弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中「当審における未決勾留日数中四四〇日を原審の言渡した刑に
算入する。」とある部分を破棄する。
     原審における未決勾留日数中三日を本刑に算入する。
     その余の部分に対する本件各上告を棄却する。
         理    由
 検察官の上告趣意について
 本件記録によれば、被告人は、起訴前である昭和五〇年九月二七日本件各事実と
同一性のある事実につき殺人の罪名で勾留状の執行を受け、その後一、二審を通じ
て引き続き勾留されていたものであるが、第一審の新潟地方裁判所高田支部は、同
五一年一月三〇日被告人を懲役七年に処するなどの判決を言い渡し、これに対し、
被告人は同年二月九日に、検察官は同月一二日に、それぞれ控訴を申し立てたとこ
ろ、原審は昭和五二年七月五日各控訴を棄却するとともに控訴審における未決勾留
日数中四四〇日を第一審判決の刑に算入する旨の判決を言い渡したことが認められ
る。そして、原審が右のとおり控訴審における未決勾留日数中四四〇日を第一審判
決の刑に算入する旨言い渡した点は、その理由中の記載に照らし、被告人の控訴申
立後の未決勾留の日数の一部を刑法二一条に則り裁量により算入した趣旨であるこ
とが明らかである。
 しかし、本件のように、検察官も控訴を申し立てた場合には、その後の未決勾留
の日数は、刑訴法四九五条二項一号により、判決が確定して執行される際当然に全
部本刑に通算されるべきものであつて、控訴裁判所には右日数を本刑に算入するか
否かの裁量権が委ねられておらず、刑法二一条により判決においてその全部又は一
部を本刑に算入する旨の言渡をすべきでないことは、所論引用の当裁判所の判例の
示すところである(最高裁昭和二五年(あ)第一四七七号同二六年三月二九日第一
小法廷決定・刑集五巻四号七二二頁、昭和四五年(あ)第一七七六号同四六年四月
一五日第一小法廷判決・刑集二五巻三号四三九頁、昭和五一年(あ)第七六一号同
年一一月一八日第一小法廷判決・刑集三〇巻一〇号一九〇二頁参照)。したがつて、
原審における未決勾留日数のうち本刑に算入することを許される日数の限度は、被
告人の控訴申立の日である昭和五一年二月九日から検察官の控訴申立の日の前日で
ある同年二月一一日までの三日間であるのに、原審が右の限度を超えて控訴審にお
ける未決勾留日数中四四〇日を本刑に算入したのは、刑法二一条の適用について右
判例と相反する判断をしたものといわなければならない。この点に関する論旨は理
由があり、原判決の前記未決勾留日数を算入した部分は破棄を免れない。なお、原
判決中その余の部分に対する検察官の上告は、上告趣意としてなんらの主張がなく、
したがつてその理由がないことに帰するものである。
 被告人本人及び弁護人高橋早百合の各上告趣意について
 所論は、いずれも、事実誤認、量刑不当の主張であつて、適法な上告理由にあた
らない。
 よつて、刑訴法四〇五条二号、四一〇条一項本文、四一三条但書により原判決中
「当審における未決勾留日数中四四〇日を原審の言渡した刑に算入する」とある部
分を破棄し、原審における未決勾留日数中三日を刑法二一条により本刑に算入し、
原判決中その余の部分に対する各上告は、刑訴法四一四条、三九六条によりこれを
棄却し、当審における訴訟費用は同法一八一条一項但書により被告人に負担させな
いこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官筧榮一 公判出席
  昭和五三年四月一一日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    服   部   高   顯
            裁判官    環       昌   一

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