弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 被告人の上告趣意は「初メ私ノ友人ノAガBトCト言フ男ト三人連レテ私ノ家ヘ
来テBガ私ニオ前ノ家ハヒロイカラ一間貸シテクレト言ヒマシタガ私俺モ借リテイ
ルノダカラ貸セナイト言ツテコトワリマシタソレカラ一時間バカリ話ヲシテAガ映
画デモミニ行カナイカト言ツタノデ私モツイテ行キマシタ行ク途中事件ヲンコシタ
倉庫ノ前オトホリマシテ三丁バカリ行ツタトコロデBトCハ家ヘ帰ヘリマシタ私ト
Aトワ映画ヲミテカラAノ家ヘアソビニ行キマシタソコデAガオ前ノ家ハ広イカラ
荷物ヲ一寸置カシテ呉レト言ワレマシタノデ私ハ荷物グライハアズカツテヤルト言
ヒマシタソレカラシバラクアソンデ居ルウチニクラクナリマシタソノウチニAノ家
へ全々知ラナイ人ガ二三人来マシタソノ後ニBトCガ来マシタソレカラ皆デ世間話
ヲシテ居リマシタガ行コカト言ツテ皆家ヲ出タノデ私モ家へ帰ヘロウト思ツテAノ
家ヲ出デカヘリカケタラ皆モ同ジ路ヲ歩イテ来マシタソシテ二本ノ別レ路マデ来タ
トキ私ハ俺ハ此方カラカヘルト言ヒマシタAガ此方カラカヘツテモ一諸ジヤナイカ
ト言ツタノデ私モAト其方ノ路カラ帰ヘリマシタソレデ此ノ事件ノ倉庫ノ少シ向フ
ノ道路へ行ツテ一人彼方へ行キ二人此方へ行キシテ皆ヲラナクナリマシタノデ私ハ
家へ帰ヘリマシタソシテスグネマシタアクル日ハ一日中家ノ仕事ヲシテイマシタラ
夕方ニ私ノ友人Dガ来マシタノデ夕食ヲ食ベサシテヤリマシタガ家デトメテ呉レト
言ワレマシタガ家ニ余分ノフトンガナイノデAノ家へ連レテ行キAモコノDヲヨク
シツテイルノデAノトコニトメテモラウヨウニ話シマシタAトDト私ハ色々話ヲシ
テアソンデイマシタラ昨日ノ夕方来タ人達ガ一人来二人来マシテ四五人ヨツテ来マ
シタヨツテ来タ人達ハ皆コソコソ話シヲシテイマシタ皆ハ行コカト言ツテ外ヘ出テ
行キマシタAモ出テ行クノデ私モ外へ出マシタソシテ私ハAニドコヘ行クカトキキ
マシタラAハ荷物ヲ取リニ行クト私ニ言ヒマシタソシテ私ノ家ノ方へAモ来ルノデ
私モ一諸ニ歩イテ来テ二本ノ別レ路へ来テ私俺ハ此コデゴブレイスルト言ツタラA
ガ此方カラ行コウト誘ツタノデ私ハドツチラヲ通ツテ帰ツテモ一諸ダカラAト同ジ
路カラ帰リマシタソノ途中事件ノ倉庫ノ前マデ来マシタ他ノ人ハ倉庫ノ東へ行来マ
シタAハ立チ止ツテ居リマシタソコデ私ハ家ニ帰ルト言ツテ行来マシタラAガ後カ
ラツイテ来テ此コデ一寸待ツテクレ俺達モスグ帰ルカラト言ワレマシタノデ何ノ気
ナシニソコヘ立ツテオリマシタソシテAハ倉庫ノ方へ行キマシタ私ハソコデ七八分
位立ツテ居リマシタラ誰カ知ラナイ人ガ大キナ荷物ヲ持ツテヘイノソバヘ置イテ又
行キマシタソシテスグ又三ツバカリソコヘ運ビマシタソレカラシバラクシテカラ西
ノ方カラ他ノ二人カ荷車ヲヒイテ来テ荷物ノアル所デ止メテソノ荷物ヲ積モウトシ
タトコロガ倉庫ノ方カラ車ヲ此方へ持ツテ来イト言フ者ガ居リマシタソレデ車ヲ東
ノ方ヘソノ二人ガヒイテ行来マシタソレカラシバラクノ事ハ分リマセンデシタ又シ
バラクシテカラ倉庫ノ方カラ私ヲヨビマシタカラ私ハ何ダロウカト思ツテコエノス
ル方へ行キマシタラ荷車ニ荷物ガ一パイツンデアリマシタ行コウト言ツテ荷車ヲヒ
イテ行クノデ私モ後カラツイテ行キマシタAガ先頭ニ立ツテ私ノ家ノ方へ向カツテ
行キマシタ私モツイテ家へ行キマシタ荷物ハ私ノ家ニ入レマシタソレカラ私ハ荷物
ハソノママニシテオイテスグネマシタソシテ夜中ニメヲサマシタラ二人ガ荷物ヲホ
ドイテ私ノネテイルトナリノ部屋ノエンノ下へ入レテ居リマシタ私モ起キテ伝ツテ
入レマシタソレカラ又ネマシタソシテ翌日ノ朝六時頃玄カンノ戸ヲアケル者ガ居タ
ノデ眼ヲサマシテ誰カト思ツテ玄カンノ方ヲ見タラ大ゼイケイサツノ人ガ武装シテ
来テ動クナト言ヒマシタソノ場デ私ノ家ニ居タ者ハ皆タイホサレマシタソシテケイ
サツエ行ツテ調書ヲ取ル時Bガ最初ニ取リ次ニ丸山トCガカレラ三人ハ肉親ノ兄弟
でアリマスカラ相当有利ニナル様ニ調書ヲ書イタノデ私ニハ大変不利ナ調書ガ出来
タノデアリマス成程私ハ当時事件ノ現場ニ居リマシタカラ私ヲ知ラナイ者ハ私ヲ共
犯者ト思ツタカモ知リマセンガ私ハ共犯者デモナケレバ同意シタモノデモアリマセ
ン只私ハAニ荷物ヲアズカツテ呉レトタノマレマシテアズカツタノガ私ノヲチ度デ
シタ第一審公判ニ行ク時書イタ調書ガ余リニモ私ノ行ツタ行動ヤ私ノ考ヘトチガツ
テイルノデシタガ共犯ノEガ法テイニ立ツテ検事サンノ訊問ノ時ニ少シ位チガツテ
居テモハイハイト返事ヲセヨト言ヒマシタ又チガツテ居ルノヲ一ツ一ツチガツテイ
ルト言ツテイタラ公判ガノビルバカリダト言ヒマシタノデ私モ半年モ拘置所ニ居タ
ノデ此レ以上ノビテハ大変困ルトオモツテEノ言フ通リヘンヂオシテソノ通リデス
ト答ヘマシタチガツテ居ルノオ返事ヲシタノハ私ノマチガツタ考ヘデシタ私ハ裁判
所へ来ルノハ初メテデアリマスシ本当ニ裁判ノ事ヲ少シモ知ラナイノデEノ言フ様
ニマチガツタコトモソレニマチガイアリマセント返事ヲシマシタ又モウ一ツ私ニ不
利ニオモワレテオリマスノハ事件ノ倉庫ガ現在Fノ倉庫ニナツテ居リマス私ハ昭和
十五年カラ昭和十七年マデa駅前ノFニ勤メテイタノデ私ガFノ事ヲヨク知ツテイ
ルト思ワレテイマスガ私ガFニイタ頃ハ事件ノ倉庫ハFデハナクG毛糸ノ会シャデ
アリマシタソレカラ私ノ家モAトBトCガキテ部屋ヲ貸シテ呉レトカレラガ来タ時
A達ハ既ニ此ハ事件ヲ計画シテイタ事ヲ後ニナツテ私ハ知リマシタソシテ事件ヲ起
シタ時マデ私ハ何ニモ知リマセンデシタ私ハ昭和十八年ヨリ終戦マテ軍属トシテ南
方ヘハケンサレテイマシタ終戦後復員シテ来テFノ倉庫ガホントニ何処ニアルノカ
知リマセンデシタ現在私ノ家デハbニ妻ト子供一人居リマス母ハ長女ヲ連レテ故キ
ヨデ今日来ルカ明日来ルカト待ツテ居リマスガ母ノ方デモ妻ノ方デモ私ガ居ナイノ
デ生活ニ相当コマツテヲリマスソレデ私ハベンゴシモカケルコトワデキマセンナニ
ブンヨロシクヲネガイシマス拘置所ハ精神ノ修養所ト言ワレテイマスガ私モ長イ拘
置所生活ノ間ニ私ノ行ツタ行動ヤ公判ノ時ノ事ヲ一々反省シマス時万感胸ニ迫ルモ
ノガアリマス事件ヲ起シテカラ此ノ様ナ事ヲ申シ上ゲルノハ言ヒ訳ヲ申シテ居ル様
デ私トシテモ誠ニ申シ辛イノデアリマスシカシ私ニハ六十五歳ニナル母ガアリ妻ガ
アリ二人ノ子供ガアル私ハマイ日マイ日修養ヲカン房デシナガラ今迄私ノ行ツタ行
動ニ対シテ後カイ致シテ居リマス六十五歳ニモナル母ハ何時死ヌカ判リマセン私ハ
セメテ母ノ死ヌ前ニ国へ帰ヘツテ親ヤニコウコヲシタイノデアリマス死水ノ一パイ
デモクンデヤリタイト思イマス御願ヒデキマスレバ私ハ手ヂヨウヲカケラレテモヨ
ロシイデスカラ国ヘカヤシテイタダキタイノデス御願ヒイタシマス色々ト勝手ナ事
ヲ申シ上ゲマシタガ何分共ニ御カン大イナ御シヨチヲ御願ヒ致シマス」というので
あるが、
 論旨は、要するに、原判決の事実の認定を非難し、かつ、寛大な処分を望むとい
うに帰着するのであつて、上告適法の理由とはならない。
 弁護人猪股正清の上告趣意第一点は「原判決ハ共犯ニ関スル法理ヲ無視シテ不当
ニ法律ヲ適用シタル違法アルモノト思料ス則チ原判決ハ被告人ニ対シ刑法第六十条
ヲ適用シタリ然レトモ凡ソ数人カ強盗又ハ窃盗ノ実行ヲ共謀セル場合ニ於テハ共同
正犯ノ成立スルカ為メニハ各共謀者カ強盗又ハ窃盗ノ構成要件タル実行行為ノ全部
若クハ其ノ一部ニ加功シタルコトヲ要スルモノト解スヘキモノトス故ニ単ニ共謀ノ
事実アルニ止マリ実行ノ分担ナキニ於テハ之ヲ共同正犯ト解スルコト困難ニシテ共
謀ノ上互ニ決意シタルニ止マル点ニ於テハ未タ犯罪ノ実行ナシ、其ノ決意ニ基キテ
実行ノ担任者ヲ定メタルハ其ノ点ニ於テ教唆又ハ従犯トシテ成立アルモノト解スヘ
キナリ(H博士日本刑法大正十二年版三五二頁参照)、而シテ本件ニ於テハ被告人
ハ窃取シタル財物ヲ預カルコトノミニ付謀議ニ参加シタルノミニシテ強盗ノ謀議ヲ
為シタル事実ナク、亦窃取強取ノ犯意モナシ、仮リニ強窃盗ノ謀議ニ参加シタリト
スルモ其ノ実行ノ分担ナク単ニ倉庫附近ノ道路ニ於テ窃取シタル財物ヲ預カルヘク
待合セ且之ヲ預リテ正犯ヲ幇助シタル関係ニ止マルモノニ過キサルコトハ被告人ノ
所為ノ真相ニシテ之レハ記録上明ナリ、原判決ハ此点ニ付「被告人Iに於て見張役
を引受け同所附近で見張を為し」ト認定シタルモノナリ、然レハ被告人ノ所為ヲ従
犯トシテ論スヘキモノナルニ拘ハラス原判決カ輙ク被告人ノ所為ヲ以テ強盗ノ共同
実行正犯ニ問擬シタルハ違法アルモノト思料ス」というにある。
 しかし、原判決の確定するところによれば、本件建造物侵入、強盗及び窃盗の行
為は、すべて、被告人ら共犯者八名の共謀の上でなされたもので、かつ、その強盗
については、被告人は、屋外にあつて、見張りの役を担当したというのである。こ
れと異る事実を主張する論旨は、結局、原審の事実の認定を攻撃するものであつて、
上告適法の理由とならぬ。しかして、数名のものが、強盗の共謀をして、その内一
名が屋外の見張りを担当し、他のものが強盗の実行々為をした場合には、その見張
りをした者についても、強盗の共同正犯が成立することは、既に当裁判所の判例と
するところである。(昭和二十三年三月十六日、言渡、昭和二十二年(れ)第二三
五号事件判決。)されば、原判決が、被告人に対し、強盗の正犯に関する法条を適
用したのは正当であつてこれと反対の理論を主張する論旨は、採用することはでき
ない。
 同第二点は「原判決ハ虚無ノ証拠ヲ採用シタル違法アリ、則チ原判決ハ「被告人
に於て見張役を引受け同所附近で見張を為し」タル事実ヲ認定シ其ノ証拠トシテ「
被告人Iが当公廷に於て為した……Jから頼まれて同人等が右倉庫内から盗んで来
るのを同倉庫附近で待合せて居た旨の供述」アルモノトシテ之ヲ引用シタルコトハ
原判文自体ニ依リ明白ナリ然レトモ原審公判調書ヲ通覧スルニ前記「Jから頼まれ
て云々」ノ如キ記載ナシ然ルニ原判決カ其ノ旨ノ供述アリタルモノトシテ之ヲ引用
シタルハ虚無ノ証拠ヲ罪証ニ供シタルモノト謂ハサヘカラス」というのである。し
かし、原審公判調書によれば、被告人は、原審の公判において、自分は共犯者の一
人Kから頼まれて、同人等が判示倉庫内から盗んで来るのを倉庫附近で待ち合せて
いた旨供述したことがわかる。原判決が、この被告人の供述を判示第一事実の証拠
として引用するにあたり、KをJと間違えて、「Jから頼まれて云々」と記載した
ことは所論のとおりであるけれども、要は被告人が、本件共犯者の一人から頼まれ
て見張りをするに至つた経緯に関するもので、その共犯者の一人が何人であつたか
は、右採証の趣旨に差異を来すものではないのであるから、この点をとらえて、原
判決に、虚無の証拠により事実を認定した違法ありという論旨は理由がない。
 以上、本件上告は理由がないから、刑事訴訟法第四百四十六条により、主文のご
とく判決する。
 右は、裁判官全員一致の意見である。
 検察官福尾彌太郎関与
  昭和二三年七月三日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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