特許法101条2号所定の間接侵害の成否
第3争点に対する当事者の主張
1争点(1)ア(構成要件Kの充足性)
(原告の主張)
(1)イ号装置はメッシュデータを記録した記録媒体を有する(構成k)とこ
ろ,メッシュデータは,国土地理院発行の2万5000分の1地形図を経度
方向及び緯度方向にそれぞれ200等分して得られる各方眼(以下「メッシ
ュ」という。)の中心(以下「メッシュ中心点」という。)の標高が記録さ
れたデータであり,上記標高データは,上記2万5000分の1地形図に描
かれている等高線を計測してベクトルデータを作成し,そこから計算によっ
て求められたものである。したがって,メッシュデータが「等高線」の情報,
すなわち「地表面の起伏についての高度情報」を含むことは明らかである。
(2)被告は,「地表面の起伏についての高度情報を含む三次元的な地勢デー
タ」(構成要件K)とは,「面」の情報を有するデータである必要があるか
ら,メッシュデータは上記要件を充足しないと主張する。しかし,「地表面
の起伏についての高度情報を含む三次元的な地勢データ」とは,構成要件L
記載の演算処理に用いるために必要な範囲・性質の情報で足り,必ずしも当
該データ自体に二次元的広がりをもった「面」の情報が含まれている必要は
ない。そして,構成要件Lにおいて主張するとおり,メッシュデータにおい
て,メッシュ中心点の標高を当該メッシュの代表高度として用いることによ
り,構成要件L記載の演算処理を行うことが可能であるから,メッシュデー
タは構成要件L記載の演算処理のために必要な情報を含むデータであるとい
うことができる。
(3)したがって,メッシュデータは「地表面の起伏についての高度情報を含
む三次元的な地勢データ」に相当し,イ号装置は構成要件Kを充足する。
(被告の主張)
(1)原告の主張は争う。
(2)「地表面」とは二次元的な広がりをもった「面」を意味する上,本件発
明は,「直線と地表面との交点を算出」するものであるから(構成要件L),
上記「交点」の存在を保証するため,「地表面の起伏についての高度情報を
含む三次元的な地勢データ」(構成要件K)は,「面」の情報を有するデー
タである必要がある。しかるに,メッシュデータはメッシュ中心点の緯度,
経度及び標高の情報を有するデータにすぎないから,「地表面の起伏につい
ての高度情報を含む三次元的な地勢データ」に当たらず,イ号装置は構成要
件Kを充足しない。
2争点(1)イ(構成要件Lの充足性)
(原告の主張)
(1)「機体位置特定手段,撮影手段,方向検出手段および地表面記録手段か
らの出力に応答し」(構成要件L前段)
ア「機体位置特定手段…からの出力に応答し」とは,演算処理手段が,機
体位置特定手段,撮影手段,方向検出手段,地表面記録手段の各手段から
出力された情報を取得して「応答し」,被撮影位置の算出を行うという関
係を示すものである。
イイ号装置における「カメラ位置から撮影方向に向かって延ばした直線上
に25m間隔で点を順次取り,…緯度・経度を算出」(構成l中段)する
処理は,「前記GPS装置,前記カメラ,前記カメラの撮影方向を求める
手段及び前記記録媒体」(構成l前段)から各種データを取得して行われ
るものであるから,上記算出処理は上記各装置からの出力に「応答し」行
われているものということができる。
ウしたがって,イ号装置は構成要件L前段を充足する。
(2)「機体の位置から撮影手段の向いている方向に延ばした直線と地表面と
の交点を算出し」(構成要件L中段)
ア「機体の位置から撮影手段の向いている方向に延ばした直線」
(ア)イ号装置において,カメラ位置から撮影方向に向かって延ばした直
線上に25m間隔で点を順次取り,その緯度・経度・標高のデータ列を
算出することは,「機体の位置から撮影手段の向いている方向に延ばし
た直線」を算出することに相当する。
(イ)被告は,イ号装置は離散的な点のデータを用いて,メッシュデータ
との比較処理を行うのみであり,「直線」を算出する処理を行わない旨
主張する。
しかし,イ号装置は,上記のとおり,カメラ位置から撮影方向に延ば
した直線上に25m間隔で点を取るものであり,このような点のデータ
により,撮影方向に延ばした直線を特定することが可能である。また,
本件発明のように,コンピュータ装置による膨大な量のデータの迅速処
理を予定する場合,当該処理の目的を達するのに必要な限度でデータを
使用するのが通常であるところ,点の間隔をどの程度とするかは,位置
特定の精度や装置の処理能力の観点から定められた設計事項にすぎない。
したがって,この点に関する被告の主張は失当である。
イ「…直線と地表面との交点を算出し」
(ア)「地表面」の意義
構成要件Lの「地表面」とは,目標物の存在しない二次元平面(ジオ
イド面)との対比において,三次元的な起伏のある(すなわち高度情報
を有する)地表面とを区別するために用いられた表現であるから,地表
の三次元データ(緯度,経度及び高度)が一定の粗さで含まれて特定さ
れていれば足りる。
なお,「地表面」のごとき自由曲面は,使用する目的に応じた間隔,
頻度を有する有限個の点の集合や,微細な点の集合(ラスタデータ)等
として擬似的に把握せざるを得ないのであって,自由曲面は,粗さに応
じた一定個数の点によって特定可能であるから,離散的な点のデータで
あっても,「地表面」を特定するためのデータたり得る。
(イ)イ号装置における検討
aイ号装置は,メッシュデータを「地表面」のデータとして用いるも
のであるところ,メッシュデータが地表面の起伏についての高度情報
を含む三次元的な地勢データであることは,構成要件Kに関し主張し
たとおりである。そして,メッシュデータにより,地表面の格子状に
区切られた区画を外縁とする,メッシュ中心点を含む水平面(以下
「メッシュ面」という。)を上面とし,隣接するメッシュ面の始点と
終点の緯度経度を同じくする一辺同士が垂直な面で接続された,直方
体を並べたような形を外延とする面(以下「イ号地表面」という。)
を想定することが可能であり,この意味で,イ号装置は,メッシュデ
ータをいわば「補間」して,イ号地表面を特定しているものというこ
とができる。これは,イ号装置が実際に補間を行ってイ号地表面を構
成し,処理に用いているという趣旨ではなく,補間を行うまでもなく,
メッシュ中心点の高度から地形の推定を行うことが可能であり,これ
によりイ号地表面が特定されているという趣旨である。
上記イ号地表面は,地表面の三次元データ(緯度,経度,標高)を
一定の粗さで含むものであるから,「地表面」(構成要件L)に相当
する。
bメッシュデータに関する原告の上記解釈は,当業者の理解とも整合
するものである。
すなわち,本件特許出願前の公知文献である特開平6-24393
号公開特許公報(甲13。以下「甲13文献」という。)の【000
7】,【0023】及び【図7】には,各メッシュがその内部におけ
る最大高度を表す少なくとも1つのデータに関連付けられていること
等が記載されているところ,これらの記載は,各メッシュにおいて,
代表点としてある1つの高度を有する点を用いることが本件特許出願
当時の技術常識であったことを示すものである。また,同文献の【0
007】には,上記メッシュデータを用いて,「地表高度の包絡面」
が定義される旨が記載されているのであって,【0035】,【00
44】及び【図21】の記載も併せて読めば,メッシュデータを用い
て,メッシュ幅の中で陸上面を単一高度で表すこと及び上記高度はメ
ッシュ内の一つの代表点の高度に由来するものであることが示されて
いるものということができ,原告の主張する「メッシュ面」と同様の
概念が本件特許出願当時から認識されていたということができる。
さらに,特開平4-315084号公開特許公報(甲14。以下
「甲14文献」という。)の【0025】には,メッシュ単位で最も
標高の高い点を,そのメッシュの代表点として地形を推定することに
より,補間法による地形の生成法に比して演算規模を小さくすること
ができる旨が記載され,その説明図として【図8】が示されていると
ころ,これは,甲13文献と同様に,メッシュ単位で代表点の高度を
メッシュの高度として地形を推定する方法を示すものであり,このよ
うな方法が,補間方法とは異なる方法として当業者に認識されていた
ことを示すものである。
なお,本件発明は,甲13,14文献記載の発明に係る技術分野と
課題を同じくするものである上,甲14文献に係る発明と本件発明の
出願人は同一であるから,本件発明の出願人において,補間によらず
地形の推定を行う技術を認識していたことが明らかであり,本件発明
は,上記技術を含むものとしてなされたものであると解するのが相当
である。
(ウ)「地表面」に関する被告の主張に対する反論
a被告は,「地表面」(構成要件L)とは,補間の結果構成された
地表面を意味するものと解すべきであると主張する。
しかし,構成要件Lには,「…地表面記録手段からの出力に応答
し」との抽象的な記載があるのみであり,上記記載から,「補間」
を行うことが必須であると理解することはできない。また,本件発
明における「地表面」データの取得は,三次元的な地形画像の出力
を目的としたものではないから,当業者において,「地表面」は点
の集合の地勢データから想定される面も含むと解釈する方が自然で
ある。
b被告は,実際の地表面がイ号地表面のような形状ではないことや,
本件明細書の【図1】に示された地表面4の断面が曲線状であること
を挙げて,イ号地表面は「地表面」(構成要件L)に相当しないとも
主張する。しかし,イ号地表面は,現実の地表面を近似的に表現した
ものということができるところ,本件発明の実施に必ずしも現実の地
表面のようななめらかな地表面のデータが必要となるものではなく,
本件発明における「地表面」のなめらかさは,必要とされる精度等に
応じた設計事項にすぎない。また,本件明細書の【図1】は,本件発
明の一実施例の基本的構成を示す簡略図であり,「地表面」を限定解
釈すべき根拠となるものではない。
c被告は,本件発明は,ジオイド面を地表面として用いる場合に比べ
て精度良く目標物の位置を特定することができるとするものであるか
ら,本件発明における「地表面」の高度の誤差は,目標物の存在する
地表面の高度より小さいものであることを要し,具体的には,本件明
細書の【図4】に示されている場所の標高である30m以内であるべ
きところ,イ号地表面は,現実の地表面との誤差が上記程度を超える
ことがあり得るものであるから,上記方法は本件発明に含まれない旨
も主張する。
しかし,イ号装置は50mメッシュを用いるものであるところ,こ
のようなメッシュ内に数十メートルもの標高差があるような極端な場
合を想定して充足の有無を検討するのは相当ではなく,また,偶々明
細書に表れた地形をもって誤差の上限値とすることも相当ではない。
イ号装置は,販売先の要求する誤差範囲に関する仕様を満たす撮影位
置表示装置として販売・納入されているものであり,本件発明に係る
作用効果を十分に奏するものである。
dしたがって,被告の主張はいずれも相当ではない。
(エ)「…直線と地表面との交点を算出し」
aイ号装置において,視線上に25m間隔で取った点の各標高を,メ
ッシュデータ中の,緯度・経度において最も近いメッシュ中心点の標
高値と順次比べること(構成l中段)は,視線上の点が,当該点の緯
度・経度を含むメッシュ面(イ号地表面の上面)より上にあるか下に
あるかを判断することと技術的に同義である。イ号装置は,上記比較
処理を行い,初めてメッシュ中心点の標高値よりも低い標高となる点
とその直前の点との間にイ号地表面と直線との交点があることを判別
した上で,初めて低い標高となる点の位置を,イ号地表面と直線との
交点に近似する点として特定するものであるということができる。
bこのように,所定のステップで値を算出し,所定の条件を満たした
ところを解とする近似手法を用いることは,コンピュータ処理を行う
場合にごく一般的に行われていることであり,これをどの程度近似さ
せるか,すなわち視線上の点の間隔をどの程度狭いものとするかは,
データ自体の精度や,システムが必要とする精度との関係で適宜選択
される設計事項にすぎない。そして,イ号装置における視線上の点は,
理論上の視線と地表面との交点と,実際に求められた視線上の点を同
視できる程度にその間隔を設定されたものであると解される。
cしたがって,イ号装置において,上記処理によって特定された点
(カメラ位置から撮影方向に向かって延ばした直線上の点のうち,初
めてメッシュ中心点の標高値よりも低い標高となった点)は,「…直
線と地表面との交点」に相当する。
(オ)被告は,このような処理を「…直線と地表面との交点を算出」する
処理とみることは技術常識に反する旨主張するが,点と点との比較によ
って想定面と直線との交差の発生を判断し,それに近似する点を「交
点」として特定する技術は,次のとおり,本件特許出願当時から存在し
ていた。
すなわち,米国特許第4954837号公報(乙5。以下「乙5文
献」という。)には,地形標高データベースを用いて「交点の粗い位
置」を求める第1ステップと,更に補間を用いて「高分解能な点」を求
める第2ステップが記載されているところ,第1のステップは,「hi
(データベースの標高)>htest(テスト標高:視線上の点)」のと
き(視線ベクトル上の点が地形標高データベースの標高を初めて下回っ
たとき)に「視線ベクトルと地形との交差が起きる」データ点iが特定
され,このときの視線ベクトル上の点htesti*を第1ステップの「交
点の粗い位置」として求め,上記点までの推定距離を求めるものである。
上記処理は,視線ベクトル上の点の高度と地形標高データベースの標高
とを比較することにより,交差の発生を判断し,交差直後のテスト点を
「交点」として求めるものであって,これに加えて,第2ステップを行
うかどうかは適宜選択すべき構成とされている。
以上によれば,乙5文献には,点と点との比較を行って,想定される
面と直線との交差の発生を判断することにより,それに近似した点を
「交点」とする技術が記載されているものということができ,これによ
れば,上記技術が本件特許出願当時から存在していたことが明らかであ
る。
したがって,原告の主張する解釈は,当業者の技術常識に反するもの
ではない。
ウ以上によれば,イ号装置の構成l中段は,構成要件L中段を充足する。
(3)「目標物の位置として特定する演算処理手段」(構成要件L後段)
ア「目標物」とは,撮影手段が撮影する被撮影物と同義であり,撮影者に
よって任意に決定されるものであって,撮影手段の向いている方向に応じ
て逐次変化するものである。
イイ号装置は,構成l中段において算出された点(視線上の点であって,
その標高を,緯度・経度において最も近いメッシュ中心点の標高値と順次
比べて,初めてメッシュ中心点の標高値よりも低い標高となった点)の緯
度,経度及び標高を算出し,これを「中心点」と呼び,被撮影物の位置と
して特定するものであるから,「目標物の位置として特定する演算手段」
を充足する。
(4)以上によれば,イ号装置の構成lは構成要件Lを充足する。
(被告の主張)
(1)原告の主張は争う。
(2)「機体位置特定手段,撮影手段,方向検出手段および地表面記録手段か
らの出力に応答し」(構成要件L前段)
イ号装置における実際の動作は構成l前段に関する被告の主張のとおりで
あり,メッシュデータが記録された記録媒体からの出力は,視線上の点を取
る動作より前になされるわけではない。
(3)「機体の位置から撮影手段の向いている方向に延ばした直線と地表面と
の交点を算出し」(構成要件L中段)
ア「機体の位置から撮影手段の向いている方向に延ばした直線」
「機体の位置から撮影手段の向いている方向に延ばした直線」は,「地
表面との交点を算出」するためのものであるから,途切れのない連続した
線である必要があるところ,イ号装置は,撮影の線上に25m間隔で点を
取っているのみであるから,「機体の位置から撮影手段の向いている方向
に延ばした直線」を算出するものに当たらない。
イ「…直線と地表面との交点を算出し」
(ア)「地表面」の意義
a本件発明における「地表面」は,直線との交点を求めるためのもの
であるから,二次元的な広がりを有する「面」である必要がある。
このため,「地表面の起伏についての高度情報を含む三次元的な地
勢データ」(構成要件K)自体が「面」としての情報を含むものであ
る必要があることは,構成要件Kに関し主張したとおりである。
しかし,仮に,点としての情報しか含まないデータも「地表面の…
地勢データ」(構成要件K)に相当するとした場合には,「…直線と
地表面との交点を算出」(構成要件L)するに当たり用いられる「地
表面」とは,上記データを補間して構成された面を意味するものと解
すべきである。
bすなわち,本件明細書には,「地表面の…地勢データ」(構成要件
K)から「地表面」(構成要件L)を求める方法について特段の記述
がないから,「地表面の…地勢データ」が点としての情報しか含まな
い場合には,当業者の技術常識に従った方法により,「地表面」を構
成するものと解するのが相当である。そして,一般に,点としての情
報から地表面を求める手法としては,曲面補間と平面補間が知られて
いるから(乙1ないし3),「地表面」とは,上記曲面補間又は平面
補間によって構成された面を意味するものと解するべきことになる。
このように理解することは,本件特許の請求項1において,「地表
面を求め」との記載があることとも整合するものである。
(イ)イ号装置における検討
aイ号装置は,メッシュデータを用いるものであり,これは,点とし
ての情報しか有しないものであるところ,イ号装置はメッシュデータ
を補間する処理を行っていないから,イ号装置において「地表面」に
相当する面は存在しない。
b原告は,イ号地表面が「地表面」(構成要件L)に相当すると主張
するが,イ号装置がイ号地表面を構成する処理を行っていないことを
看過するものであり,失当である。
cまた,この点を措くとしても,「地表面」が現実のなめらかな地表
面をいうことは,本件明細書の【図1】の断面が曲面であることなど
から明らかであり,イ号地表面のような不自然かつ現実の地形と無関
係な面が「地表面」に相当することはあり得ない。
(ウ)原告の主張に対する反論
a原告は,甲13号証及び14号証を挙げて,メッシュデータからイ
号地表面のような面を想定することは本件特許出願当時の技術常識で
あった旨主張するが,次のとおり失当である。
まず,甲13号証は,航空機が地表面と衝突することを回避するた
めの技術に関するものである。この場合,地表面の形状を問題にする
必要はなく,メッシュ中で最も標高の高い地点の標高値と,航空機の
予想進路との関係を問題にすればよい。このように,甲13号証記載
の発明が,地上にあるデータベース内のファイル(甲13の【002
3】の「地上の地勢ファイル」)から,各メッシュ内の最大高度情報
のみをピックアップして航空機内で記憶することに特徴があるもので
あることからすれば,当該発明においてメッシュ内の最大高度のみを
用いることにも一定の合理性があるといえる。しかし,本件発明は,
地表面と視線との関係を問題とするものであるから,メッシュ内での
地表面の形状こそが重要であり,甲13号証のように,単にメッシュ
内での最大高度を得ることには意味がない。
また,甲14号証のうち,原告の援用する【0025】の記載は,
甲13号証と同様に航空機の対地衝突の危険認識に関するものであり,
本件発明に援用できるものではない。上記【0025】のように,最
も標高の高い点をメッシュ代表点として地形を推定した場合,常に実
際の地表面よりも高い位置に地表面が存在すると捉えることになると
ころ,航空機の対地衝突回避との関係では,このような誤差は衝突を
避ける方向に働くため許容されるが,本件発明のように,正確に目標
物の位置を推定する技術においては,このような誤差は許容されず,
正確性を期するために補間法を用いるのが当然である。
b仮に,甲14号証に記載されているように,メッシュ内の最高高度
をもって当該メッシュ内の目標物の高度であるとすると,メッシュ内
の地形の状態によっては,数十メートル程度の誤差が生じてしまうこ
とになるところ,本件明細書の記載によれば,上記のような誤差が生
じることは許容されない。
すなわち,本件明細書【0015】及び【図1】によれば,本件発
明は,高度Hを有する地表面上にある目標物の位置を,【図1】の
「E」の分だけ正確に特定できることをその作用効果とするものであ
るから,本件発明において許容され得る「地表面」の高度の誤差は,
目標物の存在する地表面の高度Hより小さいものでなければならない。
そして,本件明細書の【図4】には,目標物の位置として東京都庁付
近が示されており,東京都庁の標高は34.53メートルなのである
から,当該実施例において許容される「地表面」の誤差は,最大でも
30メートル以下であるというべきである。
しかるに,上記のとおり,甲14号証記載の方法によった場合には,
数十メートル程度の誤差が生じ得るのであるから,本件発明において,
甲14号証記載の方法は適用し得ないというべきである。
(エ)「…直線と地表面との交点を算出し」の意義
「…直線と地表面との交点を算出し」とは,直線と,上記(ア)のとお
り補間によって構成された面との交点を算出することを意味する。
(オ)イ号装置における検討
aイ号装置は,構成l中段のとおり,視線上の点とメッシュ中心点と
の標高値の比較を行うものであり,補間によって構成された面との交
点を算出するものではない。また,イ号装置において算出された点は,
補間面と視線との交点とは異なるものである。
b仮に,原告の主張するイ号地表面が「地表面」に相当するとしても,
イ号装置において算出される点はイ号地表面と視線との交点とは異な
るものである。
c原告は,乙5号証を援用する主張をするが,乙5号証に開示された
技術と本件発明の関係を誤解するものであって妥当ではない。
本件発明において,地表面と視線との交点を求めるためには,目標
物があると考えられる付近の地表面を求める必要があり,これが,本
件特許の請求項1記載の「目標物の存在する地表面を求め」の構成で
あるところ,乙5号証において「交点の粗い位置」を求めるのは,ま
さに,まず目標物の大まかな位置を求めた上で,その前後の地勢デー
タから地表面を求めるという,本件発明の上記構成と同一の構成を有
しているからである。
以上のとおり,原告の指摘する構成は,得られた地表面と視線との
交点を求める構成とは区別されるべきものであり,「交点」を算出す
る構成に関し,上記構成を取り上げて議論するのは相当ではない。
(4)「目標物の位置として特定する演算処理手段」(構成要件L後段)
ア本件発明は,地表面上の「目標物」を撮影し,当該「目標物」について,
「機体の位置から撮影手段の向いている方向に延ばした直線と地表面との
交点を算出し,目標物の位置として特定する演算処理手段」によってその
「位置」を特定し,そのようにして特定された「目標物の位置」を地図上
に表示するものである。
以上の請求項の文言から明らかなとおり,本件発明における「目標物」
とは,地表面上に存在する物である。原告が主張するように,その位置が
「逐次変化する」ものではない。これは,本件明細書において,「目標
物」が災害発生地点であるとされていること(【0001】,【000
2】,【0004】~【0006】,【0015】~【0018】,【図
4】)からも明らかである。
イイ号装置における「中心点」は,カメラの撮影方向を示すものにすぎず,
イ号装置において,「中心点」から,地表面上の特定の位置に存在するも
のの位置を特定する処理は行われていない。
ウしたがって,イ号装置は「目標物の位置として特定する演算手段」(構
成要件L後段)を充足しない。
3争点(1)ウ(構成要件Mの充足性)
(原告の主張)
(1)「目標物の位置…を,…表示」
イ号装置における中心点の位置が「目標物の位置」に相当することは構成
要件L後段に関する原告の主張のとおりであるところ,イ号装置は,上記中
心点の位置を地名等の記載された二次元地図上に表示するものであるから,
「目標物の位置…を…表示」を充足する。
(2)「目標物を撮影する視野とを,…表示」
ア本件発明の位置特定装置は,上空の遠距離から,GPS装置による位置
情報等を用いた演算処理により位置を求めるものであり,ある程度の誤差
を許容するものであるから,このような装置における「目標物を撮影する
視野」の表示は,撮影された映像(「カメラの映像範囲」)と厳密に一致
するまでの必要はなく,「目標物を撮影する視野」を考慮して空撮映像を
見ることによって災害発生地点をより正確に特定可能となる程度に,カメ
ラの映像範囲と相関関係を有するものであれば足りる。
イ被告の主張に対する反論
被告は,本件明細書の【図4】に照らせば,「目標物を撮影する視野」
は目標物の周りに表示するための予め定められた図形を意味すると解すべ
きであると主張する。
確かに,本件明細書の【図4】に示されている「カメラの視野」は円形
であり,「カメラの撮影範囲」と厳密に一致するものではない。しかし,
本件発明に係る位置特定装置がある程度の誤差を許容するものである以上,
「目標物を撮影する視野」の表示が,撮影された映像(「カメラの映像範
囲」)と厳密に一致するまでの必要はないのであって,カメラの視野の表
示方法は単なる設計事項にすぎない。したがって,被告の主張は失当であ
る。
ウイ号装置は「撮影されている範囲」を地図上に表示するものであるとこ
ろ,上記範囲の表示は,上記程度にカメラの映像範囲と相関関係を有する
ものである。したがって,イ号装置は「目標物を撮影する視野とを…表
示」を充足する。
(3)よって,イ号装置は構成要件Mを充足する。
(被告の主張)
(1)原告の主張は争う。
(2)「目標物の位置…を,…表示」
ア本件発明における「目標物の位置」が,地表面上に存在する物であって,
その位置が「逐次変化する」ものではないことは,構成要件Lにおいて主
張したとおりである。
イイ号装置においてディスプレイ上に表示されるのは「中心点」であり,
これは,カメラの撮影方向に応じて時々刻々と変化するものであるから,
イ号装置は「目標物の位置」を表示するものに当たらない。
(3)「目標物を撮影する視野とを,…表示」
ア本件明細書における「目標物を撮影する視野」に関する記載部分は【0
018】及び【図4】のみであるところ,【図4】において,「カメラの
視野21」は,災害発生地点20の周りに同心円状に表示されている。他
方,本件明細書の【図2】及び【図3】からは,カメラの映像範囲が矩形
であることが明らかであり,上記映像範囲を地図上に投影したものが円形
となることはあり得ない。したがって,「カメラの視野」が「カメラの映
像範囲」を指すものと解することはできない。
また,本件明細書には,カメラの映像範囲からどのようにして円形の
「視野」の情報を得て地図上に表示するのかが全く記載されていないから,
カメラの映像範囲とカメラの視野に関係があるものと解するのも相当では
ない。
以上によれば,「目標物を撮影する視野」とは,カメラの映像範囲では
なく,目標物の周りに表示するために予め定められた図形(実施例におい
ては同心円)を意味すると解すべきである。
イイ号装置は「撮影されている範囲」を地図上に表示するのみで,上記図
形の表示は行っていないから,イ号装置は構成要件Mを充足しない。
4争点(2)ア(乙4号証に基づく進歩性欠如の成否)
(被告の主張)
(1)乙4発明の内容
本件特許出願前の公知文献である英国特許第2228642号公開公報
(以下「乙4文献」といい,乙4文献記載の発明を「乙4発明」という。)
には,次の方法を行う画像処理装置が開示されている。
a航空機に搭載したテレビカメラによって眺望内の地域の一部を撮影し,
目標物の位置を決定する方法であって,
b位置センサー及び高度センサーから航空機の現在位置及び高度に関する
情報を受け取り,
c姿勢センサーから航空機の姿勢に関する情報を,カメラ駆動装置から目
標物の観測角度(カメラ照準アライメント)に関する情報を受け取り,
d記憶されている地面の等高線等に関する情報を含む地形マッピング情報
を読み出し,
e視野内の目標物の視線を決定し,視線が記憶されている地形マッピング
とどこで交差するかを決定して,目標物の位置を決定し,
f目標物の位置を位置ディスプレイに表示する
g画像処理装置。
(2)本件発明と乙4発明の対比
ア乙4発明の上記構成aは本件発明の構成要件G及びIに,bは構成要件
Hに,cは構成要件Jに,dは構成要件Kに,eは構成要件L及びNにそ
れぞれ相当するから,上記構成aないしfは,本件発明の構成要件Gない
しL,Nに各相当する構成を含むものである。
イしたがって,乙4発明と本件発明は,構成要件GないしL,Nについて
一致し,次の点で相違する。
(ア)本件発明では,目標物の位置を「地名等のわかる二次元地図」に表
示するのに対し,乙4発明では,目標物の位置を「位置ディスプレイ」
に表示する点。
(イ)本件発明では,目標物の位置に加えて「目標物を撮影する視野」を
地名等のわかる二次元地図上に表示するのに対し,乙4発明には,これ
に相当する構成がない点。
ウ一致点及び相違点に関する原告の主張に対する反論
(ア)原告は,乙4発明において位置ディスプレイに出力されるのは既知
の目標物の位置であり,逐次・動的に変化する目標物の位置ではないか
ら,乙4文献に,本件発明における「目標物の位置」に相当する対象を
表示する構成は開示されていないと主張するが,「目標物の位置」に関
する原告の上記解釈が誤りであることは,構成要件Mにおいて主張した
とおりである。
また,この点を措くとしても,乙4文献には,飛行前にロードされた
目標物だけでなく,飛行中に新たに特定された目標物も,地形地図70
上にスーパーインポーズされる「他の目標物」に含まれることが記載さ
れている。また,乙13号証には,目標物の位置,目標物の方位角等を
基に目標物までの距離等を計算することが記載されており,乙24号証
には,COMEDに関し,目標物の位置を決定して特定する旨が記載さ
れているのであるから,これらを考慮すれば,乙13号証等には,CO
MEDやデジタルマップディスプレイにおいて,既知の地点ではなく,
飛行中に特定された「目標物」が表示される技術が開示されているもの
ということができるところ,これらの技術を考慮すれば,乙4文献にお
いて位置ディスプレイに表示される「目標物」も,既知の目標物に限ら
れないと解するべきである。
(イ)原告は,乙4発明において,目標物の位置は数値データとして表示
されるにとどまるから,乙4文献に「目標物の位置を表示する」構成は
開示されていないとも主張するが,マップディスプレイに関する技術常
識に反し,相当ではない。
すなわち,戦闘機におけるマップディスプレイは,1970年代にお
けるムービングマップディスプレイ(乙14,15)やCOMED(総
合地図電子ディスプレイ。乙16)のような,フィルムに印刷された地
図を光学系でディスプレイに投影する方式から,1980年代以降,デ
ジタル地図等を表示できるデジタルマップディスプレイ(フェランティ
社のデジタルマップディスプレイはその一例である。乙17)へと発展
してきたものであるが(乙13,18),上記マップディスプレイは,
パイロットにとって極めて重要な情報を提供するものであるため,コッ
クピットにおいて常に見やすい位置に配置されてきた(乙18の207
頁,乙19ないし21の写真又は図参照)。したがって,コックピット
内において,戦術目標等の位置を表示するために,二次元地図をパイロ
ットにとって見やすい位置のディスプレイに表示することは,COME
Dが登場した1970年代から常識的な技術となっていたというべきで
ある。なお,これは戦闘機におけるマップディスプレイを例に取った説
明であるが,乙22及び23に,民間機においてフェランティ社のムー
ビングマップディスプレイが導入され,又はその導入が働きかけられて
いたことが示されているから,民間機にも同様に当てはまるものである。
そうすると,乙4発明の出願時である1989年には,当業者におい
て,既にデジタルマップディスプレイすら常識化していたわけであるか
ら,乙4発明が,目標物の位置をディスプレイ表示するに当たり,パイ
ロットにとって位置の認識が極めて困難である数値データのみを表示す
るものであるなどとは到底考えられない。
加えて,乙4文献には,より一時的でもよい他の目標物の位置に関す
る情報がその上にスーパーインポーズされる,地面の等高線及び地上の
恒久的特徴に関する情報を含む地形地図70が記憶装置に記憶される旨
の記載があるから(乙4・抄訳5頁9行目~17行目),乙4文献には,
目標物の位置情報をデジタルマップにスーパーインポーズして表示でき
ることが記載されているものであるところ,これはデジタルマップディ
スプレイの持つ機能そのものである。
以上を考慮すれば,乙4文献における,「目標物の位置をユーザーに
指示するため,位置ディスプレイ78に出力を提供する。」との記載
(乙4・抄訳6頁下から10行目~8行目)は,デジタルマップを表示
しているディスプレイ上に目標物の位置をスーパーインポーズして表示
することを意味すると解するのが当業者の当然の認識であり,原告の主
張するような数値データのみの表示ではあり得ない。
これは,乙13号証に,目標物が地図上にスーパーインポーズされる
ことが記載されていることや,1980年代後半には,市販のカーナビ
ゲーション用途においてすら,デジタルマップにおけるスーパーインポ
ーズ機能が当然の技術とされるに至っていたこと(乙30ないし33号
証)からも明らかである。
(3)乙9発明との組み合わせによる進歩性欠如について
ア(ア)本件特許出願前の公知文献である乙9号証(以下「乙9文献」とい
う。)には,ヘリコプター搭載カメラから可視又は赤外線によって地上
を撮影し,映像と地図情報をオーバーレイするシステムであって,ヘリ
コプターの位置,高度及びカメラ情報に基づいて,カメラの映像範囲を
リアルタイムで地図上にトラッキングするシステムが開示されている。
(イ)上記「カメラの映像範囲」は,本件発明における「目標物を撮影す
る視野」(構成要件M)に相当し,「カメラの映像範囲をリアルタイム
で地図上にトラッキングする」ことは,「目標物を撮影する視野を二次
元地図上に表示」することに相当する。なお,乙9文献には,カメラの
映像範囲を地図上に表示する具体的手段は開示されていないが,上記表
示方法は当業者に周知である(乙11,12)。
また,乙9文献の別の箇所において「地名等のわかる二次元地図」が
示されていること(乙9文献797頁写真1及び2参照),乙9文献が
前提とする「三菱防災情報システム」(乙10号証参照)において,地
名等のわかる二次元地図が用いられていること,乙9文献記載の技術が
「映像から被害検知ができても位置が特定できない」(乙9・798頁
左欄7~8行目)という課題に対応するものであり,位置の特定のため
に地名等のわかる二次元地図上に航跡やカメラの映像範囲を表示するこ
とは当然であることに照らせば,乙9文献において「カメラの映像範
囲」を表示する地図は「地名等のわかる二次元地図」であると認められ
る。
なお,仮に,乙9文献に「地名等のわかる二次元地図」を用いること
が開示されていないとしても,一般に,地上の位置を特定する際,その
位置を把握しやすくするために「地名等のわかる二次元地図」に位置を
表示することは周知技術であり,乙9発明にこれを適用することは当業
者にとって容易である。
(ウ)原告は,乙9発明が「ヘリコプターの位置,高度及びカメラ情報に
基づいて,カメラの映像範囲をリアルタイムで地図上にトラッキングす
るシステム」であることを否認する。
aしかし,「ヘリテレの映像範囲」は,「ヘリコプター搭載カメラが
撮影している映像の範囲」と明確に理解することが可能であり,これ
は「カメラの撮影範囲」を意味する。また,上記映像範囲をリアルタ
イムで地図上にトラッキングする以上,「ヘリコプターの位置,高度
及びカメラ情報」を利用する必要があることは自明である。
bさらに,原告は,「リアルタイムで地図上にトラッキング」とは,
映像と地図情報をオーバーレイする構成を意味すると主張するが,
「ヘリテレの映像範囲をリアルタイムで地図上にトラッキングするこ
と」と「ヘリテレ映像を監視すること」を混同するものであり,失当
である。
(エ)以上によれば,乙9文献には,乙4発明と本件発明の相違点に係る
構成がすべて開示されている。
イ(ア)乙4発明と乙9発明は,いずれも航空機から地上を撮影し,航空機
の位置・高度・カメラ情報等に基づいて撮影位置を特定するという共通
の技術に関するものであるから,当業者において,乙4発明に乙9発明
(及び必要であれば周知技術)を組み合わせることは容易である。
(イ)原告は,乙4発明と乙9発明の技術分野及び解決課題が異なると主
張するが,乙4発明は軍事用に限られない技術である上,航空機等の分
野においては,民生用と軍事用で技術分野が分かれるものではないから,
両発明は同一の技術分野に属すると認定すべきである。
また,乙9発明は「映像から被害検知ができても位置が特定できな
い」(乙9の798頁左欄7~8行目)という課題を解決するため,ヘ
リコプターの航跡とカメラの映像範囲をリアルタイムで地図上にトラッ
キングするという構成を採り,撮影している位置を地図上で把握できる
ようにしたものであり,上記目的は乙4発明の目的と同一である。
さらに,乙4発明は,目標物の位置をユーザーに指示するため,位置
ディスプレイに出力を提供するものであるところ,目標物の位置情報の
提供は,地図上への表示によるのが最も有効かつ現実的に唯一の方法で
あるから,これを,乙9文献記載の方法と組み合わせることには十分な
動機付けがある。
(ウ)したがって,本件発明は,当業者が乙4発明に乙9発明を組み合わ
せることにより容易に想到できたものであり,進歩性を欠く。
(4)乙29発明との組み合わせによる進歩性欠如の主張
ア(ア)本件特許出願前の公知文献である乙29号証(以下「乙29文献」
という。)には,空対地モードにおいて,航空機に搭載したセンサーに
よって地上の目標物を撮影し,戦術状況ディスプレイ(TSD)の地形
データ地図上に,目標物の位置(図21において,センサーのフットプ
リントを表す台形の中に二重丸印で表示されているもの並びに図22及
び23において,上記台形の中に十字印で表示されているもの)及びセ
ンサーのフットプリント(図21ないし23において,台形で表示され
ているもの)を表示する装置が開示されている。
(イ)上記二重丸印及び十字印は,いずれも「目標物の位置」(構成要件
L,M)に相当する。なお,上記のうち,上記十字印は,センサーの視
線と地表面との交点を表すものであるが,原告によれば,本件発明の
「目標物の位置」とは,撮影手段の向いている方向に延ばした直線と地
表面との交点を意味するから,上記十字印であっても「目標物の位置」
(構成要件L,M)に相当することになる。
また,「フットプリント」とは,一般に,「衛星の送信機又はセンサ
ーの視野の中にある地表面の領域」を意味し(乙25号証),さらに,
ディスプレイ上の表示においては,与えられた下方角に対してスクリー
ン上に表示される地面の領域を意味する(乙26号証)と説明されるも
のであって,センサーによって撮影されている地面の領域をディスプレ
イ上に示した場合のその範囲を指す用語として用いられるものであるか
ら,乙29文献の「センサーのフットプリント」は,本件発明における
「目標物を撮影する視野」(構成要件M)に相当する。
乙29文献のうち,ナビゲーションモードに関する図18,図19に
は,地図上に地名等が表示されており,空対地モードに関する図21に
は,地名のほか,「航行援助」(電波標識等)及び「飛行場」の名称が
表示されている。なお,上記のとおり,図18,19はナビゲーション
モードにおける表示であるが,デジタルマップディスプレイを除くマッ
プディスプレイにおいては,地図はフィルム上に印刷されており,用途
によって地名等表示の有無を切り替えることなどできないのであるから,
空対地モードにおいても,同様に地名等が表示されているものと考える
のが相当である。
(ウ)以上によれば,乙29文献には,乙4発明と本件発明の相違点に係
る構成がすべて開示されている。
イ(ア)乙4発明と乙29発明は,戦闘機等において対地攻撃の際に用いる
ディスプレイに関するものであるという点で共通している上,航空機に
搭載したセンサーによって地上を撮影し,目標物の位置をディスプレイ
に表示する点も共通しているから,当業者において,乙4発明に乙29
発明を組み合わせることについては十分な動機付けがある。
(イ)仮に乙29文献において,地図上に地名等の表示がされることが開
示されていないとしても,戦闘機等のディスプレイにおいて地名等のわ
かる二次元地図を表示することは周知技術であるから(乙13ないし1
8号証),乙4発明に乙29発明を適用するに当たり,目標物の位置及
び目標物を撮影する視野を表示するディスプレイに「地名等のわかる二
次元地図」を用いることは当業者が容易に想到できることである。
(ウ)したがって,本件発明は,当業者が乙4発明に乙29発明を組み合
わせることにより容易に想到することができたものであり,進歩性を欠
く。
(原告の主張)
(1)被告の主張は争う。
(2)乙4発明の内容について
ア乙4文献には,「目標物の位置」を算出し,特定する構成が開示されて
いないこと
(ア)乙4文献の請求項1には,視線が記憶されている地形マッピングと
どこで交差するかを決定する旨の文言がある。
しかし,乙4文献には,同発明の目的として,目標物の距離とサイズ
を求めることのみが記載されており,目標物の位置を求めることは,目
的として挙げられていない。そして,乙4号証には,算出処理の主体で
あるプロセッサ61が,受け取った目標物の観測角度及び航空機の現在
位置と高度により三角法を用いて目標物の距離とサイズを検出し,距離
については距離ディスプレイ76に,サイズについてはサイズディスプ
レイ77にそれぞれ供給されることが記載されているが,目標物の位置
を算出する処理については何ら記載がない。また,プロセッサ61の処
理は,「目標物の観測角度」,「航空機の現在位置」,「高度」のみを
入力情報とするものであり,地勢データを用いて,緯度・高度で表され
るような目標物の絶対位置を算出することについては何ら記載されてい
ない。
そうすると,乙4文献の請求項1の上記文言は,目標物の距離及びサ
イズの算出に関連するものとして記載されているのみであると解すべき
であり,目標物の位置の算出・特定については何ら記載されていないと
みるべきである。
(イ)したがって,乙4文献には,「目標物の位置」を算出し,特定する
構成は開示されていない。
イ乙4文献において位置ディスプレイに表示される「目標物の位置」は,
本件発明における「目標物の位置」に相当するものではないこと
(ア)乙4文献には,位置ディスプレイに「目標物の位置」を表示する旨
の記載がある。
(イ)しかし,乙4文献には,上記「目標物の位置」が,予め記憶装置7
3ないし75に記憶されたものであること(11頁下から11~5行
目)が記載されている。また,乙4文献には,上記「目標物の位置」が,
検出器52の画像認識処理に用いられること(12頁12~20行目)
が記載されているが,目標物の「位置」を算出する処理に関しては何ら
記載がない。
さらに,乙4文献には,撮影した画像と予め格納されているデータと
の比較によって,センサー視野中の目標物が地図上のどの目標物である
かを特定し(12頁12行目~13頁3行目),位置等を算出すること
や,地図に予め記載されている目標物の情報をもとにカメラを向けるこ
と(14頁9~11行目)など,「目標物」の情報が予め記憶されてい
ることを前提とする内容が記載されている。
以上によれば,乙4文献において位置ディスプレイに表示される「目
標物の位置」は,「観測される目標物の位置」であって,予め記憶装置
等に記憶されている目標物のうち,距離及びサイズの検出のためにセン
サー手段によって撮影されているもののことであり,視線等の情報から
算出された目標物の位置ではないと解すべきである。
なお,乙13ないし23号証における「目標物」は,対地攻撃の目
標物やランドマーク等といった予め定められた地点であり,目標とさ
れた後は変更されることのない既知のものであるから,これらを参酌
することにより,乙4文献に,逐次・動的に変化する目標物の位置を
表示する構成が記載されていると解釈することもできない。
(ウ)以上によれば,乙4文献には,本件発明における「目標物の位置」
(撮影手段が撮影する被撮影物と同義であり,撮影者が任意に決定する
ものであって,逐次・動的に変化するもの)に相当する対象を表示する
構成は開示されていない。
ウ乙4文献には,目標物の位置を「表示」する構成が開示されていないこ

(ア)本件発明において,目標物の位置は,地図上にスーパーインポーズ
して動的かつグラフィカルに表示されるものと解されるところ,乙4文
献には,観測される目標物の位置を位置ディスプレイ78に表示する旨
の記載があるが,どのような出力形式で表示がされるのかについての記
載はない。また,加えて,目標物の位置を位置ディスプレイ78に表示
する旨の上記記載は,目標物のサイズをサイズディスプレイ77に,目
標物までの距離を距離ディスプレイ76に表示する旨の記載を伴うもの
であるから,これらのデータは,各ディスプレイに数値データとして示
されるにとどまるものと理解するべきである。
(イ)被告は,乙13ないし23号証を挙げて,乙4文献における位置デ
ィスプレイへの出力は,目標物の位置を地図上にスーパーインポーズす
る構成とみるべきと主張するが,上記乙号証においてスーパーインポー
ズ可能な目標物は既知かつ事前に定められたものであるから,そのよう
な機能はいわば事前に書き込みがされた紙の地図の代替にすぎない。こ
れは,本発明のような動的に逐次変化する「本件目標物」の位置を特定
した上で,これを表示するような思想とは全く異なる。
(ウ)したがって,乙4文献には,目標物の位置を「表示」する構成は開
示されていない。
(3)本件発明と乙4発明の対比
以上によれば,本件発明と乙4発明は,被告の指摘する点に加え,次の点
で相違する。
ア本件発明では,「目標物の位置として特定する演算処理手段」を有する
のに対し,乙4発明では,目標物の位置を算出することについての記載が
ない点
イ本件発明では,目標物の位置を地図上にスーパーインポーズして表示す
るのに対し,乙4発明では,目標物の位置は数値等により表示されるのみ
であり,位置ディスプレイにスーパーインポーズして表示するものではな
い点
ウ本件発明で表示される対象が,演算処理手段によって特定された目標物
であるのに対し,乙4発明で出力される対象が,予め記憶装置等に記憶さ
れている目標物の位置である点
(4)乙9発明との組み合わせによる進歩性欠如の主張について
ア乙9文献には,「ヘリテレの映像範囲」を「リアルタイムで地図上にト
ラッキングする」旨の記載があるが,これは,「目標物を撮影する視野」
を「地図上に表示」する構成を開示するものではない。
(ア)「ヘリテレの映像範囲」について
そもそも,乙9文献には,「ヘリテレの映像範囲」を説明する記載は
ないから,これを,本件発明における「目標物を撮影する視野」に相当
する構成であると理解することはできない。
また,仮に,その意味を前後の文脈から解釈するとしても,ヘリテレ
で撮影した実際の映像を地図上にオーバーレイする構成を記載したもの
としか解されないのであって,映像に映っている対象が経時的に変化す
る様子が映像を参照して把握できることを「映像範囲」という言葉で表
現したとしか把握できない。
これは,乙9発明がヘリコプター直下を撮影するシステムを前提とす
るものであり,機体位置と撮影対象の位置は概ね一致するものと解され
ることとも整合する。本件発明が機体位置と被撮影位置との間に離隔が
あることを前提として,撮影対象の位置を正確に把握するために「目標
物を撮影する視野」を表示するのに対し,乙9発明では,機体位置と撮
影対象の位置が概ね一致する以上,本件発明のように「目標物を撮影す
る視野」を表示する必要はなく,むしろ,映像を表示する方が自然であ
ると解されるからである。
(イ)また,乙9文献には,ヘリテレの映像範囲のトラッキングが,ヘリ
コプターの位置等の付帯情報に基づいて特定される旨の記載もない。
(ウ)以上によれば,乙9文献における「ヘリテレの映像範囲」は,本件
発明の「目標物を撮影する視野」に相当するものではない。乙9文献は,
被告が主張するような「ヘリコプターの位置,高度及びカメラ情報に基
づいて,カメラの映像範囲をリアルタイムで地図上にトラッキングす
る」(表示する)ものではなく,時刻情報と対応するヘリコプターの航
跡を指標として,(映像から観測者が感得・把握可能な)ヘリテレの映
像範囲を地図上で追跡可能(管理・検索可能)とするシステムに関する
ものである。乙9文献における,ヘリテレの映像範囲を「リアルタイム
で地図上に表示」する構成は,本件発明の,目標物を撮影する視野を
「二次元地図上に表示」する構成に相当するものではない。
イ(ア)以上のとおり,乙9発明には,本件発明と乙4発明の相違点に係る
構成が開示されているものではないから,仮に乙4発明に乙9発明を組
み合わせたとしても,本件発明に至ることはできない。
また,乙4発明と乙9発明は,その目的及び技術分野において全く異
なるものであるから,乙4発明に乙9発明を組み合わせることは当業者
にとって容易ではない。
さらに,そもそも,乙4発明の目的は戦車,軍用機あるいは艦船等に
対して検出のリスクを増大させることなく,パッシブな方法で目標物の
距離及び/又はサイズを決定するために用いる装置等を提供することで
あり,同発明を実施することによって,観測者の存在を明らかにするこ
となく精密に照準するという課題が解決される。これに対し,本件発明
の目的は,空中から地表面の目標物の位置を正確に特定できる位置特定
方法及び装置を提供することであり,同発明の実施により,航空機から
撮影した地表上の目標物の位置を,離れた位置から精度よく特定すると
いう課題が解決されるものであり,両発明は,発明の目的と解決すべき
課題が全く異なる。また,乙4発明においては,特定した目標物の位置
を地名等の分かる二次元地図上に表示する構成を適用するという動機付
けがない。
(イ)したがって,本件発明は,乙4発明に乙9発明を組み合わせること
により容易に想到できたものに当たらない。
(5)乙29発明との組み合わせによる進歩性欠如の主張について
ア乙29文献の各図に記載された「目標物」の位置は,本件発明における
「目標物の位置」に相当するものではないこと
(ア)乙29文献の図21及び23には,二重丸印等で「目標物」が表示
されている。
しかし,図21ないし23は,空対地モードにおける表示を示したも
のであるところ,乙29文献において,ナビゲーションモードにおける
表示を示す図18で,二重丸印で表示されている「目標物」は,予め定
められた位置を表示するものにすぎない。そして,乙29文献において,
空対地モードがナビゲーションモードに「非常に似ている」とされてい
ることを考慮すれば,両モードにおける二重丸印は,同一の意味を有す
るものと解すべきである。
そうすると,図21,22における二重丸印は,予め定められた目標
物の位置を表示するにすぎないものと解するべきである。この理解は,
図18ないし21において,目標物を示す二重丸印が二箇所表示されて
いること,乙29文献に,センサーが複数の目標物を順次特定できる旨
の記載はないこと,乙29文献中に「第一次目標及び代替目標」との記
載があることは,いずれも,上記主張と整合するものである。
(イ)乙29文献には,図22及び23の台形のフットプリント中央の十
字印が何であるかについての記載はなく,これが視線と地表面との交点
の位置であることを示唆する記載もないから,上記十字印によって,
「目標物の位置」を表示する構成が開示されているとみることも相当で
はない。
(ウ)したがって,乙29文献には,「目標物の位置」を表示する構成は
開示されていない。
イ乙29文献に「目標物を撮影する視野」を表示する構成が開示されてい
ないこと
(ア)乙29文献には,センサーが「目標物を撮影する」という記載は一
切ない。また,乙29文献には,「センサー」が使用される状況,目的,
方法についての記載や,「フットプリント」が何であるかについての記
載も一切ない。
むしろ,図21は,予め定められた目標物からセンサーの視線が自機
に向けられていることを表示しており,それにより,目標物からの自機
の方向や位置を確認できる機能とも理解できるものである。
(イ)したがって,乙29文献には,「目標物を撮影する視野」を表示す
る構成は開示されていない。
ウ乙29文献に,目標物の位置を「地名等のわかる二次元地図上に表示す
る」構成が開示されていないこと
仮に,図22及び23に表示された十字印が「目標物の位置」に相当す
るものであるとしても,上記十字印が現れるモードでは,地図上には絵画
的記号しか表示されず,地名等は表示されていないから,乙29文献は,
目標物の位置を「地名等のわかる二次元地図上に表示する」構成を欠くも
のである。
エ(ア)以上のとおり,乙29発明には,本件発明と乙4発明の相違点に係
る構成が開示されているものではないから,仮に乙4発明に乙29発明
を組み合わせたとしても,本件発明に至ることはできない。
(イ)また,乙4発明が,検出のリスクを増大させることなく,パッシブ
な方法で目標物の距離及びサイズを測定できるようにするというもので
あるのに対し,乙29発明は,モードによって表示する情報を切り替え
ることで,戦闘機においてパイロットの要求を充足する適切な表示を提
供するためのものであり,目標物の位置特定を問題とするものではない
のであるから,乙4発明と乙29発明は課題及び作用を異にするもので
あり,両者を組み合わせる動機付けは存在しない。
(ウ)なお,図22及び23に表示された十字印が「目標物の位置」に相
当するものであるとした場合に,これを表示するものを「地名等のわか
る二次元地図上」とすることについては,次のとおり阻害要因がある。
すなわち,乙29文献には,戦術状況ディスプレイを作るときの基本
的考慮事項は,情報をパイロットが利用できる量まで減らすことにある
旨が記載されている。これに,図22及び図23に地名等が全く記載さ
れていないことを考慮すれば,戦闘機等において,地名等の情報は減ら
すべき情報に該当し,地図から意識的に除外されているものとみるべき
である。
(エ)また,乙4発明は,従来技術であるレーザー又はレーダー測距器が
有していた欠点(精密に照準されなければならず,また,観測者の存在
を明らかにすることがあるという点)を克服し,検出のリスクを増大さ
せることなく,パッシブな方法で目標物の距離及びサイズを測定できる
ようにするためになされたものである。そうすると,乙4発明において
は,自機と目標物までの距離及びそのサイズが分かればよく,目標物の
位置情報を二次元地図上に表示することは想定されていない。そうする
と,乙4発明には,地名等の分かる二次元地図上で自機や目標物の位置
を確認するという課題がなく,目標物の位置を地名等のわかる二次元地
図上に表示する構成を適用する動機付けをそもそも欠いている。
したがって,仮に乙29発明の図22,23に「目標物の位置」を表
示する構成が開示されているとしても,これを,地名等のわかる二次元
地図上に表示する構成とした上で,乙4発明に適用することはできない
ものというべきである。
(オ)したがって,本件発明は,乙4発明に乙29発明を組み合わせるこ
とで,当業者が容易に想到することができたものに当たらない。
5争点(2)イ(乙5号証に基づく進歩性欠如の成否)
(被告の主張)
(1)乙5発明の内容
本件特許出願前の公知文献である米国特許第4954837号公報(以下
「乙5文献」といい,乙5文献記載の発明を「乙5発明」という。)には,
次の方法が開示されている(以下,次の構成をそれぞれ「乙5発明a」など
という。)。
aセンサープラットフォームから,地上にある目標物の位置を決定する方
法であって,
bプラットフォームの経度,緯度及び地球の平均海面からの高度を示す航
法データを取得し,
cプラットフォームから目標への視線の上下角及び方位角を決定し,
d-1記憶された地形データベースから,目標位置と視線を含む地域内の
複数の地形データ点における平均海面上の地球表面の標高を示す地形デー
タを取得し,
d-2地球表面上及び視線上に位置するテストデータ点についてテスト目
標物高度を計算し,
d-3計算されたテスト目標物高度を,地形データ中に示されるテスト地
形データ点での地球表面の標高と比較し,
d-4計算されたテスト目標物高度がテスト地形データ点における地球表
面の標高より高いとき,当該テスト地形データ点よりもプラットフォーム
が遠い他のテスト地形データ点を選択し,ステップd-2とd-3を前記
他のテスト地形データ点について繰り返し,
d-5計算されたテスト目標物高度がテスト地形データ点における地球表
面の標高以下のとき,目標物の前後の2つの隣接するデータ点を結ぶ線を
求め,
e目標物の位置を,目標物への視線と前記2つの隣接するデータ点を結ぶ
線との交点を計算することにより決定する方法。
(2)本件発明と乙5発明の対比
ア乙5発明aのセンサープラットフォームにおけるセンサーは,空中から
目標物を撮影する手段を含むから(乙5号証1欄24~28行),乙5発
明aは本件発明のG及びIに各相当する。
イ乙5発明b,cは本件発明の構成要件H,Jに各相当する。
ウ乙5発明dの「地形データベース」はラスタ型データベースであるが,
構成要件Kに関する原告の主張を前提とする限り,上記データは「地表面
の起伏についての高度情報を含む三次元的な地勢データ」(構成要件K)
に相当する。
エ乙5発明d-1ないしd-5は,近似的な地表面を求める処理であり,
「…地表面記録手段からの出力に応答し」(構成要件L前段),地表面を
求める処理に相当する。また,上記地表面と目標物への視線との交点を求
め,目標物の位置を決定する乙5発明eの処理は,「機体の位置から…延
ばした直線と地表面との交点を算出し,目標物の位置として特定する演算
処理手段」(構成要件L中段・後段)に相当する。
オ以上によれば,乙5発明は,目標物の位置と目標物を撮影する視野とを,
地名等のわかる二次元地図上に表示する手段が記載されていない点のみに
おいて本件発明と相違する。
(3)相違点の検討
ア乙5文献には,目標物の位置の表示について明示はないものの,乙5発
明が目標物の位置を特定することを目的とする技術である以上,目標物の
位置を特定するディスプレイを当然備えており,単に発明の新規な構成と
は無関係であるために文献中に記述していないだけであると考えるべきで
ある。そして,乙4発明による無効主張において述べたとおり,地上の位
置を特定する際に地名等のわかる二次元地図上に表示することは周知技術
であり,これを乙5発明に適用することは当業者にとって容易である。
イ乙9文献に,目標物を撮影する視野を地名等のわかる二次元地図上に表
示する構成が開示されていることは前述のとおりであり,これを乙5発明
に適用することは当業者にとって容易である。
(4)以上によれば,本件発明は,当業者が乙5発明に乙9発明及び周知技術
を組み合わせることによって容易に想到することができたものであり,進歩
性を欠く。
(原告の主張)
(1)被告の主張は,乙5発明の内容については認め,その余については争う。
(2)ア乙5文献には,目標物の位置及び目標物を撮影する視野の表示につい
て記載はなく,これらを地名等のわかる二次元地図上に表示することに関
する記載又は示唆もない。
乙9発明は,「カメラの映像範囲」ではなく,「ヘリテレの映像範囲」
を地図上にトラッキングするものである。ヘリテレの映像範囲のトラッキ
ングが,ヘリコプターの位置,高度及びカメラ情報等,すなわち付帯情報
に基づいてされているという記載はない。乙9文献の「映像範囲」を地図
上にオーバーレイすることと,本件発明の目標物を撮影する視野を地図上
に表示することとは,全く異なるものである。
イ被告は,技術常識を参酌すれば,乙5発明は目標物の位置を表示するデ
ィスプレイを備えているものと理解すべきと主張する。しかし,乙5発明
は,対地攻撃のために目標物の位置を特定するものであり,目標物の位置
と自機の相対的位置が分かれば攻撃や目標の捕捉のために十分であって,
目標物の存在する地名を知る必要はないのであり,位置ディスプレイを当
然に備えているものと理解することは相当ではない。
(3)乙9文献に,乙5発明と本件発明に係る上記相違点が開示されていない
ことは前述のとおりである。
また,仮に乙9文献に上記相違点が開示されているとしても,乙5発明は,
戦闘機等における距離測定に関するものであり,乙9号証の目的及び技術分
野とは全く異なるものであるから,乙5発明に乙9発明を組み合わせること
は容易ではない。
6争点(2)ウ(乙6号証に基づく進歩性欠如の成否)
(1)乙6発明の内容
本件特許出願前の公知文献である特開平2-285875公報(以下「乙
6文献」といい,乙6文献記載の発明を「乙6発明」という。)には,次の
方法が記載されている(以下,次の構成をそれぞれ「乙6発明a」などとい
う。)。
a撮像センサを航空機等に搭載して地上の目標を追尾し,その位置を地上
局等に通知する画像追尾システムであって,
b機体の高度情報hがマイクロプロセッサに供給され,
c撮像センサが取得した画像から目標を抽出して目標方位の視野中心(視
軸方位)からの偏角を得るとともに,機体に対する撮像センサの視軸の向
き(視軸角度θ)と,ピッチ角等の機体姿勢情報と,視野データφがマイ
クロプロセッサに供給され,
d予め地図等から得られる地形情報がマイクロプロセッサに供給され,
e地形情報,機体姿勢情報,視軸角度θ,視野データφ及び高度情報hに
基づいて,目標が置かれた面上において,撮像センサの視野上端と目標と
の距離と,視野下端と目標との距離とが等しくなるように,追尾ウィンド
ウ中心を市や中心(目標物追尾点)からずらすためのオフセット角xを算
出する
f画像追尾システム。
(2)本件発明と乙6発明の対比
ア乙6発明aないしdは,本件発明の構成要件GないしK,Nに各相当す
る構成を含むものである。
なお,乙6文献には,機体の高度情報h以外の,緯度,経度等の位置情
報を特定することについて明示の記載はないが,目標物の位置を特定する
前提として当然自機の位置情報も測定されているはずであるから,乙6発
明は,本件発明の構成要件Hに相当する構成を含む。
イ乙6発明eにおける「目標が置かれた面」とは,地形情報を利用する場
合には当該情報によって得られる地表面のことであるから,乙6発明eは,
撮像センサから目標の方向へ延びる直線と地表面との交点位置をもって目
標位置としていることになり,乙6発明eは本件発明の構成要件Lに相当
する。
ウ以上によれば,乙6発明は,目標物の位置と目標物を撮影する視野とを,
地名等のわかる二次元地図上に表示する手段が記載されていない点のみに
おいて本件発明と相違する。
(3)相違点の検討
ア乙6文献には,目標物の位置の表示について明示はないものの,乙6発
明が目標物の位置の特定を目的とする技術である以上,目標物の位置を表
示するディスプレイを当然備えており,単に発明の新規な構成と無関係で
あるために文献中に記述していないだけであると考えるべきである。そし
て,乙4発明による無効主張において述べたとおり,地上の位置を特定す
る際に地名等のわかる二次元地図上に表示することは周知技術であり,こ
れを乙6発明に適用することは当業者にとって容易である。
イ乙9文献に,目標物を撮影する視野を地名等のわかる二次元地図上に表
示する構成が開示されていることは前述のとおりであり,これを乙6発明
に適用することは当業者にとって容易である。
(4)以上によれば,本件発明は,当業者が乙6発明に乙9発明及び周知技術
を組み合わせることによって容易に想到することができたものであり,進歩
性を欠く。
(原告の主張)
(1)被告の主張は,乙6発明の内容については認め,その余については争う。
(2)乙6発明は,航空機等に搭載する画像追尾システムに関するものであり,
その目的は,撮像センサが取得した画像から目標を抽出し,この目標を補足
し続けるべく撮像センサのジンバルを駆動する画像追尾システムに監視,観
測視野領域の無駄をなくすことにより,光学系の規模を小さくし,また分解
能を向上させることにある。
したがって,その技術分野及び目的は乙9発明とは全く異なるものであり,
乙6発明に乙9発明を組み合わせることは当業者にとって容易ではない。
7争点(2)エ(乙24号証に基づく進歩性欠如の成否)
(被告の主張)
(1)乙24発明の内容
ア本件特許出願前に頒布された文献である乙24号証(以下「乙24文
献」といい,乙24文献記載の発明を「乙24発明」という。)には,次
の構成を有する位置特定装置が開示されている(以下,それぞれ「乙24
発明g」などという。)。
g空中を移動可能なRPVと,
h地上管制局からの方位とRPVまでの視線距離を用いてPRVの位置
を特定する手段と,
iRPVに搭載され,地表面上の目標物を撮影するセンサーと,
jRPVの姿勢と,センサーの指向角度を検出する手段と,
kデジタル地形データベースと,
lRPVの位置及び高度,RPVの姿勢,センサーの指向角度,並びに
局地的な地形高度から,目標物の位置を決定する手段と,
m目標物の位置とセンサーのフットプリントをCOMEDの高分解能地
図上に表示する手段とを含む
n目標物の位置特定装置。
イ原告は,乙24文献に,目標物の位置がCOMED上に表示される構成
は開示されていないと主張するが,乙24文献には,目標物が特定される
と,センサーディスプレイ上で印を付けることが記載されているところ,
上記目標物は,当然,COMED上にも表示されるものと理解すべきであ
る。
(2)本件発明と乙24発明との対比
ア乙24発明g,h,i,j及びnが,本件発明の構成要件G,H,I,
J及びNに各相当することは明らかである。
イ(ア)乙24発明kの「デジタル地形データベース」は,一般に地形の高
度に関する情報をデジタルデータとして保持しているものであるから,
本件発明の「地表面の起伏についての高度情報を含む三次元的な地勢デ
ータを記録しておく地表面記録手段」(構成要件K)に相当する。
(イ)原告は,乙24発明kのデータベースは本件発明において必要とさ
れる機能・性質,すなわち,機体の位置から撮影手段の向いている方向
に延ばした直線と地表面との交点を算出するための機能・性質を備える
ものではない旨主張するが,本件明細書には,「地表面記録手段」につ
いて,「地表面の起伏についての高度情報を含む三次元的な地勢データ
を記録しておく」という限定が付されているのみであって,上記のよう
な特別な機能や性質を必要とする旨の記載はないのであるから,失当で
ある。
ウ(ア)一般に「フットプリント」には「衛星の送信機又はセンサーの視野
の中にある地表面の領域」との意味がある上(乙25),ディスプレイ
上の表示においては,センサーによって撮影されている地面の領域をデ
ィスプレイ上に示した場合のその範囲を指す用語としても用いられるか
ら(乙26の68頁4段落4~5行目参照),乙24発明mの「センサ
ーのフットプリント」は,本件発明における「目標物を撮影する視野」
に相当する。
(イ)この点に関し,原告は,乙24発明mの「センサーのフットプリン
ト」は,予め一定の縮尺でCOMED上に描かれているものであり,セ
ンサーの撮影方向に応じて動的に地図上にスーパーインポーズされるも
のではないから,「目標物を撮影する視野」に相当しないと主張する。
しかし,乙24発明のセンサーのフットプリントは,RPVの位置や
センサーの指向角度等によって時々刻々と変化するものであり,予め描
くことができるようなものではない。そもそも,乙24文献において,
COMED上のミッションプランは適宜変更可能となっているのであっ
て,フィルム地図上に飛行ルート等を書き込むような運用がされている
ものではない。上記解釈は,「drawntoscale」を「正しい縮尺で描か
れる」と訳すか,「一定の縮尺で描かれる」と訳すかによって異なるも
のではない。
(ウ)COMEDにおいて表示される地図には地名等が表示されているか
ら(乙16号証2枚目の写真を参照),乙24発明mの「COMEDの
高分解能地図」は「地名等のわかる二次元地図」に相当する。
(エ)以上によれば,乙24発明mは本件発明の構成要件Mに相当する。
エしたがって,乙24発明と本件発明は,構成要件GないしK,M及びN
について一致し,次の点において相違する。
本件発明では,「機体の位置から撮影手段の向いている方向に延ばした
直線と地表面との交点を算出」して目標物の位置を特定することが明示さ
れているのに対し,乙24発明では,上記算出について明示の記載がない
点。
(3)相違点の検討
ア乙4発明との組み合わせ
(ア)乙4発明の内容は争点(2)アにおいて主張したとおりであり,乙4
文献には,乙24発明と本件発明の相違点に係る構成が開示されている。
(イ)乙24発明と乙4発明は,いずれも,航空機からテレビカメラ等の
センサーによって地上を撮影して目標物の位置を特定するに当たり,セ
ンサーの指向方向と地形データベースを用いて目標物の位置を決定する
という共通の課題・作用・機能を有する,同一の技術分野に属する技術
であるから,乙24発明に乙4発明を組み合わせることは当業者にとっ
て容易である。
(ウ)したがって,本件発明は,当業者が乙24発明に乙4発明を組み合
わせることによって容易に想到することができたものであり,進歩性を
欠く。
イ乙27発明との組み合わせ
(ア)本件特許出願前の公知文献である乙27号証(以下「乙27文献」
といい,乙27文献記載の発明を「乙27発明」という。)には,航空
機の位置及び高度,センサーの視線角度,及びデジタル地形データベー
スに基づいて,センサーの視線とデジタル地形の交点を算出して,これ
を目標物の位置として特定する技術が開示されている。
(イ)よって,乙27文献には,乙24発明と本件発明の相違点に係る構
成が開示されているところ,乙24発明と乙27発明は,いずれも,航
空機からテレビカメラ等のセンサーによって地上を撮影して目標物の位
置を特定するに当たり,センサーの指向方向と地形データベースを用い
て目標物の位置を決定するという共通の課題・作用・機能を有する,同
一の技術分野に属する技術であるから,乙24発明に乙27発明を組み
合わせて本件発明に至ることは当業者にとって容易である。
(4)よって,本件発明は,当業者が乙24発明に乙4発明又は乙27発明を
組み合わせることによって容易に想到することができたものであり,進歩性
を欠く。
(原告の主張)
(1)被告の主張は争う。
(2)乙24発明の内容について
ア乙24文献には,「目標物の位置」をCOMED上に表示する構成は記
載されていないこと
(ア)乙24文献には,「ペイロードコントローラーとアナリストのモニ
ターはリアルタイムのビデオ映像を表示し,ライトペンは目標物に印を
付けて記述するのに用いられる。」との記載及び「ミッション報告こ
の機能は,オペレータがライトペンを用いて印を付けた対象物をCOM
ED上に表示する」との記載がある。
しかし,前者の記載の直後には,「アナリストは,目標物を長い時間
観察するためのフレーム静止オプションを有している。」との記載があ
るから,ここでのライトペンの使用は,ビデオ画像におけるアナリスト
への指示のためのものと理解すべきである。また,後者の記載は,「ミ
ッション報告」の箇所に記載されているから,ミッション報告のために,
センサーディスプレイを目視したオペレータが,COMED上に直接ラ
イトペンで目標物の印を書き込むことができることを記載したものにす
ぎないと解すべきである。
(イ)そうすると,乙24文献においてライトペンで指定されるのは,セ
ンサー等に基づいて求められた位置ではなく,単にオペレータが画面上
で指示したものにすぎないと解されるのであって,センサーディスプレ
イにおいて求められた目標物の位置が,COMED上に連動して表示さ
れるものとは解することができない。
したがって,乙24文献には,COMED上に「目標物の位置」を表
示する構成は記載されていない。
(ウ)なお,仮に,センサーディスプレイ上で印を付けられた目標物の位
置が,COMED上にも連動して表示されるものであったとしても,乙
24文献には,地名等に関する記載はないから,乙24文献に,目標物

位置を「地名等のわかる二次元地図上に表示」する構成は開示されてい
ない。
イ乙24文献には「目標物を撮影する視野」を表示する構成が開示されて
いないこと
(ア)乙24文献の1-5頁下から11~10行目には,「Atthis
scalethemapmovesinresponsetoRPVmotion,theplannedroute
isshownandintaskareasthesensorfootprintonthegroundis
drawntoscale.」との記載があり,被告は,これを,「このスケール
で地図はRPVの動きに反応して動いて,計画したルートが示され,そ
してタスク領域では地面の上のセンサーのフットプリントが正しい縮尺
で描かれる」と訳しているが,このうち,「drawntoscale」は,「一
定の縮尺で描かれる」と訳すべきである。そうすると,上記記載は,C
OMEDの地図上に計画したルート(既知であり,光学フィルム上に予
め描かれているルート)が示されていることを示すものであり,センサ
ーのフットプリントも,上記計画ルートと同様に,COMED上に予め
描かれていることを記載したものとしか解されない。
(イ)したがって,乙24文献においてCOMED上に表示される「セン
サーのフットプリント」は,本件発明における「目標物を撮影する視
野」に相当するものではなく,乙24文献には,「目標物を撮影する視
野」を表示する構成は開示されていない。
ウ乙24文献における「デジタル地形データベース」は「地表面記録手
段」に相当するものではないこと
(ア)本件発明の「地表面記録手段」は,機体の位置から撮影手段の向い
ている方向に延ばした直線と地表面との交点を算出するために用いられ
るものであり,当然そのような機能・性質を備えている必要があるとこ
ろ,乙24文献におけるデジタル地形データベースは,センサーの視線
と地表面との交点を算出するために用いられるものではない。
(イ)したがって,乙24文献における「デジタル地形データベース」は,
本件発明における「地表面記録手段」とは機能及び性質を異にするもの
であり,「地表面記録手段」に相当するものではない。
エ以上のとおり,乙24発明は,被告の指摘する点に加え,構成要件M
(目標物の位置と目標物を撮影する視野とを,地名等のわかる二次元地図
上に表示する手段とを含む)を欠くものであるところ,上記構成は乙4発
明にも開示されていないから,仮に乙24発明に乙4発明を組み合わせた
としても,本件発明に想到することはできない。
オまた,乙24発明の課題が,小型軍事遠隔操縦無人機の運用系統におい
て,ディスプレイ等に既知目標物の表示をすることであるのに対し,乙4
発明の課題は,パッシブに目標物の距離・サイズを決定することであり,
両発明は課題,作用,機能において異なるものであるから,両発明を組み
合わせることは当業者にとって容易ではない。
カしたがって,本件発明は,乙24発明に乙4発明を組み合わせることで,
当業者が容易に想到することができたものに当たらない。
キ乙27文献において,目標物の位置が予め特定されていないことについ
ては何ら言及されていない。一般的に作戦行動中においては,パイロット
の負担を避けるため,視覚的に把握可能なHUD等に照準の位置を指示す
るマークを表示するのであり,乙27文献はその点を記載しているにすぎ
ない。したがって,乙24発明に乙27発明を組み合わせることで本件発
明に想到することもできない。
8争点(2)オ(記載要件違反の有無)
(被告の主張)
(1)原告は,本件発明の構成要件M「目標物の撮影する視野」に関し,カメ
ラの映像範囲と一致する必要はなく,カメラの映像範囲と一定の相関関係を
有していれば足りる旨主張するところ,「一定の相関関係」との概念は曖昧
であり,具体的にどのような図形を二次元地図上に表示する行為が本件発明
の構成要件Mを充足するのか,第三者は理解することができない。
(2)したがって,仮に原告の主張が正しいとすれば,本件発明に係る請求項
の記載は「特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみ
を記載」したものに当たらず,平成6年12月14日法律第116号による
改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)36条6項2号を充足し
ないことになる。
(原告の主張)
(1)被告の主張は争う。
(2)「目標物を撮影する視野」として,具体的にどのような図形を二次元地
図上に表示すればよいかまで,明細書に示す必要はなく,「目標物を撮影す
る視野」の意義は当業者にとって明らかであるから,本件特許に記載要件に
違反する点はない。
9争点(3)(間接侵害の成否)
(原告の主張)
(1)イ号装置は本件発明の技術的範囲に属するところ,イ号製品は専らイ号装
置の製造にのみ用いる物である。
(2)本件発明の課題は,イ号装置を使用することにより解決されるところ,イ
号装置の構成要素のうち,イ号製品以外のもの(ヘリコプター機体,GPS装
置,カメラ,機体姿勢計測装置)は代替性がある汎用品にすぎないので,イ号
製品は本件発明の特徴的部分に該当する。
前記前提事実(6)イのとおり,被告は,平成22年7月21日,川崎重工株
式会社との間で協議を行っているから,同日には,本件発明が特許発明である
こと及びイ号製品が本件発明の実施に用いられることを知っていた。
(3)したがって,被告が業としてイ号製品を製造販売する行為は,特許法10
1条1号又は2号により,本件特許権を侵害するものとみなされる。
(被告の主張)
原告の主張は争う。
第4当裁判所の判断
1争点(1)ア(構成要件Kの充足性)
(1)「地表面の起伏についての高度情報を含む三次元的な地勢データ」の意

ア被告は,「地表面」との文言が,二次元的な広がりをもった「面」を意
味するものである上,本件発明が,「直線と地表面との交点を算出」(構
成要件L)するものであることから,「地表面の起伏についての高度情報
を含む三次元的な地勢データ」は,「面」の情報を含むデータである必要
があると主張する。
イしかし,構成要件Kは「地表面の起伏についての高度情報を含む三次元
的な地勢データ」というものであり,その文言からは,「高度情報」が地
表面の起伏を反映したものであることを要することが読み取れるのみであ
り,地勢データ自体が「面」としての情報を含むことが,文言上,必ずし
も要求されるものではない。
ウまた,確かに,本件明細書によれば,本件発明に係る位置特定装置は,
機体の位置から撮影手段の向いている方向に延ばした直線と地表面との
交点を算出し,目標物の位置として特定するものであり(【請求項
7】),「三次元的な地勢データ」は,「地表面と直線との交点を算
出」する際に用いられるものである(構成要件L中段)。
しかし,上記「地表面」(構成要件L中段)は,「地表面記録手段か
らの出力に応答し」(構成要件L前段),「三次元的に高度情報を含ん
で表される」(【0014】)ものであるから,「三次元的な地勢デー
タ」は,その出力により,三次元的に高度情報を含んだ面を表すことが
できるものであれば足り(なお,「三次元的に高度情報を含んだ面を表
す」ことの意義については,構成要件Lにおいて検討する。),「三次
元的な地勢データ」自体が「面」としての情報を有するものである必要
は必ずしもないものと解される。
エ加えて,本件発明は,上記のとおり直線と地表面との交点を算出する
に当たり,「地表面」として二次元平面を用いると,目標物が三次元的
な起伏のある地表面上に存在することにより,目標物までの直線を二次
元平面まで延長した交点の位置が,目標物の位置を二次元平面に投影し
た位置と比較して,高度に対応する距離だけ異なる位置と判断してしま
うことから(【0015】),「地表面」として,二次元平面ではなく,
三次元的な起伏のある地表面を用いることで,目標物の位置を,三次元
的に精度よく特定することを可能としたものである(【0014】,
【0015】)。
そうすると,「地表面の起伏についての高度情報を含む三次元的な地
勢データ」とは,緯度及び経度の情報のみを含む二次元平面データに代
わるものとして記載されているにとどまるものであるから,緯度及び経
度の情報に加えて,地表面の起伏を反映した高度情報を含むことに意義
を有するものということができ,「面」としての情報を有することに,
その意義が見出されるものではない。
オ以上によれば,「地表面の起伏についての高度情報を含む三次元的な
地勢データ」とは,三次元的な,すなわち緯度,経度及び高度の情報を
含む地勢データであって,上記高度情報が,地表面の起伏を反映したも
のであると評価することができるものであれば足り,これに加えて,
「面」としての情報を含むものである必要はないものと解される。
(2)イ号装置における検討
アイ号装置はメッシュデータが記録された記録媒体を有するところ(構成
k),メッシュデータは,メッシュの位置情報(緯度・経度)及びメッシ
ュ中心点の標高情報を含むモデルデータである(争いがない)。
上記標高情報は,国土地理院が刊行する2万5000分の1地図に描か
れている等高線を計測してベクトルデータを作成し,それから計算によっ
て求めるものであるとされるから(甲10),地表面の起伏を反映したも
のであると評価することができる。
イしたがって,メッシュデータは,「地表面の起伏についての高度情報を
含む三次元的な地勢データ」に相当し,上記メッシュデータが記録された
記録媒体を有するイ号装置は,構成要件Kを充足する。
2争点(1)イ(構成要件Lの充足性)
(1)「機体位置特定手段,撮影手段,方向検出手段および地表面記録手段か
らの出力に応答し」(構成要件L前段)
アイ号装置において,構成l記載の演算処理にGPS装置,カメラ装置,
カメラ防振装置,メッシュデータ記録媒体等から出力されたヘリコプター
の機体位置情報(緯度,経度,高度),カメラの撮影方向情報及びメッシ
ュデータが用いられることにつき,当事者間に実質的に争いがないと評価
されることは,前記前提事実(5)ウ(ウ)でみたとおりである。
イにもかかわらず被告が,構成要件L前段のうち「地表面記録手段からの
出力に応答し」の充足を否認する趣旨は,「地表面の起伏についての高度
情報を含む三次元的な地勢データ」(構成要件K)が面としての情報を含
まない場合には,上記地勢データから,現実のなめらかな地表面に近い
「地表面」を補間によって構成する必要があり,そのためには,「…直線
と地表面との交点を算出」(構成要件L中段)するに先立ち,地表面記録
手段から「地表面の…地勢データ」を出力し,上記補間処理を行う必要が
あると主張することによるものと解される。
したがって,構成要件L中段の意義をまず検討し,その上で,構成要件
L前段の充足の成否を再度検討する。
(2)「機体の位置から撮影手段の向いている方向に延ばした直線と地表面と
の交点を算出し」(構成要件L中段)の意義
ア本件明細書には,「機体の位置から撮影手段の向いている方向に延ばし
た直線と地表面との交点を算出」することの意義に関し,次の記載がある。
(ア)【0001】【産業上の利用分野】「本発明は,災害が発生してい
る目標物などを空中から撮影し,その位置を正確に特定することができ
る位置特定方法および装置に関する。」
(イ)【0004】【発明が解決しようとする課題】「GPSなどを利用
して,航空機の現在位置を測定することは比較的容易であるけれども,
航空機から撮影した地表面上の目標物の位置を精度よく特定することは
必ずしも容易ではない。高速度で飛行している航空機が,目標物の直上
に存在しうる時間は瞬間的であり,通常はずれた位置を航行する。ヘリ
コプタのような空中で停止可能な航空機であっても,火災発生現場の直
上では,煙などのために充分な視界を確保することができず,離れた位
置から撮影する方が好ましい場合が多い。」
(ウ)【0005】「撮影された映像から,特徴がある建物や地形などを
識別し,それらの位置が予め判明していれば,目標物の位置の特定は容
易となる。しかしながら,大規模な災害,たとえば洪水や地震などでは,
特徴的な建物や地形も隠れてしまったり,変化してしまう可能性も大き
い。さらに,海上や山岳地帯などでは,位置を判別するための手がかり
になる情報もほとんど得られず,航空機の現在位置を中心として概略的
な方向および距離が求められるだけである。」
(エ)【0006】「本発明の目的は,空中から地表面の目標物の位置を
正確に特定することができる位置特定方法および装置を提供することで
ある。」
(オ)【0014】「…本発明に従えば,空中を移動可能な機体に撮影手
段を搭載し,目標物を撮影する。機体位置特定手段によって機体の位置
を特定し,方向検出手段によって撮影手段の向いている方向を機体に対
して検出する。目標物が存在する地表面の起伏についての高度情報を含
む三次元的な地勢データは,地表面記録手段に記録されている。演算処
理手段は,機体の位置から撮影手段の向いている方向に延ばした直線と,
地表面との交点を算出し,目標物の位置を特定する。この際,直接的な
距離の測定は行う必要はない。地表面は三次元的に高度情報を含んで表
されるので,交点として求められる目標物の位置は高度が精度よく反映
され…るので,災害発生現場周辺などに機体を急行させるだけで,その
現場の位置を比較的容易,かつ精度よく特定することができる。」
(カ)【0015】【実施例】「図1は,本発明の一実施例の原理的な構
成を示す。空中を飛行するヘリコプタ1などの機体には,テレビカメラ
などの撮影装置2が搭載され,目標物3を撮影する。目標物3は,三次
元的な起伏がある地表面4上に存在し,地表面4を水平面に投影する二
次元平面5上には存在しない。本実施例では,ヘリコプタ1の現在位置
を測定し,目標物位置の方向に延ばす直線Lと,地表面4との交点とし
て,目標物3の位置を特定する。地表面4が二次元平面5から高度Hだ
け異なる高さに存在するので,目標物3までの直線を二次元平面5まで
延長した交点の位置が,目標物3を二次元平面5に投影した位置よりも
Eだけ異なる位置と判断してしまう。本実施例によれば,地表面4上で
目標物3の位置を正確に特定することができる。」
(キ)【0029】【発明の効果】「…本発明によれば,空中から撮影し
た地表面の目標物の位置を,予め作成されている高度情報を有する地勢
データを利用して三次元的に特定することができるので,迅速,かつ比
較的精度よく災害対策などを実行することができる。」
(ク)【0030】「…本発明によれば,空中から撮影した地表面の目標
物の位置を,距離測定装置は使用せずに,予め作成されている高度情報
を有する地勢データを利用して三次元的に特定することができるので,
迅速,かつ比較的精度よく災害対策などを実行することができる。」
(ケ)【0035】「…本発明によれば,機体に搭載される撮影手段が目
標物を撮影すると,機体の位置を機体位置特定手段が特定し,特定され
た位置に基づいて地表面記録手段に記録されている地表面の起伏につい
ての高度情報を含む三次元的な位置と,方向検出手段が検出する撮影手
段の向いている方向とに基づいて,距離を直接測定することなく,演算
処理手段が目標物の位置を特定する。機体からは,撮影手段を目的物の
方向に向けるだけで,地表面の目的物の位置を三次元的に特定すること
ができるので,災害の発生時などに迅速に対応することができる。」
イ(ア)a以上の本件明細書の記載に照らし検討するに,本件発明は,航空
機の現在位置情報や,その撮影映像に表れた特徴物などから目標物の
位置を特定する場合,その位置を精度よく特定することが容易ではな
いことから(【0004】,【0005】),目標物の位置を比較的
容易,迅速に,かつ,精度よく特定することのできる位置特定装置を
提供しようとするものである(【0006】,【0014】)。
しかし,上記のとおり目標物の位置を比較的容易,迅速に,かつ,
精度よく特定することの目的は,主として災害発生現場等の位置を正
確に特定して(【0001】),災害対策などを迅速に実行できるよ
うにすることにあるとされるから(【0029】,【0030】),
上記位置特定は,上記目的を達成することができる程度の精度の良さ
をもってなされれば足りると解するべきである。
bまた,本件発明は,目標物の位置を比較的容易,迅速に,かつ,精
度よく特定することのできる位置特定装置を提供するという上記の目
的を達成するために(【0006】,【0014】),機体の位置及
び撮影手段の向いている方向を特定した上で,上記機体位置から撮影
手段の向いている方向に延ばした直線と地表面との交点を算出し,上
記交点を目標物の位置とする方法を採用したものであるが(【001
4】),ここでいう位置特定の迅速性及び精度の良さという作用効果
は,①目標物までの距離を直接的に測定する方法ではなく,上記のと
おり直線と地表面との交点を算出する方法を採用することにより
(【0014】,【0035】),また,②上記交点の算出に当たり,
二次元平面データではなく,三次元的地勢データを「地表面」のデー
タとして用いることにより(【0014】,【0015】,【002
9】),上記各方法(目標物までの距離を直接測定する方法又は「地
表面」として二次元平面データを用いる方法)との比較において達成
されるものとして記載されているものということができる。
そうすると,上記作用効果(位置特定の迅速性及び精度の良さ)は,
上記各方法との比較において優れるものとして記載されているにとど
まるものであるから,この点からも,本件発明に係る位置特定は,比
較的な精度のよさを達成することができるものであれば足りるものと
解するべきである。
c上記理解は,位置特定を「比較的」精度よくなすことができる旨の
明細書の記載(【0014】,【0029】,【0030】)や,本
件発明の構成要件Lにおいて,地表面に関する情報の出力と,「…直
線と地表面との交点を算出」することとの関係に関し,「地表面記録
手段からの出力に『応答し』」との抽象的な記載がされているのみで
あることとも整合する。
d以上のとおり,本件発明における目標物の位置特定は,その目的を
達成することができる程度の比較的な精度の良さを達成することがで
きるものであれば足り,位置特定を数学的に厳密かつ正確に行うこと
をその目的又は作用効果とするものではないから,位置特定のための
具体的方法である「機体の位置から…延ばした直線と地表面との交点
を算出し」(構成要件L中段)についても,三次元的地勢データから,
補間処理等により「面」を具体的に構成し,特定した上で,当該
「面」と「直線」の交差する点を数学的に特定する処理に限定される
ものではなく,当該処理が,三次元地勢データを用いて表される,高
度情報を含んだ「地表面」と,機体の位置から撮影手段の向いている
方向に延ばした直線との交点を算出していると評価できるものであれ
ば足りるものと解するのが相当である。
(イ)これを前提とすれば,構成要件L前段における「地表面記録手段か
らの出力に応答し」についても,地表面記録手段に記録された三次元的
地勢データから,補間処理等によって「地表面」を構成し,特定する処
理を行うことに限定されるものではなく,構成要件L中段記載の演算処
理が,地表面記録手段から出力を受けた三次元的地勢データを用いて行
われていると評価できれば,当該演算処理は「地表面記録手段からの出
力に応答し」てなされているものと評価することができるというべきで
ある。
(3)イ号装置における構成要件L前段,中段の充足性
ア構成l記載のとおり,イ号装置は,カメラ位置及びカメラの撮影方向を
求めた上で,上記カメラ位置からカメラの撮影方向に向かって延ばした直
線上に25m間隔で点(以下「視線上の点」という。)を順次取り,その
緯度・経度・標高のデータ列を算出し,その緯度・経度情報に基づいてメ
ッシュデータに順次アクセスして,当該緯度・経度に最も近いメッシュ中
心点の標高データを取得し,視線上の点と順次比較し,初めてメッシュ中
心点の標高値よりも低い標高となった視線上の点(以下「初出低標高点」
という。)の緯度・経度を,被告のいうところの「中心点の座標」として
特定し,出力するものである。
イ(ア)イ号装置における上記処理は,各メッシュ(国土地理院発行の2万
5000分の1地形図を経度方向及び緯度方向にそれぞれ200等分し
て得られた各方眼であり,実距離で約50m×50mとなるもの。甲1
0)において,メッシュ中心点を含む水平面を想定した上で,視線上の
点が,当該点の緯度・経度を含むメッシュにおける上記水平面より上に
あるか下にあるかを,標高値の比較処理によって順次判断するものとみ
ることができるものであり,視線上の点のうち,上記水平面よりも初め
て下にくることと判断された点を特定するものであるが,これは,各メ
ッシュにおける上記水平面をそれぞれ垂直面でつなげた面(原告の主張
するところの「イ号地表面」と同じものであるので,以下,原告の主張
と同様に「イ号地表面」という。)を想定した上で,視線上の点の中で,
イ号地表面と視線との交点に最も近い点を特定する処理とみることがで
きるものである。
(イ)イ号地表面を想定する基礎となるメッシュデータにおけるメッシュ
中心点の標高値は,メッシュ内の最高標高値や,メッシュ中心点におけ
る標高値ではなく,2万5000分の1地図に描かれている等高線を計
測して作成されたベクトルデータから計算によって求められたものであ
るが(前記第4の1(2)ア),現実の地表面の高度情報をそのまま反映
したものではない。
しかし,前記第4の2(2)イの本件発明の目的及びその目的に即応し
た作用効果という観点からみれば,本件発明は,位置特定を数学的に厳
密かつ正確に行うことを追求するものではないから,数学的な意味にお
ける交点そのものではなく,上記交点に近似する点を「交点」とするこ
とを,合理的方法として許容するものであると解される。そして,イ号
装置において,メッシュ中心点の当該標高値を有する水平面をつないだ
イ号地表面を,視線との交点の算出処理に用いることは,上記本件発明
の目的及び作用効果の観点からみて十分合理的なものと評価することが
できる。
よって,イ号装置は,三次元地勢データを用いて表される,高度情報
を含んだ「地表面」と,機体の位置から撮影手段の向いている方向に延
ばした直線との交点を算出しているものであって,その演算処理は,地
表面記録手段から出力を受けた三次元地勢データを用いて行われている
といえるから,構成要件L前段及び中段を充足する。
(ウ)この点に関し,被告は,①イ号装置において,視線上の点は離散的
な点のデータであり,直線で構成されているものではない,②イ号装置
において,イ号地表面を補間により構成しているものではないから,メ
ッシュデータによりイ号地表面が表されているとみるのは誤りである,
③イ号地表面のような不自然かつ現実の地表面と無関係な面を「地表
面」と捉えることは許容されない,④メッシュ中心点の高度をメッシュ
高度とした場合,本件明細書上許容できない程度の誤差が生じると主張
する。
しかし,本件発明において,「機体の位置から…延ばした直線と地表
面との交点を算出」(構成要件L中段)する処理が,三次元的地勢デー
タから,補間処理等により「面」を具体的に構成し,特定した上で,当
該「面」と「直線」の交差する点を数学的に特定する処理に限定される
ものではないことは前述のとおりである。そして,イ号装置における初
出低標高点の特定処理が,イ号地表面を想定し,これと視線との交点を
算出していると評価できるものであることも前述のとおりである。
また,前記(2)イでみたとおり,本件発明は,目標物への距離を直接
測定したり,地表面として二次元平面を用いたりする場合と比較して精
度の良さを達成し,災害対策等を迅速に行うことを可能にしようとする
ものである。そして,イ号装置における視線上の点が,25m間隔とい
う比較的狭い範囲で設定されていることや,イ号装置において,初出低
標高点(イ号装置のパンフレットにおける「撮影中心」)の住所の特定
が,「○丁目まで」可能とされていること(甲9)等を考慮すれば,イ
号装置における初出低標高点は,本件発明における,比較的の精度よい
目標物の位置の特定という作用効果を果たす程度に,現実の地表面との
交点に近似するものと評価することができるものであるということがで
きる。
したがって,被告の主張はいずれも採用することができない。
(4)「目標物の位置として特定する演算処理手段と」(構成要件L後段)
ア「目標物の位置」の意義
(ア)本件発明に係る位置特定装置は,「目標物を撮影する撮影手段」を
有するものであり(構成要件I),「撮影手段の向いている方向に延ば
した直線と地表面との交点」を算出することにより,上記交点を「目標
物の位置」として特定するものである(構成要件L)。そうすると,本
件発明における「目標物の位置」とは,撮影手段によって撮影される対
象であって,その位置を,構成要件L中段記載の交点算出処理により算
出された点(撮影手段の向いている方向に延ばした直線と地表面との交
点)の位置として特定したものを意味するものと解される。
(イ)a被告は,これに加えて,「目標物の位置」とは,地表面上に存在
する特定の「目標物」の位置を意味すると主張する。
これは,本件発明を,地表面上に存在する特定の「目標物」を撮影
し,その位置を特定する発明であると捉え,「目標物の位置」とは,
このような特定の目標物を撮影した時点において算出される,当該目
標物の位置をいうものと主張する趣旨であると解される。
b確かに,本件発明は,災害が発生している目標物などを空中から撮
影し,その位置を正確に特定することができる位置特定方法および装
置に関するものである(【0001】)。
しかし,本件発明において,「目標物の位置」は,直線と地表面と
の交点として求め,特定されるものとして記載されており(構成要件
L),本件明細書上に,上記交点算出処理のほかに,「目標物の位
置」を特定する処理を別に必要とするとみるべき記載や,上記交点算
出処理を,地表面上の特定の目標物を撮影した時点のみにおいて行う
ものと解すべき記載は見当たらない。
cそうすると,「目標物の位置」を,地表面上の特定の目標物の位置
に限定して解釈すべきものとは解されず,被告の主張を採用すること
はできない。
イイ号装置における検討
(ア)イ号装置は,初出低標高点の緯度,経度及び標高を「中心点」の座
標として出力するものである(構成l後段)。
(イ)初出低標高点は,カメラの視線上の点であり,構成要件L中段でみ
たとおり,同段記載の交点算出処理により算出された点(撮影手段の向
いている方向に延ばした直線と地表面との交点)と評価できるものであ
るから,イ号装置は構成要件L後段を充足する。
3争点(1)ウ(構成要件Mの充足性)
(1)「目標物の位置…を,…表示」
ア意義
(ア)「目標物の位置」が,撮影手段によって撮影される対象であって,
構成要件L中段記載の交点算出処理により算出され,特定されたもので
あれば足りることは上記2(4)でみたとおりであるところ,「目標物の
位置…を,…表示」とは,このような「目標物の位置」を,地図上に視
覚的に表示することを意味するものと解される。
(イ)原告は,「目標物の位置…を,…表示」とは,撮影手段の向いてい
る方向に対応して逐次変化する目標物の座標を,動的かつグラフィカル
に地図上に反映させることをいうと主張し,被告は,「目標物の位置…
を,…表示」とは,地表面の特定の場所に存在する特定の目標物の位置
を地図上に表示することをいうと主張する。
原告の主張は,「目標物の位置」を,撮影手段の向いている方向に応
じて連続的に変化するものであると捉え,その表示も連続的に変化して
なされなければならないと考えるものであると解される。また,被告の
主張は,本件発明を,地表面上に存在する特定の「目標物」を撮影し,
その位置を特定する発明であると捉え,その表示とは,このような特定
の目標物の位置を表示するものでなければならないと考えるものである
と解される。
(ウ)しかし「目標物の位置」が,撮影手段によって撮影される対象であ
って,構成要件L中段記載の交点算出処理により算出され,特定された
ものであれば足りると解されることは前述のとおりであって,上記撮影
及び交点算出処理が,撮影方向の変化に応じて連続的になされる場合や,
特定の目標物を撮影した時のみになされるものである場合に限定される
ものではない。
したがって,「目標物の位置…を,…表示」を,原告又は被告の主張
するように限定解釈することはいずれも相当ではないというべきである。
イイ号装置における検討
イ号装置は,地図上に,「中心点」として二重丸印を表示するものであ
るところ(甲9),上記「中心点」は初出低標高点の座標を出力し,表示
するものであるから,「目標物の位置…を,…表示」を充足する。
(2)「目標物を撮影する視野とを…表示」
ア意義
(ア)本件明細書には,「目標物を撮影する視野」に関し,次の記載があ
る。
a【0011】「…本発明に従えば,目標物を撮影する際の視野を,
地名等が明示されている二次元地図上に,地表面の地勢データおよび
撮影した映像と対比したりしながら表示するので,撮影した映像と地
勢データとの対応関係が把握しやすくなり,災害の発生規模などの把
握も容易となる。」
b【0018】「図4は,特定された災害発生地点20を,二次元的
な地図に合わせて画像表示している状態を示す。災害発生地点20の
周囲には,画像表示を行っているカメラの視野21に対応する領域が
表示され,カメラの方向22も矢印で表示される。」
c【0032】「…本発明によれば,目標物を撮影する際の視野を地
名等が明示される二次元地図上に表示するので,発生している災害な
どの程度を容易に把握することができる。」
(イ)本件明細書の以上の記載に照らせば,「目標物を撮影する視野」と
は,目標物を撮影する際に映像に含まれる範囲,すなわちカメラの撮影
範囲を意味するものと解される。
しかし,「目標物を撮影する視野」の表示は,撮影した映像と地勢デ
ータとの対応関係をわかりやすくし(上記【0011】),発生してい
る災害などの程度を容易に把握することができるようにする(上記【0
032】)ことを目的としてなされるものであるところ,上記目的達成
のためには,カメラの撮影範囲が概略的に認識できる程度の表示がなさ
れていれば十分であるということができる。
これに加えて,本件明細書の実施例において,「目標物を撮影する視
野」に対応するものとして記載されている「画像表示を行っているカメ
ラの視野に対応する領域」(上記【0018】)が,上記領域を正確に
反映して表示するとすれば矩形(【図2】【図3】)となるものと解さ
れるにもかかわらず,【図4】において円形で表示されていることも考
慮すれば,「目標物を撮影する視野とを…表示」とは,カメラの撮影範
囲を概略的に認識できる程度の表示をするものであれば足り,カメラの
撮影範囲と完全に一致する形状及び範囲のものを表示することまでを要
するものではないと解するのが相当である。
(ウ)被告は,「目標物を撮影する視野」とは,単に目標物の周りに表示
するために予め定められた図形を意味すると解すべきである旨主張する
が,【0018】及び【図4】の記載を参酌しても,「目標物を撮影す
る視野」を上記のように解釈すべき理由を見出すことはできず,被告の
主張は採用できない。
イイ号装置における検討
イ号装置は,カメラによって撮影されている範囲を台形状の図形によっ
て二次元地図上に表示するものであるから(構成m・甲9),「目標物を
撮影する視野とを…表示」を充足する。
(3)イ号装置において,中心点の位置及び撮影範囲は,地名等の分かる二次
元地図上に表示されるものと認められる(甲9)。
(4)以上によれば,イ号装置は構成要件Mを充足する。
4小括
以上によれば,イ号装置は本件発明の技術的範囲に属する。
そこで,次に,本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものに当た
るか否か(争点(2))について検討するが,事案の内容に鑑み,本件発明が乙
24号証記載の発明から容易に想到することができたものに当たるか(争点
(2)エ)について,まず検討する。
5争点(2)エ(乙24号証に基づく進歩性欠如の成否)
(1)乙24号証は,1986年(昭和61年)10月20日までに刊行され
た文献(「AGARDConferenceProceedingsNo.388」)に掲載された「THE
UNMANNEDAIRCRAFTASAFORCEMULTIPLIER(戦力増強要素としての無人
機)」と題する論文部分であり,本件発明の出願日である平成7年4月10
日より前に頒布された刊行物に当たる。
(2)乙24号証には,以下の記載がある。
ア「2.2目標物捕捉ミッションの概要
以下の段落は,目標物捕捉ミッションの簡単な概要を提供する。
(a)…
(b)…
(c)RPVの打ち上げ
RPVはいくつかのコンポーネントモジュールから組み立てられる。
そして,一連の飛行前テストを経て,使用可能なら,打ち上げられる。
(d)航行
RPVは,無線封止の下,自律制御で航行する。ミッションルートの
特定の地点で地上管制局との交信が確立され,ナビゲーション及びミッ
ションのアップデートが実行される。
(e)目標物の捕捉
タスク領域に到達すると,電気光学センサーが目標物の探索,検出及
び認識に用いられる。…
(f)目標物の位置特定
目標物が認識されると,センサーディスプレイ上で印を付けられる。
その位置は,現在のRPVの位置及び高度,RPVの姿勢,センサーの
指向角度,及び局地的な地形高度から決定される。認識可能な地図の特
徴物も,目標物の位置特定に用いられる。
(g)目標物の報告
目標物の報告は,ユーザーが指定した地上の通信設備を用いて,ほぼ
リアルタイムでなされる。…」(抄訳文3頁10行目~4頁下から8行
目)
イ「3.目標物捕捉RPVシステム
3.1システム
目標物捕捉を含む任務のためにフェランティ社が設計したRPVシステ
ムが図3.1に示されており,次の装備を含む;
・熱映像撮影ペイロード
・航空機
・地上管制局
・打ち上げ車両
・秘匿データリンクシステム
・メンテナンス施設
・部隊指揮所」(抄訳文4頁下から4行目~5頁上から7行目)
ウ「3.3地上管制局
…地上管制局は,次のための設備を提供する。
…・目標物の位置特定
・タスク結果をユーザー機関に報告すること」(抄訳文5頁下から4
行目~5頁上から5行目)
エ「3.5データリンクシステム
データリンクは,地上管制局からの命令をRPVに送信し,RPVから
の映像及び内部状況のデータを地上管制局に送信する。…データリンクシ
ステムは,3つの端末を含む。地上データ端末は…データの送受信に加え
て,RPVへの方位角と視線距離を測定し,それらが地上管制局において
RPVの位置を決定するのに用いられる。」(抄訳文6頁上から9行目~
17行目)
オ「4.2地上管制局
地上管制局は,詳細なミッション計画立案,ミッション実行,及びタス
ク報告の責任を持つ。」(抄訳文8頁上から9行目~11行目)
カ「4.2.2ミッション実行の要求事項
(a)センサー視野
地上管制局のオペレーターに提供される地面のカバー範囲及び映像の
向きの変化は,位置と方位の感覚の喪失に直接つながる。RPVの位置
と航跡,及び,表示された画像によってカバーされた地域を局地的な地
形に直接関連付けることが可能なはずである。これは,図形のオーバレ
イ設備を有するムービングマップディスプレイによって達成されるであ
ろう。」(抄訳文10頁上から6行目~12行目)
キ「4.2.4地上管制局の設計
地上管制局は,図3.3に示したようなレイアウトで,3名用制御卓の
周りに設置される。3名のオペレーターは;
・ミッションコントローラー,…RPVの飛行制御及びタスク報告に責任
を持つ
・ペイロードコントローラー,…目標物の探知,及びそれらの分類と位置
特定に責任を持つ
・アナリスト,ペイロードコントローラーを支援して映像の詳細な検討に
専門化している」(抄訳11頁下から2行目~12頁8行目)
ク「各オペレーターには,ミッション計画立案及び実行のための使いやす
いメニュー選択を提供する,小さいが強力なコンピューターシステムとの
対話のためのテレビモニター及びライトペンが用意されている。ペイロー
ドコントローラーとアナリストのモニターはリアルタイムのビデオ映像を
表示し,ライトペンは目標物に印を付けて記述するのに用いられる。」
(抄訳12頁上から9行目~12行目)
ケ「図4.1に示されているミッションコントローラー及びペイロードコ
ントローラーのワークステーションの間には,フェランティ統合地図電子
ディスプレイ(COMED)があり,それは,図4.2に示すように,高
分解能地図映像をコンピュータ英数字及び図形と組み合わせる。これは,
ミッションルート全体又は航空機の周辺地域を相当に大きなスケールで表
示できるから,ミッション計画立案及び実行のための焦点を提供する。こ
のスケールで地図はRPVの動きに反応して動いて,計画されたルートが
示され,そしてタスク領域では,地図の上のセンサーのフットプリントが
正しい縮尺で描かれる。この設備は,自然に見えるように地平線を上にす
る映像表示と組み合わされて,地上の特徴及び目標物を地図に関連付ける
ことを可能にして,ナビゲーションと目標物の位置特定の双方の助けとな
る。設備には,デジタル地形データベース,地上通信機器,及び環境防護
も含まれている。」(抄訳12頁16行目~最終行)
コ「(c)ミッション実行
この機能は,以下を含む多くのサブタスクを含む;
…・センサーの指向角度,RPVの姿勢,及びRPVと地上データ端末の
位置からの目標物の位置特定」(抄訳13頁下から7行目~14頁上か
ら1行目)
サ「(b)ミッション報告
この機能は,オペレーターがライトペンを用いて印を付けた対象物をC
OMED上に表示する。それは,対象物のリストをまとめ,レポートを
要約し,以後の送信のためにそれらをフォーマットする。」(抄訳14
頁3行目~6行目)
シ「4.3電気光学センサー
…地上管制局のオペレーターに提供される映像は,…地平線を上にする
映像が最善であることを示している。これは,センサーを航空機の下に
「パンとチルト」の構成…をもつように搭載することで,容易に達成でき
る。」(抄訳14頁上から7行目~24行目)
ス「(d)目標物の位置特定
センサーの指向角度は,RPVに対する目標物の位置計算のために,精
密に測定されなければならない。」(抄訳15頁上から5行目~7行目)
(3)乙24発明の内容
ア乙24文献には,RPV(remotelypilotedvehicle〔遠隔操縦無人
機〕)を打ち上げてタスク領域まで航行させ(上記(2)ア(c),(d)),タ
スク領域において電気光学センサーを用いて目標物の探索,検出及び認識
を行い(上記(2)ア(e)),目標物が認識されると,センサーディスプレイ
上で印を付け,その位置を現在のRPVの位置及び高度,RPVの姿勢,
センサーの指向角度,及び局所的な地形高度から決定し,特定して(上記
(2)ア(f)),当該目標物を報告する(上記(2)ア(g))というミッションを
遂行するために設計されたRPVシステム(上記(2)イ)が記載されてい
る。
イ上記RPVシステムは,RPV(航空機),地上管制局及び上記両者間
でデータの送受信を可能にするデータリンクシステム等をその装備として
有するものである(上記(2)イ,エ)。
ウ上記地上管制局は,RPVへの方位角と視線距離を測定することにより,
RPVの位置を特定することができるものである(上記(2)エ)。
エRPVは地表面の映像を撮影する電気光学センサーを搭載している(上
記(2)ア(e),シ)。
オ上記RPVシステムは,地上管制局の設備として,デジタル地形データ
ベースを有するところ(上記(2)ケ),地上管制局は,電気センサーによ
って撮影された地表面の映像により捕捉された目標物の位置特定を行うも
のであり(上記(2)ウ),上記位置特定は,RPVの位置及び高度,RP
Vの姿勢,センサーの指向角度,及び局所的な地形高度から決定されると
いうのであるから(上記(2)ア(f)),地上管制局の有するデジタル地形デ
ータベースは,局所的な地形高度に関する情報を含むものであると解され
る。
カ位置特定が上記のとおりRPVの位置,高度,姿勢,センサーの指向角
度,局所的な地形高度から決定されるものである以上,地上管制局は,当
然,これらの情報を検出・記録し,出力する手段を備えるものであると解
される(なお,センサーの指向角度については,RPVに対する目標物の
位置計算のために精密に測定されなければならないとされており〔上記
(2)ス〕,この点からも,上記RPVシステムが,電気光学センサーの指
向角度を検出するための手段を有することは明らかである。)。
キ以上によれば,乙24文献には,
g空中を移動可能なRPVと,
hRPVの位置を特定する手段と,
iRPVに搭載され,地表面上の映像を撮影する電気光学センサーと,
jRPVの姿勢及びセンサーの指向角度を検出する手段と,
k局所的な地形高度に関する情報を記録するデジタル地形データベース
と,
l現在のRPVの位置及び高度,RPVの姿勢,センサーの指向角度,
及び局所的な地形高度から電気センサーによって撮影された地表面の映
像により捕捉された目標物の位置を決定する地上管制局を含む
nRPVシステム
が記載されているものと認められる。
ク本件発明と乙24発明との対比
本件発明(その内容は前記前提事実(3)のとおりである。)を乙24発
明と対比するに,乙24発明の上記gないしkの構成が,本件発明の構成
要件GないしKに各相当するものであることについては当事者間に争いが
なく,本件発明と乙24発明はこれらの点において一致する。
乙24発明におけるRPVシステムは,目標物の位置特定を行うもので
あるから,乙24発明の上記nの構成は,本件発明の構成要件Nに相当す
るものと認められる。
そこで,これらに加えて,乙24文献に本件発明の構成要件L,Mに相
当する構成が記載されているか否かをさらに検討する。
ケ構成要件Lとの一致点
(ア)上記アないしカでみたところによれば,乙24文献には,上記RP
Vシステムが,構成要件Lのうち,「機体位置特定手段,撮影手段,方
向検出手段及び地表面記録手段」を有するものであることが記載されて
いる。
(イ)a乙24文献には,地上管制局のペイロードコントローラー及びア
ナリストが,RPVの電気光学センサーから送られるビデオ映像を表
示するモニター上の目標物にライトペンで印を付けて記述することが
できること(上記(2)ク)及びオペレーターがライトペンを用いて印
を付けた対象物がCOMED上に表示されること(上記(2)サ)が記
載されている。
b乙24文献におけるRPVシステムは,電気光学センサーにより認
識した目標物につき,センサーディスプレイ上で印を付けた上で,そ
の位置を,現在のRPVの位置,高度,RPVの姿勢,センサーの指
向角度,及び局地的な地形高度を用いて特定し(上記(2)ア(f)),目
標物の報告を行う(上記(2)ア(g))というミッション(任務)の遂行
のために設計されたものであるところ(上記(2)イ),ペイロードコ
ントローラー及びアナリストに用意される,電気光学センサーから送
られるビデオ映像を表示するモニターは,上記「センサーディスプレ
イ」に相当するものであると認められる。
そうすると,上記RPVシステムにおいては,ペイロードコントロ
ーラー又はアナリストがライトペンでモニター上の目標物に印を付け
ると,これに引き続いて,その位置(当該目標物の位置)を,現在の
RPVの位置,高度等を用いて特定し(上記(2)ア(f)の「目標物の位
置特定」タスク),報告を行う(上記(2)ア(g)の「目標物の報告」タ
スク)という各タスクが実行されることが予定されているものと解す
ることができる。
そして,乙24文献において,オペレーターがライトペンを用いて
印を付けた対象物がCOMED上に表示される旨の記載(上記(2)
サ)は,「目標物の位置特定」を含むミッション実行(上記(2)コ)
に引き続く「ミッション報告」(上記(2)サ)としてなされるもので
あると記載されているのであるから,上記対象物のCOMED上への
表示は,上記ア(g)の「目標物の報告」タスクの実行としてなされる
ものであると解され,COMED上に表示されるのは,オペレーター
が印を付けた対象物の位置を,現在のRPVの位置,高度等を用いて
特定したものであると解することができる。
c以上によれば,乙24文献には,センサーから送られるビデオ映像
を用いて印を付けて特定された目標物について,その位置を,現在の
RPVの位置,高度,姿勢,センサーの指向角度及び局所的な地形高
度から決定し,COMED上に表示する構成が記載されているものと
認められる。
(ウ)したがって,乙24文献におけるRPVシステムは,構成要件Lの
うち,「機体位置特定手段,撮影手段,方向検出手段及び地表面記録手
段からの出力に応答し」「目標物の位置を特定する演算処理手段」を備
えるものであり,この点において本件発明と一致する。
コ構成要件Mとの一致点
(ア)「目標物の位置…を,…表示」
乙24文献に,オペレーターが印を付けて特定した目標物について,
その位置を特定し,COMED上に表示する構成が記載されているもの
と解されることは,上記ケ(イ)でみたとおりである。
(イ)「目標物を撮影する視野とを…表示」
a前記(2)ケのとおり,乙24文献には,タスク領域において,CO
MED上に地図の上のセンサーのフットプリントが描かれる旨の記載
がある。
b「フットプリント」が「センサーの視野の中にある地表面の領域」
(乙25),「与えられた下方角に対してスクリーン上に表示される
地面の領域」(乙26)を意味するものとされていることからすれば,
撮影手段である乙24文献のセンサーのフットプリントとは,センサ
ーによる地表面の映像の撮影範囲を意味するものと解するのが相当で
ある。また,「COMED」は,地形情報をスクリーン上に表示した
上で,ウェイポイント,指定航跡,図形,英数字等の情報をスーパー
インポーズして表示することのできるものである(1978年〔昭和
53年〕7月発行の乙16)。
そうすると,乙24文献における,「地上管制局のオペレーターに
提供される地面のカバー範囲…の変化は,位置と方位の感覚の喪失に
直接つながる。…表示された画像によってカバーされた地域を局地的
な地形に直接関連付けることが可能なはずである。これは,ムービン
グマップディスプレイによって達成されるであろう。」との記載(前
記(2)カ)は,「センサーのフットプリント」が,COMED上に表
示されるムービングマップ上に重畳して表示されるものであることを
示すものと解される。
cこの点,原告は,被告が「タスク領域では,地図の上のセンサーの
フットプリントが正しい縮尺で描かれる。」と訳している部分(前記
(2)ケ)(原文は「inthetaskareasthesensorfootprintonthe
groundisdrawntoscale」)の「drawntoscale」を「一定の縮尺
で」と訳した上で,「センサーのフットプリント」は,COMED上
に予め描かれているものと解すべきであると主張する。
しかし,乙24文献の前記(2)シ及びスの記載に照らせば,乙24
文献におけるセンサーは,その指向角度を変化させることができるも
のであると解されるから,上記指向角度の変化に伴い,センサーによ
る地面のカバー範囲(前記(2)カ)も動的に変化するものと解される。
そして,乙24発明のRPVシステムにおいて,「表示された映像に
よってカバーされた地域を局所的な地形に直接関連付ける」ことは,
「図形のオーバレイ設備を有するムービングマップディスプレイによ
って達成される」というのであるから(前記(2)カ),COMED上
におけるセンサーのフットプリントの表示は,センサーの実際の撮影
範囲を反映したものであると解するのが相当であり,原告の主張する
ように,COMEDに予め描かれているものと解することはできない。
上記解釈は,「drawntoscale」を「一定の縮尺で」又は「正確な縮
尺で」のいずれと訳するかによって左右されるものではない。
d以上によれば,「センサーのフットプリント」は,本件発明におけ
る「目標物を撮影する視野」に相当し,乙24文献には,「目標物を
撮影する視野とを…表示」する構成が記載されている。
(ウ)「地名等のわかる二次元地図上に表示」
乙24文献において,目標物の位置及びセンサーのフットプリントは
「COMED上に表示」されるものであるところ(前記(2)ケ,サ),
「COMED」とは,フェランティ社の統合電子地図ディスプレイの略
語であり,ムービングマップを表示するディスプレイを意味するものと
認められる(乙16)。そして,COMEDに表示される地図に,地名
が表示されることがあることが認められ(乙16の18頁の写真参照),
乙24文献に,COMED上にこのような地図を表示する場合を除外す
る記載は見当たらないから,乙24文献には,目標物の位置及びセンサ
ーのフットプリントを「地名等のわかる二次元地図上に表示」する構成
が記載されているものということができる。
原告は,戦闘機等において,地名等の情報は減らすべき情報に該当し,
地図から意識的に除外されていると主張するが,地名等が記載されてい
る乙16の地図は,戦闘機等についての軍事情報を示したものであるか
ら,原告の主張を採用することはできない。
(エ)したがって,乙24文献におけるRPVシステムは,「目標物の位
置」と「目標物を撮影する視野」とを,「地名等のわかる二次元地図上に
表示する手段」を備えるものである。
サ本件発明と乙24発明との相違点
以上のとおり,乙24発明は,「機体位置特定手段,撮影手段,方向検出
手段及び地表面記録手段からの出力に応答し」「目標物の位置を特定する演
算処理手段」を備える点で本件発明の構成要件Lと一致し,また,上記「目
標物の位置」と,「目標物を撮影する視野」とを,「地名等のわかる二次元
地図上に表示する手段」を備える点で,本件発明の構成要件Mと一致する。
他方,乙24文献には,「目標物の位置」を「機体の位置から撮影手段の
向いている方向に延ばした直線と地表面との交点を算出」することによって
特定することについては記載がなく,乙24文献における「目標物の位置」
がこのような方法により特定されたものであるか否かは明らかではない。
したがって,本件発明の構成要件L,Mと乙24発明は,この点において
相違する。
(4)相違点の検討
ア1990年(平成2年)8月29日付け発行に係る英国特許第22286
42号公開公報(乙4文献)には,以下の記載がある。
(ア)「画像処理装置及び方法
…本発明は,特に,目標物の距離及び又は代わりにサイズを決定するの
に用いる画像処理装置及び方法に関する。」(抄訳1頁第1段落)
(イ)「本発明の一態様によれば,見られる地域に関する地形マッピング情
報を記憶するように構成された記憶手段,少なくとも眺望内の地域の一部
を見て視野内の目標物の位置に関する情報を導き出すように構成されたセ
ンサー手段,センサー手段からの目標物の視線が記憶された地形マッピン
グとどこで交差するかを決定する手段,及び,少なくとも記憶された地形
マッピングの対応する部分との関係での目標物の位置から目標物の距離を
決定するように構成された装置を含む,画像処理装置が提供される。」
(抄訳1頁第3段落)
(ウ)「センサー手段は航空機上に搭載されてもよく,…」(抄訳2頁第3
段落)
(エ)「本発明による,航空機のための画像処理方法及びその使用方法が,
例として,添付の図を参照しつつ,ここに記述される:」(抄訳2頁第4
段落)
(オ)「まず図1を参照すると,航空機Pが,地表面Gからの高さH,平均
海面からの高度Aにて飛行しているように描写されている。地表面Gは,
平坦でない表面又はトポロジーを持つように描写されている。航空機P上
の画像処理装置は,航空機の前方の地表面の目標物Oに向けられている。
目標物は航空機から距離Rにあり,角度θで対している。」(抄訳3頁第
1段落)
(カ)「…画像処理装置は,航空機の構造体2に搭載されてその観測角度が
アクチュエーター3によって制御される赤外線その他のテレビカメラ1を
含んでいる。」(抄訳3頁第2段落)
(キ)「処理装置61及び62はまた,目標物データ記憶装置73~75の
それぞれに付属している地形地図70…からの入力を受け取る。地形地図
70は,地形,即ち,より一時的でもよい他の目標物の位置に関する情報
がその上にスーパーインポーズされる,地面の等高線及び地上の恒久的特
徴に関する情報を含んでいる。」(抄訳5頁第2段落)
(ク)「地図70~72の各々は,関心のある目標物を含む可能性が最も高
い領域へとカメラ1を向ける探索ディレクターユニット80に出力を提供
する。探索ディレクター80はまた,それによってユーザーが新目標物探
索パターンを定義できるユニット81からの出力とともに,姿勢センサー
47,位置センサー48及び高度センサー49から入力を受け取る。探索
ディレクター80は,ライン82を経由してカメラ駆動装置6に出力を提
供する。」(抄訳5頁第3段落)
(ケ)「三角法距離/サイズ処理装置61は,検出器52から,目標物の観
測角度,即ちカメラ照準アライメント,及び航空機の現在位置と高度に関
する情報を受け取る。目標物は,照準が地図70に含まれる地形と交差す
る点にあるものと仮定される。この情報から,処理装置61は,三角法に
よって航空機から目標物までの距離を計算して,76の距離ディスプレイ
にこの情報を供給する。もし,目標物が測定可能な角度に対していると対
角画像抽出器64によって決定されたなら,処理装置61は,距離情報と
対角から三角法によって目標物のサイズを計算する。サイズ情報は,77
のサイズディスプレイに供給される。距離とサイズに関するこの情報は,
たとえ目標物の性質が不明であっても提供され得る。目標物が地面の上に
あるという仮定がなされなければならないが,これは事実でないかも知れ
ないため,ある程度の曖昧さがあることが理解されよう。処理装置61は
また,観測される目標物の位置をユーザーに指示するため,位置ディスプ
レイ78に出力を提供する。」(抄訳6頁第1段落)
(コ)「請求項
1.見られる地域に関する地形マッピング情報を記憶するように構成さ
れた記憶手段,少なくとも眺望内の地域の一部を見て視野中の目標物の位
置に関する情報を導き出すように構成されたセンサー手段,センサー手段
からの目標物の視線が記憶された地形マッピングとどこで交差するかを決
定する手段を含む画像処理装置であって,当該装置は,少なくとも記憶さ
れた地形マッピングの対応する部分との関係での目標物の位置から目標物
の距離を決定するように構成された画像処理装置。」(抄訳6頁第2段
落)
イ(ア)以上によれば,乙4文献には,航空機に搭載されたテレビカメラ等の
センサー手段により目標物を撮影し(上記ア(イ),(ウ),(カ),(ク)),
地形地図70からの情報並びに姿勢センサー47,位置センサー48及び
高度センサー49からの目標物の観測角度(カメラ照準アライメント),
航空機の現在位置及び高度に関する情報(上記ア(ク),(ケ))が三角法距
離/サイズ処理装置61に各入力され,センサー手段からの目標物の視線
(照準)が地形マッピング(地形地図70に含まれる地形)とどこで交差
するかを決定し,上記交差点に目標物があるものと仮定して,上記目標物
の位置を位置ディスプレイ78に提供する画像処理装置(上記ア(ケ),
(コ))が記載されているものと認められる。
なお,地形地図70は,地面の等高線に関する情報を含むものであると
される上(上記ア(キ)),乙4文献において,地表面は平坦でない表面又
はトポロジーを持つよう描写されるものとされている(上記ア(オ))ので
あるから,上記交差の決定に当たり用いられる地形マッピング(地形地図
70に含まれる地形)とは,地表面の起伏についての高度情報を含むもの
であると解される。
(イ)したがって,乙4文献には,航空機の現在位置,高度及び地面の等高
線に関する情報を使用して目標物の位置を決定するに当たり,センサー手
段から目標物に向けられた視線が地表面の高度情報を含んで表された地形
マッピングと交差する点を算出する方法により上記位置決定を行うことが
開示されているものということができ,これは,本件発明における「機体
位置特定手段,撮影手段,方向検出手段および地表面記録手段からの出力
に応答し,機体の位置から撮影手段の向いている方向に延ばした直線と地
表面との交点を算出」する処理と一致するものであると認められる。
(ウ)aこの点に関し,原告は,乙4文献における「目標物の位置」は,予
め記憶装置に記憶されたものであり,視線等の情報から算出されたもので
はないと主張する。
確かに,乙4文献には,同文献記載の画像処理装置が,予想される目標
物の外観,サイズ及び位置に関するデータを含む記憶装置73~75を有
しており(抄訳4頁第1段落),航空機姿勢センサー,位置センサー及び
高度センサーからの情報を受け取って,上記記憶装置73~75のデータ
のうち,カメラの視野内の目標物についてのデータを含みそうな位置を特
定し(抄訳4頁第1段落),さらに,カメラからの画像情報と記憶装置7
3~75内のデータ記憶情報(カメラによって見られるのと同じ眺望に変
換したもの。抄訳4頁第1段落)との比較を行って,目標物を特定するこ
と(抄訳4頁第2段落)が記載されている。
しかし,上記処理は,関心のある目標物を含む可能性が最も高い領域へ
とカメラを向け(上記ア(ク)),照準が地形と交差する点にあるものと仮
定し,距離及びサイズを計算する処理(上記ア(ケ))とは別の処理として
記載されていることが乙4文献の記載から明らかであるから(抄訳4頁第
2段落には,「新しい目標物,即ち,カメラ1の視野内に存在するが目標
物データ記憶装置73~75には存在しないものについての情報は,検出
器52によって新目標物キャラクライザ54に供給される。」との記載が
ある。),上記記載があることにより,乙4文献に上記イ(イ)の事項が開
示されているとみることが妨げられるものではない。
bまた,原告は,乙4文献の請求項1における「視線が記憶されている地
形マッピングとどこで交差するかを決定する」との文言(上記ア(コ))は,
目標物の距離及びサイズの算出に関連し記載されているのみであり,目標
物の位置を決定する処理について記載したものではないとも主張する。し
かし,乙4文献において,目標物の距離は,目標物が照準(センサーから
の視線)と地形マッピングが交差する点にあると仮定した上で,三角法に
よって決定されるものであり,目標物のサイズも,上記距離情報と対角か
ら三角法によって決定されるものであるところ(上記ア(ケ)),上記仮定
に基づき三角法により目標物の距離及びサイズを算出するためには,目標
物(視線と地形マッピングとの交差点)の位置を算出することが不可欠で
あると解されるのであるから,乙4文献には,視線と地形マッピングとの
交差点の位置を算出する処理が記載されているものとみるべきであり,原
告の上記主張を採用することはできない。
ウ乙24発明は,間接照準兵器システムに目標物の類別及び位置データを提
供するべく,航空機(RPV)に搭載されたセンサーで撮影された目標物の
位置を特定する技術であるところ,乙4発明も,軍事用途において,センサ
ーで撮影した目標物の位置を決定し,その距離及びサイズを検出する技術と
みることができるものであるから(乙4文献抄訳1頁第2段落),両発明は
共通する技術分野に属するものということができる。
また,乙24文献には,前記のとおり,機体の位置,姿勢,撮影手段の向
いている方向及び高度情報を含む地形情報から目標物の位置を決定すること
が記載されているのであるから,当業者において,このような情報を用いた
目標物の位置決定の具体的方法を当然に検討するものであると解される。
そして,乙4文献には,前記イでみたとおり,これらの情報を用いた目標
物の位置特定の具体的方法として,機体の位置から撮影手段の向いている方
向に延ばした直線と地表面との交点を算出する方法が開示されているのであ
るから,当業者において,乙24発明における目標物の位置特定の具体的方
法として,乙4文献記載の上記方法を適用することは容易であると認められ
る。
前記第4の2(2)イでみたとおり,本件発明は,主として災害発生現場等
の位置を特定するという民生分野における利用を目的とした発明であるが,
乙24発明とは航空機による目的物の地図上における位置の特定という技術
においては共通するものであり,かつ,軍事技術分野における技術が民生分
野に転用されることが多いことは公知の事実であるから,本件発明が主とし
て民生分野における利用を目的とするものであるとしても,乙24発明に乙
4発明を適用して本件発明に至ることの妨げとなるものではない。
エ以上によれば,本件発明は,乙24発明に乙4発明を適用することにより,
本件特許出願当時,当業者において容易に想到することができたものであり,
本件特許権は特許無効審判により無効とされるべきものであると認められる。
オしたがって,原告が被告に対し本件特許権を行使することはできない(特
許法104条の3)。
6小括
以上によれば,その余の点について検討するまでもなく,原告の請求にはいず
れも理由がない。
第5したがって,原告の被告に対する請求をいずれも棄却することとし,主文のと
おり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
大須賀滋
裁判官
小川雅敏
裁判官
森川さつき
(別紙)
イ号物件目録
被告の製造,販売に係る,以下の型番を有する撮影位置表示装置。
TSZ-N001
(別紙)
イ号装置説明書
構成原告の主張被告の主張
gヘリコプターの機体と,
hヘリコプターの位置情報(緯度,経度,高度)を特定するGPS装置と,
iヘリコプターに搭載され,被写体を撮影するカメラと,
jヘリコプターの機体姿勢情報(ロール・ピッチ・方位角)及びカメラ防振
装置からのカメラ情報(パン・チルト角)に基づき,カメラの撮影方向を
求める手段と,
k国土地理院発行の「数値地図50mメッシュ(標高)」が記録された記録
媒体と,
l前

前記GPS装置,前記カメラ,前
記カメラの撮影方向を求める手段
及び前記記録媒体からの出力を取
得する手段,
ヘリコプターの位置情報(緯度・経
度・高度)をGPS装置から得て,G
PS装置とカメラ防振装置との相対位
置を補正した上で,これをカメラ位置
とし,ヘリコプターの機体姿勢情報
(ロール・ピッチ・方位角)及びカメ
ラ防振装置からのカメラ情報(パン・
チルト角)に基づき,カメラの撮影方
向を求め,
l中

カメラ位置から撮影方向に向かって延ばした直線上に25m間隔で点を順
次取り,その緯度・経度・標高のデータ列を算出し,このデータ列の中の
各標高を,国土地理院発行の「数値地図50mメッシュ(標高)」におけ
る前記データ列の緯度・経度に最も近いメッシュ中心点の標高値と順次比
べて,初めてメッシュ中心点の標高値よりも低い標高となった点の緯度・
経度を算出する手段,
l後

前記緯度,経度,標高を目標物の
位置として出力する手段の各手段
をそれぞれ実行するコンピュータ
装置,並びに
前記緯度,経度,標高を中心点の座標
として出力する手段の各手段をそれぞ
れ実行するコンピュータ装置,並びに
m前記目標物の位置と,撮影されて
いる囲を地名等のわかる地図上に
表示する,ディスプレイが接続さ
れたコンピュータ装置
前記中心点の位置と,撮影されている
範囲を地名等のわかる地図上に表示す
る,ディスプレイが接続されたコンピ
ュータ装置
nを備える,撮影位置表示装置。

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