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平成19年5月30日判決言渡
平成17年(行ケ)第10799号審決取消請求事件
平成19年5月14日口頭弁論終結
判決
原告フレゼニウスアクチェンゲゼルシャフト
訴訟代理人弁理士鈴江武彦
同河野哲
同中村誠
同堀内美保子
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人川端康之
同唐木以知良
同大場義則
同石井淑久
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理のための付加期間を30日と定め
る。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告
特許庁が訂正2005−39038号事件について平成17年7月12日に
した審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2被告
主文第1,2項と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁等における手続の経緯
本件特許()1
原告は,名称を「非PVC多層フィルム」とする発明につき,平成8年
4月26日に特許出願(特願平8−107207号。優先権主張日199
5年4月26日,ドイツ連邦共和国。以下「本件特許」という)をし,平。
成13年2月2日に設定登録がされた特許第3155924号(甲9)の
特許権者である。
本件特許に係る異議手続()2
本件特許に対しては,平成13年10月16日に特許異議の申立て(異
議2001−72839号)がされたところ,特許庁は,平成16年9月
,(,),13日に記載不備特許法36条4項36条6項2号違反を理由に
「特許第3155924号の請求項1ないし16に係る特許を取り消す」。
との決定をした。この決定に対しては,原告は,平成16年12月28日
に特許取消決定取消請求訴訟を提起した(当庁平成17年(行ケ)第10
244号。)
本件訂正審判()3
本件特許につき,原告は,平成17年3月1日,訂正審判の請求をした
,,,。ところ特許庁は訂正2005−39038号としてこれを審理した
特許庁が同月16日付けで手続補正指令(方式)を発し,これを受けて,
原告は,同月30日付けで手続補正書(方式(以下「3月30日付け手続)
補正書」という)を提出した(同手続補正書による補正は,訂正審判請求。
書の「請求の趣旨」における誤記を訂正しただけであり,同請求書に添付
された訂正明細書の変更はされていない。また,特許庁が,同年4月1。)
8日付けで訂正拒絶理由を通知したところ,原告は,同年6月9日付けで
意見書と共に審判請求書及び訂正明細書を補正する手続補正書(以下「6
月9日付け手続補正書」という)を提出した。特許庁は,同年7月12日。
に「本件審判の請求は,成り立たない」との審決をし,その謄本は同月,。
22日に原告に送達された。
2本件特許に係る明細書の特許請求の範囲
(3月30日付け手続補正書による補正後の設定登録時,訂正審判請求書
及び6月9日付け手続補正書に係る訂正明細書の各特許もの。以下,同じ)。
請求の範囲の記載は,次のとおりである(下線部は,訂正に関係する箇所であ
る。。)
()設定登録時の特許請求の範囲1
【請求項1】外層(2)と少なくとも1つの介在中央層(3)を備える
支持層(4)を含む非PVC多層フィルムにおいて,前記外層(2)と
支持層(4)は121℃を越える軟化温度を有するポリマーを含み,低
軟化温度を示す少なくとも1つの中央層(3)はポリエチレンコポリマ
ー,ポリプロピレンコポリマー,ρ<0.9g/cmを有するポリプロ3
ピレンのホモポリマーまたはコポリマー,低密度ポリエチレン(LDP
E,スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロックコポリマー,ス)
チレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロックコポリマー,SIS
()()スチレン−イソプレン−スチレンおよびポリイソブチレンPIB

から選ばれる少なくとも1つ以上の樹脂,または,ρ≧0.9g/cm
のポリプロピレンおよび/またはポリエチレンと上記ポリマーとのブレ
ンドから選ばれ,70℃より低い軟化温度を有するポリマーを特徴とす
るフィルム。
【請求項2】前記中央層(3)は,70℃より低い軟化温度を示すポリ
マーを含んで低軟化温度を示す少なくとも2つの層(6)と121℃を
越える軟化温度を示すポリマーを含んで高軟化温度を示す少なくとも1
層(7)とを含み,ここで,層(6)と層(7)は交互に配列されてな
る請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】前記中央層(3)は少なくとも90μmの厚みで,前記外
層(2)と支持層(4)はそれぞれ10∼20μmの厚みである請求項
1または2に記載のフィルム。
【請求項4】前記多層フィルムはさらに熱封止層(5)を含む請求項1
∼3のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項5】前記熱封止層(5)は,前記外層(1,前記支持層(4))
と前記少なくとも1つの層(7)の軟化温度よりも低い軟化温度を有す
るポリマーを含む請求項4に記載のフィルム。
【請求項6】前記熱封止層(5)は15∼30μmの厚さである請求項
4または5に記載の方法。
【請求項7】前記全ての層は,実質的な成分として,ポリオレフィンホ
モポリマーおよび/またはポリオレフィンコポリマーを含む請求項1∼
6のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項8】前記多層フィルムは,可塑剤,抗ブロック剤,抗静電剤と
その他のフィラーを実質的に含まない請求項1∼7のいずれか1項に記
載のフィルム。
【請求項9】前記外層(2)は,ポリプロピレンホモポリマー,ポリプ
ロピレンブロックコポリマー,低エチレン含有量および/または高密度
(),ポリエチレンHDPEを有するポリプロピレンランダムコポリマー
好ましくはポリプロピレンランダムコポリマーを含む請求項1∼8のい
ずれか1項に記載のフィルム。
【請求項10】前記支持層(4)と高軟化温度を有する少なくとも1つ
の層(7)は,ポリプロピレンホモポリマー,ポリプロピレンコポリマ
ー高密度ポリエチレンHDPEまたは線状低密度ポリエチレンL,()(
LDPE)および/またはこれらのポリマーの混合物からなる請求項2
∼8のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項11】前記熱封止層(5)は,ポリプロピレンコポリマー,高
密度ポリエチレン(HDPE,線状低密度ポリエチレン(LLDPE))
および/または上記ポリマーとスチレン−エチレン/ブチレン−スチレ
ンブロックコポリマーとの混合物,スチレン−エチレン/プロピレン
−スチレンブロックコポリマー,SIS(スチレン−イソプレン−ス
チレンブロックコポリマー)および/またはα−オレフィンコポリマ
ー,好ましくはポリプロピレンランダムコポリマーとSISブロックコ
ポリマーとのブレンドから調製されたものを含む請求項4∼8のいずれ
か1項に記載のフィルム。
【請求項12】前記多層フィルムは,平坦または環状フィルムである請
求項1∼11のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項13】前記多層フィルムは同時押出し法で製造される請求項1
()。∼12のいずれか1項に記載の非PVC多層フィルム1の製造方法
【請求項14】前記同時押出しされると得られるフィルムは水で冷却さ
れる請求項13に記載の方法。
【請求項15】請求項1∼12のいずれか1項に記載の非PVC多層フ
ィルム(1)の医薬バッグの製造への使用。
【請求項16】請求項15に記載の非PVC多層フィルム(1)の医薬
多室バッグの製造への使用。
訂正審判請求書に添付された訂正明細書における特許請求の範囲()2
【請求項1】外層(2)と少なくとも1つの中央層(3)と支持層(4)
,()()とを含む非PVC多層フィルムにおいて前記外層2と支持層4
は121℃を越える軟化温度を有するポリマーを含み,さらに前記層
(2(4)は121℃より高温で溶融し,低軟化温度を示す少なくと),
も1つの中央層(3)はポリエチレンコポリマー(エチレン−酢酸ビニ
3ル共重合体を除く,ポリプロピレンコポリマー,ρ<0.9g/cm)
を有するポリプロピレンのホモポリマー,低密度ポリエチレン(LDP
E,スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロックコポリマー,ス)
チレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロックコポリマー,SIS
()()スチレン−イソプレン−スチレンおよびポリイソブチレンPIB
3から選ばれる少なくとも1つ以上の樹脂,または,ρ≧0.9g/cm
のポリプロピレンおよび/またはポリエチレンと上記ポリマーとのブレ
ンドから選ばれ,70℃より低い軟化温度を有するポリマーを特徴とす
るフィルム。
【請求項2】∼【請求項8(省略)】
【請求項9】前記外層(2)は,ポリプロピレンホモポリマー,ポリプロ
ピレンブロックコポリマー,低エチレン含有量のポリプロピレンランダ
ムコポリマー,好ましくはポリプロピレンランダムコポリマーを含む請
求項1∼8のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項10】∼【請求項16(省略)】
6月9日付け手続補正書による補正後の訂正明細書の特許請求の範囲()3
【請求項9】前記外層(2)は,ポリプロピレンホモポリマー,ポリプロ
ピレンブロックコポリマー,および/または低エチレン含有量のポリプ
ロピレンランダムコポリマー,好ましくはポリプロピレンランダムコポ
リマーを含む請求項1∼8のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項1】∼【請求項8【請求項10】∼【請求項16(省略)】,】
3審決の理由
。,,,別紙審決書の写しのとおりであるなお本判決においても審決と同様に
訂正請求書の「6.請求の理由」の「()訂正の要旨」にaないしkと記載3
した訂正事項を「訂正事項a」ないし「訂正事項k」などという。
審決の理由の概要は,以下のとおりである。
()6月9日付け手続補正書による補正は,訂正審判請求書における訂正事1
項e,j,kを補正するものであるが,審判請求書の請求の趣旨の要旨を変
更するものであるから,特許法131条の2第1項本文の規定に違反し許さ
れない。
()本件訂正審判請求(3月30日付け手続補正書による補正後の訂正事項2
による)のうち,①訂正事項aは請求項1に係るものであるところ,特許。
請求の範囲の減縮,誤記又は誤訳の訂正,明りょうでない記載の釈明のいず
れをも目的とするものとはいえず,特許法126条1項ただし書の要件に適
合していない,また,②訂正事項b∼eは,いずれも特許請求の範囲の減縮
を目的とするものであるところ,訂正後の請求項9は,同法36条6項2号
の要件を満たしておらず,少なくとも同請求項により特定される発明は特許
出願の際独立して特許を受けることができるものではないから,同法126
条5項の要件を満たしていない。
第3原告主張の取消事由
1取消事由1(6月9日付け手続補正書による補正の許否についての判断の誤
り)
,「」審決はこの補正が審判請求書の請求の趣旨の要旨を変更するものである
。,,,,,と判断しているしかし以下のとおり補正された訂正事項ejkは
審判請求書に,当初から訂正事項として記載されていたと容易に理解できる
ものであるから,審決の上記判断には誤りがある。
訂正事項eに係る6月9日付け手続補正書による補正は,請求項9にお()1
いて「および/または」を追加したものであるが,補正後の請求項9は,,
訂正審判請求書添付の訂正明細書における記載と同様に,外層(2)を構
,「」。成する各成分を列挙しこれら各成分を任意に含むという記載である
したがって,6月9日付け手続補正書による補正によって「および/ま
たは」という文言が挿入されたからといって,発明に実質的な違いはない
ことは,当業者であれば容易に理解することができる。
訂正事項jは段落【0023】について,訂正事項kは段落【0また,
050】について,それぞれ,訂正事項eと同じ内容の訂正を行ったもの
であるから,上記()と同様の理由により,記載された発明に実質的な違い1
はないことは,当業者であれば容易に理解することができる。
訂正事項e,j及びkは,いずれも審判請求書の請求の()上記のとおり,2
趣旨の要旨を変更するものではないので,6月9日付け手続補正書による
補正が特許法131条の2第1項本文の規定に違反するとした審決には誤
りがある。
したがって,審決は,6月9日付け手続補正書による補正後の訂正審判
請求書に基づいて訂正の許否を判断すべきところ,同補正前の訂正審判請
求書に基づいて訂正の許否を判断した誤りがあり,上記誤りは審決の結論
に重大な影響を及ぼすものである。
(訂正事項aの要件適合性についての判断の誤り)2取消事由2
審決は,訂正事項aに関し「支持層(4』と『介在)中央層(3』と,『)()
の関係について,訂正前においては『支持層(4』は『介在中央層(3),)
を備える』ものであるから『介在中央層(3』は『支持層(4』の付属層,))
としての意味合いのものであったのに対し,訂正後においては,これらの二
つの層の間には,付属層・被付属層の関係はないものとなった。また,これ
に関連して,訂正後においては『支持層(4』と『中央層(3』の相対的,))
な位置関係も明らかではなくなった」と判断している。。
しかし,以下のとおりの理由により,訂正事項aは,特許法126条1項
ただし書の要件に適合しているから,審決の上記判断には誤りがある。すな
わち,
訂正審判の審理過程において,特許庁の発した平成17年4月18日付()1
け訂正拒絶理由通知(甲7)には,以下の記載がある(2頁19行∼31
行。)
「3.訂正の適否
()特許法第126条第1項ただし書の要件適合性について1
本件訂正審判は,請求項の『外層(2)と少なくともつの介11
在中央層(3)を備える支持層(4)を含む非PVC多層フィルム
,』『()()においてという記載を外層2と少なくともつの中央層31
と支持層(4)とを含む非PVC多層フィルムにおいて』と訂正す,
ることを含むものである(訂正事項a。)
これにより『介在中央層(3』なる語が『中央層(3』と訂正,))
されるとともに『支持層(4』の一構成層であった『介在中央層,)
(3』は『支持層(4』とは独立した『中央層(3』であるこ),))
とに訂正された。
後者の訂正に関しては,複数層から構成される層について,各層
を独立のものとみるか,ある層を他の層の従属的な層とみるかの問
題に過ぎず,その積層構造の技術的意義に差異が生じるものともい
えないから,明りょうでない記載の釈明ないし誤記の訂正を目的と
するものと解することができる」。
被告は「訂正前の『介在中央層(3)を備える支持層(4』そして,,)
との記載では『介在中央層(3』は『支持層(4』の付属層としての意,))
味合いのものであるから,両者の間に接着層等が存在することは許容する
にしても,介在中央層と支持層とは,実質的に隣接することを意味すると
いえる。‥‥‥訂正前は明らかであった介在中央層と支持層とが隣接する
という位置関係が,訂正後は明らかではなくなったため,中央層と支持層
,。」。の間に何らかの層が存在する場合も含むものとなっていると主張する
,「」,「」,「()しかし介在備えるの語意に鑑みると訂正前の介在中央層3
を備える支持層(4」は「支持層(4)は中央層(3)を自分のものと),
して有し,中央層(3)は両者の間にはさまっている」といえるから,訂。
正前の「介在中央層」が,支持層とは実質的に隣接することを意味すると
いう断定することはできない。したがって「訂正前は明らかであった介在,
中央層と支持層とが隣接するという位置関係が,訂正後は明らかではなく
なった」との被告の主張は失当である。。
3層構造を有する非PVC多層フィルムそれ自体が周知の構造であるこ()2
と(甲1∼5)を斟酌すれば,訂正後の「外層(2)と少なくともつの1
中央層(3)と支持層(4)とを含む非PVC多層フィルム」という記載
から,中央層(3)は文字通り中央にある層であり,この中央層(3)が
()()。外層2と支持層4との間に介在していることは容易に理解できる
したがって「訂正後においては,これらの二つの層の間には,付属層・,
被付属層の関係はないものとなった。また,これに関連して,訂正後にお
いては『支持層(4』と『中央層(3』の相対的な位置関係も明らかで,))
はなくなった」との審決の判断には誤りがある。。
取消事由3(請求項9の法126条要件適合性についての判断の誤り)3
審決は,訂正事項eが特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であると認
定した上,訂正後の発明が,いわゆる独立特許要件を充足していないと判断
した。
しかし,①訂正事項eは,明りょうでない記載の釈明を目的とするもので
あるから,審決はこの点の判断を誤り,また,②仮に特許請求の範囲の減縮
を目的とする訂正であって,訂正後の発明に,いわわゆる独立特許要件を充
足することが求められるとの前提に立ったとしても,訂正後の発明は,いわ
ゆる独立特許要件を充足しているから,審決はこの点においても判断を誤っ
た。
訂正の目的について()1
審決は,訂正事項eが特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であると
判断した。しかし,請求項9に係る訂正事項eは明りょうでない記載の釈
明を目的とするものであるから,審決の上記判断には誤りがある。
本件訂正審判請求は,本件特許に係る異議2001−72839号の取
消決定(甲6)の理由を受けて,この理由を解消する目的で行われたもの
である。
すなわち,上記取消決定(甲6)には,
「d.高密度ポリエチレンとポリプロピレンランダムコポリマーは,
別異のポリマーとして把握される物質同士であるから,特許請求の範
「()囲の請求項9の記載の記載における高密度ポリエチレンHDPE
を有するポリプロピレンランダムコポリマー」の内容を把握できず,
本件請求項1,請求項9,および,請求項1を引用する請求項2ない
し16には記載不備があり,また,これらの請求項に関連した明細書
の段落【0015【0016【0023【0050】にも記載】,】,】,
不備があるから,その特許は,特許法36条4項及び6項2号の規定
を満足していない特許出願に対してされたものである,というもので
ある(6頁11∼19行,。」)
「3.当審の判断‥‥‥したがって,請求項1ないし16に係る
発明は,特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず,また,
発明の詳細な説明が,当業者が発明の実施をすることができる程度に
明確かつ十分に記載しているとはいえない。‥‥‥本件特許は,特許
法36条4項及び6項2号に規定する要件を満足していない特許出願
に対してされたものである(6頁20∼30行,。」)
との判断が記載されている。
上記の指摘を受けた原告が,内容を把本件訂正審判請求は,取消決定の
握できないと判断された事項を削除したものであって,明りょうでない記
,。載の釈明を目的とするものであり特許請求の範囲の減縮には当たらない
したがって,請求項9の上記訂正は,特許法126条1項ただし書き3
号に該当し,同項ただし書き1号には該当しないから,同条5項のいわゆ
る独立特許要件を充足することが要求される場合ではない。
被告は,原告の訂正の意図が明りょうでない記載の釈この点について,
明にあるとしても,後述の(2)にあるように,訂正後の請求項9の記載
はそもそも明りょうでないから特許法126条1項ただし書き3号の明,「
りょうでない記載の釈明を目的とするもの」に該当するとはいえない,さ
らに,訂正事項b∼dに係る訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とする
ものであるところ(この点は原告も認めている,訂正事項b∼dに係る訂)
正によって請求項1が減縮された結果,請求項1を引用する請求項9も減
縮されているから,本件における訂正後の発明は,いわゆる独立特許要件
を充足することが要求される場合であると主張する。
しかし,原告は「内容を把握できないと認定判断された事項」との指摘
を受けて訂正事項eに係る訂正を行ったのであり,内容を把握できないと
された事項を削除したことにより特許請求の範囲の減縮となることはあり
得ないから,被告の主張は誤りである。
独立特許要件の充足の有無について()いわゆる2
審決は,訂正後の発明は,特許法36条6項2号所定の,いわゆる独立
特許要件を充足していないと判断している。
しかし,訂正された請求項9は,特許法36条6項2号の要件を満たし
,,ており訂正後の請求項9に記載されている事項により特定される発明は
特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから,審決の
上記判断には誤りがある。
「低エチレン含有量」の意味について(ア)
審決は「低エチレン含有量のポリプロピレンランダムコポリマー』,『
と記載した場合,該ポリマーにおけるエチレン単位の含有量はプロピレ
ン単位の含有量より少ないことは,明らかであるとしても,明細書の段
落【0050】における『低から中くらいのエチレン含有量のポリプロ
ピレンランダムコポリマー』との記載からみて,該ポリマーにおけるエ
チレン単位の含有量には『低から中くらい』といった幅があるといえる
から,結局『低エチレン含有量のポリプロピレンランダムコポリマー』
とは,どの程度のエチレン単位を含有するものを意味するかは,不明と
いわざるを得ない」と判断した。。
,「」,,しかし低エチレン含有量は請求項の記載から明らかである以上
明細書の段落【0050】の記載を参酌することによって明確性を欠く
ということはないはずである。すなわち,明細書の段落【0050】に
は「中くらいのエチレン含有量」との記載があるが,これに対応する記
載は請求項9に存在しないのであるから,請求項9の「低エチレン含有
量」の意義が明確であるか否かの判断に影響を及ぼすことはない。
したがって,請求項9における「低エチレン含有量のポリプロピレン
ランダムコポリマー」が不明であるとした審決の判断には誤りがある。
「好ましくはポリプロピレンコポリマーを含む」の意味について(イ)
()審決は「請求項9の記載によれば,外層(2)は,ポリプロピレンa,
ホモポリマー,ポリプロピレンブロックコポリマー,低エチレン含有
量のポリプロピレンランダムコポリマーの,全てを含むものであるこ
とが窺える」と判断した。。
しかし,請求項9には「含む」との記載はあるが「全てを含む」と,
の記載はない。そして,列挙された成分を「コンマ」で区切ることが
「全てを含む」と解釈することはできない。したがって,審決の判断
は誤りである。
()審決は「好ましくは含むとされている『ポリプロピレンランダムコb,
ポリマー』については,前記三つのポリマーに加えてさらに含まれる
こととなるのか,それとも,前記三つのポリマーを含む外層(2)に
代えて『ポリプロピレンランダムコポリマー』を含む外層(2)とす,
ることが好ましいという趣旨であるのか,請求項9の記載からは直ち
に明らかではない」と判断した。。
しかし,この「好ましくは」は,その前後関係から「ポリプロピレ
ンホモポリマー,ポリプロピレンブロックコポリマー,および/また
は低エチレン含有量のポリプロピレンランダムコポリマー」の成分の
うちから「好まし」いものを選択したという意味であることは明らか,
である。してみれば「好ましくは,ポリプロピレンランダムコポリマ,
ー」は「ポリプロピレンランダムコポリマー」の前に記載された「低,
エチレン含有量のポリプロピレンランダムコポリマー」を受けて「好,
ましくは,前記(低エチレン含有量の)ポリプロピレンランダムコポ
リマー」を意味することは,当業者であれば容易に理解することがで
きる。
したがって,請求項9の記載は明確でないとした審決の判断には誤
りがある。
第4被告の反論
1取消事由1(6月9日付け手続補正書による補正の許否についての判断の誤
り)に対し
訂正事項eについて()1
特許法131条の2第1項は,審判請求書の補正は,その要旨を変更(ア)
するものであってはならない旨を規定する。訂正審判請求における訂正
事項の補正は,訂正事項の削除,及び軽微な瑕疵の補正等に限られるも
のであり,新たに訂正事項を加える,あるいは訂正事項を変更すること
は,請求書の要旨の変更に該当するものとして許されないというべきで
ある(東京高等裁判所平成11年6月3日判決(平成8年(行ケ)第2
22号)参照。)
ところで,訂正事項eについての補正は「ポリプロピレンホモポリマ,
ー,ポリプロピレンブロックコポリマー,低エチレン含有量のポリプロ
ピレンランダムコポリマー,好ましくはポリプロピレンランダムコポリ
マー」という訂正事項を「ポリプロピレンホモポリマー,ポリプロピレ,
ンブロックコポリマー,および/または低エチレン含有量のポリプロピ
レンランダムコポリマー,好ましくはポリプロピレンランダムコポリマ
ー」と補正するものであるから,訂正事項そのものを補正により変更し
ようとするものである。
したがって,この補正は,審判請求書の要旨を変更するものであるか
ら,特許法131条の2第1項に違反するとした審決の判断に誤りはな
い。
原告は,「および/または」という文言の有無により,そ(イ)これに対し,
こに記載された発明に実質的な違いはないから,訂正事項eについての
補正は,審判請求書の請求の趣旨の要旨を変更するものではないと主張
する。
しかし,訂正事項の補正が,特許法131条の2第1項に適合するか
否かは,訂正前後の発明が実質的に相違するか否かではなく,審判請求
書の「請求の趣旨」が要旨変更を伴うか否かを基準として判断すべきと
ころ,訂正事項eについての補正は「および/または」という補正前に,
はなかった請求が追加されて請求されているのであるから,訂正事項そ
のものが変更されていると解すべきである。のみならず,補正前の「ポ
リプロピレンホモポリマー,ポリプロピレンブロックコポリマー,低エ
チレン含有量のポリプロピレンランダムコポリマー,好ましくはポリプ
ロピレンランダムコポリマーを含む」は「および/または」の語がなく,
列挙され,4種類のポリマーをどのように配合するのか不明であるのに
対して,補正後は,前の3種類のポリマーについては,それらのうち,
1種類のみであってもよいし,2種類以上の混合物でもよいと規定され
ているから,補正の前後で発明に実質的な違いがないとの原告の主張も
失当である。
訂正事項j,kについて()2
訂正事項j,kについての補正は,訂正事項eについての補正と同様で
あり,特許法131条の2第1項の規定に適合しないとした審決の判断に
誤りはない。
(訂正事項aの要件適合性についての判断の誤り)に対し2取消事由2
訂正事項aは「外層(2)と少なくとも1つの介在中央層(3)を備え()1,
る支持層(4)を含む非PVC多層フィルムにおいて」を「外層(2)と,
少なくとも1つの中央層(3)と支持層(4)を含む非PVC多層フィル
ムにおいて」と訂正するものである。,
訂正前の介在中央層3を備える支持層4の記載において介「()()」,「
在中央層(3」は「支持層(4」の付属層としての意味合いのものであ))
るから,両者の間に接着層等が存在することは許容するにしても,介在中
央層と支持層とは,実質的に隣接することを意味するといえる。これに対
して,訂正後の「中央層(3)と支持層(4」の記載においては,付属層)
,,・被付属層の関係はないものとなったことにより中央層と支持層の間に
他の層が存在する場合も含むこととなったといえるから,訂正前において
は,介在中央層と支持層とが隣接するという位置関係が明確であったのに
対して,訂正後においては,位置関係が明確でなくなり,中央層と支持層
の間に,何らかの層が存在する場合も含むものとなっている。
したがって,訂正事項aに係る訂正について「二つの層の相対的な位置,
関係に係る特定もなくなるものであるから,本件訂正は,特許請求の範囲
の減縮,誤記又は誤訳の訂正,明りょうでにない記載の釈明のいずれも目
的とするものとはいえず,特許法126条1項ただし書の要件に適合しな
い」とした審決の判断に誤りはない。。
原告は,甲1ないし5を挙げて「3層構造を有する非P()これに対して,2,
VC多層フィルムそれ自体は周知の構造であることを参酌すれば,‥‥‥
この中央層(3)が外層(2)と支持層(4)との間に介在していること
は容易に理解できる」と主張する。。
確かに,本件請求項1に係る発明が甲1∼甲5のような3層構造のフィ
,,「()()ルムを前提とする限り原告の主張のとおりこの中央層3が外層2
と支持層(4)との間に介在していることは容易に理解できる」ものとい。
える。しかし,本件請求項1では,「外層(2)と少なくとも1つの中央層
(3)と支持層(4)とを含む非PVC多層フィルム」と記載されている
こと,本件特許明細書には「本発明の非PVC多層フィルムは,少なくと,
も3層,しかし5,7などの層を有することを意味する(段落【003。」
7)と記載されていることに照らすと,本件発明のフィルムは3層構造の】
ものに限定されていない。
したがって,訂正後は,中央層と支持層とが隣接する必要がなくなるこ
とによって,中央層と支持層の間に,何らかの層が存在する場合を含むこ
とになるから,原告の主張は失当である。
取消事由3(請求項9の要件適合性についての判断の誤り)に対し3
訂正の目的について()1
原告は,請求項9に係る訂正事項eは,明りょうでない記載の釈明を(ア)
目的とするものであると主張する。
しかし,訂正事項eに係る訂正は,外層(2)に含まれるポリマーの
選択肢から「高密度ポリエチレン(HDPE)を有するポリプロピレン
ランダムコポリマー」を削除することを含むものであって,特許請求の
範囲の減縮となるから,審決の判断に誤りはない。
原告の訂正の意図が明りょうでない記載の釈明にあるとしても,後述(イ)
の()のとおり,訂正後の請求項9の記載も,明りょうでないから,特許2
法126条1項ただし書き3号の「明りょうでない記載の釈明を目的と
するもの」に該当するとはいえない。
さらに,訂正事項b∼dに係る訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的(ウ)
とするものである(この点は原告も認めている。そして,訂正事項b∼)
dに係る訂正によって請求項1が減縮された結果,請求項1を引用する
請求項9も減縮されているから,訂正事項eの目的如何にかかわらず,
いわゆる独立特許要件について判断する必要がある。
ついて()独立特許要件の充足の有無に2
原告は「低エチレン含有量のポリプロピレンランダムコポリマー」との,
記載は,当該ポリマーにおけるエチレン単位の含有量はプロピレン単位の
含有量より少ないことを意味するものとして明確であるから,訂正された
請求項9は特許法36条6項2号の規定を満たしていると主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
審決は,上記原告主張に係る「ポリマーにおけるエチレン単位の含有量
はプロピレン単位の含有量より少ないことは明らか」であることを認めた
上で「エチレン単位の含有量はプロピレン単位の含有量より少ない」とい,
うだけでは,どの程度のエチレン含有量なのか不明であると判断したもの
であって,審決の上記判断に誤りはない。
原告は「明細書の段落【0050】には「中くらいのエチレン含有(ア),,
量」の記載があるが,対応する記載事項は請求項9にはないのであるか
ら,発明の詳細な説明の記載事項によって,請求項9の「低エチレン含
有量」の意味が明りょうであったものが不明りょうになることはないと
主張する。
しかし,本件訂正明細書の記載(段落【0049】∼【0050)に】
は「中くらいのエチレン含有量のポリプロピレンランダムコポリマー」,
が,本件発明の非PVC多層フィルムの外層に用いるものとして「低エ
チレン含有量のポリプロピレンランダムコポリマー」と並列的に記載さ
れていること,段落【0049】∼【0050】は,請求項9に対応す
る記載であることに照らすならば,段落【0050】の「低エチレン含
有量」の意味は「中くらいのエチレン含有量」との関係において理解さ,
れるべきものである。
そして,本件訂正明細書における「低エチレン含有量のポリプロピレ
ンランダムコポリマー」と「中くらいのエチレン含有量のポリプロピレ
ンランダムコポリマー」とは,同一の明細書中で用語を使い分けている
ことに照らすならば,別個のポリマーであると解される。両者の違いに
ついては,本件特許明細書で,格別の説明がないので「低エチレン含有,
量のポリプロピレンランダムコポリマー」の方が「中くらいのエチレン
含有量のポリプロピレンランダムコポリマー」よりも,エチレン含有量
が少ないものと理解され,また,いずれも,主成分となるモノマーがプ
ロピレンであることから,エチレン含有量は50%より少ないものと理
解される。
,「」そうすると低エチレン含有量のポリプロピレンランダムコポリマー
のエチレン含有量が,原告が主張するように,単に「50%よりも少な
いことが明らか」というのみでは「低エチレン含有量」の意味が明確で
あるとはいえない。
以上のとおりであるから,本件訂正明細書に記載された「低エチレン
含有量のポリプロピレンランダムコポリマー」がどの程度のエチレン単
位を含有するものを意味するのか不明であるとした審決の判断には誤り
がない。
ポリプロピレンランダムコポリマーは,プロピレンを主成分とするも(イ)
のであることを意味し,訂正明細書の請求項9は,外層にポリプロピレ
ン系のポリマーを用いることを規定しようとしており,また,請求項9
の「低エチレン含有量のポリプロピレンランダムコポリマー」はポリプ
ロピレン系のポリマーであって,ポリプロピレン含有量は50%以上で
あることを意味する。そのような状況でわざわざ「低エチレン含有量」
と記載し,しかも併記される他のポリマーには何も特定されないことに
鑑みると「低エチレン含有量」は,原告が主張する「ポリマーにおける,
エチレン単位の含有量はプロピレン単位の含有量より少ない」というも
のではなく,よりエチレン含有量が少ないものに,積極的に限定しよう
としていると解される。
乙1ないし乙3には,医薬バッグの技術分野においては,エチレン含
有量が50%よりもはるかに少ないプロピレンランダムコポリマーを,
袋を形成する多層フィルムの外層あるいは袋を形成する単層フィルムの
材料として用いることが示されており,かつ,乙1ないし乙3に開示さ
れたポリプロピレンランダムコポリマーは本件訂正明細書において多,「
層フィルムの個々の層の材料は,全てフィルムは透明で,柔軟性がある
が,熱殺菌性,溶融性と熱密閉性であるように選択される(段落【0。」
061)とされる本件発明において必要とされる特性を満たすものとい】
える。
,「」したがって低エチレン含有量のポリプロピレンランダムコポリマー
の意味を「エチレン含有量が50%未満のポリプロピレンランダムコポ
リマー」と理解するのであれば,わざわざ「低エチレン含有量」と記載
する必要もないことになり,結局「低エチレン含有量」が意味するエチ
レン含有量の範囲は明確であるとはいえない。
,(),(,(ウ)エチレン含有量はモル%乙1で規定することも重量%乙2
3)で規定することも,ともに行われているから,単に「エチレン含有
量」というのみでは,モル%を意味するのか,重量%を意味するのか明
らかでない。そして,エチレンとプロピレンとでは分子量が異なり,モ
,,ル%の値と重量%の値とが異なるからモル%あるいは重量%によって
「低エチレン含有量のポリプロピレンランダムコポリマー」の範囲が異
なることとなる。
上記のとおり,本件請求項9の「低エチレン含有量のポリプロピレン
ランダムコポリマー」は,明確でない。
「好ましくはポリプロピレンランダムコポリマーを含む」の意味につい()3

原告は,請求項9には「含む」との記載はあるが「全てを含む」との(ア),
,「」「」記載はなく列挙された成分をコンマで区切ることが全てを含む
ということの根拠にはならないと主張する。
しかし,原告の主張は以下のとおり失当である。すなわち,請求項9
の「外層(2)は,ポリプロピレンホモポリマー,ポリプロピレンブロ
ックコポリマー,低エチレン含有量のポリプロピレンランダムコポリマ
ー,‥‥‥を含む」との記載は,記載の通常の読み方として,列挙され
たポリマーの全てを構成として含むと解釈できるものであり,その解釈
が技術的な面からみても整合性を欠くものとはいえないから,審決の判
断には誤りはない。
原告は「好ましくは』とは,その前後関係から‥‥‥の成分のうち(イ),『
から『好ましくは』という意味であることは明らかである」としてい,。
る。
しかし,原告の主張は失当である。すなわち「低エチレン含有量のポ,
リプロピレンランダムコポリマー」以外のポリプロピレンランダムコポ
リマーも存在するのであるから「好ましくは」の後の「ポリプロピレン,
ランダムコポリマー」が「低エチレン含有量のポリプロピレンランダム
コポリマー」を意味するものとは必ずしもいえない。
したがって,訂正明細書の請求項9の「ポリプロピレンホモポリマー,
ポリプロピレンブロックコポリマー,低エチレン含有量のポリプロピレ
ンランダムコポリマー,好ましくはプロピレンランダムコポリマー」の解
釈としては,原告が主張する解釈の外にも「ポリプロピレンホモポリ,『
マー,ポリプロピレンブロックコポリマー,低エチレン含有量のポリプ
ロピレンランダムコポリマー』の3成分に加えて,低エチレン含有量の
プロピレンランダムコポリマー以外のポリプロピレンランダムコポリマ
ーを含んでもよい」という解釈も成り立つのであるから,少なくとも,
原告の主張する意味であることが明らかであるとはいえない。これと同
旨の審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(6月9日付け手続補正書による補正の許否についての判断の誤
り)について
,,()審判1請求書の補正はその要旨を変更するものであってはならないこと
ただし当該補正が特許無効審判以外の審判を請求する場合における請,,「
求の理由についてされるときはこの限りでないことが規定されている特」(
許法131条の2第1項。その趣旨は,公正迅速な審判手続の確保にある)
ことは明らかである。ところで,審判を請求する者は「請求の趣旨」及び,
「請求の理由」を記載した請求書を提出しなければならないとされている
こと,訂正審判を請求するときは,請求書に訂正した明細書,特許請求の
範囲又は図面を添付しなければならないとされていること(特許法131
条1項,3項)に照らすならば,訂正審判請求における「その要旨を変更
」,,「」する補正とはごく軽微な誤記を改める等の場合を除いて請求の趣旨
に記載され特定された「審判を申し立てている事項」の同一性に実質的な
変更を加えるような補正一般を指すというべきである。
そこで,この観点から,訂正事項eに係る請求項9についてみる。設定()2
登録時,訂正審判請求書,6月9日付け手続補正書における,請求項9は
それぞれ次のとおりである。
①設定登録時の請求項9
「前記外層(2)は,ポリプロピレンホモポリマー,ポリプレンブロ
ックコポリマー,低エチレン含有量および/または高密度ポリエチレ
ン(HDPE)を有するポリプロピレンランダムコポリマー,好まし
くはポリプロピレンランダムコポリマーを含む請求項1∼8のいずれ
か1項に記載のフィルム」。
②訂正審判請求書における請求項9
「前記外層(2)は,ポリプロピレンホモポリマー,ポリプレンブロ
ックコポリマー,低エチレン含有量のポリプロピレンランダムコポリ
マー,好ましくはポリプロピレンランダムコポリマーを含む請求項1
∼8のいずれか1項に記載のフィルム」。
③6月9日付け手続補正書における請求項9
「前記外層(2)は,ポリプロピレンホモポリマー,ポリプレンブロ
ックコポリマー,および/または低エチレン含有量のポリプロピレン
ランダムコポリマー,好ましくはポリプロピレンランダムコポリマー
を含む請求項1∼8のいずれか1項に記載のフィルム」となる。。
②と③)6月9日付け手続補正書による補正前後における請求項9(上記
を対比すると,両者とも「ポリプロピレンホモポリマー「ポリプレンブ,」,
ロックコポリマー「低エチレン含有量のポリプロピレンランダムコポリ」,
マー「好ましくはポリプロピレンランダムコポリマー」が列挙され,こ」,
れらのポリマーを「含む」と記載されている点で共通する。しかし,補正
前(②)の訂正事項においては,単に「含む」とのみ記載され,列挙され
たポリマーのすべてを必須的に含むものと理解される書きぶりであるのに
対して,補正後(③)の訂正事項においては「および/または」という語,
句が追加されたため,列挙されたポリマーについて自由な選択の余地を残
すと理解される書きぶりとなった。補正の前後における訂正事項の内容は
変更されたといえる。
上記の訂正事項eの補正において「および/または」と()以上のとおり,3,
いう補正前にない新たな語句を追加することは「審判を申し立てている事,
項」の同一性を実質的に変更する「請求の趣旨」の記載の変更に当たると
いうべきである。この点は,訂正事項j,kについても同様である。
したがって,6月9日付け手続補正書による補正は,審判請求書の要旨
を変更するから,特許法131条の2第1項の規定に適合しないとした審
決の判断に誤りはない。
(訂正事項aの要件適合性についての判断の誤り)について2取消事由2
訂正事項aは,請求項1において「外層(2)と少なくとも1つの介在()1,
()(),」中央層3を備える支持層4を含む非PVC多層フィルムにおいて
とあるのを「外層(2)と少なくとも1つの中央層(3)と支持層(4),
とを含む非PVC多層フィルムにおいて」と訂正したものである。,
「介訂正の前後における請求項1の記載を対比する。訂正前においては,
()()」,「()」在中央層3を備える支持層4の記載からみて介在中央層3
は「支持層(4」に付属している層と理解することができる。これに対し)
て,訂正後は,中央層と支持層とが別個に列挙されており,これら二つの
,。,,層の間には付属関係がないそうとすると中央層と支持層との間には
他の層が存在する場合を含むことになったため,訂正前においては,介在
,中央層と支持層とが隣接するという位置関係が明らかであったのに対して
中央層と支持層との位置関係は不明確になったといえる。
したがって,訂正事項aに係る訂正は,特許請求の範囲の減縮,誤記又
は誤訳の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないことに
なるから,これと同様の判断をした審決に誤りはない。
原告は,訂正拒絶理由通知(甲7)の記載に照らすな()この点について,2
らば,訂正審判の審理過程において,被告は「介在中央層(3」を「支持)
層(4」とは独立した「中央層(3」に訂正することは,明りょうでな))
い記載の釈明ないし誤記の訂正を目的とすると判断していたと主張する。
しかし,訂正事項aに係る訂正が「特許請求の範囲の減縮「誤記の訂,」,
正」目的の訂正のいずれにも該当しないことは前記のとおりであって,原
告の主張は採用できない。
,(),,なお訂正拒絶理由通知甲7の記載についても同通知においては
原告の摘示する記載2頁19行∼31行に続けて次の記載がある2(),(
頁32行∼3頁8行。)
「,,『()』,しかしながら前者の訂正に関しては訂正前の介在中央層3は
『支持層(4』の一部を構成する層であったことから,非PVC多層フィ)
ルムにおいて,少なくとも『支持層(4』に隣接するように設けられた層)
であることが明らかであったのに対し,訂正後の『中央層(3』は『支),
持層(4』とは独立した層であることとされたこと,さらに,非PVC多)
,『()()()層フィルムは外層2と少なくとも1つの中央層3と支持層4
,』,『()』,とを含む非PVC多層フィルムにおいてとの記載からみて外層2
『()』『()』,中央層3及び支持層4以外の層も含みうることに鑑みると
『中央層』という語によって非PVC多層フィルムの表面層を構成しない
ことはわかるものの,少なくとも『支持層(4』に隣接するように設けら)
れているかどうかという『支持層(4』との相対的な位置関係は特定さ,)
れないものであるとも解されない内容となった。してみると,前者の訂正
は,特許請求の範囲の減縮,誤記又は誤訳の訂正,明りょうでない記載の
釈明のいずれを目的とするものとはいえないから,上記訂正事項aは,特
許法第126条第1項ただし書の要件に適合しないものである」。
訂正拒絶理由通知(甲7)においても,訂正事項aに係上記によれば,
る訂正については,訂正の目的のいずれにも該当しない旨が述べられてい
るものであって,原告の主張はその前提を欠く。
原告は,訂正前の「介在中央層(3)を備える支持層(4」のi()また,3)
関係について「支持層(4)は中央層(3)を自分のものとして有し,中,
央層(3)は両者の間にはさまっている」と解釈すべきであるから「介。,
在中央層と支持層とは実質的に隣接することを意味するといえる」という。
被告の解釈は成り立たないと主張する。
しかし「支持層(4)は中央層(3)を自分のものとして有し」という,
原告の上記主張は,支持層と中央層とが隣接する位置関係にあることを述
べているのであって,隣接する位置関係にあるという解釈は成り立たない
という原告の主張は,その前提において採用できないので,失当である。
原告は,3層構造を有する非PVC多層フィルムそれ自体が周()さらに,4
知の構造であること(甲1∼5)を参酌すれば,訂正後の「外層(2)と
少なくともつの中央層(3)と支持層(4)とを含む非PVC多層フィ1
ルム」という記載から,中央層(3)は文字どおり中央にある層であり,
この中央層(3)が外層(2)と支持層(4)との間に介在していること
は容易に理解できると主張する。
しかし,仮に,3層構造を有する非PVC多層フィルムが周知であった
としても,請求項1の記載から明らかなように,本件発明の非PVC多層
フィルムは3層構造のものに限定されていないのであるから,原告の主張
はその前提を欠き,失当である。
取消事由3(請求項9の法126条要件適合性についての判断の誤り)に3
ついて
訂正の目的について()1
原告は,訂正事項eに係る訂正は,本件特許に係る異議事件(2001
−72839号)の取消決定の理由において内容を把握できないと判断さ
れた事項を削除したものであるから,明りょうでない記載の釈明を目的と
するものに該当し,特許請求の範囲の減縮に当たらないと主張する。
しかし,原告のこの点の主張は,以下のとおり理由がない。
訂正事項eは,請求項9の「前記外層(2)は,ポリプロピレンホモア,
ポリマー,ポリプロピレンブロックコポリマー,低エチレン含有量およ
び/または高密度ポリエチレン(HDPE)を有するポリプロピレンラ
ンダムコポリマー,好ましくはポリプロピレンランダムコポリマーを含
む請求項1∼8のいずれか1項に記載のフィルム」とあるのを「前記。,
外層(2)は,ポリプロピレンホモポリマー,ポリプロピレンブロック
コポリマー,低エチレン含有量のポリプロピレンランダムコポリマー,
好ましくはポリプロピレンランダムコポリマーを含む請求項1∼8のい
ずれか1項に記載のフィルム」と訂正したものである。また,請求項9。
は,その末尾に「請求項1∼8のいずれか1項に記載のフィルム」と記
載されているとおり,請求項1を引用したものである。
ところで,請求項1には,上記の訂正事項aのほか,訂正事項b∼d
に係る訂正が行われているところ,その内容(甲13,15)に照らせ
ば,訂正事項b∼dに係る訂正は,いずれも特許請求の範囲の減縮を目
的としたものである(審決は「特許請求の範囲についての訂正事項b∼,
eは,いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる」。
(審決書6頁5∼6行)と判断し,原告も,訂正事項b∼dが特許請求
の範囲の減縮を目的とするものであることを認めている(原告第2準備
書面2頁下から4行∼3頁2行。)
そうすると,請求項1について,訂正事項b∼dにより特許請求の範
囲の減縮を内容とする訂正がされているのであるから,訂正後の請求項
1を引用する請求項9についても,請求項1と同様に特許請求の範囲を
減縮する訂正がされていることは明らかである。
したがって,訂正事項eに係る訂正の目的について検討するまでもな
く,請求項9に係る訂正は,特許法126条1項ただし書き1号の特許
請求の範囲の減縮に当たる訂正事項を含むものであり,訂正後の請求項
9に係る発明について,126条5項に規定する独立特許要件を充足す
ることが要件とされる場合であるから,審決が,これを前提に,訂正後
。の請求項9について独立特許要件の充足性を判断したことに誤りはない
原告は,取消決定の「内容を把握できないと認定判イこの点について,
断された事項」との指摘を受けて訂正事項eに係る訂正を行ったのであ
って「内容を把握できないと認定判断された事項」を物理的に削除した,
,。ことにより特許請求の範囲の減縮となることはあり得ないと主張する
しかし,請求項9は,請求項1を引用するものであることから,訂正
事項eだけでなく,直接には請求項1の記載事項を対象とする訂正事項
b∼dによっても,請求項1を引用する結果として訂正がされており,
訂正事項b∼dに係る訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするもので
あり,訂正後の請求項9に係る訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とす
るものに相当することは,上記アにおいて述べたとおりである。原告の
主張は,採用できない。
独立特許要件の充足の有無について()2
訂正後の請求項9について,①「低エチレン含有量のポリプロ審決は,
ピレンランダムコポリマー,②「好ましくはポリプロピレンコポリマーを」
含む」の2点で,意味が不明確であり,特許を受ける発明が不明確である
から,特許法36条6項2号の要件を充足しないと判断した。
当裁判所は,以下のとおりの理由から「低エチレン含有量のポリプロピ,
レンランダムコポリマー」の意味は,明確性を欠くものと判断する。
請求項9記載の「低エチレン含有量」の意義については,特許請求のア
範囲中には格別の記載がない。したがって,ポリプロピレンコポリマー
におけるエチレン単位の含有量がプロピレン単位の含有量より少ないこ
とを指すとまでは理解できるものの,どの程度のエチレン含有量である
のかは明らかではない。そこで,発明の詳細な説明の記載を参酌するこ
ととする。
(ア)本件明細書の段落【0049【0050】の記訂正後における】,
載は,次のとおりである(甲13,15。)
「0049】材料であって外層用のものは,当業者に良く知られたポ【
リマーまたはポリマー混合物であって,その他の層のポリマーまたは
ポリマー混合物よりも高い軟化温度を有し,または支持層のポリマー
またはポリマー混合物と同じ軟化温度を有するものを含んでいる。
【0050】好ましくは,これらにはポリプロピレンホモポリマー,
ポリプロピレンブロックコポリマー,低から中くらいのエチレン含有
量のポリプロピレンランダムコポリマーが含まれる。ポリプロピレン
ランダムコポリマーが特に好ましい。上記ポリマーは,単独でまたは
混合物として使用できる」。
【0050】の記載は,本件発明の非PVC多層フィルムに(イ)段落
おける「外層」を構成するポリマー材料を示したものであり,その具
体的なポリマー材料の種類は,エチレン含有量に言及した部分を除い
て,請求項9記載のものと一致するから,同段落は,同請求項に対応
する発明の詳細な説明部分と解するのが相当である。段ところで,同
落記載の「低から中くらいエチレン含有量のポリプロピレンランダム
コポリマー」は「低から中くらい」の幅を有するエチレン含有量のポ,
リプロピレン,すなわち「低エチレン含有量」のものと「中くらいの,
エチレン含有量」のものとが並列的に示されていることになる「ポリ。
プロピレンコポリマー」である以上は,主成分となるモノマーは,プ
,「」ロピレンであるから低エチレン含有量のポリプロピレンコポリマー
と「中くらいのエチレン含有量のポリプロピレンコポリマー」のいず
れもポリマーにおけるエチレン単位がプロピレン単位より少ない点で
相違はないといえるから「低エチレン含有量」と「中くらいのエチレ,
ン含有量」との相違は明確でないというべきである。したがって,請
求項9に記載された低エチレン含有量は段落0050の低「」,【】「
から中くらい」の「低」に相当するとしても,それがどの程度のエチ
レン含有量をいうのかは,明確に特定することができない。
したがって,請求項9記載の「低エチレン含有量のポリプロピレン
コポリマー」における「低エチレン含有量」が明確に特定された事項
,「」とは認められないので低エチレン含有量のポリプロピレンポリマー
が,どの程度のエチレン単位を含有するものを指すか不明であるとし
た審決の判断に誤りはない。
以上のとおり,訂正後の請求項9に係る発明は,上記①の点で明確でイ
ないから,上記②の点を判断するまでもなく,当該請求項9の記載は,
特許法36条6項2号の要件を満たしていない。したがって,当該請求
項9に係る発明について,同法126条5項に規定する要件を満たして
いないと判断した審決に誤りはない。
4結論
以上によれば,原告主張の取消事由は,いずれも理由がなく,その他,審決
に,これを取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官三村量一
裁判官上田洋幸

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弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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採用担当宛