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裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     被上告人らの請求を棄却する。
     訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人藤井俊彦、同松村利教、同並木茂、同富田善範、同竹野清一、同大田
黒昔生、同笠原嘉人、同池口睦男、同後藤彌彦、同中澤一隆、同苦瀬雅仁、同和田
茂樹、同星野一昭、同山本剛英、同先名征二の上告理由第一点について
 一 1 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 (一) 亡S(以下「亡S」という。)は、昭和五四年九月一五日午後二時五〇分
ころ、数名の登山者とともに、吉野熊野国立公園のb道路(以下「本件道路」とい
う。)の、cに架設されている吊り橋(以下「本件吊り橋」という。)を渡ってい
たところ、本件吊り橋を支えている二本のメーンワイヤーが錆びて腐食していたた
め、うち一本が渡橋者らの荷重に耐え切れずに切断して足場が傾き、同人が約二〇
メートル下の谷底に転落し、露岩に激突して死亡するという事故(以下「本件事故」
という。)が発生した。
 (二) 本件道路は、もともと、昭和三八年三月九日、自然公園法一二条一項の規
定に基づき、吉野熊野国立公園の公園計画の一部として、起点をd、終点をeとす
る道路として計画決定され、同日f道路事業として事業決定されたところ、その後
昭和四七年九月一六日、右公園計画の一部が変更され、起点d、終点T発電所とな
り、それに伴いb道路事業として事業決定されたものであって、歩道、同時に五人
以上の登山者の渡橋に耐えられる程度の規模、構造を備えた一三の吊り橋、木橋等
によって構成されている。
 (三) 三重県は、昭和三八年四月一一日、自然公園法一四条二項の規定に基づき、
上告人から右道路事業についての執行の承認を受け、以来計画変更の都度承認を受
けて右道路事業を執行しているものであり、本件吊り橋を含む本件道路の設置管理
は、右道路事業の執行としてなされている。
 (四) 本件吊り橋は、昭和三七年ころ三重県が発電所建設工事関係者の通行の用
に供する目的で架設し管理してきたが、昭和四三年に路線の一部変更にともない上
告人の承認のもとに本件道路に組み込まれたもので、直径二一・五ミリメートルの
二本のメーンワイヤーで支えられた全長約四六メートルの吊り橋であり、本来なら
ば一〇人程度の渡橋に耐えられるように設計されていたが、本件事故当時には、架
設以来架け替えられたことのないメーンワイヤーが経年的な変化により錆びて腐食
し、数名の渡橋にも耐えられない状態となっていた。
 (五) 三重県は、本件吊り橋のメーンワイヤーが腐食して切断事故の発生する危
険があることを知りながら、十分な事故防止策をとらなかった。
 (六) 三重県は、本件道路事業全体についてみると、昭和三七年から昭和五〇年
まで一一回にわたり(昭和四三年に本件吊り橋が本件道路に組み込まれて以降に限
ると八回にわたり)上告人から補助金の交付を受け、その承認のもとに架設、補修
などの工事をしてきたものであり、上告人は、その事業費合計八五三五万二〇〇〇
円(昭和四三年以降に限ると六八三五万二〇〇〇円)のうち半額に相当する四二六
七万六〇〇〇円(昭和四三年以降に限ると三四一七万六〇〇〇円)を補助金として
同県に交付したものである。
 (七) 本件吊り橋についてみると、三重県は、本件吊り橋が本件道路に組み込ま
れた昭和四三年から昭和五四年までの間に四回にわたりその補修工事をしており、
その費用は合計六七万三四六九円であるが、上告人は、右四回の補修工事のうちの
昭和四三年の一回について、その事業費二七万一九八四円の半額に相当する一三万
五九九二円の補助金を同県に交付したのみであり、上告人の費用負担の割合は同県
の負担額の四分の一に過ぎない。
 2 右事実関係のもとにおいて、被上告人らは、上告人に対し、本件吊り橋を含
む本件道路の架設補修費用について三重県に補助金を交付した上告人は本件吊り橋
の設置管理の費用負担者に当たると主張して、国家賠償法三条一項に基づき亡Sの
死亡による損害賠償を求めたものである。
 二 原審は、右事実関係のもとにおいて、上告人は、三重県に対し、国立公園に
関する公園事業の一部執行として本件吊り橋を含む本件道路の架設補修などの工事
を承認し、その際その事業費の半額に相当する補助金を交付し、上告人の本件吊り
橋を含む本件道路に関する架設補修費用の負担の割合は全体の二分の一近くにも達
しているのであるから、本件吊り橋の補修のために上告人が同県に交付した補助金
の額が同県の負担額に対し四分の一に過ぎないものであっても、上告人は、国家賠
償法三条一項の適用に関しては、本件吊り橋を含む本件道路の設置管理費用の負担
者に当たると判断して、上告人に対する本件損害賠償請求の一部を認容した。
 三 しかしながら、原審の右判断は、にわかに首肯することができない。その理
由は次のとおりである。
 国が、自然公園法一四条二項により地方公共団体に対し国立公園に関する公園事
業の一部執行として特定の営造物を設置することを承認したうえ、同法二五条によ
り右地方公共団体が負担すべきものとされているその設置管理(補修を含む。)の
費用について同法二六条に基づく補助金を度々交付し、その額が右地方公共団体の
負担額と同等又はこれに近い額に達している場合には、国は、当該営造物について
の費用負担の点においては国家賠償法三条一項にいう費用負担者に当たるものとい
うことができる(最高裁昭和四八年(オ)第八九六号同五〇年一一月二八日第三小
法廷判決・民集二九巻一〇号一七五四頁参照)。しかしながら、この場合、当該公
園事業に関する施設が、社会通念上独立の営造物と認められる複数の営造物によっ
て構成される複合的な施設(以下「複合的施設」という。)であって、その設置管
理に瑕疵があるとされた特定の営造物が右複合的施設を構成する個々の施設(以下
「個別的施設」という。)であるときは、当該個別的施設と複合的施設を構成する
他の施設とを一体として補助金が交付された場合などの特段の事情がない限り、右
費用負担者に当たるか否かは、当該個別的施設について費用負担の割合等を考慮し
て判断するのが相当である。けだし、地方公共団体は、自然公園法一四条二項に基
づく承認を受けて執行する国立公園に関する公園事業施設について補助金の交付を
申請する場合には、特定の施設ないしその部分についての設置、補修工事等を特定
して申請し、国は、右申請を受けて、国家的観点から個別にその必要性を判断して
補助をするか否かを決定すべきものとされているのであり、また、国が補助金の交
付を通じて地方公共団体に対し具体的に危険防止の措置を要求することができるの
は、補助金が交付された設置、補修等の工事の範囲に限られるからである。
 これを本件についてみると、本件道路は、起点をd、終点をT発電所とし、同時
に五人以上の登山者の渡橋に耐えられる程度の規模構造を備えた一三の吊り橋のほ
か、木橋、歩道などによって構成され、そのうち本件事故の原因となった本件吊り
橋は、直径二一・五ミリメートルの二本のメーンワイヤーで支持され、本来ならば
一〇人程度の渡橋に耐えられるように設計されている全長約四六メートルに及ぶ橋
であるというのであるから、本件道路は、前記複合的施設に該当し、本件吊り橋は
社会通念上本件道路の他の施設とは別個独立の営造物と認められるべきものである。
そして、上告人は、本件吊り橋を含む本件道路全体についてみると、三重県に対し
一一回にわたり架設補修工事を承認し、その際その事業費の半額に相当する補助金
を交付したもので、その限りでは上告人の費用負担の割合は費用全体の二分の一に
達しているが、本件吊り橋のみについてみると、その架設については費用を負担し
ておらず、同県がした四回の補修工事のうち本件事故の一〇年以上前である昭和四
三年に行われた一回の工事についてのみその費用の二分の一に当たる一三万五九九
二円を補助金として交付したに過ぎず、上告人の本件吊り橋の補修費用負担の割合
は同県の負担額の四分の一に過ぎないというのである。そうすると、右補助金の交
付においては、本件吊り橋の設置管理費用と本件道路の他の施設の設置管理費用と
は、区別されていることが認められるとともに、他に本件吊り橋を本件道路の他の
施設と一体として判断すべき特段の事情がある場合には当たらないと認められるか
ら、本件吊り橋の設置管理の費用として交付された補助金のみを基準として費用負
担者に当たるか否かを判断すべきであり、本件吊り橋に対する前示の補助金の額、
内容、交付の時期、回数、三重県との負担の割合等に照らすと、上告人は、本件吊
り橋について国家賠償法三条一項にいう費用負担者に当たらないというべきである。
 以上によれば、上告人が同項にいう費用負担者に当たるとした原審の判断は、法
令の解釈適用を誤ったものというべきであり、その違法が原判決の結論に影響を及
ぼすことは明らかであるから、右の違法をいう論旨は理由がある。そして、右に説
示したところによれば、被上告人らの請求は理由がないことに帰するから、原判決
を破棄し、被上告人らの請求を一部認容した第一審判決中右請求認容にかかる上告
人敗訴の部分を取り消した上、被上告人らの請求を棄却すべきである。
 よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条、九三条に従い、
裁判官佐藤哲郎の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決
する。
 裁判官佐藤哲郎の反対意見は、次のとおりである。
 私は、多数意見には同調することができず、上告人は本件事故に関し国家賠償法
三条一項の費用負担者に当たるとした原審の判断は正当であって、論旨はいずれも
理由がなく、本件上告は棄却すべきものと考える。以下その理由を述べる。
 国が、自然公園法一四条二項の規定により地方公共団体に対し本来国がなすべき
国立公園事業の一部執行として特定の営造物を設置することを承認したうえ、同法
二五条により当該地方公共団体が負担すべきものとされているその設置管理の費用
について同法二六条に基づく補助金を度々交付し、その額が当該地方公共団体の負
担額と同等又はこれに近い額に達している場合に、国が当該営造物について国家賠
償法三条一項にいう費用負担者に当たるとされるのは、国は補助金の形で実質的に
当該営造物に関する費用を負担しているばかりでなく、事業の承認及び補助金の交
付を通じて当該営造物の瑕疵による危険を防止しうる立場にあり、実質的に当該営
造物による事業を地方公共団体と共同して執行しているとみられることによるので
ある(自然公園法二五条及び多数意見引用の判例参照)。したがって、国が国立公
園事業の一部執行として地方公共団体に対して複合的施設の設置を承認し、その設
置管理費用について補助金を度々交付し、その額が当該地方公共団体の負担額と同
等又はこれに近い額に達している場合には、複合的施設のうち特定の個別的施設に
限って繰り返し補助金が交付されているのに他の施設については全く交付されてい
ないなど複合的施設を一体として共同事業をしているととらえることが著しく不合
理と認められる特段の事情がない限り、国は、複合的施設全体について地方公共団
体と共同して事業を執行しているものというべきであり、したがって国家賠償法三
条一項の費用負担者に当たるものというべきである。もっとも、国が補助金の交付
を通じて具体的に危険防止の措置を要求することができるのは、補助金が交付され
た設置、補修等の具体的工事に限られるけれども、国民の利用する国立公園施設に
対する補助金の交付は、当該施設が利用者の事故を防止するに足りる水準を維持す
るためのものとしての性質を有するのであるから、このような性質の補助金を繰り
返し交付している国は、当該施設全体について危険を防止しうる地位にあるという
ことができるのであり(前記判例参照)、もともと国家賠償法三条一項の費用負担
者の損害賠償責任については費用の負担と損害の発生との間に具体的な因果関係を
要するものとはしていないから、国が補助金の交付によって具体的に事故を防止し
うる地位にあったことを要するものではないというべきである。さらに、右のよう
に、共同して執行しているとみられる事業施設について、多数意見のように具体的
工事部分を特定して補助金の額、割合等を判断しなければならないとすると、それ
だけでも被害者の損害賠償責任者の選択を困難にするばかりでなく、対象が細分化
されることによって繰り返し補助金が交付されるということも少なくなり、国が費
用負担者と認められることも少なくなると考えられ、公の営造物の瑕疵による国民
の被害について、内部的な損害賠償責任の所在は暫く置き、損害賠償責任者の選択
の困難を除去することによって被害者の救済を容易にしようとする国家賠償法三条
一項の立法趣旨にも反することになるというべきである。
 のみならず、本件吊り橋を本件道路中の他の部分と分離して判断することは、次
の点からも相当でないと考える。すなわち、被害者の損害賠償責任者の選択の困難
を除去することを目的とする国家賠償法三条一項の立法趣旨に照らすと、国が承認
した特定の国立公園事業にかかる複合的施設について、国が同項の費用負担者に当
たるか否かを判断するに際し、複合的施設の一部である個別的施設を分離して判断
することが許されるのは、当該個別的施設が明確な基準によって当該複合的施設の
うちの他の施設と区別される場合に限るものとすべきである。道路上の橋は、橋の
規模、構造等により独立の営造物としてとらえることも不可能ではないとしても、
道路の一部でもあるからこれを分離して判断することはそもそも疑問であるばかり
でなく、多数意見は、周回路とその一部であるかけ橋を一体として判断した前記判
例を前提とするものであるから、橋の規模、構造等により、他の道路部分と独立の
営造物とみるべき橋と、他の道路部分と一体のものとみるべき橋とを区別している
ものとみられるところ、このような区別をすべき明確な基準があるとは考えられな
い。
 以上述べてきたところによれば、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、
本件について国が費用負担者に当たるか否かを判断するに際し、本件吊り橋を他の
本件道路事業施設と分離して判断すべき特段の事情があるとは認められないから、
本件吊り橋を本件道路中の他の部分と一体として判断し、上告人は国家賠償法三条
一項の費用負担者に当たるとした原審の判断は正当であって、論旨はいずれも理由
がないものというべきである。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    佐   藤   哲   郎
            裁判官    四 ツ 谷       巖
            裁判官    大   堀   誠   一

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