平成15年2月3日判決言渡平成11年(ワ)第21193号 損害賠償請求事件
主 文
1 被告は,原告ら各自に対し,別紙認容額一覧表の各原告に対応する「認容額合
計」欄記載の各金員及びこれに対する平成11年10月15日から各支払済みまで
年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その4を原告らの負担とし,その余を被告の負担
とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告ら各自に対し,別紙請求一覧表の各原告に対応する「請求額合計」
欄記載の各金員及びこれに対する平成11年10月15日から各支払済みまで年5
分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要及び当事者の主張等
1 原告らは,従前から,住宅・都市整備公団(以下「公団」という。)が設営し
ていた千葉県所在の旧A団地及び神奈川県所在の旧B団地の住戸を賃借しており,
公団による両団地の建替事業の際,新団地(新A,新B)の分譲住宅を購入した者
である(ただし,原告28は,公団の設営する旧C団地の建替事業に伴って新Aの
分譲住宅を購入した者である。)が,その後,両新団地の分譲住宅が大幅に値下げ
をして一般に売り出されたのは,公団の原告らに対する債務不履行ないし不法行為
であると主張し,予備的に分譲住宅の売買契約が錯誤により無効であると主張し,
公団の権利義務関係を承継した被告に対し,損害賠償ないし不当利得返還を請求し
たのが本件である。
2 争いのない事実等
以下の事実は,当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により認められる。
(1) 当事者等
ア 原告1ないし27及び原告29ないし43は,従前,公団が設営する旧A団地
の住戸を賃借して居住しており,同団地の建替事業にあたって,建替後の新団地
(新A)への戻り入居を選択して,その分譲住宅を購入した者である。
原告28は,従前,公団が設営する旧C団地に居住しており,旧C団地の建替事
業にあたり,新Aへの入居を選択し,同団地の分譲住宅を購入した者である。
原告44ないし58は,従前,公団が設営する旧B団地の住戸を賃借して居住し
ており,同団地の建替事業にあたって,建替後の新団地(新B)への戻り入居を選
択して,その分譲住宅を購入した者である。
イ 公団は,住宅事情の改善を特に必要とする大都市地域その他の都市地域におい
て健康で文化的な生活を営むに足りる良好な居住性能及び居住環境を有する集団住
宅等の供給を行うこと等により,国民生活の安定と福祉の増進に寄与することを目
的として,住宅・都市整備公団法によって設立された特殊法人である。
公団は,都市基盤整備公団法の成立に伴い,平成11年10月1日解散し,その
権利義務は,同日,被告が承継した。
(2) 旧A団地建替事業の経緯
ア 公団は,平成2年,A団地の建替事業に着手し,同年9月15日及び16日,
A団地の賃借人を対象とした居住者説明会を開催した。公団は,この説明会におい
て,「A団地建替事業概要(1ブロック用)」(甲1の1),「A団地(1ブロッ
ク)建替後住宅の型式別家賃・譲渡価格及び建物概要等」(甲1の2)等の資料を
配付して建替事業の説明を行った。その説明内容の概要は,以下のとおりである。
(ア) 建替前のA団地には,1ないし3階建ての住宅109棟に2Dないし3Dの
住戸が974戸あったが,建替により,5ないし11階建ての中・高層住宅計27
棟が建築され,2DKないし3LDKの住宅1200戸が賃貸に供され,2LDK
ないし3LDKの住宅350戸(分譲については希望を参考として戸数を見直
す。)が分譲されることが計画されている。
(イ) 建替事業の進め方として,団地全体を東西に2分し,西側を1ブロック,東
側を2ブロックとし,順次建替事業に着手する。1ブロックの中でも,先に工事を
行う先工区と後から工事を行う後工区に分けて工事を行う。
1ブロックの進め方として,説明会後,2年間の話合い期限内に,①建替後の賃
貸住宅への入居,②建替後の分譲住宅への入居,③他の公団賃貸住宅への移転,④
他の公団分譲住宅への移転,⑤民間住宅等への移転のいずれかを選択し,居住建物
につき,従来の賃貸借契約を一時使用賃貸借契約に切り替える。その後,賃借人
は,平成4年9月30日までに居住建物を明け渡し,戻り入居(建替後の賃貸住宅
又は分譲住宅への入居)を選択した者は,後工区や2ブロック等の住宅に仮移転
し,その他の者はそれぞれの移転先に本移転する。移転完了後先工区の建物を取り
壊して新たな建物を建設し,仮移転していた者及び後工区の者を新しい建物に入居
させた上で後工区の工事を行う。
(ウ) 建替後の分譲住宅へ戻り入居することを選択した者に対して,公団は,一般
公募に先立つ優先入居,入居する住宅が完成するまでの仮住居の確保,移転費用相
当額の支払い,家賃等の一部補填相当額として金100万円の支払いという条件を
提示した。公団は,その他の選択をした者に対しても,移転費用の支払いや優先入
居等の条件を提示した。
ただし,これらの諸条件は,平成4年9月30日の移転期限までに従前の賃貸借
契約を一時使用賃貸借契約に切り替えたり住宅を明け渡したりして建替事業に協力
する態度を示した場合にだけ,公団との覚書の締結という形で確認され,移転期限
を経過すれば,従前の賃貸借契約が終了するまでにこれらの行為を行ったとして
も,建替後分譲住宅への入居が認められなかったり,家賃等の一部補填として支払
われる額が少なくなったりするなど不利な条件になるものとされていたし,賃貸借
契約が終了してしまえば,その後に住宅を明け渡しても何らの措置も与えられない
ものとされていた。
(エ) 建替後分譲住宅の型式別譲渡価格は,2LDK(住戸専用床面積6 0㎡)
2900万円,3LDK(住戸専用床面積70㎡)3400万円である。
イ 公団は,説明会の際及びその直後,全戸に住宅希望調査票を配布し,建替後賃
貸住宅に入居するか,建替後分譲住宅に入居するか,他の公団住宅や民間住宅に本
移転するかの意思確認を行った。
ウ 公団は,平成3年10月22日,建替後住宅として1DKの賃貸住宅(住戸専
用床面積31㎡,賃料5万7000円),4LDKの分譲住宅(住戸専用床面積8
5㎡,譲渡価格4100万円)という追加プランを発表するとともに,最終意思確
認として建替後住宅の申込書等を配布した。
エ 原告1ないし27及び原告29ないし43は,平成4年9月30日までに,従
前の賃貸借契約の合意解約に応じて一時使用賃貸借契約への切替え又は住宅の明渡
しを行い,前記ア(ウ)記載の諸条件等を内容とする覚書(甲2)(以下後記B団地
における覚書と併せて「本件覚書」という。)を締結し,公団の建替事業に協力し
た。前記原告らのうち先工区に居住する者は,平成4年9月30日以降,漸次後工
区や2ブロック等の住宅に仮移転をし,旧賃貸住宅を明け渡した。
オ 平成7年10月31日,原告1ないし43は,公団との間で,新Aの分譲住宅
(すべて14号棟又は15号棟に属する。)の売買契約を締結した(以下後記新B
の売買契約と併せて「本件各売買契約」という。)。その売買代金額は,2LDK
の住戸が2670万円から2850万円,3LDKの住戸が3140万円から33
20万円,4LDKの住戸が3840万円から4100万円であった。なお,個々
の原告の購入した住戸の棟及び部屋番号,譲渡対価,複数人で共同して購入した場
合の共有持分は,別紙請求一覧表記載のとおりである。
カ 原告らの入居後,後記ケに至るまで,14号棟及び15号棟の残りの83戸に
ついては,一般公募が行われず,55戸が存する16号棟は完成を目前にして工事
が中断された。
キ 平成9年5月24日,公団は,分譲住宅購入者に対し,説明を行う機会を持
ち,未募集のA団地16号棟について当時の状況では公募が困難であるので,賃貸
住宅に変更することについて検討の余地があるかどうかを打診した。その中で,公
団から,未分譲住宅については,いかに販売促進をしても民間との比較において,
当時設定されていた価格では販売しがたく,一般公募に踏み切れないこと,入居時
に差があるとしても価格差があれば既居住者の納得を得るのは難しいと考えてお
り,そのままの価格で販売していく方向で対策を模索中であるが妙手はないことを
内容とする発言があった。
ク 平成10年3月1日,公団は,未分譲住宅の値下分譲を既購入者に打診した。
さらに,同月16日には不動産鑑定の結果を示したが,これによれば,当初販売の
平均は,住戸専用床面積が71.8㎡,3357万円であったのに対し,不動産鑑
定による価格は,2491万6000円であり,25.8%の値下げになるもので
あった。
ケ 公団は,平成10年7月25日,14,15号棟の未入居住宅83戸を値下げ
した上で一般公募に踏み切った。平均引下率は25.5%,平均引下額は854万
8000円であった。
(3) 旧B団地建替事業の経緯
ア 公団は,平成2年,旧B団地の建替事業に着手し,同年3月25日,旧B団地
の賃借人を対象とした居住者説明会を開催した。公団は,この説明会において,
「B団地建替事業概要」(甲4)等の資料を配付して建替事業の説明を行った。そ
の説明内容の概要は,以下のとおりである。
(ア) 建替前のB団地には,低・中層住宅棟に1Kないし3Dの住戸が 667戸
あったが,建替により,中・高層住宅が建築され,1DKないし3DKの住宅72
5戸が賃貸に供され,2LDKないし3LDKの住宅132戸が分譲される(住宅
の型式別戸数は既居住者の希望を参考として見直す。また,賃貸住宅の2LDK及
び分譲住宅については戸数に制限がある。)ことが計画されている。
(イ) 建替事業の進め方として,団地を先工区と後工区に分けて工事を行う。
説明会後,2年間の話合い期限内に,①建替後の賃貸住宅への入居,②建替後の
分譲住宅への入居,③他の公団賃貸住宅への移転,④他の公団分譲住宅への移転,
⑤民間住宅等への移転のいずれかを選択し,居住建物につき,従来の賃貸借契約を
一時使用賃貸借契約に切り替える。その後,賃借人は,平成4年3月31日までに
居住建物を明け渡し,戻り入居(建替後の賃貸住宅又は分譲住宅への入居)を選択
した者は,後工区等の住宅に仮移転し,その他の者はそれぞれの移転先に本移転す
る。移転完了後先工区の建物を取り壊して新たな建物を建設し,仮移転していた者
及び後工区の者を新しい建物に入居させた上で後工区の工事を行う。
(ウ) 建替後の分譲住宅へ戻り入居することを選択した者に対して,公団は,一般
公募に先立つ優先入居,入居する住宅が完成するまでの仮住居の確保,移転費用相
当額の支払い,家賃等の一部補填相当額として金100万円の支払いという条件を
提示した。公団は,その他の選択をした者に対しても,移転費用の支払いや優先入
居等の条件を提示した。
ただし,これらの諸条件は,平成4年3月31日の移転期限までに従前の賃貸借
契約を一時使用賃貸借契約に切り替えたり住宅を明け渡したりして建替事業に協力
する態度を示した場合にだけ,公団との覚書の締結という形で確認され,移転期限
を経過すれば,従前の賃貸借契約が終了するまでにこれらの行為を行ったとして
も,建替後分譲住宅への入居が認められなかったり,家賃等の一部補填として支払
われる額が少なくなったりするなど不利な条件になるものとされていたし,賃貸借
契約が終了してしまえば,その後に住宅を明け渡しても何らの措置も与えられない
ものとされていた。
(エ) 建替後分譲住宅の型式別譲渡価格は,2LDK(住戸専用床面積6 3㎡)
4400万円,3LDK-A(住戸専用床面積72㎡)5200万円,3LDK-
B(住戸専用床面積75㎡)5800万円,3LDK-C(住戸専用床面積79
㎡)6300万円である。
イ 公団は,説明会の際及びその直後,全戸に住宅希望調査票を配布し,建替後賃
貸住宅に入居するか,建替後分譲住宅に入居するか,他の公団住宅や民間住宅に本
移転するかの意思確認を行った。
ウ 公団は,平成3年6月17日,建替後分譲住宅について,2LDK-A(住戸
専用床面積62㎡),3LDK-D(住戸専用床面積72㎡)という追加プランを
発表した。
エ 原告44ないし58は,平成4年3月31日までに,従前の賃貸借契約の合意
解約に応じて一時使用賃貸借契約への切替え又は住宅の明渡しを行い,前記ア(ウ)
記載の諸条件等を内容とする覚書(甲5)(以下前記A団地における覚書とほぼ同
じ内容であるから,併せて「本件覚書」という。)を締結し,公団の建替事業に協
力した。前記原告らのうち先工区に居住する者は,公団との覚書締結以降,漸次後
工区の住宅や別の公団賃貸住宅等に仮移転をし,旧賃貸住宅を明け渡した。
オ 平成6年12月10日,原告44ないし58は,公団との間で,新Bの分譲住
宅の売買契約を締結した(以下新Aの売買契約と併せて「本件各売買契約」とい
う。)。その売買代金額は,2LDKの住戸が4180万円から4490万円,3
LDK-Aの住戸が4840万円から5580万円,3LDK-Bの住戸が564
0万円から5980万円,3LDK-Cの住戸が6070万円から6430万円で
あった。なお,個々の原告の購入した住戸の棟及び部屋番号,譲渡対価,複数人で
共同して購入した場合の共有持分は,別紙請求一覧表記載のとおりである。
カ その後,平成10年7月25日に至るまで,新Bの分譲用住宅の残り46戸に
ついては一般公募が行われなかった。なお,賃貸住宅については,平成7年10月
に一般公募が開始された。
キ 公団は,平成10年7月25日,未入居の分譲住宅46戸を,値下げした上で
一般公募に踏み切った。平均引下率は29.1%,平均引下額は1631万400
0円であった。
3 争点
本件における争点は,①本件覚書2条1項違反による債務不履行の有無,②錯誤
の有無,③適正価格設定義務違反の有無,④説明義務違反の有無の4点である。
(1)本件覚書2条1項違反による債務不履行の有無
【原告らの主張】
ア 本件覚書の法的意義
原告らは,建替事業着手時において,その居住する住居について借家権を有して
いた。本件覚書は,原告らの借家権という生活の基盤をなす重要な権利を喪失させ
るにあたって,その条件について定めた取り決めである。
本件覚書は,一時使用賃貸借契約によって,原告らが所有していた住宅について
の借家権を喪失することを前提に,その条件として,仮移転住居のあっせん(第1
条),移転費用の支払い(第3条),建替後住宅への優先入居(第2条)などにつ
いて基本的な事項が定められている。このように,本件覚書は,先履行としての従
前賃貸借契約の終了及びその後に実施される仮移転住宅のあっせん,建替後住宅へ
の優先入居についてその基本となる条件を定めたものであり,本件建替事業の開始
から完了までの全過程について,包括的に手続の基本事項を合意したものである。
原告らと公団との間では,基本合意をもとに,①一時使用賃貸借契約が締結され
ること,及びその後の建替事業の進行に伴い,②仮移転住宅の賃貸借契約,③建替
後分譲住宅の売買契約の各個別契約が締結されることが予定されていた。
本件覚書は,建替再入居契約とも呼ぶべき基本合意を書面化したものであり,前
記①ないし③の各契約は,それぞれが切り離された無関係のものとして締結された
ものではなく,基本合意たる本件覚書を根拠としてこれから派生したものである。
本件覚書は,基本合意として当事者を拘束し,前記①ないし③の契約内容は,基
本合意たる本件覚書の各条項の趣旨を没却しないように解釈されなければならな
い。
イ 本件覚書における対価性
公団は,覚書について,一時使用賃貸借契約を締結した住民と締結するもので,
移転先住宅のあっせん,建替後住宅の優先入居,移転費用の支払い,補修費用の免
除等を確認することを目的とするものであると説明しており,原告らは,このよう
な説明を受けて,一時使用賃貸借契約への切替え,明渡しの先履行を受け入れた。
したがって,建替後分譲住宅の提供は,原告らにとって,明渡しの対価としての意
味を持つ。
公団にとっても,建替事業のためには,原告らの借家権を喪失させることを避け
られないから,住民の同意を得るためにも,住民に対し,借家権の喪失に見合うだ
けの補償を行う必要があった。
以上のとおり,本件覚書においては,原告らが従前の住居を先履行として明け渡
すことの代償として諸条件が定められているのであり,原告らの従前借家権の喪失
と公団の提示した諸条件の履行とは,対価の関係に立つ。特に,分譲住宅への戻り
入居を選択した原告らにとっては,建替後分譲住宅への優先入居こそが,もっとも
本質的な条件であった。
ウ 「優先入居」の意味
本件覚書2条1項には,原告らを建替後分譲住宅に優先入居させることが公団の
原告らに対する義務として定められている。後記(ア)ないし(オ) 記載の事情をふ
まえて当事者の意思を解釈すれば,この優先入居とは,どのような価格であっても
単に公募に先立ってあっせんすれば足りるという内容ではなく,原告らが購入する
住戸の価格が,同時期に一般公募が行われたとすれば設定されるべき公募価格と同
等であり,公募価格より高額ではあり得ないことを意味することは明らかである。
(ア) 「優先」とは,「とくに他に優遇して先にする」との意味である。 単に入
居の順番が先であっても,一般公募よりも価格の面で不利益な扱いを受けるのであ
れば,それは優遇して扱われたことにならず,「優先入居」とはいえない。他の人
と少なくとも同等であって,かつ順番が先である場合に初めて優先であるといえ
る。公募に先立つことのみを意味するのであれば,「公募に先立ち住宅をあっせん
する」と規定すればよかったのに,あえて「優先」という文言を使用していること
から,価格の面で不利に扱われることはないという趣旨が盛り込まれているといえ
る。
(イ) 原告らの借家権の喪失と公団の提示した諸条件の履行とは対価関係にある。
その中でも,建替後分譲住宅への優先入居が原告らにとってもっとも本質的な条件
であり,その分譲価格は基本的かつ重要な要素である。
かかる対価性の観点からは,優先入居とは,原告らの有していた従前借家権とい
う重要な権利の喪失と釣合いのとれたものでなければならない。借家権の喪失との
釣合いを考えれば,「優先入居」とは,少なくとも一般公募よりも価格の面で不利
益に取り扱われることはないという意味を含んでいると解されなければならない。
(ウ) 他の諸条件との関係
本件建替事業においては,建替に伴う条件の1つとして,移転費用相当額の支払
いや家賃等相当一部補填額(100万円)の支払等が提示されていた。原告らは,
これらの諸条件全体とのバランスを総合勘案したうえで本件覚書を締結した。
もし公団に,価格設定につき全くの自由裁量があり,分譲住宅の価格が一般公募
より高額であることをも許容されるとすれば,前記の金銭の支払いを約した規定は
無意味に帰する。例えば,分譲住宅が原告らに対して100万円高く販売されるこ
とがあり得るとすれば,別に100万円を補填されても全く無意味である。
したがって,本件覚書は金銭の給付が意味を持つように解釈されなければなら
ず,そうであるならば,原告らに対する分譲住宅の譲渡価格は,同時期に一般公募
が行われたとすれば設定されるべき公募価格と同等であると解するほかない。
(エ) 建替後分譲住宅の価格のいかんにかかわらず分譲しさえすればよい とすれ
ば,借家法が明渡しに正当事由を要求している趣旨が没却される。借家権喪失に際
して締結された本件覚書はこのような脱法行為を許さないように解釈されなければ
ならない。
(オ) 公団が原告らを建替事業に協力させるために「優先入居」の文言を利用した
こと
公団は,「優先入居」をうたい文句に原告らに対して建替事業への協力を呼びか
けてきた。そこでは,「優先入居」の文言は,明らかに原告らにとって有利な条件
として用いられていた。
「優先入居」といっても,一般公募よりも価格の面で不利益な扱いを受けること
があるということであれば「優先入居」を理由に建替事業に協力する者は稀であろ
うから,常識的に考えて,「優先入居」とは,価格の面では少なくとも一般公募と
同等であり,それより高い価格ではないことを意味しているはずである。
エ 本件覚書2条1項に基づく公団の債務
公団は,原告らに対し,本件覚書から派生した個別契約たる分譲住宅売買契約の
締結に際して,その時点での一般公募に耐えられる価格(原告らへの売買と同時に
公団が一般公募を実施したとした場合に,民間との比較において販売可能と考えら
れる合理的な価格)を分譲価格として設定する契約上の債務を負っていた。
オ 公団の債務不履行
後記(ア)ないし(ウ)記載の事実に照らすと,公団は,原告らとの間に分譲 住宅
売買契約を締結するに際し,その時点で公募を実施した場合に設定すべき合理的な
価格を大きく超えて,公募に耐えられない高額の分譲価格を設定したと認められ
る。これは,前記エ記載の債務の不履行にあたる。
(ア) 公団は,建替事業着手時,原告らへの売却時,大幅値下げ時の少な くとも
3度にわたり,近隣の不動産価格等の調査を行い,その鑑定結果に基づいて価格を
設定しているはずである。本件訴訟において,原告らは,公団が公募に耐えられな
い価格を設定したことを述べ,それが公団の行為の違法性を基礎づけると主張して
きた。しかし,被告は,真摯な反論,反証の提出も行わなかった。このような被告
の態度は,鑑定結果を開示することにより被告に不利な事実が明らかになることを
表明するものに他ならない。
(イ) 一般公募を長期間にわたって見送り,大幅値下げをなした後に初めて一般公
募を実行している事実
公団は,原告らに対して分譲住宅への戻り入居の諸条件についての説明を行った
段階では,戻り入居者への分譲が終わった後,引き続き未入居住宅について一般公
募を行うことを前提としていた。公団は,原告らに対し,一般公募に先立って優先
入居させるとの説明を行っているが,これが,原告らに対する分譲住宅の売却後引
き続き一般公募を行うことを前提としていることは明らかである。
しかし,公団は,戻り入居者への売却後,引き続き行うはずの一般公募を平成6
年ないし7年の時点で実施せず,平成10年7月の大幅値下げまで見送っている。
平成4年から5年の時点で,公団の分譲住宅の人気が失われてきたことを理由に公
団内部での方針転換が行われた。
このような状態においては,不動産鑑定評価ないし市場における需給動向の調査
を行っていたこと,原告らへの分譲価格では直ちに一般公募を行っても買い手が現
れないと判断していたことが強く推認される。
そして,被告は鑑定結果を全く開示していない。これは,鑑定結果を開示するこ
とにより,公団が一般公募に耐えられない価格であることを認識しながら,原告ら
への戻り入居先としてこれを提供していた事実を物語る。
(ウ) A団地においては,未分譲住宅に関する公団と原告らとの協議の中で,平成
9年5月24日,公団東京支社改善業務課長から,「未分譲住宅は,今の時点では
価格の点で販売しがたい。一般公募に踏み切れない。」との具体的な回答がなされ
ていた。
バブル経済の崩壊に伴う社会経済の大変動から久しい平成6年ないし7年の時点
において設定された原告らに対する分譲価格が公募に耐え得るものであったなら
ば,その後,大きな経済的変動もなく推移した平成10年6月の時点において,2
9.1%ないし25.5%もの大幅な値下げが必要であるとは考えられない。平成
9年5月の時点ですでに一般公募に踏み切れないような価格であれば,そのわずか
1年半前に行われた本件分譲住宅の売買契約時においても,当然,公募に耐えられ
ない価格であったことは明らかである。
近隣の公団住宅との比較で分譲価格を設定するのが公団内部の基本方針であっ
た。しかし,公団の分譲住宅の売れ残り率が最大になったのは平成7年度の20.
5%であり,原告らの戻り入居の時点でも公団の売却できない分譲住宅の在庫は増
え続けていた。なお,これは,完成済みの分譲住宅をわざと未完成のままにしてお
き,在庫数に計上しないという操作(いわゆる「塩漬け物件」)が行われた上での
数値である。この点を考慮すると,売れ残り率は28%を上回る。
つまり,公団は,売り出せば売れ残る物件の価格,すなわち一般公募に耐えられ
ない価格が設定された分譲住宅との比較で,原告らに分譲した住宅の価格を設定し
ていたということに他ならない。このような価格の設定方法からすれば,それは公
団自身が一般公募に耐えられないことを十分承知した上での価格設定だったという
ことである。
カ 損害
原告らは,公団の債務不履行により,本来支払う必要のない過大な売買代金を支
払い,又はその負債を負った。
平成10年7月の公募に耐え得る価格と平成6,7年当時のそれとは,その間に
大きな経済的変動がないことからして,ほぼ同等である。したがって,別紙請求一
覧表「請求額」欄記載のとおり,原告らへの分譲価格と値下げ後の分譲価格との差
額相当額に,慰謝料,弁護士費用を加えた額が各原告の被った損害である。
【被告の主張】
ア 本件覚書2条1項にいう「優先入居」とは,希望すれば「一般公募に先立って
分譲住宅のあっせんを受けることができる」旨を意味しているだけであり,分譲価
格が一般公募に比較して同等ないし有利であることまで含まないことは明らかであ
る。
原告らは一般公募に先立って入居を果たしているのであって,その後原告らと同
様の分譲条件での一般公募が行われなかったからといって,優先入居の事実が否定
されるものではない。
イ 建替後分譲住宅の譲渡契約は,公団が改めて提示した譲渡価格や契約条件を原
告らが承諾したことによりなされたものであり,覚書の締結(従前賃貸借契約の合
意解約)とは別個の契約である。したがって,原告らが従前の借家権を喪失したこ
とと覚書において約束された条件との間には対価関係はない。
(2) 錯誤の有無
【原告らの主張】
ア 争点(1)における原告らの主張の予備的主張として,以下のとおり錯誤を主張す
る。すなわち,公団に本件覚書2条1項違反の債務不履行が認められないとして
も,原告らは錯誤に陥っていたから,売買契約は無効である。
イ(ア) 原告らは,本件各売買契約に際し,まず,分譲価格は,原告らの従 前の
借家権喪失と公団提示諸条件の履行の総体との対価性,等価性を損なうことのない
相当な価格であると認識していた。すなわち,原告らは,原告らの従前借家権の喪
失と,公団が提示した諸条件(仮移転住宅のあっせん,建替後分譲住宅への優先入
居,家賃等一部補填額100万円の支払い,移転費用相当額の支払い)とが等価の
関係にあることを前提とし,そのような理解の上に立って,本件各売買契約を締結
したのである。
(イ) 原告らは,また,「公募に先立つ優先入居」を定めた覚書2条1項を,原告
らが購入する分譲価格が相当な公募価格と同等であり,これより高額ではないこと
を意味しているものと認識し,そのような認識に立って覚書及び本件各売買契約を
締結した。ここに,「相当な価格」とは,原告らの入居と同時期に公募が行われた
場合にほぼ完売されうるような,市場に受け入れられる価格のことである。
(ウ) しかし,実際には,分譲価格は,前記対価性,等価性を著しく損なうもので
あり,相当な公募価格に比して不合理に高額な価格になっていた。したがって,原
告らには,本件売買の時点で,売買代金額の相当性につき重大な誤信があったもの
であり,これは要素の錯誤にあたる。
ウ 分譲価格が,公団から提示された諸条件の履行の総体と原告らの借家権喪失と
の対価性,等価性を保つ価格であること,及び相当な公募価格と同等であり,それ
より高額ではない価格であることは,下記の各事実からして,本件売買に際して,
明示的又は黙示的に表示されていた。
すなわち,本件覚書には,優先入居を含む諸条件が明示されており,原告らは,
これが誠実に履行されることを前提に明け渡したという経過がある。そして,通常
の常識を有する一般人である限り,優先入居の解釈として,売買代金が相当なもの
であってそれより高額なものではないと理解するのが当然である。
したがって,原告らのこのような分譲価格に対しての認識は,明示的又は黙示的
に表示されていたのである。
【被告の主張】
ア 原告らが主張する「対価性,等価性」は,「正当事由の具備ないし補完」を言
い換えたものに過ぎないが,「正当事由」は,賃貸人が賃借人に対して明渡しを訴
求した場合において,裁判所が客観的見地からその有無を問題とする事柄であっ
て,本件において,原告らが,「対価性,等価性」をことさらに従前賃貸住宅の合
意解約,建替後分譲住宅の譲渡契約締結の不可欠の条件として認識していたと主張
することは不合理である。
「優先入居」の意義に関しては,公募に先立って分譲住宅のあっせんを受けるこ
とができる旨を意味しているだけであり,「分譲住宅の価格」についてまで,原告
らが主張するような意味を有しているものでないことは「優先入居」の語義及び社
会通念に照らして明白である。「優先入居」の意義に関する原告らの主張に理由が
ない以上,原告らが本件売買価格が「相当な公募価格と同等であり,それより高額
でない価格である」ことを従前賃貸住宅の合意解約や分譲住宅の譲渡契約締結の不
可欠の条件として認識していたとの主張は理由がない。
以上のとおり,原告らの主張のような「錯誤」が存在したという主張自体,根拠
がない。
イ 原告らが主張する錯誤は,動機の錯誤であることが明白であり,表示されてい
ることが必要であるところ,これが明示的に表示された事実が認められないことは
明白である。また,原告らは,「ほぼ完売されるような価格」が相当な価格である
というが,ほぼ完売されるかどうかは結果を見なければ分からないことであるし,
売れ残りが生ずれば値下げがあり得ることは一般に予想されていることであり,分
譲価格が一般公募をしたときにほぼ完売されるような価格であるとの認識を,当事
者が黙示的にしろ表示するということはあり得ない。
ウ 一般に,錯誤によって法律行為が無効となるには,表示者の意思内容の主要な
部分に錯誤があることが必要である。
原告らが問題にしている目的物の価格,価値に関する錯誤については,一般には
要素の錯誤に該当するものではなく,ただ等価性が著しく損なわれる場合には要素
の錯誤と認められる場合があり得るに過ぎない。本件において,仮に原告らの主張
するとおり相当な公募価格と公団が設定した当初価格との差額を問題にしたとして
も,その差額が売買契約の等価性を著しく損なうものとは言い得ない。
(3) 適正価格設定義務違反の有無
【原告らの主張】
ア 適正価格設定義務の内容
単一の売買契約ではなく,建替事業の一環としての「従前居住者に対する戻り入
居先の提供」という本質を有する本件各売買契約においては,公団は,信義則上,
原告らに対し,分譲住宅の価格を適正に設定して提供する義務を負っている。ここ
にいう「適正価格」とは,原告らと公団との間の本件分譲住宅の売買が,本件建替
事業において公団が原告らに立退を求めるに際して必要な正当事由を補完する一事
由としての実質を失わしめない価格をいい,本件における適正価格は,公団が,原
告らとの売買契約締結と同時期に一般公募を実施した場合に完売可能な合理的な価
格であり,「平成10年6月に実施された一般公募時の同タイプの分譲住宅価格と
同程度の価格」である。
この義務の履行がなされたか否かの判断は,原告らが,将来の分譲住宅への優先
入居を約束された上で,借家権を有する借家からの立退を先履行している事実を前
提に,厳格になされる必要がある。
イ 適正価格設定義務の発生を基礎づける根拠事実
公団の適正価格設定義務は,以下の事実から導かれる。
(ア) 公団の高度の公共性,国民一般からの高い信頼
公団は,都市部の勤労者に対し良質な住宅を低廉な価格で提供するという目的を
有し,適正,公平に業務を遂行することが義務づけられている。公団は,本件建替
事業当時,国民一般から高い信頼を得ていた。
(イ) 本件当事者の特殊な人的関係(原告らの公団に寄せる高度の信頼)
原告らは,公団団地の居住者であり,公団は,従前,借家契約の当事者であっ
た。原告らと公団との間の借家関係は,公団の公共性,国民の信頼を背景にしてお
り,一般私人間の借家契約における信頼関係とは異質のものである。
(ウ) 建替事業と本件各売買契約の一体性
公団は,建替事業計画を促進する目的で,分譲住宅の売買を切り札として利用し
た。すなわち,公団は,優先入居を掲げることにより,原告らに建替事業に協力し
て分譲住宅を購入することに高い価値があると信頼させ,かつ,建替事業に協力す
る居住者が不利益を被るはずはないと安心させた上で,従前の借家契約を解消さ
せ,本件覚書を実現させたのである。
このように,本件各売買契約は,被告の建替事業の一部であり,両者は,一方が
他方の目的であり,手段であるという密接不可分の関係にある。すわなち,本件各
売買契約は,単なる一回性の建物売買契約とは本質的に異なる。
(エ) 本件各売買契約における分譲価格の意義
a 本件覚書の締結及び一時使用賃貸借契約の締結は,本件覚書に記載された諸条
件の履行を前提としてなされたものである。
公団賃貸住宅の建物賃貸借契約にも借家法の適用があり,その終了原因が合意解
約であっても,借家法で保護された借家人の権利を失わせないように手続が行われ
なくては,借家法違反の契約として無効になる(借家法6条)。したがって,本件
各分譲住宅売買契約における分譲価格は,公団による従前の借家契約の解約申入れ
又は更新拒絶に必要とされる正当事由(借家法1条の2)を失わせない内容を実質
的に備えるものでなくてはならない。
b 公団は,建替後分譲住宅への戻り入居を選択した住民に対し,正当事由を基礎
づけるものとして,優先入居,建替後住宅完成までの仮住居の確保,移転費用相当
額の支払い,100万円の支払いという4つの条件を提示した。これら4条件が正
当事由の補完的措置といえるためには,分譲住宅の譲渡対価設定において,補完措
置としての実質を損なわない価格の設定が行われる必要がある。賃貸住宅の建替の
ため居住者に明渡しを求めた者が更新拒絶の正当事由の補完条件として代替家屋と
移転料の提供をしたとしても,代替家屋の賃料や譲渡対価が立退とは無関係の一般
人が賃借ないし譲渡を受ける場合に支払う額よりも高額に設定されているとすれ
ば,一見正当事由の補完条件が提供されているようではあるが,実質は居住者の一
方的な犠牲のうえに建
物建替を強行するに過ぎず,提供された代替家屋や移転料が更新拒絶の正当事由を
補完するものとはなりえないからである。
c 以上に対し,公団は,合意解約には正当事由は不要であると主張する。
しかし,まず,借家法6条は,借家法1条の2が強行規定であることを定めてい
るが,その適用にあたって重要なのは,問題とされた行為が賃貸人と賃借人の力関
係から賃借人にとって不当に不利益なものになる危険性があるか否かである。そし
て,期限付合意解約であろうと,即時合意解約であろうと,借家法1条の2の僭脱
に利用されるおそれがあることに違いはない。したがって,即時合意解約の場合に
も,借家法6条が当然に問題となる。
第2に,公団が原告らに対して行った立退要求は合意解約の提案ではなく,実質
的には更新拒絶ないし解約申入れと同視すべきものであった。すなわち,本件建替
事業は,国の住宅政策を担うと公言する公団が,あたかも公権力が一方的に方針を
伝えるかのように,移転期限を明示して建替を通告したものである。団地外に出る
か,建替後の賃貸住宅ないし分譲住宅に戻り入居するかの二者択一を迫られ,一定
期限までに手続をしなければ前記特別措置が受けられないとして心理的圧迫をかけ
られたうえ,公団から一時使用賃貸借への早期の切替手続を要請する書面が配布さ
れ,建替事業に協力せざるを得ない雰囲気が作られていったのである。
(オ) 公団による一方的な売買条件の決定
本件当事者間で行われた売買契約は,分譲価格を含め,契約内容を公団が一方的
に決定するものであった。
売買契約において最も重要な構成要素である分譲価格は,売買契約の3か月前に
なって初めて原告らに提示された。公団から原告らに対して,本件建替事業の遂行
中,価格決定の根拠(計算方法,概算価格の根拠,正式な分譲価格計算の基となっ
た資料等)は一切公表されなかった。そのため,原告らは,売買契約の締結に際
し,分譲価格が適正がどうかを検証する資料のないまま決断を迫られた。しかし,
原告らは,公団が決定した分譲価格の適正を疑うことなく,本件各売買契約を締結
した。
公団は,以前にも,公団住宅の住民に対し,公団の価格設定が一般公募に耐えら
れなくなったら,公団自身の使命が終わる,と述べてきた。
公団が適正価格を設定する義務は,このような公団の特殊性からも,契約の最重
要要素である分譲価格が決定された経緯からも,信義則上導かれる。
(カ) 譲渡制限規定の存在
原告らと公団との間の譲渡契約においては,譲受人が割賦譲渡代金の支払いを完
了するまでの間,もしくは譲受人が即金払いの時又は契約締結の日から5年以内に
割賦譲渡代金の支払を完了するときは譲渡契約成立の日から5年間は,譲受人が当
該譲渡契約を譲渡,貸与等,譲渡契約書所定の行為をしようとする場合は公団のあ
らかじめの承諾を受けなければならないとされている(以下「譲渡制限条項」とい
う。)。
譲渡制限条項は,その立法趣旨が「公団の分譲住宅においては,自ら居住するた
めに住宅を必要とする者との間で譲渡契約を締結しなければならない」という点に
あったとしても,現実には民間業者との売買契約ではあり得ない,原告らの私的財
産の自由な処分権限すら制限するものであることは否定できない。原告らは,分譲
住宅の適時の売却による資産価値下落リスク回避の手段を事実上奪われている。こ
のような市場原理における正当な手段を奪うに等しい契約条項を原告らに受け入れ
させる以上,公団は原告らに対し,譲渡制限条項があることにより原告らが不利益
を被ることのないよう,より慎重に適正な価格を設定すべき義務を負う。
ウ 公団の適正価格設定義務違反行為
争点(1)についての原告らの主張欄オ記載のとおり,公団が設定した本件各分譲住
宅の分譲価格は,適正さを欠くものであった。
エ 原告らに生じた損害
原告らは,公団の適正価格設定義務違反行為により,適正価格を超えた価格で各
分譲住宅を購入させられ,その結果,原告らの支払った売買代金から適正価格を控
除した差額相当額に慰謝料,弁護士費用を加えた額の損害を被った。
【被告の主張】
ア 公団は,A団地及びB団地の建替事業にあたって,建替後の賃貸住宅への入居
を希望する場合,建替後の分譲住宅への入居を希望する場合,公団の他の賃貸住宅
への入居を希望する場合,公団の他の分譲住宅への入居を希望する場合,民間住宅
等への入居を希望する場合の5通りの住替え及びこれに伴い提供する諸条件を提示
した。原告らは,この選択について検討する十分な機会があったものであり,自由
な判断に基づき,建替後の分譲住宅への入居と,これに伴い,①優先入居,②分譲
住宅完成までの仮住居の確保,③移転費用相当額の支払い,④家賃等一部補填額と
して100万円の支払いを受けることを選択し,公団との間で覚書を締結し,従前
賃貸借契約を合意解除し,公団の提示した譲渡価格を了承して建替後分譲住宅の譲
渡契約を締結した。
公団は,建替後の分譲住宅への入居に伴う前記①ないし④の各措置の履行をすべて
完了した。
以上の経緯にかんがみると,公団が原告らに対して合意した前記①ないし④の措
置以外の義務を負うことはなく,公団はこれをすでに履行しているから,公団が適
正価格設定義務を負うという原告らの主張には論拠がない。
イ 原告らが主張する適正価格設定義務の根拠や内容は判然としない。そもそも,
原告らは,従前賃貸借契約を任意に解約し,かつ建替後分譲住宅に関し,公団が提
示した譲渡価格を了承して譲渡契約を締結したのであるから,遡って,譲渡価格が
適正であったかどうかを問題にする主張自体失当である。
ウ 原告らは,適正価格について,借家法において更新拒絶等による立退を請求す
る際の正当事由に関連させて適正価格の内容を主張しているが,本件訴訟におい
て,借家法の正当事由の具備ないし補完を論じることは当を得ていない。
すなわち,公団は,原告らに対し,合意解約の申入れをしたのであり,原告ら
は,これに任意に同意して賃貸借契約の解消を合意して明渡しが完了したものであ
るから,正当事由の具備が問題になる事案でないことは当然のことである。
この点について,原告らは,借家法6条が強行規定であるから,借家法の正当事
由の規定は合意解約にも適用があると主張するが,借家法6条は,借家法の正当事
由に反する特約を無効とし,賃貸人がこの特約に基づいて明渡しを請求しても賃借
人は意に反して明渡しを強いられないことを定めている。しかし,賃貸人の合意解
約の申入れに対し,賃借人が正当事由を問題にすることなく提示された明渡条件を
承諾し,任意に解約に同意し明け渡すことは私的自治によって当然是認される。
原告らは,本件が実質的に原告らに対する更新拒絶ないし解約申入れと同視すべ
きであると主張するが,合意解約の申入れに対し,これを拒絶するか否かは賃借人
の判断に委ねられる。合意解約の効力が問題になり得るのは,合意解約の申入れに
おいて詐欺,脅迫,錯誤等が存在する場合に限られるところ,原告らは,それぞれ
の判断に基づいて各自の住替条件を選択して任意に従前賃貸借契約の合意解約に応
じたのであるから,詐欺等がないことは明らかである。
エ 原告らは,譲渡制限条項があることにより,原告らが不利益を被ることのない
よう,より慎重に適正な価格を設定すべき義務を負うと主張するが,公団の分譲住
宅譲渡契約は,公団の設立趣旨からして事業用賃貸目的や転売目的ではなく,自ら
居住する目的のために購入する者との間で締結する必要がある。その目的を確保す
るための合理的制約として,原則として譲渡制限条項を設けており,原告ら各購入
者はそれを承諾の上,当該価格で購入している。このような購入者にとっては,不
動産市況の変動によって資産価値が下落しても自ら居住するという利益は損なわれ
ない。また,譲渡制限条項は,公団の設立目的を達成するために必要な制限であ
り,かつ,その制限は,一定の合理的な範囲に限定されている。
このように,譲渡制限条項の存在は譲渡価格設定の問題とは無関係であり,分譲
住宅譲渡契約において譲渡制限条項を定めたために適正価格設定義務を公団が負う
理由はない。
(4) 説明義務違反の有無
【原告らの主張】
ア 公団の原告らに対する説明義務の根拠
公団は,本件建替事業の事業主体として,かつ本件建替後分譲住宅の販売主体と
して,従前賃貸借契約の賃借人であり本件建替後分譲住宅の購入者である原告らに
対し,原告らが本件建替事業に協力し,さらに建替後分譲住宅を購入することによ
って損害を被らないようにするため信義則上の説明義務を負う。とりわけ,本件建
替事業及びこれに伴う戻り分譲住宅購入という手続は,単純な売買契約あるいは賃
貸借契約とは異なり,極めて稀で複雑な形態の手続,合意であり,原告らは,本件
建替事業に伴う一時使用賃貸借への切替え,戻り分譲住宅の販売の手続や内容等を
知り得ないから,公団は,原告らに対して,本件建替事業への協力(覚書の締結,
一時使用賃貸借への切替え)が法律上どのような意味,効果を有するのかを十分に
理解できるよう原告
らに説明する義務がある。
また,建替事業により戻り分譲住宅を購入する原告らに対して,分譲住宅につい
ての原告らの利害にかかわる重要事項(戻り分譲住宅を購入するために必要な手
続,その価格等)についても,説明を尽くす義務がある。
イ 説明義務の具体的内容
(ア) 公団は,原告らに対し,建替事業への協力を申し入れるに際しては,借家法
1条の2の正当事由の有無が問題となること,公団が行う建替事業が正当事由を具
備すべき立退請求であることを正確に説明する義務がある。
(イ)公団は,建替後の分譲住宅への戻り入居という選択肢があると説明するだけ
では足りず,原告らがその判断を誤らない程度に,公団が提示する諸条件の具体的
内容,建替後分譲住宅への戻り入居の具体的方法,手順についてまで正確に説明す
る義務がある。
特に,公団は,戻り入居者への優遇措置の説明として,「優先入居」という表現
を頻繁に用いているのであるから,原告らがその意味を正しく理解できるよう,正
確に,かつ十分な説明をする義務がある。
(ウ) 原告らが分譲住宅を購入するかどうかの判断をするにあたっては,売買代金
が適正であるか否かと,将来にわたる売買代金変更の可能性の有無が重要な要素で
あったから,このような事情のもとでは,公団は,原告らに対し,価格の変更可能
性が公団施行規則上も存在することを前提とした正確な説明をする義務,少なくと
も,将来の変更可能性が存在しないという誤解を与えないように説明をする義務が
ある。
ウ 公団の説明義務違反行為
(ア) 借家法の適用及び正当事由に関する説明義務違反
公団は,本件建替事業の実行は既定の事実であるとして一方的に協力を求め,公
団の要求に従って仮移転することは,従前の借家権を消滅させることになること,
立退を求めるには正当事由が必要であること,立退のための諸条件の提示が正当事
由を補完するものであることについては一切説明していない。
以上のとおり,建替事業実行に際し,公団が原告らに行った説明は,覚書の締結
及びこれに続く一時使用賃貸借への切替えが従前の借家権を喪失させるものである
こと,公団の提示した条件が借家権喪失に伴う不利益を補うものであることを原告
らに認識させるには不十分なものであった。
(イ) 「優先入居」に関する説明義務違反
「優先入居」について,公団は,「一般公募に先立って優先的に入居」ないし,
「一般公募に先立って入居」と説明した。これを常識的に解釈すれば,同一条件に
おける分譲住宅購入希望者のうち,戻り入居者を一般公募による購入者に先立って
入居させる」との説明になる。原告らは,「優先入居」とは,「同時期に同条件で
分譲住宅を取得する一般公募者と比較しての優先」という趣旨であると理解した。
(ウ) 代替給付の享受手続に関する説明義務違反
公団は,原告らが建替後の分譲住宅へ戻り入居するためには,公団の指示する手
順,期限に従わなければならないことを繰り返し強調していた。公団は,戻り分譲
住宅を選択し購入するためには,最初の希望調査の段階で分譲を希望する必要があ
ると説明した。
しかし,現実には,一旦建替後賃貸借住宅へ戻り入居した者や他の団地へ本移転
した者が,その後に分譲住宅を購入し入居している。本件建替事業に反対し,公団
から明渡請求訴訟を提起された従前賃貸住宅の居住者ですら,一般公募により分譲
住宅を取得することは可能であった。
したがって,最初の希望調査の段階で戻り分譲住宅を選択しておかなければ,建
替後分譲住宅への戻り入居はできないとの説明は不適切であった。公団は,心理的
圧迫を加えるような表現,態様による説明により,「期限までに意思を表明し,手
続をしないと分譲住宅への戻り入居ができなくなる」との誤解を与え,本件各売買
契約を締結させた。
(エ) 分譲契約の内容に関する説明義務違反
公団は,建替後分譲住宅の売買契約締結に際して,多数の原告らから公団の設定
した価格が高すぎるのではないかとの質問を受けたのに対し,公団は法定の基準に
従って売買対価を算出しているので減額できないし,今後も値下げはないと誤った
説明をしたため,原告らは本件各売買契約締結時の価格が将来的にも変更できない
性質のものであると誤信した。
エ 損害
(ア) 原告らは,当初から希望を出さなくても一般公募により戻り分譲住宅を購入
できること,優先入居というのは単に順番において先に入居できるだけであるこ
と,一般公募を待てば戻り分譲住宅を廉価に購入できる可能性のあることを認識し
ていれば,ことさら優先入居を希望し,価格において不利益な売買契約を締結する
ことはなかった。
原告らは,分譲住宅購入に際し支払った価格相当額の損失を被っているが,本件
戻り分譲住宅購入以後これに居住し,今後も居住し続けるという利益がある。した
がって,損益相殺により,原告らが購入した金額と適正な価格との差額が原告らの
被った損害である。
(イ) 原告らは,前記のとおり,公団の不十分な説明により分譲住宅を購入したも
のであり,公団の不誠実な対応に悩み,公団との交渉,訴訟の遂行等により,多大
な心労を被っている。これを慰謝するには1戸あたり200万円が相当である。
(ウ) 弁護士費用は,前記(ア)及び(イ)の合計の1割に当たる額が相当である。
【被告の主張】
ア 原告らは,公団の説明義務として,建替事業に伴う立退請求には借家法1条の
2にいう正当事由の有無が問題になること,公団の行う建替事業が正当事由を具備
している立退要求であることを正確に説明する必要があると主張し,また,建替後
分譲住宅への戻り入居を選択する場合,正当事由を補完したといえるいかなる優遇
措置が講じられるのかを原告らが理解できる程度に明確な説明をする義務があると
主張した上で,立退に関して借家法1条の2にいう正当事由が問題になることにつ
いて一切説明がなかったと主張する。しかし,本件建替事業における賃貸借契約の
合意解除においては,借家法上の正当事由を問題にする余地が存在しないし,原告
らは公団が提示した譲渡価格を了承の上譲渡契約を締結したのであるから,正当事
由に関する説明義務
について遡って問題にする主張は失当である。
また,原告らは,従前賃貸借の合意解除が借家権を喪失させることについて全く
説明していないと主張するが,合意解約及び従前賃貸借契約の目的である建物が取
り壊されることにより従前賃貸借契約が終了し従来の借家権が喪失するものである
ことは当然の理であり,公団がこの点に関し原告らに誤解を与えた事実はない。
イ 原告らは,優先入居の意義に関する説明を主張するが,「優先」とは「公募に
先立って」分譲住宅のあっせんを受けることができる旨を意味しているだけであ
り,分譲価格が一般公募に比較して有利であることまで含まないことは明らかであ
る。そして,公団は,実際に,公募に先立ち,優先して住宅をあっせんし,約旨を
履行している。その後原告らと同様の分譲条件での一般公募が行われなかったから
といって優先入居の事実が否定されるものではない。したがって,優先入居に関す
る公団の説明は説明義務違反にはならない。
原告らは,代替給付の享受条件に関する説明義務違反を主張するが,公団が設定
した期限までに賃貸借契約の合意解約に応じない場合は優先入居が保証されなくな
るということであって,期限後であっても一般公募者とともに応募して契約に至れ
ば入居できることは当初から当然のことであって,原告らに誤解を与える説明をし
た事実はない。
ウ 公団の担当者が,分譲を選択してから賃貸への移転はできるが,一旦賃貸を選
択したら,その後に分譲を購入することはできない,今申し込まないと分譲は購入
できない,というような説明はしていない。公団担当者は,建替後分譲住宅の計画
戸数には上限があり,建設計画確定時に居住者の希望をできるだけ反映させられる
よう申し込み確認を行ったに過ぎない。また,その後譲渡契約締結までの間に幾度
か建替後分譲住宅希望者の意思確認を行ったのであるから,原告らは分譲住宅を購
入する以外の選択も可能であった。
公団は,いったん賃貸を選択したら分譲住宅を購入することはできないとの説明
はしていない。いったん賃貸を選択した後でも建替後分譲住宅への購入申込みの最
終期限までには建替後分譲住宅への購入申込みに変更することは可能であったし,
賃貸住宅への入居後,一般公募によって分譲住宅を購入することは自由であること
は当然のことである。
エ 公団が,分譲住宅について,将来にわたって絶対に値下げをしない旨述べたこ
とは否認する。公団が値下げしない旨を述べたとしてもその時点での方針として述
べたものであることは当然である。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件覚書2条1項違反による債務不履行の有無)について
(1) 本件覚書2条1項に,「甲(公団)は,建替住宅への入居が可能となった場合
には,乙(住民)に対して,公募に先立ち,優先して住宅をあっせんする。」と規
定されている(以下,同条項を「優先入居条項」という。)ことは,当事者間に争い
がない。
原告らは,優先入居条項の意義について,原告らに対する建替住居のあっせん
が,単に時期的に一般への公募に先行するだけではなく,価格においても一般公募
による入居者より優遇されるか,少なくとも同等であることを意味しており,大幅
に値下げをした上での一般公募は前記条項に違反すると主張し,他方,被告は,優
先入居とは原告らに対する建替後建物のあっせんが一般公募に先立つことを意味す
るに過ぎないと主張するので,この点について検討する。
(2) たしかに,「優先」という文言の通常の意義及びこれが「公募に先立ち」とい
う文言に引き続いて記載されていることからすれば,優先入居条項は,被告主張の
ように,単に,原告らへのあっせんが,時期的に一般公募に先立って行われること
を規定したに過ぎないようにも解し得る。
しかし,優先入居条項は,一般公募が原告らへのあっせんに引き続いて直ちに行
われる場合には,原告らに対する販売価格と一般公募における販売価格が同等ない
し原告らにとって不利とならないことを前提とし,その上で,抽選によることなく
原告らが確実に住居を確保できることを約したものであったと解すべきである。そ
の理由は,以下のとおりである。
まず,公団が,入居者を募集しないまま完成した建物を放置することは通常考え
られず,したがって,原告らに対するあっせんが行われた直後に一般公募が行われ
ることが予定されていたと考えられる。
また,原告らに対するあっせんと一般公募がほぼ同時になされた場合,その価格
に差を設ける(特に原告らに対する販売価格をより高額なものとする)べき合理的
な事情は考えられない。
さらに,前記第2,2記載のとおり,原告らに対しては,優先入居の他に金銭の
支払い等の条件が提示されているところ,原告らに対して一般公募の販売価格より
高額な価格で販売すれば,金銭の支払いは条件として無意味になるし,本件覚書
は,借地借家法上の借家権を有する原告らに対し,本件建替事業への協力を求める
目的で提示されたものと解されるから,本件覚書が建替事業への協力者である原告
らにとって不利なものであるとは考えられない。
(3) しかし,他方,原告らに対するあっせんの後どれだけ期間が経過しても,ま
た,原告らに対するあっせん後の経済状況にいかなる変動があったとしても,一般
公募の販売価格が原告らに対する販売価格を下回ってはならないとの合意があった
とまではいえない。
なぜなら,本件覚書締結時において,原告らに対するあっせんの後一般公募まで
相当長期間が経過することはそもそも予定されていなかった(原告らも予想し得な
かった)と考えられること,また,このような合意は,公団の販売活動に不合理な
制限を課すものであって,公団がこのような合意をする意思を有していたとは考え
られないことからすると,当事者の合理的意思解釈としても,前記のような合意が
なされたとは認められないからである。
なお,ここにいう「相当長期間」とは,当初の分譲からの経過年数,その後の経
済状況の変動可能性等を考慮すると,「数年以上」と解するのが相当である。
(4) 以上によれば,優先入居条項は,一般公募が原告らに対するあっせんに引き続
いて直ちに行われることを前提としたうえで,単に時期的に原告らに対するあっせ
んが一般公募に先行するだけではなく,販売価格の点においても一般公募と同等な
いし原告らにとって不利とならないことを規定しているものというべきである。し
かし,他方,一般公募が原告らに対するあっせん後相当長期間が経過した後に行わ
れる場合の公募価格についての制約までは規定していないというべきである。
(5) 以上に対し,原告らは,一般公募よりも価格の面で不利益な扱いを受けるので
あれば優遇して扱われたことにはならないこと,本件覚書において,公団から原告
らに対して提示された諸条件が,原告らの借家権の喪失と対価関係にあるから,両
者は釣合いが取れていなければならないこと,公団が一方で金員の支払いを提示し
ておきながら販売価格に上乗せすることによってその回収を図るのであれば,金員
の支払いは無意味になること等を根拠として,優先入居条項により,原告らに対す
る販売価格として,その時点での一般公募に耐えられる価格を設定すべき義務を負
うと主張する。
しかし,原告らの主張によれば,原告らがここでいう公募に耐えられる価格を設
定すべき義務とは,要するに後記適正価格設定義務と同旨のものと解されるから,
このような義務があるか否かについては後に判断することとする。
なお,借家権の喪失との釣合いや金員の支払い等,他の条件との整合性をいう点
についても,一般公募が,原告らに対するあっせんとほぼ同時に行われた場合に
は,同種の住戸が同等の価格で販売されることが通常は期待されるから,これに反
することが不当であることは明らかである。
しかし,このことは,一般公募が原告らに対するあっせんから相当長期間経過し
てから行われたり,経済情勢の変動の後に行われた場合には妥当しないから,公募
価格が原告らに対する販売価格を常に下回ってはならないとの合意がなされたと認
めることはできない。
(6) これを本件についてみると,原告らが売買契約を締結したのは平成6年12月
10日(B団地の原告ら)又は平成7年10月31日(A団地の原告ら)であるの
に対し,一般公募による売買契約が締結されたのは平成10年7月25日であり,
原告らへのあっせんから公募までには3年前後の期間が経過しており,一般公募が
原告らへのあっせんとほぼ同時に行われたとはいえない。
そして,前記のとおり,本件覚書は,原告らへのあっせんと一般公募がほぼ同時
に行われない場合の公募価格についての制約までは規定していないというべきであ
るから,本件の場合,公団が,原告らに対し,公募価格を原告らに対する販売価格
より低く設定してはならないとの義務を負うとまでは認められないし,一般公募に
おいて,原告らへの販売価格より大幅に減額した価格で販売したからといって,そ
れが本件覚書の優先入居条項に反するということはできない。
(7) 結局,原告らは,原告らに対するあっせんとほぼ同時にほぼ同等の販売価格で
一般公募が行われるという前提のもとに,公団と交渉を行い,その設定価格を承諾
して任意に本件各売買価格を締結したものであるというべきである。
仮に,その前提について,原告らの認識に錯誤があり,あるいは公団に何らかの
帰責事由があるとするならば,それは,優先入居条項違反としてではなく,別の法
理によって問われるべきである。
(8) 以上によれば,本件覚書違反を理由とする原告らの請求は理由がない。
2 争点(2)(錯誤の有無)について
(1) 原告らは,優先入居条項違反の主張が認められない場合の予備的主張として,
本件各売買契約の錯誤無効を主張する。すなわち,原告らは,本件各売買契約にお
ける代金額は,①原告らの従前の借家権喪失と公団が提示した諸条件の履行の総体
との対価性,等価性を損なうことのない価格であり,②相当な公募価格より高額で
ない価格であると認識していたが,実際には本件各売買契約における等価性は著し
く損なわれており,売買代金額の相当性について重大な誤信があったというのであ
る。そこで,以下この点について検討する。
(2) 前記①の認識について
ア 原告らの主張は,原告らは,公団が提示した諸条件の総体としての価値と,借
家権を喪失することによって原告らの被る損害とがほぼ等価であると認識していた
のに,実際には公団が提示した条件の価値が著しく低かったというものであると解
される。
イ 原告らが仮にこのような認識を有していたとしても,代金額,目的物たる当該
分譲住宅の同一性,性状等には何ら錯誤はなく,原告らの前記認識は,そのような
条件で賃貸借契約の合意解除に応じるという効果意思が形成される過程における錯
誤,すなわち動機の錯誤であるというべきである。したがって,原告らが有してい
た前記①の認識が少なくとも黙示的に表示されていない限り,本件各売買契約は無
効とならないというべきである。
この点について,原告らは,「優先入居」等の諸条件は明示されており,これら
の諸条件が,原告らが先行して従来の住居を明け渡すことの対価として提示された
ものであることも表示されている(甲1の1,甲4)から,前記の認識は表示され
ていると主張する。
しかし,対価関係にあるということが直ちに等価であることを意味するわけでは
ないから,対価であることが表示されていたとしても等価性が表示されているとは
いえない。
(3) 前記②の認識について
原告らの主張は,原告らは,本件各売買契約における代金額が,相当な公募価格
に比べて,同等かそれ以下であると認識していたから購入を決意したのに,実際に
は相当な公募価格に比して著しく高額な価格であったというものである。
前記②の認識も効果意思の形成過程における錯誤であり,原告らがこの錯誤を理
由として本件各売買契約の無効を主張するには,前記②の認識が表示されているこ
とが必要である。
この点について,原告らは,「公募に先立つ優先入居」が本件覚書2条1項に明
示されており,これは価格においても原告らが優遇されることを意味しており,し
たがって,売買代金額が相当な公募価格より高額でないことが明示されていたと主
張する。
しかし,前記説示のとおり,優先入居条項が,原告らに対する売買代金額につい
て,一般公募の時期の如何(一般公募が原告らへのあっせんとほぼ同時に行われる
か,あるいは数年以上経過後に行われるか)にかかわらず,常にこれより低額であ
ることを約したものとは解し得ないから,優先入居条項が明示されているからとい
って,原告らに対する売買代金が,実際に行われた一般公募での販売価格と同等か
それ以下であるという動機が表示されていたとはいえない。
したがって,原告らが前記②の認識を有していたから本件各売買契約は錯誤無効
であるとの原告らの主張は理由がない。
(4) 以上によれば,錯誤を理由とする原告らの請求も理由がない。
3 争点(3)(適正価格設定義務違反の有無)について
(1) 原告らは,公団には信義則上の適正価格設定義務(適正価格とは,正当事由を
補完する一事由としての実質を失わしめない価格をいう。)を負い,公団が原告ら
に販売した価格はこの義務に反して不当に高額に設定されていたから,公団は適正
価格と販売価格の差額分について損害賠償義務を負うと主張するので,この点につ
いて検討する。
(2) 一般に,公団は,公法人として分譲業務を行う際,販売価格の決定について,
適切な価格を決定し,居住性能及び居住環境に優れた分譲住宅を供給するという公
益目的があるといえるが,売主である公団と個々の分譲住宅の買主との関係は,私
法上の契約関係である。
本件各売買契約の法的性質は,通常の売買契約と異なるものではなく,売主と買
主との間には,売買契約締結前には,当該売買契約に関し,何らの権利義務関係も
存在せず,また,買主は,売買契約を締結するか否かを自由に決定できるのである
から,特段の事情がない限り,売主が,買主に対して,信義則上の適正価格設定義
務を負うことはないというべきである。
これに対し,原告らは,本件各売買契約に関する事情を考慮すると,公団は,原
告らに対し,信義則上,適正価格設定義務を負うと主張するので,以下,原告らが
主張する事情について検討する。
(3)ア 原告らは,公団は住宅に困窮する勤労者に対して一定水準の住宅を低廉な価
格で供給するという目的を有し,その業務を適正に遂行するという義務の履行を担
保するため,種々の法律上の規制が加えられていること,国民一般からの高い信頼
を得ていることを根拠に,公団は,原告らに対し,適正価格設定義務を負うと主張
する。
しかし,公団の目的等に公益性があるとしても,公団による分譲事業の法的性質
は通常の不動産売買契約と異なるところはなく,一般論としては契約自由の原則が
妥当するのであって,公団が公的な性格を有しているという点のみから,公団が締
結する売買契約において適正な価格を設定しなければならないという法律上の義務
を課すことは困難といわざるを得ない。
イ 次に,原告らは,住居の賃貸人たる公団に対して,原告らが,一般の賃貸借契
約とは異なる強い信頼を寄せており,それは,一般国民の公団に対する信頼の高さ
を背景としていたと主張し,これを,公団の適正価格設定義務の根拠の1つとして
挙げる。
しかし,原告らが公団に対して強い信頼を抱いていたという事実が認められると
しても,そのことから直ちに,原告らの公団に対する信頼及び協力を理由として公
団が適正価格設定義務を負うとはいえない。
たしかに,契約の相手方が自分を信頼していることに乗じてその信頼を悪用し,
不当に高額な価格を設定して自らの利益を図る等の特別な事情の下においては,当
該行為が不法行為を構成することもあり得る。しかし,本件においては,原告ら
は,対策委員会を設置するなどして本件建替事業への対応策を検討したり,価格に
ついて交渉する等の対応を取っていたことが認められ(甲43,44の1及び
2),合理的な判断ができないほど盲目的に公団を信頼していたとは認められない
し,公団が原告らの信用を利用して自らの利益を図ったと認めるに足りる証拠もな
い。
ウ さらに,原告らは,公団は,優先入居を本件建替事業推進の切り札として利用
し,分譲住宅を購入することに高い価値があると信頼させ,かつ,そのような配慮
をした建替事業に協力する居住者が不利益を被るはずがないと安心させた上で本件
覚書を締結させたのであり,本件各売買契約と建替事業が,手段と目的という密接
不可分の関係にあると主張し,これを適正価格設定義務の根拠と主張する。
しかし,公団が,優先入居を,本件建替事業を促進するための切り札として利用
したと認めるに足りる証拠はない。また,原告らの主張は,優先入居に高い価値が
あると信頼させた以上,その信頼を裏切らないよう,適正な価格設定をしなければ
ならないとの趣旨であると解されるが,優先入居の内容は前記1記載のとおりであ
り,本件において,公団が,優先入居条項に基づき,適正価格設定義務を負うとは
解し得ない。
したがって,前記原告らの主張も採用することができない。
エ 原告らは,公団から原告らに対してなされた従前の借家契約の解約ないし更新
拒絶の申入れに借家法1条の2にいう正当事由が必要とされることを前提として,
本件各売買契約における譲渡対価は正当事由を失わせない内容を備えるものでなく
てはならず,正当事由の補完措置としての実質を損なわない価格の設定が行われる
必要があると主張する。
(ア) そこで,まず,賃貸借契約の合意解除の申入れに正当事由を要するかについ
て検討すると,借家法1条の2は,正当事由なくして更新拒絶又は解約申入れをす
ることができないと規定しており,その文言上,合意解除の申入れに正当事由を要
求してはいない。また,同条の趣旨は,賃貸人の一方的な意思に基づく賃貸借契約
の終了から賃借人を保護することにあるものと解されるから,その趣旨からして
も,賃借人が契約の終了に合意している場合に正当事由が必要であると解すること
はできない。そして,従来存続している賃貸借契約を合意解除することは,他にこ
れを不当とする事情の認められない限り,借家人に不利益な条件を設定したものと
いうことはできず,正当事由なくして合意解除をしたとしても,借家法1条の2,
6条等に反するもので
はない(最高裁判所昭和31年10月9日第三小法廷判決民集第10巻10号12
52頁参照)。
(イ) 次に,原告らは,本件における合意解除の申入れは,実質的には更新拒絶な
いし解約申入れと同視すべきであると主張する。
しかし,本件建替事業に当たり,公団から住民らに示されたA団地建替事業概要
(甲1の1)及びB団地建替事業概要(甲4)には,それぞれ,「一時使用賃貸借
契約への切替え及び覚書の交換は,皆様との話し合いの結果,建替事業についてご
協力が得られることとなったときに,従前の契約を解約し」,「皆様方のご理解と
ご協力により,一時使用賃貸借契約に切り替えをさせていただき」と記載されてお
り,これらの記載によれば,公団の申入れが,公団の一方的な意思表示により従前
の賃貸借契約を終了させるものではなく,住民の同意を求めるものであったことは
明らかである。ほかに,公団の申入れが更新拒絶ないし解約申入れと同視すべきも
のであったと認めるに足りる的確な証拠はない。
(ウ) 以上によれば,本件覚書において提示された諸条件は正当事由の補完措置で
あり,譲渡価格もその実質を失わせないものでなければならないことを理由とし
て,公団が適正価格設定義務を負うとはいえない。
オ 原告らは,本件各売買契約における分譲価格は,公団が一方的に決定し,契約
の3か月前になって初めて提示されたものであり,原告らは,分譲価格が適正か否
かを検証する資料を与えられないまま,公団に対する信頼を背景として,価格の適
正さを疑うことなく本件各売買契約を締結したと主張する。
しかし,住宅の売買において販売業者が価格を決定するのは一般的なことである
し,本件各売買契約の3か月前になって初めて価格が提示されたという点について
も,この期間が購入の可否を検討するのに特に短く,十分な検討ができないものと
まではいえない。
また,価格の適正さを検証する資料が与えられていなかったとの主張について
も,住宅を購入しようとする者は,立地条件,面積や日当たり,交通の便等をもと
に,他の物件と比較して価格の妥当性を検証するのが一般的であって(原告らに対
してもこれらの資料は与えられていた。),本件各売買契約において公団が不動産
鑑定の結果や積算の根拠を示さなかったことが特に不当であるとはいえない。
さらに,原告らは,公団は,公団住宅の住民に対して,公団による価格設定が適
正であることを強調してきたと主張するが,そこから直ちに適正価格設定義務が発
生するとはいえない。
カ 本件各売買契約には譲渡制限条項が付されていたことについては当事者間に争
いがないところ,原告らは,この点から,公団は慎重に価格を設定しなければなら
なかったと主張する。
しかし,譲渡制限条項は,自ら居住する者に住宅を分譲するという公団の目的を
達成するためのものであり,かつ,公団が承諾すれば住宅の譲渡等ができる等,そ
の制限は一定の合理的な範囲に限定されていることからすると,譲渡制限条項の存
在が,適正価格設定義務の根拠になるとはいえない。
キ 以上によれば,原告ら主張の事情から,公団に適正価格設定義務が認められる
とはいえず,適正価格設定義務違反を理由とする原告らの請求は理由がない。
4 争点(4)(説明義務違反の有無)について
(1) 原告らは,公団が説明義務に違反したと主張するが,説明義務違反の具体的内
容は,①借家法の適用があること,公団の要求に従って仮移転すれば原告らの従前
の借家権を消滅させることになること,立退を要求するには借家法1条の2にいう
「正当事由」を具備する必要があること,公団からの条件の提示が正当事由を補完
するためのものであることを公団は説明する必要があるのに,いずれについても説
明していない,②優先入居の意味について,それが被告主張のように単に一般公募
に先立って入居することを意味するにすぎないというのであれば,その点について
の説明をしていない,③最初の希望調査の段階で戻り入居を選択しておかなければ
分譲住宅への戻り入居の機会が失われるという不適切な内容の説明を行った,④原
告らが本件各売買契
約に先立ち,売買価格について問い合わせたのに対し,公団は,今後値下げはない
と誤った説明をした,という4点である。そこで,この4点について検討する。
(2) 前記①について
公団は,本件建替事業における合意解除においては正当事由を問題にする余地が
存在しないから原告らの請求は理由がないと主張する。しかし,公団と原告らとの
間における従前の賃貸借契約に借家法の適用がある以上,その解除について両当事
者が合意する前の段階では,原告らは,公団からの明渡し要求に対し,正当事由が
具備されていないことを主張して争うことができるのであるから,本件建替事業に
おいて正当事由を問題にする余地がないとはいえない。
しかし,公団が公益を担っていることや,公団と原告らとの間には賃貸借契約に
関する法制度についての知識に差があることを考慮しても,借家法上,賃貸借契約
の解約申入れ及び更新拒絶には正当事由が必要である等の,一般的な法制度につい
て,賃貸人が説明義務を負うとはいえない。
また,仮にこのような法制度についての説明義務が公団にあり,公団がこれを尽
くしたとしても,裁判所が,正当事由が具備されていると判断すれば原告らは明渡
しを余儀なくされるのであるから,前記①の説明義務を尽くすことが,原告らが主
張する損害の回避につながるとはいえない(なお,本件建替事業において,正当事
由が具備されていなかったと認めるに足りる証拠はない。)。
以上によれば,説明義務の存在自体からみても,損害との因果関係からみても,
前記①の説明義務違反に基づく原告らの請求は理由がない。
(3) 前記②について
原告らは,優先入居の意味について,それが被告主張のように単に一般公募に先
立って入居することを意味するにすぎないというのであれば,その点についての説
明をしていないと主張する。
しかし,優先入居の意味については,前記説示のとおり,一般公募が原告らに対
するあっせんに引き続いて直ちに行われることを前提とした場合には一般公募と同
等ないし原告らにとって不利とならないことを規定しているものと解釈できるので
あるから,この点についての原告らの主張はその前提を欠き理由がない。
もっとも,前記説示のとおり,あっせん後相当長期間を経過した後に行われる場
合の公募価格についての制約までは規定していないと解釈すべきものであるとこ
ろ,優先入居条項がこのような意味であることについて,説明義務違反が存するか
否かを検討する。
まず,公団が優先入居条項についていかなる説明を行っていたかについてみる
と,公団は,「A団地建替事業概要」に「建替後分譲住宅に入居される方には,建
替後分譲住宅の一般公募に先立って,優先的に入居していただきます。」と記載し
(甲1の1),また,「B団地建替事業概要」に「建替後住宅に入居を希望される
方については,建替後住宅の一般公募に先立って,入居していただく住宅を決定し
ます。」と記載している(甲4)ことが認められる。
これを検討すると,B団地の住民に対する説明においては,一般公募に先立つの
が入居すべき住戸の決定であると表示されており,また,A団地の住民に対する説
明においても,「一般公募に先立って」との文言に続いて「優先的に」との文言が
使用されていることにかんがみると,この説明を,あっせん後相当長期間が経過し
た後に行われる場合の公募価格と比較した場合でも売買代金額において原告らを優
遇するとの説明と解することはできない。
公団が本件覚書に一般に使用されない語を使用したり,特に紛らわしい文言を使
用するなど誤解を招くような表現をした場合や,誤解を招くような説明を行った場
合は格別,本件においては,本件覚書の文言からしても,これについての説明から
しても,優先入居条項はあっせん後相当長期間を経過した後に行われる場合の公募
価格についての制約までは規定していないと解するのがむしろ自然な解釈であるか
ら,このような場合,原告らが仮に「優先入居」について異なる解釈をしたとして
も,公団が説明義務違反に基づく責任を負うとはいえない。
また,仮に,公団が原告らの誤解を認識していた場合には,その誤解を是正する
義務が生じることがあり得るが,本件において,公団が原告らの誤解を認識してい
たと認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,前記②の説明義務違反に基づく原告らの請求は理由がない。
(4) 前記③について
原告らは,期限までに分譲住宅への戻り入居を希望する意思を表示しなければ分
譲住宅を購入できないと説明されていたのに,本件建替事業に反対した住民までが
一般公募に応じて分譲住宅を入手したことを挙げ,公団の説明は不適切であったと
主張し,原告らの一部の者は,期限までに分譲住宅への戻り入居を希望する意思を
表示しなければ分譲住宅を購入できないと説明されていたと供述する。
しかし,甲3号証の1及び2,26号証によれば,公団は,原告らに対し,移転
期限経過後までに従前の賃貸借契約を一時使用賃貸借契約に変更せず,かつ,住宅
の明渡しも行わなかった者は,建替後分譲住宅への優先入居ができないと説明して
いたにすぎないことが認められる。
原告らも,従前の居住者の入居が終了すれば一般公募が行われることは認識して
いたのであり,従前その団地に居住していたというのみで一般公募に応じる資格を
失うとすることは明らかに不合理であるから(そうであれば,従前の居住者は一般
の者に比して劣後することになるが,そのように扱うことに合理性がないことは明
らかである。),原告らがそのように認識していたと認めることはできない。した
がって,公団が,優先入居ができない場合は分譲住宅を購入すること自体ができな
くなるとの説明をしたとは認められない。
そして,戻り入居を当初から希望していなかった者は,優先的な住居の確保とい
う利益を享受することができず,その後,一般の者と同等の立場で公募に応じて住
居を取得したのであり,これは公団が説明したとおりであるから,前記の公団の説
明が不適切であったとはいえない。
以上によれば,前記③の説明義務違反に基づく原告らの請求も理由がない。
(5) 前記④について
ア 証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 公団は,新Aについて平成7年10月31日に,新Bについて平成6年12
月10日に,原告らと本件各売買契約を締結した後,平成10年7月に値下げした
うえでの公募を行うまで,一般公募を行わなかった(当事者間に争いがない。)。
(イ) 平成9年5月24日,公団東京支社改善業務部の改善業務課長は,新Aの1
4号棟,15号棟に未入居の居室が多数残っている問題に関する住民への説明会の
中で,当時の段階において,新A付近の民間マンションとの比較からすると,原告
らに販売した価格を維持したまま公募を行うのは困難であること,公団は,当初か
ら,14号棟,15号棟についても,原告らの戻り入居の後に一般公募をすること
を予定していたこと,団地の完成後平成9年5月24日に至るまでの1年数か月の
間,空き家があるということは決して正しいことではない等と述べた(甲14,5
6)。
(ウ) 公団千葉地域支社再開発・改善部の改善調整課長は,平成10年3月16
日,新A団地管理組合理事会において,不動産鑑定の結果を示したが,これによれ
ば,原告らに対する販売の平均は,71.08㎡,3357万円であったが,不動
産鑑定による価格は,同面積で,2491万6000円であった(当事者間に争い
がない。)。
(エ) 公団千葉地域支社再開発・改善部長は,新A団地管理組合理事長にあてた,
平成10年6月18日付「新Aに係る未分譲住宅の価格の見直しについて」と題す
る書面において,現行の価格で公募した場合,現状の需給動向では分譲住宅として
の入居促進は厳しいと見通され,そのため,値下げを行うこととしたこと,新しい
価格は,最近における民間分譲住宅の販売状況や取引の事例,地域における需給の
バランス等を勘案し,不動産鑑定による評価額を参考にして決定したと述べた(甲
21)。
(オ) 公団神奈川地域支社地域支社長は,新B管理組合理事長にあてた,平成10
年6月18日付「新Bに係る未分譲住宅の価格の見直しについて」と題する書面に
おいて,現行の価格で公募した場合,現状の需給動向では入居促進は厳しいと見通
されたため,市場価格を勘案して値下げを行うこととしたと述べた(甲33の1及
び2)。
イ 前記認定に係る事実からすると,本件各売買契約当時,原告らに対する販売価
格は,仮にその価格で一般公募を行ったとしてもやや高額に過ぎ買い手がつかない
ことが予想されたこと,公団も原告らへのあっせんに引き続いて直ちに一般公募を
行うことは当面は困難であると認識していたことが推認できる。その理由を補足す
ると,以下のとおりである。
(ア) 公団は,本件各売買契約後平成10年7月まで,新Aにおいては約3年弱の
間一般公募を行っていないが,これは,当初の販売価格を維持した場合,公募によ
って売却することが困難であると公団が認識していたからと考えられる。
これに対し,被告は,建替事業が進行中の他団地の住民へのあっせんが予定され
ていたので一般公募を行わなかったと主張する。しかし,原告らへのあっせんの結
果,入居したのは14号棟66戸中22戸,15号棟55戸中16戸と空き住戸が
極めて多く,仮にあっせんの必要があるとしてもそのすべてを未入居のままにして
おく必要はないと考えられるし,かえって,入居率の低さが治安にも影響すると考
えられるから,他団地の居住者に対するあっせんの必要性が,約3年弱という長期
にわたって,完成した多数の住戸を放置しておく理由として合理的かどうかには疑
問がある。
また,前記認定のとおり,平成9年5月24日,公団の課長が1年数か月にわた
って多数の空き家がある状態は正しくないと述べていること,一般公募に踏み切れ
ない理由として,周辺の民間のマンションの価格と比較して当初の価格が高額であ
ることを挙げていることに照らすと,公団が一般公募を行わなかったのも,この価
格を維持したのでは買い手が現れないことが予想されたからであったと認めるのが
相当である。
そして,首都圏マンション分譲単価は,平成2年を100とした場合,同6年が
73.0,同7年が66.6,同9年が66.6であるとする株式会社不動産経済
研究所の調査結果が算出されていることが認められる(甲6)。
(イ) また,平成7年に新Aの各住戸について公団が提示した価格は,前記第2,
2(2)オ記載のとおりであって,平成2年に提示された価格(前記第2,2(2)ア
(エ))に比べ,最大でも約8%の下落しかない。
(ウ) 以上(ア),(イ)の事実に加え,本件の場合,原告らが本件各売買契約を締結
した後,3年弱経過した時期に平均25.5%価格を引き下げて一般公募が行われ
たことを併せ考慮すると,新Aについて公団が平成7年に設定した価格(原告らへ
の販売価格)はやや高額に過ぎたと判断せざるを得ない。そして,公団が,原告ら
の入居後相当長期間一般公募を行っていないこと,分譲住宅への戻り入居希望者が
減少していたこと,平成7年8月に一般公募による分譲が計画されていた16号棟
の建設を中止していることからすると,公団は原告らへのあっせんに引き続いて直
ちに一般公募を行うことは当面は困難であると認識していたと認められる。
(エ) 新Bについても,同様に3年半以上にわたって一般公募がなされていないこ
と,一般公募時には平均29.1%価格が引き下げられたこと,平成6年の本件各
売買契約時に,バブル崩壊前の平成2年時点で提示された価格とほぼ同様の価格で
あったこと(前記第2,2(3)ア(エ),オ),等からすると,新Bについて公団が当
初設定した価格も,やや高額に過ぎたと判断せざるを得ない。また,公団は原告ら
へのあっせんに引き続いて直ちに一般公募を行うことは当面は困難であると認識し
ていたと認められる。
ウ 前記認定のとおり,公団は,本件各売買契約時点で,原告らへの譲渡価格がや
や高額に過ぎ,仮にその価格で一般公募を行っても買い手がつかないことを認識し
ており,そのため,一般公募を原告に対するあっせんに引き続いて直ちに行う意思
を有していなかったものと認められる。
これに対し,原告らは公団の本件建替事業に協力し,優先入居条項を含む本件覚
書を締結しているところ,前記説示のとおり,優先入居条項には,一般公募が原告
らの入居に引き続いて直ちに行われた場合には価格の面でも同等の条件で販売する
という内容を含んでいるうえ,一般公募を当面行わないということは通常予想でき
る状況ではないから,原告らにおいては,本件各売買契約締結当時,一般公募が原
告らの入居後直ちに行われ,価格の面でも同等の条件で販売されるものと認識して
いたものと認められる。
そして,優先入居条項においては,一般公募が原告らの入居後直ちに行われない
という事態を想定していたものではないうえ,そのような特別な事態に至ったの
は,経済情勢を別にすれば,買い手のつかないような価格設定を行った公団に原因
があることは明らかであるから,このような場合,公団は,信義則上,原告らに対
し,本件各売買契約を締結するに際し,現時点で一般公募を行うことを考えていな
いことを説明する義務があるというべきである。
しかるに,公団は,原告らに対し,何らこのような説明をしておらず,適切な説
明を欠いたのであるから,公団(被告)は,原告らに対し,前記説明義務違反を理
由とする損害賠償義務を負うというべきである。
5 原告らの損害について
(1) 原告らは,説明義務違反に基づく請求として,本件各売買契約における譲渡対
価(販売価格)に一般公募における平均値下げ率を乗じた額を損害額と主張し,実
質的に,譲渡対価と値下げ後の販売価格との差額を請求する。
しかし,前記1説示のとおり,本件において,原告らの主張する優先入居条項
は,一般公募が原告らに対するあっせん後相当長期間(数年以上)が経過した後に
行われる場合の公募価格についての制約までは規定していないこと,また,前記3
説示のとおり,原告ら主張の適正価格設定義務が認められないこと,さらに,当初
の分譲からの経過年数,その後の経済状況の変動可能性等に照らして,単純に実際
に行われた一般公募の販売価格をもって本件各売買契約時において設定すべき適正
価格ともいえないことを総合考慮すると,平成10年7月に行われた一般公募にお
ける販売価格(値下価格)をもって,原告らの財産的な損害の算定根拠とすること
はできない。
したがって,本件各売買契約における原告らへの販売価格と値下げ後の販売価格
との差額が原告らの損害であると認めることはできない(もっとも,前記のとお
り,原告らへの販売価格の設定はやや高額に過ぎたことも事実であり,この点を全
く無視するのは相当ではないから,このことを原告らの被った精神的損害において
考慮すべき事情の1つとすることとする。)。
その他,原告らの財産的損害を認めるに足りる証拠はない。
(2) 公団の不法行為の内容は,前記のとおり,原告らへのあっせんに引き続いて直
ちに一般公募が行われることがないことにつき適切な説明を欠いたというものであ
り,その結果,原告らは,最終的に本件各売買契約を締結するか否か,あるいは公
団の賃貸住宅や民間住宅への移転を図るか否か等について,的確な判断をする機会
を得られなかったというべきである。
証拠(各原告の陳述書及び一部原告の法廷における供述)によれば,原告らは,
公団の本件建替事業に協力し,分譲住宅への戻り入居を選択したものであるとこ
ろ,原告らに対するあっせんに引き続いて直ちに行われるべき一般公募が行われな
いことを公団から知らされないまま売買契約を締結し,結果的に高額な住宅を購入
したものであり,このことにより大きな精神的苦痛を被ったものと認められ,前記
4(5)アないしウで認定判断した内容を含め,本件における全事情を勘案すると,原
告らの被った精神的苦痛を慰謝するには,各住戸当たり150万円(各原告は各住
戸についての持分に応じた額)が相当と認められる。さらに,これと相当因果関係
のある弁護士費用は,各原告につき前記慰謝料の1割が相当と認められる。
(3) よって,各原告の認容額は,別紙認容額一覧表「認容額合計」欄記載のとおり
(遅延損害金の起算日は,本件訴状送達の日の翌日)である。
第4 結論
以上のとおりであるから,原告らの請求は,別紙認容額一覧表「認容額合計」欄
掲記の限度で理由があるが,その余は理由がない。よって,訴訟費用につき民事訴
訟法61条,64条,65条1項本文を,仮執行宣言につき同法259条1項をそ
れぞれ適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第33部
裁判長裁判官 芝 田 俊 文
裁判官 片 田 信 宏
裁判官 笹 井 朋 昭
・
別紙請求一覧表
│原告番│契約日|持ち分│譲渡対価│平均値下│損害額 │慰謝料│
弁護士費用│請求額│
│号 ││比率 │(円)│げ率(%)│(円) │(円)│
(円)│(円)│
│1 │H7.10.31│1.0│41,298,000│25.5%│10,530,000│2,000,000│
1,253,000│13,783,000│
│2 │H7.10.31│0.5│41,446,000│25.5%│5,284,000│1,000,000│
628,000│6,912,000│
│3 │H7.10.31│0.5│41,446,000│25.5%│5,284,000│1,000,000│
628,000│6,912,000│
│4 │H7.10.31│0.7│41,446,000│25.5%│7,398,000│1,400,000│
879,000│9,677,000│
│5 │H7.10.31│0.3│41,446,000│25.5%│3,170,000│600,000│
377,000│4,147,000│
│6 │H7.10.31│0.7│33,275,000│25.5%│5,939,000│1,400,000│
733,000│8,072,000│
│7 │H7.10.31│0.3│33,275,000│25.5%│2,545,000│600,000│
314,000│3,459,000│
│8 │H7.10.31│0.8│41,343,000│25.5%│8,433,000│1,600,000│
1,003,000│11,036,000│
│9 │H7.10.31│0.2│41,343,000│25.5%│2,108,000│400,000│
250,000│2,758,000│
│10 │H7.10.31│0.7│41,652,000│25.5%│7,434,000│1,400,000│
883,000│9,717,000│
│11 │H7.10.31│0.3│41,652,000│25.5%│3,186,000│600,000│
378,000│4,164,000│
│12 │H7.10.31│1.0│41,034,000│25.5%│10,463,000│2,000,000│
1,246,000│13,709,000│
│13 │H7.10.31│1.0│41,549,000│25.5%│10,594,000│2,000,000│
1,259,000│13,853,000│
│14 │H7.10.31│1.0│41,652,000│25.5%│10,621,000│2,000,000│
1,262,000│13,883,000│
│15 │H7.10.31│1.0│33,378,000│25.5%│8,511,000│2,000,000│
1,051,000│11,562,000│
│16 │H7.10.31│1.0│33,378,000│25.5%│8,511,000│2,000,000│
1,051,000│11,562,000│
│17 │H7.10.31│0.8│33,378,000│25.5%│6,809,000│1,600,000│
840,000│9,249,000│
│18 │H7.10.31│0.2│33,378,000│25.5%│1,702,000│400,000│
210,000│2,312,000│
│19 │H7.10.31│1.0│33,378,000│25.5%│8,511,000│2,000,000│
1,051,000│11,562,000│
│20 │H7.10.31│0.7│41,755,000│25.5%│7,453,000│1,400,000│
885,000│9,738,000│
│21 │H7.10.31│0.3│41,755,000│25.5%│3,194,000│600,000│
379,000│4,173,000│
│22 │H7.10.31│0.5│41,858,000│25.5%│5,336,000│1,000,000│
633,000│6,969,000│
│23 │H7.10.31│0.5│41,858,000│25.5%│5,336,000│1,000,000│
633,000│6,969,000│
│24 │H7.10.31│0.8│33,584,000│25.5%│6,851,000│1,600,000│
845,000│9,296,000│
│25 │H7.10.31│0.2│33,584,000│25.5%│1,712,000│400,000│
211,000│2,323,000│
│26 │H7.10.31│1.0│33,790,000│25.5%│8,616,000│2,000,000│
1,061,000│11,677,000│
│27 │H7.10.31│1.0│33,584,000│25.5%│8,563,000│2,000,000│
1,056,000│11,619,000│
│28 │H7.10.31│1.0│33,584,000│25.5%│8,563,000│2,000,000│
1,056,000│11,619,000│
│29 │H7.10.31│1.0│33,481,000│25.5%│8,537,000│2,000,000│
1,053,000│11,590,000│
│30 │H7.10.31│0.8│33,481,000│25.5%│6,830,000│1,600,000│
843,000│9,273,000│
│31 │H7.10.31│0.2│33,481,000│25.5%│1,707,000│400,000│
210,000│2,317,000│
│32 │H7.10.31│1.0│33,687,000│25.5%│8,590,000│2,000,000│
1,059,000│11,649,000│
│33 │H7.10.31│1.0│33,584,000│25.5%│8,563,000│2,000,000│
1,056,000│11,619,000│
│34 │H7.10.31│1.0│33,687,000│25.5%│8,590,000│2,000,000│
1,059,000│11,649,000│
│35 │H7.10.31│1.0│33,172,000│25.5%│8,458,000│2,000,000│
1,045,000│11,503,000│
│36 │H7.10.31│0.7│33,584,000│25.5%│5,994,000│1,400,000│
739,000│8,133,000│
│37 │H7.10.31│0.3│33,584,000│25.5%│2,569,000│600,000│
316,000│3,485,000│
│38 │H7.10.31│1.0│33,893,000│25.5%│8,642,000│2,000,000│
1,064,000│11,706,000│
│39 │H7.10.31│1.0│40,828,000│25.5%│10,411,000│2,000,000│
1,241,000│13,652,000│
│40 │H7.10.31│1.0│33,378,000│25.5%│8,511,000│2,000,000│
1,051,000│11,562,000│
│41 │H7.10.31│1.0│33,378,000│25.5%│8,511,000│2,000,000│
1,051,000│11,562,000│
│42 │H7.10.31│0.7│33,790,000│25.5%│6,031,000│1,400,000│
743,000│8,174,000│
│43 │H7.10.31│0.3│33,790,000│25.5%│2,584,000│600,000│
318,000│3,502,000│
│44 │H6.12.10│0.5│42,400,000│29.1%│6,169,000│1,000,000│
716,000│7,885,000│
│45 │H6.12.10│0.5│42,400,000│29.1%│6,169,000│1,000,000│
716,000│7,885,000│
│46 │H6.12.10│0.9│55,797,000│29.1%|14,613,000│1,800,000│
1,641,000│18,054,000│
│47 │H6.12.10│0.1│55,797,000│29.1% │1,623,000│200,000│
182,000│2,005,000│
│48 │H6.12.10│1.0│44,872,000│29.1% │13,057,000│2,000,000│
1,505,000│16,562,000│
│49 │H6.12.10│0.9│45,593,000│29.1% │11,940,000│1,800,000│
1,374,000│15,114,000│
│50 │H6.12.10│0.1│45,593,000│29.1% │1,326,000│200,000│
152,000│1,678,000│
│51 │H6.12.10│1.0│45,387,000│29.1% │13,207,000│2,000,000│
1,520,000│16,727,000│
│52 │H6.12.10│1.0│57,306,000│29.1% │16,676,000│2,000,000│
1,867,000│20,543,000│
│53 │H6.12.10│0.6│58,954,000│29.1% │10,293,000│1,200,000│
1,149,000│12,642,000│
│54 │H6.12.10│0.4│58,954,000│29.1% │6,862,000│800,000│
766,000│8,428,000│
│55 │H6.12.10│1.0│60,602,000│29.1% │17,635,000│2,000,000│
1,963,000│21,598,000│
│56 │H6.12.10│1.0│59,572,000│29.1% │17,335,000│2,000,000│
1,933,000|21,268,000│
│57 │H6.12.10│0.5│59,572,000│29.1% │8,667,000│1,000,000│
966,000│10,633,000│
│58 │H6.12.10│0.5│59,572,000│29.1% │8,667,000│1,000,000│
966,000│10,633,000│
│合計 ││││ │441,424,000│82,000,000│
52,319,000│575,743,000│
・
別紙認容額一覧表
│原告番号│持ち分│請求額│認容額││
│
││比率│(円)│││
│
││││慰謝料│弁護士費用│認容額
合計│
││││(円)│(円)│(円)
│
│1│1.0│13,783,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│2│0.5│6,912,000│750,000│75,000│825,000
│
│3│0.5│6,912,000│750,000│75,000│825,000
│
│4│0.7│9,677,000│1,050,000│105,000│
1,155,000│
│5│0.3│4,147,000│450,000│45,000│495,000
│
│6│0.7│8,072,000│1,050,000│105,000│
1,155,000│
│7│0.3│3,459,000│450,000│45,000│495,000
│
│8│0.8│11,036,000│1,200,000│120,000│
1,320,000│
│9│0.2│2,758,000│300,000│30,000│330,000
│
│10│0.7│9,717,000│1,050,000│105,000│
1,155,000│
│11│0.3│4,164,000│450,000│45,000│495,000
│
│12│1.0│13,709,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│13│1.0│13,853,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│14│1.0│13,883,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│15│1.0│11,562,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│16│1.0│11,562,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│17│0.8│9,249,000│1,200,000│120,000│
1,320,000│
│18│0.2│2,312,000│300,000│30,000│330,000
│
│19│1.0│11,562,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│20│0.7│9,738,000│1,050,000│105,000│
1,155,000│
│21│0.3│4,173,000│450,000│45,000│495,000
│
│22│0.5│6,969,000│750,000│75,000│825,000
│
│23│0.5│6,969,000│750,000│75,000│825,000
│
│24│0.8│9,296,000│1,200,000│120,000│
1,320,000│
│25│0.2│2,323,000│300,000│30,000│330,000
│
│26│1.0│11,677,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│27│1.0│11,619,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│28│1.0│11,619,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│29│1.0│11,590,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│30│0.8│9,273,000│1,200,000│120,000│
1,320,000│
│31│0.2│2,317,000│300,000│30,000│330,000
│
│32│1.0│11,649,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│33│1.0│11,619,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│34│1.0│11,649,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│35│1.0│11,503,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│36│0.7│8,133,000│1,050,000│105,000│
1,155,000│
│37│0.3│3,485,000│450,000│45,000│495,000
│
│38│1.0│11,706,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│39│1.0│13,652,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│40│1.0│11,562,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│41│1.0│11,562,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│42│0.7│8,174,000│1,050,000│105,000│
1,155,000│
│43│0.3│3,502,000│450,000│45,000│495,000
│
│44│0.5│7,885,000│750,000│75,000│825,000
│
│45│0.5│7,885,000│750,000│75,000│825,000
│
│46│0.9│18,054,000│1,350,000│135,000│
1,485,000│
│47│0.1│2,005,000│150,000│15,000│165,000
│
│48│1.0│16,562,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│49│0.9│15,114,000│1,350,000│135,000│
1,485,000│
│50│0.1│1,678,000│150,000│15,000│165,000
│
│51│1.0│16,727,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│52│1.0│20,543,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│53│0.6│12,642,000│900,000│90,000│990,000
│
│54│0.4│8,428,000│600,000│60,000│660,000
│
│55│1.0│21,598,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│56│1.0│21,268,000│1,500,000│150,000│
1,650,000│
│57│0.5│10,633,000│750,000│75,000│825,000
│
│58│0.5│10,633,000│750,000│75,000│825,000
│
│合計││575,743,000│61,500,000│6,150,000│
67,650,000│
採用情報
弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。
応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。
学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。
詳細は、面談の上、決定させてください。
独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可
応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名
連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:
[email protected]
71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。
ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。
応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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