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令和2年5月27日判決言渡
平成30年(ネ)第10016号損害賠償請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所平成27年(ワ)第12965号)
口頭弁論終結日令和2年3月9日
判決
控訴人
藤崎電機株式会社訴訟承継人
株式会社GF
訴訟代理人弁護士山上和則
雨宮沙耶花
大川恒星
訴訟代理人弁理士豊栖康司
被控訴人大川原化工機株式会社
訴訟代理人弁護士阪口徳雄
前川拓郎
谷川直人
訴訟代理人弁理士渡邉一平
補佐人弁理士藤本昇
北田明
中谷寛昭
主文
1原判決を次のとおり変更する。
⑴被控訴人は,控訴人に対し,2189万8823円及びこれ
に対する平成28年1月21日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
⑵控訴人のその余の請求を棄却する。
2訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを9分し,その8を控訴
人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
3この判決の第1項⑴は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人に対し,1億9438万3651円及びこれに対する平
成28年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要(略称は,特に断らない限り原判決に従う。)
1事案の要旨
本件は,発明の名称を「液体を微粒子に噴射する方法とノズル」とする特許
(特許第2797080号。請求項の数7。以下,この特許を「本件特許」と
いい,本件特許に係る特許権を「本件特許権」という。)の特許権者であった
訴訟承継前控訴人藤崎電機株式会社(以下「藤崎電機」という。)が,被控訴
人による別紙製品目録記載の各製品(以下「被告各製品」と総称し,同目録記
載の表示のとおり,それぞれを「イ号製品」などという。)の製造及び販売が
本件特許権の侵害又は間接侵害(特許法101条4号又は5号)に該当する旨
主張して,被控訴人に対し,本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求
及び不当利得返還請求として合計3億2505万円及びこれに対する平成28
年1月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの遅延損害金の支払を
求めた事案である。
原審は,被告各製品は,噴霧流同士が衝突する前に「粒子径10μm以下の
液滴」を噴射するものではなく,本件特許の特許請求の範囲の請求項1,2,
4及び6に係る発明の構成要件中,「液体を微粒子に噴射する」構成を充足す
るものと認められないとして,その余の点について判断することなく,藤崎電
機の請求をいずれも棄却した。
藤崎電機は,原判決を不服として本件控訴を提起した。その後,控訴人は,
吸収合併により藤崎電機の権利義務を包括承継し,本件について訴訟承継した
(以下,特に断りのない限り,藤崎電機と控訴人を区別せずに,「控訴人」と
いう。)。
控訴人は,当審において,請求項1及び2に係る本件特許権の間接侵害に基
づく損害賠償請求に関する部分の訴えを取り下げ,また,控訴の趣旨第2項記
載の請求額に請求の減縮をした。
2前提事実(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨によ
り認められる事実である。)
⑴当事者
ア藤崎電機は,電気工事業,電気機械,電気器具の販売等を目的とする株
式会社である。
控訴人は,令和元年9月1日,吸収合併により,藤崎電機の権利義務を
包括承継した。
イ被控訴人は,乾燥装置,焼却装置,廃棄物処理装置の設計,製造及び販
売等を目的とする株式会社である。
⑵本件特許
ア藤崎電機は,平成8年2月16日,本件特許に係る特許出願(特願平8
-54066号,優先日平成7年2月16日。以下「本件出願」という。)
をし,平成10年7月3日,本件特許権の設定登録を受けた(甲1,2)。
本件特許権は,平成28年2月16日に期間満了により消滅した。
イ本件特許の特許請求の範囲の請求項4及び6の記載は,次のとおりであ
る(以下,請求項4に係る発明を「本件発明4」,請求項6に係る発明を
「本件発明6」という。甲2)。
【請求項4】液体を流動させて薄膜流とする傾斜面(7)を有し,この
傾斜面(7)を流動する液体の薄膜流を空気中に微粒子として噴射するノ
ズルにおいて,
傾斜面(7)を液体の流動方向に平滑な面とすると共に,この傾斜面(7)
に加圧空気を噴射して,傾斜面(7)に接触しながら,しかも,傾斜面(7)
と平行に一定の方向に高速流動する空気流をつくる空気口(10)と,空
気流を高速流動させている傾斜面(7)の途中に,空気流の流動方向に交
差するように液体を供給する供給口(5)とを備え,
供給口(5)から傾斜面(7)に供給された液体を,高速流動する空気流
で平滑面に押し付けて薄く引き伸ばして薄膜流とし,薄膜流を空気流で空
気中に微粒子として噴射することを特徴とする液体を微粒子に噴射するノ
ズル。
【請求項6】下記の全ての構成を有する液体を微粒子に噴射するノズル。
(a)ノズルは,液体をリング状に噴射する供給口(5)と,この供給口
(5)に液体を供給する筒状の液体路(21)と,供給口(5)から噴射さ
れる液体を流動させる傾斜面(7)と,この傾斜面(7)に加圧空気を噴射
する空気口(10)と,この空気口(10)に空気を供給する空気路(1)
とを備える。
(b)供給口(5)は所定幅のスリット状に形成されている。
(c)供給口(5)は,リング状に形成されている。
(d)供給口(5)は傾斜面(7)の途中に開口されている。
(e)供給口(5)の傾斜面(7)に対する角度αは鈍角に設計されてい
る。
(f)傾斜面(7)は液体の流動方向に平滑面となっている。
(g)空気口(10)は傾斜面(7)の途中に開口された供給口(5)に
向かって開口されている。
(h)空気路(1)に,軸方向に流動する空気をスパイラルに回転させる
ヘリカルリブ(22)を配設しており,空気口(10)から噴射される空気
がスパイラル状に回転しながら傾斜面(7)に沿って噴射されるように構成
されている。
⑶本件発明4及び6の構成要件の分説
本件発明4及び6を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分
説した構成要件を符号に対応させて,「構成要件ア」などという。)。
【本件発明4】
ア液体を流動させて薄膜流とする傾斜面を有し,この傾斜面を流動する液
体の薄膜流を空気中に微粒子として噴射するノズルにおいて,
イ傾斜面を液体の流動方向に平滑な面とすると共に,
ウこの傾斜面に加圧空気を噴射して,傾斜面に接触しながら,しかも,傾
斜面と平行に一定の方向に高速流動する空気流をつくる空気口と,
エ空気流を高速流動させている傾斜面の途中に,空気流の流動方向に交差
するように液体を供給する供給口とを備え,
オ供給口から傾斜面に供給された液体を,高速流動する空気流で平滑面に
押し付けて薄く引き伸ばして薄膜流とし,薄膜流を空気流で空気中に微粒
子として噴射することを特徴とする
カ液体を微粒子に噴射するノズル。
【本件発明6】
キ下記の全ての構成を有する,液体を微粒子に噴射するノズル。
(Ⅰ)ノズルは,液体をリング状に噴射する供給口と,この供給口に液体を
供給する筒状の液体路と,供給口から噴射される液体を流動させる傾斜
面と,この傾斜面に加圧空気を噴射する空気口と,この空気口に空気を
供給する空気路とを備える。
(Ⅱ)供給口は,所定幅のスリット状に形成されている。
(Ⅲ)供給口は,リング状に形成されている。
(Ⅳ)供給口は,傾斜面の途中に開口されている。
(Ⅴ)供給口の傾斜面に対する角度αは,鈍角に設計されている。
(Ⅵ)傾斜面は,液体の流動方向に平滑面となっている。
(Ⅶ)空気口は,傾斜面の途中に開口された供給口に向かって開口されてい
る。
(Ⅷ)空気路に,軸方向に流動する空気をスパイラルに回転させるヘリカル
リブを配設しており,空気口から噴射される空気がスパイラル状に回転
しながら傾斜面に沿って噴射されるように構成されている。
⑷被控訴人の行為等について
ア被控訴人は,遅くとも平成20年頃から,被告各製品を販売している。
イイ号製品の構成は,別紙イ号製品説明書記載のとおりであり,ハ号製品
の構成は,別紙ハ号製品説明書記載のとおりである。
ロ号製品は,イ号製品を備える微粒子製造用スプレードライヤであり,
ニ号製品は,ハ号製品を備える微粒子製造用スプレードライヤである。
ウイ号製品及びハ号製品は,本件発明4の構成要件カを充足する。
3争点
⑴イ号製品及びロ号製品の本件発明4の技術的範囲の属否(争点1-1)
⑵ハ号製品及びニ号製品の本件発明4の技術的範囲の属否(争点1-2)
⑶イ号製品及びロ号製品の本件発明6の技術的範囲の属否(争点2)
⑷無効の抗弁の成否(争点3)
⑸被控訴人が賠償又は返還すべき控訴人の損害額等(争点4)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1-1(イ号製品及びロ号製品の本件発明4の技術的範囲の属否)につ
いて
(控訴人の主張)
⑴イ号製品の構成要件アの充足性
ア「微粒子」の意義
本件発明4の構成要件アの「液体を流動させて薄膜流とする傾斜面を有
し,この傾斜面を流動する液体の薄膜流を空気中に微粒子として噴射する」
とは,傾斜面を流動する液体が傾斜面を離れるときに微粒子として噴射す
ることを意味するものであるところ,この「微粒子」の粒径についての限
定はない。
この点に関し原判決は,本件出願の願書に添付した明細書(以下,図面
も含めて「本件明細書」という。甲2)の記載及び控訴人が本件出願の審
査過程において提出した平成9年10月6日付け意見書(以下「本件意見
書」という。乙3)の記載によれば,本件発明4の「液体を微粒子に噴射
する」(構成要件ア,オ及びカ)とは,高速流動空気によって押し付けら
れた液体の薄膜流が平滑面ないし傾斜面から離れるときに「10μm以下
の液滴の微粒子」になることをいい,本件発明4の技術的範囲に属するの
は,D50,ザウター平均径のいずれの指標を用いて測定しても,「噴射
される微粒子の粒子径が10μm以下」となる場合に限ると解するのが相
当である旨判断した。
しかしながら,①本件発明4の特許請求の範囲(請求項4)には,「微
粒子」の粒径を「10μm以下」に限定する記載はなく,「微粒子」の用
語は,「細かな粒子」という意味にすぎないこと,②本件明細書中に「1
0μm以下」の微粒子に言及した箇所は一実施例(【0072】)にすぎ
ず,本件明細書の記載から「微粒子」の粒径を「10μm以下」に限定解
釈すべき理由は見いだせないこと,③本件意見書中の「本発明の噴射方法
とノズルは,液体を,10μm以下の極めて小さい微粒子として,安定し
て噴射することが可能です。」との一文は,「本発明」の目的(極めて小
さい微粒子を噴射すること)を,具体的な数値例(10μm以下)を挙げ
て繰り返しているだけであり,粒子径が「10μm以下」であることで格
別な作用効果が奏される旨を述べたものではなく,本件意見書中には,本
件発明4の微粒子の粒径を「10μm以下」に限定することの技術的意義
を述べた記載はないことに照らすと,本件発明4の「微粒子」を「10μ
m以下」の粒径のものに限定解釈した原判決の判断は誤りである。
イ構成要件充足性
イ号製品においては,後記⑶のとおり,「液体をノズルの中心側へ集束
するようにガイドする傾斜部(7)」(構成あ)上で液体が薄膜流となっ
ているため,構成要件アの「液体を流動させて薄膜流とする傾斜面」の構
成を備えている。
そして,イ号製品においては,「傾斜部(7)を流動する液体を,傾斜
部(7)から離れた流動方向下流側の外部衝突点(A)で衝突させて空気
中に微粒子として噴射する」構成(構成あ)を有するところ,後記⑶のと
おり,傾斜部(7)に沿って流れる薄膜流は,外部衝突点(A)で衝突す
る前に,傾斜部(7)から離れる時点で既に微粒子となっているから,構
成要件アの「傾斜面を流動する液体の薄膜流を空気中に微粒子として噴射
する」との構成を備えている。
したがって,イ号製品は,構成要件アを充足する。
⑵イ号製品の構成要件イないしエの充足性
ア構成要件充足性
(ア)イ号製品の傾斜部(7)は,別紙イ号製品説明書の図面のとおり,
内側傾斜領域(7B’)と外側傾斜領域(7A’)を有する「傾斜面」
であり,「流体の流動方向に平滑な面」(構成い)であるから,構成要
件イの「傾斜面を液体の流動方向に平滑な面とする」との構成を備えて
いる。
(イ)イ号製品は,別紙イ号製品説明書の図面のとおり,「内側傾斜領域
(7B’)上に配置され,外部衝突点(A)に向けて気体を噴射するよ
うに円環状に形成された空気口(10)」(構成う)を備えている。
そして,イ号製品において,空気口(10)から外部衝突点(A)に
向けて気体(加圧空気)を噴射する場合,傾斜部(7)に接触しながら,
傾斜部(7)と平行に一定の方向に空気流が高速流動することになるか
ら,イ号製品の空気口(10)は,構成要件ウの「傾斜面に加圧空気を
噴射して,傾斜面に接触しながら,しかも,傾斜面と平行に一定の方向
に高速流動する空気流をつくる空気口」に該当する。
次に,イ号製品は,「内側傾斜領域(7B’)と外側傾斜領域(7A’)
との間に形成される,液体を供給されるための円環状の供給口(5)」
(構成え)を備えている。
イ号製品においては,別紙控訴人主張図面⑴記載のとおり,内側傾斜
領域(7B’)には,空気口(10)の外部の下側傾斜面(7B’1)
と空気口(10)の内部の内部傾斜面(7B’2)が存在し,空気口(1
0)の内部を進む気体流は,経路を進行する過程で徐々に減圧されて膨
張し,これに応じて加速され,空気口(10)出口の手前でほぼ大気圧
まで減圧されて膨張による加速は終了し,空気口(10)出口では高速
化された気体流が得られている。そうすると,イ号製品においては,下
側傾斜面(7B’1)及び内部傾斜面(7B’2)のいずれにおいても
高速流動している空気流が存在するから,内側傾斜領域(7B’)は,
「空気流を高速流動させている傾斜面」に該当する。また,少なくとも,
空気口(10)出口では高速化された気体流が得られているから,内側
傾斜領域(7B’)のうち,空気口(10)の外部の下側傾斜面(7B’
1)は,「空気流を高速流動させている傾斜面」に該当する。このよう
に内側傾斜領域(7B’)において空気流の高速流動が開始しているた
め,外側傾斜領域(7A’)も,「空気流を高速流動させている傾斜面」
に該当する。
したがって,「内側傾斜領域(7B’)」と「外側傾斜領域(7A’)
との間にある「供給口(5)」は,構成要件エの「空気流を高速流動さ
せている傾斜面の途中」に備えた「空気流の流動方向に交差するように
液体を供給する供給口」に該当する。
(ウ)以上によれば,イ号製品は,構成要件イないしエを充足する。
イ被控訴人の主張について
被控訴人は,①構成要件エの「空気流を高速流動させている傾斜面」は,
液体の供給口を境に空気流の進行方向の下流側の「上側傾斜面」と上流側
の「下側傾斜面」から構成されるところ,構成要件ウの記載,本件明細書
の記載及び本件意見書の記載によれば,「下側傾斜面」は,空気口から加
圧空気が噴射され得る「幅」をもつ壁面でなければならないとともに,高
速流動する空気流が接触しながら一定の方向に流動できる「長さ」を有す
る「面」であることが必要不可欠である,②控訴人が下側傾斜面と主張す
る別紙控訴人主張図面⑴記載の7B’1は,イ号製品の空気口(10)よ
り0.5mm未満程度突出した,実物では視認できない程度の「線状のエ
ッジ部」であって,「面」(傾斜面)ではなく,空気口からの加圧空気を
噴射して高速流動させるための助走区間として作用するものではないから,
「下側傾斜面」に相当するものではない,③イ号製品には「下側傾斜面」
が存在しないから,イ号製品の「液体を供給する供給口(5)」は,構成
要件エの「空気流を高速流動させている傾斜面の途中」に備えた「供給口」
に該当しないとして,イ号製品は,構成要件ウ及びエを充足しない旨主張
する。
しかしながら,本件発明4の特許請求の範囲(請求項4)は,「空気流
を高速流動させている傾斜面(7)の途中に,…液体を供給する供給口(5)
とを備え」と規定しているが,傾斜面(7)のどの位置に供給口(5)を
設けるか,すなわち供給口(5)よりも上流側に傾斜面(7)をどれだけ
設けるかを規定しておらず,その寸法についての限定はない。
また,本件明細書には,供給口(5)の上流側の「内側傾斜領域」の長
さが異なる複数の実施例の図面(図5,6,8)が例示されており,特に
図8では,「内側傾斜領域」が供給口(5)の下流側の「外側傾斜領域」
に対して相当短くなっており,「内側傾斜領域」が「外側傾斜領域」に比
して短い場合も,本件発明4の技術的範囲に含まれることが示されている。
そして,空気口から噴射された空気はほぼ一瞬で膨張し速度を増すもの
である上,イ号製品の7B’1の実寸は0.5mm程度であるが,液体の
供給口(5)の幅が0.5mm,空気口(10)の幅が0.25mm(乙
7の2,3)であり,イ号製品の7B’1と液体の供給口(5)及び空気
口(10)の大きさとの相対的な比率を考慮しても,イ号製品の7B’1
は,決して小さいものではなく,高速流動する空気流が接触しながら一定
の方向に流動できる「面」(「傾斜面」)に該当するものといえる。
したがって,被控訴人の上記主張は失当である。
⑶イ号製品の構成要件オの充足性
ア「高速流動する空気流で平滑面に押し付けて」の意義
(ア)構成要件オの「供給口から傾斜面に供給された液体を,高速流動す
る空気流で平滑面に押し付けて薄く引き伸ばして薄膜流とし」にいう「液
体」を「高速流動する空気流で平滑面に押し付けて」とは,空気口から
出る「傾斜面と平行に一定の方向に高速流動する空気流」の方向と供給
口から「空気流の流動方向に交差するように供給される液体」の方向と
の間に角度が生じることから,高速流動する空気流により「液体」(液
体流)に対して傾斜面に押しつける力が作用することを規定したもので
ある。
そして,本件発明4の特許請求の範囲(請求項4)は,高速流動する
空気流で液体の全面を均一に押し付けることや液体を傾斜面に垂直な方
向に押し付けることまで規定していないから,「液体」(液体流)が部
分的に押圧された状態であっても,「高速流動する空気流で平滑面に押
し付けて」に該当すると解すべきである。
(イ)これに対し被控訴人は,本件明細書の記載及び本件意見書の記載を
挙げて,構成要件オの「高速流動する空気流で平滑面に押し付けて」と
は,液体が高速空気流の噴射力による押圧力で上側傾斜面に押し付けら
れて当接又は密着した状態となっていることを意味する旨主張する。
しかしながら,本件発明4の特許請求の範囲(請求項4)は,押し付
けられた液体が上側傾斜面に「当接又は密着した状態」となっているこ
とまで規定していない。
次に,被控訴人の挙げる本件明細書の図11及び図14には,上側傾
斜面が湾曲している態様の実施例が示されているが,本件発明4は,こ
れらの実施例に限定されるものではなく,図5等に示すように,上側傾
斜面が下側傾斜面と平行な態様の実施例も含んでいる。また,図5には,
供給口から供給された液体が黒墨で示されているが,特段の技術的意義
を表現しようとしたものではなく,他の実施例の図6及び図8には,こ
のような黒墨は一切描かれていないことに照らしても,図5において液
体の厚さが先細りに描かれたことに特段の技術的意義はない。
また,控訴人は,本件意見書において,ボディ1とピントール2との
間の隙間の内部の気流中に流体を供給する内部混合型の「引用例1」(乙
4)記載のノズルは,「液体を供給する隙間の気体速度を速くすること」
及び「隙間を流動する流体を極めて薄い薄膜流とすること」が原理的に
難しい構造であることを述べて,同ノズルと「本発明」のノズルとの構
造上の差異について差別化したが,これによって「本発明」は高速空気
流の噴射力による押圧力で押し付けられた液体が上側傾斜面に「当接又
は密着した状態」となっていることまで述べたものではない。
したがって,被控訴人の上記主張は失当である。
イ構成要件充足性
(ア)イ号製品は,「空気口(10)から噴射する気体と,供給口(5)
から供給する液体とを,外側傾斜領域(7A’)でガイドして集束させ」
ること(構成お)からすると,供給口(5)から供給されたノズルの軸
方向(垂直方向)に直進する液体流が,空気口(10)から噴射する空
気流によって,空気流と合流する時点で,外側傾斜領域に沿って平行に
進むように空気流の進行方向に進行方向が曲げられているから,イ号製
品においては,液体流に対し高速流動する空気流による傾斜面への押し
付けの作用が働いていると考えるのが自然である。
加えて,被控訴人提出の写真及び動画(乙9,10,26)には,イ
号製品において,空気流の存在下で傾斜面に沿って流れる液膜が薄く引
き伸ばされて薄膜となり,薄膜流が形成されていることが示されている
こと,控訴人によるイ号製品の噴霧試験の結果,空気流のない状態では,
傾斜面上に液体の薄膜流が形成されないが,空気流の存在下では,傾斜
面上に液体の薄膜流が形成されることが確認されたこと(甲46の1な
いし4)からすると,イ号製品においては,供給口(5)から供給され
た液体流に対し高速流動する空気流による傾斜面への押し付けの作用が
働き,高速流動する空気流で液体を傾斜面(平滑面)に押し付けて薄く
引き伸ばして薄膜流とするものといえるから,イ号製品は,構成要件オ
の「液体を,高速流動する空気流で平滑面に押し付けて薄く引き伸ばし
て薄膜流とし」との構成を備えている。
そして,イ号製品では,「傾斜部(7)から離れた流動方向下流側の
外部衝突点(A)で衝突させて空気中に微粒子として噴射する」(構成
お)ところ,傾斜部(7)に沿って流れる薄膜流は高速流動する空気流
によって薄膜流の表面が波立てられ,液滴の飛散や微粒化が生じ,外部
衝突点(A)で衝突する前に,傾斜部(7)から離れる時点で既に微粒
子となっており(甲10,19,34等),外部衝突点でさらに微粒化
させているだけであるから,構成要件オの「薄膜流を空気流で空気中に
微粒子として噴射する」構成を備えている。なお,本件明細書の図6に
は,三角形状に形成された二つの傾斜面にそれぞれ形成された薄膜流同
士を衝突させて微粒化させる構成についても開示されており,外部衝突
点でさらに微粒化させる構成のものも,本件発明4の実施態様に含まれ
る。
したがって,イ号製品は,構成要件オを充足する。
(イ)これに対し被控訴人は,乙23の鑑定書を根拠として,イ号製品に
おいては,供給口(5)から供給された液体は,空気口(10)から噴
出された外部傾斜領域に平行な方向に沿って流動する空気流の強い剪断
応力と液体の自重で下流側へ引っ張られて傾斜面(外部傾斜領域)に沿
って流れており,空気流によって傾斜面に液体を押し付ける力は作用し
ていないから,「高速流動する空気流で平滑面に押し付けて」おらず,
構成要件オの「液体を,高速流動する空気流で平滑面に押し付けて薄く
引き伸ばして薄膜流とし」との構成を具備していない旨主張する。
しかしながら,前記(ア)のとおり,イ号製品においては,直進してい
た液体流が,空気流と合流する時点で,進行方向を変えて傾斜面に沿っ
て進み,空気流の存在下で傾斜面上に液体の薄膜流を形成しているから,
液体流に対し高速流動する空気流による傾斜面への押し付けの作用が働
いていると考えるのが自然である。
また,乙23は,液膜と平行となるように空気を高速で流した場合に
平滑面に押し付ける力が生じていない旨述べるが,もともと空気流と進
行方向の異なる液体流が空気流によって押し付けの作用が生じるのかが
検討されるべきであるのに,既に空気流と液体流が平行流となった状態
の検討では意味をなさず,実際には,液体流は,進行方向を曲げられた
後も,液膜表面が波立てられて隆起したり,液膜表面から液滴が飛散し,
平滑面から離れる斜め方向の速度ベクトルが生じ,液膜表面を流れる空
気流によって,その斜め方向の速度ベクトルを平滑面に沿う方向へ押し
戻す抗力が働くこと(甲15)からすると,乙23は,極度に理想化さ
れた状態について述べたものにすぎず,イ号製品に妥当するものではな
い。
さらに,被控訴人は,そのホームページにおいて,イ号製品と構造が
共通するハ号製品について,「液膜噴霧→微粒子化」という2段階の微
粒化を行っており,その第1段階において「原液は,エッジ面に沿って
薄く引き伸ばされ,液膜を形成します。」と述べていること(甲7,8)
をも考慮すると,イ号製品は,「液体を,高速流動する空気流で液体を
平滑面に押し付けて薄く引き伸ばして薄膜流」とする構成を備えるもの
といえる。
したがって,被控訴人の上記主張は失当である。
⑷小括
イ号製品が本件発明4の構成要件カを充足することは,前記第2の2⑷ウ
のとおりである。
そうすると,イ号製品は,本件発明4の構成要件アないしカを全て充足す
るから,本件発明4の技術的範囲に属する。
また,ロ号製品は,イ号製品を備える微粒子製造用スプレードライヤであ
るから,本件発明4の構成要件を全て充足し,本件発明4の技術的範囲に属
する。
(被控訴人の主張)
⑴イ号製品の構成要件アの充足性の主張に対し
ア「微粒子」の意義
本件発明4の「液体を微粒子に噴射する」(構成要件ア,オ及びカ)と
は,「高速流動空気によって押しつけられた液体の薄膜流が平滑面ないし
傾斜面から離れるとき」に「10μm以下の液滴の微粒子」になることを
いい,本件発明4の技術的範囲に属するのは,D50,ザウター平均径の
いずれの指標を用いて測定しても,「噴射される微粒子の粒子径が10μ
m以下」となる場合に限るとした原判決の判断に誤りはない。
イ構成要件充足性
イ号製品は,「気流に液体を供給して噴霧流とし,該噴霧流同士をノズ
ル外方で集束させて衝突させることで微粒子化する原理」である「衝突型
原理」(乙1の図15)を基礎とし,気液体が混じった高速噴流が衝突す
ることによって,微粒子を得られるものであり,この衝突前に微粒子を得
られるものではない。
したがって,イ号製品は,構成要件アの「液体を流動させて薄膜流とす
る傾斜面」の構成及び「傾斜面を流動する液体の薄膜流を空気中に微粒子
として噴射する」との構成を欠いているから,構成要件アを充足しない。
⑵イ号製品の構成要件イないしエの充足性の主張に対し
ア「空気流を高速流動させている傾斜面」の意義
本件発明4の特許請求の範囲(請求項4)の記載によれば,構成要件エ
の「空気流を高速流動させている傾斜面」は,液体を供給する供給口を境
に,上側傾斜面と下側傾斜面から構成される。そして,構成要件ウの「こ
の傾斜面に加圧空気を噴射して,傾斜面に接触しながら,しかも,傾斜面
と平行に一定の方向に高速流動する空気流をつくる空気口」との記載によ
れば,下側傾斜面は,空気口から噴射される加圧空気を受領できる一定の
「幅」と,接触しながら,しかも平行に一定の方向に高速流動させる空気
流をつくるための「長さ」を有する「面」であることが必要不可欠な要件
である。しかも,「面」とは,一般に,「平らな広がりのあるもの」をい
う。
また,本件明細書の【0020】及び【0038】には,下側傾斜面は,
高速の気流を供給口(5)側に送り出す作用をし,高速の空気流を上側傾
斜面に送流させるための助走区間として機能することが記載されている。
さらに,控訴人が本件出願の審査過程で提出した本件意見書(乙3)中
には,「ノズル内に設けた空気路を流れる空気は,圧力は高いが流速は遅
くなります。これに対して,開放された平滑面(下側傾斜面)に噴射され
た空気は,膨張して極めて高速な空気流となって流動します。このため,
本発明の噴射方法とノズルは,平滑面(下側傾斜面)を流動させます空気
流の速度を音速以上とすることも可能です。さらに,本発明は,平滑面に
沿って高速流動する空気流の途中であって,空気流と平滑面との間に液体
を供給します。」(7頁11行~17行)との記載がある。この記載は,
空気口(10)から噴射された空気が下側傾斜面に噴射されて液体の供給
口(5)に至るまでの間に膨張して加速し,供給口(5)に至った空気流
が液体を上側傾斜面に押し付けるほどに極めて高速になる旨を述べるもの
である。
以上の本件発明4の特許請求の範囲(請求項4)の記載,本件明細書の
記載及び本件出願の出願経過を参酌すれば,構成要件エの「空気流を高速
流動させている傾斜面」のうちの下側傾斜面は,空気口から加圧空気が噴
射され得る「幅」をもつ壁面でなければならないとともに,高速流動する
空気流が接触しながら一定の方向に流動できる「長さ」を有する「面」で
あることが必要不可欠である。
イ構成要件充足性
(ア)イ号製品の外側傾斜領域(7A’)が,「液体の流動方向に平滑な
面(傾斜面)」(構成要件イ)であることは認めるが,イ号製品の内側
傾斜領域(7B’)が「傾斜面」であることは否認する。
また,後記(イ)のとおり,イ号製品は,「空気流を高速流動させてい
る傾斜面」を有していないから,イ号製品の空気口(10)(構成う)
は,構成要件ウを充足しない。
(イ)イ号製品の内側傾斜領域(7B’)のうち,控訴人がイ号製品の下
側傾斜面であると主張する別紙控訴人主張図面⑴記載の7B’1は,イ
号製品の空気口(10)より0.5mm未満程度突出した(乙7の2,
8の2),実物では視認できない程度の「線状のエッジ部」であって,
「面」(傾斜面)ではなく,空気口からの加圧空気を噴射して高速流動
させるための助走区間として作用するものではないから,構成要件エの
「空気流を高速流動させている傾斜面」のうちの下側傾斜面に相当する
ものではない。また,イ号製品の内側傾斜領域(7B’)のうち,別紙
控訴人主張図面⑴記載の7B’2は,空気口よりも外側にないから,構
成要件エの「空気流を高速流動させている傾斜面」ではない。
そして,イ号製品には,構成要件エの下側傾斜面が存在しない以上,
内側傾斜領域(7B’)と外側傾斜領域(7A’)との間にある供給口
(5)は,構成要件エの「空気流を高速流動させている傾斜面の途中」
に備えた「液体を供給する供給口」に該当しない。
したがって,イ号製品は,構成要件エを充足しない。
⑶イ号製品の構成要件オの充足性の主張に対し
ア「高速流動する空気流で平滑面に押し付けて」の意義
「押し付けて」とは,「力を入れて押し他の物に付けること」(三省堂
大辞林),「何かに力を加えることでそれ自体を動かさないようにするこ
と」(実用日本語表現辞典)を意味するから,構成要件オの「液体を,高
速流動する空気流で平滑面に押し付けて薄く引き伸ばして薄膜流とし」に
いう「押し付けて」とは,液体が上側傾斜面に押し付けられて当接又は密
着した状態を意味するものと解される。
また,本件出願の審査経過によれば,本件出願時の特許請求の範囲は請
求項1ないし9(以下「旧請求項1ないし9」という。)からなり,「薄
膜流(8)」の用語は,旧請求項1及び2においてのみ,「液体を,傾斜
面(7)に沿って高速流動させる空気流で薄く引き伸ばして薄膜流とし」
と記載され,一方で,「押し付けて」の用語は,旧請求項1ないし9のい
ずれにも記載されていなかったところ,平成9年8月5日付け拒絶理由通
知(以下「本件拒絶理由通知」という。乙2。)を受けて,同年10月6
日付け手続補正(以下「本件補正」という。乙28)により,旧請求項1
及び2は,「押し付けて」の用語を追加して,「高速流動する空気流で平
滑面に押し付けて薄く引き伸ばして薄膜流とし」と減縮補正され,同様に
旧請求項4も,構成要件オのとおり減縮補正されたものである。
加えて,本件補正の際に提出された本件意見書(乙3)には,「さらに,
本発明は,平滑面に沿って高速流動する空気流の途中であって,空気流と
平滑面との間に液体を供給します。ここに供給された液体は,高速流動す
る空気流で,平滑面に押し付けられて平滑面の表面に沿って引き伸ばされ
ます。引き伸ばされた液体の薄膜流は,平滑面から剥離することなく,平
滑面と空気流とで延伸されながら平滑面に沿って流動し,流動しながらま
すます薄い薄膜流となります。」,「このように,空気口から開放された
平滑面に傾斜されます加圧空気は,最初に液体を平滑面に押し付けて延伸
し,その後,平滑面から分離するときに粉砕して微粒子とし,粉砕された
微粒子を空気中に拡散します。すなわち,加圧空気は,液体を,薄膜流に
延伸し,薄膜流を粉砕して微粒子とし,微粒子を拡散して噴射します。」,
「さらに,本発明の噴射方法とノズルは,空気流で延伸されながら平滑面
を流動する薄膜流の液体で,平滑面を絶えず自己洗浄しながら液体を微粒
子に噴射します。とくに,平滑面であって,液体を流動させる部分は,空
気流と平滑面との間に液体を薄膜流として流動させます。液体を微粒子と
して,平滑面に沿って流動させることはありません。」,「このため,微
粒子が平滑面に付着し,付着した微粒子が成長して,平滑面を汚すことが
ありません。平滑面は常に清澄な状態に保持されて,ここを流動する液体
を薄膜流とします。」(以上,7頁17行~8頁4行)との記載があるこ
とを踏まえると,「本発明」の特徴は単に液体の進行方向を転換するので
はなく,液体を空気流によって押し付けることに「本発明」の特徴がある
旨を述べて,本件拒絶理由通知に係る引用例と差別化をし,拒絶理由を解
消し,本件特許の特許査定がされた経緯がある。
そして,本件出願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」
という。甲36)には,「押し付けて」の用語は,図11及び図14の実
施例以外に記載はなく,ノズル形状が図11の実施例では,「内側中間リ
ング12Aの傾斜面7を湾曲させて,先端部分を,隣接する傾斜面7の延
長線から突出するように形成している。」(本件明細書の【0052】に
相当),ノズル形状が図14の実施例では,「内側中間リング12Aの傾
斜面7の傾斜角を途中で変更して,先端部分を,隣接する傾斜面7の延長
線から突出するように形成している。」(本件明細書の【0057】に相
当)との記載がある。このような記載からすれば,「空気流が傾斜面7に
押し付けられる」ためには,図11及び図14の実施例のように,傾斜面
7が湾曲されているとか,傾斜角が変更されているなど,上側傾斜面が,
下側傾斜面に対し平行な平面ではなく,下側傾斜面に沿って図11や図1
4のように矢印方向に流動する空気流が衝突する衝突壁面として形成され
ていることが必要と考えられる。
加えて,本件明細書の【0020】,【0031】,【0052】,【0
057】,【0071】の記載や,図5において,供給口から供給された
液体について下流側が薄く黒墨で示されているように,液体が高速空気流
(図5の空気口からの矢印)で傾斜面に押し付けられ,密着又は当接状態
となって,徐々に薄く引き伸ばされて傾斜面の先端側程薄い膜状に引き伸
ばされて傾斜面の先端のエッジ部分では粉砕されて微粒子の液滴となって
いることを意識して開示されていることを参酌すると,構成要件オの「高
速流動する空気流で平滑面に押し付けて」とは,液体が高速空気流の噴射
力による押圧力で上側傾斜面に押し付けられて,当接又は密着状態となっ
ていることを意味すると解すべきである。
イ構成要件充足性
(ア)イ号製品においては,下側傾斜面に相当する面がなく,空気口(1
0)の近傍に供給口(5)があり,供給口(5)から供給された液体は,
空気口(10)から噴出された外部傾斜領域(7A')に平行な方向に沿
って流動する空気流の強い剪断応力と液体の自重で下流側へ引っ張られ
て傾斜面(外部傾斜領域(7A'))に沿って流れ,空気流によって傾斜
面に液体を押し付ける力は作用していないから,「高速流動する空気流
で平滑面に押し付け」られていない。
このことは,イ号製品においては,空気口から噴射される空気流によ
って,液体が傾斜面(外側傾斜領域7A')の表面から波立てられて細か
な液滴となって飛散している状態が撮影された噴霧画像(乙9,10)
とも一致する。
加えて,乙23の鑑定書には,①液体が傾斜面に供給された場合,液
体を傾斜面側に押す力がなくても,液体は,その粘性による剪断応力と
自重とで傾斜面に沿って流れること,②気体が傾斜面に平行に流れる場
合,気体は,傾斜面を押す力を発揮し得ないこと,③液体には,高速の
気流との速度差によって傾斜面に平行な方向の剪断応力が作用し,液滴
の飛散を伴う流れとなるが,このような傾斜面に平行な気流では,該傾
斜面に液体を押し付けるような力は作用しないことは,流体力学の一般
原理であることが述べられており,かかる流体力学の一般原理によれば,
イ号製品において,「傾斜面に平行な空気流が,供給された液体を,傾
斜面に押し付ける」現象は起こりえないといえる。
以上によれば,イ号製品は,構成要件オの「液体を,高速流動する空
気流で平滑面に押し付けて薄く引き伸ばして薄膜流とし」との構成を具
備していないから,構成要件オを充足しない。
(イ)これに対し控訴人は,①イ号製品においては,直進していた液体流
が,空気流と合流する時点で,進行方向を変えて傾斜面に沿って進み,
空気流の存在下で傾斜面上に液体の薄膜流を形成しているから,液体流
に対し高速流動する空気流による傾斜面への押し付けの作用が働いてい
ると考えるのが自然である,②液体流は,進行方向を曲げられた後も,
液膜表面が隆起したり,液膜表面から液滴が飛散するような,平滑面か
ら離れる斜め方向の速度ベクトルが生じることが考えられ,この場合,
平滑面に沿う空気流は,その斜めの速度ベクトルを平滑面に沿う方向へ
押し戻す効力が働くから,傾斜面への押し付けの作用が働いている旨主
張する。
しかしながら,上記①については,イ号製品において空気流によって
液体の進行方向が変更されていることは事実であるが,構成要件エの「高
速流動する空気流で平滑面に押し付けて」にいう「押し付けて」とは,
本件明細書の図11及び図14の実施例のように,あくまで下側傾斜面
(内側傾斜領域7B')に沿って高速流動する空気流で,上側傾斜面(外
側傾斜領域7A')の途中から供給される液体を上側傾斜面(平滑面)に
平行ではなく,傾斜面に向かう方向に斜め衝突させる等積極的に押し付
けてその表面に沿って薄く引き伸ばすことによって薄膜流とすることに
技術的意義があるから,空気流によって液体を方向転換させるような現
象は,「押し付けて」に該当しない。
次に,上記②については,前記(ア)のとおり,流体力学の一般原理に
おいては,傾斜面に対して平行な高速気流によっては,傾斜面に供給さ
れた液体に対し,傾斜面に押し付ける力は生じない。また,イ号製品の
一般的使用時においては,空気の流れが相当早く,液体との速度差が大
きいため,液体と空気の間の界面である自由表面が,強い剪断応力の作
用によってリップル状に激しく波打ちながら崩壊することにより,多数
の液滴粒子が生成されて飛散するが,このことと「傾斜面への押し付け」
状態とは無関係である。
したがって,控訴人の上記主張は失当である。
⑷小括
以上によれば,イ号製品は,本件発明4の構成要件アないしオを充足しな
いから,本件発明4の技術的範囲に属さない。
また,ロ号製品は,イ号製品を備える微粒子製造用スプレードライヤであ
るから,イ号製品と同様に,本件発明4の技術的範囲に属さない。
2争点1-2(ハ号製品及びニ号製品の本件発明4の技術的範囲の属否)につ
いて
(控訴人の主張)
⑴前記1の「控訴人の主張」と同様の理由により,ハ号製品(別紙ハ号製品
説明書記載の「構成あ」ないし「構成た」)は,本件発明4の構成要件アな
いしカを全て充足するから,本件発明4の技術的範囲に属する。なお,別紙
控訴人主張図面⑵記載のとおり,ハ号製品の内側傾斜領域(7B”)には,
空気口(10)の外部の下側傾斜面(7B”1)と空気口(10)の内部の
内部傾斜面(7B”2)が存在し,下側傾斜面(7B”1)は707μm(乙
8の2,3)の長さを有するところ,下側傾斜面(7B”1)及び内部傾斜
面(7B”2)のいずれにおいても高速流動している空気流が存在するから,
内側傾斜領域(7B”)は,「空気流を高速流動させている傾斜面」に該当
し,少なくとも,下側傾斜面(7B”1)はこれに該当する。
そして,内側傾斜領域(7B”)と外側傾斜領域(7A”)との間にある
「供給口(5)」は,構成要件エの「空気流を高速流動させている傾斜面の
途中」に備えた「空気流の流動方向に交差するように液体を供給する供給口」
に該当する。
⑵また,ニ号製品は,ハ号製品を備える微粒子製造用スプレードライヤであ
るから,本件発明4の構成要件を全て充足し,本件発明4の技術的範囲に属
する。
(被控訴人の主張)
前記1の「被控訴人の主張」と同様の理由により,ハ号製品は,本件発明4
の構成要件アないしオを充足しないから,本件発明4の技術的範囲に属さない。
また,ニ号製品は,ハ号製品を備える微粒子製造用スプレードライヤである
から,ハ号製品と同様に,本件発明4の技術的範囲に属さない。
3争点2(イ号製品及びロ号製品の本件発明6の技術的範囲の属否)について
(控訴人の主張)
⑴イ号製品の構成要件キ(Ⅰ)ないし(Ⅶ)の充足性
イ号製品の構成き①は,前記1の「控訴人の主張」⑵と同様の理由により,
構成要件キ(Ⅰ)を充足する。
イ号製品の構成き②ないし⑦は,構成要件キ(Ⅱ)ないし(Ⅶ)を充足す
る。
⑵イ号製品の構成要件キ(Ⅷ)の充足性
アイ号製品は,別紙イ号製品説明書の図面のとおり,空気路(1)に分配
羽根(22)が配置され,空気路(1)内の空気は,「分配羽根(22)
によって分配されて空気口(10)から噴射される」(構成き⑧)ところ,
分配羽根(22)は,傘状の斜面に,リブを螺旋状(ヘリカル)に形成し,
リブ同士の間にスリットを形成している(甲12の1ないし4,45)。
このようにイ号製品では,空気口(10)に連通する経路上に配置され
た分配羽根(22)が,空気流の進行方向に対して螺旋状に形成されてい
るため,ここを通る空気は,分配羽根のらせんに沿って旋回するように回
転が付加され,その結果,空気口から噴射される空気流も,スパイラル状
に回転しながら傾斜面に沿って噴射される。このことは,高速度カメラで
撮像した動画(甲11の1)において,ノズルの先端から飛び出した噴霧
流が,反時計回りに激しく渦巻いている様子が確認できることからも明ら
かである。
したがって,イ号製品の分配羽根(22)は,空気路に配設された「軸
方向に流動する空気をスパイラルに回転させるヘリカルリブ」に該当し,
イ号製品は,「空気口から噴射される空気がスパイラル状に回転しながら
傾斜面に沿って噴射されるように構成されている」から,構成要件キ(Ⅷ)
を充足する。
イこれに対し被控訴人は,イ号製品では,気体と液体の噴霧流が外部衝突
点に向けて斜めに集束するため,衝突した後に渦巻く流れが形成され,衝
突前は斜めに直進しているだけであって,傾斜面に沿って流れる空気がス
パイラル状に回転していないから,イ号製品は,構成要件キ(Ⅷ)の「空
気口から噴射される空気がスパイラル状に回転しながら傾斜面に沿って噴
射されるように構成されている」との構成を備えていない旨主張する。
しかしながら,イ号製品の部品の写真(甲45)のとおり,イ号製品の
分配羽根(22)には目視で約60°の傾斜角が形成されており,この角
度で空気流が進むと仮定すれば,必然的に傾斜面に沿って回転を伴うスパ
イラル状となることは明らかである。
したがって,被控訴人の上記主張は,理由がない。
⑶小括
以上によれば,イ号製品は,本件発明6の構成要件キ(Ⅰ)ないし(Ⅷ)
を全て充足するから,本件発明6の技術的範囲に属する。
また,ロ号製品は,イ号製品を備える微粒子製造用スプレードライヤであ
るから,イ号製品と同様に,本件発明6の技術的範囲に属する。
(被控訴人の主張)
⑴イ号製品の構成要件キ(Ⅰ)ないし(Ⅶ)の充足性の主張に対し
前記1の「被控訴人の主張」⑵と同様の理由により,イ号製品は,構成要
件キ(Ⅰ)のうち,「傾斜面に加圧空気を噴射する空気口」にいう「傾斜面」
の構成,構成要件キ(Ⅳ)の「供給口は,傾斜面の途中に開口されている」と
の構成,構成要件キ(Ⅶ)の「空気口は,傾斜面の途中に開口された供給口に
向かって開口されている」との構成をいずれも備えていない。
したがって,イ号製品は,構成要件キ(Ⅰ),(Ⅳ)及び(Ⅶ)を充足しな
い。
⑵イ号製品の構成要件キ(Ⅷ)の充足性の主張に対し
構成要件キ(Ⅷ)の「ヘリカルリブ」とは,空気路に配設されて軸方向に
流動する空気をスパイラルに回転させるもので,かつ空気口から噴射される
空気がスパイラル状(螺旋状,渦巻き状)に回転しながら傾斜面に沿って噴
射される構成であることを意味し,空気流が円周上に均一に広がって粗密の
むらを防止する作用効果がある。
イ号製品の分配羽根(22)には,円柱部から円錐台部にかけて形成され
たスリットが,周方向に等間隔で複数形成されており,同スリットは,基端
から軸方向途中まで柱面に沿って軸方向に延びる「軸方向ストレートスリッ
ト」,そこから錐面に沿ってノズル中心軸の方(径内方向)へ集束しながら,
かつ,径方向に対して交差した斜め方向に延びる「斜めストリートスリット」
のように形成されている(乙25)。そして,分配羽根(22)を通過する
空気は,狭いスリットを通過した後に内側傾斜領域(7B’)で形成される
狭い通路を通過して整流されるため,ノズル中心軸方向で,かつ,径方向に
対してわずかに交差する方向に直進する空気流として空気口から噴出して外
側傾斜領域(7A’)に沿って流れ,外部衝突点(A)に集束するものであ
って,空気流がスパイラル状に回転することはない。イ号製品の動画(甲1
1の1,乙26)によって外側傾斜面に沿って流れる噴霧流を観察しても,
噴霧流は外側傾斜面に沿ってスパイラル状に回転するのではなく,外部衝突
点(A)に向けて僅かに斜めに直進しているにすぎない。
したがって,イ号製品の分配羽根は軸方向に流動する空気をスパイラル状
に回転させるものではないから,イ号製品は,構成要件キ(Ⅷ)の「空気口
から噴射される空気がスパイラル状に回転しながら傾斜面に沿って噴射され
るように構成されている」との構成を備えていない。
⑶小括
以上によれば,イ号製品は,本件発明6の構成要件キ(Ⅰ),(Ⅳ),(Ⅶ)
及び(Ⅷ)を充足しないから,本件発明6の技術的範囲に属さない。
また,ロ号製品は,イ号製品を備える微粒子製造用スプレードライヤであ
るから,イ号製品と同様に。本件発明6の技術的範囲に属さない。
4争点3(無効の抗弁の成否)について
(被控訴人の主張)
本件発明4及び6に係る本件特許には,以下のとおりの無効理由があり,特
許無効審判により無効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1
項の規定により,控訴人は,被控訴人に対し,本件特許権を行使することはで
きない。
⑴無効理由1(明確性要件違反)
前記2の「被控訴人の主張」⑴のとおり,本件発明4及び6の「微粒子」
は,「粒子径10μm以下」のものに限定される。
しかるところ,本件明細書には,「粒子径10μm以下」の測定方法(原
理),評価指標,測定条件について記載がないから,本件発明4及び6の「微
粒子」の意義を特定することは不可能である。
したがって,本件発明4及び6の特許請求の範囲(請求項4及び6)の記
載は,不明確であり,特許法36条6項2号の要件(明確性要件)に適合し
ないから,本件特許には,同号に違反する無効理由がある。
⑵無効理由2(実施可能要件違反)
前記⑴のとおり,本件発明4及び6の「微粒子」は,「粒子径10μm以
下」のものに限定されるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,「粒
子径10μm以下」の微粒子が得られるようにする運転条件の記載がないか
ら,当業者は,「粒子径10μm以下」の微粒子を噴霧することができない。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明4及び
6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく,
特許法36条4項の要件(実施可能要件)に適合しないから,本件特許には,
同号に違反する無効理由がある。
⑶無効理由3(サポート要件違反)
本件発明4及び6の課題は,「液体を極めて小さい微粒子に噴射できると
共に,種々の液体を詰まらない状態で使用できる液体を微粒子に噴射する方
法とノズルを提供する」(本件明細書の【0008】)ことにあり,前記⑴
のとおり,本件発明4及び6の「微粒子」は,「粒子径10μm以下」のも
のに限定される。
しかるところ,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,当業者が取り
得る全ての気液比の範囲において「粒子径10μm以下」の微粒子が得られ,
上記課題を解決できると認識することはできない。
したがって,本件発明4及び6は,特許法36条6項1号の要件(サポー
ト要件)に適合しないから,本件特許には,同号に違反する無効理由がある。
(控訴人の主張)
⑴無効理由1ないし3は,本件発明4及び6の「微粒子」を「粒子径10μ
m以下」のものに限定解釈することを前提とするものであるが,前記2の「控
訴人の主張」⑴のとおり,「微粒子」の粒径は「10μm以下」のものに限
定されないから,無効理由1ないし3は,その前提において理由がない。
⑵仮に本件発明4及び6の「微粒子」を「粒子径10μm以下」のものに限
定したとしても,本件明細書の記載及び本件出願の優先日当時の技術常識に
基づいて,当業者は,ノズルにおいて気液比を大きくとれば,「10μm以
下」の微粒子を得ることができるから,無効理由1及び2はいずれも理由が
ない。
また,本件発明4及び6の特許請求の範囲(請求項4及び6)は気液比を
発明特定事項とするものではないから,当業者が取り得る全ての気液比の範
囲についてのサポートを論じる無効理由3は,その前提において失当である。
5争点4(被控訴人が賠償又は返還すべき控訴人の損害額等)について
(控訴人の主張)
⑴特許法102条2項に基づく損害額
アイ号製品を含む噴霧乾燥機の販売に係る利益(限界利益)の額
(ア)被控訴人は,平成26年1月,台湾企業のAdvancedLithium
ElectrochemistryCo.,Ltd.(以下「Advanced社」という。)に対し,
イ号製品を使用した噴霧乾燥装置(ロ号製品)(以下「本件噴霧乾燥機
⑴」という。)を●●●●●●●円で販売した(乙55)。
被控訴人が本件噴霧乾燥機⑴の販売により得た利益(限界利益)の額
は,売上高●●●●●●●円から仕入原価●●●●●●●●●円及び日
当宿泊費●●●●●●●円(乙56)を控除した●●●●●●●●●円
である。
そして,被控訴人による本件噴霧乾燥機⑴の販売は本件発明4及び6
に係る本件特許権の侵害行為に当たるから,特許法102条2項により,
被控訴人が得た上記利益の額は,控訴人が上記侵害行為により受けた損
害額と推定される。
(イ)これに対し被控訴人は,本件噴霧乾燥機⑴の限界利益の額は,売上
高●●●●●●●円から,工場原価●●●●●●●●●円(製造原価●
●●●●●●●●円に1.1の掛け率を乗じた額),納品のための実験
に要した日当宿泊費●●●●●●●円及び総人件費●●●●円を控除し
た●●●●●●●●●円である旨主張する。
しかしながら,被控訴人主張の工場原価のうち,製造原価●●●●●
●●●●円は,仕入原価●●●●●●●●●円とENG費●●●●円で
構成されるものであるが(乙55),ENG費は人件費に相当し,また,
1.1の掛け率も人件費に相当する部分である。これらの人件費及び総
人件費●●●●円は,固定費として支払う必要があるため,本件噴霧乾
燥機⑴の製造又は販売に直接必要な変動経費に該当しないから,限界利
益の算定に当たり控除すべき経費ではない。
したがって,被控訴人の上記主張は,理由がない。
イ被控訴人の推定覆滅事由等の主張に対し
(ア)イ号製品は本件噴霧乾燥機⑴の一部品であるとの主張に対し
a被控訴人は,本件噴霧乾燥機⑴のノズル部分(イ号製品)は,噴霧
乾燥機本体に着脱可能に組み込まれた一部品であり,本件発明4及び
6は当該ノズル部分にのみ実施されていること,ノズル単体が取引対
象となり,その取引市場が存在し,ノズルは他社製品に取り換え可能
な部品であることからすると,本件噴霧乾燥機⑴全体の販売利益(限
界利益)と控訴人の損害との間に相当因果関係はないから,控訴人の
損害額は,ノズル部分の販売価格又はその限界利益を基準として算定
すべきである旨主張する。
しかしながら,①噴霧乾燥機(スプレードライヤ)の技術分野にお
いて,顧客が最も注目するのは,微粒子を噴射するノズルの仕様であ
り,ノズルが選定された上で,当該ノズルに適合させた液体流や気体
流の供給構造が構築され,噴霧乾燥機全体が設計されること,②噴霧
乾燥機においてはノズルがキーデバイスであるがゆえに,故障や摩耗
に備えて交換用のノズルが存在すること,③イ号製品は,20μm以
下の微粒子を大量に噴霧することのできる「微粒化専用ノズル」であ
るところ,微粒化専用ノズルは規格化されておらず,他社の別種のノ
ズルとの互換性がないため,ノズル単体での取引が行われることはあ
っても,極めて例外的な取扱いであることに照らすと,本件噴霧乾燥
機⑴のノズル部分が本件噴霧乾燥機⑴全体の購買動機となっていると
いえるから,控訴人の損害額は,本件噴霧乾燥機⑴全体の売上額を基
準として算定すべきである。
したがって,被控訴人の上記主張は理由がない。
b仮に被控訴人の主張するように控訴人の損害額をノズル部分の販売
価格を基準として算定すべきであるとした場合には,本件噴霧乾燥機
⑴には,予備も含めて2台分のイ号製品が含まれていること,乙55
(本件噴霧乾燥機⑴の積算内訳書)によれば,イ号製品1台分の限界
利益は,販売価格●●●●円から原価●●●●円を控除した●●●●
円となることからすると,被控訴人が受けたノズル部分の限界利益の
額●●●●円(イ号製品2台分)が控訴人の損害額となる。
この点に関し被控訴人は,本件噴霧乾燥機⑴は,被控訴人の代理店
を通じて,Advanced社に販売されているから,ノズルの販売価格は,
乙55ではなく,代理店価格を基準として算定すべきである旨主張す
るが,本件噴霧乾燥機⑴の販売は被控訴人と代理店の共同不法行為と
なり,被控訴人と代理店には控訴人の損害額の連帯支払義務があるか
ら,上記主張は失当である。
(イ)本件噴霧乾燥機⑴が控訴人の製品より高品質であること,競合他社
及び競合品の存在等の主張に対し
被控訴人は,①本件噴霧乾燥機⑴は,ディスク式とノズル式を兼用す
る噴霧乾燥機である上,ジェット流同士を外部衝突点で衝突させて微粒
化する独自の技術(被控訴人保有の特許第3554302号(乙57),
特許第4718811(甲10の添付書類4))を採用し,粗大粒子径
の発生を抑制して粒子径を揃えること(粒子径の均一化)が可能である
のに対し,控訴人の製品には,上記兼用機が存在せず,粒子径の均一化
が困難であった点において,本件噴霧乾燥機⑴が控訴人の製品より高品
質であることが,顧客の購買動機の形成に大きな要因となったものであ
り,また,被控訴人の営業努力やブランド力も購買動機の形成に貢献し
たこと,②微粒子化用のノズルについては,控訴人及び被控訴人以外に
も,多数の競合企業及び競合製品が存在していたこと(乙37ないし4
0,62,63等)に鑑みると,本件発明4及び6は本件噴霧乾燥機⑴
の購買動機の形成にほとんど寄与しておらず,その寄与率は多くても3%
以下であるから,特許法102条2項による控訴人の損害額の推定は,
上記寄与率を超える部分について覆滅される旨主張する。
しかしながら,上記①については,被控訴人の挙げる特許によって粒
子径を揃えることが可能となることについての技術的説明はなく,具体
的な証拠に裏付けられた事情とはいえないし,本件噴霧乾燥機⑴が控訴
人の製品より高品質であることや被控訴人のブランド力が購買動機の形
成に貢献したことについての証明はない。むしろ,控訴人の製品につい
ても,顧客から粒子径が揃っている旨の評価(甲60,61)を得てい
る。
次に,上記②については,「微粒化専用ノズル」を扱っていたのは,
控訴人と被控訴人のみであり,被控訴人の挙げる他社のノズルは,「微
粒化専用ノズル」とは異なる他方式のもの(ディスクアトマイザー等)
である。また,Advanced社との取引は,控訴人と被控訴人の2社競合見
積りの案件であり,そもそも他社が取引に入り込む余地はなかったもの
である。
したがって,被控訴人の上記主張は失当である。
ウまとめ
以上によれば,本件噴霧乾燥機⑴の販売に係る控訴人の特許法102条
2項に基づく損害額は,●●●●●●●●●円(前記ア(ア))となる。
仮に控訴人の上記損害額をノズル部分の販売価格を基準として算定すべ
きであるとした場合には,上記損害額は,●●●●円(前記イ(ア)b)と
なる。
⑵不当利得
アイ号製品又はハ号製品を含む噴霧乾燥機の販売に係る限界利益相当の不
当利得
(ア)a被控訴人は,平成20年4月,塩野義製薬株式会社(以下「塩野
義製薬」という。)に対し,イ号製品を含む噴霧乾燥装置(以下「本
件噴霧乾燥機⑵」という。)を●●●●●円で販売した。
b被控訴人は,平成21年2月,韓国企業のPhenixPDECo.,Ltd.
(以下「Phenix社」という。)に対し,ハ号製品を含む噴霧乾燥装置
(以下「本件噴霧乾燥機⑶」という。)を●●●●●円で販売した。
c被控訴人は,平成21年5月,HanwhaChemicalCorporation(以下
「Hanwha社」という。)に対し,ハ号製品を使用した噴霧乾燥装置(ニ
号製品)(以下「本件噴霧乾燥機⑷」という。)を●●●●●●●●
●円で販売した。
d被控訴人は,平成23年5月,住友大阪セメント株式会社(以下「住
友大阪セメント」という。)に対し,ハ号製品を使用した噴霧乾燥装
置(ニ号製品)(以下「本件噴霧乾燥機⑸」という。)を●●●●●
●●円で販売した。
(イ)20μm以下の微粒子を大量に噴射することのできる「微粒化専用
ノズル」を製造できるメーカーは,控訴人と被控訴人の2社のみである
こと(前記⑴イ(イ))に照らすと,被控訴人が本件噴霧乾燥機⑵ないし
⑸を受注しなければ控訴人が受注できたという関係にあるから,被控訴
人は,本件噴霧乾燥機⑵ないし⑸の販売により限界利益相当額の利得を
し,これにより控訴人は,同額の損失を被ったものといえる。
そして,本件噴霧乾燥機⑵ないし⑸の各限界利益率は,本件噴霧乾燥
機⑴の限界利益率(限界利益額●●●●●●●●●円÷売上高●●●●
●●●円×100)に照らすと,売上高の40%を下回らないから,本
件噴霧乾燥機⑵ないし⑸の販売による限界利益相当額は,合計●●●●
●●●●●●●円となる。
したがって,控訴人は,被控訴人に対し,同額の不当利得返還請求権
を有する。
(計算式・本件噴霧乾燥機⑵ないし⑸の売上高合計●●●●●●●●●
●●円×0.4)
(ウ)仮に控訴人の損失額を本件噴霧乾燥機⑵ないし⑸のノズル部分の販
売価格を基準として算定すべきであるとした場合には,以下のとおり,
ノズル部分の限界利益相当額は,合計●●●●●●●●●円となるから,
控訴人は,被控訴人に対し,同額の不当利得返還請求権を有することを
予備的に主張する。
a本件噴霧乾燥機⑵のノズル部分●●●●円
(計算式・販売価格●●●●円-原価●●●円)(乙45)
b本件噴霧乾燥機⑶のノズル部分●●●●●●●●●円
(計算式・(販売価格●●●●●●●●●円-原価●●●●●●●●
円)×2台)(乙48)
c本件噴霧乾燥機⑷のノズル部分●●●●円
(計算式・(販売価格●●●●●●●●円-原価●●●●円)×2台)
(乙49)
d本件噴霧乾燥機⑸のノズル部分●●●●●●●●●円
(計算式・販売価格●●●●●円×限界利益率●●●●)(乙50)
e合計●●●●●●●●●円(a+b+c+d)
イ実施料相当の不当利得(予備的主張)
(ア)仮に前記アの不当利得返還請求権が認められないとしても,被控訴
人は,本件発明4及び6の実施についての実施料を支払わずに,本件噴
霧乾燥機⑵のないし⑸を販売したのであるから,その実施料相当額を利
得し,これにより控訴人は,同額の損失を被った。
そして,①発明協会研究センター編「実施料率(第5版)」(以下「実
施料率(第5版)」という。甲54,乙53)によれば,一般産業用機
械の実施料率で最も契約件数が多いのは5%(「イニシャル有」・「イ
ニシャル無」とも)であるが,一方で,実施料率12~50%の契約も
若干数存在し,6~10%の契約は相当数存在すること,②「平成21
年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書知的財産の価値評価を
踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資
産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~(本編)」(以下
「平成21年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書」という。甲
55,乙54)によれば,「2.技術分類別ロイヤルティ料率(国内ア
ンケート調査)」の「マイクロ構造技術;ナノ技術」のロイヤルティ料
率の平均は4.1%,最大値は9.5%であり,「4.司法決定による
ロイヤルティ料率」の「機械」(日本司法決定)の平均値は3.9%~
4.4%であり,最高値は10%であること,③外部混合方式で微粒化
を実現し,20μm以下の微粒子を大量に噴射することのできる「微粒
化専用ノズル」である本件発明4及び6の価値は非常に重要であり,代
替不可能であること,④本件発明4及び6のノズルがなければ,スプレ
ードライヤ(噴霧乾燥機)という機械自体を販売することができず,噴
霧乾燥機の売上げや利益に対する本件発明4及び6の貢献は非常に大き
く,また,本件噴霧乾燥機⑵ないし⑸において,噴射による微粒化の後
に衝突による第2段階の微粒化が生じているとしても,本件発明4及び
6のノズル(イ号製品又はハ号製品)により微粒化しなければ,第2段
階の微粒化も存在しないこと,⑤被控訴人は,ホームページ(甲53)
において,ノズルが「スプレードライヤでもっとも重要な部分」と述べ,
本件発明4及び6の特徴である「薄く引き伸ばされ,液膜を形成」とい
う点を謳っていたこと,以上の諸事情を総合考慮すると,本件発明4及
び6の実施料率は,本件噴霧乾燥機⑵ないし⑸の売上高の10%を下ら
ないというべきである。
そうすると,被控訴人が返還すべき実施料相当の利得額は,本件噴霧
乾燥機⑵ないし⑸の売上高の合計額に実施料率10%を乗じた●●●●
●●●●●円となる。
したがって,控訴人は,被控訴人に対し,同額の不当利得返還請求権
を有する。
(イ)仮に前記(ア)の不当利得返還請求権利が認められないとしても,控
訴人は,被控訴人に対し,本件噴霧乾燥機⑵ないし⑸のノズル部分の販
売価格の合計額に実施料率10%を乗じた●●●●●●●●円の不当利
得返還請求権を有する。
⑶弁護士費用及び弁理士費用
被控訴人による本件特許権の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用及
び弁理士費用相当の控訴人の損害額は,●●●●●●●●●●●円(前記⑴
ウの損害額●●●●●●●●●円と前記⑵ア(イ)の利得額●●●●●●●●
●●●円の合計額)の10%に相当する●●●●●●●●●円を下らない。
⑷小括
以上によれば,控訴人は,被控訴人に対し,本件特許権侵害の不法行為に
基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権として,1億9438万36
51円(前記⑴ウの損害額,前記⑵イの利得額及び前記⑶の弁護士費用及び
弁理士費用の合計額)及びこれに対する平成28年1月21日(訴状送達の
日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める
ことができる。
(被控訴人の主張)
⑴特許法102条2項に基づく損害額の主張に対し
アイ号製品を含む噴霧乾燥機の販売に係る利益(限界利益)の額について
(ア)本件噴霧乾燥機⑴の販売は,イ号製品のノズル1台を着脱自在に装
着した噴霧乾燥機に予備のノズル1台を付して販売したものである。そ
して,本件噴霧乾燥機⑴は,噴霧乾燥機本体とイ号製品のノズルを別々
に製作し,台湾の現場で組み立てて完成し,納品した。
本件噴霧乾燥機⑴の販売による限界利益の額は,売上高●●●●●●
●円から,①工場原価●●●●●●●●●円,②本件噴霧乾燥機⑴が顧
客の要求基準を満たすための納品までの試験に要した費用●●●●●●
●●円を控除した●●●●●●●●●円である。
①の工場原価(乙55)は,製造原価●●●●●●●●●円(材料購
入代金,現場工事費及び製造に関わった人員の人件費を含む。)に1.
1の掛け率を乗じた額である。この1.1の掛け率は,当該製品の製造
に関する物品の発注をする者の人件費,納品された物品の検査をする者
の人件費,作成された図面のチェックをする者等,その案件の製造から
納品までの間に直接関与する者の人件費を想定したものであり,被控訴
人の経験上,この人件費は製造原価の10%程度であることから,製造
原価に掛け率1.1を乗じた工場原価をもって,製造又は販売に直接必
要な経費として把握している。
②の試験に要した費用(乙56)は,日当宿泊費●●●●●●●円と
間接費を含む時間単価から算出した試験に要した総人件費●●●●円の
合計額である。
(イ)以上によれば,控訴人の本件噴霧乾燥機⑴全体の限界利益の額の主
張は,失当である。
イ推定覆滅事由等について
控訴人は,被控訴人が受けた本件噴霧乾燥機⑴の限界利益の額は控訴人
の受けた損害額と推定される旨主張するが,以下のとおり,上記推定を覆
す事情等が存在するから,上記主張は理由がない。
(ア)イ号製品は本件噴霧乾燥機⑴の一部品であること
aイ号製品のノズルは,噴霧乾燥機本体に着脱可能に組み込まれた本
件噴霧乾燥機⑴の一部品であり,本件発明4及び6は当該ノズル部分
にのみ実施されていること,ノズル単体が取引対象となり,その取引
市場が存在し,ノズルは他社製品に取り換え可能な部品であることか
らすると,本件噴霧乾燥機⑴全体の販売利益(限界利益)と控訴人の
損害との間に相当因果関係はないから,控訴人の損害額は,ノズル部
分の販売価格又はその限界利益を基準として算定すべきである。
すなわち,噴霧乾燥機(スプレードライヤ)は,基本的には,①ス
ラリー(液体に粒子が混ざりこんだ懸濁体)等の液状の原料を装置に
供給し噴霧する部分,②熱風を発生させ,噴霧された原料と接触させ,
乾燥する部分,③乾燥した造粒粉と微粉の回収及び排気の部分からな
り,①の部分は,原液タンクと原液ポンプ及び液体を噴霧させる微粒
化装置(ディスクアトマイザー,ノズル部),②の部分は,熱風を発
生させる熱風発生装置と送風機,熱風と微粒子を接触させて乾燥させ
る乾燥室,③の部分は,乾燥した造粒粉と微粉を回収するサイクロン
又はバッグフィルター等で構成されている。このように噴霧乾燥機は,
多数の独立した装置や部品から構成された一つのシステムであり,微
粒化装置(ノズル部)は,粉体製造システム全体の中の一部品にすぎ
ない。本件発明4及び6における液体や高速流動する空気流を供給す
るための供給構造は,ノズル自体の構造であって,噴霧乾燥機本体や
噴霧乾燥機全体の構造ではない。
この微粒化装置には,従来公知の回転ディスク法,加圧ノズル法,
二流体ノズル法,四流体ノズル法等があり,イ号製品は,二流体ノズ
ル法のノズルであり,多種ある微粒化装置のうちの選択肢の一つにす
ぎない。
また,微粒化用ノズルについては,控訴人及び被控訴人のほかに,
例えば,スプレーイングシステムジャパン合同会社,株式会社いけう
ち,株式会社共立合金製作所,新倉工業株式会社,GEAプロセスエ
ンジニアリング株式会社,SPX社,アトマックス社,中国BTR等,
ノズル単品の販売を行う多数のメーカーが存在し(乙37ないし40,
62,63等),他社製品に取り換え可能な部品であり,しかも,日
本国内のノズル単体の取引の市場規模は約100億円程度にも及んで
いた。
そして,被控訴人がイ号製品又はハ号製品を販売する態様としては,
ノズル単品を販売する場合,噴霧乾燥機にノズルを着脱自在に装着す
る形で販売する場合,回転ディスク式アトマイザー等の微粒化装置(ノ
ズル)が装着された噴霧乾燥機にオプション(部品)としてイ号製品
又はハ号製品をセットにして販売する場合がある。また,被控訴人に
おいては,イ号製品又はハ号製品を代理店を通じて販売する場合があ
り,その場合の基準となる代理店価格(乙42)が存在する。また,
被控訴人が噴霧乾燥機にノズルを設置し,又は回転ディスク式アトマ
イザーと選択的に設置できるようにオプションとして販売する場合で
あっても,噴霧乾燥機全体の受注金額の算定の中で,かかる代理店価
格に準じてノズル単品の価格も算定されている。
これらの事情によれば,本件噴霧乾燥機⑴全体の販売利益(限界利
益)と控訴人の損害との間に相当因果関係はないから,控訴人の損害
額は,ノズル部分の販売価格又はその限界利益を基準として算定すべ
きである。
そして,本件噴霧乾燥機⑴の取引は,台湾の代理店を介して発注の
あった案件であること,イ号製品のノズル単品の代理店価格は,2台
分で●●●●円,原価は●●●●円であること(乙71)からすると,
本件噴霧乾燥機⑴のノズル部分の限界利益の額は,上記代理店価格か
ら原価を控除した●●●●円である。
b仮に本件噴霧乾燥機⑴全体の売上額又はその限界利益が基準となる
としても,イ号製品のノズルは本件噴霧乾燥機⑴の一部品であって,
本件発明4及び6は当該ノズル部分にのみ実施されていること,ノズ
ルは他社製品に取り換え可能な部品であること,本件噴霧乾燥機⑴全
体の売上額が●●●●●●●円であるのに対し,ノズル部分の販売価
格は●●●●円で全体に占める割合が極くわずかであることは,控訴
人主張の損害額の推定を覆す重要な事情として考慮すべきである。
(イ)本件噴霧乾燥機⑴が控訴人の製品より高品質であること,競合他社
及び競合品の存在等
控訴人主張の損害額の推定を覆す事情として,以下のような事情が存
在する。
a本件噴霧乾燥機⑴は,ディスク式とノズル式を兼用する噴霧乾燥機
である上,ジェット流同士を外部衝突点で衝突させて微粒化する外部
衝突型の外部混合方式という独自の技術(被控訴人保有の特許第35
54302号(乙57),特許第4718811号(甲10の添付書
類4))を採用し,粗大粒子径の発生を抑制して粒子径を揃えること
(粒子径の均一化)が可能であるのに対し,控訴人の製品には,上記
兼用機が存在せず,粒子径の均一化が困難であった点において,本件
噴霧乾燥機⑴は,控訴人の製品より高品質である。
このように本件噴霧乾燥機⑴が控訴人の製品より高品質であるため,
顧客の求める仕様に対応することができ,その要求水準を達成したこ
とが,顧客の購買動機の形成に大きな要因となったものであり,これ
に付加して被控訴人の本件噴霧乾燥機⑴の実施に至るまでの営業努力
やブランド力も購買動機の形成に貢献した。
他方で,本件噴霧乾燥機⑴のノズル部分(イ号製品)に本件発明4
及び6が実施されていることは,購買動機の形成に貢献していない。
また,控訴人は,顧客に対し,被控訴人よりも安価な見積額(1億0
500万円)を提示したにもかかわらず,受注できなかったのは,控
訴人が顧客の求める仕様に対応できなかったことによるものと考えら
れる。
b微粒子化用のノズルについては,控訴人及び被控訴人のほかに,多
数の競合企業及び競合製品が存在し,ノズルは他社製品に取り換え可
能な部品であることは,前記(ア)aのとおりである。
このように多数の競合企業及び競合品が存在するから,被控訴人が
本件噴霧乾燥機⑴を受注しなければ,控訴人が受注したであろうとい
う推定はおよそ成り立たない。
この点に関し控訴人は,イ号製品は,20μm以下の微粒子を大量
に噴霧することのできる「微粒化専用ノズル」であり,控訴人と被控
訴人以外の他社は,「微粒化専用ノズル」を扱っていない旨主張する
が,「二流体ノズル」や「回転式アトマイザー」であっても,20μ
m以下の微粒子を大量に噴霧することが可能であり(甲61,乙66,
72,73),しかも,これらのノズルが単体で取引されている実情
があること(例えば,乙38,39等)に照らすと,控訴人の上記主
張は失当である。
ウまとめ
以上のとおり,控訴人主張の損害額の推定を覆す事情が存在し,かかる
事情を考慮すると,本件発明4及び6は本件噴霧乾燥機⑴の購買動機の形
成にほとんど寄与しておらず,その寄与率は3%以下であるから,控訴人
主張の損害額の推定は,上記寄与率を超える部分について覆滅されるとい
うべきである。
⑵不当利得の主張に対し
アイ号製品又はハ号製品を含む噴霧乾燥機の販売に係る限界利益相当の不
当利得の主張に対し
大容量の微粒子ノズルを製造できるメーカーは,控訴人及び被控訴人の
ほかにも存在し,本件噴霧乾燥機⑵ないし⑸のいずれの取引についても,
被控訴人が受注しなければ控訴人が受注できたという関係にはなく,控訴
人主張の控訴人の損失と被控訴人の利得との間に因果関係があるものとは
いえないから,控訴人の本件噴霧乾燥機⑵ないし⑸の販売に係る限界利益
相当の不当利得の主張は,理由がない。
イ実施料相当の不当利得の主張(予備的主張)に対し
(ア)①実施料率(第5版)によれば,ノズル分野等の化学機械の装置分
野(一般産業機械)の実施料率の平均は,イニシャル有りで4.4%,イ
ニシャル無しで4.2%であり,また,平成21年度特許庁産業財産権制
度問題調査研究報告書記載の「分離・混合」の製品分野のロイヤルティ
料率の平均値が3.2%(最大値9.5,最小値1.5)であること,②本
件発明4及び6の特徴は,「高速流動する空気流によって液体を傾斜面
に押し付けて薄く引き伸ばして薄膜流を形成することによって微粒子化
すること」にあるのに対し,本件噴霧乾燥機⑵ないし⑸は,ジェット流
同士を外部衝突点で衝突させて微粒化する外部衝突型の外部混合方式と
いう独自の技術を採用したものであるため,市場で受け入れ可能な製品
となったものであり,本件発明4及び6の作用効果が本件噴霧乾燥機⑵
ないし⑸の製品価値に寄与ないし貢献していることは一切ないか,極め
て低いこと,③本件発明4及び6の代替技術や代替製品は市場において
多数存在し,これらによって本件発明4及び6の目的とする微粒子が得
られること,④ノズル製品は受注生産であり,ノズルメーカーの選定に
はその企業の実績(特に海外)や設備,技術力等が重視されるため,本
件発明4及び6は本件噴霧乾燥機⑵ないし⑸の購買動機の形成に関係し
ていないこと,以上の諸事情を総合考慮すると,本件発明4及び6の実
施料率は,噴霧乾燥機全体に対しては2%以下,ノズル単体に対しては
3%以下が相当である。
なお,本件噴霧乾燥機⑵ないし⑸のノズル部分に係る実施料相当額は,
ノズル部分の代理店価格(本件噴霧乾燥機⑵につき●●●●●●●円,
本件噴霧乾燥機⑶につき●●●●●円,本件噴霧乾燥機⑷につき●●●
●円,本件噴霧乾燥機⑸につき●●●●●円)に上記実施料率を乗じて
算定すべきである。
(イ)したがって,控訴人の本件噴霧乾燥機⑵ないし⑸の販売に係る実施
料相当の不当利得の主張は,理由がない。
⑶弁護士費用及び弁理士費用の主張に対し
控訴人の主張は争う。
第4当裁判所の判断
1本件明細書の記載事項等
⑴本件明細書(甲2)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する
図1ないし6,8ないし11,14,17ないし19は別紙明細書図面を参
照)。
ア特許請求の範囲
【請求項1】液体を薄膜流とし,この薄膜流を気体流で空気中に噴射し
て,液体を微粒子に噴射する方法において,加圧された空気を,空気口(1
0)から開放された空間に噴射して高速流動する空気流とすると共に,空
気口(10)から噴射される空気を,液体の流動方向に平滑な平滑面に向
けて噴射して,この平滑面に接触しながら平滑面と平行に一定の方向に高
速流動する空気流とし,空気流を高速流動させている平滑面の途中に,空
気流の流動方向に交差するように,しかも,空気流と平滑面との間に液体
を供給し,供給された液体を,高速流動する空気流で平滑面に押し付けて
薄く引き伸ばして薄膜流とし,この薄膜流を平滑面から離して微粒子とし
て噴射することを特徴とする液体を微粒子に噴射する方法。
【請求項2】平滑面が傾斜面(7)である請求項1に記載される液体を微粒
子に噴射する方法。
【請求項5】下記の全ての構成を有する液体を微粒子に噴射するノズル。
(a)ノズルは,液体をリング状に噴射する供給口(5)と,この供給口(5)
から噴射される液体を流動させる傾斜面(7)と,この傾斜面(7)に加圧空気
を噴射する空気口(10)とを備える。
(b)供給口(5)は所定幅のスリット状に形成されている。
(c)供給口(5)は,リング状に形成されている。
(d)供給口(5)は傾斜面(7)の途中に開口されている。
(e)供給口(5)の傾斜面(7)に対する角度αは鈍角に設計されている。
(f)傾斜面(7)は液体の流動方向に平滑面となっている。
(g)空気口(10)は傾斜面(7)の途中に開口された供給口(5)に向かって
開口されている。
(h)傾斜面(7)の先端に尖鋭なエッジ(7A)が設けられている。
(i)空気口(10)がエッジ(7A)の両面に開口されており,エッジ(7A)の
両面に加圧空気が噴射されるように構成されている。
イ【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は液体を微粒子に噴射する方法とノズル
に関し,とくに,液体を極めて小さい微粒子に噴射できる方法とノズルに
関する。
【0002】
【従来の技術】液体を超微粒子にするノズルは種々の用途に使用されてい
る。たとえば,薬液を空気中に噴霧して超微粒子とする用途に使用すると,
人体に吸収されやすい薬剤を製造できる。
【0003】液体を超微粒子に噴霧するノズルとして,図1と図2に示す
ものが開発されている。図1に示すノズルは,液体を加圧して円筒状の空
気路1に供給し,空気路1で空気と混合して先端から噴射して一次ミスト
2とする。噴射された一次ミスト2は,互いに衝突されて二次ミスト3と
なり,さらに微細な粒子となる。この構造のノズルは,液体を10μm以
下の微細な粒子に噴射できる。
【0004】図2に示すノズルは,二重管をしており,中心孔4から液体
を,液体の周囲から加圧空気を噴射する。この構造のノズルは,中心から
噴射された液体が周囲の空気に削られて小さい液滴となる。空気による削
りは次第に液の中心部分に進んでいくが,このとき空気のスピードは徐々
に低下して液滴が大きくなる。中央部に噴射される液体は,周囲の液滴が
邪魔をして空気との混合が悪くなり,液滴が大きくなってしまう。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】図1と図2に示すノズルは,加圧空気で
噴霧される液体を微細な液滴にできる特長がある。しかしながら,図1に
示すノズルは,水のように付着性のない液体には使用できるが,付着性の
ある液体には使用できない。それは,数分も使用すると,ノズルの先端に
噴霧された液滴が付着して乾燥し,しかもこれが次第に堆積して詰まって
しまう欠点があった。このため,図1に示すノズルは,噴射する液体が特
定され,種々の液体を微細な粒子で噴霧できない欠点がある。
【0006】図2に示すノズルは,液滴を微細な粒子とするために,中心
孔4を極めて小さくして,液体を非常に細く噴射する必要がある。中心孔
を太くすると,噴射される液滴が大きくなってしまうからである。このた
め,この構造のノズルは,液滴を小さくするためには,時間当りの噴霧量
を極めて小さくする必要があり,処理量と液滴の微細化とは互いに相反す
る特性となり,両特性を満足できない欠点がある。ちなみに,粒子径を1
0μm以下とするノズルは,中心孔の内径を0.2mm以下とする必要が
ある。この内径のノズルの噴霧量は,乾燥重量で1時間に15gにすぎな
い。このように小さいノズルは極めて詰まりやすい欠点もある。
【0007】さらに,図1と図2に示すノズルは,いずれも,噴射される
液滴がフルコーンで噴霧され,ホロコーンでは噴射できない。ホロコーン
とは,液滴を筒状に噴射する状態であって,内部全体が液滴で充満されな
い状態である。これに対して,フルコーンは,筒状に噴射される液滴が内
部まで充満される状態である。液体を微細な液滴に噴射するノズルは,空
気中に噴射された液滴を急速乾燥し,あるいは空気中に気化させる用途に
多く使用される。この用途に使用されるノズルは,液体をホロコーンで噴
射するのがよい。フルコーンの液滴は,内部全体が液滴で満たされるので,
中心部分の液滴を速やかに乾燥できず,あるいは,空気中に気化できない
からである。
【0008】本発明は,従来のこれ等の欠点を解決することを目的に開発
されたもので,本発明の重要な目的は,液体を極めて小さい微粒子に噴射
できると共に,種々の液体を詰まらない状態で使用できる液体を微粒子に
噴射する方法とノズルを提供することにある。
【0009】さらに,本発明の他の重要な目的は,単位時間当りの噴射量
を多くして,しかも微細な液滴に噴射できる液体を微粒子に噴射する方法
とノズルを提供することにある。
【0010】さらにまた,本発明の他の重要な目的は,必要ならば液体を
ホロコーンに噴射することも可能で,ホロコーンに噴射すると液体を,能
率よく乾燥し,あるいは気化できる液体を微粒子に噴射する方法とノズル
を提供することにある。
ウ【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者は前記の目的を達成するために,
図3に示す構造のノズルを試作した。この図のノズルは,中心から液体を
噴射するのではなく,液体をリング状に噴射するために三重管構造として
いる。中心と外周から空気を噴射し,中間の供給口5からリング状に液体
を噴射する。この構造のノズルを使用して,中心からは6.5kg/cm2
のアトマイズエアーを,外周からは1kg/cm2
のスプレッディングエア
ーを噴射して,粒子径を5μmとする微粒子を得ることに成功した。しか
しながら,この構造のノズルは,液体を噴射する供給口5の調整が極めて
難しく,調整がずれると微粒子の粒子径は20~30μm以上に急激に大
きくなった。供給口5は,内側リングと中間リングの相対位置で調整され
る。
【0012】本発明者はさらにこの欠点を解消するために,図4に示す構
造のノズルを開発した。この図のノズルは,アトマイズエアーとスプレッ
ディングエアーとを鋭角に衝突させて,微細な液滴を得ようして開発した。
この構造のノズルは,アトマイズエアーとスプレッディングエアーの衝突
角を25度に設計すると,10μm以下の微粒子が得られる。しかしなが
ら,このことを実現するために,供給口5を構成するふたつのリング6の
先端が極めて先鋭な角度となり,製作が極めて難しくなった。
【0013】本発明者は,微粒子を得るためには,二重管のノズルのよう
に,液体を細い尖状に噴射するか,あるいは薄い膜状に噴射して,これを
空気で微粒子とすることが必須の構成要件と考えていた。たしかに,この
構造によって,液体を微細な液滴に噴霧できる。ただ,この構造を実現す
るためには,液体を噴射する供給口を極めて細くし,あるいはスリットを
著しく狭くする必要があって,詰まりやすくて,時間当りの噴射能力が小
さくなる欠点がある。
【0014】本発明の液体を微粒子に噴射する方法とノズルは,従来のこ
のような原理とは異なる新しい方法で液体を微粒子にして噴射することに
成功したものである。本発明の液体を微粒子に噴射する方法は,この好ま
しい実施例を示す図5のように,供給口5から液体を傾斜面7に供給する。
傾斜面7に供給された液体は,傾斜面7に沿って高速流動させる空気流で
薄く引き伸ばされて薄膜流8となる。薄膜流8は空気流に加速されて傾斜
面7の先端から気体中に噴射されて微粒子の液滴9となる。
【0015】さらに,本発明の請求項3に記載される液体を微粒子に噴射
する方法は,その好ましい実施例を示す図6のように,尖鋭なエッジ7A
を境界としてその両面に設けられたふたつの傾斜面7の途中に液体を供給
し,傾斜面7に供給された液体を,傾斜面7に沿って高速流動させる空気
流で薄く引き伸ばして薄膜流8とし,さらにこの薄膜流8を傾斜面7の先
端のエッジから気体中に噴射して,微粒子としている。
【0016】さらに,本発明の請求項4に記載される液体を微粒子に噴射
するノズルは,下記の構成を備えている。このノズルは,液体を流動させ
て薄膜流とする傾斜面7を有し,この傾斜面7を流動する液体の薄膜流を
空気中に微粒子として噴射するノズルを改良したものである。このノズル
は,傾斜面7を液体の流動方向に平滑な面とすると共に,この傾斜面7に
加圧空気を噴射して,傾斜面7に接触しながら,しかも,傾斜面7と平行
に一定の方向に高速流動する空気流をつくる空気口10と,空気流を高速
流動させている傾斜面7の途中に,空気流の流動方向に交差するように液
体を供給する供給口5とを備える。供給口5から傾斜面7に供給された液
体は,高速流動する空気流で平滑面に押し付けられて薄く引き伸ばされた
薄膜流となり,薄膜流を空気流で空気中に微粒子として噴射することを特
徴としている。
【0017】さらにまた,本発明の請求項5に記載される液体を微粒子に
噴射するノズルは,以下の構成を備える。
(a)ノズルは,液体をリング状に噴射する供給口5と,この供給口5
から噴射される液体を流動させる傾斜面7と,この傾斜面7に加圧空気を
噴射する空気口10とを備える。
(b)供給口5は所定幅のスリット状に形成されている。
(c)供給口5は,リング状に形成されている。
(d)供給口5は傾斜面7の途中に開口されている。
(e)供給口5の傾斜面7に対する角度αは鈍角に設計されている。
(f)傾斜面7は液体の流動方向に平滑面となっている。
(g)空気口10は傾斜面7の途中に開口された供給口5に向かって開
口されている。
(h)傾斜面7の先端に尖鋭なエッジ7Aが設けられている。
(i)空気口10がエッジ7Aの両面に開口されており,エッジ7Aの
両面に加圧空気が噴射されるように構成されている。
【0018】さらにまた,本発明の請求項6に記載されるノズルは,空気
路1にヘリカルリブ22を配設している。ヘリカルリブ22は,空気口1
0から噴射される空気をスパイラル状に回転して,均一に噴射させる。
【0019】さらに,本発明の請求項7のノズルは,エッジ7Aの両面に
開口された空気口10に連通する空気路1に,軸方向に流動する空気をス
パイラルに回転させるヘリカルリブ22を配設している。ヘリカルリブ2
2は,エッジ7A両面の空気口10から噴射される空気を互いに反対方向
に回転するように設けている。
【0020】
【作用】本発明は,独特の状態で液体を微粒子にして噴射する。すなわち,
本発明の液体を微粒子に噴射する方法は,図5に示すように,傾斜面7に
沿って高速流動する空気流で,傾斜面7に送り出された液体を薄く引き伸
ばして薄膜流8とする。傾斜面7に沿って流動する薄膜流8は,傾斜面7
を離れるときに薄すぎて膜状態ではいられなくなり,表面張力で粉々にち
ぎれて微粒子の液滴9となる。本発明は,空気流で液体を薄膜流8として
微粒子の液体にして噴射する。このため,従来のように,液体を薄膜状態
で噴射することなく,液体を超微粒子にできる特長がある。このことは,
液体の供給口5の詰まりを有効に防止でき,さらに,供給口5の加工を簡
単にする。
【0021】さらに,図5に示すように,傾斜面7の先端に尖鋭なエッジ
7Aを設け,このエッジ7Aでアトマイズエアーとスプレッディングエア
ーとを衝突させると,空気を激しく振動できる。空気振動は液体をさらに
微粒子にする作用がある。
【0022】さらに,本発明のノズルは,傾斜面7の先端にリング状のエ
ッジ7Aを設け,このエッジ7Aから液体を噴射させる構造として,ホロ
コーン状態で液滴を微粒子に噴射できる。ホロコーンで噴射される液滴は,
効率よく乾燥,あるいは気化できる。
【0023】請求項6のノズルは,空気口10から均一に空気を噴射する。
それは,空気路1に設けたヘリカルリブ22が,軸方向に流動する空気に
スピンをかけるからである。スピンのかかった空気は,遠心力で管壁に押
し付けられて,円周上に拡がる。そして,リング状スリットの空気口10
に均一に流れ込み,均一に安定して噴射される。
【0024】さらに,請求項7のノズルは,請求項5のノズルを改良した
もので,エッジ7Aの両面に開口された空気口10に連通する空気路1に,
軸方向に流動する空気にスピンをかけるヘリカルリブ22を配設している。
エッジ7A両面の空気口10から噴射される空気は互いに逆スピンとなっ
て,エッジ7A先端でのミスト形成時,両空気のひねり作用が加わって,
微粒子粉砕効果が上がり,より小さい微粒子を作る事ができる。
エ【0025】
【発明の実施の形態】以下,本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
ただし,以下に示す実施例は,本発明の技術思想を具体化するための液体
を微粒子に噴射する方法とノズルを例示するものであって,本発明は液体
を微粒子に噴射する方法とノズルを下記のものに特定しない。
【0027】図5に示す液体を微粒子に噴射するノズルは,液体をリング
状に噴射する供給口5と,この供給口5から噴射される液体を流動させる
傾斜面7と,この傾斜面7に加圧空気を噴射する空気口10とを備えてい
る。
【0028】この図に示すノズルは,内側リング11と,中間リング12
と,外側リング13を備える。内側リング11と中間リング12の間に供
給口5を設け,内側リング11の中心にアトマイズエアーの空気路14を
設け,中間リング12と外側リング13の間にスプレッディングエアーの
供給路15を設けている。
【0029】内側リング11は外形を円柱状とし,中間リング12は内形
を円柱状に加工し,内側リング11と中間リング12の間に,所定の幅の
スリット状の供給口5を設けている。供給口5は,リング状に形成されて
おり,スリット幅は,液体が詰まらない幅に設計される。本発明のノズル
は,供給口5から液体を薄膜にして送り出す必要がない。液体は傾斜面7
で薄く引き伸ばされて微粒子となって噴射されるからである。したがって,
供給口5のスリット幅は,送り出される液体の流量,傾斜面7の長さ,傾
斜面7に噴射されるアトマイズエアーの流速,供給口5の内径等を考慮し
て最適値に設計される。たとえば,供給口5のスリット幅は,0.2~1.
5mm,好ましくは0.4~1mm,最適には約0.8mmに設計される。
【0030】供給口5の直径は,噴射する液体の流量,スリット幅の寸法
等を考慮して最適値に設計される。供給口5の直径は,たとえば,100
0g/分の液体を噴射するノズルにおいて,約50mmφに設計される。
流量が大きくなると,供給口5は直径を大きく,流量が少なくなると直径
を小さく設計する。
【0031】内側リング11の外周部と,中間リング12の先端面は,テ
ーパー状に切削加工されて,傾斜面7となっている。内側リング11と中
間リング12の傾斜面7は,内側リング11の傾斜面7に沿って噴射され
る流動する空気が,内側リング11と中間リング12の境界で乱流となら
ないように,同一平面に形成されている。内側リング11と中間リング1
2の傾斜面7が同一平面となるとは,内側リング11と中間リング12の
傾斜面7に段差ができず,内側リング11の傾斜面7から中間リング12
の傾斜面7に直線的に空気が流動される状態を意味する。このように,内
側リング11と中間リング12の傾斜面7を同一平面のテーパー状に加工
するには,内側リング11と中間リング12を連結してテーパー加工すれ
ばよい。さらに,傾斜面7は,ここに沿って流動する液体が乱流とならな
いように,液体の流動方向に沿って平滑面となっている。図に示すノズル
の傾斜面7は,円錐状で全体を平滑面に仕上げている。
【0032】内側リング11と中間リング12に傾斜面7を設けることに
よって,傾斜面7の中間に供給口5が開口される。内側リング11と中間
リング12に設けられる傾斜面7の傾斜角αは,供給口5の傾斜面7に対
する角度が鈍角となるように,たとえば,100~170度,好ましくは
120~160度,さらに好ましくは130~160度,最適には約15
0度に設計される。傾斜角αは大きい方が液の流出が安定する。しかしス
リット幅により傾斜角αは最適値が変わる。傾斜角αは,好ましくは,傾
斜面7における供給口5の開口幅が2mmを越えないように設計される。
【0033】内側リング11の先端には中心リング16が配設され,この
中心リング16と内側リング11との間に空気口10が開口されている。
中心リング16は,図示しないが内側リング11に固定して所定の位置に
配設されている。中心リング16は,外周面を内側リング11の傾斜面7
に沿うテーパー状に加工している。中心リング16と内側リング11の間
に形成される空気口10はスリット状で,ここから加圧空気を層流状態に
噴射して,傾斜面7に沿って高速流動させる。
オ【0034】内側リング11の空気路14は加圧空気源Fに連結されて
いる。空気口10は傾斜面7に沿って流動するアトマイズエアーを噴射す
る。空気源Fは,たとえば3~20kg/cm2
,好ましくは4~15kg
/cm2
,さらに好ましくは4~10kg/cm2
,最適には約6.5kg/
cm2
の空気を空気口10に供給する。アトマイズエアーの空気圧を高くす
ると,傾斜面7に沿って高速流動する空気の流速が速くなって,液体をよ
り効果的に薄く引き伸ばして液体を小さい微粒子の液滴9にできる。ただ,
空気圧を高くすると特殊なコンプレッサーを必要とし,さらに消費エネル
ギーも大きくなるので,要求される液滴の粒子径と,消費エネルギーとを
考慮して最適値に設計される。
【0035】さらに,図5に示すノズルは,アトマイズエアーに加えて,
傾斜面7の外周にスプレッディングエアーを噴射している。ただ,スプレ
ッディングエアーは必ずしも噴射する必要はない。スプレッディングエア
ーを噴射しないで,アトマイズエアーで液体を微粒子の液滴にして噴射で
きるからである。アトマイズエアーとスプレッディングエアーを噴射する
ノズルは,アトマイズエアーとスプレッディングエアーとを傾斜面7のエ
ッジ7Aで衝突させて,液滴9をより小さい微粒子の液体にできる特長が
ある。さらに,スプレッディングエアーでもってホロコーンの角度を調整
することもできる。また液体の性質によっては,エッジ7Aでの離れが悪
く,スプレッディングエアー側に液逆流を起こす場合があり,スプレッデ
ィングエアーでもってこれを防ぐこともできる。
【0036】スプレッディングエアーは,中間リング12と外側リング1
3の間に設けられるスプレッディングエアー噴射口17から噴射される。
スプレッディングエアーはアトマイズエアーに比較して低圧空気である。
たとえば,アトマイズエアーを約6.5kg/cm2
とするとき,スプレッ
ディングエアーは約1kg/cm2
とすることができる。スプレッディング
エアーは,アトマイズエアーのように液体を強制的に薄く引き伸ばす必要
がないので,たとえば,0.5~3kg/cm2
の範囲に設定できる。
【0037】アトマイズエアーとスプレッディングエアーの両方を噴射す
るノズルは,傾斜面7の先端を尖鋭なエッジ7Aとしている。中間リング
12は先端面に傾斜面7を設け,先端の外周を円筒状に加工して,傾斜面
7の先端にエッジ7Aを設けている。この形状の中間リング12は,傾斜
面7の先端に(180度-傾斜角α)の尖鋭なエッジ7Aを形成できる。
ただ,ノズルは,図示しないが,中間リング12の外周をテーパー状に加
工して,エッジ7Aの角度を調整することもできる。
カ【0038】図5に示すノズルは,下記の状態で液体を微粒子の液体に
して噴射する。
①内側リング11の中心に設けた空気路14に加圧したアトマイズエア
ーを供給し,中間リング12と外側リング13の間のスプレッディングエ
アー噴射口17にスプレッディングエアーを供給して,供給口5から液体
を傾斜面7に送り出す。
②傾斜面7に供給された液体は,傾斜面7に沿って高速流動するアトマ
イズエアーで薄く引き伸ばされて薄膜流8となる。たとえば,傾斜面7に
沿ってアトマイズエアーをマッハ1.5の流速で流動させて供給口5に液
体を送り出し,薄膜流8の先端部での流速をアトマイズエアーの1/20
とすれば,25.5m/sとなる。傾斜面7の先端に設けたエッジ7Aの
直径を50mmとすれば,液体を1リットル/分で供給して薄膜流8の膜
圧は4μmとなる。
【0039】③4μmの薄膜流8は,傾斜面7のエッジ7Aを過ぎると
薄すぎて膜状態でいられなくなり,表面張力で粉々にちぎられて微粒子の
液滴9となる。
【0040】④微粒子の液滴9は,エッジ7Aでアトマイズエアーとス
プレッディングエアーが衝突し,摩擦して振動して液滴9をさらに小さい
微粒子とする。
【0041】⑤微粒子の液滴9は,アトマイズエアーとスプレッディン
グエアーによって放射状に運ばれる。この状態をホロコーンという。ホロ
コーンのコーン角度は傾斜面7の角度で決定されるが,アトマイズエアー
とスプレッディングエアーの噴射圧でも調整できる。
【0042】ホロコーンの状態で噴射された液滴9は,乾燥されて微粒子
の微粉末となり,あるいは,空気中に気化される。液滴を微粉末にするか,
あるいは気化させるかは,噴射する液体の種類で特定する。たとえば,液
体に乾燥させると固体になる薬液を使用すると,微粒子の粉末となる。液
体に水のように気化させると気体になるものを使用すると,噴霧された液
体は気化される。
【0043】図6は,A液とB液を混合して微粒子の微粉末とするノズル
を示す。この図に示すノズルは,図5に示すノズルの中間リング12を,
内側中間リング12Aと外側中間リング12Bの二重管構造としている。
内側中間リング12Aと外側中間リング12Bの間にB液の供給口5を設
けている。リング状の内側中間リング12Aは,内側面と外側面にテーパ
ー状の傾斜面7を設けてその先端を尖鋭なエッジ7Aとしている。外側中
間リング12Bの先端面もテーパー状に加工して傾斜面7としている。外
側中間リング12Bの傾斜面7は,内側中間リング12Aの傾斜面7と同
一平面に連結している。
【0044】図6に示すノズルは,内側中間リング12Aの内側面と外側
面に傾斜面7を有し,内側に設けられた傾斜面7にA液の供給口5を,外
側の傾斜面7にB液の供給口5を設けている。A液とB液の両方を,アト
マイズエアーで傾斜面7に薄く引き延ばしできるように,内側リング11
の空気口10と,外側中間リング12B及び外側リング13の間のスプレ
ッディングエアー噴射口17の両方から高圧のアトマイズエアーを噴射す
る。
【0045】この構造のノズルは,液体の状態では混合されないA液とB
液とを噴射して,A液とB液を均一に分散させることができる。たとえば,
A液には水に溶けない塩化メチレンベースの液体を,B液には水ベースの
結合液を噴射することができる。ただ,この構造のノズルは,同じ液体を
分岐してふたつの供給口から噴射することもできる。同じ液体をふたつに
分岐して噴射すると,片方の供給口から噴射する液体の流量を半分にでき
る。このため,傾斜面の液体をより薄い薄膜流として微細な微粒子とする
ことができる。
【0049】図6に示すノズルは,内側中間リング12Aの内側と外側の
両面に傾斜面7を設け,内側と外側の傾斜面7に2種の異なる液体を供給
している。図8に示すノズルは,傾斜面7の途中に複数の供給口5を設け
ている。この構造のノズルは,複数の供給口5から数種の異質の液体を供
給して,同時に噴霧することができる。供給口5に供給する液体の組合せ
によって,新しい特性をもった多機能複合粒子の製造が可能である。たと
えば,あらかじめ加熱溶融した数種の液体を冷風中に同時噴霧したり,数
種の溶け合う溶媒,または溶け合わない溶媒を用いて作った数種の溶液を
熱風中に同時に噴霧する。このように,溶質,溶媒の選択,乾燥空気の温
度設定により,目的にあった多機能複合粒子が製造できる。
キ【0050】さらに,図9と図10は,より微細な微粒子にできるノズ
ルを示す。これ等の図に示すノズルは,図6に示すノズルと同じように,
中間リング12を,内側中間リング12Aと外側中間リング12Bの二重
管構造としている。内側中間リング12Aと外側中間リング12Bの間に
B液の供給口5を設けている。リング状の内側中間リング12Aは,内側
面と外側面の両面にテーパー状の傾斜面7を設けてその先端を尖鋭なエッ
ジ7Aとしている。外側中間リング12Bの先端面もテーパー状に加工し
て傾斜面7としている。
【0052】さらに,図11の拡大図に示すノズルは,内側中間リング1
2Aの傾斜面7を湾曲させて,先端部分を,隣接する傾斜面7の延長線か
ら突出するように形成している。この形状をしている内側中間リング12
Aの傾斜面7は,傾斜面7に沿って矢印の方向に高速流動する空気流が,
先端部分で傾斜面7に強く押し付けられて,傾斜面7を流動する液体の薄
膜流をより薄く引き延ばしできる。このため,この構造のノズルは,液体
を極めて微細な,たとえば1~5μmの微粒子として噴射できる特長があ
る。
【0057】さらに,図14に示すノズルは,内側中間リング12Aの傾
斜面7の傾斜角を途中で変更して,先端部分を,隣接する傾斜面7の延長
線から突出するように形成している。この形状をしている内側中間リング
12Aの傾斜面7は,傾斜面7に沿って矢印の方向に高速流動する空気流
が,先端部分で傾斜面7に強く押し付けられて,傾斜面7を流動する液体
の薄膜流を薄く引き延ばしできる。このため,この構造のノズルは,液体
をより微細な微粒子として噴射できる特長がある。
ク【0065】さらに,図17に示すノズルは,空気口10と供給口5か
ら,空気と液体を均一に噴射するノズルを示す。この図のノズルは,空気
路1と液体路21にヘリカルリブ22を配設している。空気路1や液体路
21には,各リングを組み立てる時の芯出のため,すなわち,全てのリン
グの中心を正確に一致させるために,各リングの間にリブを設けている。
リブの先端を接触させることにより,各リングは芯出しして正確に組み立
られる。
【0066】リブは,図18に示すように,リングの間に均等に設けられ
る。この図のノズルは,4個のリブを設けているが,リブはリング間隔の
全周を均等にするためのものであるから,少なくとも三つ設けられる。こ
の図に示すように,リブを流体の流動方向に延長したストレートリブ23
にすると,流体は直進して,リブの間を通過する。ストレートリブ23を
通過した流体は,粗,密のむらができる。ストレートリブ23の部分は粗,
ストレートリブ23の間は密になる。
【0067】この現象を解消するために,図19に示すように,ストレー
トリブを螺旋状に変形するヘリカルリブ22にすると,ヘリカルリブ22
の間を通過する流体はスピンがかかり,スピンのかかった流体は遠心力で
管壁に押し付けられて,円周上に拡がって均一になる。図19において,
空気路1に設けられるヘリカルリブ22の傾斜角αは,好ましくは約30
度とする。傾斜角αはヘリカルリブ22の中心線に対する角度である。空
気は流速が速いので傾斜角αを小さくして十分にスピンをかけることがで
きる。傾斜角αを大きくすると,スピンはよくかかるが,空気の通過抵抗
が増加する。ヘリカルリブ22の傾斜角αは,空気のスピンと通過抵抗と
を考慮して,たとえば,10~45度,好ましくは15~40度,さらに
好ましくは20~35度とする。
ケ【0071】
【発明の効果】本発明の液体を微粒子に噴射する方法とノズルは,下記の
優れた特長がある。
①液体を極めて小さい微粒子に噴射できると共に,種々の液体を詰まら
ない状態で長時間連続噴射できる。それは,本発明が液体を,極めて小さ
い孔や,極めて狭いスリットから噴射して微粒子に噴射するのではなく,
平滑面を高速流動する空気流で,液体を薄く引き延ばしてから微粒子にし
て噴射すると共に,液体が平滑面を絶えず自己洗浄しているからである。
本発明は,液体を薄膜流に引き伸ばして微粒子の液滴とするので,平滑面
に沿って流動させる空気の流速で,液滴を極めて小さい微粒子として噴射
できる特長がある。
【0072】②単位時間当りの噴射量を多くして,しかも微細な液滴に
噴射できる。ちなみに,本発明者が試作したノズルは,1分間に1000
gの液体を噴射して,粒子径を10μm以下の微粒子の液滴を噴射するこ
とに成功した。
【0073】③本発明の請求項5のノズルは,必要ならば液体をホロコ
ーンに噴射することも可能である。液体をホロコーンに噴射して能率よく
乾燥し,あるいは気化できる特長がある。ただ,本発明の液体を微粒子に
噴射する方法とノズルは,液体をフルコーンに噴射することもできる。す
なわち,用途に最適なように,フルコーンとホロコーンの両方の状態に噴
射できる。
⑵前記⑴の記載事項によれば,本件明細書には,本件発明4及び6に関し,
次のとおりの開示があることが認められる。
ア液体を微粒子に噴射できる従来のノズルには,液体を加圧して円筒状の
空気路に供給し,空気路で空気と混合して先端から噴射して一次ミストと
し,噴射された一次ミストは,互いに衝突されて二次ミストとなり,さら
に微細な粒子となる構造のもの(図1)があるが,付着性のない液体には
使用できるが,付着性のある液体には,ノズルの先端に噴霧された液滴が
付着して乾燥し,これが次第に堆積して詰まってしまい,使用できないた
め,噴射する液体が特定され,種々の液体を微細な粒子で噴霧できない欠
点があり,また,中心孔から液体を,液体の周囲から加圧空気を噴射する
二重管構造のもの(図2)があるが,液滴を微細な粒子とするためには中
心孔を極めて小さくして,液体を非常に細く噴射する必要があるため,時
間当りの噴霧量を極めて小さくする必要があり,処理量と液滴の微細化の
両特性を満足できない欠点があり,さらに,これらのノズルは,いずれも,
内部全体が液滴で充満されずに,液滴を筒状に噴射する状態であるホロコ
ーンに液体を噴射できないため,中心部分の液滴を速やかに乾燥できず,
あるいは,空気中に気化できないという欠点があった(【0001】,【0
003】ないし【0007】)。
イ「本発明」は,従来のノズルの欠点を解決することを目的に開発された
ものであり,本発明の重要な目的は,液体を極めて小さい微粒子に噴射で
きると共に,種々の液体を詰まらない状態で,単位時間当りの噴射量を多
くして噴射することができ,必要ならば液体をホロコーンに噴射すること
も可能な液体を微粒子に噴射するノズルを提供することにあり,この課題
を解決するための手段として,空気口から平滑な傾斜面に加圧空気を噴射
して,供給口から傾斜面に供給される液体を,傾斜面に沿って高速流動す
る空気流で傾斜面に押し付けて薄く引き伸ばして薄膜流とし,薄膜流は空
気流で加速されて傾斜面の先端から気体中に噴射されるときに微粒子の液
滴となる構造を採用した(【0014】,【0016】,【0020】,
【0022】)。
これにより「本発明」は,液体を極めて小さい孔や,極めて狭いスリッ
トから噴射して微粒子に噴射するのではなく,液体を薄膜流に引き伸ばし
て微粒子の液滴とし,平滑面に沿って流動させる空気の流速で,液滴を極
めて小さい微粒子として噴射できると共に,種々の液体を詰まらない状態
で長時間連続噴射することができ,また,必要ならば液体をホロコーンに
噴射することも可能であるという効果を奏する(【0071】ないし【0
073】)。
2争点1-1(イ号製品及びロ号製品の本件発明4の技術的範囲の属否)につ
いて
⑴イ号製品の構成要件イないしエの充足性について
ア「空気流を高速流動させている傾斜面」の意義について
(ア)構成要件エは,「液体を供給する供給口」を「空気流を高速流動さ
せている傾斜面の途中」に備えることを規定している。この「空気流を
高速流動させている傾斜面」は,「液体の流動方向に平滑な面」(構成
要件イ)である。
また,構成要件ウの「傾斜面に加圧空気を噴射して,傾斜面に接触し
ながら,しかも,傾斜面と平行に一定の方向に高速流動する空気流をつ
くる空気口」との記載から,空気口から傾斜面に加圧空気を噴射するこ
とにより,傾斜面を高速流動する空気流がつくられていることを理解で
きる。
一方で,本件発明4の特許請求の範囲(請求項4)には,構成要件エ
の「空気流を高速流動させている傾斜面」の長さや幅について具体的に
規定した記載はない。
次に,本件明細書には,「傾斜面」に関し,「本発明の液体を微粒子
に噴射する方法は,この好ましい実施例を示す図5のように,供給口5
から液体を傾斜面7に供給する。傾斜面7に供給された液体は,傾斜面
7に沿って高速流動させる空気流で薄く引き伸ばされて薄膜流8となる。
薄膜流8は空気流に加速されて傾斜面7の先端から気体中に噴射されて
微粒子の液滴9となる。」(【0014】),「本発明の液体を微粒子
に噴射する方法は,図5に示すように,傾斜面7に沿って高速流動する
空気流で,傾斜面7に送り出された液体を薄く引き伸ばして薄膜流8と
する。傾斜面7に沿って流動する薄膜流8は,傾斜面7を離れるときに
薄すぎて膜状態ではいられなくなり,表面張力で粉々にちぎれて微粒子
の液滴9となる。」(【0020】),「内側リング11と中間リング
12の傾斜面7は,内側リング11の傾斜面7に沿って噴射される流動
する空気が,内側リング11と中間リング12の境界で乱流とならない
ように,同一平面に形成されている。内側リング11と中間リング12
の傾斜面7が同一平面となるとは,内側リング11と中間リング12の
傾斜面7に段差ができず,内側リング11の傾斜面7から中間リング1
2の傾斜面7に直線的に空気が流動される状態を意味する。…さらに,
傾斜面7は,ここに沿って流動する液体が乱流とならないように,液体
の流動方向に沿って平滑面となっている。」(【0031】),「中心
リング16と内側リング11の間に形成される空気口10はスリット状
で,ここから加圧空気を層流状態に噴射して,傾斜面7に沿って高速流
動させる。」(【0033】),「空気口10は傾斜面7に沿って流動
するアトマイズエアーを噴射する。空気源Fは,たとえば3~20kg
/cm2
,好ましくは4~15kg/cm2
,さらに好ましくは4~10k
g/cm2
,最適には約6.5kg/cm2
の空気を空気口10に供給する。
アトマイズエアーの空気圧を高くすると,傾斜面7に沿って高速流動す
る空気の流速が速くなって,液体をより効果的に薄く引き伸ばして液体
を小さい微粒子の液滴9にできる。ただ,空気圧を高くすると特殊なコ
ンプレッサーを必要とし,さらに消費エネルギーも大きくなるので,要
求される液滴の粒子径と,消費エネルギーとを考慮して最適値に設計さ
れる。」(【0034】),「②傾斜面7に供給された液体は,傾斜面
7に沿って高速流動するアトマイズエアーで薄く引き伸ばされて薄膜流
8となる。」(【0038】)との記載がある。これらの記載から,本
件発明4においては,空気口から噴射する加圧空気によって空気流が発
生し,加圧空気の空気圧を高くすることで空気流の高速化を実現し,傾
斜面7は,高速化した空気流及び液体を傾斜面7に沿って流動させる作
用を有していることが理解できる。一方で,本件明細書には,傾斜面7
の長さや幅について具体的な寸法を示した記載はなく,また,傾斜面7
の長さや幅を一定の数値に保つことが空気流を高速化させることに必要
であることについての記載や示唆はない。
以上によれば,構成要件エの「空気流を高速流動させている傾斜面」
にいう「傾斜面」は,「液体の流動方向に平滑な面」であれば足り,「傾
斜面」の長さ,幅又は形状によって空気流を高速化させる作用を有する
ことまでは要しないものと解される。
(イ)これに対し被控訴人は,構成要件ウの記載,本件明細書の記載(【0
020】,【0038】)及び本件意見書の記載(7頁11行~17行)
によれば,構成要件エの「空気流を高速流動させている傾斜面」のうち
の「下側傾斜面」は,高速の空気流を上側傾斜面に送流させるための助
走区間として機能するものであるから,空気口から加圧空気が噴射され
得る「幅」をもつ壁面でなければならないとともに,高速流動する空気
流が接触しながら一定の方向に流動できる「長さ」を有する「面」であ
ることが必要不可欠である旨主張する。
しかしながら,前記(ア)で説示したとおり,本件発明4の特許請求の
範囲(請求項4)には,構成要件エの「空気流を高速流動させている傾
斜面」の長さや幅については具体的に規定した記載はない。また,構成
要件ウの記載から,空気口から傾斜面に加圧空気を噴射することにより,
傾斜面を高速流動する空気流がつくられていることを理解できるが,構
成要件ウは,傾斜面の長さや幅について規定するものではない。
次に,本件明細書の【0020】及び【0038】の記載は,高速流
動する空気流によって,傾斜面7に送り出された液体を薄く引き伸ばし
て薄膜流8とすることを述べたものであって,上記記載から,「空気流
を高速流動させている傾斜面」のうちの空気流の進行方向の下流側の傾
斜面(「下側傾斜面」)が高速の空気流を上流側の傾斜面(「上側傾斜
面」)に送流させるための助走区間として機能することまで理解するこ
とはできない。また,被控訴人が挙げる本件意見書中の「ノズル内に設
けた空気路を流れる空気は,圧力は高いが流速は遅くなります。これに
対して,開放された平滑面に噴射された空気は,膨張して極めて高速な
空気流となって流動します。このため,本発明の噴射方法とノズルは,
平滑面を流動させます空気流の速度を音速以上とすることも可能です。」
との記載は,傾斜面自体が「空気流の速度を音速以上とする」作用を有
することを述べたものではなく,空気流の進行方向の下流側の傾斜面(「下
側傾斜面」)が上記助走区間として機能することを述べたものでもない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
イ構成要件充足性
(ア)イ号製品(甲11の2,12の1ないし4,13の1ないし4,4
5,乙7の1ないし4)は,別紙イ号製品説明書の「図面」及び「具体
的構成」記載のとおり,液体をリング状に供給する供給口(5)と,供
給口(5)に液体を供給する筒状の液体路と,気体をリング状に噴射す
る空気口(10)と,空気口(10)に空気を供給する空気路(1)と,
流体の流動方向下流側ほど縮径する円錐台側面形状の面からなり,内側
傾斜領域(7B')及び外側傾斜領域(7A')を有する,流体の流動方
向に平滑な面である傾斜部(7)とを備え(構成い及びき①),供給口
(5)は,内側傾斜領域(7B’)と外側傾斜領域(7A’)との間に
形成されており(構成あ),空気口(10)から噴射する気体と,供給
口(5)から供給する液体とを,外側傾斜領域(7A')でガイドして集
束させ,傾斜部(7)から離れた流動方向下流側の外部衝突点(A)で
衝突させて空気中に微粒子として噴射する,「液体を微粒子に噴射する
ノズル」(構成お及びか)である。
(イ)aイ号製品は,「空気口(10)から噴射する気体と,供給口(5)
から供給する液体とを,外側傾斜領域(7A’)でガイドして集束さ
せ」ること(構成お)及び別紙イ号製品説明書の図面によれば,供給
口(5)から供給されたノズルの軸方向(垂直方向)に直進する液体
流が,空気口(10)から噴射する空気流によって,空気流と合流す
る時点で,外側傾斜領域(7A')に沿って平行に進むように空気流の
進行方向に進行方向が曲げられているものと認められるから,液体流
の進行方向を曲げる作用を有する高速流動する空気流が供給口(5)
の手前の内側傾斜領域(7B’),すなわち,空気口(10)から供
給口(5)に至るまでの領域である別紙控訴人主張図面⑴記載の7B’
1上に存在することが認められる。そして,内側傾斜領域(7B’)
のうちの7B’1は,0.5mmの長さを有すること(乙7の1ない
し4)からすると,傾斜面としての構成を備えるものと認められる。
また,内側傾斜領域(7B’)のうちの7B’1及び外側傾斜領域
(7A')は,「流体の流動方向に平滑な面」であるから,構成要件イ
を充足する。
そうすると,イ号製品において,空気口(10)から外部衝突点(A)
に向けて気体(加圧空気)を噴射する場合,傾斜面(内側傾斜領域(7
B’)のうちの7B’1及び外側傾斜領域(7A'))に接触しながら,
当該傾斜面と平行に一定の方向に空気流が高速流動することになるも
のと認められるから,イ号製品の空気口(10)は,構成要件ウの「傾
斜面に加圧空気を噴射して,傾斜面に接触しながら,しかも,傾斜面
と平行に一定の方向に高速流動する空気流をつくる空気口」に該当す
るものと認められる。
したがって,イ号製品は,構成要件ウを充足する。
b前記aによれば,イ号製品の内側傾斜領域(7B’)のうちの7B’
1及び外側傾斜領域(7A')は,構成要件エの「空気流を高速流動さ
せている傾斜面」に該当することが認められる。
そして,内側傾斜領域(7B’)のうちの7B’1と外側傾斜領域
(7A’)との間にある供給口(5)は,別紙イ号製品説明書の図面
のとおり,空気流の流動方向に交差するように形成されているから,
構成要件エの「空気流を高速流動させている傾斜面の途中」に備えた
「空気流の流動方向に交差するように液体を供給する供給口」に該当
する。
したがって,イ号製品は,構成要件エを充足する。
(ウ)これに対し被控訴人は,別紙控訴人主張図面⑴記載の7B’1は,
イ号製品の空気口(10)より0.5mm未満程度突出した,実物では
視認できない程度の「線状のエッジ部」であって,「面」(傾斜面)で
はなく,空気口からの加圧空気を噴射して高速流動させるための助走区
間として作用するものではないから,構成要件エの「空気流を高速流動
させている傾斜面」に該当しない,したがって,イ号製品の「液体を供
給する供給口(5)」は,構成要件エの「空気流を高速流動させている
傾斜面の途中」に備えた「供給口」に該当しないとして,イ号製品は,
構成要件エを充足しない旨主張する。
しかしながら,内側傾斜領域(7B’)のうちの7B’1は傾斜面と
しての構成を備えることは,前記(イ)aで説示したとおりである。
また,前記ア(ア)のとおり,構成要件エの「空気流を高速流動させて
いる傾斜面」にいう「傾斜面」は,「傾斜面」の長さ,幅又は形状によ
って空気流を高速化させる作用を有することまでは要しないものと解さ
れるから,空気口からの加圧空気を噴射して高速流動させるための助走
区間として作用することを要するものともいえない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
ウまとめ
以上によれば,イ号製品は,構成要件イないしエを充足する。
⑵イ号製品の構成要件オの充足性について
ア「高速流動する空気流で平滑面に押し付けて」の意義について
(ア)a構成要件オは,「供給口から傾斜面に供給された液体を,高速流
動する空気流で平滑面に押し付けて薄く引き伸ばして薄膜流」とする
ことを規定している。構成要件オの記載から,「供給口から傾斜面に
供給された液体」が「高速流動する空気流」によって「押し付け」ら
れて「薄く引き伸ば」され「平滑面」(傾斜面)を流れる「薄膜流」
となることを理解できる。また,構成要件ウの記載から,この「高速
流動する空気流」は,「傾斜面に接触しながら,傾斜面と平行に一定
の方向に高速流動する空気流」であることを理解できる。
一方で,本件発明4の特許請求の範囲(請求項4)には,本件発明
4は,「液体の流動方向に平滑な面」である「傾斜面」(構成要件イ)
と,「傾斜面に加圧空気を噴射して…高速流動する空気流をつくる空
気口」(構成要件ウ)と,「傾斜面の途中に,空気流の流動方向に交
差するように液体を供給する供給口」(構成要件エ)とを備える構造
であることを規定しているが,「傾斜面」を「平滑な面」のうちの特
定の形状のものに限定する記載はなく,また,「高速流動する空気流」
が「液体」に対して「押し付け」る力が作用する方向及び範囲を具体
的に特定する記載もない。
以上によれば,構成要件オの「供給口から傾斜面に供給された液体
を,高速流動する空気流で平滑面に押し付けて薄く引き伸ばして薄膜
流とし」にいう「液体を,高速流動する空気流で平滑面に押し付けて」
とは,空気口から出る「傾斜面と平行に一定の方向に高速流動する空
気流」の方向と供給口から「空気流の流動方向に交差するように供給
される液体」の方向との間に角度が生じることから,高速流動する空
気流によって「液体」(液体流)を傾斜面に「押し付け」る力が作用
することを規定したものと解するのが自然である。
b次に,本件明細書には,「本発明の請求項4に記載される液体を微
粒子に噴射するノズルは,…傾斜面7を液体の流動方向に平滑な面と
すると共に,この傾斜面7に加圧空気を噴射して,傾斜面7に接触し
ながら,しかも,傾斜面7と平行に一定の方向に高速流動する空気流
をつくる空気口10と,空気流を高速流動させている傾斜面7の途中
に,空気流の流動方向に交差するように液体を供給する供給口5とを
備える。供給口5から傾斜面7に供給された液体は,高速流動する空
気流で平滑面に押し付けられて薄く引き伸ばされた薄膜流となり,薄
膜流を空気流で空気中に微粒子として噴射することを特徴としている。」
(【0016】)との記載があるが,「高速流動する空気流」が「供
給口5から傾斜面7に供給された液体」に対して「押し付け」る力が
作用する方向及び範囲を具体的に特定する記載はない。
もっとも,本件明細書には,「図11の拡大図に示すノズル」は,
「内側中間リング12Aの傾斜面7を湾曲させて,先端部分を,隣接
する傾斜面7の延長線から突出するように形成している」ため「傾斜
面7に沿って矢印の方向に高速流動する空気流が,先端部分で傾斜面
7に強く押し付けられて,傾斜面7を流動する液体の薄膜流をより薄
く引き延ばしできる。このため,この構造のノズルは,液体を極めて
微細な,たとえば1~5μmの微粒子として噴射できる特長がある。」
(【0052】)との記載及び「図14に示すノズル」は,「内側中
間リング12Aの傾斜面7の傾斜角を途中で変更して,先端部分を,
隣接する傾斜面7の延長線から突出するように形成している」ため「傾
斜面7に沿って矢印の方向に高速流動する空気流が,先端部分で傾斜
面7に強く押し付けられて,傾斜面7を流動する液体の薄膜流を薄く
引き延ばしできる。このため,この構造のノズルは,液体をより微細
な微粒子として噴射できる特長がある。」(【0057】)との記載
がある。
しかし,一方で,本件明細書には,「この好ましい実施例を示す図
5のように,傾斜面7に供給された液体は,傾斜面7に沿って高速流
動させる空気流で薄く引き伸ばされて薄膜流8となる。」(【001
4】)との記載があること,図5に示された傾斜面7は,図11及び
図14のような湾曲した形状ではなく,内側リング11と中間リング
12の傾斜面7に段差ができず,「同一平面上」に形成されているこ
と(【0031】),更には,「以下に示す実施例は,本発明の技術
思想を具体化するための液体を微粒子に噴射する方法とノズルを例示
するものであって,本発明は液体を微粒子に噴射する方法とノズルを
下記のものに特定しない。」(【0025】)との記載があることに
照らすと,構成要件オの「液体を,高速流動する空気流で平滑面に押
し付けて」の構成は,湾曲した傾斜面7に沿って高速流動する空気流
が「先端部分で傾斜面7に強く押し付けられて」,傾斜面7を流動す
る液体の薄膜流を薄く引き延ばしできる構成のもの(【0052】,
【0057】,図11,図14)に限定されるものと解することはで
きない。
c以上の本件発明4の特許請求の範囲(請求項4)の記載及び本件明
細書の記載を総合すると,構成要件イないしエの構成を備えるノズル
の空気口でつくられた「高速流動する空気流」によって液体(液体流)
が「平滑面」(傾斜面)に沿って流れる「薄膜流」になっているので
あれば,高速流動する空気流によって「液体」(液体流)を傾斜面に
「押し付け」る力が作用し,「液体」は「薄く引き伸ば」されている
ものといえるから,構成要件オの「供給口から傾斜面に供給された液
体を,高速流動する空気流で平滑面に押し付けて薄く引き伸ばして薄
膜流」にいう「液体を,高速流動する空気流で平滑面に押し付けて」
の構成を備えるものと解される。
(イ)これに対し被控訴人は,①「押し付けて」の用語は,一般に,「力
を入れて押し他の物に付けること」(三省堂大辞林),「何かに力を加
えることでそれ自体を動かさないようにすること」(実用日本語表現辞
典)を意味すること,②「押し付けて」の用語は,旧請求項1ないし9
のいずれにも記載されていなかったが,本件拒絶理由通知を受けて,本
件補正により,旧請求項1,2及び4において「高速流動する空気流で
平滑面に押し付けて薄く引き伸ばして薄膜流とし」と補正されたこと,
本件補正の際に提出された本件意見書の記載(7頁17行~8頁4行)
を踏まえると,「本発明」の特徴は単に液体の進行方向を転換するので
はなく,液体を空気流によって押し付けることに「本発明」の特徴があ
る旨を述べて,本件拒絶理由通知に係る引用例と差別化をし,拒絶理由
を解消し,本件特許の特許査定がされた経緯があること,③本件出願の
当初明細書(乙36)には,「押し付けて」の用語は,図11及び図1
4の実施例以外に記載はなく,図11及び図14の実施例によれば,「空
気流が傾斜面7に押し付けられる」ためには,傾斜面7が湾曲されてい
るとか,傾斜角が変更されているなど,上側傾斜面が,下側傾斜面に対
し平行な平面ではなく,下側傾斜面に沿って図11や図14のように矢
印方向に流動する空気流が衝突する衝突壁面として形成されていること
が必要と考えられること,④本件明細書の【0020】,【0031】,
【0052】,【0057】,【0071】の記載や,図5において,
供給口から供給された液体について上流側が下流側が薄く黒墨で示され
ているように,液体が高速空気流(図5の空気口からの矢印)で傾斜面
に押し付けられ,密着又は当接状態となって,徐々に薄く引き伸ばされ
て傾斜面の先端側程薄い膜状に引き伸ばされて傾斜面の先端のエッジ部
分では粉砕されて微粒子の液滴となっていることを意識して開示されて
いることを参酌すると,構成要件オの「高速流動する空気流で平滑面に
押し付けて」とは,液体が高速空気流の噴射力による押圧力で上側傾斜
面に押し付けられて,当接又は密着状態となっていることを意味すると
解すべきである旨主張する。
しかしながら,前記(ア)aのとおり,本件発明4の特許請求の範囲(請
求項4)には,構成要件オの「傾斜面」を「平滑な面」のうちの特定の
形状のものに限定する記載はなく,「高速流動する空気流」が「液体」
に対して「押し付け」る力が作用する方向及び範囲を具体的に特定する
記載もない。
また,前記(ア)bのとおり,本件明細書においても,「高速流動する
空気流」が「供給口5から傾斜面7に供給された液体」に対して「押し
付け」る力が作用する方向及び範囲を具体的に特定する記載はないし,
本件明細書の記載から,構成要件オの「液体を,高速流動する空気流で
平滑面に押し付けて」の構成は,湾曲した傾斜面7に沿って高速流動す
る空気流が「先端部分で傾斜面7に強く押し付けられて」,傾斜面7を
流動する液体の薄膜流を薄く引き延ばしできる構成のもの(【0052】,
【0057】,図11,図14)に限定されるものと解することはでき
ない。被控訴人が指摘する図5において黒墨で示された箇所は,液体の
流れを模式的に示したものであり,この箇所から液体が高速空気流で傾
斜面に押し付けられ,密着又は当接状態となっていることが示されたも
のと理解することはできない。
さらに,控訴人は,旧請求項1及び3に係る発明について,「引用例
1」(特開平2-107363号公報。乙4),「引用例2」(特公昭
45-41522号公報。乙5)及び「引用例3」(実公昭44-46
号公報。乙6)に基づく新規性欠如又は進歩性欠如の拒絶理由がある旨
の本件拒絶理由通知(乙2)を受けたため,旧請求項1ないし4及び本
件明細書を補正する本件補正(乙27)をするとともに,本件意見書(乙
3)を提出したものであるところ,被控訴人の挙げる本件意見書の記載
(7頁17行~8頁4行)は,「とくに,本発明は,引用例1の公報に
記載されます噴霧ノズルのように,ボディ1とピントール2との間に設
けた隙間内で,空気を高速流動させるのではありません。本発明は,加
圧された空気を,空気口から開放された空間に噴射して,平滑面に沿っ
て高速流動させます。」(7頁5行~8行)との記載に引き続いて記載
され,その間に「引用例2」及び「引用例3」についての言及はないこ
とに照らすと,「引用例1」に記載されたノズルと「本発明」のノズル
との構造上の差異を説明する趣旨のものとうかがわれ,他方で,構成要
件オの「液体を,高速流動する空気流で平滑面に押し付けて」の構成は,
図11及び図14の実施例の構成のものに限定する旨を述べたものでは
ない。
以上によれば,被控訴人の上記主張は採用することができない。
イ構成要件充足性
(ア)a前記⑴イ(イ)aのとおり,イ号製品においては,内側傾斜領域(7
B’)のうちの7B’1及び外側傾斜領域(7A')が構成要件エの「空
気流を高速流動させている傾斜面」及び構成要件イの「液体の流動方
向に平滑な面」に,「内側傾斜領域(7B’)」と「外側傾斜領域(7
A’)との間にある「供給口(5)」が構成要件エの「空気流を高速
流動させている傾斜面の途中」に備えた「空気流の流動方向に交差す
るように液体を供給する供給口」にそれぞれ該当し,「供給口(5)」
から供給されたノズルの軸方向(垂直方向)に直進する液体流が,空
気口(10)から噴射する高速流動する空気流によって,空気流と合
流する時点で,外側傾斜領域(7A')に沿って平行に進むように進行
方向が曲げられていることが認められる。
そして,イ号製品の写真及び動画(甲46の1ないし4,乙9,1
0,26)によれば,イ号製品においては,空気口(10)から噴射
する高速流動する空気流によって,外側傾斜領域(7A')上に沿って
流れる液体の薄膜流が形成されていることが認められることからする
と,高速流動する空気流によって「液体」(液体流)を傾斜面に「押
し付け」る力が作用し,「液体」は「薄く引き伸ば」されているもの
といえるから,イ号製品は,構成要件オの「供給口から傾斜面に供給
された液体を,高速流動する空気流で平滑面に押し付けて薄く引き伸
ばして薄膜流とし」の構成を備えるものと認められる。
b次に,①甲10の鑑定書には,イ号製品においては,傾斜面(外側
傾斜領域(7A'))に沿って進む薄膜流となった液体流LSは,高速
の気体流GSが流れていると,薄膜流の表面が波立てられ,その表面
から液滴の飛散や微粒化が生じ,ジェット流B(高速の気体流GSと
液体流LSとを合わせた状態)が傾斜面から離れて衝突点Aに至る前
に微粒化が生じている旨の鑑定結果の記載があること,②控訴人がイ
号製品を用いて行った試験結果報告書(甲19)には,試験条件を空
気圧0.15MPa,総液量50g/min,圧縮空気の流量160,
220,又は310L/min(気液比(体積比)は,3200,4
400,6200)の3通りに設定して「衝突あり試験」を実施した
結果は,気液比(体積比)3200の下で,D50が8.29μm,
ザウター平均径が5.84μmとなった旨の記載があること,③乙9
の鑑定書には,試験条件を噴霧水量38kg/h,噴霧空気圧0.2
45MPa,噴霧空気量890NL/min,気液比(vol比)130
0に設定してハ号製品を用いて行った噴霧試験の結果,衝突前の粒子
の粒子径は,D50が35.77μm,ザウター平均径が33.71
μmであった旨の記載があること,④被控訴人のホームページに掲載
された,イ号製品と共通する構造を有するハ号製品の動作を説明する
動画では,液体は気体と傾斜部の間を流れ,「第一段階外部混合部
液はエッジ面に沿って薄く引き伸ばされ,液膜を形成」,「第二段階
衝突部噴霧流同士が衝突し,さらに微粒化」とのテロップが表示さ
れ,「原液は,エッジ面に沿って薄く引き伸ばされ,液膜を形成しま
す。」,「第二段階の衝突部では,噴霧流同士が衝突し,さらに微
粒化します。」とのナレーションが流れ,微粒子が生成される様子が
表示されていること(甲7,8)を総合すると,イ号製品においては,
外側傾斜領域(7A')に沿って進む,液滴を含む薄膜流は,高速流動
する空気流によってその表面が波立てられ,液滴の飛散が生じ,外側
傾斜領域(7A')から離れるときに小さな粒子径の液滴となっている
ものと認められる。
そして,この小さな粒子径の液滴は「微粒子」といえるから,イ号
製品は,構成要件オの「薄膜流を空気流で空気中に微粒子として噴射
する」構成を備えている。
c以上によれば,イ号製品は,構成要件オを充足する
(イ)これに対し被控訴人は,①イ号製品においては,供給口(5)から
供給された液体は,空気口(10)から噴出された外部傾斜領域(7A
')に平行な方向に沿って流動する空気流の強い剪断応力と液体の自重で
下流側へ引っ張られて傾斜面(外部傾斜領域(7A'))に沿って流れ,
空気流によって傾斜面に液体を押し付ける力は作用しておらず,乙23
の鑑定書記載のとおり,流体力学の一般原理においては,傾斜面に対し
て平行な高速気流によっては,傾斜面に供給された液体に対し,傾斜面
に押し付ける力は生じないから,イ号製品は,構成要件オの「液体を,
高速流動する空気流で平滑面に押し付けて」の構成を備えていない,②
構成要件オの「薄膜流を空気流で空気中に微粒子として噴射する」とは,
「高速流動空気によって押しつけられた液体の薄膜流が平滑面ないし傾
斜面から離れるとき」に「10μm以下の液滴の微粒子」になることを
いうが,イ号製品は,気液体が混じった高速噴流が衝突することによっ
て,微粒子を得られるものであり,この衝突前に微粒子を得られるもの
ではないとして,イ号製品は,構成要件オを充足しない旨主張する。
しかしながら,被控訴人の主張は,以下のとおり理由がない。
a上記①について
乙23の鑑定書には,①液体が傾斜面に供給された場合,液体を傾
斜面側に押す力がなくても,液体は,その粘性による剪断応力と自重
とで傾斜面に沿って流れること,②気体が傾斜面に平行に流れる場合,
気体は,傾斜面を押す力を発揮し得ないこと,③液体には,高速の気
流との速度差によって傾斜面に平行な方向の剪断応力が作用し,液滴
の飛散を伴う流れとなるが,このような傾斜面に平行な気流では,該
傾斜面に液体を押し付けるような力は作用しないことは,流体力学の
一般原理である旨の記載がある。
しかしながら,乙23は,空気の直線流れの方向と平行に平板を設
置した場合における流体力学の一般原理について述べるものであって,
イ号製品においては,「供給口(5)」から供給されたノズルの軸方
向(垂直方向)に直進する液体流が,空気口(10)から噴射する高
速流動する空気流によって,空気流と合流する時点で,外側傾斜領域
(7A')に沿って平行に進むように進行方向が曲げられており(前記
(ア)a),傾斜面(外側傾斜領域(7A'))に液体流を押し付ける力
が作用しているものといえるから,イ号製品には妥当しない。
したがって,被控訴人の上記①の主張は理由がない。
b上記②について
本件発明4の特許請求の範囲(請求項4)には,「微粒子」の粒子
径を特定の数値範囲のものに限定する記載はない。
次に,本件明細書には,微粒子の粒子径に関し,「図1に示すノズ
ル」について「この構造のノズルは,液体を10μm以下の微細な粒
子に噴射できる。」(【0003】),「図3に示すノズル」につい
て「粒子径を5μmとする微粒子を得ることに成功した。しかしなが
ら,この構造のノズルは,液体を噴射する供給口5の調整が極めて難
しく,調整がずれると微粒子の粒子径は20~30μm以上に急激に
大きくなった。」(【0011】),「図4に示すノズル」について
「この構造のノズルは,アトマイズエアーとスプレッディングエアー
の衝突角を25度に設計すると,10μm以下の微粒子が得られる。」
(【0012】),「図11の拡大図に示すノズル」について「この
構造のノズルは,液体を極めて微細な,たとえば1~5μmの微粒子
として噴射できる特長がある。」(【0052】),「ちなみに,本
発明者が試作したノズルは,1分間に1000gの液体を噴射して,
粒子径を10μm以下の微粒子の液滴を噴射することに成功した」(【0
072】)との記載があるが,これらの記載から,本件発明4の「微
粒子」の粒子径を「10μm以下」に限定する趣旨を読み取ることは
できず,また,本件明細書には,本件発明4の「微粒子」の粒子径を
「微粒子」の粒子径を特定の数値範囲のものに限定する記載はない。
さらに,本件意見書には,「内部混合タイプのノズルは,閉鎖され
た空間内で液体の微粒子として噴霧します。このため,ノズルの内部
で極めて目詰まりしやすい欠点があります。…にもかかわらず,内部
混合タイプの噴霧ノズルが多用されますのは,外部混合タイプでは,
安定して液体を極めて小さい微粒子に噴霧できないからです。外部混
合タイプの噴霧ノズルであって,液体を微粒子として安定して噴霧で
きます優れたノズルは実用化が困難です。」,「本願発明は,外部混
合タイプのノズルを改良したものです。本願発明の噴射方法とノズル
は,前述の独特の構成で,液体を極めて小さい微粒子に安定して噴射
できる特長があります。本発明の噴射方法とノズルは,液体を,10
μm以下の極めて小さい微粒子として,安定して噴射することが可能
です。…それは,本発明の噴射ノズルが,液体を極めて小さい孔や,
極めて小さいスリットから噴射して微粒子に噴射するのではなく,平
滑面を極めて速い速度で高速流動する空気流で,液体を薄く引き伸ば
して微粒子にして噴射するからです。」(以上,6頁16行~7頁2
行)との記載がある。上記記載中には,「液体を,10μm以下の極
めて小さい微粒子として,安定して噴射することが可能です。」との
記載があるが,上記記載全体として読めば,「本発明」は,「平滑面
を極めて速い速度で高速流動する空気流で,液体を薄く引き伸ばして
微粒子にして噴射する」構成により,液体を微粒子として安定して噴
霧でることを説明したものであって,「本発明」が「10μm以下」
の粒子径の微粒子を噴射できることに格別の作用効果があることを述
べたものではない。
以上によれば,構成要件オの「微粒子」とは,小さな粒子径の粒子
を意味するものであって,粒子径の数値範囲に限定はなく,「10μ
m以下」の粒子径のものに限定されるものでもない。
そして,イ号製品においては,外側傾斜領域(7A')に沿って進む,
液滴を含む薄膜流は,外側傾斜領域(7A')から離れるときに小さな
粒子径の液滴(微粒子)となっていることは,前記(ア)b認定のとお
りである。
したがって,被控訴人の上記②の主張は理由がない。
⑶イ号製品の構成要件アの充足性について
前記⑵イ(ア)a認定のとおり,イ号製品においては,外側傾斜領域(7A
')上に沿って流れる液体の薄膜流が形成されていることが認められるから,
構成要件アの「液体を流動させて薄膜流とする傾斜面」の構成を備えている。
また,イ号製品は,構成要件アの「傾斜面を流動する液体の薄膜流を空気
中に微粒子として噴射する」構成を備えていることは,前記⑵イ(ア)bの認
定のとおりである。
したがって,イ号製品は,構成要件アを充足する。
これに反する被控訴人の主張は採用することができない。
⑷小括
以上のとおり,イ号製品は,本件発明4の構成要件を全て充足するから,
本件発明4の技術的範囲に属する。また,ロ号製品は,イ号製品の構成を有
するノズルを具備する微粒子製造用スプレードライヤであるから,ロ号製品
は本件発明4の技術的範囲に属する。
3争点1-2(ハ号製品及びニ号製品の本件発明4の技術的範囲の属否)につ
いて
⑴ハ号製品(甲8,乙8の1ないし4,9,11,21)は,別紙イ号製品
説明書の「図面」及び「具体的構成」記載のとおり,構成さないしせ記載の
傾斜部(7),空気口(10)及び供給口(5)を備え,空気口(10)か
ら噴射する気体と,供給口(5)から供給する液体とを,各傾斜部(7)の
外側傾斜領域(7A'')でガイドして集束させ,傾斜部(7)から離れた流
動方向下流側の外部衝突点(A)で衝突させて空気中に微粒子として噴射す
る,「液体を微粒子に噴射するノズル」(構成そ及びた)である。
ハ号製品の内側傾斜領域(7B'')のうちの別紙控訴人主張図面⑵記載の
7B''1は,0.4mmの長さを有すること(乙8の4)からすると,傾斜
面としての構成を備えるものと認められる。
そして,前記2⑴イ(イ)で説示したのと同様の理由により,内側傾斜領域(7
B'')のうちの7B''1及び外側傾斜領域(7A'')は構成要件イを,ハ号
製品の空気口(10)は構成要件ウを,内側傾斜領域(7B”)のうちの7B
''1と外側傾斜領域(7A'')の間にある供給口(5)は構成要件エを充足
する。
また,前記2⑵イ及び⑶で説示したのと同様の理由により,ハ号製品は,
構成要件ア及びオを充足する。
これに反する被控訴人の主張は採用することができない。
⑵以上によれば,ハ号製品は,本件発明4の構成要件を全て充足するから,
本件発明4の技術的範囲に属する。また,ニ号製品は,ハ号製品の構成を有
するノズルを具備する微粒子製造用スプレードライヤであるから,ニ号製品
は本件発明4の技術的範囲に属する。
4争点2(イ号製品及びロ号製品の本件発明6の技術的範囲の属否)について
(1)構成要件キ(Ⅰ)ないし(Ⅶ)の充足性について
前記2⑴イと同様の理由により,イ号製品は,構成要件キ(Ⅰ)ないし(Ⅶ)
を充足する。
(2)構成要件キ(Ⅷ)の充足性について
ア証拠(甲12の2ないし4,45,乙25)によれば,イ号製品の分配
羽根(22)は,空気口(10)に連通する空気路(1)に配設され,ノ
ズルの軸方向(中心方向)に対して傾斜角を有する12個のリブを周方向
に等間隔で設けていること(別紙甲12の4の画像参照),リブの間には
ノズルの軸方向(中心方向)に傾斜するスリットが形成されていること,
空気路(1)から供給された空気は,上記スリットを通過して内側傾斜領
域(7B')上を進み,空気口(10)から噴射されることが認められる。
上記認定の分配羽根(22)の形状に照らせば,ノズルの軸方向(中心
方向)に傾斜する上記スリットを通過する空気は,スリットによって旋回
流が付与され,旋回しながら,内側傾斜領域(7B')上を進むものと認め
られる。
したがって,イ号製品の分配羽根(22)は,空気路に配設された「軸
方向に流動する空気をスパイラルに回転させるヘリカルリブ」に該当し,
イ号製品は,「空気口から噴射される空気がスパイラル状に回転しながら
傾斜面に沿って噴射されるように構成されている」ものと認められるから,
構成要件キ(Ⅷ)を充足する。
イこれに対し被控訴人は,イ号製品においては,分配羽根(22)を通過
する空気は,狭いスリットを通過した後に内側傾斜領域(7B')で形成さ
れる狭い通路を通過して整流されるため,ノズル中心軸方向で,かつ,径
方向に対してわずかに交差する方向に直進する空気流として空気口から噴
出して外側傾斜領域(7A')に沿って流れ,外部衝突点(A)に集束する
から,空気口から噴射される空気がスパイラル状に回転することはない旨
主張する。
しかしながら,イ号製品の内側傾斜領域(7B')は,円錐台側面形状の
面からなる傾斜面(構成い)であり,内側傾斜領域(7B')上に形成され
る気体流路はリング状であることに照らすと,ノズルの軸方向(中心方向)
に傾斜するスリットによって旋回流が付与された空気は,上記気体流路を
通過することによって斜め方向に「直進する空気流」に整流されるものと
まで認めることはできない。
したがって,被控訴人の上記主張は理由がない。
(3)小括
以上によれば,イ号製品は,本件発明6の構成要件キ(Ⅰ)ないし(Ⅷ)
を全て充足するから,本件発明6の技術的範囲に属する。
また,ロ号製品は,イ号製品を備える微粒子製造用スプレードライヤであ
るから,本件発明6の構成要件を全て充足し,本件発明6の技術的範囲に属
する。
5争点3(無効の抗弁の成否)について
被控訴人は,本件発明4及び6に係る本件特許には,無効理由1(明確性要
件違反),無効理由2(実施可能要件違反)及び無効理由3(サポート要件違
反)の無効理由があり,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,
特許法104条の3第1項の規定により,控訴人は,被控訴人に対し,本件特
許権を行使することはできない旨主張する。
しかしながら,被控訴人主張の無効理由1ないし3は,本件発明4及び6の
「微粒子」は,「粒子径10μm以下」のものに限定解釈されることを前提と
するものであるが,本件発明4及び6の「微粒子」が粒子径10μm以下のも
のに限定されないことは,前記2⑵イ(イ)bで判断したとおりであるから,そ
の前提において理由がない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
6争点4(被控訴人が賠償又は返還すべき控訴人の損害額等)について
⑴特許法102条2項に基づく損害額について
ア本件噴霧乾燥機⑴の販売に係る特許法102条2項の適用について
(ア)被控訴人は,平成26年1月,台湾企業のAdvanced社に対し,本件
噴霧乾燥機⑴を●●●●●●●円で販売した(乙55)。
本件噴霧乾燥機⑴は,イ号製品を含む噴霧乾燥装置(スプレードライ
ヤ)(ロ号製品)であるから,被控訴人による本件噴霧乾燥機⑴の販売
は本件発明4及び6に係る本件特許権の侵害行為に該当するものと認め
られる。
そして,証拠(甲47の3,4,57)及び弁論の全趣旨によれば,
①控訴人は,本件発明4及び6の実施品である噴霧乾燥装置(商品名「マ
イクロミストスプレードライヤ」(型式「MDL-015」,「MDL
-050」等))を製造及び販売していたこと,②控訴人は,本件噴霧
乾燥機⑴の販売前に,Advanced社との間で,上記噴霧乾燥装置の取引交
渉を行い,受注に至らなかったが,その間の2010年(平成22年)
7月27日には,Advanced社による上記噴霧乾燥装置のラボ機(「MD
L-050」)の性能試験に合格したことが認められることに照らすと,
被控訴人が本件噴霧乾燥機⑴の販売により受けた利益(限界利益)の額
は,特許法102条2項により,控訴人が受けた損害額と推定されるも
のと解される。
(イ)この点について被控訴人は,イ号製品のノズルは,本件噴霧乾燥機
⑴の一部品であり,本件発明4及び6は当該ノズル部分にのみ実施され
ていること,ノズル単体が取引対象となり,その取引市場も存在するこ
とからすると,本件噴霧乾燥機⑴全体の販売利益(限界利益)と控訴人
の損害との間に相当因果関係がないから,ノズル部分の販売価格又はそ
の限界利益を基準として控訴人の損害額を算定すべきである旨主張する。
そこで検討するに,証拠(甲55,56)及び弁論の全趣旨によれば,
本件噴霧乾燥機⑴は,被控訴人が「乾燥室,熱風室,ノズル,運転室,
ダクト,エアフィルタ,架台」の製作機器と「ファン,ポンプ,製品取
り出しダンパー,ノッカー,ホイスト,熱風炉,バグフィルタ,配管部
品,パッキン・ガスケット,電気(盤・計装品)」の購入機器とを納品
先で組み立てて製造されたものであること,本件噴霧乾燥機⑴の販売対
象には,噴霧乾燥機本体のほかに,交換可能な予備のノズル1台が含ま
れていたことが認められることからすると,本件噴霧乾燥機⑴のノズル
部分(イ号製品)は,交換可能な部品の一つであることが認められる。
しかるところ,被控訴人は,本件噴霧乾燥機⑴全体を一つの装置とし
て販売したものであって,その構成部品を個別に販売したものではない
こと,損害額の立証の困難を軽減し,その容易化を図った特許法102
条2項の趣旨に照らすと,被控訴人が受けた本件噴霧乾燥機⑴全体の限
界利益の額について同項による推定が及び,イ号製品が本件噴霧乾燥機
⑴の交換可能な部品の一つであることは,上記推定の全部又は一部を覆
す事情として考慮するのが相当であると解される。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
イ本件噴霧乾燥機⑴の販売に係る限界利益の額について
控訴人は,被控訴人が本件噴霧乾燥機⑴の販売により受けた限界利益の
額は,売上高●●●●●●●円から,乙55(積算内訳書)記載の仕入原
価●●●●●●●●●円及び乙56(被控訴人が令和元年12月に作成し
た書面)記載の日当宿泊費●●●●●●●円を控除した●●●●●●●●
●円である旨主張する。
これに対し被控訴人は,上記日当宿泊費●●●●●●●円に加え,乙5
5記載の工場原価●●●●●●●●●円(製造原価●●●●●●●●●円
に1.1の掛け率を乗じた額)及び乙56記載の納品までの試験に要した
総人件費●●●●円は,本件噴霧乾燥機⑴の製造又は販売に直接必要な経
費として控除すべきであるから,被控訴人が本件噴霧乾燥機⑴の販売によ
り受けた限界利益の額は,売上高●●●●●●●円から上記経費を控除し
た●●●●●●●●●円である旨主張する。
そこで検討するに,乙55は,被控訴人が作成した平成25年12月4
日付けの本件噴霧乾燥機⑴の販売価格の見積額の積算内訳書であるところ,
乙55には,①販売価格●●●●●●●円は,「製作機器」,「購入機器」,
「現場工事費」及び「間接費」の各見積額から積算した価格であること,
②「製造原価」が●●●●●●●●●円であり,その内訳は,「製作機器」,
「購入機器」及び「現場工事費」の合計●●●●●●●●●円と「間接費」
●●●●●●●●●円からなること,③「製造原価」に1.1を乗じて算
出した「工場原価」が●●●●●●●●●円であること,④「仕入原価」
が●●●●●●●●●円であることの記載がある。上記記載と乙55記載
の各見積額の具体的な内訳内容を総合すると,上記「製造原価」は,本件
噴霧乾燥機⑴の製造又は販売に直接必要な経費(追加的に必要となった経
費)であると認めるのが相当である。
一方で,乙55記載の「間接費」には「直接労務費」●●●●●●●●
円,「現場管理費」●●●●●●●●円及び「旅費」●●●●円が人件費
等として含まれていることに照らすと,上記人件費等とは別に,乙56記
載の総人件費●●●●円が本件噴霧乾燥機⑴の製造又は販売に直接必要な
経費であるものと認めることはできない。
次に,控訴人主張の「仕入原価」については,その算出根拠が不明であ
ること,被控訴人主張の「工場原価」については,「製造原価」を超える
部分が本件噴霧乾燥機⑴の製造又は販売に直接必要であることを裏付ける
具体的な立証はないことに照らすと,いずれも本件乾燥機⑴の製造又は販
売に直接必要な経費であるものと認めることはできない。
以上によれば,被控訴人が本件噴霧乾燥機⑴の販売により受けた限界利
益の額は,売上高●●●●●●●円から「製造原価」●●●●●●●●●
円及び日当宿泊費●●●●●●●円(控除すべき経費に該当することに争
いがない。)を控除した●●●●●●●●●円と認められる。
したがって,被控訴人が受けた上記限界利益の額は,特許法102条2
項により,控訴人の受けた損害額と推定される。
ウ推定覆滅事由について
被控訴人は,①イ号製品は本件噴霧乾燥機⑴の一部品であること,②本
件噴霧乾燥機⑴が控訴人の製品より高品質であること,被控訴人の本件噴
霧乾燥機⑴の受注に至るまでの営業努力及びブランド力,競合他社及び競
合品の存在は,前記イの控訴人の受けた損害額の推定(以下,この推定を
「本件推定」という場合がある。)を覆す事情に該当し,かかる事情を考
慮すると,本件噴霧乾燥機⑴の購買動機の形成に対する本件発明4及び6
の寄与率は3%以下であるから,上記寄与率を超える部分について本件推
定は覆滅される旨主張するので,以下において判断する。
(ア)イ号製品は本件噴霧乾燥機⑴の一部品であることについて
被控訴人は,イ号製品のノズルは本件噴霧乾燥機⑴の一部品であって,
本件発明4及び6は当該ノズル部分にのみ実施されていること,ノズル
は他社製品に取り換え可能な部品であること,本件噴霧乾燥機⑴全体の
売上高が●●●●●●●円であるのに対し,ノズル部分の販売価格は●
●●●円で全体に占める割合が極くわずかであることは,本件推定を覆
す事情である旨主張する。
aそこで検討するに,①噴霧乾燥機(スプレードライヤ)は,液体原
料を微粒化し,熱風中に噴霧して液滴の水分を蒸発させて乾燥粉体を
得る装置であり,液体原料を噴霧する微粒化装置,熱風を発生させて
微粒子を乾燥させる乾燥室,乾燥した粉体を回収するバグフィルタ等
の複数の設備から構成され,ノズルは,微粒化装置の部品の一つであ
ること(甲52,53,56),②本件噴霧乾燥機⑴のノズル部分(イ
号製品)は,これと同様に位置付けられる交換可能な部品であるとこ
ろ(前記ア(イ)),乙55には,「ノズル」の販売価格が●●●●円
と記載されており,この販売価格は,本件噴霧乾燥機⑴の販売価格全
体(●●●●●●●円)の約5.4%に相当することに照らすと,本
件噴霧乾燥機⑴の限界利益中には,ノズル以外の設備又はその部品に
対応する部分が大部分を占めていることが認められる。
b次に,証拠(甲56,乙59)及び弁論の全趣旨によれば,噴霧乾
燥機(スプレードライヤ)には,食品,医薬品,セラミックス,化成
品の様々な乾燥粉体を得るための用途があり,噴霧乾燥機(スプレー
ドライヤ)は,顧客の求める乾燥粉体の仕様,装置の性能等に応じて
設計製作されるオーダーメイド製品であること,その装置の性能等に
は,噴霧する微粒子の粒子径及びその粒度分布,噴霧量等の微粒化装
置に関するもののみならず,乾燥室,バグフィルタ等や装置全体の性
能に関するものがあり,Advanced社が要求した本件噴霧乾燥機⑴の仕
様においても,平均粒子径のほかに,処理量,水分蒸発量等や機器の
電気アセンブリ,ガス及び液体パイプラインアセンブリの基本要件等
の微粒化装置以外の装置に関する事項が含まれていたことが認められ
る。
c本件発明4及び6は,本件噴霧乾燥機⑴のノズル部分に関する発明
であって,装置置全体の発明ではない。
一方で,証拠(甲52,53,乙12,41)及び弁論の全趣旨に
よれば,①噴霧乾燥機(スプレードライヤ)は,微粒子を噴射する微
粒化装置の噴霧方式により,ディスク方式とノズル方式に分類され,
さらに,ノズル方式は,「加圧ノズル」,「二流体ノズル」,「四流
体ノズル」などに分類され,ノズルが選定された上で,当該ノズルに
適合させた液体流や気体流の供給構造が構築され,噴霧乾燥機全体が
設計されるのが一般的であり,ノズルは噴霧乾燥機における中核的な
装置であること,②控訴人及び被控訴人のカタログ(乙12,41)
に各種ノズルの構造や特徴が詳細に記載され,被控訴人のウェブサイ
ト掲載の顧客向けの「Q&A集」には,「液体を噴霧する装置を「微
粒化装置」と呼び,スプレードライヤでもっとも重要な部分です。」
との記載(甲53)があることが認められる。
そして,本件発明4及び6は,空気口から平滑な傾斜面に加圧空気
を噴射して,供給口から傾斜面に供給される液体を,傾斜面に沿って
高速流動する空気流で傾斜面に押し付けて薄く引き伸ばして薄膜流と
し,薄膜流は空気流で加速されて傾斜面の先端から気体中に噴射され
るときに微粒子の液滴となる構造を採用し,この構造により種々の液
体を詰まらない状態で長時間連続噴射することができるようにしたこ
とに技術的意義があり(前記1⑵イ),微粒化の基本的技術に係る発
明であることが認められる。
d前記aないしcのとおり,本件噴霧乾燥機⑴の限界利益中には,ノ
ズル以外の設備又はその部品に対応する部分が大部分を占めており,
Advanced社の本件噴霧乾燥機⑴の購入動機の形成には,ノズル以外の
設備及びその性能も寄与又は貢献しているものと認められること,本
件発明4及び6は,本件噴霧乾燥機⑴のノズル部分に関する発明であ
って,装置置全体の発明ではないことに鑑みると,イ号製品のノズル
が本件噴霧乾燥機⑴の一部品であることは,本件推定を覆す事情に該
当するものと認められる。
(イ)本件噴霧乾燥機⑴が控訴人の製品より高品質であること,競合他社
及び競合品の存在等について
a被控訴人は,本件噴霧乾燥機⑴は,ディスク式とノズル式を兼用す
る噴霧乾燥機である上,ジェット流同士を外部衝突点で衝突させて微
粒化する外部衝突型の外部混合方式という独自の技術(被控訴人保有
の特許第3554302号(乙57),特許第4718811(甲1
0))を採用し,粗大粒子径の発生を抑制して粒子径を揃えること(粒
子径の均一化)が可能であるのに対し,控訴人の製品には,上記兼用
機が存在せず,粒子径の均一化が困難であった点において,本件噴霧
乾燥機⑴は,控訴人の製品より高品質であることが顧客の購買動機の
形成に大きな要因となり,これに付加して被控訴人の本件噴霧乾燥機
⑴の受注に至るまでの営業努力やブランド力も購買動機の形成に貢献
したから,これらの事情は本件推定を覆す事情となる旨主張する。
しかしながら,Advanced社が本件噴霧乾燥機⑴がディスク式とノズ
ル式を兼用する噴霧乾燥機であることや本件噴霧乾燥機⑴のノズルが
ジェット流同士を外部衝突点で衝突させて微粒化する外部衝突型の外
部混合方式であるという技術に着目し,それらが本件噴霧乾燥機⑴の
購買動機の形成に大きな要因となったことを認めるに足りる証拠はな
い。
また,控訴人の製品は,「四流体ノズル」であって,気体路と液体
路から出た流体が一点に集まる衝突焦点を形成させるためのノズルエ
ッジを持った構造で液体を高速気体流で薄く引き伸ばし,エッジ先端
の衝突焦点で発生する衝撃波でミストを造る「外部混合式ノズル」で
あるところ(甲47の3,乙41),控訴人の製品においては粗大粒
子径の発生を抑制して粒子径を揃えること(粒子径の均一化)が困難
であったことを認めるに足りる証拠はない。
さらに,被控訴人のブランド力が本件噴霧乾燥機⑴の購買動機の形
成に寄与ないし貢献したことを認めるに足りる証拠はない。同様に,
被控訴人が本件噴霧乾燥機⑴の受注に至るまでに通常の範囲を超える
顕著な営業努力をしたことが本件噴霧乾燥装置⑴の購買動機の形成に
寄与ないし貢献したことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
b被控訴人は,微粒化用ノズルは,ノズル単品の販売を行う多数のメ
ーカーが存在し,他社製品に取り換え可能な部品であるから,被控訴
人が本件噴霧乾燥機⑴を受注しなければ,控訴人が受注したであろう
という推定はおよそ成り立たず,このような競合他社及び競合品の存
在は,本件推定を覆す事情となる旨主張する。
しかしながら,微粒子化用のノズルについては,スプレーイングシ
ステムジャパン合同会社,株式会社いけうち,株式会社共立合金製作
所,新倉工業株式会社,GEAプロセスエンジニアリング株式会社,
SPX社,アトマックス社,中国BTR等の他社製品が存在すること
が認められるが(乙37ないし40,62,63等),一方で,噴霧
乾燥機(スプレードライヤ)は,顧客の求める乾燥粉体の仕様,装置
の性能等に応じて設計製作されるオーダーメイド製品であり,ノズル
が選定された上で,当該ノズルに適合させた液体流や気体流の供給構
造が構築され,噴霧乾燥機全体が設計されること,Advanced社におい
て,控訴人及び被控訴人以外の他社のノズルを使用した噴霧乾燥機の
購入を具体的に検討していたことを認めるに足りる証拠はないことに
照らすと,他社製品の存在は,本件推定を覆す事情となるものと認め
ることはできない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ)まとめ
以上を前提に検討するに,前記(ア)d認定の本件推定を覆す事情,前
記(ア)c認定の噴霧乾燥機における微粒化装置(ノズル)の技術的位置
付け並びに本件発明4及び6の技術的意義を総合考慮すると,Advanced
社の本件噴霧乾燥機⑴の購買動機の形成に対する本件発明4及び6の寄
与割合は30%と認めるのが相当であり,上記寄与割合を超える部分に
ついては本件噴霧乾燥機⑴の限界利益の額と控訴人の受けた損害額との
間に相当因果関係がないものと認められる。
したがって,本件推定は上記限度で覆滅されるから,特許法102条
2項に基づく控訴人の損害額は,本件噴霧乾燥機⑴の限界利益の額(●
●●●●●●●●円)の30%に相当する●●●●●●●●●円と認め
られる。
⑵不当利得について
ア本件噴霧乾燥機⑵ないし⑸の販売に係る限界利益相当の不当利得につい
ついて
(ア)証拠(乙44,48ないし50)及び弁論の全趣旨によれば,①被
控訴人は,平成20年4月,塩野義製薬に対し,イ号製品を含む噴霧乾
燥装置(本件噴霧乾燥機⑵)を●●●●円で販売したこと,②被控訴人
は,平成21年2月,Phenix社に対し,ハ号製品を含む噴霧乾燥装置(本
件噴霧乾燥機⑶)を●●●●●円で販売したこと,③被控訴人は,同年
5月,Hanwha社に対し,ハ号製品を使用した噴霧乾燥装置(ニ号製品)
(本件噴霧乾燥機⑷)を●●●●●●●●●円で販売したこと,④被控
訴人は,平成23年5月,住友大阪セメントに対し,ハ号製品を使用し
た噴霧乾燥装置(ニ号製品)(本件噴霧乾燥機⑸)を●●●●●●●円
で販売したことが認められる。
そして,本件噴霧乾燥機⑵の販売は,本件発明4及び6の実施に,本
件噴霧乾燥機⑶ないし⑸の販売は,本件発明4の実施にそれぞれ該当す
ることが認められる。
(イ)控訴人は,イ号製品及びハ号製品は20μm以下の微粒子を大量に
噴射することのできる「微粒化専用ノズル」であるところ,このような
「微粒化専用ノズル」を製造できるメーカーは,控訴人と被控訴人の2
社のみであること(甲52)に照らすと,被控訴人が本件噴霧乾燥機⑵
ないし⑸を受注しなければ,控訴人が受注できたという関係にあるから,
被控訴人は,本件噴霧乾燥機⑵ないし⑸の販売により限界利益相当の利
得をし,これにより控訴人は,同額の損失を被った旨主張する。
しかしながら,控訴人主張の控訴人の損失と被控訴人の限界利益相当
の利得との間に因果関係があることを認めるに足りる証拠はない。
すなわち,控訴人が根拠として挙げる甲52(「【Q&Aから学ぶ】
スプレードライの基礎と実務運転操作」情報機構,2014年9月14
日発行)には,「一般に二流体ノズルでは製品の平均粒子径の範囲は1
0~50μmと言われている。しかし筆者の経験では10~20μmと
細かい製品が殆どであった。製品の粉舞の問題もあり普及率が5%程度
と少ないのも頷ける。しかし実験室規模の装置では乾燥塔の容積が小さ
いため乾燥時間が取れないので二流体ノズルが主流である。」(7頁),
「スプレードライヤの種類は大きく分けて噴霧方式からディスクタイプ,
ノズルタイプ(加圧ノズル),二流体ノズルタイプの3種類である。し
かし先にも記述したように二流体ノズルタイプは製品粒子径が小さく粉
舞が問題になる事から工業的に採用されるケースは少ない。40年以上
の経験者である筆者も生産規模では二流体ノズルの経験はない。従って
スプレードライヤと言えばディスクタイプと加圧ノズルタイプの2種類
になる。」(9頁)などの記載があるが,上記記載から,20μm以下
の微粒子を大量に噴射することのできる「ノズル」を製造できるメーカ
ーが控訴人と被控訴人の2社のみであることを認めることはできない。
また,控訴人は,本件噴霧乾燥機⑶の販売先であるPhenix社に対し,
控訴人の製品の概算価格を提示したこと(甲48の1,2),本件噴霧
乾燥機⑷及び⑸の販売先であるHanwha社及び住友大阪セメントに対し,
控訴人の製品の見積書(甲49の1ないし50の3)を提出したことが
認められるが,かかる概算価格の提示又は見積書の提出から直ちに被控
訴人が本件噴霧乾燥機⑶ないし⑸を受注しなければ,控訴人が控訴人の
製品を受注できたという関係にあるものと認めることはできない。他に
これを認めるに足りる証拠はない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ)次に,控訴人は,予備的主張として,被控訴人は,本件噴霧乾燥機
⑵ないし⑸の販売によりノズル部分の限界利益相当の利得をし,これに
より控訴人は,同額の損失を被った旨主張する。
しかしながら,控訴人主張の控訴人の損失と被控訴人のノズル部分の
限界利益相当の利得との間に因果関係があることを認めるに足りる証拠
はないから,控訴人の上記主張は採用することができない。
(エ)以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の
本件噴霧乾燥機⑵ないし⑸の限界利益相当の不当利得返還請求は理由が
ない。
イ実施料相当の不当利得(予備的主張)について
(ア)本件噴霧乾燥機⑵の販売は,本件発明4及び6の実施に,本件噴霧
乾燥機⑶ないし⑸の販売は,本件発明4の実施にそれぞれ該当すること
は,前記ア(ア)認定のとおりである。
そして,被控訴人は,本件発明4及び6の上記実施についての実施料
を支払っていないから,被控訴人は,本件噴霧乾燥機⑵ないし⑸を販売
したことにより,その実施相当額の利得をし,これにより控訴人は同額
の損失を被ったものと認められる。
そこで,実施料相当額について検討するに,①実施料率(第5版)(甲
54,乙53)には,一般産業用機械の技術分野において,「平成4年
度~平成10年度」の実施料率の平均は,イニシャル有りで4.4%,イ
ニシャル無しで4.2%であり,最も契約件数が多いのは5%である旨の
記載があること,②平成21年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報
告書(甲55,乙54)には,アンケートの結果,技術分類のうち「分
離・混合」の製品分野においては,ロイヤルティ料率の平均値が3.2%
(最大値9.5,最小値1.5)である旨の記載があること,③ノズルは
本件噴霧乾燥機⑵ないし⑸の一部品であること,④噴霧乾燥機における
微粒化装置(ノズル)の技術的位置付け並びに本件発明4及び6の技術
的意義(前記⑴ウ(ア)c)など本件訴訟に現れた諸事情を総合考慮する
と,本件発明4及び6の実施料率は,噴霧乾燥機全体の売上高の2%と
認めるのが相当である。
(イ)そうすると,被告が返還すべき利得額は,本件噴霧乾燥機⑵ないし
⑸の売上高合計●●●●●●●●●円(前記ア(ア)①ないし④の合計額)
に実施料率2%を乗じた●●●●●●●●円となる。
⑶弁護士費用及び弁理士費用
本件事案の内容,原審及び当審における審理の経過,認容額等の諸般の事
情を考慮すると,被控訴人による本件特許権の侵害行為と相当因果関係のあ
る弁護士費用及び弁理士費用相当の控訴人の損害額は,250万円と認める
のが相当である。
⑷小括
以上によれば,控訴人は,被控訴人に対し,本件特許権侵害の不法行為に
基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権に基づき,2189万882
3円(前記⑴ウ(ウ)の損害額,前記⑵イ(イ)の利得額及び前記⑶の弁護士費
用及び弁理士費用の合計額)及びこれに対する平成28年1月21日(訴状
送達の日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の
民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
第5結論
以上によれば,控訴人の請求は,2189万8823円及びこれに対する平
成28年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める
限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから棄却すべきも
のである。
したがって,これと異なる原判決は失当であって,本件控訴は一部理由があ
るから,原判決を上記のとおり変更することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官國分隆文
裁判官筈井卓矢は転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官大鷹一郎
(別紙)製品目録
1イ号製品
製品名「ツインジェットノズル(RJシリーズ)」
2ロ号製品
製品名「微粒子製造用スプレードライヤ(RJシリーズ)」
3ハ号製品
製品名「ツインジェットノズル(TJシリーズ)」
4ニ号製品
製品名「微粒子製造用スプレードライヤ(TJシリーズ)」
(別紙)
イ号製品説明書
1製品名「ツインジェットノズル(RJシリーズ)」
2図面
3イ号製品の具体的構成
あ流体をノズルの中心側へ集束するようにガイドする傾斜部(7)を有し,この
傾斜部(7)を流動する流体を,傾斜部(7)から離れた流動方向下流側の外
部衝突点(A)で衝突させて空気中に微粒子として噴射するノズルにおいて,
い傾斜部(7)は,流体の流動方向に平滑な面であって,流動方向下流側ほど縮
径する円錐台側面形状の面からなり,流体の流動方向上流側から下流側に向か
って,内側傾斜領域(7B'),外側傾斜領域(7A')の順で有し,
う内側傾斜領域(7B')上に配置され,外部衝突点(A)に向けて気体を噴射
するように円環状に形成された空気口(10)と,
え内側傾斜領域(7B')と外側傾斜領域(7A')との間に形成される,液体を
供給されるための円環状の供給口(5)とを備え,
お空気口(10)から噴射する気体と,供給口(5)から供給する液体とを,外
側傾斜領域(7A')でガイドして集束させ,傾斜部(7)から離れた流動方
向下流側の外部衝突点(A)で衝突させて空気中に微粒子として噴射する
か液体を微粒子に噴射するノズル。
き下記の全ての構成を有する,液体を微粒子に噴射するノズル。
①ノズルは,液体をリング状に供給する供給口(5)と,該供給口(5)に
液体を供給する筒状の液体路と,気体をリング状に噴射する空気口(10)
と,該空気口(10)に空気を供給する空気路(1)と,流体の流動方向下
流側ほど縮径する円錐台側面形状の面からなり,流体の流動方向上流側から
下流側に向かって,内側傾斜領域(7B'),外側傾斜領域(7A')の順で
有する傾斜部(7)と,を備え,前記外側傾斜領域(7A')は,供給口
(5)から供給される液体および空気口(10)から噴射される空気を流動
させる。
②供給口(5)はスリット状である。
③供給口(5)はリング状である。
④供給口(5)は,内側傾斜領域(7B')と外側傾斜領域(7A')との間に
設けられている。
⑤傾斜部(7)に対する供給口(5)の角度(β)は鈍角である。
⑥傾斜部(7)は,流体の流動方向に平滑である。
⑦空気口(10)は,流体が傾斜部(7)にガイドされて集束する方向ヘ向か
って開口されている。
⑧空気路(1)に分配羽根(22)を配設しており,空気路(1)内の空気
は,該分配羽根(22)によって分配されて空気口(10)から噴射され
る。
(別紙)
ハ号製品説明書
1製品名「ツインジェットノズル(TJシリーズ)」
2図面
3ハ号製品の具体的構成
さ流体を集束するようにガイドする傾斜部(7)を有し,この傾斜部(7)を流
動する流体を,傾斜部(7)から離れた流動方向下流側の外部衝突点(A)で
衝突させて空気中に微粒子として噴射するノズルにおいて,
し傾斜部(7)は,流体の流動方向に平滑な面であって,流動方向下流側ほど接
近するように一対設けられ,各傾斜部(7)は,流体の流動方向上流側から下
流側に向かって,内側傾斜領域(7B''),外側傾斜領域(7A'')の順で有
し,
す各傾斜部(7)の内側傾斜領域(7B'')上に配置され,外部衝突点(A)に
向けて気体を噴射するように形成された空気口(10)と,
せ各傾斜部(7)の内側傾斜領域(7B'')と外側傾斜領域(7A'')との間に
形成される,液体を供給されるための供給口(5)とを備え,
そ空気口(10)から噴射する気体と,供給口(5)から供給する液体とを,各
傾斜部(7)の外側傾斜領域(7A'')でガイドして集束させ,傾斜部(7)
から離れた流動方向下流側の外部衝突点(A)で衝突させて空気中に微粒子と
して噴射する
た液体を微粒子に噴射するノズル。
(別紙)
控訴人主張図面
⑴イ号製品拡大図
⑵ハ号製品拡大図
(別紙)
明細書図面
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図14】
【図17】
【図18】
【図19】
(別紙)
甲12の4の画像

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