弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人Aを懲役7年に,被告人Bを懲役5年6か月にそれぞれ処する。
未決勾留日数のうち各210日を,それぞれの刑に算入する。
理由
(犯罪事実)
 被告人両名は,共謀の上,平成13年6月上旬ころ,名古屋市a区b町c丁目d
番地市営e荘f棟g号被告人B方において,同被告人の長女C(当時7歳)に対
し,こもごも荷造り用ロープ及び手錠でその手足を緊縛し,同ロープを冷蔵庫など
に縛り付けて,約4日間にわたりその台所に同児を放置するなどの暴行を加え,つ
いで,同月中旬ころから同年7月14日ころまでの間,上記被告人B方において,
こもごも同児の大腿部,上腕部,背部等を籐製の布団叩きで多数回殴打し,被告人
Aが同児の大腿部をカメラ用の三脚で多数回殴打するとともに多数回足蹴にし,護
身具である「マイオトロン」を同児の下腿部に数回押し当て高圧電流を放電して同
児の下腿部をけいれんさせるなどの暴行を加えた上,同月17日午前6時30分こ
ろから同日午後5時2
0分ころまでの間,上記被告人B方において,被告人Aが同児の顔面を手拳で多数
回殴打し,同児の身体を両手で持ち上げて数回畳上に落下させるなどの暴行を加
え,上記一連の暴行により同児に上下肢等の皮下出血,上下肢等の筋肉内出血,下
肢の筋肉の挫滅等の傷害を負わせ,よって,同日午後6時44分ころ,同区hi丁
目j番k号社会保険D病院において,同児を上記傷害に基づく外傷性ショックによ
り死亡させた。
(証拠)(省略)
(法令の適用-被告人両名)
罰 条           刑法60条,205条
未決勾留日数の算入     刑法21条
(量刑の理由)
1 本件は,被害者の実母である被告人Bとその内縁の夫であった被告人Aが被害
者に対し長期間にわたり様々な暴行を加えて,被害者を外傷性ショックにより死亡
させたという事案である。
2 被告人両名の暴行の態様は,窓に段ボールで目張りをした外部から見られない
状態の,密室ともいうべき自宅において,ロープや手錠で緊縛したり,食事を極端
に制限して体力の弱まった被害者に対し,素手で多数回殴打すると自分の手が痛く
なるとして,布団叩き,カメラの三脚等で殴打したり,足蹴りし,これにとどまら
ず,マイオトロンといった高電圧の流れる機械を被害者に押し当てたり,催涙スプ
レーを口にかけ,最後には身体を持ち上げて畳上に落下させるなどしたのであり,
危険性の高い悪質な暴行であって,極めて残虐な犯行である。
3 被告人Aは自分の仕事である探偵業の依頼者として被告人Bと知り合い,被害
者を含めた3人で暮らすようになり,書店において外国人研究者の書籍を読んで,
嘘をつく子は犯罪者になるという考えにとらわれるようになった。そして,被害者
が嘘をつくことをことさら問題視し,被告人Bに対し,これを直ちに矯正する必要
があり,言って分からなければ体で教える必要があるなどと言い,これを実行に移
した。被告人Bは,探偵として相談に乗ってもらったときの印象や,被告人Aが問
題のあった子を扱ったことがある,自分は探偵をしているので人を見る目があるな
どという言辞を盲信し,同被告人の行動に同調するようになった。
  そして,被告人両名は,被害者が嘘をついたりすることなどから被害者が犯罪
者になると思ったため被害者を直そうと,本件犯行に及んだという。
  しかし,被害者の嘘の内容は,7歳という被害者の年齢に照らせば犯罪につな
がるものとしてことさら問題視するほどのものではなく,被告人らもその当時の被
害者の具体的な嘘の内容などについて,被告人Aの財布から5000円を持ち出し
て隠したのにしていないと言ったことがあったなどという程度のことしか供述でき
なかったことからも,ささいな事柄であることは明らかであり,実際,被害者は小
学校での成績も良く,教師の評価も高かった。また,被告人両名は,本件犯行を愛
情を持ってしたしつけであるというが,長期にわたる暴行の期間中に被害者のけが
の状況すらも確認していないことなどからすると,真に被害者のためを思っていた
という言葉はとても信用できず,被害者に食事を与えていないにもかかわらず,そ
の目の前で,自らは
食事をとり,催涙スプレーを口にかけられた被害者が涙や鼻水を流すのに対し,
「おめえ,汚えな」と言うなどの被告人両名の行動からは,被害者を気遣う様子は
うかがわれず,被告人両名が被害者に対して加えた暴行はしつけに値するものでは
なく,その行為を正当化する余地はない。
4 そして,被告人両名の暴行の結果,被害者に重大な傷害を負わせた上,外傷性
ショックにより死亡させるに至ったのであり,結果は重大である。
  被害者は,本来愛情を注いでしかるべき実の母親や,父になるであろう内縁の
夫から,1か月以上もの長期間にわたって理不尽な虐待を受け続け,その年齢と子
であるが故に反抗すらできず,わずか7歳にして死に至ったものであって,その肉
体的,精神的苦痛は察するにあまりある。
5 被告人両名の生育過程において,模範となるべき家庭環境がなかったという面
は認められるが,これをもって親,あるいは,親となろうとする者として,被害者
の身体,生命の安全を第一に考慮すべき立場にあった被告人両名が,被害者に対し
て前記のとおりの残虐な暴行を加え,死に至らしめたことを正当化できるものでは
ない。
6 被告人Aは,被告人Bに対して,被害者が犯罪者になるとか異常な面があるな
どと告げて本件暴行のきっかけを作り,被告人Bに対し,優しさをみせてはいけな
いなどと指示したばかりか,マイオトロン,カメラの三脚などの凶器ともいうべき
ものを準備したのも被告人Aであり,被害者に対する暴行をエスカレートさせる原
因を作り,また,被害者が死亡するに至った最終的な暴行を加えるなど,一連の暴
行の過程においても主導的であった。被告人Aは,本を見て被害者が犯罪者になる
と思ったなどと供述するが,その本の内容を精読しておらず,安易に目次の項目等
から被害者が犯罪者になると決めつけたものと認められ,また,被害者には嘘をつ
くなと暴行を加えながら,自らは虚構の事実を加えて被害者の状況を被告人Bに伝
えて被害者を責め立
てるなどしているのであって,その自己中心的かつ身勝手な考えに基づく本件暴行
に酌量の余地はない。
  被告人Bは,被告人Aの言葉を何の疑義も抱かずに盲信して実子である被害者
に暴行を加えたのであって,その動機は短絡的にすぎる。また,被告人Bは,被告
人Aに指示される以上の暴行を自ら積極的に加えており,上記のような被告人Aの
主導的役割を考慮しても,被告人Aの単なる手足として行動したものとはいえな
い。被害者が最も頼りにしていたと推認される実母の被告人Bが,被告人Aの暴行
を容認したばかりでなく,自らも積極的に暴行を加えた点は特に責められなければ
ならない。
7 そうすると,被告人両名の刑事責任はいずれも重いといわざるを得ず,以下に
述べる被告人両名に有利な事情をいかに考慮しても,被告人Aはもとより被告人B
についても実刑をもって臨むほかない。
8 一方,被告人両名は,罪を認めて反省していること,身勝手な考え方に基づく
とはいえ,被害者に対するしつけをしようとしたことが一連の暴行のきっかけとな
ったという面があること,被害者が倒れた直後に救急車を呼ぶなど救命の措置をと
っていること,前科・前歴がないことなどの事情もある。
  被告人Aについては,母親が公判廷において被告人Aの更生を支援する旨述べ
ていることなどの事情もある。
  被告人Bについては,本件で暴行を加え始めるまでは被害者に愛情を持って接
し養育していたこと,被告人Aの言葉を盲信するあまり自己を見失っていた面も認
められること,母親や,保険外交員時代の同僚が更生を援助する旨公判廷において
述べていることなどの事情もある。
9 そこで,これらの諸事情を総合考慮して,被告人両名に対しそれぞれ主文のと
おり判決することとする。
(求刑-被告人Aにつき懲役8年,被告人Bにつき懲役7年)
平成14年7月16日
名古屋地方裁判所刑事第3部
裁判長裁判官  片  山  俊  雄
裁判官  村  野  裕  二
裁判官  石  井     寛

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