弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴をいずれも棄却する。
         理    由
 弁護人原定夫および検察官の控訴の趣意は記録編綴の各控訴趣意書記載のとおり
であるから、ここにこれらを引用する。
 これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 一、 弁護人の事実誤認の趣意について。(略)
 二、 検察官の控訴趣意について。
 所論は、要するに、原判決は、本件公訴事実中詐欺の点について被告人がAB駅
において、無賃乗車しようと企て、名古屋駅まで乗車する意図のもとに入場券を改
札係に呈示してB駅ホームに入り、大阪駅行列車に乗車してC駅まで至つた事実を
認めながら、欺罔行為および処分行為があつたとはいえないことを理由に無罪とし
たが、被告人の入場券呈示行為は欺罔行為と認めるべきであり、かつ改札係の入場
許諾行為はそれ自体、あるいは列車乗務員の輸送行為と共に、処分行為と認めるべ
きであるから、被告人の右行為は詐欺利得罪に該当するものであつて、この点にお
いて原判決には事実を誤認し、ひいては法令の解釈適用を誤つた違法がある、とい
うのである。
 そこで検討するに、記録によれば、本件詐欺の公訴事実に相当する外形的事実及
び被告人が無賃乗車の意図のもとにB駅乗降場に入場した事実を認めることができ
る。すなわち、被告人は、原判示第六ないし第八の事実により起訴、勾留されてい
たところ、健康上の理由で昭和四九年三月一日勾留の執行が停止され、D病院に入
院したが、同月一七日同病院を出奔して各地を転々とし、昭和五一年一月二一日夜
岡山市に着いたときには所持金が僅か八二円になつたので、以前働いたことのある
名古屋まで無賃乗車することを企て、翌二二日午前二時頃岡山市a町b番地のcA
B駅で入場券一枚を買い求め、同日午前四時一〇分頃同駅において改札係Eに対し
て右意図を秘し、右入場券を呈示して同駅乗降場に入場し、同日午前四時一九分同
駅発新大阪駅行第二〇四列車急行F号に乗車し、途中検札に会つてC駅で下車させ
られたため名古屋まで乗車する所期の目的は達しなかつたが、C駅までの乗車賃九
四〇円相当の輸送の利益を受けたことが明らかである。
 刑法二四六条二項の詐欺利得罪が成立するには、他人を欺罔して錯誤に陥れ、そ
の結果自己または第三者が財産上の利益を得ることのみでは足りず、その欺罔行為
による錯誤に基づいて被欺罔者をしてなんらかの処分行為をなさしめることが必要
であることはいうまでもない。
 本件において、被告人は当初から名古屋駅まで無賃乗車して運賃の支払をしない
意思であるにもかかわらずその意図を秘し、単に乗降場に入場するのみであるよう
に装つて改札係員に入場券を呈示したものであるところ、右入場券呈示行為は改札
係員に対し入場料金を支払つたことおよび乗車することなく乗降場を出る意思であ
ることを告知したものというべきであるから、被告人は後者の点において欺罔的な
行為をなしたものということができ、また、被告人がB駅からC駅までの正当な運
賃を支払うことなく前記列車に乗車してその間の乗車賃相当の輸送の利益を得たこ
とは明らかである。しかしながら、前記被告人の入場券呈示行為が詐欺利得罪の欺
罔行為に該当するというには、改札係員ないし改札係員および前記列車の乗務員に
おいて、被告人の入場券呈示行為による錯誤に基づく財産的処分行為があつたとい
うこと(さらにさかのぼつては、被告人の欺罔的行為がそのような処分行為をなさ
しめるような性質のものであつたということ)ができなければならないので、この
点につき以下判断する。
 <要旨>まず、所論は、改札係員の入場許諾行為がそれ自体処分行為に該当すると
主張し、その論拠として、「乗車中あるいは下車の際に運賃の精算をするこ
とも可能であり、一般の常識もそのような方法による運賃の支払を特に不当、異常
とは考えていないから、改札係員としても入場券による入場者が列車に乗車するこ
とを予期しており、少なくとも潜在的にはその欲する区間の乗車を許容したことに
なるといつてよい。そして改札係員が乗降場に入場させた以上、乗客か入場客かを
区別することはできず、入場客の列車への乗車を阻止する機構にもなつていないの
で、不正乗車の意図ある被告人に改札口を通過させた改札係員の行為は、社会的に
みて輸送機関の利用という財産上の利益を与える行為である。」というのである
が、運賃が後払いされることが一般に特に異常なものと考えられておらず、改札係
員がある程度このことを予期していて、Aが入場客の列車への乗車を阻止する設備
を特に置いていないことは所論指摘のとおりであるけれども、右のような事情は、
むしろ、Aが運賃の徴収を確保するため、改札係員に対しては専ら利用者が乗車す
ることを含め乗降場に入るべき資格を有するか否かについて審査せしめているにす
ぎないことを示すものというべきであり、改札係員の入場を許容する行為が乗客な
いし入場券による入場客に対し、その欲する区間の乗車を許容するとか、あるいは
どの区間を乗車するとかしないとかを確かめその是非を決するような性質のもので
あるとは考えることができない(そのうえ、昭和三三年日本国有鉄道公示第三二五
号旅客営業規則二九六条二項によれば入場券所有者は列車等に立入ることができな
い旨定められているのである。)。たまたま改札係員が入場券呈示者に乗車の意図
のあることを知り得た場合に入場を拒否できることは、もとより右のように解する
について妨げとなるものではない。
 見方を変えて言えば、被告人に不正入場を許容することによつて改札係員は被告
人に入場券による正当な入場者と同一の地位を取得させたに過ぎないのであり、右
のようにして入場した被告人が潜在的に輸送の利益を受ける可能性を有するという
ことは被告人の主観的意図を別にしては格別の意味を有する事柄ではなく、そこに
客観的に見て単なる入場自体による利益以上の利得が生じており、右入場許容行為
がそのような利益を与える処分行為であるということはできない。なお改札口を通
過して乗降場に入場すること自体が、入場券につき料金が定められていることから
明らかなように、財産上の利益を得る行為であるということはできるけれども、本
件においては被告人が輸送の利益を得たことが問題となつているのであつて、乗降
場に入場した利益を得たということが問題となつているのではないから、この点を
論拠に改札係員に処分行為があつたと考えることもできない。
 以上のとおり、改札係員が被告人をして改札口を通過させた行為が、被告人に対
して本件に関しなんらかの処分行為をしたものということはできない。
 次に、所論は、被告人に対して処分行為をしたのは前記列車の乗務員であると主
張し、「Aのような組織体においては、被欺罔者である改札係員のとつた処置によ
り当然に他の職員から有償的役務の提供を受ける機構になつているから、被欺罔者
と処分行為者が異なるときでも詐欺罪は成立する。」というけれども、前記のとお
り詐欺罪が成立するためには、被欺罔者が錯誤によつてなんらかの財産的処分行為
をすることを要するところ、本件においては前記列車の乗務員が、被告人から直接
または改札係員を利用して間接に欺罔されて錯誤に陥つたというような事情は認め
られず、また処分行為者とされる乗務員が被欺罔者とされる改札係員の意思支配の
もとに被告人を輸送したとも認められないのであるから、単に組織体の機構を理由
として被欺罔者の錯誤に基づく処分行為がなされたとすることは相当ではない。す
なわち、改札係員は前記のとおり利用者の入場の資格を審査するものであつて、さ
らに進んで入場券による入場者に対する乗車の許否に関し乗務員と個別的な意思連
絡をとるわけではなく、また、処分行為者とされる列車乗務員が被告人を輸送した
という行為を中心に考えると、被告人が入場券を呈示した欺罔的行為は、乗降場に
やすやすと入場するための方便としての意味をもつにとどまり、輸送の利益を得る
ために乗務員に対して直接向けられたものではないから、顧客を装い、店員に対し
て「品物を見せてくれ。」と申し向け、物品の交付を受けた後、隙をみて逃走する
ような行為について詐欺罪の成立が否定される(窃盗罪に問擬すべきである。)の
と同様に被欺罔者による処分行為があつたとはいえない。
 以上の考察によれば、本件被告人の欺罔的行為は、その性質上、これに対応すべ
き被欺罔者の処分行為を欠くものであり、この点において被告人の所為は刑法二四
六条二項の詐欺利得罪を構成しないものというべく、原審の審理経過に照らし検察
官が鉄道営業法二九条違反として被告人の処罰を求める意思がないことは明らかで
あるから、右と同旨の判断のもとに被告人に無罪を言渡した原判決には所論の事実
誤認ないし法令の解釈適用の誤りはない。論旨は理由がない。
 三、 弁護人の量刑不当の趣意について。(略)
 よつて刑訴法三九六条により本件各控訴をいずれも棄却し、当審における訴訟費
用は同法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととして主文のとおり判
決する。
 (裁判長裁判官 干場義秋 裁判官 加茂紀久男 裁判官 前川鉄郎)

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