弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主        文
     1 被告は,原告に対して,7457万7975円及びこれに対する平成12年4月1
3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
     2 原告のその余の請求を棄却する。
     3 訴訟費用は,これを10分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担
とする。
     4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
          事実及び理由
第1 請求
   被告は原告に対して,8000万円及びこれに対する平成12年4月13日から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 本件は,亡A(以下「亡A」という。)が被告の経営するテレホンクラブ「I店」(以下「本
件店舗」という。)に客として入店していたところ,同店内において,暴力団員の放
火による火災が発生したため,同人は,同店内で一酸化炭素中毒により死亡した
が,その原因は,被告の火災防止義務違反,防災設備設置・管理義務違反及び防
災訓練義務違反等の重大な過失にあるとして,亡Aの母である原告が,被告に対
し,債務不履行ないし不法行為(失火)に基づき,逸失利益,慰謝料,葬儀費用及
び弁護士費用につき,その損害の一部の賠償を求めた事案である。
 2 前提事実(争いのない事実及び証拠により認められる事実)
  (1) 当事者
   ア 亡Aは,原告の長男として昭和45年3月24日出生し,原告が亡Aの唯一の相
続人である。
   イ 被告は,電話機又は回線交換若しくは音声蓄積交換の機能を有する装置その
他の端末設備を電気通信回線設備の一端に接続し,これらの設備を利用し
て,専ら異性の間の会話を提供し,又は伝言を媒介するテレホンクラブの経
営等を業とする有限会社であり,本件店舗において上記テレホンクラブを営業
し,同店舗の店長として,B(以下「B店長」という。)を,店員として,C(以下「C
店員」という。)を,それぞれ雇用していた。
  (2) 本件店舗の設置概要
    本件店舗は,被告が賃借していた神戸市a区bc丁目d番e号fビル(以下「本件ビ
ル」という。)2階及び3階にて,被告が内装工事をした上で営業されており,被
告が内装工事を施したその客室,廊下,階段などの位置関係は,別紙図面1及
び2記載のとおりであり,その床面積は,2階及び3階ともに51平方メートルであ
る。
  (3) 本件火災及び亡Aの死亡(甲12)
   ア 亡Aは,客として同店に入店し,平成12年3月2日午前5時頃,同店舗3階の
個室15号室にいた。
     B店長及びC店員は,同時刻ころ,本件店舗で勤務していた。
     また,本件店舗には,同時刻ころ,亡A以外にD(以下「D」という。)他3名の利
用客が入店していた。
   イ 同日午前5時15分頃,同店舗2階部分の別紙図面1記載の「フロント」付近に
火炎瓶が投げ込まれたが,同瓶が割れずに店内に転がっていたため,C店員
が,それを拾い上げて,同記載「フロア」付近に近づき,火炎瓶投入者が降り
ていった階段を見下ろしたところ,同階段の中段あたりの直角に曲がった踊り
場付近に,別の火炎瓶を投げつけられ,同瓶が割れてガソリンに引火して炎
及び煙が上がり,更に,C店員が持っていた上記火炎瓶を同階段下に投擲し
たことにより,その瓶も割れてガソリンに引火し,炎及び煙が拡大し,本件店
舗の火災が発生した。
   ウ 亡Aは,本件火災により発生した一酸化炭素により中毒死し,本件店舗3階部
分の別紙図面2記載の番号札4の状態で発見された。
     上記本件店舗の客4名のうち3名は,亡Aと同様に,本件火災により死亡し,別
紙図面2記載の番号札1ないし3の状態で発見された。
     B店長及びC店員とDは,別紙図面2記載⑧の窓から,本件ビルの西側に隣接
する別紙図面5記載の株式会社Jの経営するK貿易の店舗の屋根上に避難
した。
  (4) 原告は,被告に対し,平成12年4月11日,内容証明郵便にて,本件火災による
亡Aの死亡についての損害賠償請求を求め,同郵便は同月12日に被告に送付
された(甲6-1,2)。
 3 争点
(1) 放火行為等に対する火災防止義務等違反の有無
(2) 防災設備設置・管理義務違反の有無
(3) 防災訓練義務違反の有無
(4) 因果関係の有無
(5) 損害の有無及び額
 4 争点に対する当事者の主張
  (1) 争点(1)について
   ア 原告
     被告は,店舗内においてサービスを提供することを業とする会社であるから,契
約上,店舗内の個室における客の安全に配慮して,火災等を防止する義務が
あり,この義務は,上記個室が,被告が了知しているとおり,宿泊施設と同様
に利用されているから,ホテル等の宿泊施設業を営む者の安全配慮義務と同
程度のものであり,また,同様の不法行為上の注意義務があるにもかかわら
ず,次のとおり,それらの義務を怠った。
     本件火災は,被告が暴力団からのいわゆるみかじめ料の値上げ要求を拒否し
たことに対する暴力団の報復行為によるものであるところ,本件火災以前に,
当該暴力団から被告の経営する神戸市所在の他店舗へ汚物を届けるなどの
嫌がらせがあったので,被告は,当該暴力団からの襲撃をある程度予測でき
た。よって,被告は,上記火災防止義務として,被告経営の神戸市所在の他
店舗に対する暴力団の襲撃を警察に通報し,その襲撃を防ぐため深夜から早
朝にかけて営業を停止し,暴力団からの放火行為を防止するとともに,防火
設備の設置ないし防災訓練を施すべきであったのに,それを怠った。
   イ 被告及び被告補助参加人
     原告の主張は全て争う。
     被告は,被告の経営する神戸市所在の他店舗へ汚物の送付が,暴力団による
ものと認識していなかったし,その他の暴力団による上記店舗への行為は,
その店舗営業に対する嫌がらせにすぎないと認識していた。
     また,本件火災は,一升瓶いっぱいにガソリンを詰めた火炎瓶を投げつけられ
るという凶暴な放火行為に端を発し,本件ビルの1階から2階に上がる階段の
途中の踊り場で火炎瓶が割れ,火の勢いが強くなった結果,本件店舗の入口
階段をいわば煙突として一瞬にして火が燃え上がり,煙が広がって,階段が
火の海に覆われ,ものすごい勢いで火と煙が本件店舗内の2階及び3階に充
満したというものであった。
     以上によれば,被告が,本件放火による火災を予測することはおよそ不可能で
あった。
  (2) 争点(2)について
   ア 原告
    (ア) 被告は,店舗内においてサービスを提供することを業とする会社であるか
ら,契約上,およそ店舗内の個室における客の安全に配慮して,火災によ
って生じる被害を最小限にとどめる義務を有する。客は,上記個室を宿泊
施設と同様に利用しており,そのことを被告が了知していたから,被告の義
務は,ホテル等の宿泊施設業を営む者の安全配慮義務と同程度のもので
あり,火災に備えた下記の防火設備を設置・管理すべきであり,また,同様
の不法行為上の注意義務を負担するにもかかわらず,それらの義務を怠っ
た。

     a 本件店舗には,消火用設備として,スプリンクラー等の放水設備,防火用扉
が備え付けられていない。
     b 本件店舗には,避難用設備として,個室にいる客への非常事態発生の通知
設備,非常用進入口が存在せず,個室の施錠は客室内からしか解錠で
きない。
     c 本件店舗の個室間の通路の幅は,別紙図面1及び2記載のとおり,平均して
50㎝程度であり,個室の扉が開かれれば,その通路が完全に遮断さ
れ,ところによっては,対面する個室の扉を同時に開くことができないとこ
ろもある。
     d 本件店舗の個室には,自然または強制換気設備(建築基準法28条,同法
施行令20条の2)が存在しないし,排煙設備も存しない。
     e 本件店舗内に消火器は設置されていたが,人目につかないところにあり,従
業員も認識していなかった。
    (イ) この点,被告及び被告補助参加人は,法律上,本件店舗の2階の非常進入
口,スプリンクラー,防火扉,防火扉,排煙設備,非常警報器具,非常警報
設備等の設置を要求されていないと主張するが,建築基準法,消防法とい
う公法上の規制と債務不履行ないし不法行為上の注意義務の内容は次元
が異なり,上記主張には理由がない。
    (ウ) この点,被告及び被告補助参加人は,本件ビルの賃借人にすぎず,本件ビ
ルの所有者でないから,非常進入口の設置につき責任を負わない旨主張
するが,前記のような非常進入口のないビルを利用し,本件店舗を営業し,
しかもその店舗の内装もテレホンクラブ用に改装しているのであるから,前
記の義務を当然負担するといえ,上記主張には理由がない。
   イ 被告及び被告補助参加人
    (ア) 原告の主張は争う。
    (イ) 被告は,次のとおり,原告主張の義務を怠っていない。
     a 被告は,別紙図面3及び4記載のとおり,各階ごとに消火器を設置し,2階に
ついては,別紙図面3記載の<A>にある2階から1階に下りる階段を避難
口とし,3階については,別紙図面4記載の<B>にある窓と同図面記載
の<C>にある屋上につながる梯子を避難口としている。
     b 本件ビルの2階については,法律上,非常進入口の設置義務は存しない(建
築基準法施行令126条の6)。
     c 本件ビルには,法律上,スプリンクラー(消防法施行令12条,同法施行規則
13条)及び防火扉(建築基準法施行令112条)の設置,排煙設備(同施
行令126条の2,消防法施行令28条)は要求されていない。
     d 本件ビルには,法律上,非常警報器具,非常警報設備等の設置義務は存し
ないし(消防法施行令24条),本件店舗内の2階から3階に上がる階段
の最上段の北壁面に警報機は設置されている。
     e 本件店舗内の3階には,上記警報機の上方に換気扇を設置している。
    (ウ) 被告は,本件ビルの賃借人にすぎず,本件ビルの所有者でないから非常用
進入口の設置につき責任を負わない。
  (3) 争点(3)について
   ア 原告
    (ア) 被告は,店舗内においてサービスを提供することを業とする会社であるか
ら,契約上,およそ店舗内における客の安全に配慮して,従業員に対し火
災に備えた防火訓練等による指導監督を行うべき義務を負担している。ま
た,客が個室を,宿泊施設と同様に客に利用しており,被告がこれを了知し
たいたので,被告の義務は,ホテル等の宿泊施設業を営む者の安全配慮
義務と同程度のものである。さらに,被告は,同様の不法行為上の注意義
務を負担するにもかかわらず,それらの義務を怠った。
    (イ) 本件火災において,従業員は,火災発生を客に伝え,避難を促し,直ちに消
防署に火災発生を知らせ,可能な限り消火活動を行い,逃げ遅れた客に対
し,救出活動を講じる必要があったのに,本件店舗の従業員であるB店長
及びC店員はかかる措置を何もとらなかった。むしろ,火炎瓶を本件店舗内
へ投げつけられた時,B店長は,防火及び救護活動をせずに,先に本件店
舗内の売上金を計算し保管していた。また,C店員は,火炎瓶の先端の着
火材が,ライターの火程度しか燃焼していなかったものを消火せずに,その
火炎瓶を持って,2階の階段上から,他の火炎瓶が,1階から2階へ上がる
階段の途中の踊り場付近で燃え上がっている状態のところへ投げ返し,火
炎瓶が割れて,ガソリンがその炎に引火し,本件火災を急激に拡大させた
ものである。
   イ 被告及び被告補助参加人
    (ア) 原告の主張は否認ないし争う。
    (イ) 被告は,下記のとおり,従業員に対する防火指導を行っていた。
     a 被告経営のテレホンクラブの店舗につき,東京及び大阪に運営管理本部を
設置し,各本部において管轄区域の全店舗を対象とした店長会議を毎
週1回開催し,その会議において,各店店長に対し,防火指導を徹底し,
店舗における防火指導を行っていた。
     b 各店舗での防火活動は,各店舗の従業員のうち1ないし2名を防火担当責
任者とし,同人に,就業時及び勤務交代時に,廊下,階段等における避
難障害物の有無,電気器具の配線,煙草の吸殻処理及び消化器の点
検業務を行わせていた。
     c 火災等の発生時には,各店舗の防火担当責任者を中心として,従業員が,
消防署への通報,初期消火及び避難誘導を分担して行うよう指導してい
た。
    (イ) B店長及びC店員は,本件火災の炎の勢いがあまりにも強かったので,2階
の自動ドアを閉め,3階に上がり,2度にわたり,各個室のドアをたたき,大
声で火事を知らせ,睡眠中の顧客を起こすなど,可能な限り客の救出活動
を行ったし,また,その状況下において,火の回りが早く,消火活動を行うこ
とは不可能であった。
  (4) 争点(4)について
   ア 原告
    (ア) 被告の義務違反による重大な過失により,亡Aは死亡に至った。
    (イ) 被告は,個々の義務違反と亡Aの死亡との因果関係を否定しており,確か
に,因果関係については若干の希釈化は避けられないが,上記義務違反
を総合的に考慮すれば,因果関係が存在することは明らかである。
   イ 被告及び被告補助参加人
    (ア) 原告の主張は争う。
    (イ) 本件死亡は,本件ビル3階で発生しており,原告主張の同階での義務違反
との因果関係は存しない。
      また,上記本件火災状況からすれば,亡Aは,本件火災による停電及び急激
な3階フロアでの大量の有毒ガスの拡散ため,避難途中に死亡したのであ
り,原告主張の消火設備の不備,本件店舗の非常口不存在,本件店舗の
客室間の通路の狭隘,自然または強制換気設備の不設置,本件店舗の客
室の施錠解除の方法の不備と本件死亡との間には,因果関係は存しな
い。
    (ウ) 本件での亡Aの死亡は,第三者の放火行為によるものであることが明らか
であるから,被告の注意義務違反と結果との間の因果関係は,被告単独
の不法行為による場合よりも高度の立証が要求されるべきである。ところ
で,本件では,「被告の注意義務違反がなければ,被害者は死亡すること
はなかった。」という意味での因果関係までは認定できない。
  (5) 争点(5)について
   ア 原告
 (ア) 逸失利益         4480万7311円
亡Aの逸失利益は,本件火災当時,29歳の男子であり,67才まで就労
可能であったから,平成8年賃金センサス産業計・企業規模計・男子労働
者・旧中・新高卒平均賃金を基に,年収金531万2700円,生活費控除率
50パーセント,ライプニッツ係数16.868により算定すれば,上記金額と
なる。
(イ) 慰謝料          3000万円
  亡Aの死亡による原告の精神的苦痛は計り知れないものがあり,上記金
額をもって慰謝するのが相当である。
(ウ) 葬儀費用          200万円
(エ) 弁護士費用         768万7311円
  本件訴訟に関する弁護士費用として本件事案と因果関係のある損害は,
上記(ア)ないし(ウ)の合計金額の1割が相当である。
イ 被告及び被告補助参加人
原告の主張はいずれも争う。
第3 当裁判所の判断
 1 甲9号証の1ないし3,12及び13号証,乙1ないし16,18,19,21及び22号証
及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
  (1) 本件店舗の営業状況
   ア 本件店舗は,24時間営業であり,そのサービス内容として,1ないし4時間コー
ス,モーニングコース,デイタイムコース,ナイトコースを設定していた。ナイト
コースは,午後11時から翌朝午前9時までの時間帯で,宿泊を伴う利用コー
スであり,そのコースの利用客には,本来のテレホンクラブとしての利用以外
に,簡易宿泊所の代わりに利用する客も多く,そのことを,B店長及びC従業
員は認識していた。また,本件店舗では,別紙図面1及び2記載の「ソファー」
のとおり,客室内には,睡眠ができるようにソファーベットが設置されていた。
   イ 本件火災時の客は,いずれもナイトコースで入店し,本件ビル3階のソファーベ
ットが設置されている別紙図面2記載の12号室(D),13号室,14号室,15
号室(亡A)及び17号室に,それぞれ入室した。
   ウ 本件店舗においては,本件火災時には,早番,中番(午後7時から翌朝の午前
5時まで),遅番(午後11時から翌朝の午前9時まで)のシフトで従業員1名
(早番はE,中番はB店長,遅番はC店員)が勤務し,早中番(午後1時から午
後11時まで)として研修中の従業員Fが勤務しており,利用客を個室に案内
する等以外は,基本的には2階のカウンターで勤務していた。
  (2) 本件店舗の設備状況
    被告が内装工事を加えた本件店舗の設備状況は,以下のとおりである。
   ア 本件店舗内の個室は,別紙図面1及び2記載のとおり,2階に1ないし9号室
が,3階に10ないし19号室が設置されていた。これら個室は,すべて一人用
であり,内側から施錠でき,外側からはドライバー等を用いて,外側のドアノブ
の溝を,回転させない限り解錠できなかった。また,個室にはいずれも出入口
以外は開口部はなく,10号室は,客用ではなく物置として使用されていた。
   イ 本件店舗2階には,別紙図面1記載の①に東西に開閉する本件店舗出入口の
引き戸(以下「本件出入口引き戸」という。)が設置され,同引き戸は自動ドア
であったが,常時,電源を切っており,営業中は開けた状態にしてあり,開閉
時には手動で開閉するが,手動でも途中までしか閉めることができず,隙間
が残り,完全に閉め切ることができない状態にあった。
   ウ 本件店舗2及び3階の窓ないし開口部は,以下のとおりである。
    (ア) 本件店舗2階には,同図面記載の②及び③にそれぞれ窓があったが,本件
ビルを賃借して本件店舗を営業する際の改装工事で,両窓の店舗内側に
は棚等が,店舗外側には看板が,それぞれ設置されていた。
    (イ) 本件店舗2階から3階に上がる階段の別紙図面1記載の④には,窓があっ
たが(以下「本件窓④」という。),本件ビルを賃借して本件店舗を営業する
際の改装工事で店舗内に設置された石膏ボードの壁によって塞がれてい
た。
    (ウ) 本件店舗3階には,別紙図面2記載の⑤ないし⑧に2枚引き戸の窓が設置
されていたが(以下,上記⑤ないし⑦の窓を順次「本件窓⑤」,「本件窓
⑥」,「本件窓⑦」という。),本件窓⑤及び⑦は,本件ビルを賃借して本件
店舗を営業する際の改装工事で店舗内に設置された石膏ボードの壁によ
って塞がれており,本件窓⑥は約50センチメートル四方の窓であり,本件
窓⑧は床面から約119センチメートル高さにあり,幅約76センチメートル,
高さ約71センチメートルであり,同窓から,本件避難屋根まで約175セン
チメートルの高さであった。
    (エ) 本件店舗2階から3階に上がる階段の別紙図面2記載の⑧に約50センチメ
ートル四方の換気扇(以下「本件換気扇」という。)開口部が設置されてい
た。
    (オ) 本件店舗3階には,別紙図面2記載の「はしご」部分に東壁面に蝶番で止め
られた木製の梯子が,同図面記載の「物置」北側に鉄製梯子がそれぞれ設
置され,上記図面記載の「物置」内にある使用していない南北に並べられ
た冷蔵庫2台,南側の冷蔵庫上の段ボール,北側冷蔵庫の北側に置かれ
た竹,蛍光灯等の雑品を同室内から搬出し,上記蝶番を外し,木製梯子を
階段にして,上記鉄製梯子を上がると,本件ビルの屋上に通じていた。しか
し,常時上記冷蔵庫等は上記物置内に置かれており,B店長も上記鉄製梯
子の存在を知らなかった。
   エ 本件店舗2階から3階に上がる階段の北壁面にある本件換気扇下には警報機
(以下「本件警報機」という。)が設置されていた。
   オ 本件店舗3階の客室間の東西及び南北にある通路は,別紙図面2記載のとお
りであり,その幅は,東西の通路の幅は約56センチメートル,南北の通路の
幅は約54ないし58センチメートルであった。
     本件店舗3階の客室の出入口は,開き戸であり,その扉の大きさは,縦約180
センチメートル,幅約53センチメートルであった。
   カ 本件店舗には,別紙図面1及び2記載のとおり,消火器が備え付けてあった。し
かし,2階に備え付けてある消火器は,C店員が,B店長に知らせずに,暴力
団から嫌がらせを警戒して,人目につかないように,ゴミ箱の後ろに備え置い
た。また,B店長及びC店員は,3階に備え付けていた消火器の存在を知らな
かった。
   キ 本件店舗においては,非常灯ないし避難経路を示す電灯等は設置されておら
ず,夜間の停電の際には,窓がないため,本件店舗内が真っ暗になる状態で
あった。
  (3) 本件火災状況
   ア 平成13年2月10日前後の未明,被告がテレホンクラブを営業するL店及びM
店において,何者かが,ペンキや汚物を撒いたり,消火器を噴射するなどの
嫌がらせをした。
   イ 平成13年3月2日午前5時頃,B店長及びC店員は,本件店舗2階のカウンタ
ー内で,当日の売上の計算をしていたところ,本件店舗出入口に至る1階から
2階へ上がる階段から人が駆け上がってくる音を耳にし,誰かが,上記のよう
な嫌がらせに来たのではないかと考えた。
     そこで,B店長は,上記売上金を金庫に移し始め,C店員は,上記出入口付近
に向かった。同店員は,上記階段から瓶の口に火のついた一升瓶の火炎瓶
を両手で掲げて投げ込もうとする者が上がってきたことを知り,その投入を防
ごうと本件出入口引き戸を閉めようとしたが,完全に閉めることができず,そ
の隙間から,上記火炎瓶を本件店舗内に投入された。上記火炎瓶は,高さ約
180センチメートル,直径約50センチメートルの筒状の別紙図面1記載の「水
槽」(以下「本件水槽」という。)の下部に当たって床に転がったが,割れなかっ
たため,瓶の口の火は消えなかったものの炎は燃え上がらなかった。また,本
件水槽は,上記火炎瓶の衝突により,ひびが入り,水が勢いよく吹き出てい
た。
     C店員は,上記火炎瓶を拾い上げたものの,その消火や警察・消防署への連絡
を考えず,上記出入口から別紙図面1記載の「フロア」に出て行ったところ,同
階段中の直角に曲がったところの踊り場付近に,更に火炎瓶を投げつけられ
(本件放火),同瓶が割れて,同瓶内のガソリンに引火して発生した炎と煙が
上がったきたのを目撃し,咄嗟に手にしていた火炎瓶を同踊り場付近に投げ
捨てた。そのため,更に炎と煙が拡大した(本件火災)。同店員は,本件店舗
内に戻り,本件出入口引き戸を閉めようとしたが,完全に閉めきることはでき
なかった。
   ウ その後,B店長とC店員は,消火器による消火を考えず(C店員は消火器の使
用方法を知らなかった。),それぞれ本件店舗3階にいる客に本件火災を知ら
せようと本件店舗内の2階から3階に上がる階段を上がっていったが,その途
中にある本件警報機を作動させなかった。その際,停電が起こり,本件店舗
の照明が消え,非常灯等がないため,同店内は真っ暗になった。
   エ C店員が本件店舗3階に上がった際には,煙が同階に上がってきたものの,同
階のフロアには煙が充満しているという状況になかった。同人は,「火事だ。」
などと叫びながら,12ないし15号室,17号室の扉をたたいたりドアノブを回
しながら,各客室を回ったが,各客室の扉は開かなかった。その後,同人は,
換気のため,本件窓⑥を開けに行ったが,埃がたまっていたために全開にす
ることはできなかった。そこで,同人は,本件窓⑥を開けることを諦め,再度叫
びながら17号室,15号室,14号室,13号室の扉をたたいたり,ドアノブを回
したりしたが,各居室の扉は開かなかった。しかし,12号室の扉は開いたの
で,同室内にいたDの手を引いて別紙図面2記載の「シャワー室」方向に誘導
していった。
   オ B店長が本件店舗3階に上がった際には,同人は,煙がかなり充満していたよ
うに感じたため,かがんだ状態で,「火事や。起きろ。」と叫びながら,12ない
し15号室のドアノブを回しながら,同室の扉をたたいて回った。その後,2階
に降りようとして,別紙図面2記載の「フロア」まで行ったが,本件店舗内の2
階から3階に上がる階段下が明るく見え,煙もか成り上がってきていたので,
2階へ降りることはできず,その後,換気のため,本件窓⑧を開け,上記フロ
アに戻ったが,煙が充満しており,しゃがんでも息ができない状態だったので,
本件窓⑧のところに戻り,同窓から本件避難屋根上に飛び降りて,避難した。
   カ その後,DとC店員も,本件窓⑧のところにたどり着き,D・C店員の順序で,同
窓から本件避難屋根上に飛び降りて,避難した。
  (4) 別件刑事事件における兵庫県G技術吏員H(以下「H」という。)によるの平成12
年5月30日及び平成13年3月21日の燃焼実験
   ア Hの平成12年5月30日の燃焼実験によると,本件店舗出入口に至る1階から
2階へ上がる階段の一部を再現し,地上を同階段の地上から5段目の階段と
みなし,実験セットを同6段目から7段目の踊り場付近として,同踊り場付近に
着火したガソリン約1800ミリリットルが入った一升瓶の火炎瓶を投げると,同
瓶が割れ,ガソリンが飛散し,飛散したガソリンに口火が引火し,瞬時に燃え
上がり,投擲の約1秒後には約3.5メートルを超える炎が上がり,投擲の約3
秒後に上記と同様の火炎瓶を同所に投げると,同瓶が割れ,火炎が拡大し,
5メートル以上の炎が上がり,大量の黒煙を発生しながら燃焼し,その後,徐
々に炎高は低くなり,投擲の約4分後には小さな炎が残るのみとなった。
   イ Hの平成12年5月30日の燃焼実験によると,鉄製オイルパン(縦約80㎝,横
約110㎝,高さ約20㎝)内の中央付近に着火したガソリン約1800ミリリット
ルが入った一升瓶の火炎瓶を頭部が右になるようにして寝かせておき,その
直後にブロック片を落とし,火炎瓶を破損させたところ,ガソリンが飛散し,飛
散したガソリンに口火が引火し,瞬時に燃え上がり,着火後約6秒後には約
2.5メートルを超える炎が上がり,大量の黒煙を発生させ,その後,徐々に炎
高は低くなり,着火後約3分30秒後には小さな炎が残るのみとなった。
   ウ 上記の実験結果は,天井が存在した場合でも,空気の流入が極端に少なくな
い限り,差異はなく,また,上記オイルパンでの燃焼実験の燃焼態様は,本件
放火における燃焼態様とそれほど差異はない。
 2 争点(1)について
  ア この点,原告は,被告には,本件店舗内においてサービスを提供することを業と
する会社であり,顧客の中には本件店舗を簡易宿泊所代わりに利用する者もい
るのであるから,宿泊施設を営業するものと同程度に店舗内の個室における客
の安全に配慮して,火災等を防止する義務及び同様の不法行為上の注意義務
を負担しており,本件火災が,被告が暴力団からのいわゆるみかじめ料の値上
げ要求を拒否したことに対する暴力団の報復行為によるものであり,本件火災
以前に,当該暴力団から被告の経営する神戸市所在の他店舗へ汚物を届ける
などの嫌がらせがあったので,被告は,当該暴力団からの襲撃をある程度予測
できたので,その火災防止義務として,被告経営の神戸市所在の他店舗に対す
る暴力団の襲撃を警察に通報し,その襲撃を防ぐため深夜から早朝にかけて営
業を停止し,暴力団からの放火行為を防止するとともに,防火設備の設置ないし
防災訓練を施すべきであったと主張する。
  イ 本件店舗の深夜の営業内容は,ナイトコースという深夜午後11時から翌朝午前
11時までの宿泊を伴うサービスコースを設定しており,同店舗内の客室の一部
には睡眠もできるようにソファーベットが設置されており,B店長及びC店員も深
夜の客の中には簡易宿泊所の代わりに利用するものものいたと認識していたこ
とからすれば,被告は,本件店舗において客が簡易宿泊所として利用することを
認識していたといえる。そうすると,被告は,利用客の生命身体の安全を配慮す
る義務を有し,本件店舗における火災発生に対し,利用客の生命身体に対する
危険から,利用客を保護すべき義務があるといえる。
  ウ しかし,被告が本件火災以前に受けていた嫌がらせは,平成13年2月10日前
後の未明,被告がテレホンクラブを営業するL店及びM店において,ペンキや汚
物をまかれたり,消火器を噴射されるというものであり,本件証拠上,被告が上
記嫌がらせが暴力団によるものと了知していたとまで認めることができず,更
に,本件放火がガソリンの入った一升瓶の火炎瓶を投入されるという凶暴なもの
であった。以上によれば,被告が,本件店舗に対する放火までを予見しえたとま
ではいい難く,原告が主張するような深夜から早朝にかけての営業停止や暴力
団からの放火行為に対する防火設備の設置ないし防災訓練をすべき義務があ
ったとまではいえない。
 3 争点(2)について
  ア 前記のとおり,被告は,利用客の生命身体の安全を配慮する義務があり,本件
店舗における火災発生に対し,利用客の生命身体に対する危険から,利用客を
保護すべき義務を有しているから,当該義務を全うすべく,本件店舗には一定の
防火設備を設置すべき義務を有しており,また,同様の不法行為上の注意義務
を負担しているといえる。
  イ そこで,被告が上記防火設備設置義務を怠ったといえるか検討する。
   (ア) 避難経路
    a 前記認定事実によれば,本件店舗から地上への唯一の経路は,本件ビル1階
から2階の本件店舗出入口につながる階段しかなく,被告としては,上記防
火設備設置義務として,本件店舗2階から3階への階段付近での火災に対
応する避難経路を設ける必要があったといえる。
    b この点,被告及び被告補助参加人は,別紙図面3記載の<A>にある2階から1
階に下りる階段を避難口とし,3階については,別紙図面4記載の<B>にあ
る窓(本件窓⑥)と同図面記載の<C>にある屋上につながる梯子を避難口
としている旨主張する。
      しかし,別紙図面3記載の<A>にある2階から1階に下りる階段については,上
記aの火災に対する3階からの避難口には成りえないし,本件窓⑥につい
ては,その大きさが約50㎝四方の窓であり,避難経路とは言い難く,また,
同図面記載の<C>にある屋上につながる梯子については,前記認定のとお
り,その設置してある室内には冷蔵庫や雑品等が置かれており,緊急時に
使用できる状態にあるといえず,避難口として機能するとは言い難い。
    c また,B店長,C店員及びDが避難した本件窓⑧については,その設置位置が
床面より約119センチメートルという高い位置にあり,避難口として機能す
るものとはいい難い。
    d また,本件店舗においては,夜間の停電の際には,窓がないため,本件店舗
内が真っ暗になる状態であったにもかかわらず,非常灯ないし避難経路を
示す電灯等は設置されていなかった。
    e さらに,本件店舗3階の個室間の東西及び南北にある通路の幅は,東西の通
路の幅は約56センチメートル,南北の通路の幅は約54ないし58センチメ
ートルしかなく,本件店舗3階の客室の入口は,通路側に開く開き戸であ
り,その扉の大きさは,縦約180センチメートル,幅約53センチメートルで
あり,しかも,前記本件店舗の客室の設置状況からすると,14ないし19号
室の客が避難しなければならない時には,12号室の前を通らなければな
らなく,緊急時に客が殺到した場合には,避難が困難といえる。
    f 以上によれば,本件店舗2階から3階への階段付近での火災に対応する避難
経路が設けられていたとはいえず,被告としては,屋上につながる梯子を
常時利用できるような状態にしておき,そこへ向かう非常灯ないし避難経路
を示す電灯を設置し,本件店舗3階の客室間の通路の幅を客が避難しや
すいように確保する等の措置を講じ,避難経路を設けることは容易にでき
たといえるので,上記の点につき,被告には重大な過失があったといえる。
      なお,客室の施錠は,ドライバー等を用いて外側のドアノブの溝を回転させな
い限り,室内からしか解錠できないが,客室に対する非常警報装置が設置
されていれば,客が自ら解錠して避難することは困難ではなく,この点につ
き,被告に過失があるとはいえない。
   (イ) 非常警報装置
    a 本件店舗の客室は19室すべて個室であり,室内から施錠ができ,その解錠
は,ドライバー等を用いて外側のドアノブの溝を回転させない限り解錠でき
ず,更に,本件店舗の営業中の従業員は,通常は2名であることからする
と,被告としては,上記防火設備設置義務として,火災発生をいち早く知ら
せる非常警報装置を設ける必要があったといえる。
    b 確かに,本件店舗には,2階から3階に上がる階段の北壁面にある本件換気
扇下に本件警報機が設置されている。しかし,上記営業時の従業員の人数
及び前記認定事実のとおり通常の勤務場所が2階のカウンターであること
からすると,従業員が即座に火災発生を報せられるように上記カウンター
付近に非常警報装置を設置すべきといえ,この設置は容易にできるといえ
る。
    c 以上によれば,この点につき,被告には重大な過失があったといえる。
   (ウ) 換気設備
    a 被告には,火災発生に伴う煙,不完全燃焼により発生する一酸化炭素中毒か
ら,利用客の生命身体を保護するため,換気設備を設ける義務があるとい
える。
    b 本件店舗2階及び3階の床面積は,合計102平方メートルであり,個室には出
入口以外に開口部はなく,本件店舗内には,本件窓②ないし⑧の開口部
が存在するが,本件窓②ないし⑤及び⑦は棚ないし壁で覆われているの
で,換気機能を有していない。また,本件窓⑥は,約50センチメートル四方
の大きさしかなく,本件火災時には埃がたまっていたために全開にすること
はできなかったから,それほどの換気機能を有していない。さらに,本件窓
⑧についても,その大きさから十分な換気機能を有しているとはいい難い。
      本件店舗内には,約50センチメートル四方の換気扇があるが,その大きさか
らして,十分な換気機能を有しているとはいい難い。
      以上の換気機能を有する本件店舗の開口部である本件窓⑥及び⑧並びに本
件換気扇をあわせたとしても,本件店舗の大きさからして,未だ十分な換気
機能があったとまではいえない。
      本件窓②ないし⑤及び⑦を内装工事の際に,換気機能を持たせるようにする
こと及び本件窓⑥についても,全開できるような状態にしておくことは,被告
にとって容易にできるものである。
    c 以上によれば,この点につき,被告には重大な過失があったということができ
る。
   (エ) 消火設備
     本件店舗には,消火器が2台設置されており,本件店舗の大きさ等から,原告
が主張するようなスプリンクラー等の放水設備ないし防火用扉まで設置すべ
き義務を被告が負担すべきとはいいがたいので,この点につき,被告に過失
があったとまではいえない。
  ウ 被告及び被告補助参加人は,上記防火設備のうち,建築基準法,消防法等の法
律上要求されていないものが含まれており,その点については過失があったと
はいえない旨主張するが,被告は,上記ア記載の義務を負担している以上,た
とえ上記のように法律上その設置を要求されていないとしても,上記イ記載の義
務違反は免れないというべきであり,上記主張は採用できない。
    さらに,被告及び被告補助参加人は,本件ビルの所有者ではなく賃借人にすぎな
いのであるから,非常用進入口を設置すべき義務を負担していない旨主張する
が,被告は,上記ア記載の義務を負担しており,上記イのとおり,本件ビル屋上
につながる梯子を常時利用できるような状態にしておく等、避難口として非常用
出入口を確保することは賃借人でも可能といえるのであるから,上記主張は採
用できない。
 4 争点(3)について
  (1) 前記のとおり,被告は,利用客の生命身体の安全を配慮する義務を有し,本件
店舗における火災発生に対し,利用客の生命身体に対する危険から,利用客を
保護すべき義務を有しているから,当該義務を全うすべく,従業員に対し火災に
備えた防災訓練を行うなどの防災に対する指導監督をすべき義務を有してお
り,また,同様の不法行為上の注意義務を負担していたといえる。
  (2) この点,被告及び被告補助参加人は,従業員に対し,①本件店舗を含む被告経
営のテレホンクラブの店舗につき,東京及び大阪に運営管理本部を設置し,各
本部において管轄区域の全店舗を対象とした店長会議を毎週1回開催し,その
会議において,各店店長に対し,防火指導を徹底し,店舗における防火指導を
行い,②各店舗での防火活動として,各店舗の従業員のうち1ないし2名を防火
担当責任者とし,同人に,就業時及び勤務交代時に,廊下,階段等における避
難障害物の有無,電気器具の配線,煙草の吸殻処理及び消化器の点検業務を
行わせ,③各店舗従業員に対し,火災等の発生時には,防火担当責任者を中
心として,従業員が,通報連絡,初期消火及び避難誘導を分担して行うよう指導
していたと主張するが,上記①ないし③を認めるに足りる証拠はなく,上記主張
は採用できない。
  (3) B店長は,本件火災当時,本件店舗2階に備え付けてある消火器が移動されて
いたことを認識しておらず,B店長及びC店員は,本件店舗3階に備え付けてあ
る消火器の存在を認識しておらず,B店長は,本件店舗3階にある屋上につな
がる鉄製梯子の存在を認識しておらず,両人はいずれも本件警報機を作動させ
ていないことに照らせば,むしろ,被告は,従業員に対し,テレホンクラブを営業
する店舗内での防災についての指導をしていなかったと推認される。
  (4) そして,被告が,従業員に対し,防災についての指導を行うことは容易であった
といえるから,防災に対する指導監督義務を怠ったといえ,被告には,重大な過
失があったといえる。
 5 争点(4)について
  (1) 以上のとおり,被告には,上記のとおり,債務不履行上及び不法行為上の防火
設置義務及び防災指導義務につき重大な過失があったといえるので,その重大
な過失と亡Aの死亡との因果関係について検討する
  (2) 前記本件火災状況及びHによるの平成12年5月30日及び平成13年3月21日
の燃焼実験結果によれば,2本の火炎瓶があいつで割れてガソリンに引火した
ことによる本件火災では,短時間で煙りと炎が本件店舗内に充満したと推認され
る。
    しかし,前記本件火災状況によれば,C店員は,本件店舗3階に駆け上がり,「火
事だ。」などと叫びながら,12ないし15号室,17号室の扉をたたいたり,ドアノ
ブを回しながら,各客室を回り,その後,換気のため,本件窓⑥を開けて,再度,
叫びながら17号室,15号室,14号室,13号室の扉をたたいたり,ドアノブを回
し,12号室内にいたDの手を引いて,別紙図面2記載の「シャワー室」方向に誘
導して,本件窓⑧にたどりつき,同窓から隣家の屋根上に飛び降り避難した。
    B店長も,本件店舗3階に駆け上がり,かがんだ状態で,「火事や。起きろ。」と叫
びながら,12ないし15号室のドアノブを回しながら,個室の扉をたたいて回り,
別紙図面2記載の「フロア」まで行き,換気のため,本件窓⑧を開け,一旦上記
フロアに戻り,再度本件窓⑧のところに戻り,同窓から隣家の屋根上に飛び降り
て,避難しており,D以外の亡Aを含む他の客が避難する時間はなかったが,あ
る程度の時間的余裕があったといえる。
  (3) そして,亡Aは,別紙図面2記載の番号札4の状態で死亡しており,その死亡状
態からすれば,同人は,本件火災に気づき,15号室から出て,一酸化中毒のた
め,本件店舗3階の18号室の前で死亡したと推認される。
  (4) そこで,被告が,本件窓②ないし⑤及び⑦を内装工事の際に換気機能を持たせ
るようにしたり,本件窓⑥についても全開できる状態にし,本件店舗内の換気機
能を拡充し,非常警報装置をカウンター近くに設置し,本件ビル屋上につながる
梯子を常時利用できる状態にし,避難経路を示す非常灯を設置し,本件店舗3
階の個室間の通路を客が避難し容易にする幅員を確保し,B店長及びC店員に
防災のための指導をしておく義務があったものと考えられる。
    被告の前記義務を実施しておれば,換気機能の拡充により,本件火災による煙
や一酸化炭素が,本件店舗内に充満するまでの時間が長くなり,また,亡Aに非
常警報装置で本件火災の発生をいち早く報せ,亡Aが短時間に本件ビル屋上に
つながる梯子のところまで向かうことができ,同人が屋上に出て避難できた可能
性は高いといえる。
  (5) 以上によれば,被告の上記防火設置義務及び防災指導義務についての重大な
過失と亡Aの死亡との間に相当因果関係が存するということができ,それを否定
する被告及び被告補助参加人の主張はいずれも採用できない。
 6 争点(5)について
  (1) 逸失利益
    亡Aは本件火災当時29歳の男性であったから,甲14号証,甲15号証の1及び
2によれば,その逸失利益は,以下の計算により,4427万7925円とするのが
相当である。
    525万円×(1-0.5{生活費控除率})×16.8678{就業可能年数38年のラ
イプニッツ係数}=4427万7975円
  (2) 慰謝料
    亡Aの年齢,同人の家族構成,被告の行為態様,本件火災の内容等を総合考慮
すると2200万円とするのが相当である。
  (3) 葬儀費用
    原告は,亡Aの葬儀に関し,相当の費用を支出したものと認められ,被告の債務
不履行上及び不法行為上の防火設置義務及び防災指導義務についての重大
な過失との間に相当因果関係があると認められる葬儀費用としての損害は,15
0万円とするのが相当である。
  (4) 弁護士費用
    原告は,原告代理人に本件訴訟提起・追行を委任したことが認められ,本件事案
の難易,認容すべき損害額などを総合して判断すると,被告の不法行為上の防
火設置義務及び防災指導義務についての重大な過失との間に相当因果関係が
あると認められる弁護士費用としての損害は,680万円とするのが相当である。
 7 結論
   以上によれば,原告の請求は,主文の限度で理由があるのでこれを認容し,その
余の請求については理由がないので棄却することとし,主文のとおり判決する。
      京都地方裁判所第7民事部
           裁判長裁判官  葛   井   久   雄
              裁判官   田   中   義   則
              裁判官   蛭   川   明   彦
(別紙図面省略)

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