弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成21年6月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(ワ)第12683号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成21年4月24日
判決
東京都台東区<以下略>
原告有限会社デジタルワークス
同訴訟代理人弁護士小出重義
松山馨
村田良介
東京都文京区<以下略>
被告株式会社オークス
東京都文京区<以下略>
被告A
被告ら訴訟代理人弁護士岩本康一郎
渡辺昇一
高久尚彦
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告株式会社オークスは,別紙目録記載3及び4のソフトを販売し,又は頒
布してはならない。
2被告株式会社オークスは,その占有に係る前項の各ソフトの在庫品を廃棄せ
よ。
3被告らは,原告に対し,連帯して1879万9064円及びこれに対する平
成20年5月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,別紙目録記載1及び2のパソコン用ソフト(プログラムの著作物。
以下「本件ソフト1」,「本件ソフト2」という。)の著作権者であると主張
する原告が,被告株式会社オークス(以下「被告オークス」という。)が上記
各ソフトを家庭用ゲーム機用ソフト(別紙目録記載3及び4のソフト。以下
「本件ソフト3」,「本件ソフト4」という。)に移植し,これを複製して販
売したことが原告の上記著作権(翻案権,二次的著作物に係る複製権)を侵害
するものであるとして,被告オークスに対し,著作権法112条1項,2項の
規定に基づき,本件ソフト3及び4の販売,頒布の差止め並びに在庫品の廃棄
を求めるとともに,不法行為による損害賠償請求として,被告オークス及びそ
の代表者である被告A(以下「被告A」という。)に対し,連帯して,損害合
計1879万9064円(得べかりし利益1709万9064円,弁護士費用
170万円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年5月24
日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める
事案である。
2前提となる事実(証拠を掲記した事実を除き,当事者間に争いがない。)
(1)当事者等
ア原告は,パソコン用ソフトウェアの企画,開発,制作,販売等を目的と
して平成10年6月19日に設立された会社であり,その設立以降,平成
17年3月まで,B(以下「B」という。)が取締役(代表者)の地位に
あった。
イ被告オークスは,コンピュータソフトウェアの開発及び販売等を目的と
して平成12年11月9日に設立された会社であり,被告Aは,被告オー
クスの代表取締役である。被告Aは,平成13年9月,コンピュータソフ
トウェアの企画,制作,販売等を目的として有限会社ワンピース(以下
「ワンピース」という。)を設立し,その代表取締役も務めている(乙
2)。
ウC(以下「C」という。)は,被告オークスの設立以降,被告Aと共に
その代表取締役に就任し,プログラマーとして,プログラムの開発を担当
していたが,平成17年2月ころから被告Aとの間で確執を生じるように
なり,同年5月に被告オークスの取締役を解任され,平成20年1月21
日に原告の取締役に就任した(甲1)。
また,Cは,平成7年1月,コンピュータソフトウェアの開発,販売等
を目的として株式会社ゼロシステム(以下「ゼロシステム」という。)を
設立し,その代表取締役に就任した(乙2)。
エBは,原告の取締役に在任中,被告オークスの事務所(東京都千代田区
外神田)において,原告のほか,被告オークス,ワンピース及びゼロシス
テムの経理及び総務の事務を行っていた。
(2)原告は,被告オークスとの間において,平成14年5月20日付け(本件
ソフト1)及び平成16年10月20日付け(本件ソフト2)で,本件ソフ
ト1及び2の製造,広報,流通,販売に関する個別業務委託契約を締結した
(甲11,12。以下,この2つの委託契約を一括して「本件各委託契約」
という。)。
本件各委託契約には,
「第一条(契約の目的)
甲(判決注:原告)は乙(判決注:被告オークス)に対し,下記に記載
した業務(以下,「本件業務」という。)を委託し,乙はこれを受託した。
1.(制)作の一部及び,製品の製造過程全般(ソフ倫シール発注以外)
2.販売に関して,通信販売及び,2次権利使用(販権委譲)
3.上記1,2,3に付随・関連する行為」
との規定がある(甲11,12。以下,上記規定を「本件各委託契約条項」
という。)。
(3)Cは,平成14年から平成15年にかけて,本件ソフト1及び2を開発,
制作した。
本件ソフト1及び2は,いずれも相当程度の性的表現を含むパソコン用ゲ
ーム(恋愛シミュレーションゲーム)のソフトであり,満18歳未満の青少
年への販売が禁止されている(甲14,15,弁論の全趣旨)。
(4)本件ソフト1は平成15年2月14日に,本件ソフト2は平成16年11
月19日に,いずれも原告を発売元として販売された(甲14,15)。
(5)被告オークスは,本件ソフト1を家庭用ゲーム機であるドリームキャスト
用に移植(翻案)した上,そのドリームキャスト用のソフト(本件ソフト
3)を複製して株式会社タイトー(以下「タイトー」という。)に販売し,
タイトーから,その販売代金として,平成15年5月から7月ころにかけて,
少なくとも1039万0400円の支払を受けた。
また,被告オークスは,本件ソフト2を家庭用ゲーム機であるプレイステ
ーション2用に移植(翻案)した上,そのプレイステーション2用のソフト
(本件ソフト4)を複製してタイトーに販売し,タイトーから,その販売代
金として,平成17年4月から6月ころにかけて,少なくとも4660万6
480円の支払を受けた。
(6)原告,ゼロシステム及びCは,被告オークスとの間で平成19年5月7日
付け「確認・誓約書」(甲13。以下「本件誓約書」という。)を作成し,
被告オークスに対し,その当時に当庁に係属中であった訴訟上の請求(①C
の被告オークスに対する1930万円の貸金請求〈平成17年(ワ)第127
35号〉,②Cの被告オークスに対する504万5161円の損害賠償請求
〈平成18年(ワ)第6446号〉,③原告の被告オークスに対する1630
万9862円の損害賠償請求〈平成18年(ワ)第13339号〉)を除き,
今後,いかなる請求もしないことを約した(甲13)。
そして,Cは,平成19年5月8日,被告オークスとの間の株式買取価格
決定事件(当庁平成18年(ヒ)第254号)の審問期日において,被告オー
クスに対し,本件誓約書が真正に作成されたものであることを確認した(乙
1)。
3争点
(1)本件ソフト1及び2の著作者並びに被告らによる著作権侵害行為の有無
(2)本件誓約書の効力
(3)損害
4争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(本件ソフト1及び2の著作者並びに被告らによる著作権侵害行
為の有無)について
ア原告
(ア)Cは,平成14年から平成15年当時,被告オークスの役員であった
が,原告と被告オークスとの間の契約に基づいて原告の業務に従事して
おり,原告の発意に基づき,原告の従業員としての職務上,本件ソフト
1及び2を開発,制作した。Cは,「デジタルワークスのC」と名乗っ
てシナリオや音楽の作成を外注しているし,原告は,Cに対し,本件ソ
フト1及び2の開発に係る報酬を支払っているほか,本件ソフト1及び
2のプログラムの開発,シナリオや音楽の作成のためのスタッフを準備
し,これらのスタッフに対する報酬もすべて支払っている。
したがって,著作権法15条2項により,本件ソフト1及び2の著作
者は原告であり,原告が本件ソフト1及び2の著作権を取得する。この
ことは,本件ソフト1及び2の商品パッケージに原告が著作権者である
旨の表示がされていることからも明らかである。
(イ)本件各委託契約書は,いずれも平成17年3月ころ,Bが被告Aに言
われるままに日付を遡らせて作成したものであり,原告は,平成14年
5月20日当時及び平成16年10月20日当時,本件ソフト1及び2
の作成を被告オークスに委託する意思はなかった。
また,本件各委託契約条項は,本件ソフト1及び2(パソコン用ソフ
トウェア)を販売する上で必要なパッケージ作成等のため,本件ソフト
1及び2で使用されているキャラクター等をプリントすることを許諾す
るという趣旨であり,本件ソフト1及び2を別のハードウェア(家庭用
ゲーム機)のために移植することを許諾したものではない。仮に,本件
各委託契約条項が,被告らの主張するように独占的利用の許諾に当たる
とすれば,原告にはその意思がなかった(表示の錯誤)のであるから,
民法95条により,無効である。
(ウ)原告は,本件ソフト1及び2の著作権者として,本件ソフト1及び2
を他のハードウェアで同内容のゲームができるように移植する権利を有
するところ(著作権法27条),被告オークスは,原告の許諾を受けて
いないことを知りながら,本件ソフト1及び2を本件ソフト3及び4に
移植した上,これを複製して販売し,もって,原告の上記著作権(翻案
権,二次的著作物に係る複製権)を侵害した。
また,被告Aは,被告オークスの代表取締役としてその業務全般を所
掌しており,本件ソフト1及び2の著作権が原告にあることを知りなが
ら,率先して,これを本件ソフト3及び4に移植し,複製して販売する
などの事実行為に及んでいるのであるから,被告オークスと共同して原
告の著作権(翻案権,二次的著作物に係る複製権)を侵害したというべ
きであり,被告オークスと連帯して不法行為責任を負う。
イ被告ら
(ア)Cは,被告オークスの発意に基づき,被告オークスのゲームソフト作
成の総括責任者として本件ソフト1及び2の開発,作成に従事したので
あるから,本件ソフト1及び2の著作者は,著作権法15条2項により,
被告オークスであり,その著作権は被告オークスに原始的に帰属する。
被告オークスは,本件ソフト1及び2の著作権者として,原告に対し,
本件ソフト1及び2を店頭売り(通信販売を除く,流通への卸し販売)
する権利を独占的に許諾したにすぎない。
原告が,C,その他の本件ソフト1及び2の開発に携わったスタッフ
に対する報酬を支払った事実はない。
(イ)仮に,何らかの理由で,本件ソフト1及び2の著作権が被告オークス
から原告に譲渡されたとしても,本件ソフト1及び2の翻案権や本件ソ
フト3及び4(二次的著作物)の複製権は被告オークスに留保されてい
るか(著作権法61条2項),又は,被告オークスは原告から本件ソフ
ト1及び2をパソコン用ゲームソフトとして店頭売りする権利以外の一
切の権利について独占的利用の許諾を受けている(著作権法63条,本
件各委託契約条項)。したがって,被告オークスが本件ソフト1及び2
を本件ソフト3及び4に移植(翻案)し,これを複製して販売したこと
は,原告の著作権を侵害するものではない。
本件各委託契約条項は,パソコン用ゲームソフトとして本件ソフト1
及び2を複製,店頭売りする権利は原告に取得させ,それ以外の一切の
権利(その主なものは,本件ソフト1及び2をプレイステーション2や
ドリームキャスト等のコンシューマー版ゲームソフトに改変し,販売す
る権利である。)は被告オークスに留保する趣旨と解すべきである。こ
れは,原告の業態が,満18歳未満の青少年への販売が禁止されている
パソコン用ゲームソフト(以下「アダルトゲームソフト」という。)を
被告オークスを始めとする第三者に委託して制作,製造してもらい,自
己が発売元となって販売する(実際にはワンピースに一括して買い取っ
てもらう)というものであり,他方,被告オークスは,プレイステーシ
ョン2やドリームキャスト等のコンシューマー版ゲームソフトの制作,
販売を主たる業務としていることからも明らかである。事実上,アダル
トゲームソフトを発売するにはコンピュータソフトウェア倫理機構(い
わゆる「ソフ倫」。以下「ソフ倫」という。)に加盟し,商品にソフ倫
から交付される「ソフ倫シール」を貼付しなければならないが,原告は,
ソフ倫に加盟していた。他方,被告オークスは,プレイステーション2
用のゲームソフトが主力製品であり,ライセンス元である株式会社ソニ
ー・コンピュータエンタテインメント(以下「SCE社」という。)に
よる規制が厳しいことから,アダルトゲームソフトを手がけることを表
沙汰にしたくなかった。
(ウ)原告が主張する被告Aの行為は,被告オークスの代表取締役としての
ものであり,被告A個人の行為ではないから,被告Aが原告に対して損
害賠償責任を負うことはない。
(2)争点(2)(本件誓約書の効力)について
ア被告オークス
原告と被告オークスとの間においては,本件誓約書のとおり和解契約が
成立しており,原告は,被告オークスに対し,今後いかなる請求も行わな
い旨約したのであるから,原告の被告オークスに対する本件請求は認めら
れない。
なお,上記和解契約は,紛争を終局的に解決するため,和解契約時点ま
でに生じた事実に基づく請求は一切行わないという趣旨であり,原告には
代理人弁護士が就いていたことも考慮すれば,原告が上記の趣旨を誤解し
て和解に応じたなどということは考え難い。
イ原告
原告は,被告オークスが本件ソフト1及び2に係る原告の著作権を侵害
していることを知らずに本件誓約書を作成したもので,もし被告オークス
による著作権侵害の事実を知っていれば,本件誓約書の作成に応じること
はなかった。
したがって,本件誓約書には動機の錯誤があるところ,被告オークスは,
原告の上記動機を熟知していたのであるから,本件誓約書による原告の意
思表示は,民法95条により無効である。
(3)争点(3)(損害)について
ア原告
(ア)逸失利益
被告らの上記(1)の著作権侵害行為により,原告は,本件ソフト1及
び2を移植して販売することによって得られたはずの利益を得ることが
できなかった。
被告オークスは,タイトーから,本件ソフト3及び4の販売代金とし
て合計5699万6880円の支払を受けているが,このうち,移植や
販売に係る諸経費を差し引いた利益率は3割を下回らない。
したがって,被告オークスは,上記(1)の著作権侵害行為により,少
なくとも1709万9064円の利益を得ているから,原告は,著作権
法114条2項により,これと同額の損害を受けたと推定すべきである。
(イ)弁護士費用
原告は,本件損害賠償請求について,弁護士に委任して本件訴訟を提
起することを余儀なくされたが,上記(1)の不法行為と相当因果関係の
ある弁護士費用は170万円を下回らない。
イ被告ら
否認ないし争う。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(本件ソフト1及び2の著作者並びに被告らによる著作権侵害行為
の有無)について
(1)上記第2の2の前提となる事実並びに証拠(甲11,12,14∼18,
乙2∼8,10,11,証人B,被告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,
次の事実を認めることができる。
ア原告の設立
被告Aは,札幌市内の高校を卒業後,上京し,都内のゲームソフト制作
会社で役員をしていたが,高校時代の同級生であったBから「コンピュー
タ関係の仕事をしたい」旨の相談を受けたことから,Bに対し,アダルト
ゲームソフトの制作,販売が今後有望であるとして,当該事業を勧めた。
これを受けて,Bは,平成10年6月19日,原告を設立し,その代表
者に就任したが,それまでゲームソフト業界で仕事をしたことがなく,ノ
ウハウも人脈もなかったので,被告Aのサポート(アイディアの提供や外
注先の紹介等)は受けたものの,当初の企画,制作がうまく進まず,間も
なく営業が停滞するようになった。
イ被告オークス及びワンピースの設立
その後,被告Aは,ゼロシステムの代表取締役としてゲームソフトの制
作をしていたCと知り合い,Cと共にゲームソフト(主として一定の性的
表現を含むプレイステーション2用のゲームソフト)を制作する会社を新
たに立ち上げることで意気投合し,平成12年11月9日,被告A及びC
のほか,D(被告Aの妻。以下「D」という。)及びE(以下「E」とい
う。)が出資して,被告オークスを設立した。
被告オークスの役員は,被告A及びCが代表取締役,D,E及びFが取
締役で,合計5名であったが,この中でプログラマーはCのみであり,ゲ
ームソフトの開発作業はCが責任者として担当することになった。
被告Aは,平成13年9月,ゲームソフトの販売会社としてワンピース
を設立したが,その役員は被告オークスとほぼ同じであり,事務所も同一
であった。
ウ原告と被告オークス及びワンピースの関係
被告Aは,被告オークスの事業が軌道に乗った平成14年ころ,当時北
海道に戻っていたB(当時,原告の取締役であった。)に連絡をして東京
に呼び寄せ,原告と共にアダルトゲームソフトに関するビジネスを行うこ
ととした。
事実上,アダルトゲームソフトを発売するにはソフ倫に加盟し,商品に
ソフ倫から交付される「ソフ倫シール」を貼付しなければならない。被告
オークスは,プレイステーション2用のゲームソフトを主力商品としてお
り,これも一定の性的表現を含むものではあったが,プレイステーション
2のライセンス元であるSCE社による規制が厳しいため,比較的穏当な
内容のものであり,今後,被告オークスにおいてアダルトゲームソフトを
手がけることが表沙汰になれば,同社のイメージが悪化するのではないか
という懸念があった。他方,原告は,ゲームソフトを制作,販売する能力
やノウハウを有していなかったが,ソフ倫に加盟していたことから,アダ
ルトゲームソフトの発売元になることができた。
そこで,原告と被告オークスが協議した結果,被告オークスがアダルト
ゲームソフトを制作し,原告がその発売元となり,ワンピースが原告から
そのパソコン用ゲームソフトを一括して仕入れて(又は委託を受けて)販
売するという枠組みで事業を展開することが取り決められた。
エ本件ソフト1及び2の開発,作成及び販売
被告オークスは,原告との間で,上記ウの枠組みのとおり原告が発売元
になること等を前提として,パソコン用ゲームソフトである本件ソフト1
及び2を制作することを合意し,その開発に着手した。そして,本件ソフ
ト1及び2の作成は,被告オークスのゲームソフト開発担当責任者である
Cが統括し,実際のプログラム作業は,被告オークスの従業員(本件ソフ
ト1についてはG,本件ソフト2についてはH)が行って,本件ソフト1
及び2を完成させた。
原告は,被告オークスが商品として製造した本件ソフト1及び2の販売
のためにソフ倫シールを発注し,これを貼付して,本件ソフト1及び2を
ワンピースに販売(卸売り)した。
なお,本件ソフト1及び2の制作,販売等に係る原告と被告オークスの
上記合意については,いずれも平成17年3月ころ,日付を遡らせる形で,
本件ソフト1については平成14年5月20日付けで,本件ソフト2につ
いては平成16年10月20日付けで,ほぼ同内容の個別業務委託契約書
(甲11,12)が作成された。
(2)法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプ
ログラムの著作物の著作者は,その作成の時における契約,勤務規則その他
に別段の定めがない限り,その法人等とされる(著作権法15条2項)とこ
ろ,上記「法人等の業務に従事する者」には,当該法人の代表取締役も含ま
れるものと解すべきである。そして,上記(1)に認定した事実によれば,本
件ソフト1及び2は,被告オークスの代表取締役かつプログラマーとしてゲ
ームソフト開発作業を担当していたCが,被告オークスの発意に基づき,そ
の職務として作成したものと認めることができるから,被告オークスが,本
件ソフト1及び2の著作者であり,これらの著作権を原始的に取得したもの
ということができる。
この点につき,原告は,Cに対し本件ソフト1及び2の開発に係る報酬を
支払ったとか,本件ソフト1及び2のプログラムの開発,シナリオや音楽の
作成のためのスタッフを準備し,これらのスタッフに対する報酬もすべて支
払ったなどの事実を指摘して,本件ソフト1及び2が原告の職務著作である
と主張し,C作成の陳述書(甲18)にはこれに沿う記載部分がある。しか
し,本件において,原告とCとの間で締結された雇用契約又はこれに相当す
る契約に関する書面や,原告からCその他のスタッフに報酬又は賃金が支払
われたことを示す客観的資料が何ら証拠として提出されておらず,また,本
件ソフト1及び2が作成された当時の原告の取締役であったBは,当時原告
の業務に従事していた者はB1人であり,Cは原告の役員でも従業員でもな
かった旨の証言をしていることに照らすと,Cの上記陳述は採用することが
できず,ほかにCが原告の業務に従事する者として本件ソフト1及び2を作
成したとの事実を認めるに足りる証拠はない。したがって,原告の上記主張
を採用することはできない。
本件ソフト1及び2のパッケージには,発売元として原告の商号が記載さ
れ,また,Cは「デジタルワークスのC」と名乗ってシナリオ等の外注をし
たり,販促イベントに参加するなどしていたことが認められる(甲14,1
5,18,証人B)が,これらは,本件ソフト1及び2の発売元を原告とす
る上記(1)ウの枠組みと整合させるために採られた便宜的な措置にすぎない
ものと認められ,これらの事実は上記認定を左右するものではない。
(3)なお,被告らは,上記第2の4(1)イ(イ)のとおり,何らかの理由で,本件
ソフト1及び2の著作権が被告オークスから原告に譲渡されたとしても翻案
権や複製権は被告オークスに留保されているなどとして,仮定的に,本件ソ
フト1及び2の著作権が被告オークスから原告に譲渡された場合についても
主張していることから,念のため付言する。
本件ソフト1及び2の制作・販売等に係る合意を文書化した本件各委託契
約書(甲11,12)には,本件ソフト1及び2の著作権の帰属や譲渡につ
いて明示的に規定した条項は見当たらない。
そもそも,本件ソフト1及び2の制作に当たっては,上記(1)ウのとおり,
原告と被告オークスが協議した結果,被告オークスがアダルトゲームソフト
を制作し,原告がその発売元となり,ワンピースが原告からそのパソコン用
ゲームソフトを一括して仕入れて(又は委託を受けて)販売するという枠組
みで事業を展開することが取り決められたものであるところ,そのためには,
原告において,本件ソフト1及び2の著作権を被告オークスから譲り受ける
ことは必ずしも必要なことではない(本件ソフト1及び2の利用の許諾を得
れば足りる)から,本件各委託契約において,本件ソフト1及び2の著作権
の譲渡が含意されているものと解することもできない。
その他,本件全証拠を検討しても,被告オークスと原告との間において,
本件ソフト1及び2に係る被告オークスの著作権が原告に譲渡されたことを
認めるに足りないから,被告らの上記仮定的主張について更に検討する必要
はない。
2以上検討したところによれば,原告が本件ソフト1及び2の著作権者である
と認めることはできないから,被告らの行為が原告の著作権を侵害したとする
ことはできない。
第4結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は,いずれも
理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
岡本岳
裁判官
鈴木和典
裁判官
坂本康博
別紙
目録
1パソコン用ソフト
タイトル「カフェ・リトルウイッシュ」
2パソコン用ソフト
タイトル「まじかる・ている」
3ドリームキャスト用ソフト
タイトル「カフェ・リトルウイッシュ」
SLPM-65295品番通常版
SLPM-65294初回限定版
4プレイステーション2用ソフト
タイトル「まじかる・ている」
SLPM-65965品番通常版
SLPM-65964初回限定版

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛