弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、末尾に添附する弁護人守屋和郎名義の控訴趣意書に記載して
あるとおりであるからこれに対し次のとおり判断する。
 一、 裁判権の有無に関する論旨について。
 占領は、国際法上認められた占領地における軍事的管理である。即ち占領軍は軍
事上の目的を以て占領を行うのであるから、この目的遂行のため又は占領地の安
寧、秩序維持のため占領地において国際法上認められた一定の権力を行使するので
あるが、占領国はその占領によつて被占領国の領土権をも取得するのてはないか
ら、その行う権力は一時的であり、かつその範囲は軍事上の目的に限られる従つて
占領という事実によつて占領国は被占領国の主権をも獲得し被占領国をしてこれを
喪失せしめるというものではない。只占領期間中被占領国が自らこれを行使するこ
とか事実上制限せられるに過ぎないのである。主権の停止は主権の喪失を意味する
ものではない。
 しかしその軍事上の目的に必要であるか又は占領地の安寧秩序維持のため必要で
なけば法律の変革を行うべきでなく絶対の支障のない限りこれを尊重すべきである
ことはへーグ陸戦法規第四十三条に規定するところであつて、その必婁あるとき
は、占領国は被占領国の憲法その他の法規の如何に拘らず占領地に占領軍軍事裁判
所を設立して裁判せしめ又は一時実体法規或は手続法規を停止変更せしめ或は被占
領国の任命した裁判官を罷免することもできるのではあるが、このことは占領によ
つて被占領国はその固有の裁判権を喪失し、爾後占領国の裁判権のみが存在するに
至るということを意味するものではない。只単にその占領朔間中前記目的のために
その行使のみを事実上制限せられるに過ぎないのである。国家の裁判権は国家の領
土主権に基くものであつて、他国の干渉によりこれを喪失するものでないことに徴
しても蓋し当然である。
 日本国においてはその国権の作用として日本国内において罪を犯したものに対し
ては、その国籍の如何を問わず原則として日本固有の刑事裁判権の厳存することは
刑法第一条等の規定によつて明らかな大原則である。
 しかるに日本は敗戦し昭和二十年九月二日降服文書に署名したので爾後連合国の
占領管理するところとなり、連合国最高司令官の制限下におかれることとなつた
が、裁判権については最高司令官は占領目的遂行の必要ありとして、昭和二十一年
二月十九日附覚書第七五六号により連合国人に対しては日本国の裁判権の行使を制
限するに至つた。(右覚書第一項には「日本の裁判所は以後連合国の人又は法人そ
の他の諸団体に対し刑事裁判権を行使してはならない。(以下略)第二項には「日
本裁判所は以後次に掲げた犯罪に対して刑事裁判権を行使してはならない。(以下
略)又第三項には「日本裁判所は、占領目的に有害な行為が、日本の法律違反とな
るものである限りこれに対して裁判権の行使を継続することができる。」(以下
略)と規定し、将来における裁判権の行使を制限したものであることはその文言に
よつて明らかである。)しかしてその後数回に亘つてその制限の範囲を縮少した
が、昭和二十五年十月十八日附覚書第二一二七号によつて、裁判の報告及び再審査
等の権限を留保して一部の者を除く連合国人に対する裁判権の行使の制限を解除
し、昭和二十七年四月二十八日に至つて平和条約の発効と共に名実共に日本国はそ
の主権を回復したのである。
 以上説述するところによつて明瞭であるとおり、日本国の固有の刑事裁判権は占
領期間中と雖も厳に存続していたのであつて、只占領目的遂行の必要上という理由
によつて特定の者に対してこれを行使することのみを制限せられていたに過ぎない
のであるから、その制限の解除に伴う裁判権の行使はいうまでもなく日本国固有の
裁判権の行使であることは勿論である。
 従つて所論の如く占領期間中日本は連合国人に対する裁判権を喪失したと解し、
延いては前記覚書第二一二七号によつて占領軍軍事裁判所の裁判権の行使を委任さ
れたものであるというが如きは誤謬も亦はなはだしいといわねばならない。
 しかして被告人は米国の国籍を有し、日本において貿易業を営むものであるとこ
ろ、本件起訴にかかる犯罪事実は、被告人は昭和二十六年三月下旬から同年四月中
旬までの間四回に亘り東京都において米軍票を不法に所持したというのであるか
ら、とりもなおさず被告人は日本国内において罪を犯した場合に該当し、刑法第一
条第一項により日本国の裁判権に服しなければならたいことは言を俟たない。弁護
人は、本件犯行は平和条約発効前の行為であるから被告人は所属連合国の裁判権の
みに帰すべきであつて、日本の裁判所に提訴することは違法であると主張する。平
和条約発効前においては日本国はその裁判権の行使について或る程度の制限を受け
ていたことは前段説明のとおりであるから、もし右条約発効前に日本国の裁判所に
起訴されたものであるならば、日本国裁判所は被告人に対しその裁判権を行使でき
なかつたともいい得るが、平和条約発効後においては、日本国の裁判権の行使には
何らの制限あることなく、元来厳存している日本国固有の裁判権を発動し得るので
あるから、占領期間中の制限に関する覚書の如きはその適用なきことは勿論、爾後
日本国の裁判所は連合国人に対して日本刑法を初めその他の法規を全面的に適用処
断することができることは言を俟たない。そして<要旨>犯人の行為が嘗て占領軍軍
事裁判所において間擬されるものであると否とを問わないのである。従つて被告
の行為が仮りに平和条約発効前になされたものであつても、或は占領軍軍
事裁判所に起訴係属していたことの有無を問わず、日本国の裁判所は被告人に対し
全面的に裁判権を行使し得るものといわなければならない。このことは仮りに占領
軍軍事裁判所において有罪の裁判を受けたとしても、同裁判所なるものが我が国の
法制上日本国の裁判所に準じた取扱を受けず、従つて右裁判は日本国の裁判に対し
て一事不再理の効力もないと解せられていること(最高裁判所昭和二十五年三月七
日第三小法廷判決同裁判所昭和二十八年七月二十二日大法廷判決参照)に鑑みても
明白であろう。
 従つて被告人に対し本件犯罪につき日本国裁判所に公訴の提起をなしにことは洵
に適法であつて所論のような違法は存しない。
 所論は本件は占領軍軍事裁判所に一旦係属した事件であつて、同裁判所が自己の
裁判権の行使を留保したものであり、いわゆる懸案事件であるから被告人の本国の
裁判所において終結するを国際慣例とする旨主張するも、前段説明のとおり日本国
の裁判権がその固有の権限に基いて全面的に行使される以上弁護人の所論はこれを
容れる余地がない。論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 大塚今比古 判事 三宅富士郎 判事 河原徳治)

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