弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原競落許可決定を取り消す。
     本件競落は許さない。
         理    由
 一、 本件抗告の趣旨及び理由は別紙抗告状の通りである。
 二、 (1) 民事訴訟法(以下民訴と書く)第六七二条第三号に該当する違法
ありとの点について。
 抗告理由第二点ないし第五点は要するに、原執行裁判所が本件宅地建物を一括し
て競売しなかつたことが違法であるというに帰するところ、本件のように(以下事
実の認定はすべて記録による。特に必要と認める場合には、事実認定に供した証拠
を示すこととする。)宅地と建物とを共同担保として抵当権を設定し該抵当権者の
申立に基く競売手続において、民訴第六七五条を適用すべき場合や、右の宅地また
は建物のいずれか一つだけを目的とする先順位の抵当権が存在して、該先順位抵当
不動産の競売売得金額が確定しないかぎり、競売代金の交付手続をなし得ないとい
つたような特殊の事情がある場合には、かえつて個別競売をしなければならないの
であつて、かような事情の存しない場合においてのみ、裁判所はその合理的な自由
裁量により競売不動産を一括競売に付することができるのである。所論のように、
かりに本件建物が本件宅地上に存在するとしても、その理を異にするものでないこ
とは、民法第三九二条の規定や、宅地及び同地上の建物が同一の所有者に属して、
共同抵当に供されているときに、宅地と建物とが別異の人に競落され、あるいは一
方だけが競落されうることがあつてこの場合法は共に法定地上権が成立するものと
していることからも明らかなところである。これを抗告人のいう売却条件との関係
から説明すると、個別競売に付するか、一括して競売するかということは当然には
民訴第六七二条第三号・第六六二条の売却条件には当らないのであつて、本件のよ
うに、宅地所有者兼抵当権設定者はAで、建物所有者兼抵当権設定者はBで、各そ
の所有者が異なり、右宅地・建物を共同抵当とする第一・第二・第三順位の各別の
抵当権者が存し、(抗告人は第二順位の抵当権者)しかも建物のみを目的とする第
四順位の別異の抵当権者がいる場合には、所有者相互の求償・代位関係、後順位抵
当権者の代位関係などを一目明瞭ならしめる必要があるので、むしろ宅地と建物と
を各別に競売するのが相当であ■■■■■■■■A■はあるいは夫婦ではないかと
窺われないてもなく、はたして両名が夫婦であり■た所論のように本件宅地上に建
物が存在し、登記簿に登記されている通り宅地はAの所有で、建物はBの所有であ
るとすれば、(本件では一応登記か真実に合致していると認めて競売手続を進める
外はない。)真に特殊の事情のない限り、宅地と建物との関係は、BとAとが夫婦
たることに基く同居・協力扶助の関係からして、Aの所有地にBの所有建物が存在
し該建物に夫婦が同居して、宅地と建物との利用関係が継続しているものと推認さ
れ、該利用関係はBとAとが夫婦であるという身分関係に推定するものであるか
ち、宅地と建物とが各別異の人によつて競落されるとすれば、法定地上権の成立を
認めるに由なきはもちろん、この場合建物と宅地との関係を規整する明らかな法条
も存しないので、自然両競落人間に宅地の使用権をめぐつて争を生じ、事情のいか
んによつては建物の競落人は建物を収去しなければならない可能性も大きく、かく
ては建物の解体という社会経済上の損失を生じ、他面建物の競売価格に消長をきた
して、抵当債権の満足に不利益を及ぼすことにもなるのであるから、かかる不利益
を避けるために抵当債権者たる抗告人は予め、本件宅地上に建物が存すること、竝
びにBと同Aとが夫婦である旨の証明書を添付して、本件宅地建物の一括競売を申
し出て、執行裁判所の職権発動を促し、さらに、できうれば総べての利害関係人の
同意を得て、一括競売を求めうるの方途がなかつたのでもないのに、なんらかかる
挙措にいでないで、すでに個別競売が実施され、先ず建物につき競落許可決定が言
い渡されるに及んで、一括競売しなかつたのは違法であるという所論は、以上の説
明に徴し到底採容のかぎりでない。
 (2) 抗告理由第一・二点及び第六点について。
 原裁判所は、本件宅地・建物の個別競売を命じ、執行吏において、その競売を実
施したところ、建物については最高価競買の申出があつたけれども、宅地について
は競買の申出がなかつたため、裁判所は建物について競落を許す決定を言い渡した
のであつて、別に宅地の競売手続が終了したわけではなく、宅地については当然新
競売期日が指定さるべきものである以上、建物だけの競売代金だけでは、その代金
はすべて第一順位の抵当権者に交付されてしまい、抗告人に交付される代金は皆無
であるから、本件建物のみに対する競落許可決定は不当であるという所論は、競売
手続に関する法律の誤解に出たもので、採容に値しない。
 (3) 民訴第六七二条第四号に該当する違法ありとの点について。
 所論は本件競落許可決定の目的たる建物は公簿上福岡市a町b番地上に存するも
のとして登記・登録されているが、事実は同町c番地宅地一一一坪(本件競売の目
的たる宅地である。抗告状に一〇一坪とあるのは誤記と認める。)の地上に建設さ
れているという事実を前提とするものであるが、これについてはなんらの疎明がな
いので、すでにこの点において論旨は理由がない。のみならず、はたして抗告人主
張の通り本件建物が右c番地上に存するものであるとすれば、右建物の敷地の番号
は従前福岡市de番地のfであつたところ福岡市に施行された区画整理により右地
番が同市a町c番地に変更されたものと認められるので、右建物の抵当権著たる抗
告人は、民法第四二三条不動産登記法第四六条の二の規定に従い、建物の表示につ
き敷地の番号の更正登記をなした上、競売を申し立てるか、あるいは建物の敷地の
番号が右c番地であることを証すべき証明書を添付しその点を明らかにして競売を
申し立てるべきであるのに、自から敷地の番号がa町b番地であると明記しかつそ
の旨の記載ある建物登記簿謄本、公課証明書を添付し競売を申し立て、これに基い
て競売手続が続行されて本件競落許可決定を見るにいたつた現在において、自から
なし得、またなすを相当とずべき前叙の手続をなさないで、厚顔にもその非違を挙
げて執行裁判所その他に帰せんとする抗告人の態度自体は(後記の事実も存する以
上)信義則よりいつても、また禁反言の法理に照らしても到底許容さるべきもので
はない。
 ひるがえつて民訴第六七二条第四号において「競売期日の公告に第六五八条に掲
げたる要件の記載なきこと」を競落の許可についての異議事由とし、第六五八条第
一号において「不動産の表示」を競売期日の公告に掲記させる所以のものは、競売
不動産の同一性を認識させ、競買希望者に対し同不動産の実質的価値を知らせて競
買申出にそごなきを期しようとするにある(当裁判所昭和二九年(ラ)第四五号同
年五月一九日決定参照)から競売期日の公告に掲記の不動産の表示が適法であるか
否かは主として右の観点から判断されなければならない。
 従来わが国においては土地の土地台帳・土地登記簿における表示と異なり、建物
の家屋台帳・建物登記簿における表示が、細微にわたつて必ずしも建物の真実の姿
態に合致するものとは限らず、建物の敷地の番号(家屋の所在)、家屋番号、種
類、構造、床面積(建坪)において往々合致しない場合のあることは、周知の事実
であるから、(もとよりなげかわしいことで、かかることのないよう極力これを阻
止すべきであるのは当然ではあるけれども)競売期日に掲ぐべき建物の表示という
要件を甚だしく厳格に解すれば、狡智な債務者はこれこ幸と競売手続を引き延ばす
ために、右の不合致を衝いて競落期日に異議を申し立て、あるいは競落許可決定に
対し抗告をなすであろうし、他方、競落人として競落代金を支払うべき、最高価競
買申出人たる競売ブローカーないしこれに類似の者は、予め期待していた競買不動
産を転売しうる見込がないなど投機競買の目的を達し得ない場合には、競落の不許
を求めて異議・抗告の手段を弄し、不当に競売手続を阻害して、これを遷延するの
弊害を生ずるに至り、かくては、さなきだに、一般に競売手続、別して不動産競売
手続の遅延が指摘非難されて、その防止と改善とが要望されて久しく、現に強制執
行法の改正が講ぜられているという状況からしても戒心を要するところである。し
かも建物を抵当にとつた抵当権者は、いな一般に建物の競売を申し立てようとする
者は、事前に専門家に頼んで、建物の種類・構造・建坪・家屋番号・敷地番号の詳
細を明確にした上でないと安心して競売を申し立てることもできないわけで、一般
善良な競買希望者も安んじて競買の申出をすることができないという結果に立ち到
るであろうから、債権者が建物を担保にとる場合は先ずその提供者をして建物登記
簿の記載が細微にわたつて、建物の現況に合致することを要求するはもとより、爾
後における建物の増改築等担保権者に有利なる建物の変更すら、これを禁じあるい
はその同意にかからしめるに至るとは必然であつて、これを概括立言すれば、建物
による金融の円滑な取引を阻塞し、延いて建物の取引の安全を期待し難い結果にな
らないとも限らないのである。本件において抗告人は建物の種類・構造・建坪・家
屋番号が相違しているとは争わないで、争うのは単に建物の敷地の番号のみであ
り、しかも、その地番はb番地でなく一地番違いのc番地であるというに過ぎない
し、それに建物が住宅・店舗などであつて一地番の相違で、その同一性を異にし、
実質的価値に相違のある虞があると認められる場合は格別、本件建物は抗告状の末
尾に記載してあるように、木造トタン葺平家建の工場一棟(建坪二四坪)とこれに
附属の木造瓦葺平家建物置一棟建坪五合であり、なお競売期日の公告を見ると、右
二棟の建物の所有者はBでCが昭和二七年から賃料月一万五千円、毎月前払の約で
賃借していることが掲記されているので、かりに抗告人のいう通り建物の敷地の番
号を誤つた違法があるとしたところで右公告の全体を見れば競売の目的たる建物は
特定されていてその同一性・その実質的価値を認識了知させる上において、欠缺あ
りとはいえず、従つて該公告がその要件を具備しない不適法な不動産の表示である
とするわけにはいかないことは叙上説示の理由により明らかである。従つて競売期
日の公告に掲ぐべき不動産の表示が適法でないとの所論も採用に値しない。
 (4) しかし福岡地方裁判所執行吏Dの昭和三〇年四月四日付賃貸借関係等取
調の結果報告書によれば、前記本件二棟の建物のうち工場一棟は所有者Bにおいて
昭和二七年からCに対し二ケ年の期限で賃貸料月「一万五千円、賃料支払期は毎月
前払の約で現在も賃貸中であること、附属建物たる物置一棟は所有者Bにおいて自
から占有使用中で賃貸借関係のないことが認められるし、鑑定人Eの昭和三〇年四
月二二日付評価書によると、右工場は大分古い建物で評価額七万円、物置は改造さ
れてB本人が住宅として使用居住し評価額は二十二万二千五百円であることが認め
られ附属建物とはいうものの右物置が価値においては主要建物というべきところ、
原審競落期日の直前の昭和三一年四月二六日付競売期日の公告(第四回目)には、
賃貸借欄に右工場及び物置ともCに昭和二七年より向う二ケ年賃料月一万五千円、
毎月前払期限敷金なしと掲記されているのであるが、価格において主要建物という
べき物置(実は住宅)は他に賃貸されていないのであるから、同物置に関する限
り、存在しない賃貸借をあたかも真に存在するかのように掲記公告した違法がある
と解せざるを得ないのである。そして、競売期日の公告に建物の賃貸借の期限・借
賃・敷金等を掲記する(民訴第六五八条第三号参照)所以は該賃貸借が抵当権者、
従つて競落人に対抗しうるものであるかぎり、競落人は当然に賃貸人たる地位を承
継取得するので、競売建物の賃貸借の期限・借賃・敷金等当該建物の使用権の状態
(借家権利関係)の主要なる事項を予め了知して置く必要があるし、競落人が右の
ような賃貸借のあることを知らないで競落した場合は、競落人は事情次第ではいわ
ば競落という売買を解除したり、または損害の賠償を請求することかできる(民法
第五六八条・第五六六条)ので、国家機関によつて実施される最も信頼さるべき競
売において、しかもその競売手続が終了した後にいたつて、意外にも生ずることあ
るべき前示の繁雑な法律関係の発生を未然に防止すると同時に、競売の対象たる建
物の賃料すなわち収益によつて当該建物の利用収益関係・価格の程度を推知させ
て、競買申出価額を決定するの一資料たらしめようとするにあると察せられるの
で、競売期日の公告に掲ぐべき賃貸借は抵当権者、従つて競落人に対抗しうるもの
にかぎり掲記すべきである(大正一二年(ク)第一四号同年一月一九日大審院決
定。昭和一五年(オ)第八九九号同一六年六月七日大審院判決各参照)にもかかわ
らず、本件建物に対する第一ないし第四順位の抵当権はすべて昭利二四年四月五日
以前に抵当権設定登記を経由しでいることが明らかであるので本件工場の賃貸借
は、抵当権者従つて亦競落人に対抗し得ないものであるから、前示賃貸借の公告
は、右工場については掲記の必要がない賃貸借を公告しただけでなく、工場のみで
借賃月一万五千円であるのに、物置と合わせて月一万五千円の借賃である旨掲記し
た点において結局事実に副わない借賃を公告した違法があると同時に、物置(名称
は物置であるが実は住宅で、その価格からして工場よりも主要な建物である。)に
ついては、全然賃貸借がないのに、賃貸借ありと不実の公告をした違法があるとい
わなければならない。
 競売期日の公告に存するかかる瑕疵違法が競売価額に及ぼす影響の面よりこれを
考えて見れば、賃貸借が存在しないか、または存在しても抵当権者及び競落人に対
抗できないものである場合に、賃貸借を掲記公告すれば、(もつとも対抗できない
賃貸借であることを明らかにして置けば別である)前記大審院の確定判例の存する
ことからしても、競買希望者は特別の事情のないかぎり、公告にかかる賃貸借は、
実在していること、及び競落する以上はこれを引き受くべきものと思惟せざるを得
ないので、該公告がなければ競買を希望する者でも、競買を取り止め、あるいは取
り止めないまでも、該公告がない場合よりも、より低廉な価額で競買を申し出るで
あろう。(ここに抵当権者に対抗し得ない賃貸借とは、抵当権設定登記後に登記ま
たは引渡のあつた賃貸借のことであるが、(民法第三九五条の短期賃貸借等を除
く)それは抵当権者に対する関係では登記のないあるいは目的物の引渡のない賃貸
借と同様に考えらるべきものである。また抵当権者は、建物を抵当にとるにあたり
賃貸借という負担を伴わない建物の価値に着眼して担保にとつたのであるから、そ
の後に成立し効力を生じた賃貸借のために担保価値が滅殺されてよい道理はなく、
従つて競落人に対抗し得ない賃借人に対して、競落人は、民訴第六八七条により容
易に競落家屋の管理と引渡を求め得るのである。要するに競落人及び抵当権者に対
抗し得ない賃貸借は、対抗力のない未登記・引渡未了の賃貸借と等しく、執行法上
無視されていることは、上記民訴の法条並びに第七〇〇条からも窺われるところで
ある。)また本件建物のうち、工場のみで賃料月一万五千円であるのに工場及び物
置の借賃が合計月一万五千円である旨著しく事実に副わない公告をすれば、この借
賃を全建物の収益と見て、これから逆算して工場と物置との価格の程度を推知し
て、競買価額を決定する一資料とすることは否定できないので、右の不実の公告が
なければ当然期待さるべき価額よりも、はるかに低廉な価額で競売されるであろう
ことは、普通である。かくて、抵当債権者従つて債務者(抵当権設<要旨>定者)の
利益が害されるのは言をまたない。されば、賃貸借が存在しないのにこれありとし
て掲記した競売期日の公告、抵当権者及び競落人に対抗し得ない賃貸借をそ
の旨明らかにしないで掲記した競売期日の公告、著しく事実に副わない借賃を掲記
した競売期日の公告は、民訴第六七二条第四号、第六五八条第三号に該当する不適
法な公告と解せざるを得ないのである。
 (5) また、昭和三一年四月二六日付でなされた前示公告(第四回)の直前に
なされた同年二月二九日付の競売期日公告(第三回)においても、本件工場及び物
置につき第四回公告と同様の違法な賃貸借の公告がなされていることが認められる
のであるが、第三回公告で定められた同年三月二九日の新競売期日において、競買
申出人がなかつたので、更に新競売期日を定めて第四回公告をなしたこと自体は相
当であるけれども、既に見たように第三回公告は賃貸借につき第六五八条第三号の
要件を具備しない違法があるから、第四回公告に掲ぐべき前示建物の最低競売価額
は第三回公告のそれを低減しないで掲記すべきであるのにかかわらず、これより一
割を減じた額をもつて、最低競売価額として掲記公告しているので、第四回公告に
は、結局第六五八条第六号の要件をも具備しない違法もまた存するといわなければ
ならない。
 (6) よつて、民事訴訟法第六八二条第三項、第六七四条第二項、第六七二条
第四号、第六五八条第三号・第六号により原競落許可決定を取り消し、同決定末尾
の物件の表示記載の建物(原決定には家屋番号としてd○□○番と書いてあるが、
右はdg丁目○△番の誤記と認める。)に対する競落を許さず同法第六七六条に従
い原執行裁判所において更に新競売期日を定むべきものとし主文の通り決定する。
 (裁判長判事 桑原国朝 判事 二階信一 判事 秦亘)

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